ディスクブレイカー☆フラン
紅い月の輝く夜、紅魔館の屋根の上に、一人の男が立っている。
フランは時計の針に似た形の杖を握り、その男と相対している。
フランは懐から一枚のDISCを取り出す。
「やっと見つけた……あなたがこの『記録』っていうのをばら撒いていた犯人ね!」
DISCは、目の前に立つ男の顔を映す。
「私はついに手に入れた……真に究極の生命を!」
男は腕を掲げて叫ぶ。
周囲から、『族長! 族長! 族長!』とガヤが沸き起こる。
男の顔は、仮面で隠されていた。
灰色の石でできた、禍々しい仮面。
戦いの始まりを告げるかのように、12時を告げる鐘が鳴った。
それと同時に、フランがベッドから転げ落ちた。
「……夢?」
どうやら夢だったらしい。
壁にかけてある柱時計を見る。ガラスで出来た、仕掛けも無いのに動く時計。
その針は、ガラス板に刻まれた12の文字を指している。
「夜かな? 昼かな?」
フランの部屋は地下にあるため、今が昼なのか夜なのか確かめることが出来ない。
ともあれ、昼なのか夜なのかを確かめるために部屋を出ると、
「むきゅぁ~! その体たらくでは我が七曜格闘魔術を受け継ぐことは出来んぞ小悪魔!」
「ま、まだまだ!」
目の前で何故かパチュリーと小悪魔が肉体言語を語っていた。
「…………」
フランは考えるのをやめた。
「よし、幻だねこれは」
フランは目の前の光景をただの幻と決め付けると、足早に図書館から出て行こうとした。(図書館の中にフランの部屋はある。恐らく設計ミス)
本棚の間を走っていると、だんだんおかしな音が聞こえてきた。
「……なんだろう?」
よく耳を済ませると、それは音楽のように規則性を持っていた。
「いつからうちは12時の鐘を音楽に変えたのかな?」
出口へ歩いていくと、その音はだんだん大きくなっていく。
図書館のドアを開ける。
人気の無い廊下を歩くと、かちりと言う音がした。
「……まさか」
昨日見た光景をフランは思い出した。
確かディアボロと名乗る男がこれを踏んだ後、頭から何かが飛び出して青いのに殴られて飛んでいったっけ。
静かに、足元を見てみる。
「……げげっ」
そこに書かれているのは、『対魔理沙』の文字。
少し前の光景が蘇る。
――「これでよい」
――パチュリーはどこか嬉しげな表情を浮かべて、それを床に置いた。
――「それ、何?」
――フランがそれを指差して質問すると、パチュリーは、
――「これは魔理沙対策の罠よ……これに引っかかった者は触手に捕らえられて……ウフフ」
――妖しげに嗤って応える。
――「ココに置いておくから注意なさい」
思い出すのが終わる頃、魔方陣がフランの頭上に光り、そこから何本もの触手が出てくる。
「うわぁぁぁ! このままじゃ一気に18禁にーッ!」
叫ぶのもつかの間、手が触手に絡め取られる。
「た、助けてーッ!」
涙目になりながら、フランは叫ぶ。
すると、廊下の暗闇の奥から一本のナイフが、回転しながら飛んで来た。
それは触手を切り裂き、フランを触手から解放させる。
触手はひるみ、魔方陣の奥へと消えていくと魔方陣ごと消滅した。
「やれやれ。騒音の原因を探していたら、まさか君に出会うとはね」
暗闇の奥から姿を現したのは、本を手に持つ一人の少年。
少年は壁に刺さったナイフを抜き、懐にしまう。
フランは彼を指差し、
「えっと……地味な人!」
驚きの声を上げた。
「いや、僕の名前は『地味な人』じゃなくて、『蓮見琢磨』って言う名前があるんだけどね」
地味な人といわれた少年こと、蓮見琢磨は困ったかのような表情を浮かべて手元の本を閉じた。
手元の本は驚くことに消失し、彼の手元は自由になった。
「ところで、図書館の様子は見たか?」
琢磨に質問されたフランは、うなづいた。
