不死鳥は失敗を恐れない 第21話『合流』
崖の端ギリギリを妹紅の馬が走っていた。
一歩踏み間違えたら崖の底。
それにもかかわらず妹紅は平気で馬を走らせる。その技量は大したものだ。
馬が足を動かすたびに路傍の石は崖下へと落ちていく。
砂などの跡からわずかに残るジョニィたちの痕跡を追って、気付けばかなり高いところまで来ていた。
「うわ~……こんな高い所来たのは富士山以来だな……」
崖の方を見ると、崖下に雲がかかっている。
「……絶対に落ちたくないな」
雲がかかって底が見えない崖を見て、妹紅は背中に寒気が走った。
「っていうか、本当にこんな所走りやがって。こんな所に何があるんだ?」
1人愚痴りながら馬を走らせる。緩やかにカーブした細道を曲がると、そこに2人の男の姿が見えた。
ジョニィとジャイロだ。
「本当にいたな……おーい!」
妹紅は馬上で2人に向かって手を振る。
声をかけられた2人は、何なんだと思い振り向いた。
そして、2人して目を見開いた。
無理もない。2人は妹紅が死んだものだと勘違いしていたのだから。
「おいおい、なんだよ2人して。まるで幽霊でも見たかのような顔しやがって」
じっと2人は妹紅を見つめる。
ただひたすら舐めるように視線を送る。
そんな2人に妹紅は近づき、ビンタを一撃ずつくれてやる。
ビシッ、という小気味良い音が二連続でレッドキャニオンに響き渡った。
「夢じゃねーだろ? アタシは生きてるよ」
ぶたれた頬に触れながら呆然とする2人に、妹紅は笑いかける。
「い、いや……でもどうやって!? 君、刺されたんじゃ……?」
戸惑いを隠せない表情でジョニィは妹紅を指差す。
指先はブルブルと震えている。
未だに彼女が生きていることが信じられないようだ。
さて、と言わんばかりに髪を指先で弄る妹紅。
今ここで自分の本性を明かしたら、どれだけのメリットと、どれだけのデメリットがあるだろうか。
メリットは、これから嘘をつき続ける必要が無いこと。
デメリットは、自分の本性を恐れられ、遠ざかってしまうこと。
一番大きい要素はこの2つだろう。
腕を組み、この2つの要素を天秤にかける。
急に妹紅が黙り込むもので、不審に思ったジョニィは妹紅に一歩近づく。
「どうしたんだ? 急に考え込んで」
「あ、いや、さっきの質問だけどさ、どうやら、あの『悪魔の手のひら』って土地が関係あるみたいなんだ」
結果、妹紅は嘘をつくことにした。
幸いにも、嘘の素材は最適なものがある。
「前に、マウンテン・ティムがさ、『悪魔の手のひら』で死にかけて、『スタンド能力』を手に入れて生き延びたって話をしただろ? どうもそれと同じ目に遭ったみたいなんだよ」
「……なるほど。スタンド能力が身についたのか」
違和感のない妹紅の嘘に納得するジョニィ。
「ところで、ジャイロ。その足の怪我はどうしたんだ?」
更に話を逸らして、嘘の事を追及されないようにする妹紅。
妹紅は、ジャイロの足の縫い跡を指差した。
「これか? さっきスタンド使いと戦ってな」
ジャイロは足を上げて、妹紅に縫い跡を見せる。
妹紅はその怪我した足を、蹴ってみた。
「いでえええぇ~ッ!」
ジャイロの叫びがレッド・キャニオンの青空に吸い込まれていった。
「縫うほどの怪我してるけど、感覚消えてないなら大丈夫だな
「てめぇ~ッ! 怪我してる箇所を蹴るか普通!」
ジャイロは縫い跡をさすりながら目じりに涙を浮かべている。
相当痛かったようだ。
「どれ……今度は踵で行ってみるか」
妹紅は足を少し上げ、ブーツの踵についているギザギザの車輪――拍車――をジャイロに見せつける。
それを見たジャイロの顔が、青ざめた。
「ニョホ、ホ……それはねーだろ」
「冗談よ」
流石に拍車で蹴るのはまずいので妹紅も蹴ったりはしない。
ジャイロも痛みが引いてきたので立ち上がった。
「しんどい戦いだったぜ。ま、何とかなったし怪我も『ゾンビ馬』のおかげでこの通りだしな」
「『ゾンビ馬』? なんだよそれ。馬の死体と怪我が何の関係があるんだよ」
妹紅はきょろきょろと辺りを見回して、馬の死体を探そうとする。
無理もない。『ゾンビ馬』なんてネーミング、何の事情も知らない人間が聞いたら走り回る馬の死体を思い浮かべる筈だ。
そんな妹紅の行動を見て、ジャイロはニョホニョホと金歯をきらめかせてにやにや見つめる。
「馬の死体なんてここにはねーよ。こいつが『ゾンビ馬』だ」
笑うのに飽きたジャイロは、馬のバッグから『ゾンビ馬』を取りだした。
バッグから伸びてくる1本の糸。
それが『ゾンビ馬』の正体だった。
「この『ゾンビ馬』は傷を癒す。この『糸』こそが『ゾンビ馬』の正体……これで『縫え』ば吹っ飛ばされた肉片をくっつけるくらいの治療はできる」
