ディスクブレイカー☆フラン『とっておきの裏ワザ』
全力で走る大妖精を、幽香が追いかける。
幽香から放たれる弾幕を、大妖精は必死に回避しながら廊下を走る。
幽香の弾幕が壁を容赦なくえぐる。
数少ない窓ガラスを割り、扉のドアノブを吹き飛ばし、廊下を走るなの張り紙を燃やす。
弾幕が、大妖精の足に当たった。
「あっ……」
大妖精はこけて、廊下に倒れる。
「さあ、つかまえた……」
立ち上がろうとする大妖精を前に、幽香は霊魂化をといて立ちはだかる。
「さーて、ちゃっちゃとのして春水晶を盗みに行きますか」
幽香は大妖精に向けて傘の先を向ける。
「これで終わりよ!」
撃ちだされる光を前に、大妖精は体を転がしてそれを回避する。
「ちょこまかと避けるわね……」
幽香は傘の先を修正。
大妖精は一瞬で姿を消して、傘の上に立つ。
「やっぱりワープ能力ね。短距離限定の」
大妖精の能力に対して確信を得て目を細める幽香。
大妖精の放つ至近距離弾幕を幽香は首を振って回避すると、傘を振って、大妖精を打ち上げる。
「私の傘に乗るなんていいバランス感覚してるじゃない」
宙を舞う大妖精に狙いをつけ、幽香はレーザーを放つ。
対して大妖精はワープを行い、瞬時に着地。そのまま幽香とは逆の方向へ走り出す。
「まだ逃げる気?」
幽香は再び傘を向ける。
大妖精は姿を消した。
「またワープね。今度は何処に消えたのやら……」
ため息をつき、幽香は傘を振りながら振り向く。
大妖精はバックステップで振るわれる傘を避ける。
「まだまだ!」
大妖精はワープを繰り返し、時には幽香の背後を取り、時には彼女の頭上を取る。
しかし、弾幕は放たない。
「いつまでも背後取ってばっかだとマンネリになるわよ」
いらだちを募らせた幽香は傘を振って大妖精を煽る。
大妖精は、彼女の前に姿を現した。
「だったらその誘い、乗ってあげますよ!」
キッと幽香をにらみ、突進していく大妖精。
「いいわ! その調子よ」
幽香は傘を構え、大妖精の体当たりを受け止める。
全体重を込めた大妖精の体当たりは、幽香の体を突き飛ばす。
突き飛ばされた幽香は両の足で床を踏みしめ、大きく後退する。
その目の前に大妖精はワープし、クナイ弾を放つ。
「やっと『らしく』なってきたんじゃない?」
飛んでくるクナイ弾を素手ではじきながら、幽香は弾幕を大妖精に向ける。
両者の弾幕は2人の間で衝突する。
だが、数もパワーも幽香の方が勝っていた。
どんどん幽香の弾幕が大妖精の弾幕を押していく。
「負けるわけにはいかないッ!」
追い詰められた大妖精は再びワープ。
ワープ先は、自分のすぐ隣。
だが、そこにも幽香の弾幕は及んでいた。
幽香の弾幕を全身に浴び、大妖精は吹き飛んで壁に叩き付けられた。
「うっ……ぐっ……」
ずるずると壁面をずり落ち、地面にへたり込む大妖精。
その目の前に、幽香の傘が突き刺さった。
「ねえ、そろそろ逃げるのやめたらどう?」
大妖精の頭上から、幽香の言葉が降りかかった。
「誰が逃げてなんか……ッ!」
顔を上げて、大妖精は幽香を睨みつけた。
「その態度よ。あなたは何処かで『甘え』を持っているわ。それも自分でも気づけないほどの『甘え』をね」
幽香の言葉が、大妖精の胸に突き刺さった。
「あなたはどこかで『自分では目の前の敵に勝ことができない』と考えている。一歩引いた所に立っている。それは『冷静』とは言えないわ。ただの『臆病』よ
振り下ろされた言葉に、大妖精は貫かれた。
「あなたには決断する力が足りないわ。決断なさい。今ここで逃げるか、ここで戦うか」
幽香の声に、大妖精はうつむいた。
確かに、甘えていた。言われて初めて分かった。
幽香から逃げ続けて、フランちゃんを解放すれば勝てると思いっていた。
でも、違う。
フランちゃんでは勝てない。
最初の分身をしたとき、背後に出てきた幽香の方が本物だった。
このことから考えると、幽香の分身はいつでも入れ替わることができるかもしれないということ。
だとすると、フランちゃんでは勝てない。
あのピンク髪の人がDISCを押し込んだ幽香は今あの人と戦っている幽香と入れ替わっているかもしれないということだから。
