ディスクブレイカー☆フラン『紅魔館の謎(アトランチス的な意味で)』OP ふぉれすとぴれお『U.N.FLY』
ttp://www.youtube.com/watch?v=jc6Bu8HU9BQ
真昼。それは吸血鬼にとっては本来就寝している時間帯である。
しかしフランだけは別で、日焼け止めと日傘を携えて元気に寺子屋に行っていたりする。
では、姉のレミリアはどうか。
レミリアは、キングサイズのベッドでぐっすりと眠っていた。
天蓋とカーテンの付いた、豪華なベッドである。
「う~……」
紅く色づけられた、シルクでできた純白のシーツにウールが詰まった布団をもぞもぞと動かし、レミリアは寝返りをうつ。
彼女の顔が紅い羽毛の枕に沈み込む。
「うふふ、ふふふふ~」
頬を紅く染め、口元から涎を垂らして布団の中で蠢くレミリア。
とても幸せそうな表情である。
両手の指がわきわきと動く。
何かを揉んでいるかのように。
「や~らか~いな~」
レミリアの両手は羽毛の枕をこねくり回していた。
そのまま布団のシーツを口元まで手繰り寄せて、まるでストローでジュースを飲むかのようにしゃぶり始める。
「ちゅっちゅちゅっちゅ……」
レミリアはそのまま布団をぐいぐいと口の中に押し込んでいき……
「むぐっ!? むぐぐぐぐっ!?」
息を詰まらせた。
ばさばさと布団をはためかせてもがくレミリア。
口元から布団が零れ落ちるのと目が覚めるのは同時だった。
「……ッは!」
カッと見開かれた目は紅い天蓋を見つめる。
「夢…………はぁ」
自分が味わっていた楽園が夢だと知るやいなや、むなしさがこみあげてくる。
「う~恥ずかしい……」
顔を真っ赤にして枕を抱きしめ、ベッドの上をゴロゴロと転がる。
そして……枕を抱いたままベッドから転げ落ちた。
ゴン、と音を立てて3つばかりの星を散らして全身を紅いカーペットの上に打ち付ける。
「う~……ちょっと水でも飲もうかしら」
フラフラと立ち上がり、ベッド脇の小さなテーブルの上に置いてある、白磁の水差しを手に取った。
行儀が悪いことに、口を大きく開けて水差しから直に水を飲もうとするが……
「ない。水がない」
水差しから水が一滴。レミリアの八重歯に命中する。
「そういえば寝る前に全部飲んじゃったっけ」
目をこすりながら、レミリアは水差しを持ってドアへと向かう。
たまには自分で水をくむのもいいと考えつつ、ドアを開く。
その手から、水差しが落ちてゴンと音を立てた。
「こ……これはどういうことなの……?」
レミリアは、驚愕した。
無理もない。目の前に広がっているのは廊下ではなく、無限の星空が広がっているのだ。
青とも黒とも取れる虚空の空。
そこに針で穴を開けたかのように光る無数の星。
目の前をふわふわと小惑星が通り過ぎる。
小惑星同士がぶつかると、音もなくそれは砕けて無数の石ころを周囲に放った。
当然、レミリアにも石ころは飛んでくるが、レミリアの眼前で石ころは床に落ちて散らばる。
「え……え?」
大きな光がついたり消えたりしている。
時折長細い光がついたり消えたりする光の間を横切る。
彗星ではない。彗星はもっと激しく動くものだ。
「…………」
ついにレミリアは考えるのを止めて――目の前の事態に考えるもへちまも無いが――ドアを閉じた。
驚愕。そしてPANIC。
震える手をドアに伸ばし、再びドアを開く。
目の前には宇宙ではなく窓の無い廊下が広がっていた。
「何だったのかしら……今の」
目をこすり、床に落ちたポットを拾うレミリア。
そしてキッチンへ向かおうと廊下を歩きはじめる。
しばらく廊下を歩いて、階段を下りてキッチンへと向かう。
そうして階段を13段降りたところで――
「……え? 何で図書館?」
レミリアはいつの間にか図書館にいた。
しかも高い本を取るための脚立から降りているという状態で。
驚いて目をぱちくりとするレミリア。
目の前の本棚に並ぶラノベ類は何も言わない。当たり前だが。
