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深紅の協奏曲 ―Ⅱと二と7で奏でる輪舞曲 1―

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 ドッピオを乗せた雲は、ゆっくりと人里から東へ向かう。
 落ち着いたペースに慣れたドッピオはいつまでも掴まっているような体制から、上に胡坐をかいて座る体制になっていた。
 一輪と空の旅行を楽しんでいた時も辺りをきょろきょろと見まわしていたが、ひとりで見るとそれはまた別の世界を見ているようだった。
 あの時は雲山がいたからか、強襲してきた妖精以外は積極的に近寄ってはこなかったが、今は警戒するものがないのか小鳥がドッピオの周りを飛んでいる。
 思ったより人懐っこいのかな、と思ったドッピオが小鳥に手を伸ばすと、そのまま離れて飛んでいく。

「なんか餌とかあれば近寄ってくるものかなぁ」

 そうぽつりと口に出すが、それで出てくるものは何もない。



 しばらくすると、森の合間から長い石段が続き、その先に鳥居、そのさらに奥に神社が見えてきた。
 命蓮寺と比べると規模は小さいが、どこか霊験を感じられるような佇まいをしている。

「あれが、博麗神社ってところか」

 ドッピオが認識した所で、雲は緩やかに、鳥居前まで下降する。
 神社の境内は広く、閑散としていた。人里は当然として、命蓮寺にも何名かの住職が住み、少ないながらもにぎやかな雰囲気が感じられた。
 だが、今神社には二人の人間しか見えない。一人は境内の掃き掃除をしており、もう一人は奥の賽銭箱の隣に腰掛け、本を読んでいる。
 特に会話をするわけでもなく、まるで先ほどまで誰もいなかったかのような空気さえも感じられるほど静かであった。
 鳥居前まで来ると、雲は自然と姿を消す。まるで、役割を果たしたかのように。
 ドッピオが境内に足をつけると掃き掃除をしていた少女が、気づいたように声をかけてきた。

「おや、いらっしゃいませ。博麗神社へようこそ。参拝ですか?」

 少女が手を止め、来訪者に話しかける。
 その姿は、話に聞いていた博麗の巫女とよく似ていた。

「あ、えーっと。そういうわけじゃあないんですけど。アリス、って人いますか?」
「アリスさんですか?」

 目的を告げると、少し不服そうな顔を浮かべた。

「わざわざここにきてアリスさんだなんて。誰かから聞いたんです? 参拝じゃないんですか?」
「え、魔理沙から聞いたんだけど、アリスなら神社にいるって」
「あー、そうなんですか」 

 魔理沙から聞いたことを告げると、納得がいくような顔になる。
 そして、本殿とは別にある、外れの小さな社を指さして少女は、

「どちらにしろ、ここへ来たならまずは神様への挨拶が大事です。あちらで参拝の方をお願いします」

 にっこりと笑ってそう告げる。

「あれ、そっちの大きい方じゃないんですか?」

 ドッピオの当然の疑問にも、笑みを浮かべたまま、

「ええ。博麗なんて見かけや名前だけで仕事もしないし妖怪退治もまじめじゃないしロクなことはありません。けれど守屋は信者のフォローもたっぷりありますし、どんな方にでも大丈夫ですよ!」

 ……と、鼻につくほど自信たっぷりに話した。

「……は?」
「さぁさ、まずは形からでも大丈夫です。すぐに終わりますよ」

 呆れかえるドッピオに対し、その少女はドッピオの手を取ると、ぐいぐいと外れの社の方まで引く。
 その手を振り払うことは簡単ではあるが、相手は少女というのもある。それに、悪意からの行動などではない。迷惑ではあるが。
 どうしようか迷っていると、本殿のほうからまた別の少女の怒鳴り声が聞こえてきた。

「ちょっと早苗! なに私のさいs、参拝客取ってるのよ!!」

 本堂の方から現れた、紅白の色を服の基調とした少女―博麗霊夢―は、全身から怒った感情を露わにしていた。
 それに対して蒼白の色を服の基調とした少女―東風谷早苗―は。

