「もう行くのかい?」
「ああ。そろそろ帰らないといけないからな」
闘いが終わり、勇儀と一緒に飲み始めてから(ディアボロが飲んでいたのは水だが)しばらく経った頃。
しばしの休息を経て、地上に戻るべく再び出口に向かいだすために立ち上がる。
「そうかい……」
少し残念そうな表情をしていた勇儀だったが、酒を一杯飲むと
「また来てくれよ?新しい楽しみができたんだしさ」
そういって笑みを浮かべた。
「機会があればな」
ディアボロはそういうと、隣で酒飲んで少々酔っぱらっているこいしを見る。
「……大丈夫か?」
ディアボロは心配しながらこいしに声をかける。
水はディアボロがあらかじめ言っておいたために用意されたのだが、こいしは何も言わなかったため、酒が用意されたのだ。
「うん、大丈夫」
ほろ酔いに近い状態で、こいしはディアボロの呼びかけに応じる。
頬を赤らめているが、どうやら呼びかけに応じるぐらいの理性は残っているようだ。
「本当に大丈夫か?」
ますます心配になってきたディアボロは、ホワイトスネイクのDISCを装備しているクレイジー・ダイヤモンドのDISCと入れ替える。
こいしがまともに行動できなかった場合、命令を与えるDISCをこいしに入れて正常な判断ができるようにして問題なく行動できる状態にするつもりだ。
「大丈夫だって、妖怪はこういうのも強いんだよ」
勇儀がそう言ってまた酒を飲む。
「(……本当か?)」
ディアボロは疑問に思うが、こいしが立ち上がって宙に浮きだした。
「問題なく飛べるか?」
ディアボロは念のため、こいしに質問をする。
「大丈夫だよ」
こいしは笑顔でそういうと、とくにふらつくことなく飛びながらディアボロの周囲を一周して見せる。
「ね?」
「ああ……」
ディアボロは心配しつつも、こいしの様子を見て大丈夫だと判断する。
「よし、行くとしようか」
ディアボロはジャンピン・ジャック・フラッシュで宙に浮き、装備しているDISCを変える。
「地上には私の知り合いの『萃香』って鬼がいるんだ。もしも会うことが仲良くしてやってくれ」
「萃香(すいか)だな、わかった」
勇儀はディアボロに自分の知り合いのことを教え、ディアボロは勇儀のお願いを了承する。
ディアボロは萃香のことは紫の知識をヘブンズ・ドアーを見て知っている。
その性格も、能力も知っている。
伊吹 萃香(いぶき すいか)。勇儀と同じ鬼で、かつては勇儀と同様に『山の四天王』の一人だった。
密と疎……ようするに密度を操る能力を持ち、その能力で小さい自分を作ることもできる。
子供っぽい性格で、常に酔っているようだ。
その見た目は意外と幼く、勇儀と違って角は2本あり、左の角にはリボンをつけている。
「じゃあな」
「ああ、また会おうな」
ディアボロの別れの言葉に、勇儀は笑顔で返事を返す。
きっと、また会えると思っているのだろう。
勇儀の返事を聞いたディアボロは、こいしを連れて地底の都の入口へと向かいだす。
「(また会おう、か)」
鬼は……少なくとも萃香は、人間との決闘が好きだそうだ。
もしも勇儀も人間との決闘が好きなのなら、ディアボロのような強さの人間とは久しく……いや、もしかしたら初めて戦ったかもしれない。
さらに、勇儀はディアボロが本気を出していないことも見抜いていた。
それも勇儀に気に入られた一因かもしれない。
もっとも、彼が『本当に』本気を出すときは『強い殺意を持った時』か『どうにかしなければ相手を止められない時』もしれないが。
「気に入られちゃったみたいだね」
「鬼が強い奴を気に入る性格なら、確かに気に入られるだろうな」
こいしの発言に答えながら、ディアボロは勇儀との闘いを思い返す。
接近戦で互角に戦い、更に攻撃を20thセンチュリー・ボーイを使って防御して見せ、さらに鬼に負けを認めさせた。
これほど注目を浴びる要素もなかなかないだろう。
「正直なところ、注目されることにはまったく興味がないんだがな……」
