琢磨は、『A-10』の棚と『A-11』の棚の間にある通路を歩く。
「この先に、いるはずだが……」
琢磨の右手にはナイフが一本のみ。
静かな図書館の中に、琢磨の足音だけが響く。
どこから来るかわからない敵に備え、ナイフを握りなおす。
もうしばらく歩くと、腹の底を震わせる様な重低音が辺りから聞こえ始めた。
それと同時に本棚が、揺れ動く。
「くそ……超音波の次は共振動か!」
共振動。それは振動の力で離れたものが動く現象である。
物体には揺れ動く『周波数』が決まっている。
老人のスタンド『ストレンジ・リレイション』はあらゆる『音』を出すことが出来る。
それは即ちあらゆる『周波数』を出すことが出来るという事。
老人は本棚の『周波数』と同じ『周波数』を持った『音』を出すことにより、本棚のバランスを崩している
のだ。
「まずは本棚に押しつぶされないことが先決だな」
揺れ動く本棚の間を、琢磨は走り始めた。
この状況ではいつ本棚に潰されてもおかしくない。
本棚から落ちた本が、琢磨に命中する。
地面に落ちている本が、琢磨の足を絡め取る。
ぐらつく本棚が、大きな音を立てて琢磨めがけて同時に倒れこんできた。
「ヤバイッ!」
目を剥いて、思わず上を向く。
だが、琢磨は本棚に押しつぶされなかった。
幸運にも、二つの本棚がつっかえて、支えあっているのだ。
「……危ないところだった」
どさどさと降ってくる本の中、琢磨は安堵の息を吐く。
「く~ッ! 惜しいッ! もう少しだったーッ!」
悔しげな老人の声が、どこからか聞こえてくる。
「いい加減出てきたらどうだ?」
「出て来いと言われて出てくるバカがいるかーッ! このままお前を操り倒してくれる!」
「そうかい! じゃあ足元見てみな!」
「足元ォォ?」
次の瞬間、隣の通路から悲鳴が聞こえてきた。
「ビンゴ。『A-10』と『A-9』の本棚の通路か」
してやったり、という表情で彼は走り始めた。
なんと、彼はあらかじめ両隣の通路に『The・Book』のページを大量にばら撒いていたのだ。
どの『記憶』に引っかかったかは彼には解らないが、これで老人に大きな隙を作ることが出来た。
「『The・Book』ッ! コイツで止めを刺してやるッ!」
手元に革表紙の本を出し、『禁止区域』のページを開く。
目指すのは『禁止区域』の最後のページ。
月夜と、雪の降る記憶。
老人がいるであろう本棚に着くと、そこには血まみれで立つ老人の姿が。
「しまったッ!」
しかしその姿を見た琢磨は、立ち止まった。
何故なら、老人は『ストレンジ・リレイション』のハンドルに手をかけていたから。
「引っかかったなバカめ!」
老人がハンドルを廻すのと琢磨がページをめくりなおすのは同時だった。
すぐに琢磨は安全な区域のページを見始める。
心のスキマに入り込むように、音楽が耳に入り込む。
普通ならここで前後不覚に陥り、全てを音楽にゆだねてしまうだろう。
しかし、琢磨はそうではなかった。
この音色の対策はもう知っていた。
ページを読み、今までの自分を想起する事により『ストレンジ・リレイション』の術から脱出することがで
きる。
エントランスホールで学んだことだ。
「くぅぅ~ッ! こいつ粘るのう……」
そうとも知らずに老人はハンドルを廻し、狂気の音色を垂れ流し続ける。
琢磨は一心不乱に『The・Book』のページを読み、今までの自分を想起し続ける。
そんな琢磨の行動を見た老人は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「そうかそうか。こいつはワシの攻撃を防ぐ間は何も出来ないのか」
老人はハンドルを廻しながら、琢磨へと近づく。
琢磨自身も、歩み寄ってくる老人の姿を目の端に入れて、危機感を覚える。
が、今『ストレンジ・リレイション』の攻撃を防ぎ続けている自分には動くことすら許されない。
「再びこの手段を採るのは業腹だが……くらえィ!」
老人が『ストレンジ・リレイション』を振り上げ、琢磨の頭に叩き付けようとしたその時、
「させるもんかあぁぁ!」
琢磨の背後からフランが飛んできて、老人の頭に開いた魔道書を被せる。
開かれた魔道書はガジガジと老人の頭を齧り、
「いででででででで!」
老人を悶絶させる。
「琢磨、大丈夫?」
「ああ、何とも無い……が」
「が?」
「いや、本当に何とも無い」
目の前で魔道書相手に格闘する老人を見て、琢磨は頭を抱えた。
手に持っている『The・Book』の背表紙には、テープで『禁止区域』のページを貼り付けてあった。