「確かに、私は『甘い』し、『臆病』よ。でもね、『臆病者』には『臆病者』なりの戦い方があるんです!」
大妖精は決心して、ワープを敢行。幽香の背後に躍り出る。
「だったら見せてもらうわ! 臆病者の戦いってやつを!」
幽香は反射的に傘を振るって振り返る。
大妖精の脇腹に、傘が命中して彼女を叩き飛ばす。
「引っかかりましたね!」
飛ばされながら、大妖精はニヤリと笑った。
「なッ……傘が……!」
幽香は驚きに目を見開いた。
自分の手元から傘が離れているのだ。
「これが私の切り札です!」
壁面に着地する大妖精の手首には、細い糸が巻き付けてあった。
その糸は幽香の傘の先に結ばれていた。
「ゴムひもです! ゴムひもは柔らかい……柔らかいということは、何よりも丈夫なことなんです!」
大妖精のゴムひもはたわみ、幽香の傘を彼女の手元まで運んでくる。
「これで防ぐ物はありませんよ」
傘を投げ捨て、スカートのすそを膝のあたりで結ぶ。
「ゴムひもなんて、どこから持ち出したのかしら」
幽香は大妖精をにらみつけた。
「私がつけているドロワーズから取ってきました」
「なるほど。ワープを繰り返していたのはドロワーズからゴムひもを抜いていることを悟られないためだったのね」
「その通りです」
スカートのすそを結び終えた大妖精は、膝を少し曲げ、両手を前に突き出す。
大妖精の手から弾幕が放たれる。
「傘を奪っただけで、どうにかなると思ったの?」
傘を奪われてもなお、幽香は余裕の姿勢を崩さずに弾幕で大妖精の弾幕を弾く。
大妖精は飛び上がり、上からクナイ弾と光弾の混合弾幕を放つ。
光弾はクナイ弾にはじかれて反射し、不規則な軌道を描いて周囲に散らばる。
「まだまだ!」
大妖精は続けて気合とともに炎弾を幽香に向けて繰り出す。
「甘いわ!」
迫りくる弾幕を目の当たりにして、幽香は目をカッと見開いた。
幽香は手を突き出す。
「すべてを薙ぎ払うッ!」
次の瞬間、幽香の手のひらから光が迸った。
光は、紅魔館の廊下を埋め尽くし、館の壁に特大の穴を開ける。
「さーて、あなたは今頃私の背後に……」
幽香は拳を振るって振り返った。
拳は、空を切った。
「いない……」
拍子抜けした幽香は、思わず力を抜いてしまった。
目を丸くして、廊下をきょろきょろと見渡す。
その頭上に、傘を持った大妖精が現れた。
「でえええええい!」
傘の重さに任せて、大妖精は幽香の脳天に傘を振り下ろす。
ガン、と重い音がした。
「げっ……」
幽香の頭から星が飛び出した。
そのまま彼女は振り子のように揺れ、床に倒れこむ。
「かっ、体が動かない……気分も悪い……」
床に伏せる幽香の目の前で、傘が音を立てて落ちる。
「私の全力を前にして、ワープするかと思ったのに……まさか私の傘を使うだなんてね」
幽香は寝返りをうって、宙に浮く大妖精を見る。
「幽香さんの傘……すごく重かったですよ……」
大妖精は肩で息をしながら幽香を見下ろす。
「ねえ、聞かせて頂戴。なんで逃げるのを止めて私に挑みかかってきたのかを」
幽香は擦り傷だらけの大妖精の顔を見た。
「幽香さんの分身は、いつでも本物と分身の入れ替わりがつくんじゃないんですか?」
「当たりよ。どうしてわかったのかしら?」
「最初にあなたが分身して、レーザーで挟み撃ちにしたときです。私は分身を出したあなたを盾にしようとしましたが、私が盾にしたあなたはレーザーが当たる寸前に姿を消しました。その時に、分身したときには位置の入れ替えができるのではないかと思ったんです」
「それが私から逃げるのをやめたことにどう関係があるの?」
「レーザーを浴びた私の前に立った時、あなたの背後から攻撃を加えた人がいましたよね?」
「ああ、あのピンクの髪をした男ね」
「彼こそが勝利のカギでした。彼が仕込んだ『あること』であなたを倒そうとした私は、フランちゃんを呼ぶべく走り出しました。そこにあなたが分身して追いかけてきたというわけです」
「なるほど、フランドールがカギだったからあなたは彼女を助けるべく逃げたのね」
「そこであなたが追いかけてきた……もしかして、フランちゃんと彼が仕込んだ『あること』が関係があるって気づいていましたか?」