ディアボロはそう呟きながら、地底の都の入口へと向かっていく。
自らの過去を徹底的に消してきた彼にとって、注目を浴びるのは苦手なのかもしれない。
地底の都を出て、地上へと続く道を進むディアボロとこいし。
だが、行きは容易に進むことができても、帰りも同じとは限らない……。
「なんで人間が旧都から出てくるの?」
その声を聞いてディアボロは臨戦態勢を取る。一方のこいしは臨戦態勢を取らず、ただ浮いているだけ。
そして二人の前に姿を現したのは、金髪で緑色の瞳をした一人の妖怪。
「ならお前はその人間が旧都に行くのを見ていなかったのか?」
ディアボロはその妖怪を見ながら、先ほどの質問をわざと質問で返す。
「見ていなかったから、こうやって質問しているの」
ちょっと苛立った表情をしながら、妖怪は質問に答える。
「貴方……何の用で旧都に?」
「『好奇心』や『興味』だな」
ディアボロはそう言いながら相手の挙動を観察する。隙を見せれば、襲われる可能性も十分考えられるからだ。
「そんな理由で地底にやってきたの?」
ディアボロの予想外の答えに、妖怪は少し戸惑う。
たかが人間が、『好奇心』や『興味』を持ったという理由で地底に向かい、かつ生還しようとしているのだから。
そして、その答えに対して、その妖怪はある感情を抱きだした。
「妬ましい……」
妖怪が呟いた一言を、ディアボロは聞き逃さなかった。すぐに警戒を強め、ホワイトスネイクを出す。
「貴方のその無謀も、力を欲さない潔さも、旧都から生きて出られるその実力も妬ましい」
妖怪はそう呟きながら、だんだんと危険な雰囲気を醸し出していく。
「貴方が地上で感じれる日の光も巡る風も妬ましい」
「妬んでばかりだな……」
妖怪の呟く言葉を、ディアボロの言葉が遮った。
「そうやってお前は延々とここで嫉妬に狂い続けるのか」
ディアボロは真剣な表情で、そして妖怪を睨みながら強い口調で威圧する。
「……」
妖怪は彼の放つ威圧感に押され、沈黙してしまう。
「ただここで延々と妬み続けても、何も変わりはしないぞ」
ディアボロはそう言って自分自身に更にDISCを挿入する。
プッチ神父や彼の能力を知る者以外から見れば異常なその光景に、妖怪は一瞬驚く。
「貴方だって、何かを妬んだことはあるでしょ?だったら、少しでも私の気持ちがわかるはず」
「わからんな」
妖怪の問いに、ディアボロの返した答えは妖怪にとって予想外のものだった。
「ここに来る前は、嫉妬を抱く理由なんてなかったからな」
ギャングのボスとして君臨していた当時は、『絶頂の維持』に固執し続けてきた。
人生の絶頂を維持しようとしてきたからこそ、他者への嫉妬なんて抱きはしなかった。
他者に嫉妬するぐらいなら、絶頂を脅かす存在を探り、潰していくのが先だったからだ。
「そして今、俺という存在が在り続ける場所が変わっても、嫉妬を抱く理由はない」
ディアボロはそう言うと、妖怪との距離を詰めだす。
妖怪は近づかせまいと弾幕を撃つが、容易に回避されて接近される。
そして、ディアボロがある程度接近したその時、妖怪の腹部に衝撃が走った。
ホワイトスネイクのパンチが、妖怪の腹部に命中したのだ。
ホワイトスネイクには、中距離型にしては珍しいある特徴がある。
20mという長い射程距離を持つが、『本体が近くにいる』という条件下では、防御されなければ人体を貫き、顔面を打ち砕くパワーを発揮できる。
弾幕ごっこの最中でも、一般的な近接型スタンドとは違ってある程度距離を詰めれば十分な威力を出すことができる。
しかし、それでもパワーは近接型に劣るうえに能力は近接戦や待ち伏せに向いた能力のため、『このスタンドだけ』では遠距離戦は不利だ。
『本体が近くにいればパワーが強まる』ということは、あまり離れすぎると妖怪に対しては大したダメージを与えることができないということになるからだ。
ディアボロは弾幕を回避しながらホワイトスネイクで攻撃を当てていく。
