しばらく馬を走らせ続けると、3人は水場に到着した。
馬から降りて、辺りの枝を集めて火をつける妹紅。
3人の顔が炎の薄明かりに照らされる。
「今日はここで野営だな。水、汲んでくるから待ってろ」
妹紅は3人分の水筒を持って水場へと足を向けた。
「なあ、姉ちゃんはどうして俺たちを助けたんだ?」
アンドレが火を見ながら、妹紅に質問を投げた。
「あの流砂から逃げ出すのにあんたらの力が必要だった。あと、『何も死ぬことはない』。そう思っただけだ」
アンドレの質問にそっけなく答えると、砂の踏む音と水筒がぶつかる音を立てて、妹紅は立ち去った。
不死鳥は失敗を恐れない 第19話『オアシスにて』
パチパチ、と音を立てて火は燃える。
2人は揺らめく炎をじっと見つめる。
「……生き残っちまったな」
アンドレはたき火の中に枝を投げ入れる。
「20万ドル、手に入れられなかったね」
アンドレはぼーっと火を見つめながらつぶやく。
「もう20万なんてどうでもいいだろ。俺たち、これから何するよ?」
もう一つたき火の中に枝を投げ入れるアンドレ。
彼の脳裏に、黒服の男が浮かび上がる。
手渡されたジャイロの写真。
『彼を殺せば20万ドルを報酬として出す。証拠の隠滅もこちらで行う』という男の甘言。
20万ドル。日本円に換算すれば1000万円以上にもなる。
人を1人殺すだけでそんな金が手に入る上に証拠の隠滅までしてもらえるなら、その気になる人間は少なくないだろう。
2人の父親、ベンジャミンはそうだった。
彼は黒服の男から『ジャイロ殺害の依頼』を請けて、レース中の事故に見せかけて殺すことにした。
その結果、彼ら一家はジャイロを追って『悪魔の手のひら』に足を踏み入れ、そこでジャイロの仲間であるジョニィの反撃に遭った。
岩をも両断するジョニィの攻撃は回避したものの、流砂に足を踏み入れてしまい溺れ死んでしまった。
アンドレとL・Aも流砂に溺れて死にかけたが、妹紅に助けられた。
一体、なぜ自分たちは助けられたのだろうか? アンドレは自問した。
トカゲの毒にやられた時も彼女に助けられた。
ジャイロの反撃で横腹に穴を開けられたときだって、彼女の名前が書かれた救急箱のおかげで命拾いした。
疑問ばかりがアンドレの頭に浮かんでくる。
ぼおっとして炎を見つめ続けるアンドレ。
ゆらゆら揺れる赤い光は、絶え間なく動き続けて一時も止まらない。
揺れる光の中で枝が炭になって焼け落ちる。
炎は枝を焼いても、アンドレが抱く疑問を焼いてはくれない。
「水、持ってきたぞ」
アンドレに耳に妹紅の声が飛び込んできた。
突然話しかけられたもので、アンドレは驚いて妹紅の方を振り向いた。
大量の水筒を揺らして妹紅が立っている。
水場で着替えてきたらしく、肩には血で赤くなったシャツが下がっている。
「寒いだろ? スープ、作ってやるよ」
妹紅は自分の荷物から鍋を取り出した。
それをたき火の上に置き、鍋に水を注ぐ。
乾燥させてある野菜を鍋に入れ、続けて干し肉をちぎって鍋に入れる。
調味料を適当に入れた後、出来たスープを水筒のカップに入れる。
「ほら飲め。おかわり自由だ」
アンドレとL・Aは機械じかけの人形のような動きでカップを受け取った後、スープを見つめる。
「どうした? 食べねぇのか?」
妹紅はスープを飲みながら2人を見る。
スープを見る妹紅を見て、アンドレとL・Aは顔を見合わせた。
黙って2人はスープを飲む。
薄い塩味だった。
だが、物足りないのではなく、むしろ満足感を覚える味わいだった。
「おかわり」
カップを突き出すアンドレ。
「自分で適当に入れろ」
妹紅に突き放されてアンドレはしぶしぶ鍋のスープをカップですくい上げた。
「あ、なんで肉多めにとってんだよ! よこせよ」
アンドレのカップの中身に感づいた妹紅がアンドレのカップを奪い取ろうとする。
「やらせるかッ!」
アンドレは俊敏な動きで妹紅の手を避けて、
「こうなれば肉を取られる前に全部食べてやるッ!」
カップの中身を一気飲みする。
ふやけた干し肉を噛み砕き、塩味のスープで一気に嚥下する。