「そりゃもちろん。『走れ! 準備はできた! 後はフランを開放するだけだッ!』なんて叫ばれたら何かがあるっていやがおうにも気づくでしょう?」
「その通りです。そしてあなたは本人が私を追いかけてきたと見せかけ、戦っている途中で分身と入れ替わった……」
大妖精は、幽香の目の前に降り立つ。
彼女の顔を見て、幽香は微笑む。
「100点満点よ。花丸をあげるわ……」
微笑んだまま、幽香の分身は消え去った。
廊下に残るのは、ぼろぼろの大妖精のみ。
「勝った……分身だったけど、幽香さんに勝った!」
大妖精は大きく息を吸い込んで、叫んだ。
そして足を引きずりながらも歩き出す。
しばらくすると、
「くあー! とーれーなーいー!」
ツタに縛られてもがくフランの姿が見えてきた。
「フランちゃん! 今助けてあげる!」
大妖精は走り出し、『ミキタカのDISC』をフランの頭に押しこんだ。
すると、フランの体はパタパタと折りたたまれ、いくつかの小さなサイコロとなって床に落ちる。
「よし!」
大妖精はそれを掴み、廊下の真ん中に置く。
サイコロは形を変え、フランへと元通り。
「よかった……」
完全復活を遂げたフランを見て、大妖精はへたり込んだ。
「大ちゃん、大丈夫?」
倒れる大妖精の顔を、フランは覗き込んだ。
「ちょっと疲れただけ」
大妖精は笑顔を作った。
「よかった。で、幽香は?」
フランの質問に、大妖精は今きた方向を指差した。
「あの人が幽香さんの頭にDISCを仕込みました。あとはフランちゃんが来るだけだって言っていましたよ」
その言葉を聞いたフランは無言でうなづいて、走り出す。
壁が壊れて日の差す廊下を、フランは駆け抜けていく。
「ディアボロが幽香にスタンドを仕込むことができたなら……勝負は一瞬でつくッ! 『ストレンジ・リレイション』」
フランは『ストレンジ・リレイション』を出す。
走っていると、フランが胸につけている無線機からノイズが走った。
「ガガッ……フランか?」
無線機からは、ディアボロの声が聞こえてくる。
「ディアボロね。今大ちゃんから助けてもらったわ」
「そのことについてだが、まだ来るな。アイツはお前が俺たちの切り札だということを知っている!」
「だったらどうするの?」
「俺が幽香の動きを止める……『エコーズact3のDISC』で!」
ディアボロからの、通信が途絶えた。
ディアボロは、『キング・クリムゾンのDISC』を防御用に装備。
代わりに、懐から取り出した『エコーズact3のDISC』を攻撃用に装備する。
「行くぞ。『エコーズact3』ッ!」
ディアボロは『エコーズ』の拳を振るう。
「遅いッ!」
幽香はそれを拳で受け止めていなす。
「うぐッ……『フー・ファイターズ』で回復してもらったとはいえ、骨は完全に繋がっていないか……」
腕に走る電撃のような苦痛を気合で抑え、二の拳を振るう。
「出てきたものが変わったわね」
幽香はエコーズに警戒し、バックステップで距離を取る。
と、着地の際幽香の足が床に沈み込んだ。
幽香は驚きに目を開き、脚を注視した。
「よそ見するな」
隙を見てディアボロは急接近。『エコーズact3』の拳を続けて叩き込む。
幽香は迫りくる拳の弾幕を拳ではじく。
「さっき出したベルギーワッフルみたいな奴よりパワーは低いみたいね」
幽香は拳で『エコーズact3』の拳を逸らし続ける。
と、彼女の顔のすぐ横を、『エコーズact3』の拳がかすめた。
「捌き損ねた……?」
幽香は驚いて、再びバックステップをする。
ディアボロから距離を取り、着地すると、彼女の膝が地面に張り付いた。
「なっ……体が重い……!」
幽香は転倒し、手を地につける。
手も、脚も、地面にめり込む。
「これは……まさか重さを増やす能力なの!?」
戸惑いとともに、幽香はディアボロを見た。
「単なる力比べじゃ俺に勝機はないからな。お前の体重を増やして動きを遅くさせてもらった」
ディアボロは『エコーズact3』と共に床に這いつくばる幽香を見る。
幽香は、笑っていた。
「ッククク……そう、体重を増やしたのね。それは好都合だわ」
幽香は不気味に笑いながら、傘をディアボロとは反対方向へ向ける。
「外の世界には、自動車っていう、鉄でできたひとりでに動く馬車がのがあるらしいわね」