バッグから出てきた糸は、壁に張り付いて馬の壁画を形どる。
「これが『ゾンビ馬』か……糸で縫うだけで傷を癒す……魔法の道具だな」
妹紅は凶暴な顔をしたヘタクソな馬の壁画を見つめる。
「さ、行くぜ。もたもたしてられないからな」
ジャイロはさっさと『ゾンビ馬』をバッグにぶち込んで、馬に乗りこむ。
そうして3人はレッド・キャニオンの細い道を駆けはじめる。
目指すはセカンドステージのゴール地点、モニュメント・バレー。
しばらくレッドキャニオンの細い道を走ると、3人の乗っている馬とは別の足音が3人の耳に飛び込んできた。
その足音は、最初は勢いこそよかったものの、しばらくすると勢いを失い、ゆっくりとした足音に変わる。
まさか、と思って妹紅は音のしてきた方向、崖の向こう側を見る。
「ええい、あのスピードを維持し続けると牛の足がつぶれるか……やはり無理ね」
牛の上で辟易としている宿敵がいた。
「牛なんかで参加するから……」
ざまあみろと言わんばかりの黒い笑顔を浮かべて宿敵こと輝夜を見つめる妹紅。
もう少し耳を澄ましてみると、輝夜の言葉が聞こえてくる。
「ファーストステージの時だってそうよ。ショートカットできたかと思ったら下り坂で体制崩してスピード落として順位は上位25に入ることができなかったし……」
すっかり弱気になって泣き言を吐いていた。
「ほらー! しっかりしろー! お前それでもアタシの宿敵か!?」
見てられなくなった妹紅は大声を上げて対岸の輝夜を煽り立てる。
その声を耳にした輝夜は、ぎょっとして妹紅と目を合わせた。
「も、妹紅……もうこんな所まで!?」
妹紅を見つめる輝夜の表情には明らかな焦りが見えている。
「先行ってるよ~」
更に煽り立てるために妹紅はスピードを少し上げる。
その煽りをもろに受けた輝夜は、牛に鞭うって急がせようとした。
が、牛はかなりの鈍感らしく、鞭で打たれた程度ではびくともしなかった。
「動け! 動け牛! ええい、なぜ動かん!」
なかなかスピードを上げない牛に辟易しているのを見て、妹紅は笑いをこらえきれなくなった。
妹紅たち3人は輝夜をどんどん突き放していった。
足元に気を付けながら下り坂を走っていく。
←To be continued...
崖の端ギリギリを妹紅の馬が走っていた。
一歩踏み間違えたら崖の底。
それにもかかわらず妹紅は平気で馬を走らせる。その技量は大したものだ。
馬が足を動かすたびに路傍の石は崖下へと落ちていく。
砂などの跡からわずかに残るジョニィたちの痕跡を追って、気付けばかなり高いところまで来ていた。
「うわ~……こんな高い所来たのは富士山以来だな……」
崖の方を見ると、崖下に雲がかかっている。
「……絶対に落ちたくないな」
雲がかかって底が見えない崖を見て、妹紅は背中に寒気が走った。
「っていうか、本当にこんな所走りやがって。こんな所に何があるんだ?」
1人愚痴りながら馬を走らせる。緩やかにカーブした細道を曲がると、そこに2人の男の姿が見えた。
ジョニィとジャイロだ。
「本当にいたな……おーい!」
妹紅は馬上で2人に向かって手を振る。
声をかけられた2人は、何なんだと思い振り向いた。
そして、2人して目を見開いた。
無理もない。2人は妹紅が死んだものだと勘違いしていたのだから。
「おいおい、なんだよ2人して。まるで幽霊でも見たかのような顔しやがって」
じっと2人は妹紅を見つめる。
ただひたすら舐めるように視線を送る。
そんな2人に妹紅は近づき、ビンタを一撃ずつくれてやる。
ビシッ、という小気味良い音が二連続でレッドキャニオンに響き渡った。
「夢じゃねーだろ? アタシは生きてるよ」
ぶたれた頬に触れながら呆然とする2人に、妹紅は笑いかける。
「い、いや……でもどうやって!? 君、刺されたんじゃ……?」
戸惑いを隠せない表情でジョニィは妹紅を指差す。
指先はブルブルと震えている。
未だに彼女が生きていることが信じられないようだ。
さて、と言わんばかりに髪を指先で弄る妹紅。
今ここで自分の本性を明かしたら、どれだけのメリットと、どれだけのデメリットがあるだろうか。
メリットは、これから嘘をつき続ける必要が無いこと。
デメリットは、自分の本性を恐れられ、遠ざかってしまうこと。
一番大きい要素はこの2つだろう。
腕を組み、この2つの要素を天秤にかける。
急に妹紅が黙り込むもので、不審に思ったジョニィは妹紅に一歩近づく。
「どうしたんだ? 急に考え込んで」
「あ、いや、さっきの質問だけどさ、どうやら、あの『悪魔の手のひら』って土地が関係あるみたいなんだ」