距離を詰めながら回避していけばその分ホワイトスネイクの攻撃の威力が増していき、離れていてもダメージを与えられる、
そして、ディアボロはさらにハイエロファント・グリーンを出して法王の結界を仕掛ける。
妖怪が逃げられないように退路を塞ぎ、それから10mほどの間隔を置いて自分の背後にもう一つ結界を仕掛ける。
「(後は弾幕に当たらないようにするだけだな)」
相手の逃亡を防ぐと同時に、10m以上逃げられないようにすることで、ホワイトスネイクの威力をある程度確実なものにする。
そうすることで、戦況を有利に持ち込むのが狙いのだ。
「逃げる気はないだろうが、俺も逃がす気はないぞ」
ホワイトスネイクで狙いを定め、今度は妖怪の喉に水平チョップを叩き込む。
思わぬ箇所への一撃を受けたことで妖怪は怯み、ディアボロはその隙をついてより距離を詰めていく。
「弾幕ごっこなんだから弾幕を撃ちなさい!」
「残念だが、俺の弾幕は限られた奴にしか見えない。何故かは俺もわからないが、その性質故に弾幕ごっこは無理だ」
ホルス神の能力を使えばチルノのように氷で弾幕ごっこができる。
しかし、ここは地底へと続く縦穴。さらに、今ディアボロは相手よりも下のほうにいる。
上に打ったところで、相手まで届かずにこちらに落下してくる可能性があるのだ。
ディアボロはそう言った直後、妖怪の背後の法王の結界から沢山のエメラルド・スプラッシュを発射する。
普通は不可視の攻撃を背後から受けて避けられるわけがない。エメラルド・スプラッシュを防御できずにくらった妖怪は、怯んで弾幕を撃つのを止めてしまう。
さらにホワイトスネイクで妖怪の腹部にパンチを叩き込み、自分めがけて妖怪を投げさせる。
そこに手錠型の触手で互いの両手首を繋げて手錠デスマッチに持ち込む。
一部異なれど、かつて徐倫がプッチにやった手口と同じだ。もっとも、使っているスタンドも異なるのだが。
「『捕まえた』ッ!」
その言葉を聞いた妖怪は慌てて距離を取ろうとするが、手錠によって逃げられない。
「くぅ……っ!」
「『不可視の手錠』だ。逃がしはしない」
妖怪は弾幕を撃ってくるが、エメラルド・スプラッシュで相殺していく。
この状態になってしまうと、互いに攻撃を回避するのが困難になってしまうからだ。
ディアボロが闘っている妖怪の能力は『嫉妬を操る程度の能力』
その能力は他人を嫉妬で狂わせることができる。
自分も能力の影響を受けているのか、それともその性格ゆえにこの能力を持っているのかは不明だが、この妖怪自身も嫉妬狂いである。
……そして、その妖怪は再び嫉妬に狂っていた。
今闘っている人間の『人間にしては異常なその強さ』と『自身の能力の影響を受けない』ことに。
「貴方のその力が妬ましい!それに、私の能力の影響を受けないことも妬ましい!」
妖怪はそう叫ぶと先ほどより激しく弾幕を撃ってくる。
明らかに弾幕ごっことは思えない量の弾幕が、手錠デスマッチによって回避できないディアボロを襲う。
「!?」
その量に驚くディアボロだが、焦ることなく行動する。
『ホワイトスネイク!相殺しきれずに当たりそうな弾幕は防御しろッ!』
咄嗟に二人の手錠型触手を外し、距離を取りながらハイエロファント・グリーンで弾幕を相殺し、ホワイトスネイクで防御する。
「こいし!俺のそばにいるか!?」
「大丈夫。ここにいるよ」
ディアボロの呼びかけにこいしが答えたのを確認すると、装備していたボーイ・Ⅱ・マンのDISCとケース内のメタリカのDISCを入れ替える。
そして地中の鉄分を集めて壁を作り、自分とこいしを弾幕から守る。
「嫉妬に狂いすぎて本気を出してきたか?」
ディアボロは鉄の壁を厚くしながら策を考える。
一方のこいしは、疑問を抱いていた。
「ねえ、なんでディアボロは彼女の能力の影響を受けないの?」
「嫉妬心が薄いだけだとそれを増幅されてしまう。まともな感情を持って生きている以上、俺の心にも嫉妬心は存在するはずだ」