「ああ。腐るほどある」
「それって、馬車とは比べ物にならないほど重くて、速いんでしょうね……」
幽香は、傘の先から極太レーザーを放った。
ディアボロの立つ方向とは反対の方向へ向けて。
「しまった!」
ディアボロは驚いて伏せようとした。
「遅い! 遅すぎるわよ!」
高速で動き出した幽香の体がディアボロの体に衝突する。
数百キロの重さを持ち、時速百数十キロの速度を持つ幽香がディアボロの体を吹き飛ばす。
結果、ディアボロは廊下の果てまで吹き飛ばされ、壁に衝突した。
彼の口からは血が噴水のように噴き出た。
「がふッ……油断したッ……!」
ディアボロは内出血を起こして紫色に染まった胸を見つめる。
致命傷だ。
「ディアボロ! どうしたのディアボロ!」
無線機からは、フランの声が聞こえてくる。
「フラン……やるなら今だ……『ストレンジ・リレイション』を用意しろ……」
口から血を流しながら、ディアボロは無線機ごしにフランに訴えかけた。
激痛と共に、意識が薄まっていく。
「まだ、終わらん……『エコーズact3』の効果射程は離れたが、まだ『ホルス神』の射程内だッ!」
ディアボロは最後の力を振り絞り、目の前はるか先に立つ幽香に向かって指を向けた。
フランは幽香の居場所に行きついた。
「来たわね」
幽香は傘を肩に担いで振り返り、フランを見る。
「いいか、チャンスは一度だけだ。俺が奴の気を引く……」
無線から出るディアボロの声にフランはうなづき、一歩引いた。
「悪魔の妹だっていうから見に来てみれば、なんてことないわね。ただの女の子じゃない」
幽香は傘の先をフランに向ける。
「一発で気絶させてあげるから変に動かないでね」
傘の先に光が収束する。
フランはひるむことなく、『ストレンジ・リレイション』のハンドルを握りしめる。
傘の先からビームが放たれようとする。
「いい度胸ね」
幽香が改めて狙いを付けようとすると、彼女の足元が凍りついた。
「なっ、何が起きたの!?」
突然の出来事に幽香は戸惑い、照準を大きく外してしまう。
傘から放たれたレーザーは、フランのすぐ横を通過した。
レーザーがフランの横を通り過ぎるのと同時に、幽香の顔の横を氷の弾が通り過ぎる。
「後ろねッ!」
幽香は振り返って傘を向ける。
フランはそれを見て『ストレンジ・リレイション』のハンドルを回し始めた。
廊下に奇妙な音色が流れだす。
幽香の手が、震えはじめた。
「な、何!? この音色は……!」
震える手は傘を取り落す。
締め付けるような頭痛がする。
強烈な眠気に襲われる。
頭痛に耐えながら、幽香はフランをにらんだ。
「あなた……何をしたっていうの?」
幽香の質問に、『ストレンジ・リレイション』のハンドルを回すフランは静かに口を開いた。
「音楽は知性ある者を揺さぶる。音楽は知性ある者の心を支配する。音楽は原始の衝動! 『ストレイジ・リレイション』の旋律を耳にした時ッ! 全てのスタンド使いは私の掌の上にいるッ!」
フランの答えを聞いたとき、幽香は既に術中にはまっていた。
彼女はフラフラと振り子のように揺れて、床に倒れこんだ。
意識を失った幽香を見て、フランは深く息をついた。
「風見幽香を倒したみたいだな……ゴホッ、ゴボッ」
無線機から、ディアボロの声が聞こえてきた。
「ディアボロ! 大丈夫!?」
フランは心配そうな顔で無線機に話しかける。
「俺は駄目かもしれん……死ぬ前に一つ言っておこう。春水晶は幽香が持っているはずだ……」
「な、なんで……!?」
「考えてもみろ。奴は『たった1人の勢力』だ。1人だけでどこかを攻めるとき、大事なものは何処に置いておく?」
「一番安全なところだよね」
「そうだ……そして幽香の周辺で一番安全なところと言えば?」
そう言われて、フランはハッとなった。
すぐにフランは幽香の体を調べ始める。
彼女の胸元から、固い感触が伝わってきた。
「これね……」
フランは幽香のベストの中をまさぐる。
チェックのベストの内ポケットに春水晶はあった。
「あった……」
フランは、それをポケットの中に入れた。
←To be continued... EDテーマ Sweet Vacation『Brandnew Wave』
