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~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第十八話

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匿名ユーザー

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―――――――――――――――――――――――――――

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!奴らに勝ったぞ!これでわたしは自由になれる!」

仄かに月光が射し込む竹林の中、吉影の哄笑が響き渡る。

「『バイツァ・ダスト スカーレット・デビル』の能力の中では前の一時間の『害悪』は消し飛び…そして全ての生命はこの時間の中で動いた足跡を覚えていないッ!
『空の雲は一度ちぎれ飛んだ事に気づかず!』…『消えた炎は消えた事を炎自身さえ記憶しない!』
『吉良(きちりょう)』だけだ!!この世には『吉良』だけが残る!!時間の消し飛んだ世界では『運命』は全てわたしに味方するのだッ!
そしてわたしだけがこの『運命』に対応できるッ!
世界がどう『動く』か全て記憶しているッ!これが『バイツァ・ダスト』の能力だッ!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――――――――」

心の底から愉き上がる愉悦に、吉影は笑いを堪えない。

「コッチヲミロォ~」

シアーハートアタックが吉影の喜びを表現するかのようにキュラキュラと元気良く回る。

「―――――――――さて……」

笑うのを止め、吉影はニヤリと口角を吊り上げる。

「『彼女』にもこの幸福を分けてやるか……アレのおかげで今の喜びがあるのだからな。」

懐から写真を取り出し、呼び掛ける。

「フラン、聞こえるか?」

バタバタと写真から音が聞こえ、フランの顔が現れる。

「吉影!来てくれたのねっ!」

可愛らしい笑顔を浮かべ、フランが嬉しそうに話し掛ける。

「今日は早いけど、どうしたの?まだ起きたばっかりよ。いつもは夜明け前とかなのに……」

「ああ、今日はちょっと気分が良くてね……君にもこの喜びをお裾分けしたくなったんだ。わたしと君は『友達』だからね。」

微笑をうかべ吉影は応える。

「何か良い事があったの?吉影」

「ああ、ちょっとした事だがね。」

君の姉達の死だよ、と、心の中で付け加える。

「それでだ、今わたしはとても気分が良い……だから……」

吉影が人指し指を立てる。

「今、いつもより早いこの時間に!『いつもの』をあげよう!しかも……」

続けて、中指も立てる。

「二本だ。今日は二本やるぞ!サービスだ。二本でいいか?」

フランはイヤイヤと首を振る。

「三本か?濃いの三本欲しいのか?三本…イヤしんぼめ!!」

『ハイ』になっている吉影は笑い、さらに薬指も立てる。

「いいだろう、三本やろう!!行くぞフラン三本行くぞ!」

彼の傍らにキラークイーンが現れ、吉影の指を切りつけた。少々調子にのって骨が見えるほど深めに切ってしまったが、全く気にすることなく写真に手を突っ込む。

「……ピチャ……
…はふ………はっ……
…はむ…………ズッ…………」

写真の向こう、暫しフランが夢中で指を愛撫する音が続く。襲って来る虚脱感さえいとおしく感じるほどハイな吉影は、邪悪な笑みを絶やさない。
と、禍々しい共生関係が展開されているその場に、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「どうやら成功したようじゃな、吉影。」

声に振り返ると、そこには写真から顔を出す彼の親父、吉良吉廣と、宮本輝之輔がいた。右手をフランに差し出したまま、吉影は返事を返す。

「ああ、完璧だ。レミリアに『バイツァ・ダスト』を仕掛け、進化した『キラークイーン』でメイドと門番を葬ってやったよ。あと一時間で奴らの死は確定する。『計画』の邪魔はさせない。そっちはどうだった?」

「いや、散々じゃったわい。一瞬でカメラに封印されて、焼き捨てられちまった。まあ、そのあと輝之輔が何とか殺したがな…」

「そうそう聞いて下さいよッ!僕親父さんが死んだ後大変だったんですから!」

吉廣の後ろから輝之輔が顔をのぞかせる。

「あの天狗、メチャメチャ強かったですよ!サブマシンガンも避けられるわ、蹴り一発で内臓シェイクされるわで、しかも『エニグマ』で捕まえてもピンピンしてて胸に大穴ぶちあけてくれやがりました!
いや、あれはホント僕の『死ぬ気の覚悟』と『ハイウェイ・トゥ・ヘル』が無ければ、あのアバズレの抹殺は不可能でしたね~」