「何が起きてるのよ一体……」
キッチンは諦めて、もう水が出る所であればどこでもいいという考えに至って水場を探そうとレミリアは歩きはじめる。
そうして『B-22』とプレートがつけられた本棚の脇を通ると、何故かビルとビルの隙間、薄汚くて暗くて狭い空間にレミリアは立っているのであった。
「……は?」
紅魔館ですらない自分の立ち位置に、レミリアの脳は混乱を極めてしまった。
「ここ何処よ!?」
レミリアの叫びは頭上の曇り空に吸い込まれて消えた。
その叫びを聞く者は誰もいない。
いや、いた。足元の二匹のネズミだけが。
「うわっ! 汚っ!」
ネズミが足元にまとわりつくのを嫌がったレミリアは、すぐに飛び立った。
そして、天井に頭をぶつけた。
勢いよく飛び立ったので、そのダメージは大きい。
レミリアは床に墜落して、目を回した。
幸いポットは割れていない。
しばらく呆然と天井を見つめる。見知らぬ天井ならぬ見知った天井。
「何が何だかさっぱりわからないわ!」
天井を見つめながら頭を抱えるレミリア。
しかしいつまでも寝転がっているわけにもいかない。
レミリアは立ち上がった。水を手に入れるために。
そして立ち上がって初めて気づいた。
樫で作られた、落ち着いた色合いの椅子とテーブル。
同じく樫で作られた食器棚には白磁の食器と洋酒のビンが並んでいる。
レミリアの部屋とは違い、適度に狭く、そして調度品も落ち着いた感じの物が多い。
そして一番の違いはベッドであった。
一人用の簡素ながらしっかりとした作りで、羽毛布団がかぶさっている。
よく見ると、その羽毛布団を被っている人物がいた。
手入れの行き届いた銀色の髪、白磁のように白い肌、みずみずしいサクランボのような唇、そしてぴったりと閉じられた両のまぶた。
咲夜が眠っていた。
「いつの間に咲夜の部屋に……」
無防備な姿をさらす咲夜をレミリアは覗き込む。
規則正しい寝息が静かな部屋に吸い込まれていく。
「……かわいい……」
そっと、繊細なガラス細工を愛でるような手つきで咲夜の頬に触れる。
「ん?」
咲夜の頬に触れたレミリアは、あることに気づいて少し強めに手を押し付ける。
「……熱っぽい」
不自然な程に肌が温かかった。
咲夜の異変に気付いたレミリアは、そっと手を離して、近くの引き出しを音をたてないように漁る。
取り出したのは一本の水銀式体温計。
レミリアはそれをそっと咲夜の唇に差し込む。
しばらく待つと、体温計の水銀がぐんぐん上へ伸びていく。
さらに待つと、水銀は『39.8』の部分で止まった。
「熱が出てるわね……」
体温計を唇から抜く。ちゅっ、と濡れた音がした。
レミリアは体温計を元の場所に戻すと、ポケットからハンカチを取り出し、近くの水差しを使ってハンカチを少し濡らす。ついでに水差しの水も少し飲んでおく。
ハンカチをもみ、水をハンカチ全体に行きわたらせてハンカチをたたみ、咲夜の額にそっと置く。
「薬が必要ね。パチュリーに作ってもらわなくちゃ」
咲夜の頬をそっと指で撫でて、懐中時計のマークがついたドアを開けて部屋から出て行った。
「また知らない場所……」
レミリアは再び紅魔館ではないどこかへとワープしていた。
「う、う~ん」
静かな図書館で、パチュリーは背伸びをした。
ぽきぽきと小気味よい音が彼女の体のそこかしこから鳴りだす。
「まだ鳴るかしら?」
少し体をひねってみるとまたぽきぽきという音が出る。
「う~ん、新記録」
パチュリーは自嘲じみた苦笑いを浮かべて、本を3冊持ち上げる。
歩いて魔道書が並ぶ本棚へ向かい、本を元の位置に戻す。
「たまには物語でも読んで休憩しちゃおうかな」
パチュリーは魔道書の本棚から娯楽用の物語本が並ぶ本棚へと移動し、その中から本を4冊選び抜く。
そして本棚を抜けると、そこは森の中だった。
「……あら?」
突然の変化に顔を引きつられるパチュリー。
小脇に抱えた本がドサッと地面に落ちる。
あわてて本を拾い直し、あたりの様子を見て調べてみる。