全力で走る大妖精を、幽香が追いかける。
幽香から放たれる弾幕を、大妖精は必死に回避しながら廊下を走る。
幽香の弾幕が壁を容赦なくえぐる。
数少ない窓ガラスを割り、扉のドアノブを吹き飛ばし、廊下を走るなの張り紙を燃やす。
弾幕が、大妖精の足に当たった。
「あっ……」
大妖精はこけて、廊下に倒れる。
「さあ、つかまえた……」
立ち上がろうとする大妖精を前に、幽香は霊魂化をといて立ちはだかる。
「さーて、ちゃっちゃとのして春水晶を盗みに行きますか」
幽香は大妖精に向けて傘の先を向ける。
「これで終わりよ!」
撃ちだされる光を前に、大妖精は体を転がしてそれを回避する。
「ちょこまかと避けるわね……」
幽香は傘の先を修正。
大妖精は一瞬で姿を消して、傘の上に立つ。
「やっぱりワープ能力ね。短距離限定の」
大妖精の能力に対して確信を得て目を細める幽香。
大妖精の放つ至近距離弾幕を幽香は首を振って回避すると、傘を振って、大妖精を打ち上げる。
「私の傘に乗るなんていいバランス感覚してるじゃない」
宙を舞う大妖精に狙いをつけ、幽香はレーザーを放つ。
対して大妖精はワープを行い、瞬時に着地。そのまま幽香とは逆の方向へ走り出す。
「まだ逃げる気?」
幽香は再び傘を向ける。
大妖精は姿を消した。
「またワープね。今度は何処に消えたのやら……」
ため息をつき、幽香は傘を振りながら振り向く。
大妖精はバックステップで振るわれる傘を避ける。
「まだまだ!」
大妖精はワープを繰り返し、時には幽香の背後を取り、時には彼女の頭上を取る。
しかし、弾幕は放たない。
「いつまでも背後取ってばっかだとマンネリになるわよ」
いらだちを募らせた幽香は傘を振って大妖精を煽る。
大妖精は、彼女の前に姿を現した。
「だったらその誘い、乗ってあげますよ!」
キッと幽香をにらみ、突進していく大妖精。
「いいわ! その調子よ」
幽香は傘を構え、大妖精の体当たりを受け止める。
全体重を込めた大妖精の体当たりは、幽香の体を突き飛ばす。
突き飛ばされた幽香は両の足で床を踏みしめ、大きく後退する。
その目の前に大妖精はワープし、クナイ弾を放つ。
「やっと『らしく』なってきたんじゃない?」
飛んでくるクナイ弾を素手ではじきながら、幽香は弾幕を大妖精に向ける。
両者の弾幕は2人の間で衝突する。
だが、数もパワーも幽香の方が勝っていた。
どんどん幽香の弾幕が大妖精の弾幕を押していく。
「負けるわけにはいかないッ!」
追い詰められた大妖精は再びワープ。
ワープ先は、自分のすぐ隣。
だが、そこにも幽香の弾幕は及んでいた。
幽香の弾幕を全身に浴び、大妖精は吹き飛んで壁に叩き付けられた。
「うっ……ぐっ……」
ずるずると壁面をずり落ち、地面にへたり込む大妖精。
その目の前に、幽香の傘が突き刺さった。
「ねえ、そろそろ逃げるのやめたらどう?」
大妖精の頭上から、幽香の言葉が降りかかった。
「誰が逃げてなんか……ッ!」
顔を上げて、大妖精は幽香を睨みつけた。
「その態度よ。あなたは何処かで『甘え』を持っているわ。それも自分でも気づけないほどの『甘え』をね」
幽香の言葉が、大妖精の胸に突き刺さった。
「あなたはどこかで『自分では目の前の敵に勝ことができない』と考えている。一歩引いた所に立っている。それは『冷静』とは言えないわ。ただの『臆病』よ
振り下ろされた言葉に、大妖精は貫かれた。
「あなたには決断する力が足りないわ。決断なさい。今ここで逃げるか、ここで戦うか」
幽香の声に、大妖精はうつむいた。
確かに、甘えていた。言われて初めて分かった。
幽香から逃げ続けて、フランちゃんを解放すれば勝てると思いっていた。
でも、違う。
フランちゃんでは勝てない。
最初の分身をしたとき、背後に出てきた幽香の方が本物だった。
このことから考えると、幽香の分身はいつでも入れ替わることができるかもしれないということ。
だとすると、フランちゃんでは勝てない。
あのピンク髪の人がDISCを押し込んだ幽香は今あの人と戦っている幽香と入れ替わっているかもしれないということだから。
「確かに、私は『甘い』し、『臆病』よ。でもね、『臆病者』には『臆病者』なりの戦い方があるんです!」