自慢気に語る輝之輔。

「よし、ヤツを葬ってくれたんだな。でかしたぞ輝之輔」

『計画』が順調に進行していると分かり、吉影は黒い笑みを浮かべる。

「……………ところで………」

吉廣は写真の向こうで息子の指をねぶるフランに目をやる。

「その娘……よくお前になついたな…」

フランについての世間の評判を知っている吉廣は、不安そうに吉影を見やる。

「さあな、わたしの血に『麻薬成分』か『惚れ薬』でも含まれているのかもしれない。」

吉影は平然と言葉を返す。

「――――と、今はここまでだフラン。」

キラークイーンの指でフランの額を弾き、右手を写真から引っこ抜く。

「えっ……!?待って…もうちょっとだけ…………!」

慌ててフランが彼の右手を握り、呼び止める。

「………………………………」

吉影は写真に顔を近づけると、

ズッ―――

「っ!?」

写真に再度右手を入れ、フランの顎に指を添えた。仄かにくすぐったい感覚に、フランがビクッと身をよじる。

人指し指でフランの顔を持上げ、彼女に自分を見上げさせる。

「フランドール………忘れるな、『命令』するのはわたし、『快楽』を与えるのもわたしだ。良いな?」

ゾッとするほど優しい声で、吉影は言った。

「あっ……………」

黒く輝く吉影の瞳を、吸い込まれるようにフランが見つめる。彼女の双眸が、トロンと夢見心地に溶けた。

「……………『うん、分かった』。」

吉影が手を引っ込めると、フランは大人しく背を向け、去って行った。

懐に写真を仕舞う吉影を、輝之輔が羨ましそうに見つめる。

「ちょっとちょっと~………どうやったんですか吉影さん?あんなイカレポンチをここまで従順に調きょ―――」

「いや、『契約』を結んだだけだ。ここまで完全に従わせるのは少々時間が掛かったがね。」


平然と返し、吉影は振り向く。

「さあて………」

「いよいよですね…『第二段階』………」

吉廣と輝之輔の表情が、やや緊張する。

二人の視線が集中し、吉影は口を開く。

「何よりも『困難』で……『幸運』なくしては近づけない道のりだった……奴らを倒すという道のりがな……」

吉影の瞳が、鋭く険しく光る。彼の中にあるのは、あらゆる犠牲も省みず目的を達成する『覚悟』のみだった。

「さあ………始めるぞッ!」







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――人里、居酒屋


日が暮れて間もない頃、居酒屋は、何時ものように賑わっていた。まだ人間の客しかいないが、もうすぐ妖怪の客がやってくるだろう。

主人はそんな事を考えながら、妖怪をもてなすための準備を始める。

「妖怪は人間より酒に強いから………と思って仕入れてみたはいいものの……」

主人は仕入れたての酒瓶を出し、首を捻る。

「こんなもん飲んでくれるか…?劇薬並みのアルコール度数だが…なんてったっけかな……『ウォトカ』だっけ?」

主人は顔をしかめる。せっかく大枚はたいて仕入れたのに、売れなければ金をドブに捨てたようなものだ。

「まあ、よく人里に入り浸ってる天狗の記者とかになら、多分売れるか…」

そんな事を呟いていた時だった。

ガラリ

引き戸が開き、主人が目を向ける。

そこには、黒いフードを目深にかぶった人物が立っていた。背格好から見て、恐らく男。顔は隠れてよく見えない。

「……………………」

他の客の視線の集中砲火の中、フードの人物はカウンターに着く。

あまり見ない人だな、と主人は思い、声をかける。

「いらっしゃいお客さん。何にします?」

「…………水でいい。」

その人物は無愛想な口調でそう言った。主人はこの人に『ウォトカ』を薦めるのを諦め、言われた通り水を出す。

「お客さんあまり見ない顔だね。妖怪さんかい?」

主人は笑顔で問い掛ける。フードの人物は、立ち上がると顔を上げ、主人の顔を見た。

「いいや、こういう者だ。」

フードを上げ、男はそう言った。その顔を見た瞬間、主人の顔が歪む。目を見開き後ずさると、肘が『ウォトカ』の瓶に当たり、床に落ちて砕け散った。

「て、てめえは―――――――――!!」



ドグオオオオオオオオオオォォォォォ!!

