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不死鳥は失敗を恐れない 第二十三話

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匿名ユーザー

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 晴れ渡る砂漠を、馬に乗った3人は走っていた。
 浮かぶ雲は呑気に流れ、日差しを遮ったり遮らなかったり。
「なあ、2人とも、オペラって見たことあるか?」
 走りっぱなしってのも暇なので、ジャイロは2人に話題を振った。
「オペラ……歌舞伎なら見たことあるけどねぇ……」
「オペラ……音楽のか? セリフを言えば済むのになぜか歌いだして状況を説明しだすあの演劇のことか? 見たことはないけど……なぜそんなことを聞く?」
 ジャイロの話に食らいつく2人。
 彼はにやりと金歯を陽光に輝かせて双眼鏡を手に持つ。
「素朴な疑問だ……オペラを見るための道具に『オペラグラス』というものがある。双眼鏡の親戚だと思ってくれりゃ結構だ。思ったけどよ、舞台で歌ってる奴ら体重120キロとか150キロ超えた巨体じゃん?」
 ジャイロの言葉にジョニィはうなづいた。
 一方妹紅は歌舞伎役者に巨体がいないことを思い出し、頭をひねらせる。
「オペラの役者って、そんなデブなのか?」
「だからいい声が出るのさ」
「なるほど……舞台がでかいからでかい声出すために体がでかいのか」
 ジョニィの解説に納得してうなづく妹紅。
「それでさ……思ったのよ。なんでオペラグラス使ってそいつら見るわけ? いらないじゃん」
 大きな声を出して力説するジャイロ。
 そしてとどめの一言をたたきつける。
「でかいんだから」
 と。
 その一言で2人は笑いが込み上げてきた。
 だがまだ耐えられる。しばらく肩で息すればやり過ごせる。
 そこにジャイロが追撃をかけてくる。
 双眼鏡をオペラグラスに見立てて覗き込みながら、
「ド派手な舞台衣装のボタンをアップで見て『はじけ飛びそーだなー』とか見るわけ?」
 と追撃をかける。
 妹紅の頭の中に、ブクブクに太った女性が口を大きく開ける図が浮かびあがる。
 彼女の揺れる胸を抑えるボタンはプルプルと揺れて今にもはじけ飛びそうだ。
「でも、てゆーか!」
 決壊寸前の妹紅。その横からジョニィの声が飛び出す。
「みんな同じ体系だからアップで見ないとキャラの見分けがつかないとかァー?」
 とどめをさした。ジョニィがとどめをさした。
「ニョホハホハハハハ! ジョニィおめー言うじゃん!」
「ぷくっ……くくくくハハハハハハハハハ! ジョニィアンタやめろよマジで腹がいたくなっちゃう!」
 2人は破顔一笑。
 妹紅に至っては一笑を通り越して馬鹿笑いの領域だった。
「2人とも見ろ! あそこがモニュメントバレーだ! あと1~2時間でゴールが見えてくる!」
 笑いながらジャイロは目の前の岩山を指差した。岩山の奥から、渡り鳥が群れて飛んでいく。
 砂漠の水平線の上に立つ無数の岩山。
 そこがモニュメントバレー。セカンドステージのゴール地点。
 
 不死鳥は失敗を恐れない 第23話『牙‐タスク‐』

「よしっ!加速するか!」
 ジョニィは張り切って加速の姿勢に入る。
「いや! ペースはこのままでいい!1着は十分俺たちだ」
 ジャイロはジョニィを制止し、スピードを上げないようにする。
 3人の真上を渡り鳥たちが風を切って飛んでいく。
「おお、きれいだな、あいつら何処に行くんだろうな」
 ジャイロは渡り鳥を呑気に眺めながら、一定の速さで走り続ける。
「あいつらもまたアタシたちと同じで大陸を横断している最中なのかもな……」
 舞い散る黒い羽根を眺めながら妹紅は小さな感傷に浸る。
「…………」
 ジョニィもその光景に圧倒されたのか、黙って鳥たちを眺めていた。
 おもむろに、舞い散る羽を1つ掴んでみる。
 そして思い出したかのように振り向いてみる。
 ジョニィは、驚愕した。
 馬が、走っている。その上にジャイロの姿はない。
 ドシャッ、と音がした。
 音がした方向を向いてみると、妹紅が地面を転がっている。
「ジャイロ……妹紅!?」
 ジョニィはそのまま固まってしまった。
「ジョニィぼさっとするな! アタシの馬が消えた……何かしらの攻撃を受けている!」
 上手く受け身を取ることができた妹紅が立ち上がり、ジョニィを怒鳴りつける。