大妖精は決心して、ワープを敢行。幽香の背後に躍り出る。
「だったら見せてもらうわ! 臆病者の戦いってやつを!」
幽香は反射的に傘を振るって振り返る。
大妖精の脇腹に、傘が命中して彼女を叩き飛ばす。
「引っかかりましたね!」
飛ばされながら、大妖精はニヤリと笑った。
「なッ……傘が……!」
幽香は驚きに目を見開いた。
自分の手元から傘が離れているのだ。
「これが私の切り札です!」
壁面に着地する大妖精の手首には、細い糸が巻き付けてあった。
その糸は幽香の傘の先に結ばれていた。
「ゴムひもです! ゴムひもは柔らかい……柔らかいということは、何よりも丈夫なことなんです!」
大妖精のゴムひもはたわみ、幽香の傘を彼女の手元まで運んでくる。
「これで防ぐ物はありませんよ」
傘を投げ捨て、スカートのすそを膝のあたりで結ぶ。
「ゴムひもなんて、どこから持ち出したのかしら」
幽香は大妖精をにらみつけた。
「私がつけているドロワーズから取ってきました」
「なるほど。ワープを繰り返していたのはドロワーズからゴムひもを抜いていることを悟られないためだったのね」
「その通りです」
スカートのすそを結び終えた大妖精は、膝を少し曲げ、両手を前に突き出す。
大妖精の手から弾幕が放たれる。
「傘を奪っただけで、どうにかなると思ったの?」
傘を奪われてもなお、幽香は余裕の姿勢を崩さずに弾幕で大妖精の弾幕を弾く。
大妖精は飛び上がり、上からクナイ弾と光弾の混合弾幕を放つ。
光弾はクナイ弾にはじかれて反射し、不規則な軌道を描いて周囲に散らばる。
「まだまだ!」
大妖精は続けて気合とともに炎弾を幽香に向けて繰り出す。
「甘いわ!」
迫りくる弾幕を目の当たりにして、幽香は目をカッと見開いた。
幽香は手を突き出す。
「すべてを薙ぎ払うッ!」
次の瞬間、幽香の手のひらから光が迸った。
光は、紅魔館の廊下を埋め尽くし、館の壁に特大の穴を開ける。
「さーて、あなたは今頃私の背後に……」
幽香は拳を振るって振り返った。
拳は、空を切った。
「いない……」
拍子抜けした幽香は、思わず力を抜いてしまった。
目を丸くして、廊下をきょろきょろと見渡す。
その頭上に、傘を持った大妖精が現れた。
「でえええええい!」
傘の重さに任せて、大妖精は幽香の脳天に傘を振り下ろす。
ガン、と重い音がした。
「げっ……」
幽香の頭から星が飛び出した。
そのまま彼女は振り子のように揺れ、床に倒れこむ。
「かっ、体が動かない……気分も悪い……」
床に伏せる幽香の目の前で、傘が音を立てて落ちる。
「私の全力を前にして、ワープするかと思ったのに……まさか私の傘を使うだなんてね」
幽香は寝返りをうって、宙に浮く大妖精を見る。
「幽香さんの傘……すごく重かったですよ……」
大妖精は肩で息をしながら幽香を見下ろす。
「ねえ、聞かせて頂戴。なんで逃げるのを止めて私に挑みかかってきたのかを」
幽香は擦り傷だらけの大妖精の顔を見た。
「幽香さんの分身は、いつでも本物と分身の入れ替わりがつくんじゃないんですか?」
「当たりよ。どうしてわかったのかしら?」
「最初にあなたが分身して、レーザーで挟み撃ちにしたときです。私は分身を出したあなたを盾にしようとしましたが、私が盾にしたあなたはレーザーが当たる寸前に姿を消しました。その時に、分身したときには位置の入れ替えができるのではないかと思ったんです」
「それが私から逃げるのをやめたことにどう関係があるの?」
「レーザーを浴びた私の前に立った時、あなたの背後から攻撃を加えた人がいましたよね?」
「ああ、あのピンクの髪をした男ね」
「彼こそが勝利のカギでした。彼が仕込んだ『あること』であなたを倒そうとした私は、フランちゃんを呼ぶべく走り出しました。そこにあなたが分身して追いかけてきたというわけです」
「なるほど、フランドールがカギだったからあなたは彼女を助けるべく逃げたのね」
「そこであなたが追いかけてきた……もしかして、フランちゃんと彼が仕込んだ『あること』が関係があるって気づいていましたか?」