ディアボロはこいしの質問に答えながら、対応策を練る。
「だから俺自身の嫉妬心を『一時的に消し去った』。そうしないと、俺もあいつの能力の影響を受けてしまう」
あの妖怪と最初に会話したとき、彼は一枚のDISCを自身に挿入していた。そのDISCは『スタンドのDISC』ではなく、ホワイトスネイクが作った『記憶DISC』だったのだ。
自身に洗脳をかけて嫉妬心を一時的に完全に消し去ることで、妖怪の能力の影響を受けなかったのである。
「……さて、反撃といくか」
ディアボロは装備しているハイエロファント・グリーンとケース内のスティッキィ・フィンガーズのDISCを入れ替える。
そして壁にジッパーを取りつけて開かせ、その中に入る。
「そこでおとなしくしておいてくれ」
「うん」
ディアボロはそう言うとジッパーを閉じ、こいしはそれを笑顔で見た。
自分の姉にもペットにも鬼にも勝った人間が、このぐらいで負けたりはしないと思ったりしているのだろうか。
その心中は、誰にもわからない。
一方の妖怪は、鉄の壁に弾幕を撃ち続けていた。
ディアボロはその背後からジッパーを開いて様子を伺う。
まだディアボロには気付いていないが、気づけば再び高密度の弾幕が彼を襲うことになるだろう。
「(まずは拘束するか)」
ディアボロはメタリカで鎖を作り、妖怪の血液中の鉄分に磁力を帯びさせ、少し様子をうかがう。
……どうやら、妖怪はディアボロと鎖に気づいていないようだ。
それを確認したディアボロは、鎖にも磁力を帯びさせ、自分はジッパーの中に再び隠れる。
それにより、鉄分が帯びた磁力と鎖が帯びた磁力が引き合うことになる。
「えっ!?」
『互いに引き合う』ため、『妖怪の体も後ろに飛んでいく』ことになる。
が、妖怪は鉄の壁に気を取られていたため、何が起きたのかわかっていない。
そして、何が起きたのかを確認するために妖怪が後ろを振り向くと、そこには自分に迫りくる複数の鎖があった……!
「ああ。そろそろ帰らないといけないからな」
闘いが終わり、勇儀と一緒に飲み始めてから(ディアボロが飲んでいたのは水だが)しばらく経った頃。
しばしの休息を経て、地上に戻るべく再び出口に向かいだすために立ち上がる。
「そうかい……」
少し残念そうな表情をしていた勇儀だったが、酒を一杯飲むと
「また来てくれよ?新しい楽しみができたんだしさ」
そういって笑みを浮かべた。
「機会があればな」
ディアボロはそういうと、隣で酒飲んで少々酔っぱらっているこいしを見る。
「……大丈夫か?」
ディアボロは心配しながらこいしに声をかける。
水はディアボロがあらかじめ言っておいたために用意されたのだが、こいしは何も言わなかったため、酒が用意されたのだ。
「うん、大丈夫」
ほろ酔いに近い状態で、こいしはディアボロの呼びかけに応じる。
頬を赤らめているが、どうやら呼びかけに応じるぐらいの理性は残っているようだ。
「本当に大丈夫か?」
ますます心配になってきたディアボロは、ホワイトスネイクのDISCを装備しているクレイジー・ダイヤモンドのDISCと入れ替える。
こいしがまともに行動できなかった場合、命令を与えるDISCをこいしに入れて正常な判断ができるようにして問題なく行動できる状態にするつもりだ。
「大丈夫だって、妖怪はこういうのも強いんだよ」
勇儀がそう言ってまた酒を飲む。
「(……本当か?)」
ディアボロは疑問に思うが、こいしが立ち上がって宙に浮きだした。
「問題なく飛べるか?」
ディアボロは念のため、こいしに質問をする。
「大丈夫だよ」
こいしは笑顔でそういうと、とくにふらつくことなく飛びながらディアボロの周囲を一周して見せる。
「ね?」
「ああ……」
ディアボロは心配しつつも、こいしの様子を見て大丈夫だと判断する。
「よし、行くとしようか」
ディアボロはジャンピン・ジャック・フラッシュで宙に浮き、装備しているDISCを変える。