突如居酒屋の壁が爆炎を吹き上げ、ぶっ飛んだ。通りを歩いていた人々が巻き込まれ、紙切れのように吹き飛ばされる。

「………………さあ…狼煙は上がった………」

壁の大穴から、吉影が姿を現した。夜の人里の空に紅蓮の焔を上げる居酒屋を背に、吉影は通りへと歩いていく。

阿鼻叫喚が木霊する中、吉影の双眸が冷たく光る。

「開戦だ」



BGM 核P-MODEL『big_brother』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ドオオォン!!

ズドオオオォン!!

人里のあちこちで、爆炎が吹き上がる。

「うああぁぁぁ!」

「きゃああぁぁぁぁっ!」

爆発から逃れようと、人々が外に走り出る。だが………

「ひぃ!?」

彼らは既に、無数の紅い瞳に取り囲まれていた。

「グルルルル………」

「ギャアアアァァァ……」

通りに放たれた無数の妖獣が、涎を垂らし彼らに襲い掛かった。

「ギャアアアアアアァァァァァ―――――――――」



♪BGM SYNC.ART'S 『もうなにもきこえない』

「うあああァァァァ!」

「目が………目が見えない…!」

突如視界が真っ暗になり、地面に突っ伏す人々。

その先では、ミスティア・ローレライと幽谷響子が絶叫にも似た金切り声を張り上げ、歌っていた。死に物狂いで歌う事で、何か底知れぬ恐ろしさを一時でも忘れよう
としているように。

「い-八区、ろ-三区だ!急ぐぞ!」

阿鼻叫喚の只中、自警団が通りを駆けていく。

「まったく、どうなってやがんだ!!爆発、妖怪、妖獣、世紀末かここはよぉ!」

自警団が角を曲がった時だった。

「あッ!!」

団員が足を止める。そこにいたのは金髪に紅い瞳、黒い服の少女。焦点の定まらない目で彼らを睨む。

「ヤバイ、ルーミアだ!」

「畜生!よりによって…!」

団員逹は大弓を構え、引き金に指を掛ける。

「射殺せェェェェ!」

引き金を引こうとした瞬間、

バキィィン!!

豪速球で飛んで来た下駄が、彼らの大弓を粉砕した。

「なぁッ…!?」

下駄の飛んで来た方向を見ると、多々良小傘とリグル・ナイトバグが屋根の上に立っていた。二人共正気の沙汰では無い、泣き晴らした目付きで、自警団を見下ろす。その様子は『狩る側』のものというより、むしろどうしようもなく怯えているように見えた。

「うわあァァッ!」

自警団の身体に、蜘蛛や蜂、蝿が群がって来る。必死に払い除けようとするが、

「はッ!?」

ルーミアの闇に呑み込まれ、すぐに悲鳴が消えた。



「ハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――!!」

輝之輔の哄笑が人里に響き渡る。

「ああ、いい音だ…身体の底に響く実にいい音だ!脊髄が哀しく踊り!鼓膜が歓喜に震える!!そしてそれを常に死と隣り合わせのこの地で感じる事が出来る喜び…なんと充実した任務か!!」

