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東方魔蓮記 第三十五話

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匿名ユーザー

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あくる日のこと……その『異変』は起こった。
何の前触れもなく、誰にも予測されることはなく。
何も知らない者から見れば本当に唐突な出来事だっただろう。


ディアボロと共に幻想郷入りした亀……ココ・ジャンボの中の部屋。
そこには、眠っているディアボロと、彼を起こそうとしているぬえがいた。
「ねー、起きてよ」
ぬえはディアボロに声をかけながら揺すり、それによってディアボロは目を覚ます。
「……もう朝か」
ディアボロはそう言ってベッドから起き上がる。
「そんなこと言っている場合じゃないよ!ついてきて!」
「……?」
ぬえの発言の意図が分からないまま、ディアボロはぬえの後を追って部屋からでた。


「……なんだこれは」
ぬえの後を追って本堂を出たディアボロは、目の前の光景に驚愕する。
沢山の霊がうようよしているのだ。
「ぬえ、お前はこれが何かわかるか?」
「わからないよ」
ディアボロの質問にぬえは即答する。
二人とも、この霊の正体も、そもそも何故この霊が出現したのかも理解できていないのだ。
「俺たちがこうして突っ立っていても『何もしてこない』……」
ディアボロはザ・ハンドのDISCを装備しながらそう呟く。
「……『害を与える存在』ではないのか?」
そう言ってはいるが、明らかに言っていることと取っている行動が正反対である。
明らかに彼はこの霊を警戒している。
「無害な存在を装って、『不意打ち』をしてくる可能性も否定できないが……」
ディアボロはそう言いながらザ・ハンドを出す。
「……駄目だ。俺たちじゃこいつらについて、『分からないことが多すぎる』」
だが彼は一つだけ確信していた。
この状況は、巫女が異変だと断定し、解決のために動くには十分だと。
他にも行動する者がいるかも知れないが、自分が解決に向かう必要はないと。

「おはよーございます」
……そして『彼女』は相変わらずである。
「……お前、この状況を目の当たりにしてよく平然としていられるな」
ディアボロは響子の挨拶を返す代わりに、呆れながら文句を入れる。
「だって他に何も起きないていないし、大丈夫だよ」
「少しは危機感持て」
響子の発言に、ディアボロはまた文句を言う。
「行くぞぬえ。この異変の解決は巫女たちに任せたほうが懸命のようだ」
そう言って本堂に戻るディアボロの後を、ぬえは追いかける。
この時は、寺の墓地が怪しいなどと二人は微塵も思っていないのであった……。



それから数日後……
異変の元凶が発覚し、妖怪界隈が大騒ぎとなっている頃。
命蓮寺に居候している『人間』であるディアボロの生活は本日も変わり……
「…………」
あった。
目が覚めると『自分』が自分を見ていた。
……いや、正確にはベッドに寝転がっているディアボロからみて左側から、『ディアボロがディアボロを覗き込んでいる』のだ。
幽体離脱とかそんなものではない。
彼が見ているのは目が開き、呼吸をして、しかしディアボロと違って立っている『彼自身』なのだ。
「…………」
状況を理解する必要なんてなかった。
今やらねばならないことは

目の前の『自分と同じ姿をした者』の正体を知ることだ。


ディアボロはキング・クリムゾンを出すと、こちらを見ていた隙をついて相手の首を掴んで持ち上げる。
この状況に追い込まれてもスタンドを出して抵抗してこないところから見て、幸いにも相手はスタンド使いでもなければスタンドをコピーする能力は持っていないようだ。
「お前は『誰』だ?」
ディアボロはキング・クリムゾンを少し後ろに下がらせ、ベッドから降りて『相手』を睨みながら質問する。
……完全に彼の雰囲気がギャングのボスの時と同じになっている。
「答えなければ……」
ヘブンズ・ドアーのDISCを差し込みながらのこの発言。
そして直後、相手の顔を本にしてしまった。
普通はこうなると対象は気絶してしまう。だが今回は違った。
今までと違って『本の状態のまま意識を取り戻す』という命令で相手の意識を強制的に取り戻させたのだ。
それにより、ディアボロの発言は相手にしっかりと聞こえる状態が続いている。
「お前の『記憶』が綴られたページを破り取る」
相手から冷や汗が垂れ始める。
ディアボロの放つ威圧感、『見えない何か』に首をつかまれている恐怖、自分の顔が本にされている怪現象。
相手に冷や汗をかかせる要素は十分にある。
「ページを破り取られると、体力と体重が激減する。それを繰り返せば、やがては衰弱死……かもな」
そう言ってディアボロは本になった相手の『ページ』の端を掴む。
そのまま力を込めて引っ張れば、ページを破り取ることが可能だ。
「だが、優先すべきは『お前の正体』を知ることだ」
そう言ってディアボロは相手のページをめくり始める。
そして、あるページを見つけたところで、彼がページをめくるのを止める。
「……ん?」
そこには、見覚えのある名が綴られていたからだ。
その後殆どのページを飛ばして最後の10ページほど見ると、先ほど書いた命令をこすって消し、ヘブンズ・ドアーの能力を解除して、キング・クリムゾンを戻す。
「なるほど、お前はぬえの知り合いだったのか」
キング・クリムゾンが消えたことで、再び問題なく呼吸ができるようになった『相手』は、荒い呼吸をしている。
「まったく……とんでもない男じゃな」
ようやく口を開いた相手の口調は、ディアボロとは全く異なっていた。
「俺に化けて現れたのが悪い」
ディアボロはベッドに座り、未だディアボロの姿のままの相手を見る。
「名は二ッ岩(ふたついわ)。佐渡に暮らしており、皆からマミゾウと呼ばれる……ぬえとは旧友の間柄か。幻想郷にきた理由もお前の記憶を見て理解した」
「……本当に儂の記憶を読んだというのか」
名前、暮らしていた場所、皆から呼ばれていた名前、ぬえとの関係。
それらを何一つ彼に話していないのに、彼は全て言い当てた。
「もう正体はばれたんだ、変化を解いたらどうだ?」
ディアボロは先ほどとは真逆の、優しい雰囲気で『相手』……いや、マミゾウに声をかける。