「地上には私の知り合いの『萃香』って鬼がいるんだ。もしも会うことが仲良くしてやってくれ」
「萃香(すいか)だな、わかった」
勇儀はディアボロに自分の知り合いのことを教え、ディアボロは勇儀のお願いを了承する。
ディアボロは萃香のことは紫の知識をヘブンズ・ドアーを見て知っている。
その性格も、能力も知っている。
伊吹 萃香(いぶき すいか)。勇儀と同じ鬼で、かつては勇儀と同様に『山の四天王』の一人だった。
密と疎……ようするに密度を操る能力を持ち、その能力で小さい自分を作ることもできる。
子供っぽい性格で、常に酔っているようだ。
その見た目は意外と幼く、勇儀と違って角は2本あり、左の角にはリボンをつけている。
「じゃあな」
「ああ、また会おうな」
ディアボロの別れの言葉に、勇儀は笑顔で返事を返す。
きっと、また会えると思っているのだろう。
勇儀の返事を聞いたディアボロは、こいしを連れて地底の都の入口へと向かいだす。
「(また会おう、か)」
鬼は……少なくとも萃香は、人間との決闘が好きだそうだ。
もしも勇儀も人間との決闘が好きなのなら、ディアボロのような強さの人間とは久しく……いや、もしかしたら初めて戦ったかもしれない。
さらに、勇儀はディアボロが本気を出していないことも見抜いていた。
それも勇儀に気に入られた一因かもしれない。
もっとも、彼が『本当に』本気を出すときは『強い殺意を持った時』か『どうにかしなければ相手を止められない時』もしれないが。
「気に入られちゃったみたいだね」
「鬼が強い奴を気に入る性格なら、確かに気に入られるだろうな」
こいしの発言に答えながら、ディアボロは勇儀との闘いを思い返す。
接近戦で互角に戦い、更に攻撃を20thセンチュリー・ボーイを使って防御して見せ、さらに鬼に負けを認めさせた。
これほど注目を浴びる要素もなかなかないだろう。
「正直なところ、注目されることにはまったく興味がないんだがな……」
ディアボロはそう呟きながら、地底の都の入口へと向かっていく。
自らの過去を徹底的に消してきた彼にとって、注目を浴びるのは苦手なのかもしれない。
地底の都を出て、地上へと続く道を進むディアボロとこいし。
だが、行きは容易に進むことができても、帰りも同じとは限らない……。
「なんで人間が旧都から出てくるの?」
その声を聞いてディアボロは臨戦態勢を取る。一方のこいしは臨戦態勢を取らず、ただ浮いているだけ。
そして二人の前に姿を現したのは、金髪で緑色の瞳をした一人の妖怪。
「ならお前はその人間が旧都に行くのを見ていなかったのか?」
ディアボロはその妖怪を見ながら、先ほどの質問をわざと質問で返す。
「見ていなかったから、こうやって質問しているの」
ちょっと苛立った表情をしながら、妖怪は質問に答える。
「貴方……何の用で旧都に?」
「『好奇心』や『興味』だな」
ディアボロはそう言いながら相手の挙動を観察する。隙を見せれば、襲われる可能性も十分考えられるからだ。
「そんな理由で地底にやってきたの?」
ディアボロの予想外の答えに、妖怪は少し戸惑う。
たかが人間が、『好奇心』や『興味』を持ったという理由で地底に向かい、かつ生還しようとしているのだから。
そして、その答えに対して、その妖怪はある感情を抱きだした。
「妬ましい……」
妖怪が呟いた一言を、ディアボロは聞き逃さなかった。すぐに警戒を強め、ホワイトスネイクを出す。
「貴方のその無謀も、力を欲さない潔さも、旧都から生きて出られるその実力も妬ましい」
妖怪はそう呟きながら、だんだんと危険な雰囲気を醸し出していく。
「貴方が地上で感じれる日の光も巡る風も妬ましい」
「妬んでばかりだな……」
妖怪の呟く言葉を、ディアボロの言葉が遮った。
「そうやってお前は延々とここで嫉妬に狂い続けるのか」
ディアボロは真剣な表情で、そして妖怪を睨みながら強い口調で威圧する。
「……」
妖怪は彼の放つ威圧感に押され、沈黙してしまう。