「完全に森の中ね」
本棚などなかった。
あるのはいくつもの木々と草花。
風が流れる。
木々が揺れ、葉の隙間から差し込む光が揺れる。
「ここは魔法の森じゃないみたいね……魔法の森はもっと暗くてじめじめしてて、何よりも瘴気が充満しているわ」
パチュリーは自分が今魔法の森にいるわけではないと判断し、ほっと溜息をつく。
魔法の森、常に瘴気や胞子が漂う場所は喘息持ちの彼女にとって長居は遠慮したい場所。
「しかし、困ったわね。ここどこかしら?」
手をあごの下に添えて考え始めるパチュリー。
だがいつまで考えても埒があかない。
思考が堂々巡りを始めたところで彼女は考えるのをやめて、深呼吸をする。
森の清浄な空気がパチュリーの肺を満たした。
「空気がおいしいわね。たまには図書館以外の場所で本を読むのもいいかも」
そんなのんびりとしたことを考えつつ、パチュリーは近くにあった5メートルほどの大きさの岩に腰掛ける。
小脇に抱えた、ハードカバーの本を開き、その世界へと飛び込んでいく。
昼下がりの木陰で時は緩やかに過ぎていく。
おいしい空気を胸いっぱいに吸い込んでパチュリーはSF小説をむさぼるように読む。
そんなのんびりとした時間を過ごすパチュリーに近づく影がひとつ。
「パチュリー……なんでこんなところに!?」
影はレミリアだった。
木漏れ日が当たっているらしく、体のあちこちから煙が出ている。
「あらレミィ。奇遇ね。なんでこんなところに?」
質問に対して見事に質問で返されるが、そんなことを気にしていては話が進まない。
さっさとレミリアは事情を説明した。
「あ、ありのままに今起こったことを話すわ!」
少女説明中…………
「なるほど。大体分かったわ」
レミリアの話を聞いてパチュリーは本を閉じた。
「おそらく、咲夜が体調を崩したことによって紅魔館全体が4次元空間になったと思うのよ」
「4次元空間!?」
パチュリーの言葉に首をかしげてハテナマークを浮かべるレミリア。
いまいちわかっていない様子である。
「要するに紅魔館の空間を管理している咲夜が体調を崩したから紅魔館の空間も崩れたってことよ」
パチュリーがさっき言ったことを砕いて説明すると、レミリアはようやく首を縦に振った。
「なるほど! じゃあここも4次元空間なのね!」
「たぶん……おそらく」
「で、ここから出るにはどうすればいいのかしら?」
レミリアの一言と共に風が吹き込んでくる。
場の空気が一気に寒くなる。
「それが問題なのよ。4次元空間なんて私も初めてだから、何が起こるのか全然わからないわ」
溜息をついてパチュリーが岩から飛び降りると、そのまま地面の中へ落っこちて行った。
「え? え? ちょっと!? ちょっとパチェエェェ!?」
パチュリーの突然の消失にレミリアは驚き、彼女の消えて行った地面を叩く。
土は土の感触しか返さかった。
ところ変わってディアボロの本拠地、ヴェネチアホテル。
「さて、今回は久しぶりに幻想郷ではなく『ホテルの外』でDISCの強化をするか」
背伸びひとつをしたディアボロは、7枚ほどのDISCを携えてドアを開く。
「……どこだここは」
ディアボロはいつの間にかキッチンにいた。
紅魔館のキッチンである。
そこには1人の人間がいた。
大量の本を抱えた蓮見琢馬であった。
「お前は……フランの友達の……」
琢馬は怪訝な視線をディアボロに浴びせる。
ディアボロはその視線に臆せず名乗り出る。
「ソリッド・ナーゾだ」
ただし、自分がよく使う偽名で。
この偽名は都合がよく、自分の名前が『ディアボロ』だとばれても『ディアボロ』の部分はミドルネームだと言い訳できる。
ただ、時々偽名とと本名を取り間違えてしまったりもする。
「そうか。で、あんたはどうしてこんなところに来ているんだ? 最近流行りの『スタンドDISC』を7枚も持って」
琢馬は抱える本を手近な机の上においてディアボロを見続ける。