「それなら良かった。あの二人はどこからどう見てもおかしいだろ」
「うん。おかしい」
「アレには原因があるんだ」
「原因があるの?」
「あるんだ」
目を丸く見開くフランに、うなづく琢磨。
「どうも、二人が変になった原因は、さっきから鳴り響いている音楽らしい」
「音楽って、今聞こえているこれ?」
「ああ。ただ、この原因の正体がわからないんだ」
悩み顔で、手を顎に添える琢磨。
「でも、何でこの音楽が原因だって、分かるの?」
フランは首をかしげた。
「昨日まではこんな音楽は流れていなかったし、あの二人もまともだった。今日になってこのみょんな音楽が流れ始めて二人がおかしくなったんだ。どう見てもこの音楽が原因だと考えるだろ」
「と、とりあえず上に行ってみて、他におかしな所が無いか探してみようよ」
フランは一歩を踏み出して、琢磨のほうを向く。
「それもそうだな。こうも雑音が鳴り響いていたら、読書に集中できない。読書の邪魔をする奴は重罪だってことを知らしめてやらねば」
琢磨と、フランは歩き始めた。
小さな魔法の火だけの薄暗い廊下を歩き、階段を登る。
一階へとたどり着くと、
「「え……」」
二人は衝撃を受けた。
働いているのだ。賑やかし役同然の妖精メイドたちが。
しかも、嫌々とか言う雰囲気ではなく、てきぱきと、素早く、かつ精密に。
「どういうことなの……」
フランは、呆然として目の前の出来事を見つめていた。
その間にも妖精メイドたちはシーツを運び、慌しく廊下を飛ぶ。
「これは……いよいよ以ておかしくなってきたぞ……さっきの光景なら二人のお遊びと解釈できるが……さすがにこれは……異常すぎる」
琢磨もさっきまでの凛とした表情を崩し、呆けた顔で妖精メイドの働きを見る。
「とりあえず、咲夜を探そう。咲夜ならなんとかしてくれる……かも」
フランは目の前の異常事態に対し、メイド長の咲夜に助けを求めることにした。
いそいそと動く妖精メイドの一人を捕まえ、咲夜は今どこにいるかを聞く。
だが、帰ってきた答えは
「お楽しみ中です」
の一言であった。
「「は?」」
妖精メイドのそっけない一言に、そろって首をかしげる二人。
「ですから、先ほどお嬢様が咲夜殿の部屋に向かわれ、鍵をかけられました。今頃は二人でお楽しみ中かと」
それだけを言って、妖精メイドは歩き去っていく。
「お楽しみって……何やってるんだろ?」
頭上に疑問符を浮かべるフラン。
「あの二人は……こんな非常時に何やってんだ……」
ひどい頭痛に襲われたかのように頭を抑える琢磨。
「気を取り直して、他におかしな所が無いか探してみよう」
頭を振り、琢磨は歩こうとする。
「えー。咲夜が何やってるか見に行かないのー?」
フランが駄々をこねる。
琢磨はバランスを崩してこける。
「あのな、今さっきメイドが鍵をかけたって言っただろ? 今言ってもドアは開かないよ」
「ドアを壊せばいい」
「……はぁ」
再び頭を抱える琢磨。
「待て待て。そこはまだ最後で良いだろ。次は門の方に行こう」
「……ちぇっ」
琢磨の提案に、フランはつまらなさそうな顔をして、歩き出す。
門の方向を目指し、エントランスホールまでたどり着く。
「……さっきよりも音は離れているな。とりあえず、美鈴はどうなっているか確かめよう」
琢磨はドアを開く。
二人の目の前に、月明かりに照らされた庭園が現れる。
どうやら今は真夜中の12時らしい。
中央の石畳を歩き、門まで近づくと、案の定門番の美鈴が爆睡していた。
「寝てるね」
鼻提灯を作る美鈴の横顔を、フランが覗き込む。
「ああ。いつも通りだな」
フランの横で、うなづく琢磨。
「起こす?」
「いや、面倒なことになるから止めておこう」
二人は、踵を返してエントランスホールのドアへと向かう。
重厚な造りのドアを開くと、
「「うわっ!」」