結果、妹紅は嘘をつくことにした。
幸いにも、嘘の素材は最適なものがある。
「前に、マウンテン・ティムがさ、『悪魔の手のひら』で死にかけて、『スタンド能力』を手に入れて生き延びたって話をしただろ? どうもそれと同じ目に遭ったみたいなんだよ」
「……なるほど。スタンド能力が身についたのか」
違和感のない妹紅の嘘に納得するジョニィ。
「ところで、ジャイロ。その足の怪我はどうしたんだ?」
更に話を逸らして、嘘の事を追及されないようにする妹紅。
妹紅は、ジャイロの足の縫い跡を指差した。
「これか? さっきスタンド使いと戦ってな」
ジャイロは足を上げて、妹紅に縫い跡を見せる。
妹紅はその怪我した足を、蹴ってみた。
「いでえええぇ~ッ!」
ジャイロの叫びがレッド・キャニオンの青空に吸い込まれていった。
「縫うほどの怪我してるけど、感覚消えてないなら大丈夫だな
「てめぇ~ッ! 怪我してる箇所を蹴るか普通!」
ジャイロは縫い跡をさすりながら目じりに涙を浮かべている。
相当痛かったようだ。
「どれ……今度は踵で行ってみるか」
妹紅は足を少し上げ、ブーツの踵についているギザギザの車輪――拍車――をジャイロに見せつける。
それを見たジャイロの顔が、青ざめた。
「ニョホ、ホ……それはねーだろ」
「冗談よ」
流石に拍車で蹴るのはまずいので妹紅も蹴ったりはしない。
ジャイロも痛みが引いてきたので立ち上がった。
「しんどい戦いだったぜ。ま、何とかなったし怪我も『ゾンビ馬』のおかげでこの通りだしな」
「『ゾンビ馬』? なんだよそれ。馬の死体と怪我が何の関係があるんだよ」
妹紅はきょろきょろと辺りを見回して、馬の死体を探そうとする。
無理もない。『ゾンビ馬』なんてネーミング、何の事情も知らない人間が聞いたら走り回る馬の死体を思い浮かべる筈だ。
そんな妹紅の行動を見て、ジャイロはニョホニョホと金歯をきらめかせてにやにや見つめる。
「馬の死体なんてここにはねーよ。こいつが『ゾンビ馬』だ」
笑うのに飽きたジャイロは、馬のバッグから『ゾンビ馬』を取りだした。
バッグから伸びてくる1本の糸。
それが『ゾンビ馬』の正体だった。
「この『ゾンビ馬』は傷を癒す。この『糸』こそが『ゾンビ馬』の正体……これで『縫え』ば吹っ飛ばされた肉片をくっつけるくらいの治療はできる」
バッグから出てきた糸は、壁に張り付いて馬の壁画を形どる。
「これが『ゾンビ馬』か……糸で縫うだけで傷を癒す……魔法の道具だな」
妹紅は凶暴な顔をしたヘタクソな馬の壁画を見つめる。
「さ、行くぜ。もたもたしてられないからな」
ジャイロはさっさと『ゾンビ馬』をバッグにぶち込んで、馬に乗りこむ。
そうして3人はレッド・キャニオンの細い道を駆けはじめる。
目指すはセカンドステージのゴール地点、モニュメント・バレー。
しばらくレッドキャニオンの細い道を走ると、3人の乗っている馬とは別の足音が3人の耳に飛び込んできた。
その足音は、最初は勢いこそよかったものの、しばらくすると勢いを失い、ゆっくりとした足音に変わる。
まさか、と思って妹紅は音のしてきた方向、崖の向こう側を見る。
「ええい、あのスピードを維持し続けると牛の足がつぶれるか……やはり無理ね」
牛の上で辟易としている宿敵がいた。
「牛なんかで参加するから……」
ざまあみろと言わんばかりの黒い笑顔を浮かべて宿敵こと輝夜を見つめる妹紅。
もう少し耳を澄ましてみると、輝夜の言葉が聞こえてくる。
「ファーストステージの時だってそうよ。ショートカットできたかと思ったら下り坂で体制崩してスピード落として順位は上位25に入ることができなかったし……」
すっかり弱気になって泣き言を吐いていた。
「ほらー! しっかりしろー! お前それでもアタシの宿敵か!?」
見てられなくなった妹紅は大声を上げて対岸の輝夜を煽り立てる。
その声を耳にした輝夜は、ぎょっとして妹紅と目を合わせた。
「も、妹紅……もうこんな所まで!?」
妹紅を見つめる輝夜の表情には明らかな焦りが見えている。
「先行ってるよ~」
更に煽り立てるために妹紅はスピードを少し上げる。
その煽りをもろに受けた輝夜は、牛に鞭うって急がせようとした。
が、牛はかなりの鈍感らしく、鞭で打たれた程度ではびくともしなかった。
「動け! 動け牛! ええい、なぜ動かん!」
なかなかスピードを上げない牛に辟易しているのを見て、妹紅は笑いをこらえきれなくなった。
妹紅たち3人は輝夜をどんどん突き放していった。
足元に気を付けながら下り坂を走っていく。
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