もう少しで、相手の目にそれが飛び込む筈だったのに。
「どうして、こうもタイミングが合わないんだ……」
背表紙に貼り付けたページを剥いで、くしゃくしゃに丸めて放り投げる。
「だが、チャンスなのには変わりない」
すぐに『禁止区域』のページを開く。
「フラン、この戦いは僕が決めさせてもらう」
「えー」
「えー、じゃない」
「だって、このままだと私、前回に続いて活躍の場が無いよ」
「我慢しなさい。次回はきっと出番あるはずだから」
「しょーがないなー」
フランとの他愛の無い会話を終えると、琢磨は走り出した。
「……よし! やっと取れた!」
老人が魔道書との格闘に勝利し、視界を取り戻すと同時に、琢磨は『The・Book』のページを見せ付ける。
「なッ……!」
ページを見せ付けられた老人が見たのは、薄暗い図書館の光景ではなかった。
その時は、真っ暗な夜だった。
そこは、静かに雪が降り、時間とあいまって神秘的な光景を生み出していた。
目の前には、個性的な髪型をした学生服の少年が古代の拳闘士にも似た風貌の大男を従えて立っている。
目の前の少年が、走り出した。老人は何も出来ずに立っている。
次の瞬間、
「ドララララララララララララァーッ!」
拳の弾幕が老人に降り注いだ。
ボン、と音を立てて、フランと琢磨の目の前で地に伏している老人は、DISCに変化した。
「コイツが今回の騒ぎの原因か」
琢磨はDISCを拾い上げる。
「僕には必要なさそうだな。フラン、いるかい? これ」
琢磨はDISCをフランに投げてよこす。
「んー、保留ってことで」
「そうかい。じゃあ僕は寝ることにするよ」
フランがDISCをポケットに入れると、琢磨は歩いて図書館の奥に消えていく。
「そういえば、琢磨はいつもどこで寝てるんだろ?」
そんなことを考えながら、寝室へと向かう。
寝室のドアを開くと、ガラス細工で出来た機械の無い時計が12時半を指している。
「……長い30分だったなー」
DISCを近くの床に放り捨て、フランはベッドに飛び込んだ。
翌日 日課のティータイムにて
「ねーねーお姉さま、きのう咲夜と何をしていたんですか?」
その質問に、レミリアは紅茶を噴き出し、咲夜は鼻血を噴き出した。
今日も幻想郷は平和でした。
第二話『騒音老人にご注意を』 終
「この先に、いるはずだが……」
琢磨の右手にはナイフが一本のみ。
静かな図書館の中に、琢磨の足音だけが響く。
どこから来るかわからない敵に備え、ナイフを握りなおす。
もうしばらく歩くと、腹の底を震わせる様な重低音が辺りから聞こえ始めた。
それと同時に本棚が、揺れ動く。
「くそ……超音波の次は共振動か!」
共振動。それは振動の力で離れたものが動く現象である。
物体には揺れ動く『周波数』が決まっている。
老人のスタンド『ストレンジ・リレイション』はあらゆる『音』を出すことが出来る。
それは即ちあらゆる『周波数』を出すことが出来るという事。
老人は本棚の『周波数』と同じ『周波数』を持った『音』を出すことにより、本棚のバランスを崩している
のだ。
「まずは本棚に押しつぶされないことが先決だな」
揺れ動く本棚の間を、琢磨は走り始めた。
この状況ではいつ本棚に潰されてもおかしくない。
本棚から落ちた本が、琢磨に命中する。
地面に落ちている本が、琢磨の足を絡め取る。
ぐらつく本棚が、大きな音を立てて琢磨めがけて同時に倒れこんできた。
「ヤバイッ!」
目を剥いて、思わず上を向く。
だが、琢磨は本棚に押しつぶされなかった。
幸運にも、二つの本棚がつっかえて、支えあっているのだ。
「……危ないところだった」
どさどさと降ってくる本の中、琢磨は安堵の息を吐く。
「く~ッ! 惜しいッ! もう少しだったーッ!」
悔しげな老人の声が、どこからか聞こえてくる。
「いい加減出てきたらどうだ?」
「出て来いと言われて出てくるバカがいるかーッ! このままお前を操り倒してくれる!」
「そうかい! じゃあ足元見てみな!」
「足元ォォ?」
次の瞬間、隣の通路から悲鳴が聞こえてきた。
「ビンゴ。『A-10』と『A-9』の本棚の通路か」
してやったり、という表情で彼は走り始めた。
なんと、彼はあらかじめ両隣の通路に『The・Book』のページを大量にばら撒いていたのだ。
どの『記憶』に引っかかったかは彼には解らないが、これで老人に大きな隙を作ることが出来た。
「『The・Book』ッ! コイツで止めを刺してやるッ!」
手元に革表紙の本を出し、『禁止区域』のページを開く。