「おぬしに化けておぬしを驚かしてやろうと思ったら、驚くどころか逆に殺されかけるとはのう……」
「お前が普通に姿を見せれば何もしなかったんだがな」
変化を解いて元の姿に戻ったマミゾウは、ソファーに座ってディアボロと会話する。
「ぬえからは優しい人間だと聞いてはいたが、まさかこんな一面があるとは驚きじゃよ」
「昔色々あってな。『敵』と判断した奴を攻撃することに躊躇いはない」
……ディアボロのその言葉によって3秒ほどの静寂が発生した。
マミゾウが何も言わないことを確認したディアボロは、会話を続ける。
「安心しろ。命までは取らないし、そもそも相手から攻撃されるか宣戦布告されない限りこちらも手を出さない」
ディアボロはそう言った後、ため息をついて会話を続ける。
「が、さっきのあれは例外だ。あんなことをされたら邪推してしまうぞ」
「なあに、狸は人を化かして戸惑う姿を見るのが大好物なのじゃよ。おぬしがああしてくるのは予想外だったがのう」
マミゾウはそう言って笑うのに対し、ディアボロは表情一つ変えない。
「まあいい、これ以上の追及はしないでおこう。『俺に成り済ます』気がないならあれ以上攻撃する理由は今のところないからな」
ディアボロはそう言ってヘブンズ・ドアーのDISCを額から取り出してケースに入れる。
「少々悪ふざけがすぎたが、これからもよろしくのう。ディアボロ」
「よろしくな」
ぬえに呼ばれて幻想郷に『やってきた』マミゾウ。
紫によって『幻想入りさせられた』ディアボロ。
元々いた地は異なれど『幻想郷の外』からやってきたという共通点を持つ二人。
これからこの二人は、仲良くやっていけるのだろうか?





マミゾウが唐突に、上……この部屋の出入り口を見て手招きをする。
「やっほー!」
それを待っていたかのように、ぬえが亀の中に入ってきた。
……いや、たぶん入口から覗き込んで待っていたのだろう。
そうでなければ、こうも都合のよいタイミングで亀の中に入ってこれた理由が分からない。
ディアボロは目が覚めた直後から出入り口を見ていなかったため、覗き込まれているのかどうかわからなかったのだ。
「ぬえ、あの寝起きドッキリはお前が考えたのか?」
「ディアボロがどんな反応をするのかな?って思ってマミゾウにやらせてみたんだけど……」
「儂やぬえの予想とは大きく異なる結果だったのう」
ディアボロの質問に、ぬえはいつもと変わらぬ様子で答え、マミゾウは少し困った感じで答えた。
「あの時のおぬしから放たれていた殺気は、今まで感じてきた中で一番強かったぞい……」
そう話すマミゾウは先ほどの出来事を思い出したのだろうか、少し怯えているようにも見える。
突然首を『何か』に掴まれ、とてつもなく強い殺気を感じたのだから無理はないかもだろう。
「あの時は何も知らなかったとはいえ、悪いことをしたな」
ディアボロが自らの非を詫びるというのもなかなか珍しい。
まあ、何も知らなかったから仕方ないのかも知れないが……。
「珍しいね、ディアボロが謝るなんて」
ぬえは少し驚いているようだ。
「俺でも謝るときはちゃんと謝るぞ」
ディアボロは呆れながら三度文句を言う。
彼が『ちゃんと謝れる人』かどうかは今まで幻想郷の誰にもわからなかったため、あの発言は仕方ないのかもしれない。
「へー」
ぬえは感心したかのような返事をする。