突如押し寄せてきた音の津波に耳を塞いだ。
音楽もここまで来るとただの雑音。
気が狂いそうになるほどの音量に二人はただただ耳を塞ぐことしか出来ない。
音源の方に目を向けると、そこには人影が。
「あ、アレは……」
フランが目を凝らして見ると、その人影は大きな箱のようなものを抱えていた。
人影は、箱の横から伸びるレバーをくるくると回している。
だが、両手で耳を塞いでいる今ではどうしようもない。
「このままでは、殺られてしまう!」
琢磨は、なんとかこの状況を打開しようと模索する。
人影が、迫る。
「腹をくくるか」
琢磨は鼓膜が破れるのを覚悟し、懐からナイフを取り出して、人影へと走り始めた。
そうして一歩を踏み出した瞬間、踏みしめた足が浮かぶような感覚を覚えた。
まるで旋律が心の隙間にねじ込まれているよう。
魂が音階につれて揺れ動くような心地。
天地が逆転し、前後左右が不覚になる。
思考が、消えて行く。
琢磨の体が、床に崩れ落ちた。
「た、琢磨……? どうした……?」
フランは、耳を塞ぎながら倒れこんだ琢磨を見つめた。
倒れている琢磨の元に、人影がやってきた。
フランは、その人影の正体を見る。
「あ、あなた……」
フランの目に入ったのは、手回しオルガンを持つ老人。
オルガンのハンドルが回転するたび、肩の上に乗っかっているスピーカーが音楽を垂れ流す。
「そう。わしこそがこの音楽を流している犯人」
老人は、にやりと笑ってオルガンの演奏を止める。
「なんでそんなことを!」
「答えは簡単じゃ。老後の楽しみじゃからよ」
飄々とした老人の笑みに、フランは自分を重ねた。
――目の前の老人は、私と同じように狂っている。
そして、一つの考えが浮かび上がった。
――目の前の狂った老人が自分の音楽を聞いて平気なら、自分もこの音楽を聞いて平気なはず。
両手を耳から外し、時計の針を模した杖を取り出す。
「おひょひょ? いいのか? 音楽は知性ある者を揺さぶる。音楽は知性ある者の心を支配する。音楽は音楽は原始の衝動! わしの『ストレイジ・リレイション』が奏でる音楽を聴いて狂わぬものはいないッ!」
老人は、手回しオルガンを廻し始めた。
「立ち上がれ! スタンド使いの少年よ! 目の前の小娘を惨殺しろッ!」
老人の号令と共に、倒れていた琢磨が立ち上がった。
「タリラ~リリイィィ~『The・Book』」
琢磨は、死んだ魚の目をして己のスタンド、『The・Book』を発現。
そのページを開く。
すると、琢磨の目に光が戻った。
「……ハッ! 僕は今まで何を!」
琢磨はあっけにとられながら、周りを見る。
「な、何じゃと! こいつ、わしの『ストレイジ・リレイション』の術中から自力で逃れたじゃと!?」
老人は、驚愕してしりもちをつく。
だが、その驚きの表情はすぐににやけた顔に変わる。
「……じゃがこれで証明された。わしの『ストレイジ・リレイション』は未だ健在ッ! 吸血鬼だの魔法使いだの名乗っていたガキどもは少しおかしくなるだけじゃったが、スタンド使いは完全に操ることが出来るッ!」
老人は立ち上がり、手回しオルガンに手をかけた。
琢磨の『The・book』のページがめくれ始める。
目指すページは唯一つ。
あの雪の振る、鮮烈な戦いの最期。
今ココで奴を即死させるにはそれしかない。
「フラン、奴を足止めしろッ! 奴に音楽を奏でさせるなッ!」
琢磨が叫ぶ。
フランは杖を振り上げ、老人へと走りこむと、
「何も音楽を奏でるだけが『ストレイジ・リレイション』ではないッ!」
老人のオルガンが震えた。
次の瞬間、フランと琢磨にガラスが降り注いだ。
老人のオルガンから出たのは音楽ではなく、人の可聴音域を超えた音、超音波。
この音のせいでエントランスホールのドアの上にある、豪奢なステンドグラスが砕けたのだ。