「いや、DISCを集めようと思って部屋を出たらいつの間にかここにワープしていた……」
ディアボロは時止めを初めて食らったポルナレフのような表情を浮かべて答える。
得意の一発芸を決めたかのような雰囲気を出すディアボロを、琢馬は冷ややかな目で見つめる。
いわゆるジト目というやつである。
「……なんだよ。その顔は」
冷たい雰囲気を当てられたディアボロは2、3歩下がった。
「いや……その一発芸は使い古されているから乱用はしないほうがいい」
「王道と言わんか王道と」
「さて、かくいう俺も本棚から出ようとしたらキッチンにいた。紅魔館が今どんな状況になっているのか調査する必要がある」
そう言うと琢馬はキッチンのドアを押して開き、キッチンから立ち去る。
「おい、ちょっと待て。俺を1人にするな」
あわててディアボロも琢馬を追いかけてキッチンから出る。
2人を迎えたのは、暗い洞窟と3枚の扉であった。
「そしてこの洞窟と3枚の扉である」
「誰に言ってんだよ」
微妙にメタなセリフを吐くディアボロと突っ込みを入れる琢馬。
2人は揃って3枚の扉を眺めた。
赤色の、『42』と看板が取り付けられた扉。
白地に金で装飾された、『57』の数字が書かれた扉。
最後に真っ黒で、白いペンキで乱暴に『98』と書かれた扉。
「よし、せっかくだから赤い扉を選ぼう」
「待てよ」
真っ先に『42』の扉に向かおうとするディアボロの襟を、琢馬が引っ張って止める。
「なんだ。3つ扉があったらまず赤い扉だろ?」
「なんでそういう理論が成り立つんだ。『42』は嫌な予感がする。もう少し考えろ」
さっさと扉を開けたくてたまらないディアボロと、慎重になって考える琢馬。
「こんな所にいても時間の無駄だ。すぐに選んですぐに実行。これ迷宮で生き残る秘訣」
そう言ってディアボロは『キング・クリムゾン』で琢馬を振り払い、赤の『42』の扉に手をかけた。
←To Be contined.... ED Siestail『ふらふら』
ttp://www.youtube.com/watch?v=zpx2lbwU7a4
ttp://www.youtube.com/watch?v=jc6Bu8HU9BQ
真昼。それは吸血鬼にとっては本来就寝している時間帯である。
しかしフランだけは別で、日焼け止めと日傘を携えて元気に寺子屋に行っていたりする。
では、姉のレミリアはどうか。
レミリアは、キングサイズのベッドでぐっすりと眠っていた。
天蓋とカーテンの付いた、豪華なベッドである。
「う~……」
紅く色づけられた、シルクでできた純白のシーツにウールが詰まった布団をもぞもぞと動かし、レミリアは寝返りをうつ。
彼女の顔が紅い羽毛の枕に沈み込む。
「うふふ、ふふふふ~」
頬を紅く染め、口元から涎を垂らして布団の中で蠢くレミリア。
とても幸せそうな表情である。
両手の指がわきわきと動く。
何かを揉んでいるかのように。
「や~らか~いな~」
レミリアの両手は羽毛の枕をこねくり回していた。
そのまま布団のシーツを口元まで手繰り寄せて、まるでストローでジュースを飲むかのようにしゃぶり始める。
「ちゅっちゅちゅっちゅ……」
レミリアはそのまま布団をぐいぐいと口の中に押し込んでいき……
「むぐっ!? むぐぐぐぐっ!?」
息を詰まらせた。
ばさばさと布団をはためかせてもがくレミリア。
口元から布団が零れ落ちるのと目が覚めるのは同時だった。
「……ッは!」
カッと見開かれた目は紅い天蓋を見つめる。
「夢…………はぁ」
自分が味わっていた楽園が夢だと知るやいなや、むなしさがこみあげてくる。
「う~恥ずかしい……」
顔を真っ赤にして枕を抱きしめ、ベッドの上をゴロゴロと転がる。
そして……枕を抱いたままベッドから転げ落ちた。
ゴン、と音を立てて3つばかりの星を散らして全身を紅いカーペットの上に打ち付ける。
「う~……ちょっと水でも飲もうかしら」
フラフラと立ち上がり、ベッド脇の小さなテーブルの上に置いてある、白磁の水差しを手に取った。
