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不死鳥は失敗を恐れない 第二十四話

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匿名ユーザー

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宙に浮く2つの羽と2本のフック。
 ジョニィたちを見失ったフックは、するすると音もなく羽へと吸い込まれていった。
 
 砂漠のど真ん中に、洗面器が1つ置いてある。
 洗面器は静かに水を湛えていて、その水面に2枚の羽を浮かべていた。 
 羽からは、1本ずつワイヤーが生えていた。
 ちゃぷちゃぷと水音を立てて、ワイヤーは巻き上げられてゆく。
 バシャッ、と音を立ててフックが洗面器から飛び出した。
 ワイヤーとフックは、ウィンウィンと機械が動くような音と共に巻き上げられてゆく。
「ウィーンウィンウィンウィンウィン」
 機械の音に合わせて少年の声が飛び出した。
 ワイヤーとフックは、少年の口の中へと吸い込まれて、その姿を消す。
「カッシャーン! ギィィーガシャン! ギィィーガシャン!」
 少年の服装は、砂漠には不似合いな服装だった。
 半袖のシャツ、薄手のズボン。そして竹で作ったと推測される帽子のようなもの。
 彼を一言で形容するなら、小僧というべきだろう。
「ウィィーン、ムズッ」
 小僧は機械を模した動きで、手元の石をつかんだ。
 わざわざ口で擬音を立てながら。
 そのままつかんだ石で、小僧はジャイロのバッグを滅多打ちに叩く。
 しばらくの間、めちゃくちゃに叩いていると、何かが割れる音がした。
 その音を聞きつけた小僧は、バッグの中をまさぐって、音の正体をつまみ出す。
 キャップの壊れた万年筆だ。
 においを嗅ぐ。軽く振ってみる。中のインクが零れ落ちる。
 おもむろに小僧はその万年筆を口にくわえ、中身を吸ってみる。
「ンメェーッ!」
 どうやらインクは小僧好みの味だったらしい。
 ひとしきり万年筆を吸い、中身を吸い尽くしてポイ捨てし、再びバッグをあさり始める。
「だけど見当たらねーな。この荷物にもねーじゃーん!」
 だが、バッグの中には目的のものは見当たらず、洗面器へと向き直る。
「とすると……ジョォニィ・ジォシュッターか、モクォ・フジャーラのどちらかが隠し持っているわけだな……」
 ギィィーガッシャン、ギィィーガッシャン、と口で機械の音を立てつつ、小僧は洗面器へと向かってゆく。
 その背後では、ジャイロが吊られていた。
 岩のでっぱりに、髪を結んで吊り下げるというぞんざい極まりない扱い。
 ジャイロはピクリとも動かず、あごに大穴を開けられて血を流している。
 ぽたり、ぽたりと血は地面へと垂れてゆく。
 垂れる血が、ジャイロの足元にある鉄球にぶつかったとき、鉄球は静かに動き始めた。

 
 不死鳥は失敗を恐れない 第24話『牙‐タスク‐その2』 OPテーマ 水野真菜三『炎つぐもの』
                             ttp://www.youtube.com/watch?v=2dPahV2Oz_w