「うおッ!」
フランと琢磨はガラスのシャワーを浴びた。
体のいたるところにガラスが突き刺さる。
「さあ再び狂うがいいスタンド使いの少年よ!」
老人は再びオルガンを廻す。
「今度はスタンドを使わず、ナイフだけで小娘を切り刻めッ!」
琢磨の目から光が消え、
「タリラアァ~リラァ~」
千鳥足でフランの方を向く。
「う……どうしよ……」
ゆっくりとこちらに向かってくる琢磨を前に、後ずさりするフラン。
「さ、最大のピンチ……」
後ずさりを続けて、ついに背中を壁にくっつけるフラン。
容赦なく迫ってくる琢磨。
「タリラリラァ~」
ナイフを振り上げる琢磨。
フランが目をつぶり、腕を上げた瞬間、琢磨の足元に一枚の鏡が滑り込んだ。
「タリ?」
鏡から手が伸び、琢磨の足を掴むと、一気に鏡の中に引きずり込む。
引きずりこまれた琢磨の代わりに鏡から出てきたのは、
「俺、参上」
緑色の斑点のついたピンク色の髪。
網のような服に包まれた筋肉質な肉体。
ご存知ジョジョキャラ一死ぬのが似合う男、ディアボロであった。
←to be continued
更なるおまけ。
蓮見琢磨
4部ノベライズのキャラクター。
クールで知的な男。
本作では杖助戦の最期に杖助の手を振り払うと同時に幻想入り。
紅魔館で目を覚まし、そのままレミリアに血を吸われると思いきや、レミリアの気まぐれで解放。
行くところも無いので地下の図書館に居ついた。
普段は持ち前の記憶力を活かして本の整理などをやっている。
本人自身、本を読めて更に静かな環境にいるという現状に満足しているようだ。
その分、読書の邪魔をされたり騒がしくしすぎると激怒して容赦なく『禁止領域』の記憶を読ませに来る。
あと、彼の投げるナイフは咲夜の投げるナイフと違って回転する。
これをあとがきと代えさせて頂きます。
不死鳥本編よりもフランの方が長いってどういうことなの……
紅い月の輝く夜、紅魔館の屋根の上に、一人の男が立っている。
フランは時計の針に似た形の杖を握り、その男と相対している。
フランは懐から一枚のDISCを取り出す。
「やっと見つけた……あなたがこの『記録』っていうのをばら撒いていた犯人ね!」
DISCは、目の前に立つ男の顔を映す。
「私はついに手に入れた……真に究極の生命を!」
男は腕を掲げて叫ぶ。
周囲から、『族長! 族長! 族長!』とガヤが沸き起こる。
男の顔は、仮面で隠されていた。
灰色の石でできた、禍々しい仮面。
戦いの始まりを告げるかのように、12時を告げる鐘が鳴った。
それと同時に、フランがベッドから転げ落ちた。
「……夢?」
どうやら夢だったらしい。
壁にかけてある柱時計を見る。ガラスで出来た、仕掛けも無いのに動く時計。
その針は、ガラス板に刻まれた12の文字を指している。
「夜かな? 昼かな?」
フランの部屋は地下にあるため、今が昼なのか夜なのか確かめることが出来ない。
ともあれ、昼なのか夜なのかを確かめるために部屋を出ると、
「むきゅぁ~! その体たらくでは我が七曜格闘魔術を受け継ぐことは出来んぞ小悪魔!」
「ま、まだまだ!」
目の前で何故かパチュリーと小悪魔が肉体言語を語っていた。
「…………」
フランは考えるのをやめた。
「よし、幻だねこれは」
フランは目の前の光景をただの幻と決め付けると、足早に図書館から出て行こうとした。(図書館の中にフランの部屋はある。恐らく設計ミス)
本棚の間を走っていると、だんだんおかしな音が聞こえてきた。
「……なんだろう?」
よく耳を済ませると、それは音楽のように規則性を持っていた。
「いつからうちは12時の鐘を音楽に変えたのかな?」
出口へ歩いていくと、その音はだんだん大きくなっていく。
図書館のドアを開ける。
人気の無い廊下を歩くと、かちりと言う音がした。