「ただここで延々と妬み続けても、何も変わりはしないぞ」
ディアボロはそう言って自分自身に更にDISCを挿入する。
プッチ神父や彼の能力を知る者以外から見れば異常なその光景に、妖怪は一瞬驚く。
「貴方だって、何かを妬んだことはあるでしょ?だったら、少しでも私の気持ちがわかるはず」
「わからんな」
妖怪の問いに、ディアボロの返した答えは妖怪にとって予想外のものだった。
「ここに来る前は、嫉妬を抱く理由なんてなかったからな」
ギャングのボスとして君臨していた当時は、『絶頂の維持』に固執し続けてきた。
人生の絶頂を維持しようとしてきたからこそ、他者への嫉妬なんて抱きはしなかった。
他者に嫉妬するぐらいなら、絶頂を脅かす存在を探り、潰していくのが先だったからだ。
「そして今、俺という存在が在り続ける場所が変わっても、嫉妬を抱く理由はない」
ディアボロはそう言うと、妖怪との距離を詰めだす。
妖怪は近づかせまいと弾幕を撃つが、容易に回避されて接近される。
そして、ディアボロがある程度接近したその時、妖怪の腹部に衝撃が走った。
ホワイトスネイクのパンチが、妖怪の腹部に命中したのだ。
ホワイトスネイクには、中距離型にしては珍しいある特徴がある。
20mという長い射程距離を持つが、『本体が近くにいる』という条件下では、防御されなければ人体を貫き、顔面を打ち砕くパワーを発揮できる。
弾幕ごっこの最中でも、一般的な近接型スタンドとは違ってある程度距離を詰めれば十分な威力を出すことができる。
しかし、それでもパワーは近接型に劣るうえに能力は近接戦や待ち伏せに向いた能力のため、『このスタンドだけ』では遠距離戦は不利だ。
『本体が近くにいればパワーが強まる』ということは、あまり離れすぎると妖怪に対しては大したダメージを与えることができないということになるからだ。
ディアボロは弾幕を回避しながらホワイトスネイクで攻撃を当てていく。
距離を詰めながら回避していけばその分ホワイトスネイクの攻撃の威力が増していき、離れていてもダメージを与えられる、
そして、ディアボロはさらにハイエロファント・グリーンを出して法王の結界を仕掛ける。
妖怪が逃げられないように退路を塞ぎ、それから10mほどの間隔を置いて自分の背後にもう一つ結界を仕掛ける。
「(後は弾幕に当たらないようにするだけだな)」
相手の逃亡を防ぐと同時に、10m以上逃げられないようにすることで、ホワイトスネイクの威力をある程度確実なものにする。
そうすることで、戦況を有利に持ち込むのが狙いのだ。
「逃げる気はないだろうが、俺も逃がす気はないぞ」
ホワイトスネイクで狙いを定め、今度は妖怪の喉に水平チョップを叩き込む。
思わぬ箇所への一撃を受けたことで妖怪は怯み、ディアボロはその隙をついてより距離を詰めていく。
「弾幕ごっこなんだから弾幕を撃ちなさい!」
「残念だが、俺の弾幕は限られた奴にしか見えない。何故かは俺もわからないが、その性質故に弾幕ごっこは無理だ」
ホルス神の能力を使えばチルノのように氷で弾幕ごっこができる。
しかし、ここは地底へと続く縦穴。さらに、今ディアボロは相手よりも下のほうにいる。
上に打ったところで、相手まで届かずにこちらに落下してくる可能性があるのだ。
ディアボロはそう言った直後、妖怪の背後の法王の結界から沢山のエメラルド・スプラッシュを発射する。
普通は不可視の攻撃を背後から受けて避けられるわけがない。エメラルド・スプラッシュを防御できずにくらった妖怪は、怯んで弾幕を撃つのを止めてしまう。
さらにホワイトスネイクで妖怪の腹部にパンチを叩き込み、自分めがけて妖怪を投げさせる。
そこに手錠型の触手で互いの両手首を繋げて手錠デスマッチに持ち込む。
一部異なれど、かつて徐倫がプッチにやった手口と同じだ。もっとも、使っているスタンドも異なるのだが。
「『捕まえた』ッ!」