「あーっ! てめぇよくもアタシの肉を!」
額に青筋を浮かべて妹紅はアンドレを指差した。
鍋の中にはキャベツとジャガイモだけがぷかぷかと浮かんでいる。
「くそっ! こんなになるんなら肉入れなきゃよかった!」
妹紅は歯噛みして自分のスープを飲そうとして、せき込む。
少し肺に入ったらしい。
「ぷく、ぷくくくくく……」
そんな見て、L・Aは笑いを抑えることができなかった。
「何だよ? 何がおかしいんだよ」
ぜぇぜぇと荒い息を吐いて妹紅がL・Aにくいかかる。
「なんでもない、なんでもないって!」
L・Aはカップでスープをすくった。
顔からはにやけ顔がとれない。
「あーっ! お前野菜全部とってる! こんのガキどもー!」
妹紅は呆れて荷物から干し肉と乾燥野菜を取り出して乱暴に放り込んだ。
水筒から水もドボドボとぶち込む。
たき火に枝を投げ入れて火を強くする。
そうして、砂漠の夜は更けていった。
深夜、3人は眠りについていた。
妹紅は片膝を立てて岩に背中を押し当てる形で浅い眠りを享受している。
ブンブーン兄弟は毛布にくるまって、並んで眠っている。
虫も鳴かぬ砂漠の夜。砂を撫でる風だけが過ぎていく。
夜風に吹かれ、L・Aは目を覚ました。
さっき目を覚ましたにもかかわらず、L・Aの目ははっきりとしている。
L・Aは立ち上がり、懐から拳銃を取り出した。
ざくざく、と砂を踏む音を立ててL・Aは妹紅の前まで迫り、銃口を彼女の額に向けた。
ジャイロたちと関わったがゆえに自分たちの父親は命を落とした。今目の前にそのジャイロの仲間がいる。
手に握る拳銃の撃鉄が引き上げられ、引き金に指が添えられた。
彼の表情はぞっとするほど冷たかった。
まるで切り出されたドライアイスだった。
カチリ、と拳銃のフレームが音を立てる。
引き金に添えられた指に力が入ってくる。
妹紅は、殺意を感じて目を薄く開けた。
目の前にはL・Aが拳銃を向けて立っている。
L・Aは妹紅が薄目を開けていることに気付かず、心の中でカウントダウンを始めた。
(3……)
じっと待つ妹紅。
(2……)
妹紅に向けられた動かない。
(……1)
そして、彼はその拳銃をおろした。
撃鉄をそっと戻し、懐にそれを仕舞う。
アンドレの横まで戻り、毛布にくるまって目を閉じた。
夜風はむなしく砂漠を吹き抜ける。
やがて、妹紅がゆっくりと目を開く。
浅い眠りから覚めた妹紅は紅い瞳を闇に輝かせて立ち上がる。
ザッ、ザッ、っと荒い足音を立てて妹紅は眠りこける2人の近くに立った。
兄弟に向けられた妹紅の手に熱気が集中する。
後顧の憂いは絶っておくべきか。
手に集中する熱気は炎となって燃え上がる。
人の子2人と馬1頭。一瞬で灰にするのは彼女にとっては容易なことだ。
ザクリ。右足を踏み出した。
ザクリ。左足が右足の前に出る。
ザクリ。もう2人は足のつま先にいる。L・Aはそっと目を薄く開けた。
目の前には手に炎をともした妹紅が立っている。
妹紅はL・Aが薄目を開けていることに気付かず、心の中でカウントダウンを始める。
(3……)
じっと待つL・A。
(2……)
炎は、勢いを増して燃え上がる。
(……1)
そして、彼女は振り返った。
歩いて岩の所まで戻り、岩に背中をつけて再び目を閉じる。
何事も無かったかのように砂漠の夜は過ぎていく……
やがて朝が来た。
空に一点の曇りもない朝が。
「じゃあな。まっとうに生きろよ」
妹紅は眠りこける2人を見て、馬に乗りこむ。
そして、砂漠へ駆け出して行った。
←To be continued...
次回予告
吉良「私の名は吉良吉影。いつ、なぜ私が死んだのかはどうしても以下省略。私は今日も静かに座禅が組める場所を探してこの幻想郷をさまよっている」
吉良「今回はこの鈴蘭が咲き乱れる無名の丘に来ている。誰もいないここなら静かに座禅を組んでいられるだろう」
吉良「だが、妙に鼻がムズムズする。しかも背筋が物凄く痒い……まさか!」
次回ッ! 不死鳥は失敗を恐れない 第弐拾話『消えた二人を追え!』お楽しみにッ!