「そりゃもちろん。『走れ! 準備はできた! 後はフランを開放するだけだッ!』なんて叫ばれたら何かがあるっていやがおうにも気づくでしょう?」
「その通りです。そしてあなたは本人が私を追いかけてきたと見せかけ、戦っている途中で分身と入れ替わった……」
大妖精は、幽香の目の前に降り立つ。
彼女の顔を見て、幽香は微笑む。
「100点満点よ。花丸をあげるわ……」
微笑んだまま、幽香の分身は消え去った。
廊下に残るのは、ぼろぼろの大妖精のみ。
「勝った……分身だったけど、幽香さんに勝った!」
大妖精は大きく息を吸い込んで、叫んだ。
そして足を引きずりながらも歩き出す。
しばらくすると、
「くあー! とーれーなーいー!」
ツタに縛られてもがくフランの姿が見えてきた。
「フランちゃん! 今助けてあげる!」
大妖精は走り出し、『ミキタカのDISC』をフランの頭に押しこんだ。
すると、フランの体はパタパタと折りたたまれ、いくつかの小さなサイコロとなって床に落ちる。
「よし!」
大妖精はそれを掴み、廊下の真ん中に置く。
サイコロは形を変え、フランへと元通り。
「よかった……」
完全復活を遂げたフランを見て、大妖精はへたり込んだ。
「大ちゃん、大丈夫?」
倒れる大妖精の顔を、フランは覗き込んだ。
「ちょっと疲れただけ」
大妖精は笑顔を作った。
「よかった。で、幽香は?」
フランの質問に、大妖精は今きた方向を指差した。
「あの人が幽香さんの頭にDISCを仕込みました。あとはフランちゃんが来るだけだって言っていましたよ」
その言葉を聞いたフランは無言でうなづいて、走り出す。
壁が壊れて日の差す廊下を、フランは駆け抜けていく。
「ディアボロが幽香にスタンドを仕込むことができたなら……勝負は一瞬でつくッ! 『ストレンジ・リレイション』」
フランは『ストレンジ・リレイション』を出す。
走っていると、フランが胸につけている無線機からノイズが走った。
「ガガッ……フランか?」
無線機からは、ディアボロの声が聞こえてくる。
「ディアボロね。今大ちゃんから助けてもらったわ」
「そのことについてだが、まだ来るな。アイツはお前が俺たちの切り札だということを知っている!」
「だったらどうするの?」
「俺が幽香の動きを止める……『エコーズact3のDISC』で!」
ディアボロからの、通信が途絶えた。
ディアボロは、『キング・クリムゾンのDISC』を防御用に装備。
代わりに、懐から取り出した『エコーズact3のDISC』を攻撃用に装備する。
「行くぞ。『エコーズact3』ッ!」
ディアボロは『エコーズ』の拳を振るう。
「遅いッ!」
幽香はそれを拳で受け止めていなす。
「うぐッ……『フー・ファイターズ』で回復してもらったとはいえ、骨は完全に繋がっていないか……」
腕に走る電撃のような苦痛を気合で抑え、二の拳を振るう。
「出てきたものが変わったわね」
幽香はエコーズに警戒し、バックステップで距離を取る。
と、着地の際幽香の足が床に沈み込んだ。
幽香は驚きに目を開き、脚を注視した。
「よそ見するな」
隙を見てディアボロは急接近。『エコーズact3』の拳を続けて叩き込む。
幽香は迫りくる拳の弾幕を拳ではじく。
「さっき出したベルギーワッフルみたいな奴よりパワーは低いみたいね」
幽香は拳で『エコーズact3』の拳を逸らし続ける。
と、彼女の顔のすぐ横を、『エコーズact3』の拳がかすめた。
「捌き損ねた……?」
幽香は驚いて、再びバックステップをする。
ディアボロから距離を取り、着地すると、彼女の膝が地面に張り付いた。
「なっ……体が重い……!」
幽香は転倒し、手を地につける。
手も、脚も、地面にめり込む。
「これは……まさか重さを増やす能力なの!?」
戸惑いとともに、幽香はディアボロを見た。
「単なる力比べじゃ俺に勝機はないからな。お前の体重を増やして動きを遅くさせてもらった」
ディアボロは『エコーズact3』と共に床に這いつくばる幽香を見る。
幽香は、笑っていた。
「ッククク……そう、体重を増やしたのね。それは好都合だわ」
幽香は不気味に笑いながら、傘をディアボロとは反対方向へ向ける。
「外の世界には、自動車っていう、鉄でできたひとりでに動く馬車がのがあるらしいわね」