「敵はどこからかこの位置を見ている……離れているかもしれないが、きっとそれほど遠くはない所からここを見ているはずなんだ……たぶんジャイロはそこに捕えられている」 
「確信はあるのか?」
 岩棚の陰に身を寄せ合って、フックから身を隠すジョニィと妹紅の2人。
 日差しと熱気が漂う中、狭い場所に人間2人が詰まる。
 このままだと熱気でくたばりかねない。
「しかし、この岩棚から外に出れば殺される……」
 ジョニィは汗が砂に吸い込まれる。
「でもこのままここに詰まっている訳にもいかないわね……」
 妹紅も額に汗を浮かべ、砂を握りしめる。
 と、そこに一匹のカナブンが入り込んできた。
 日差しを嫌って、岩陰に逃げ込んできたのだろう。
「ここはもう一杯だぜ。予約はずっと先まで……」
 ジョニィは入り込んできたカナブンに気付いて、
「満室だ」
 指ではねのけた。
 すると、突然カナブンからフックが飛び出し、ジョニィの手を貫く。
「え」
「ジョニィ!」
 次の瞬間、ジョニィはものすごい勢いで引きずられ、岩棚の陰から日差しの突き刺さる砂漠へと引きずり出そうとする。
「うおっ……な、なにぃ!」 
 ジョニィはフックに引っかかっていない右手で必死に岩にしがみつく。
 だが、フックの引く力に負けて岩をひっかくだけの結果に終わってしまう。 
 しかし彼の足を掴む者がいた。
 妹紅である。
「ジョニィ! しっかりしろ! 持って行かれるな!」
 しかし妹紅の力よりもフックの力の方が強く、妹紅もジョニィに引きずられる形となる。
「フックが出てくるところは羽だけじゃなかったんだ! 生きた昆虫からも出てきた」
「つまりは『疑似餌』って訳か!」
「早くこのフックを抜き取らなくては……! 砂漠に引きずり出されたら一巻の終わりだッ!」
「だったら早くフックを取れッ! アタシがアンタを繋ぎ止めておくッ!」
 妹紅は近場の岩を片手で掴み、ジョニィが引きずり出されないように努める。
 ジョニィは妹紅が限界を迎える前に、右手を左手に伸ばしてフックを取ろうとした。
 左手のフックにジョニィの視線が集中する。
 右手でフックを掴んだ際に、ジョニィは見た。
 数匹のカナブンが、自分目がけて迫ってくるのを。
「なにィィィィィ!」
 迫ってくるカナブンの意味を知るジョニィは、恐慌状態に陥った。 
 当然、カナブンの姿はジョニィの頭が影になって妹紅には見えない。
「どうした! ジョニィ!」
 妹紅が声をかけた次の瞬間、ジョニィのあごにフックが引っ掛かり、どうしようもない程の勢いでジョニィの体が引っ張られ始めた。
「どうしたもこうしたも……っぐ! ぼくは欲しくてこんなわけのわからない『ミイラの手』を手に入れた訳じゃなんだ!」
 ジョニィの手が裂け、『ミイラの手』が露出する。
 その時、すべてがスローモーションになった。
 バリッ、と腕を裂いて、『何者か』が出てくる。
 手のひら大ほどの大きさ、体のそこかしこについている星の模様、つぶらな瞳。
 ジョニィの腕から這い出た『何者か』はよちよちとジョニィの耳元まで近づく。
「movēre crūs……」
 すべてがスローに動く世界の中で、『何者か』だけが平然とした速さで動き回る。
「何……ミイラの手の中……から……」
 ジョニィは、『何者か』の動きを黙ってみることしかできない。
『何者か』は跳ねてジョニィの足へと向かい、
「モヴェーレ・クルース……movēre crūs……」
 と囁く。
 次の瞬間、スローモーションの時は動き出した。ジョニィの靴を破って彼の爪が飛び出した。
 飛び出した爪は、岩を真っ二つに裂き、妹紅を吹き飛ばし、フックの根本の羽へと飛び込んだ。
 左手とあごに引っかかっていたフックは、外れて羽の中へと逃げ帰ってゆく。
 バラバラと岩の破片が砂漠に落ちる。
「爪が……発射されたんだ……ものすごい力だ…こいつの仕業なのか? どういうことだ? ぼくを危機から守ったっていうことなのか……」
 肩で息をしながら、ジョニィは自分の足と、そこに張り付く『何者か』を見つめる。
 「おい、ジョニィ! 何が起こったんだ!」
 砂に叩き付けられた妹紅は、口の中の砂を吐き出しながら立ち上がる。
「動かないぼくの足から……爪が発射されたんだ!」
 再び、ジョニィの足から爪が天に向けて放たれる。
 妹紅は爪の行方を見送った。
「爪が……飛んで行った……」
 妹紅は呆然と空を見上げる。
 そうしている間にも、『何者か』はジョニィの体を這い回り、彼の手首に、
「モヴェーレ・クルース、movēre crūs…………」
 と囁く。
「誰なんだ……誰なんだお前はあぁぁーッ!」
 ジョニィは、絶叫して『何者か』を問いただした。
『何者か』は、答えず、その腕を動かし、ジョニィの腕に傷をつけた。
『movēre crūs』
 ジョニィの腕に、その文字が刻みつけて、『何者か』は再びジョニィの腕の中に潜り込んで姿を消した。
 すぐにジョニィは右手で左腕をさわる。自分の手が自分のものであることを確認するかのように。
「何か書いて……また僕の『左手』の中に入ったッ! こいつ……意思がある! この左手のミイラにはきっぱりとした自分の意思がッ!」
 ジョニィは、左手の異変に確信を持った。
 左腕に刻まれた文字を見る。
『movēre crūs』という、英語ではない文字。
「ジョニィ、あれを見ろ……」
 妹紅が、ジョニィの肩に手をかけて、砂漠の方を指差す。
 その方向には、回転する鉄球。
 鉄球は、回転しながらずるずると移動し、その跡を砂に刻みつける。
「鉄球……ジャイロの、もう一つの鉄球」
 2人は、鉄球の先を見据える。
 そこにそびえたつのは、小高い岩山。
「ぼくは、これからあの岩山に向かう。この『ミイラの左手』は渡さないし、ジャイロも死なせない!」
 ジョニィは、強い意志を瞳に宿して岩山をにらんだ。
「だが……どうする? アタシたちでジャイロを助けるにしても、あのフックが邪魔してくると思うよ」
 妹紅は辺りに怪しいものが無いか警戒しながら、ジョニィに目を合わせる。
 彼女の言葉を受けて、ジョニィは少しの間固まった。
「アンタが岩山に行くのは構わないが、問題は機動力だ。私はあのフックを避けるだけの速さがあるが、アンタにはない……そして敵はアンタを狙っている……」
 妹紅は深く息を吐き、ジョニィの隣に座る。
 ジョニィは、妹紅の顔を見た。
「……あのフックを、避けきれるのか?」
「当たり前よ。さっき飛んだ時全部避けてたじゃん。私一人だけだったら1時間近くやってられるわ」
「だったら、あのフックを引き付けてくれるか?」
「何か、フックの注意を私に向ける秘策があるのか?」
 妹紅の問いに、ジョニィは首を縦に振った。