「ジャイロが消えた!」
「んなことわかっとるわ! 辺りに注意しろっ! どんな変化も見逃すなっ!」
 妹紅は伏せたまま辺りを見渡し、観察する。
 視界に入るのは、主を失って途方に暮れるジャイロの馬。
 ジャイロの姿を探すジョニィ。
 そして、地面で回転する鉄球。
「おい……」
 妹紅がジョニィに鉄球の存在を知らせようとすると、彼女の目の前でジャイロの馬が消失した。
 ドサドサと馬具が地面に落ちる。
 ジョニィは素早く拳銃を抜き、銃口を突き付けながら辺りを警戒する。
 さっきまでジャイロの馬がいた所には蹄鉄と鞍、そして彼の荷物しかない。
「どこにいるジャイロ! 返事しろオォォォ!」
 ジャイロの名を必死に呼ぶも、帰ってくる声はない。
 カラン、と音がした。
 ジョニィは反射的に振り向いて銃弾を音のしてきた方向へぶち込む。
 銃弾はジャイロの水筒を打ち抜き、中の水を地面へとぶちまける。
「ジョニィ、走れ! 上だ! 上から攻撃が来ている!」
 妹紅は叫んでジョニィに指示をした。
 彼女は見ていた。
 上からフックがついたロープが下りてきて、それがジャイロの鞍を釣り上げた所を。
「上……!」
 ジョニィはすぐに馬を走らせた。
 上から降りてきた銃はジョニィの銃に引っ掛かり、空高くへと釣り上げられてゆく。
「確かに上から来ている……だがどこにいる? よく見えないっ!」
 ジョニィの両手の爪が、低い音を立てて回転を始めた。
 妹紅は立ち上がり、走ってジョニィについていく。 
 だが、人と馬では速さに違いがありすぎた。
 妹紅は、サンドマンのように速く走ることはできない。
 二人の距離はどんどん引き離されていく。
「ちっ……飛ぶか……」
 妹紅は舌打ちをして、空を飛んでジョニィを追いかけようとする
 砂を蹴り、地面すれすれの高さを飛んでいく。
 砂煙をもうもうと巻き上げ、妹紅はジョニィへと向かってゆく。 
「ジョニィ! ぼやっとするな! 狙われてる!」
 妹紅の声を聞いたジョニィは、馬を左右ジグザグに動かして上から来るフックを回避していく。
 少し脇を見ると、虚空を釣り上げる謎のフック。
「これが攻撃の正体……だがどこにいるんだ!?」
 ジョニィは攻撃を回避しながら、攻撃を受ける理由を考えるが、完全に思い浮かばない。
 レースの勝ち負けなら、こちらを追い越すためにも攻撃はこちらに接近してから行うはずである。
 ならば何故。何の目的をもって攻撃するのだろうか。
 ジョニィは考えながら、上から降りてくるフックを避ける。
「くっ……敵の場所を突き止めなければ……」
 横からフックが下りてくる。
 馬の向きを少し変えてフックをかわそうとすると、
「ジョニィ! 2本目のフックが来てるぞ!」
 妹紅は声を上げて2本目の接近を知らせる。
 ジョニィは馬の体勢を変えるが、急すぎる動きで振り回されてしまう。
「くっ……二本目があるなんて……」
 体勢を崩したジョニィへ、フックが飛び込んでくる。
「ジョニィ! 掴まれっ!」
 そこに妹紅が飛び込んできて、ジョニィに手を伸ばす。
 ジョニィは迷わず妹紅の手を取り、空へと飛びあがる。
「馬は後で取り返せばいい。今は敵の場所を探すのが先決だ!」
 2人の眼前で、馬が消失した。
 地面すれすれに滞空する2人は、その様を見ていた。
「今……見たか? ジョニィ」
「ああ。フックが僕の馬を釣り上げて消えた」
 2人はいったんその場から離れる。
「攻撃方法はフック……しかしどこからくるんだ……」
 妹紅はジョニィを連れたまま、空を見上げる。
 空を見て敵を探しながらも、小刻みに動いて狙いをつけられないように動く。
 砂漠特有の熱い風が吹き、2人の汗を吹き飛ばす。
 と、ジョニィは自分の頬に何かが触れるのを感じた。
「…………」 
 振り向く。
 渡り鳥たちが落とした黒い羽根が二枚、空を舞っている。
 いきなりジョニィの頬にフックが食い込んだ。
「う……フックが……」
 ジョニィの目はカッと見開かれ、宙に浮かぶ羽を見る。
 羽からロープが出てきている。
 そのロープの先にあるのは、ジョニィの頬に引っかかっているフック。 
「しまった! ジョニィ! すぐにロープを切るぞ!」
 ジョニィが攻撃を受けていることを悟った妹紅は、ナイフを取り出してロープを切りつける。
 しかし、ナイフはロープを切ることはできなかった。
 ギリギリと金属音を立てるだけである。
「切れない……まるでワイヤーじゃないか!」
