承太郎の姿をしたディアボロは、マミゾウと狸がいる森の開けた場所へと歩いていく。
まだ向こうは彼に気づいていない。
「(反応は正面からのみ、そして正面にいるのはマミゾウ達だけ……)」
エアロスミスのレーダーは二酸化炭素に反応する。が、虫のように呼吸が弱い場合は探知することができない。
ずっと息を止めているか、呼吸を必要としない者でもいなければ、この場にはディアボロとマミゾウと狸しかいないことになる。
「(このまま向かっても大丈夫だろう)」
歩きながら安全を確認し、そのままマミゾウのもとに接近する。
開けた場所に向かっているうちに、マミゾウ達がこちらを振り向いた。
どうやらこちらに気づいたようだ。
「おやおや、人間がこんなところにいるとは珍しいのう」
「……ただ単に道に迷っただけだ」
出会ったのが偶然であるかのように装い、マミゾウとの会話を始める。
「どうやら人だと思ったら妖怪だったようだな。……まあいい」
ディアボロはそう言って地面に座る。
「歩きすぎて疲れた。少しの間でいいからここで休ませてくれ」
寝そべりはしないが、ため息もついて肩の力を抜く。
妖怪の目の前でそんな状態になるなんて無謀にも程があるのだが、襲い掛かってもイエローテンパランスなら容易く対処できる。
「……」
マミゾウは目の前の男の大胆な行動に呆気に取られている。
まあ、目の前の男の正体がディアボロなどとは知る由もないが、見ず知らずの男がいきなりやってきて目の前で座って「休ませてくれ」なんて言われたら返す言葉が思いつかないだろう。
狸たちは警戒しているが、彼はまったく気にしていない。
「大胆な男じゃのう……」
マミゾウは眼前の恐れ知らずな男を見てそう呟く。
その体躯がもたらす力に自信があるのか、それとも襲われた時に反撃する術を持っているのか。
男の正体も考えも知らない彼女も、承太郎の姿をしたディアボロを警戒せずにはいられなかった。
「安心しろ。そっちが襲ってこないなら、こっちもお前らを攻撃しない」
ディアボロはそういうと周囲を見る。
狸と目が合うとより相手の警戒心が強まる……ような気がする。
条件付きで襲わないと公言したとはいえ、突然やってきた見ず知らずの大男の発言を信じろという方が難しい。
殺気はまだ発してはいないが、恐らくマミゾウが信頼しなければ狸たちも今のディアボロを信用しないだろう。
「お主、儂らが怖くないのか?」
「化ける前の狸なら、下手に手を出さなければ問題ない」
マミゾウの問いに答えながら、気づかれないようにエアロスミスのレーダーをもう一度見る。
反応の数に変更はなし、遠くの反応もなし。『呼吸を必要とするもの』はこの場にはいないことになる。
「化けておったら?」
「そもそも狸だと気づかない。だから怖くはない」
狸が化ける瞬間をディアボロは『見たこと』はない。
マミゾウが尻尾が隠せていないことがあることは知っているが、もしも尻尾を隠せている状態だったらディアボロも正体がマミゾウであることに気づけないだろう。
「……」
二つの問いの答えにマミゾウはまた沈黙する。
「(こやつ……何を考えておる?)」
(イエローテンパランスを使っているとはいえ)ポーカーフェイスなディアボロを見て、マミゾウも彼を警戒し始める。
敵意も感じ取れず、表情も変化せず、なおかつあまり喋ろうとしないその様子を見れば、この反応も自然なものだろう。
「(警戒されているな……当然か)」
マミゾウと狸の様子を見たディアボロは、少し待つことにする。
相手の出方次第で、こちらも手段を考えなくてはならないからだ。
「(相手の機嫌を損ねるわけにはいかないが、唐突におだてても疑われるだけか)」
何としてもマミゾウの協力を得たいディアボロにとって、相手方の機嫌を損ねるのはマズいことだ。
しかしここでイエローテンパランスの能力を解除しても、変装して自分と会ったことにあらぬ疑いを掛けられるかもしれない。
マミゾウと出会って『まだ1日も経っていない』のだ。ぬえとの関係が良好なおかげである程度の信頼は得られているかもしれないが、まだその信頼は強固なものではない。
ディアボロの態度を見て、マミゾウはある疑問を抱く。
「(何故こやつは儂らの側にいながらこんなに無防備でいられるんじゃ?)」
マミゾウが幻想郷にやってきてからあまり経っていない。