「おや、霊夢さん。まだ約束の時間は過ぎてませんよ? 私は誠実で立派に神社の巫女として仕事をしています。感謝されこそすれ、怒られる道理はありませんねぇ」

 と、やれやれといったように肩を竦めながら嫌味を含めた余裕を露骨に表現して話す。

「どこがよ! あんた自分の分社に露骨に引き込んでるじゃない! 誰だか知らないけど、その人はウチに参拝に来たんでしょ!?」

 その挑発ともとれる発言に、さらに怒りの感情を巻き上げながら霊夢は早苗に詰め寄る。
 早苗は手を引いていたドッピオを霊夢から守るように間に立ち、「すぐ終わらせますから」と一言彼に告げる。

「いーえ。彼はどうやらアリスさんに会いに来たみたいです。博麗神社はあくまで場所であり、目的ではないみたいですよ? それなら私は神社の仕事として彼に営業するのは当然のことです」
「だから、神社の仕事はウチの仕事でしょ!! あんたの所に引き込むのは約束が違うんじゃない!?」
「あらら、神社って博麗神社を指していたんですか? てっきり神社は二つあるからウチの事だと思っていました。負けた時の約束事は『私、疲れちゃったから神社の仕事やっておいてね』でしたっけ? 博麗、だなんて一言もついてなかったもので」
「私の代わりに仕事するんだから私の神社に決まってるでしょうが!!」

 すぐ終わる、とは言ったものの。早苗は明らかに霊夢を挑発している様子であり、その霊夢も頭に血が上っているのか、あっさりとそれに乗っている様子である。
 幻想郷の女性は大体相手のことを無視して自分たちだけで会話している。命蓮寺でもそうだったし、魔理沙も若干その気があったようにも感じられる。
 話している内容はあくまでドッピオ自身に対する事柄なのだが、話の内容はだいぶ逸れてきているようだった。

「とにかく! そういう人を騙すような手口でやるっていうならその人はあんたのところに行かせるつもりはないわよ!」
「何言ってるかわかりませんね、私は霊夢さんとの約束通りに仕事をやっているだけです。自分で言ったことを撤回するんですかー?」
「勝手な解釈が問題になってるんでしょうが! その調子を続けるんだったらここから出てってもらうわよ!」
「霊夢さんッ!!」

 今まで余裕ぶった口調だった早苗が、霊夢の発言をきっかけに強い口調で言葉を返す。
 手に持っていた箒を投げ出し、御幣を取り出すとその先を霊夢に向ける。

「自分で出した約束を自分で破るだなんて、巫女の、いえ人間として風上にも置けません! 無理にでも従わせるというのであればこの東風谷早苗、その決闘を受け入れましょう!!」

 御幣を持った右手に、左手には1枚のスペルカードを取り出し、決闘の宣言を受け入れる。
 霊夢も同じくスペルカードを1枚持ち、早苗に向かってそれを突きつける。

「誰も決闘を申し込むだなんていってなかったけど、つまるところもう一度やりあいたかっただけってことね。いいわ、今度は頭が上がらないほどにしてあげるわ!」

 その言葉と共に、二人は高く飛翔した。
 霊夢は、人間は地に足をつけるだけではない。もともと空をも飛べるのだと言わんばかりの自然さで。
 早苗は、逆巻く風をその身に受け。それでも、他所にはそよ風を受ける程度の優しさで。

「霊符『夢想封印』」
「秘術『グレイソーマタージ』」

 互いがスペルを宣言し、そろそろ夕暮れにも差し掛かる空には青だけではない、とりどりの色がひしめき合った。



 まるで、夢に出てくるような。いや、夢にも出てこないだろう。
 これほど美しい光景を、ドッピオは見たことがない。本や映像でも、こう表現するものはなかなか存在しない。
 ルネサンス期の絵画作品にも、まさか少女たちが弾幕を用いた、美しさを競う決闘を表現した作品はないだろう。

 霊夢は空を我が物とし、軽やかに舞う。自由を体現したその姿、まるで夢の世界にいるかのよう。
 幾重にも連なる早苗の弾幕をわざとなのか、それとも無意識なのか。当たるか当たらないかの瀬戸際の小さな動きで回避する。
 投げつける御札は霊夢の巫力か、自然と相手である早苗に対して向かっていく。上へ下へ適当に投げても、自然と相手に向かっていくのだ。

 早苗は風を従え、優美に踊る。奇跡と見まがうその姿、まさに神が舞い降りたよう。
 どこまでも追尾してくる霊夢の弾幕を理解し、確実に。ひきつけては直前に大きく動き、回避する。
 御幣を振る度に出てくる星形が早苗の力か、一直線に向かうものと、拡散し、広く散らばり霊夢の動きを制限する。