 妹紅はギリギリと歯を鳴らす。
 ジョニィの決断は早かった。彼は回転する爪を自分の頬に突き立てる。
 裂けたジョニィの頬からフックが抜けた。
 フックは代わりにジョニィのバッグを奪い、そのまま羽の中へと吸い込まれてゆく。
「鳥の羽の中に荷物が……スタンド能力か!」
 ジョニィは血の流れる頬を抑え、羽を凝視する。
 妹紅はすぐに羽から離れた。
「ジョニィ、大丈夫か?」
 妹紅はジョニィを心配そうに見つめた。
 手当をしたいところだが、この状況では手当している暇はない。
 まずはこの見えない敵を倒すことが先決だ。
 2人は羽を見据えた。
 羽は2枚。そこから2つのフックが下りてきた。
 ずざざざ、と地面をこすりながらフックはものすごい勢いで2人に迫る。
「しっかりつかまってろ!」
 妹紅はジョニィの手を掴んだまま高く飛び上がった。
「うわっ!」
 生身で空を飛ぶという未知の体験に、ジョニィはびっくりしてすくみあがる。
 妹紅が握っている右手だけが生命線だ。
 地面があっという間に遠くなり、羽は2人の下にある。
「と、ととと飛んでる!?」
 ジョニィは唖然として妹紅を見た。
 妹紅は軽々とジョニィを持ち上げており、負担を感じている様は全くない。
「飛ぶのは初めてか? なに、川で泳ぐのと同じような感覚だからすぐに慣れる」
「…………」
 ごく自然に空を飛ぶ妹紅に、開いた口がふさがらないジョニィ。
「気をつけろ……敵さんもこっちが空飛んだことに気付いたみたいだ!」
 下から飛んできたフックを、妹紅はバレルロールで回避する。
「うわっ!」
 ジョニィは振り回されるが、それでも握った手は離さない。
 離せば、地面に叩き付けられて一巻の終わりだ。
 だが、フックを振り切ることには成功した。
 しばらくはフックが飛んでくることはないだろう。
「空を飛んでフックをかわし続けるのにも限界がある。ひとまずそこの岩陰に隠れよう」
 このまま飛んでいるとジョニィがダウンしかねないので、妹紅はジョニィを連れて岩陰に飛び込む。
 飛び込んだ岩陰は狭く、2人は必然的にすし詰めとなる形になった。
 本来ならちょっとしたラッキ―ともいえるイベントだが、状況が状況なため喜んでいることはできない。
 2人が岩影に飛び込んでから少し経つと、2本のフックがここまで駆けつけてきた。
 フックたちは岩の周りをゆらゆらと揺れる。
 しばらく岩の周りを探るように揺れると、2人のもとへフックが滑り込んできた。
 ジョニィはすぐそばの石を手に取ってフックを防ぐ。
 何回か滑り込んで来るフックを2人は必死に石で防いだ。
 石とフックがぶつかるたびに、ガギ、ガギといった金属音がする。
 しばらくフックを防ぎ続けると、今度は地面に落ちて、ずるずると蛇のように砂の上を這いずり回り始める。
 そのままフックは砂の上を這いずって、2人の詰まっている岩陰から出ていく。
 岩陰から出たフックは、スッと上の方へと行って消えてしまう。
「「ふう……」」
 とりあえず危機を脱した2人は、安堵の溜息をついた。
 汗と血を拭うと、上から何やらガチャガチャと金属類をいじるような音が聞こえてくる。
 上。敵は今岩の真上にいる。
「不可解ね……妨害なら馬を奪った時点で攻撃をやめるはず……何故荷物や鞍まで奪うんだ!?」
 妹紅は、フックの動きを見て疑問を覚える。
 彼女のつぶやきを耳にしたジョニィは、自分の左手を見つめる。
「荷物……ジャイロの荷物や鞍……」
 ぶつぶつ呟きながら、ジョニィは自分の左手を見続ける。
「ジョニィどうした?」
「まさか……敵は何かを探しているんじゃないか?」
 ジョニィと妹紅は顔を見合わせる。
 ジョニィには、気がかりなことが一つあった。
 自分の左腕。幻覚化と思っていた、あの『ミイラ化した左腕』
 いつの間にか拾っていた、『ミイラ化した左腕』
 もしかしたら、敵の狙いはその『ミイラ化した左腕』じゃないのか。
 ジョニィには、敵の目的がわかりかけてきた。
 敵は最初『ミイラ化した左腕』をジャイロが持っていると考えてジャイロを攻撃した。
 そして荷物も馬も順番に奪い、その中に『ミイラ化した左腕』が見つからないから次はジョニィを狙った。
「なんなんだ……あのミイラは誰の腕なんだ……」
 ビュウ、と熱い風が強く吹き込んで、ジョニィのつぶやきはかき消された。
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