 
 洗面器から飛び出したジョニィの爪が、小僧の顔に突き刺さった。
「うぎゃぁぁぁーッ!」
 あまりの痛みに小僧は飛びのき、地面を転がって悶える。
 顔を抑え、痛みが引くのを必死に耐える。
 口で息をするたび、歯がヒリヒリと痛む。
「くっ……クッソォォ……」
 口の中に指を入れて、切り取られてしまった歯を数える。
 1本
 2本
「3本ダァァァァー! オイラの歯が三本も切られたあぁぁぁ!」
 口からだらだらと血を流し、小僧は痛みを恨みに変換する。
「だけど……ジオシュッターが『あれ』を持っていて、どこに隠し持っているかが分かった! 左腕だ……上空から少し見えた!」
 息をするたびに歯が痛むのを忘れ、小僧はにやにやと笑う。
「つまりだ! 探すのはもう終わりで、奪うのはジオシュッターを殺してからでいいってことだ」
 洗面器を覗き込み、口の中からワイヤーとフックが出てくる。
 フックは洗面器に沈み込み、妹紅たちの上空へと現れる。
「しめしめ……奴ら話すのに夢中でオイラの『ワイアード』に気付いてねーや……」
 音を立てず、2本のフックは砂の上すれすれまでに下りてくる。
 静かに、まるで獲物に忍び寄る猛獣のようにフックはジョニィに近づいてくる。
 もう少しでジョニィを開き……にしようとした所で小僧はフックを動かすのをやめた。
「あ、あれは……」
 小僧は見た、ジョニィが妹紅に『布に包まれた棒状の物体』を差し出すのを。
 そして、『物体』を包む布の隙間から、『茶色い物体』が見え隠れしているのを。
←To be continued...

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