行儀が悪いことに、口を大きく開けて水差しから直に水を飲もうとするが……
「ない。水がない」
水差しから水が一滴。レミリアの八重歯に命中する。
「そういえば寝る前に全部飲んじゃったっけ」
目をこすりながら、レミリアは水差しを持ってドアへと向かう。
たまには自分で水をくむのもいいと考えつつ、ドアを開く。
その手から、水差しが落ちてゴンと音を立てた。
「こ……これはどういうことなの……?」
レミリアは、驚愕した。
無理もない。目の前に広がっているのは廊下ではなく、無限の星空が広がっているのだ。
青とも黒とも取れる虚空の空。
そこに針で穴を開けたかのように光る無数の星。
目の前をふわふわと小惑星が通り過ぎる。
小惑星同士がぶつかると、音もなくそれは砕けて無数の石ころを周囲に放った。
当然、レミリアにも石ころは飛んでくるが、レミリアの眼前で石ころは床に落ちて散らばる。
「え……え?」
大きな光がついたり消えたりしている。
時折長細い光がついたり消えたりする光の間を横切る。
彗星ではない。彗星はもっと激しく動くものだ。
「…………」
ついにレミリアは考えるのを止めて――目の前の事態に考えるもへちまも無いが――ドアを閉じた。
驚愕。そしてPANIC。
震える手をドアに伸ばし、再びドアを開く。
目の前には宇宙ではなく窓の無い廊下が広がっていた。
「何だったのかしら……今の」
目をこすり、床に落ちたポットを拾うレミリア。
そしてキッチンへ向かおうと廊下を歩きはじめる。
しばらく廊下を歩いて、階段を下りてキッチンへと向かう。
そうして階段を13段降りたところで――
「……え? 何で図書館?」
レミリアはいつの間にか図書館にいた。
しかも高い本を取るための脚立から降りているという状態で。
驚いて目をぱちくりとするレミリア。
目の前の本棚に並ぶラノベ類は何も言わない。当たり前だが。
「何が起きてるのよ一体……」
キッチンは諦めて、もう水が出る所であればどこでもいいという考えに至って水場を探そうとレミリアは歩きはじめる。
そうして『B-22』とプレートがつけられた本棚の脇を通ると、何故かビルとビルの隙間、薄汚くて暗くて狭い空間にレミリアは立っているのであった。
「……は?」
紅魔館ですらない自分の立ち位置に、レミリアの脳は混乱を極めてしまった。
「ここ何処よ!?」
レミリアの叫びは頭上の曇り空に吸い込まれて消えた。
その叫びを聞く者は誰もいない。
いや、いた。足元の二匹のネズミだけが。
「うわっ! 汚っ!」
ネズミが足元にまとわりつくのを嫌がったレミリアは、すぐに飛び立った。
そして、天井に頭をぶつけた。
勢いよく飛び立ったので、そのダメージは大きい。
レミリアは床に墜落して、目を回した。
幸いポットは割れていない。
しばらく呆然と天井を見つめる。見知らぬ天井ならぬ見知った天井。
「何が何だかさっぱりわからないわ!」
天井を見つめながら頭を抱えるレミリア。
しかしいつまでも寝転がっているわけにもいかない。
レミリアは立ち上がった。水を手に入れるために。
そして立ち上がって初めて気づいた。
樫で作られた、落ち着いた色合いの椅子とテーブル。
同じく樫で作られた食器棚には白磁の食器と洋酒のビンが並んでいる。
レミリアの部屋とは違い、適度に狭く、そして調度品も落ち着いた感じの物が多い。
そして一番の違いはベッドであった。
一人用の簡素ながらしっかりとした作りで、羽毛布団がかぶさっている。
よく見ると、その羽毛布団を被っている人物がいた。
手入れの行き届いた銀色の髪、白磁のように白い肌、みずみずしいサクランボのような唇、そしてぴったりと閉じられた両のまぶた。
咲夜が眠っていた。
「いつの間に咲夜の部屋に……」
無防備な姿をさらす咲夜をレミリアは覗き込む。
規則正しい寝息が静かな部屋に吸い込まれていく。
「……かわいい……」