「……まさか」
昨日見た光景をフランは思い出した。
確かディアボロと名乗る男がこれを踏んだ後、頭から何かが飛び出して青いのに殴られて飛んでいったっけ。
静かに、足元を見てみる。
「……げげっ」
そこに書かれているのは、『対魔理沙』の文字。
少し前の光景が蘇る。
――「これでよい」
――パチュリーはどこか嬉しげな表情を浮かべて、それを床に置いた。
――「それ、何?」
――フランがそれを指差して質問すると、パチュリーは、
――「これは魔理沙対策の罠よ……これに引っかかった者は触手に捕らえられて……ウフフ」
――妖しげに嗤って応える。
――「ココに置いておくから注意なさい」
思い出すのが終わる頃、魔方陣がフランの頭上に光り、そこから何本もの触手が出てくる。
「うわぁぁぁ! このままじゃ一気に18禁にーッ!」
叫ぶのもつかの間、手が触手に絡め取られる。
「た、助けてーッ!」
涙目になりながら、フランは叫ぶ。
すると、廊下の暗闇の奥から一本のナイフが、回転しながら飛んで来た。
それは触手を切り裂き、フランを触手から解放させる。
触手はひるみ、魔方陣の奥へと消えていくと魔方陣ごと消滅した。
「やれやれ。騒音の原因を探していたら、まさか君に出会うとはね」
暗闇の奥から姿を現したのは、本を手に持つ一人の少年。
少年は壁に刺さったナイフを抜き、懐にしまう。
フランは彼を指差し、
「えっと……地味な人!」
驚きの声を上げた。
「いや、僕の名前は『地味な人』じゃなくて、『蓮見琢磨』って言う名前があるんだけどね」
地味な人といわれた少年こと、蓮見琢磨は困ったかのような表情を浮かべて手元の本を閉じた。
手元の本は驚くことに消失し、彼の手元は自由になった。
「ところで、図書館の様子は見たか?」
琢磨に質問されたフランは、うなづいた。
「それなら良かった。あの二人はどこからどう見てもおかしいだろ」
「うん。おかしい」
「アレには原因があるんだ」
「原因があるの?」
「あるんだ」
目を丸く見開くフランに、うなづく琢磨。
「どうも、二人が変になった原因は、さっきから鳴り響いている音楽らしい」
「音楽って、今聞こえているこれ?」
「ああ。ただ、この原因の正体がわからないんだ」
悩み顔で、手を顎に添える琢磨。
「でも、何でこの音楽が原因だって、分かるの?」
フランは首をかしげた。
「昨日まではこんな音楽は流れていなかったし、あの二人もまともだった。今日になってこのみょんな音楽が流れ始めて二人がおかしくなったんだ。どう見てもこの音楽が原因だと考えるだろ」
「と、とりあえず上に行ってみて、他におかしな所が無いか探してみようよ」
フランは一歩を踏み出して、琢磨のほうを向く。
「それもそうだな。こうも雑音が鳴り響いていたら、読書に集中できない。読書の邪魔をする奴は重罪だってことを知らしめてやらねば」
琢磨と、フランは歩き始めた。
小さな魔法の火だけの薄暗い廊下を歩き、階段を登る。
一階へとたどり着くと、
「「え……」」
二人は衝撃を受けた。
働いているのだ。賑やかし役同然の妖精メイドたちが。
しかも、嫌々とか言う雰囲気ではなく、てきぱきと、素早く、かつ精密に。
「どういうことなの……」
フランは、呆然として目の前の出来事を見つめていた。
その間にも妖精メイドたちはシーツを運び、慌しく廊下を飛ぶ。
「これは……いよいよ以ておかしくなってきたぞ……さっきの光景なら二人のお遊びと解釈できるが……さすがにこれは……異常すぎる」
琢磨もさっきまでの凛とした表情を崩し、呆けた顔で妖精メイドの働きを見る。
「とりあえず、咲夜を探そう。咲夜ならなんとかしてくれる……かも」
フランは目の前の異常事態に対し、メイド長の咲夜に助けを求めることにした。