目指すのは『禁止区域』の最後のページ。
月夜と、雪の降る記憶。
老人がいるであろう本棚に着くと、そこには血まみれで立つ老人の姿が。
「しまったッ!」
しかしその姿を見た琢磨は、立ち止まった。
何故なら、老人は『ストレンジ・リレイション』のハンドルに手をかけていたから。
「引っかかったなバカめ!」
老人がハンドルを廻すのと琢磨がページをめくりなおすのは同時だった。
すぐに琢磨は安全な区域のページを見始める。
心のスキマに入り込むように、音楽が耳に入り込む。
普通ならここで前後不覚に陥り、全てを音楽にゆだねてしまうだろう。
しかし、琢磨はそうではなかった。
この音色の対策はもう知っていた。
ページを読み、今までの自分を想起する事により『ストレンジ・リレイション』の術から脱出することがで
きる。
エントランスホールで学んだことだ。
「くぅぅ~ッ! こいつ粘るのう……」
そうとも知らずに老人はハンドルを廻し、狂気の音色を垂れ流し続ける。
琢磨は一心不乱に『The・Book』のページを読み、今までの自分を想起し続ける。
そんな琢磨の行動を見た老人は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「そうかそうか。こいつはワシの攻撃を防ぐ間は何も出来ないのか」
老人はハンドルを廻しながら、琢磨へと近づく。
琢磨自身も、歩み寄ってくる老人の姿を目の端に入れて、危機感を覚える。
が、今『ストレンジ・リレイション』の攻撃を防ぎ続けている自分には動くことすら許されない。
「再びこの手段を採るのは業腹だが……くらえィ!」
老人が『ストレンジ・リレイション』を振り上げ、琢磨の頭に叩き付けようとしたその時、
「させるもんかあぁぁ!」
琢磨の背後からフランが飛んできて、老人の頭に開いた魔道書を被せる。
開かれた魔道書はガジガジと老人の頭を齧り、
「いででででででで!」
老人を悶絶させる。
「琢磨、大丈夫?」
「ああ、何とも無い……が」
「が?」
「いや、本当に何とも無い」
目の前で魔道書相手に格闘する老人を見て、琢磨は頭を抱えた。
手に持っている『The・Book』の背表紙には、テープで『禁止区域』のページを貼り付けてあった。
もう少しで、相手の目にそれが飛び込む筈だったのに。
「どうして、こうもタイミングが合わないんだ……」
背表紙に貼り付けたページを剥いで、くしゃくしゃに丸めて放り投げる。
「だが、チャンスなのには変わりない」
すぐに『禁止区域』のページを開く。
「フラン、この戦いは僕が決めさせてもらう」
「えー」
「えー、じゃない」
「だって、このままだと私、前回に続いて活躍の場が無いよ」
「我慢しなさい。次回はきっと出番あるはずだから」
「しょーがないなー」
フランとの他愛の無い会話を終えると、琢磨は走り出した。
「……よし! やっと取れた!」
老人が魔道書との格闘に勝利し、視界を取り戻すと同時に、琢磨は『The・Book』のページを見せ付ける。
「なッ……!」
ページを見せ付けられた老人が見たのは、薄暗い図書館の光景ではなかった。
その時は、真っ暗な夜だった。
そこは、静かに雪が降り、時間とあいまって神秘的な光景を生み出していた。
目の前には、個性的な髪型をした学生服の少年が古代の拳闘士にも似た風貌の大男を従えて立っている。
目の前の少年が、走り出した。老人は何も出来ずに立っている。
次の瞬間、
「ドララララララララララララァーッ!」
拳の弾幕が老人に降り注いだ。
ボン、と音を立てて、フランと琢磨の目の前で地に伏している老人は、DISCに変化した。
「コイツが今回の騒ぎの原因か」
琢磨はDISCを拾い上げる。
「僕には必要なさそうだな。フラン、いるかい? これ」
琢磨はDISCをフランに投げてよこす。
「んー、保留ってことで」
「そうかい。じゃあ僕は寝ることにするよ」
フランがDISCをポケットに入れると、琢磨は歩いて図書館の奥に消えていく。
「そういえば、琢磨はいつもどこで寝てるんだろ?」
そんなことを考えながら、寝室へと向かう。
寝室のドアを開くと、ガラス細工で出来た機械の無い時計が12時半を指している。
「……長い30分だったなー」
DISCを近くの床に放り捨て、フランはベッドに飛び込んだ。
翌日 日課のティータイムにて
「ねーねーお姉さま、きのう咲夜と何をしていたんですか?」
その質問に、レミリアは紅茶を噴き出し、咲夜は鼻血を噴き出した。
今日も幻想郷は平和でした。
第二話『騒音老人にご注意を』 終