 もちろん二人は争っている。お互いの意見を通すために。
 もちろん二人は敵対している。今は相手を倒さなければ、みじめな思いをするのは自分だとわかっているからだ。
 それでも、二人は笑っていた。



「あー、うん。やっぱりこうなるよね」

 結局自分の事には目を向けずに『弾幕ごっこ』を始めた早苗に対して、ドッピオは呆れた顔を浮かべた。
 「すぐ終わらせる」とは言っていたが、このごっこ遊び、すぐに終わりそうにはない。なぜなら、どちらも実力が拮抗しているのだろう。わずかな被弾は見られるが決定的な一撃が入らないからだ。
 まだ牽制の段階であり、決着をつけるのはまだ先なのか。とどめの一撃と言わんばかりのものはまだ一輪のものしか見たことがないのでそのあたりは想像で補完するしかないのだが。

 弾幕は周りを傷つけることはないが、当たった時には軽い衝撃音を出して散る。それがどれほどのものかはわからないが、人体に当たったらある程度の痛みはあるのかもしれない。
 飛んでくる流れ弾を体を動かして避ける。が、どうやらおとなしく座って待っているわけにはいかない程度の頻度だ。
 どうやって待とうか考えたときに、ふと賽銭箱の隣の少女を思い出す。彼女はどうやって身を防いでいるのだろう?
 そちらに目をやると、少女は相変わらず本を読んだままである。その前には小さな人形が浮遊しており、手を交差した状態で佇んでいる。
 その視線に気づいたのか、本から目を上げドッピオを見ると、小さく手招きをした。
 こっちへ来なさい。そういった意図を読み取り、ドッピオは小走りで駆け寄っていく。
 その途中、少女の方に早苗の星が飛んでいく。危ない、と感じたその時には、小さな人形の目前で何かにぶつかり消え失せた。

「そっちで見てるのは危ないわよ。二人ともあんまり周りを気に掛けずに戦ってる。怪我をしたくないならこの子の後ろにいなさい」

 賽銭箱の隣まで来ると、その少女は右手を少し掲げるとわずかに指を動かす。すると本殿の奥から小さな人形が、ティーポットとカップ2つを持ってやってくる。
 それを少女の隣に置くと、その人形は先ほどから浮遊していた人形の隣に並び、同じように手を交差させる。
 近くで見ると、うっすらと赤い陣のようなものを出している。どうやらこれで弾幕を防いでいるようだった。

 その少女―アリス・マーガトロイド―はポットから紅茶を注ぎ、ドッピオにも渡す。
 東洋の雰囲気に似合わぬ物が出て少々驚いたが、今まで見た幻想郷の住人と違い、彼女は西洋の人間のように見える。
 紅茶の味は、ドッピオにも飲み慣れた、確かな欧風の風味だった。

「二人とも、いつもまああんな感じよ。周りを気にすることなく自分の事ばかり。まあ、それはここの誰にでも言えることなのだけれど」
「ええ。僕もそういうところなんだなぁとここに来てから何度もそう思いました」
「でしょうね」

 柔らかな物腰で話しかける。
 先ほどから人形を操り、その人形の姿は先に魔理沙から電話としてもらった人形とよく似ている。
 そう思ったのを見越したのか、先にアリスが口を開いた。

「私があなたが用があると探していたアリスよ。私に何の用かしら、外来者さん?」
「……あれ、外来人だなんて言いましたっけ?」
「さっきから見てれば誰でもわかるわよ。ここに不慣れすぎるし若干浮いた感じがするもの。それに、そんな変わった服装見たことないわ」

 そういわれてドッピオは自分の姿を見直す。確かに人里も和装が基本であり、洋服を着ている者は少なかった。
 ジーンズに切りこみの入ったトップスの服装……確かに、ここでは変わった服装だろう。

「そういう君も洋装じゃあないか。似合っていないというわけじゃあないけど」
「まあ、趣味の範囲ね。紅魔館の人たちとかは西洋の妖怪なんだし」
「紅魔館?」
「西の方にある霧の湖。そのほとりに立っているどこもかしこも真っ赤な洋館よ。有名どころを知らない辺りも外来人だからってことかしら?」