いそいそと動く妖精メイドの一人を捕まえ、咲夜は今どこにいるかを聞く。
だが、帰ってきた答えは
「お楽しみ中です」
の一言であった。
「「は?」」
妖精メイドのそっけない一言に、そろって首をかしげる二人。
「ですから、先ほどお嬢様が咲夜殿の部屋に向かわれ、鍵をかけられました。今頃は二人でお楽しみ中かと」
それだけを言って、妖精メイドは歩き去っていく。
「お楽しみって……何やってるんだろ?」
頭上に疑問符を浮かべるフラン。
「あの二人は……こんな非常時に何やってんだ……」
ひどい頭痛に襲われたかのように頭を抑える琢磨。
「気を取り直して、他におかしな所が無いか探してみよう」
頭を振り、琢磨は歩こうとする。
「えー。咲夜が何やってるか見に行かないのー?」
フランが駄々をこねる。
琢磨はバランスを崩してこける。
「あのな、今さっきメイドが鍵をかけたって言っただろ? 今言ってもドアは開かないよ」
「ドアを壊せばいい」
「……はぁ」
再び頭を抱える琢磨。
「待て待て。そこはまだ最後で良いだろ。次は門の方に行こう」
「……ちぇっ」
琢磨の提案に、フランはつまらなさそうな顔をして、歩き出す。
門の方向を目指し、エントランスホールまでたどり着く。
「……さっきよりも音は離れているな。とりあえず、美鈴はどうなっているか確かめよう」
琢磨はドアを開く。
二人の目の前に、月明かりに照らされた庭園が現れる。
どうやら今は真夜中の12時らしい。
中央の石畳を歩き、門まで近づくと、案の定門番の美鈴が爆睡していた。
「寝てるね」
鼻提灯を作る美鈴の横顔を、フランが覗き込む。
「ああ。いつも通りだな」
フランの横で、うなづく琢磨。
「起こす?」
「いや、面倒なことになるから止めておこう」
二人は、踵を返してエントランスホールのドアへと向かう。
重厚な造りのドアを開くと、
「「うわっ!」」
突如押し寄せてきた音の津波に耳を塞いだ。
音楽もここまで来るとただの雑音。
気が狂いそうになるほどの音量に二人はただただ耳を塞ぐことしか出来ない。
音源の方に目を向けると、そこには人影が。
「あ、アレは……」
フランが目を凝らして見ると、その人影は大きな箱のようなものを抱えていた。
人影は、箱の横から伸びるレバーをくるくると回している。
だが、両手で耳を塞いでいる今ではどうしようもない。
「このままでは、殺られてしまう!」
琢磨は、なんとかこの状況を打開しようと模索する。
人影が、迫る。
「腹をくくるか」
琢磨は鼓膜が破れるのを覚悟し、懐からナイフを取り出して、人影へと走り始めた。
そうして一歩を踏み出した瞬間、踏みしめた足が浮かぶような感覚を覚えた。
まるで旋律が心の隙間にねじ込まれているよう。
魂が音階につれて揺れ動くような心地。
天地が逆転し、前後左右が不覚になる。
思考が、消えて行く。
琢磨の体が、床に崩れ落ちた。
「た、琢磨……? どうした……?」
フランは、耳を塞ぎながら倒れこんだ琢磨を見つめた。
倒れている琢磨の元に、人影がやってきた。
フランは、その人影の正体を見る。
「あ、あなた……」
フランの目に入ったのは、手回しオルガンを持つ老人。
オルガンのハンドルが回転するたび、肩の上に乗っかっているスピーカーが音楽を垂れ流す。
「そう。わしこそがこの音楽を流している犯人」
老人は、にやりと笑ってオルガンの演奏を止める。
「なんでそんなことを!」
「答えは簡単じゃ。老後の楽しみじゃからよ」
飄々とした老人の笑みに、フランは自分を重ねた。
――目の前の老人は、私と同じように狂っている。
そして、一つの考えが浮かび上がった。
――目の前の狂った老人が自分の音楽を聞いて平気なら、自分もこの音楽を聞いて平気なはず。
両手を耳から外し、時計の針を模した杖を取り出す。