そっと、繊細なガラス細工を愛でるような手つきで咲夜の頬に触れる。
「ん?」
咲夜の頬に触れたレミリアは、あることに気づいて少し強めに手を押し付ける。
「……熱っぽい」
不自然な程に肌が温かかった。
咲夜の異変に気付いたレミリアは、そっと手を離して、近くの引き出しを音をたてないように漁る。
取り出したのは一本の水銀式体温計。
レミリアはそれをそっと咲夜の唇に差し込む。
しばらく待つと、体温計の水銀がぐんぐん上へ伸びていく。
さらに待つと、水銀は『39.8』の部分で止まった。
「熱が出てるわね……」
体温計を唇から抜く。ちゅっ、と濡れた音がした。
レミリアは体温計を元の場所に戻すと、ポケットからハンカチを取り出し、近くの水差しを使ってハンカチを少し濡らす。ついでに水差しの水も少し飲んでおく。
ハンカチをもみ、水をハンカチ全体に行きわたらせてハンカチをたたみ、咲夜の額にそっと置く。
「薬が必要ね。パチュリーに作ってもらわなくちゃ」
咲夜の頬をそっと指で撫でて、懐中時計のマークがついたドアを開けて部屋から出て行った。
「また知らない場所……」
レミリアは再び紅魔館ではないどこかへとワープしていた。
「う、う~ん」
静かな図書館で、パチュリーは背伸びをした。
ぽきぽきと小気味よい音が彼女の体のそこかしこから鳴りだす。
「まだ鳴るかしら?」
少し体をひねってみるとまたぽきぽきという音が出る。
「う~ん、新記録」
パチュリーは自嘲じみた苦笑いを浮かべて、本を3冊持ち上げる。
歩いて魔道書が並ぶ本棚へ向かい、本を元の位置に戻す。
「たまには物語でも読んで休憩しちゃおうかな」
パチュリーは魔道書の本棚から娯楽用の物語本が並ぶ本棚へと移動し、その中から本を4冊選び抜く。
そして本棚を抜けると、そこは森の中だった。
「……あら?」
突然の変化に顔を引きつられるパチュリー。
小脇に抱えた本がドサッと地面に落ちる。
あわてて本を拾い直し、あたりの様子を見て調べてみる。
「完全に森の中ね」
本棚などなかった。
あるのはいくつもの木々と草花。
風が流れる。
木々が揺れ、葉の隙間から差し込む光が揺れる。
「ここは魔法の森じゃないみたいね……魔法の森はもっと暗くてじめじめしてて、何よりも瘴気が充満しているわ」
パチュリーは自分が今魔法の森にいるわけではないと判断し、ほっと溜息をつく。
魔法の森、常に瘴気や胞子が漂う場所は喘息持ちの彼女にとって長居は遠慮したい場所。
「しかし、困ったわね。ここどこかしら?」
手をあごの下に添えて考え始めるパチュリー。
だがいつまで考えても埒があかない。
思考が堂々巡りを始めたところで彼女は考えるのをやめて、深呼吸をする。
森の清浄な空気がパチュリーの肺を満たした。
「空気がおいしいわね。たまには図書館以外の場所で本を読むのもいいかも」
そんなのんびりとしたことを考えつつ、パチュリーは近くにあった5メートルほどの大きさの岩に腰掛ける。
小脇に抱えた、ハードカバーの本を開き、その世界へと飛び込んでいく。
昼下がりの木陰で時は緩やかに過ぎていく。
おいしい空気を胸いっぱいに吸い込んでパチュリーはSF小説をむさぼるように読む。
そんなのんびりとした時間を過ごすパチュリーに近づく影がひとつ。
「パチュリー……なんでこんなところに!?」
影はレミリアだった。
木漏れ日が当たっているらしく、体のあちこちから煙が出ている。
「あらレミィ。奇遇ね。なんでこんなところに?」
質問に対して見事に質問で返されるが、そんなことを気にしていては話が進まない。
さっさとレミリアは事情を説明した。
「あ、ありのままに今起こったことを話すわ!」
少女説明中…………
「なるほど。大体分かったわ」
レミリアの話を聞いてパチュリーは本を閉じた。
「おそらく、咲夜が体調を崩したことによって紅魔館全体が4次元空間になったと思うのよ」
「4次元空間!?」
パチュリーの言葉に首をかしげてハテナマークを浮かべるレミリア。