輝之輔は懐から紙の束を取り出し、屋根の上からバラ撒く。紙は空中で開くと、通りに妖獣を解き放ち、家々を爆破し、人々を恐怖に陥れる。

「おおっと、『獲物』発見。」

妖獣に襲われようとしている里人を見つけ、輝之輔は自身を紙に変えて向かう。

「見つけたぞッ!お前の『サイン』を!」

接近し、変身を解除すると、『エニグマ』を出現させ襲わせる。

「トリック・アンド・トリィィィトッ!!」

『エニグマ』が里人を紙に変え、輝之輔はそれを手早く写真に詰め込む。

「んんー……いまいち美しくない…任務なのだから美しく!完璧に!!大絶叫を伴い無慈悲に圧倒的に!!!」

輝之輔が新たに人々を恐怖させるアイデアを思案していると、

「そっちは順調そうじゃな。」

写真から顔だけ出した吉廣が、フワフワと空をとんでやって来た。

「ええバッチリです!そちらは?」

「ああ、取り敢えずはこんなものじゃ。こいつらの処理、宜しく頼む。」

吉廣は『アトム・ハート・ファーザー』の能力で自分のいる写真と別の写真との空間を繋ぐと、ドクロのリールがついた釣竿を引っ張り出した。

「うううぅぅ……」

「あああああ…」

写真の向こうで、糸に繋がれた里人達が呻く。七、八人くらいが数珠繋ぎにされていた。

「おお、結構いってますね。どうやったんです?」

「ちょいと家の中に向かって振るったら、入れ食いじゃよ。」

「本当ですか、あとでやらせて貰いたいですね。」

吉廣と雑談しながら、輝之輔は釣竿の糸に触れる。

「『エニグマ』ッ!」

『ファイルエネルギー』が糸を伝導し、人々は紙に変えられた。

「……………それにしても………よくあれだけの妖怪を手懐けたな……」

紙を写真に仕舞う輝之輔を見て、吉廣は呟く。

「ええ、ケダモノ共は簡単でしたが、あの娘らはちょいと手間がかかりましたよ。」

まあ、その分やりがいがありましたが、と付け加える。

「しかし、奴ら何処かおかしかったぞ。何かに怯えているようじゃった……いったい何をしたんじゃ?」

吉廣が怪しむように問うと、輝之輔は平然と答えた。

「ルーミアって娘、以前吉影さんにこっぴとく痛めつけられたんでしょう?
だから、響子に吉影さんの声を録音させて、目隠しして四六時中聞かせ続けたんですよ。
そしたらルーミア、メチャクチャ怖がってくれましてね。
余りに泣きじゃくるもんだから、その、昂ってきましてね……髪掴んで顔上げさせて、揺さぶってやったりしたら………フフフフ……気絶しちゃいました。
響子も罪悪感に駆られて大泣きして、一石二鳥でしたね。
他には、リグル・ナイトバグに殺虫剤を飲ましてみたり、ミスティアに目の前で解体した鶏を食べさせ続けたり、『誰もお前の声なんて聞いていない』『誰もお前みたいな趣味の悪い傘使わない』などと絶望的な言葉を耳元で毎日毎日言い続けたりしたら、結構簡単に壊れてくれました。」

至福の時間を思いだし、輝之輔はククククと笑う。そのおぞましい雰囲気に吉廣は若干引いて頬をひくつかせる。

「ほう、そうか………何か猿ぐつわとかアイマスクとかしたのか?」

何気無く冗談を言ったつもりだったが、これが輝之輔に火をつけた。

「何を言ってるんです!?ボールギャグなんてくわえさせたら折角の悲鳴が聴こえないじゃないですか!怯える表情は潤んだ目が最重要でグッとくるんですからアイマスクも論外です!僕の『エニグマ』なら身体の一部だけ残して解除とか簡単ですがそんな勿体ない事しません!!五感を以て恐怖させ、五感を以て鑑賞する!それが僕のポリシーだ!」

「(こ…………こいつ……変態じゃ………!)」

自分の息子を棚に上げ、吉廣はドン引きして聞いていた。

と、輝之輔の話が『リョナ』と彼の趣味の違いに及ぼうとした時だった。

「ッ―――!?」

吉廣が、ピクリと顔を上げた。

「待て、今何か……」

「え?どうかしました?」

「いや、何となく今一瞬、違和感を感じての………」

「『違和感』?」

輝之輔が辺りを見渡す。

「別に何もありませんが……しいて言うなら、ちょっと『狩り』すぎて人通りが無くなったくらい―――」

吉廣が息を呑む。

「それじゃ!違和感の招待は!」

「え?」

輝之輔が頭に疑問符を浮かべる。

「『静か過ぎる』!人の気配が全く無い!喧騒も聞こえん!火の手も上がっておらん!」

「なっ?」

輝之輔が『エニグマ』を上昇させ、屋根の上から人里を見渡す。

「ホントだ!逃げ惑う人間も、妖獣もいない!爆破したはずの建物も元通りです!それと………えっと……」

「なんじゃ?他にも何かあるのか!?」

「僕の記憶違いでなければ………なんか微妙に町並みが変わっている気が………」

二人が慌て始めた時だった。

「そのとおりだ輝之輔」

後ろからの声に二人が振り向くと、吉影が歩いて来ていた。

「人里の区画だとか……店の場所だとか……少しだが変わっている。」

服に付着した粉塵を払い、吉影は二人に告げる。

「つまり……どういう事じゃ?」

吉廣が問う。

「『別の世界』に迷い込まされたというわけだ。そして……こんな事が出来るのは、『彼女』しかいない……」

ドオオオオオオオオオオォォォォォン!!

「「ッ!?」」

鳴り響く轟音。吉廣と輝之輔が振り返ると、そこにいたのは……





「…………………………………」

闇に輝く紅い瞳、月に煌めく薄緑の髪、そして、頭に備えた双つの角。上白沢慧音は、満月の下三人を見据え佇んでいた。

♪BGM 石鹸屋 『Search&Caved-見敵必掘』

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