「おひょひょ? いいのか? 音楽は知性ある者を揺さぶる。音楽は知性ある者の心を支配する。音楽は音楽は原始の衝動! わしの『ストレイジ・リレイション』が奏でる音楽を聴いて狂わぬものはいないッ!」
老人は、手回しオルガンを廻し始めた。
「立ち上がれ! スタンド使いの少年よ! 目の前の小娘を惨殺しろッ!」
老人の号令と共に、倒れていた琢磨が立ち上がった。
「タリラ~リリイィィ~『The・Book』」
琢磨は、死んだ魚の目をして己のスタンド、『The・Book』を発現。
そのページを開く。
すると、琢磨の目に光が戻った。
「……ハッ! 僕は今まで何を!」
琢磨はあっけにとられながら、周りを見る。
「な、何じゃと! こいつ、わしの『ストレイジ・リレイション』の術中から自力で逃れたじゃと!?」
老人は、驚愕してしりもちをつく。
だが、その驚きの表情はすぐににやけた顔に変わる。
「……じゃがこれで証明された。わしの『ストレイジ・リレイション』は未だ健在ッ! 吸血鬼だの魔法使いだの名乗っていたガキどもは少しおかしくなるだけじゃったが、スタンド使いは完全に操ることが出来るッ!」
老人は立ち上がり、手回しオルガンに手をかけた。
琢磨の『The・book』のページがめくれ始める。
目指すページは唯一つ。
あの雪の振る、鮮烈な戦いの最期。
今ココで奴を即死させるにはそれしかない。
「フラン、奴を足止めしろッ! 奴に音楽を奏でさせるなッ!」
琢磨が叫ぶ。
フランは杖を振り上げ、老人へと走りこむと、
「何も音楽を奏でるだけが『ストレイジ・リレイション』ではないッ!」
老人のオルガンが震えた。
次の瞬間、フランと琢磨にガラスが降り注いだ。
老人のオルガンから出たのは音楽ではなく、人の可聴音域を超えた音、超音波。
この音のせいでエントランスホールのドアの上にある、豪奢なステンドグラスが砕けたのだ。
「うおッ!」
フランと琢磨はガラスのシャワーを浴びた。
体のいたるところにガラスが突き刺さる。
「さあ再び狂うがいいスタンド使いの少年よ!」
老人は再びオルガンを廻す。
「今度はスタンドを使わず、ナイフだけで小娘を切り刻めッ!」
琢磨の目から光が消え、
「タリラアァ~リラァ~」
千鳥足でフランの方を向く。
「う……どうしよ……」
ゆっくりとこちらに向かってくる琢磨を前に、後ずさりするフラン。
「さ、最大のピンチ……」
後ずさりを続けて、ついに背中を壁にくっつけるフラン。
容赦なく迫ってくる琢磨。
「タリラリラァ~」
ナイフを振り上げる琢磨。
フランが目をつぶり、腕を上げた瞬間、琢磨の足元に一枚の鏡が滑り込んだ。
「タリ?」
鏡から手が伸び、琢磨の足を掴むと、一気に鏡の中に引きずり込む。
引きずりこまれた琢磨の代わりに鏡から出てきたのは、
「俺、参上」
緑色の斑点のついたピンク色の髪。
網のような服に包まれた筋肉質な肉体。
ご存知ジョジョキャラ一死ぬのが似合う男、ディアボロであった。
←to be continued
更なるおまけ。
蓮見琢磨
4部ノベライズのキャラクター。
クールで知的な男。
本作では杖助戦の最期に杖助の手を振り払うと同時に幻想入り。
紅魔館で目を覚まし、そのままレミリアに血を吸われると思いきや、レミリアの気まぐれで解放。
行くところも無いので地下の図書館に居ついた。
普段は持ち前の記憶力を活かして本の整理などをやっている。
本人自身、本を読めて更に静かな環境にいるという現状に満足しているようだ。
その分、読書の邪魔をされたり騒がしくしすぎると激怒して容赦なく『禁止領域』の記憶を読ませに来る。
あと、彼の投げるナイフは咲夜の投げるナイフと違って回転する。
これをあとがきと代えさせて頂きます。
不死鳥本編よりもフランの方が長いってどういうことなの……