その言葉を聞いた妖怪は慌てて距離を取ろうとするが、手錠によって逃げられない。
「くぅ……っ!」
「『不可視の手錠』だ。逃がしはしない」
妖怪は弾幕を撃ってくるが、エメラルド・スプラッシュで相殺していく。
この状態になってしまうと、互いに攻撃を回避するのが困難になってしまうからだ。
ディアボロが闘っている妖怪の能力は『嫉妬を操る程度の能力』
その能力は他人を嫉妬で狂わせることができる。
自分も能力の影響を受けているのか、それともその性格ゆえにこの能力を持っているのかは不明だが、この妖怪自身も嫉妬狂いである。
……そして、その妖怪は再び嫉妬に狂っていた。
今闘っている人間の『人間にしては異常なその強さ』と『自身の能力の影響を受けない』ことに。
「貴方のその力が妬ましい!それに、私の能力の影響を受けないことも妬ましい!」
妖怪はそう叫ぶと先ほどより激しく弾幕を撃ってくる。
明らかに弾幕ごっことは思えない量の弾幕が、手錠デスマッチによって回避できないディアボロを襲う。
「!?」
その量に驚くディアボロだが、焦ることなく行動する。
『ホワイトスネイク!相殺しきれずに当たりそうな弾幕は防御しろッ!』
咄嗟に二人の手錠型触手を外し、距離を取りながらハイエロファント・グリーンで弾幕を相殺し、ホワイトスネイクで防御する。
「こいし!俺のそばにいるか!?」
「大丈夫。ここにいるよ」
ディアボロの呼びかけにこいしが答えたのを確認すると、装備していたボーイ・Ⅱ・マンのDISCとケース内のメタリカのDISCを入れ替える。
そして地中の鉄分を集めて壁を作り、自分とこいしを弾幕から守る。
「嫉妬に狂いすぎて本気を出してきたか?」
ディアボロは鉄の壁を厚くしながら策を考える。
一方のこいしは、疑問を抱いていた。
「ねえ、なんでディアボロは彼女の能力の影響を受けないの?」
「嫉妬心が薄いだけだとそれを増幅されてしまう。まともな感情を持って生きている以上、俺の心にも嫉妬心は存在するはずだ」
ディアボロはこいしの質問に答えながら、対応策を練る。
「だから俺自身の嫉妬心を『一時的に消し去った』。そうしないと、俺もあいつの能力の影響を受けてしまう」
あの妖怪と最初に会話したとき、彼は一枚のDISCを自身に挿入していた。そのDISCは『スタンドのDISC』ではなく、ホワイトスネイクが作った『記憶DISC』だったのだ。
自身に洗脳をかけて嫉妬心を一時的に完全に消し去ることで、妖怪の能力の影響を受けなかったのである。
「……さて、反撃といくか」
ディアボロは装備しているハイエロファント・グリーンとケース内のスティッキィ・フィンガーズのDISCを入れ替える。
そして壁にジッパーを取りつけて開かせ、その中に入る。
「そこでおとなしくしておいてくれ」
「うん」
ディアボロはそう言うとジッパーを閉じ、こいしはそれを笑顔で見た。
自分の姉にもペットにも鬼にも勝った人間が、このぐらいで負けたりはしないと思ったりしているのだろうか。
その心中は、誰にもわからない。
一方の妖怪は、鉄の壁に弾幕を撃ち続けていた。
ディアボロはその背後からジッパーを開いて様子を伺う。
まだディアボロには気付いていないが、気づけば再び高密度の弾幕が彼を襲うことになるだろう。
「(まずは拘束するか)」
ディアボロはメタリカで鎖を作り、妖怪の血液中の鉄分に磁力を帯びさせ、少し様子をうかがう。
……どうやら、妖怪はディアボロと鎖に気づいていないようだ。
それを確認したディアボロは、鎖にも磁力を帯びさせ、自分はジッパーの中に再び隠れる。
それにより、鉄分が帯びた磁力と鎖が帯びた磁力が引き合うことになる。
「えっ!?」
『互いに引き合う』ため、『妖怪の体も後ろに飛んでいく』ことになる。
が、妖怪は鉄の壁に気を取られていたため、何が起きたのかわかっていない。
そして、何が起きたのかを確認するために妖怪が後ろを振り向くと、そこには自分に迫りくる複数の鎖があった……!