 くすくすと笑うアリス。馬鹿にされているかのように感じるその笑みに、少し不快な表情をドッピオは浮かべた。

「ごめんなさい、そういう意味で言ったわけじゃないんだったけれども」

 それに気づいたか、すぐに謝罪の言葉を述べた。

「実は、魔理沙から電話をもらったのだけれども、それのスイッチというか、電源が入っていないみたいで。入れるためには作った本人ができるだろうって」
「え、えーと。どういうこと?」

 ドッピオが大体魔理沙から聞いたことを説明するが、アリスは困惑した表情を浮かべて聞き直す。
 もらった人形を取り出して、アリスに見せながらもう一度説明する。

「えっと。人里で魔理沙からこれをもらったんだ。これは、電話というか、通信機なんだよね」
「そうね。確かに私が魔理沙にあげたものだわ。……どうしてあいつは誰かに渡すかな」
「今は使ってないから、って言ってくれたけど」

 ありのままに伝えると、アリスはこめかみを押さえて顔を伏せる。

「何やっているの……キノコの食べすぎで味噌にキノコでも生えたのかしら」
「どういうこと?」
「これはもともと私と魔理沙で会話するために作ったものだから、他の人が使えるように作ってないわ。持ち主のわずかな魔力を燃料として起動するものなの。わかりやすく言えば、魔理沙にしか使えないの」
「えっ」

 アリスから告げられた言葉に、ドッピオは驚きの声を上げる。

「魔理沙の言っていたことと違うじゃないか。魔理沙は今使えないのは私が悪戯に使ったからか、アリスが使えなくしたって」
「それも間違ってないんだけれどね。たく、あのパワー馬鹿。説明する気がないのか、気づける繊細な技術もないのか……。それ、貸してもらって?」

 ここにはいない対象に悪態を吐きながら、人形を貸すようにアリスは手を差し出す。
 何をするかはわからないが、元々の持ち主のようだし断る理由はない。それを素直に手渡す。
 少しそれを弄ると、裁縫道具を取り出した。
 同時に人形を一体浮かべ、ドッピオの頭に近づける。

「髪の毛一本もらうわよ」

 言うと同時にぷつり、とドッピオの頭皮から髪の毛を抜いた。

「何するのさ」
「あなたに合わせて作り直すの。人の髪は手軽に採取できる固有識別の付箋だからね」

 そういうと、人形から抜いた髪の毛を受け取り、通信人形の背中を裁縫道具で開いた。
 そして、慣れた手つきで丁寧に髪の毛を埋め込んでいく。
 じ、とアリスは人形を見つめると、表情を変えずにドッピオの方を向き、同じように眺める。
 少しの気味の悪さを感じると、再び人形の方に向きなおした。そして、繊細な手つきで人形の服を、髪を、表情を造り替えていく。

「……上手、なんだね」

 作業に集中し始めたのか、一言話しかけても返事は帰って来ず、作業の手も止めない。
 境内の方では、まだ二人は闘いを続けている。

「そろそろ勝負を決めてやるわ! 霊符『夢想封印』ッ!!」
「それはこちらのセリフです! 秘術『グレイソーマタージ』ッ!!」

 互いが符を眼前に構え、高く掲げてその力を開放する。
 霊夢からは多数多色の輝く光弾が現れ、それらが意思を持ったかのように早苗へ向かっていく。
 早苗からは巨大な蒼い星形が現れ、自分を覆い隠すように展開。ゆっくりと回転しながら霊夢の方へ向かっていく。

 複雑に動く光弾は、星の中心近くに存在する早苗目がけ向かい、彼女の秘術によって展開された結界によって消滅していく。
 その力を受け切ったからか、結界は霊夢に到達する前に力を失い掻き消えた。

「私の夢想封印をかき消すだなんて……ふうん、やるようになったじゃない」
「いつまでもあなたのようにぽやぽやしている私ではありません。時代は常に進んでいるのです!」