吉良「まさかッ! 亡霊の私にも鈴蘭の毒が効くとでもいうのかッ! 早く病院かどこかに行って解毒剤を手に入れなくてはッ!」
メディスン「なにあの亡霊。おもしろい……」
馬から降りて、辺りの枝を集めて火をつける妹紅。
3人の顔が炎の薄明かりに照らされる。
「今日はここで野営だな。水、汲んでくるから待ってろ」
妹紅は3人分の水筒を持って水場へと足を向けた。
「なあ、姉ちゃんはどうして俺たちを助けたんだ?」
アンドレが火を見ながら、妹紅に質問を投げた。
「あの流砂から逃げ出すのにあんたらの力が必要だった。あと、『何も死ぬことはない』。そう思っただけだ」
アンドレの質問にそっけなく答えると、砂の踏む音と水筒がぶつかる音を立てて、妹紅は立ち去った。
不死鳥は失敗を恐れない 第19話『オアシスにて』
パチパチ、と音を立てて火は燃える。
2人は揺らめく炎をじっと見つめる。
「……生き残っちまったな」
アンドレはたき火の中に枝を投げ入れる。
「20万ドル、手に入れられなかったね」
アンドレはぼーっと火を見つめながらつぶやく。
「もう20万なんてどうでもいいだろ。俺たち、これから何するよ?」
もう一つたき火の中に枝を投げ入れるアンドレ。
彼の脳裏に、黒服の男が浮かび上がる。
手渡されたジャイロの写真。
『彼を殺せば20万ドルを報酬として出す。証拠の隠滅もこちらで行う』という男の甘言。
20万ドル。日本円に換算すれば1000万円以上にもなる。
人を1人殺すだけでそんな金が手に入る上に証拠の隠滅までしてもらえるなら、その気になる人間は少なくないだろう。
2人の父親、ベンジャミンはそうだった。
彼は黒服の男から『ジャイロ殺害の依頼』を請けて、レース中の事故に見せかけて殺すことにした。
その結果、彼ら一家はジャイロを追って『悪魔の手のひら』に足を踏み入れ、そこでジャイロの仲間であるジョニィの反撃に遭った。
岩をも両断するジョニィの攻撃は回避したものの、流砂に足を踏み入れてしまい溺れ死んでしまった。
アンドレとL・Aも流砂に溺れて死にかけたが、妹紅に助けられた。
一体、なぜ自分たちは助けられたのだろうか? アンドレは自問した。
トカゲの毒にやられた時も彼女に助けられた。
ジャイロの反撃で横腹に穴を開けられたときだって、彼女の名前が書かれた救急箱のおかげで命拾いした。
疑問ばかりがアンドレの頭に浮かんでくる。
ぼおっとして炎を見つめ続けるアンドレ。
ゆらゆら揺れる赤い光は、絶え間なく動き続けて一時も止まらない。
揺れる光の中で枝が炭になって焼け落ちる。
炎は枝を焼いても、アンドレが抱く疑問を焼いてはくれない。
「水、持ってきたぞ」
アンドレに耳に妹紅の声が飛び込んできた。
突然話しかけられたもので、アンドレは驚いて妹紅の方を振り向いた。
大量の水筒を揺らして妹紅が立っている。
水場で着替えてきたらしく、肩には血で赤くなったシャツが下がっている。
「寒いだろ? スープ、作ってやるよ」
妹紅は自分の荷物から鍋を取り出した。
それをたき火の上に置き、鍋に水を注ぐ。
乾燥させてある野菜を鍋に入れ、続けて干し肉をちぎって鍋に入れる。
調味料を適当に入れた後、出来たスープを水筒のカップに入れる。
「ほら飲め。おかわり自由だ」
アンドレとL・Aは機械じかけの人形のような動きでカップを受け取った後、スープを見つめる。
「どうした? 食べねぇのか?」
妹紅はスープを飲みながら2人を見る。
スープを見る妹紅を見て、アンドレとL・Aは顔を見合わせた。
黙って2人はスープを飲む。
薄い塩味だった。
だが、物足りないのではなく、むしろ満足感を覚える味わいだった。
「おかわり」
カップを突き出すアンドレ。
「自分で適当に入れろ」
妹紅に突き放されてアンドレはしぶしぶ鍋のスープをカップですくい上げた。
「あ、なんで肉多めにとってんだよ! よこせよ」
アンドレのカップの中身に感づいた妹紅がアンドレのカップを奪い取ろうとする。
「やらせるかッ!」
アンドレは俊敏な動きで妹紅の手を避けて、
「こうなれば肉を取られる前に全部食べてやるッ!」
カップの中身を一気飲みする。
ふやけた干し肉を噛み砕き、塩味のスープで一気に嚥下する。