「そういえばマミゾウの記憶を読んでわかったが、重要な話があるんだろう?」
ディアボロの言ったその一言で、先ほどまで緩かった雰囲気が一気に引き締められる。
「うん」
ぬえは真剣な表情でディアボロの質問に答える。
「『封印された聖人が復活した』とぬえから聞いておったが、本当だったようじゃな」
マミゾウもまた真剣な表情で会話する。
「その聖人に関してなんだが……」
ディアボロの発言。それは……
「今そいつに手を出すのは『やめておいた方がいい』」
二人に自制を求める内容だった。
「!?」
「どういう意味なの!?」
その発言に二人とも驚いた。
ぬえはマミゾウを『妖怪側の切り札』として幻想郷に呼び、マミゾウも旧友(ぬえ)の要請に応じた。
だが、そのタイミングでぬえが信頼する者に聖人に挑むのを止めるように言われてしまったのだから、驚くのも当然だろう。

「よく考えてみろ。妖怪の群れを率いて『聖人』に戦いを挑んだところで、それが妖怪を排他させる動機として使われるだけだ」
「じゃが、並大抵の人間では妖怪には勝てぬぞ?排除することなど、容易ではあるまいて」
ディアボロの意見にマミゾウが疑問を述べる。
確かに、妖怪の排他を信者に実行させたところで、並大抵の人間は妖怪には勝てない。
「ああ、それは俺も『理解』している。ここまでなら大した問題ではない。妖怪を嫌悪するものでなければ、せいぜい『妖怪の群れが聖人に戦いを挑んだ』という出来事として認識される程度で終わるだろう」
だがその疑問は彼にとって想定済みのようだ。
「だがもう一つの問題は、仮に蜂起を実行して、命蓮寺に暮らすぬえやその旧友であるマミゾウが妖怪の蜂起の『切欠』だと発覚した場合だ」
ディアボロは真剣な表情のまま、もう一つの問題を二人に説明する。
「もしも『聖人』が、『ぬえの行動は白蓮の命令によって行われたものだ』と嘘をついたらどうなるとおもう?」
「……」
ぬえは何も言えなかった。
白蓮に恩返しをしようと思ってとった行動が、逆に彼女を苦しめる可能性があることに気づいたからだ。
「白蓮が非難を受けるだろうし、それを口実に巫女や聖人たちがここを攻めてくる可能性も十分にある。それに最悪の場合、命蓮寺で内部分裂が起こる可能性もある」
ディアボロはかなり『危惧』していた。
今二人が動いて聖人たちに戦いを挑むことそのものと、その戦いでぬえとマミゾウが『首謀者』、あるいは『切欠となった者』として扱われた場合についてだ。

「じゃあどうすればいいの!?」
ぬえは声を荒げてディアボロを問い詰める。
自分の取ろうとした行動を真っ向から否定するなら、それなりの意見を彼はもっているはずだろう。
「今はまだ『待て』。俺たちは聖人に関する情報を『全く持っていない』んだ。むやみに攻めることは、後々相手に反撃をさせる口実になる」
ディアボロはぬえの荒げた声にも動じず、冷静に説得していく。
「相手がこちらを滅ぼす気がないのならそれでよし。妖怪を排他するために力を蓄えているならこちらもそれに備えておけばいい」
「つまり、『聖人』が妖怪に敵対する存在であるか否かを見極めてからでも遅くはない……ということじゃな?」
ディアボロの意見を『理解』したマミゾウは、彼の言葉の意味を確認するため、もう一度質問する。
「そういうことだ。ぬえ、焦って判断を誤るな」
ディアボロはマミゾウの質問に答え、ぬえに冷静になる様に促す。
「……分かった」
意外にも、ぬえはあっさりとディアボロの意見を受け入れた。
白蓮への恩返しのつもりが仇になりうることを理解したのと、彼女が信頼しているディアボロからの説得というのもあっただろう。
ひょっとすると、マミゾウが彼の意見を否定しないというのも一因なのかもしれない。
「真剣な話はこれくらいでいいだろう。俺も長々と説教するような奴じゃないしな」
ディアボロはそう言いながらソファーに移動して座る。
その間、ぬえはずっと俯いていた。
そして少し考えて……


「……そうだ」
何か思いいたようだ。
「気分を悪くしたお詫びに、俺が幻想郷を探検したときの話をしてやろうか?」
「そういえばぬえによるとたまにどこかにでかけていたようじゃが……そんなことをしていたとはのう」
一応、出かけるときは命蓮寺に住む誰かにその旨を伝えているので問題はないのだが……。
そして、マミゾウは笑みを浮かべて
「面白そうじゃな。語ってくれるかのう?」
ディアボロに話すように言った。
「私も聞いてみたい」
ぬえもディアボロの『話』に興味を持ったようで、俯いていた先ほどとは一転、顔を上げて笑みを浮かべてる。
「そうだな、まずは……太陽の畑という場所について話すとしようか」
幻想郷の各所を見て回った男の体験談という、滅多に聞けないお話をこれから二人は聞くことになる。
その物語は二人にどんな印象を与えるのだろうか。

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