 霊夢の評価に対して早苗が啖呵を切ると、再び符を構え、その力を行使する。

「我が洩矢に遠く伝わる秘術よ、一子相伝のその力よ! 今その奇跡の行使のために形どれッ!!」

 先より熱が篭もっているのか。更に蒼白強めいた星形が出現し、回転を強めて霊夢に向かう。

「だけどそんな大きいだけのもの、避けられないとでも――」

 両手を交差させ、霊夢が何か行動をとろうとしていたその瞬間。

「えっ」

 霊夢の右手が不自然に高く掲げられ、その行動が中断される。
 その一瞬の空白。それが決定的な一瞬となり霊夢の回避するという選択肢を消した。
 徐々に回転と進行の速度を高めていく巨大な星は、円になるかと見紛う速度となって、無防備な霊夢にそのまま被弾する。

「うあああぁぁーーっ!」
「決着! 決着です!!」

 今まで弾を掠めてはいたものの、全くその身には受けていなかった。
 その体に巨大な弾幕が衝突し、重力の通りに地面に落ちていく。
 それを見たドッピオはその姿を見て危険と判断し、慌てて駆け寄ろうとした。
 だが、地面ぎりぎりで体はふわりと重力に逆らい、衝突することはなかった。伸びたままではあるが。

「心配ないわよ、それくらいで怪我するような落ち方をする霊夢じゃないわ。というか、そこまで危険なものじゃないわよ弾幕は」

 特に視線を合わせず、手も作業に掛けたままアリスがドッピオに話しかける。

「いや、そんなこといわれても……あの状態で落ちてるなら初めて見たなら危険に思うよ。誰だって」
「そう? ……まあそれが普通か」

 おそらく本当に何も心配していないだろう。子供が外でサッカーをやっていたとして、大人は大きな怪我をするとは思わない。それと同じように。
 そういえば一輪も妖精を攻撃することに、いくらいずれ復活する存在だとして、全く抵抗はなかった。
 追いつきづらいが、やはりそれが幻想郷の常識らしい。
 現に、早苗は満足そうな顔でゆったりと飛翔を止めて、霊夢に近寄っていく。

「今回は私の勝ちですねぇ。いやあ、最後に大きなチャンスができたので助かりましたよ」

 空中で伸びている霊夢を抱き起すと、霊夢も気を取り直したようで、地面に足を着き、そのままへたりと座り込む。意外とダメージはあったようだ。
 受けた体を擦りながら、早苗の方をジロ、と睨む。

「あんた、私に何した? ……いや、アリス?」

 先ほど勝手に動いた右手を触りながら、次にアリスを睨みつける。当の本人はその意に介さずドッピオのために人形を作る作業を続けている。
 代わりにそれに答えるように、早苗はアリスの方に近づいて、楽しそうに手を振りながら言った。

「アリスさーん、今度一緒に人里にできたスイーツ食べに行きましょうねー! 霧の湖付近で妖精が適当に育てたけどそれでも形が綺麗なイチゴとか太陽の花の隣側で毒人形と花の大妖が丁寧に育て上げたヨモギなどをふんだんに使ったその甘さは私が初めて食べた小豆大福のような味の各種大福5個入りセット そして幸せが訪れる、とかぁ~」

 やたら能書きが長く、すらすらと呪文のように唱えたその名前を告げて、アリスの手を取り満面の笑みで言う。
 アリスもいったん作業の手を止め、まんざらでもない様子で笑みを返す。

「ちょっと、ねえちょっと。いやおかしいでしょ。あれ、誰の仕業よアリス」
「言ったでしょう? 時代は常に進んでいるのです。稼ぎに入ってボム増やすのと変わりませんよ」
「やっぱりあんたら二人か!」

 霊夢が右手から、光の反射でようやく見えるほどの細い糸を出す。
 それを地面に放るともともと見えづらかったその糸は、最初から存在しなかったかのように立ち消えた。
 アリスはそんな霊夢を見ると、少し小馬鹿にしたように笑いながら、

「どうしてもって言われてね? お礼もくれるっていうし、あんたが先に気付いたらそれまで。全部早苗のせいにするつもりだったわ」
「確かに私から持ちかけた話ですからアリスさんを責めるのはお門違い。ですけどまさか最後まで気づかないなんて。これはアリスさんを褒めるべきなんですかねー?」
「むむー、ズルして負かされたのね。酷い話だわ」

 口調こそ不服そうだが、表情や態度では割と悔しがっている様子は見えない。
 体についた汚れを払いながら、少し伸びをしながら霊夢も戻ってくる。

「まあいいや、お客様を待たせてることだし。早めの決着でよかったのかも」

 そう、動こうとして出鼻をくじかれたドッピオに話しかけた。



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