「あーっ! てめぇよくもアタシの肉を!」
額に青筋を浮かべて妹紅はアンドレを指差した。
鍋の中にはキャベツとジャガイモだけがぷかぷかと浮かんでいる。
「くそっ! こんなになるんなら肉入れなきゃよかった!」
妹紅は歯噛みして自分のスープを飲そうとして、せき込む。
少し肺に入ったらしい。
「ぷく、ぷくくくくく……」
そんな見て、L・Aは笑いを抑えることができなかった。
「何だよ? 何がおかしいんだよ」
ぜぇぜぇと荒い息を吐いて妹紅がL・Aにくいかかる。
「なんでもない、なんでもないって!」
L・Aはカップでスープをすくった。
顔からはにやけ顔がとれない。
「あーっ! お前野菜全部とってる! こんのガキどもー!」
妹紅は呆れて荷物から干し肉と乾燥野菜を取り出して乱暴に放り込んだ。
水筒から水もドボドボとぶち込む。
たき火に枝を投げ入れて火を強くする。
そうして、砂漠の夜は更けていった。
深夜、3人は眠りについていた。
妹紅は片膝を立てて岩に背中を押し当てる形で浅い眠りを享受している。
ブンブーン兄弟は毛布にくるまって、並んで眠っている。
虫も鳴かぬ砂漠の夜。砂を撫でる風だけが過ぎていく。
夜風に吹かれ、L・Aは目を覚ました。
さっき目を覚ましたにもかかわらず、L・Aの目ははっきりとしている。
L・Aは立ち上がり、懐から拳銃を取り出した。
ざくざく、と砂を踏む音を立ててL・Aは妹紅の前まで迫り、銃口を彼女の額に向けた。
ジャイロたちと関わったがゆえに自分たちの父親は命を落とした。今目の前にそのジャイロの仲間がいる。
手に握る拳銃の撃鉄が引き上げられ、引き金に指が添えられた。
彼の表情はぞっとするほど冷たかった。
まるで切り出されたドライアイスだった。
カチリ、と拳銃のフレームが音を立てる。
引き金に添えられた指に力が入ってくる。
妹紅は、殺意を感じて目を薄く開けた。
目の前にはL・Aが拳銃を向けて立っている。
L・Aは妹紅が薄目を開けていることに気付かず、心の中でカウントダウンを始めた。
(3……)
じっと待つ妹紅。
(2……)
妹紅に向けられた動かない。
(……1)
そして、彼はその拳銃をおろした。
撃鉄をそっと戻し、懐にそれを仕舞う。
アンドレの横まで戻り、毛布にくるまって目を閉じた。
夜風はむなしく砂漠を吹き抜ける。
やがて、妹紅がゆっくりと目を開く。
浅い眠りから覚めた妹紅は紅い瞳を闇に輝かせて立ち上がる。
ザッ、ザッ、っと荒い足音を立てて妹紅は眠りこける2人の近くに立った。
兄弟に向けられた妹紅の手に熱気が集中する。
後顧の憂いは絶っておくべきか。
手に集中する熱気は炎となって燃え上がる。
人の子2人と馬1頭。一瞬で灰にするのは彼女にとっては容易なことだ。
ザクリ。右足を踏み出した。
ザクリ。左足が右足の前に出る。
ザクリ。もう2人は足のつま先にいる。L・Aはそっと目を薄く開けた。
目の前には手に炎をともした妹紅が立っている。
妹紅はL・Aが薄目を開けていることに気付かず、心の中でカウントダウンを始める。
(3……)
じっと待つL・A。
(2……)
炎は、勢いを増して燃え上がる。
(……1)
そして、彼女は振り返った。
歩いて岩の所まで戻り、岩に背中をつけて再び目を閉じる。
何事も無かったかのように砂漠の夜は過ぎていく……
やがて朝が来た。
空に一点の曇りもない朝が。
「じゃあな。まっとうに生きろよ」
妹紅は眠りこける2人を見て、馬に乗りこむ。
そして、砂漠へ駆け出して行った。
←To be continued...
次回予告
吉良「私の名は吉良吉影。いつ、なぜ私が死んだのかはどうしても以下省略。私は今日も静かに座禅が組める場所を探してこの幻想郷をさまよっている」
吉良「今回はこの鈴蘭が咲き乱れる無名の丘に来ている。誰もいないここなら静かに座禅を組んでいられるだろう」
吉良「だが、妙に鼻がムズムズする。しかも背筋が物凄く痒い……まさか!」
次回ッ! 不死鳥は失敗を恐れない 第弐拾話『消えた二人を追え!』お楽しみにッ!
吉良「まさかッ! 亡霊の私にも鈴蘭の毒が効くとでもいうのかッ! 早く病院かどこかに行って解毒剤を手に入れなくてはッ!」
メディスン「なにあの亡霊。おもしろい……」