「ああ。腐るほどある」
「それって、馬車とは比べ物にならないほど重くて、速いんでしょうね……」
幽香は、傘の先から極太レーザーを放った。
ディアボロの立つ方向とは反対の方向へ向けて。
「しまった!」
ディアボロは驚いて伏せようとした。
「遅い! 遅すぎるわよ!」
高速で動き出した幽香の体がディアボロの体に衝突する。
数百キロの重さを持ち、時速百数十キロの速度を持つ幽香がディアボロの体を吹き飛ばす。
結果、ディアボロは廊下の果てまで吹き飛ばされ、壁に衝突した。
彼の口からは血が噴水のように噴き出た。
「がふッ……油断したッ……!」
ディアボロは内出血を起こして紫色に染まった胸を見つめる。
致命傷だ。
「ディアボロ! どうしたのディアボロ!」
無線機からは、フランの声が聞こえてくる。
「フラン……やるなら今だ……『ストレンジ・リレイション』を用意しろ……」
口から血を流しながら、ディアボロは無線機ごしにフランに訴えかけた。
激痛と共に、意識が薄まっていく。
「まだ、終わらん……『エコーズact3』の効果射程は離れたが、まだ『ホルス神』の射程内だッ!」
ディアボロは最後の力を振り絞り、目の前はるか先に立つ幽香に向かって指を向けた。
フランは幽香の居場所に行きついた。
「来たわね」
幽香は傘を肩に担いで振り返り、フランを見る。
「いいか、チャンスは一度だけだ。俺が奴の気を引く……」
無線から出るディアボロの声にフランはうなづき、一歩引いた。
「悪魔の妹だっていうから見に来てみれば、なんてことないわね。ただの女の子じゃない」
幽香は傘の先をフランに向ける。
「一発で気絶させてあげるから変に動かないでね」
傘の先に光が収束する。
フランはひるむことなく、『ストレンジ・リレイション』のハンドルを握りしめる。
傘の先からビームが放たれようとする。
「いい度胸ね」
幽香が改めて狙いを付けようとすると、彼女の足元が凍りついた。
「なっ、何が起きたの!?」
突然の出来事に幽香は戸惑い、照準を大きく外してしまう。
傘から放たれたレーザーは、フランのすぐ横を通過した。
レーザーがフランの横を通り過ぎるのと同時に、幽香の顔の横を氷の弾が通り過ぎる。
「後ろねッ!」
幽香は振り返って傘を向ける。
フランはそれを見て『ストレンジ・リレイション』のハンドルを回し始めた。
廊下に奇妙な音色が流れだす。
幽香の手が、震えはじめた。
「な、何!? この音色は……!」
震える手は傘を取り落す。
締め付けるような頭痛がする。
強烈な眠気に襲われる。
頭痛に耐えながら、幽香はフランをにらんだ。
「あなた……何をしたっていうの?」
幽香の質問に、『ストレンジ・リレイション』のハンドルを回すフランは静かに口を開いた。
「音楽は知性ある者を揺さぶる。音楽は知性ある者の心を支配する。音楽は原始の衝動! 『ストレイジ・リレイション』の旋律を耳にした時ッ! 全てのスタンド使いは私の掌の上にいるッ!」
フランの答えを聞いたとき、幽香は既に術中にはまっていた。
彼女はフラフラと振り子のように揺れて、床に倒れこんだ。
意識を失った幽香を見て、フランは深く息をついた。
「風見幽香を倒したみたいだな……ゴホッ、ゴボッ」
無線機から、ディアボロの声が聞こえてきた。
「ディアボロ! 大丈夫!?」
フランは心配そうな顔で無線機に話しかける。
「俺は駄目かもしれん……死ぬ前に一つ言っておこう。春水晶は幽香が持っているはずだ……」
「な、なんで……!?」
「考えてもみろ。奴は『たった1人の勢力』だ。1人だけでどこかを攻めるとき、大事なものは何処に置いておく?」
「一番安全なところだよね」
「そうだ……そして幽香の周辺で一番安全なところと言えば?」
そう言われて、フランはハッとなった。
すぐにフランは幽香の体を調べ始める。
彼女の胸元から、固い感触が伝わってきた。
「これね……」
フランは幽香のベストの中をまさぐる。
チェックのベストの内ポケットに春水晶はあった。
「あった……」
フランは、それをポケットの中に入れた。
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