いまいちわかっていない様子である。
「要するに紅魔館の空間を管理している咲夜が体調を崩したから紅魔館の空間も崩れたってことよ」
パチュリーがさっき言ったことを砕いて説明すると、レミリアはようやく首を縦に振った。
「なるほど! じゃあここも4次元空間なのね!」
「たぶん……おそらく」
「で、ここから出るにはどうすればいいのかしら?」
レミリアの一言と共に風が吹き込んでくる。
場の空気が一気に寒くなる。
「それが問題なのよ。4次元空間なんて私も初めてだから、何が起こるのか全然わからないわ」
溜息をついてパチュリーが岩から飛び降りると、そのまま地面の中へ落っこちて行った。
「え? え? ちょっと!? ちょっとパチェエェェ!?」
パチュリーの突然の消失にレミリアは驚き、彼女の消えて行った地面を叩く。
土は土の感触しか返さかった。
ところ変わってディアボロの本拠地、ヴェネチアホテル。
「さて、今回は久しぶりに幻想郷ではなく『ホテルの外』でDISCの強化をするか」
背伸びひとつをしたディアボロは、7枚ほどのDISCを携えてドアを開く。
「……どこだここは」
ディアボロはいつの間にかキッチンにいた。
紅魔館のキッチンである。
そこには1人の人間がいた。
大量の本を抱えた蓮見琢馬であった。
「お前は……フランの友達の……」
琢馬は怪訝な視線をディアボロに浴びせる。
ディアボロはその視線に臆せず名乗り出る。
「ソリッド・ナーゾだ」
ただし、自分がよく使う偽名で。
この偽名は都合がよく、自分の名前が『ディアボロ』だとばれても『ディアボロ』の部分はミドルネームだと言い訳できる。
ただ、時々偽名とと本名を取り間違えてしまったりもする。
「そうか。で、あんたはどうしてこんなところに来ているんだ? 最近流行りの『スタンドDISC』を7枚も持って」
琢馬は抱える本を手近な机の上においてディアボロを見続ける。
「いや、DISCを集めようと思って部屋を出たらいつの間にかここにワープしていた……」
ディアボロは時止めを初めて食らったポルナレフのような表情を浮かべて答える。
得意の一発芸を決めたかのような雰囲気を出すディアボロを、琢馬は冷ややかな目で見つめる。
いわゆるジト目というやつである。
「……なんだよ。その顔は」
冷たい雰囲気を当てられたディアボロは2、3歩下がった。
「いや……その一発芸は使い古されているから乱用はしないほうがいい」
「王道と言わんか王道と」
「さて、かくいう俺も本棚から出ようとしたらキッチンにいた。紅魔館が今どんな状況になっているのか調査する必要がある」
そう言うと琢馬はキッチンのドアを押して開き、キッチンから立ち去る。
「おい、ちょっと待て。俺を1人にするな」
あわててディアボロも琢馬を追いかけてキッチンから出る。
2人を迎えたのは、暗い洞窟と3枚の扉であった。
「そしてこの洞窟と3枚の扉である」
「誰に言ってんだよ」
微妙にメタなセリフを吐くディアボロと突っ込みを入れる琢馬。
2人は揃って3枚の扉を眺めた。
赤色の、『42』と看板が取り付けられた扉。
白地に金で装飾された、『57』の数字が書かれた扉。
最後に真っ黒で、白いペンキで乱暴に『98』と書かれた扉。
「よし、せっかくだから赤い扉を選ぼう」
「待てよ」
真っ先に『42』の扉に向かおうとするディアボロの襟を、琢馬が引っ張って止める。
「なんだ。3つ扉があったらまず赤い扉だろ?」
「なんでそういう理論が成り立つんだ。『42』は嫌な予感がする。もう少し考えろ」
さっさと扉を開けたくてたまらないディアボロと、慎重になって考える琢馬。
「こんな所にいても時間の無駄だ。すぐに選んですぐに実行。これ迷宮で生き残る秘訣」
そう言ってディアボロは『キング・クリムゾン』で琢馬を振り払い、赤の『42』の扉に手をかけた。
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