しかし、幻想郷の外にいたときに彼と会ったことはない。
まだここであまり名が知られていない中で、彼はどうしてこんなに無防備な状態でいられるのだろうか。
『妖怪が襲ってくるとは限らない』という見た目と違ってお花畑思考の持ち主なのか、或は襲われてもいいと思っているおかしな奴なのか。
「お主、儂らが襲ってくると思わないのか?」
「襲ってこないなんて初めから思っていない」
マミゾウの問いに対し、ディアボロは体勢も表情も変えることなく答える。
それは彼の思考がお花畑に染まったわけではないことを意味していた。
「ほう、襲ってくるかもしれないと分かっていながら、自ら儂らの元に来たというのか」
「そういうことだ」
笑みを浮かべるマミゾウに、ディアボロはやはり表情一つ変えずにマミゾウに質問をする。
「お主、面白い奴じゃのう」
「…………」
ディアボロには今マミゾウが浮かべている笑みがどんなものかよくわかっていた。
……あの笑みは間違いなく悪いことを考えているときの笑みだった。
「気に入ったぞい。少々遊びに付き合ってもらおうかのう」
それを聞いてもディアボロは動じない。
まだ『遊び』がどんな内容なのかを聞いていないからだ。
「遊びの内容は何だ」
「お主のその体格なら体力も十分あるじゃろう」
マミゾウはそう言って少し考え、何かを思いつく。
「そうじゃ、弾幕ごっこなんてどうかのう?」
「…………」
確かに空条承太郎を模したこの外見の体格は相当いいものだ。
だからといって、(外見上は)ただの人間に弾幕で勝負するなどという発想は如何なものか……。
「お主が儂の弾幕から逃げ切ればお主の勝ち。お主が負けを認めるか、お主が耐えられない程に被弾したら儂の勝ちじゃ」
そう言ってマミゾウは宙に浮き始める。
「(……ここで駄々をこねたところで、マミゾウとの関係を悪くするだけだな)」
ディアボロは無言で立ち上がり、浮いているマミゾウを睨む。
「文句を言っても聞き入れてもらえないだろうから相手をするが……」
ディアボロは狸達の方を見て、何もしてくる様子がないことを確認すると、もう一度マミゾウを睨んで会話を続ける。
さらに、ディアボロがマミゾウを睨んだ直後、彼の手元で空気が凍りつく。
ホルス神のスタンド能力だ。
「反撃されても、文句を言うんじゃあないぞ」
その氷は槍の形をかたどっていき、その光景をマミゾウは面白そうに見ていた。
そして、完成した氷の槍をディアボロは素手(実際はイエローテンパランス越しにだが)で掴み、マミゾウの様子を伺う。
「成程、儂らが妖怪だと分かっていて動じずにいられる理由は『それ』だったのか」
「生憎だが、無抵抗でやられるわけにはいかないんでな」
それを聞いたマミゾウはニヤリと笑い
「どうやら儂の予想以上に面白くなりそうじゃ。……では、始めるぞい!」
そう言ってマミゾウが弾幕を撃ち始めたのを切欠に、弾幕ごっこが始まった。
マミゾウの撃ち始めた弾幕を、エアロスミスに装備されている機銃で相殺したり、走って避けながら、ディアボロは氷の槍を投げるチャンスを探る。
今はジャンピン・ジャック・フラッシュのDISCを装備していない上に、装備しているDISCを変更しようとするところを見られれば正体がばれるか自分の関与を疑われる。
それに、槍を投げるタイミングが悪ければ弾幕に撃ち落されてマミゾウに掠りもしない。
そのうえ、確実にマミゾウの元まで槍を投げるためには『槍を持つことができる姿をしており』、『ある程度のパワーとスピードを併せ持つ』必要がある。
これではディアボロの方が圧倒的に不利。疲弊するのも確実にディアボロの方が先。
こいしの時のように氷柱の弾幕を撃とうにも、弓やボウガンのように勢いよく飛ばすかかなり距離を詰めなければマミゾウに当てることはかなり難しい。
そのままでは放物線の最も上のあたりで当てようとするようなものだ。威力も期待できないだろう。
この条件下で、ディアボロは被弾を避けつつ氷の槍を命中させなければならない。
かなり難しいが、やるしかない。
ディアボロは走りながらスタープラチナを出し、氷の槍を持たせて狙いを定め始める。
そのままディアボロは弾幕を避け続け、スタープラチナはマミゾウに狙いを定めた!
「オラァァァァァァァァァ!」
スタープラチナが叫びながら投げた氷の槍は
「ぬおっ!?」
残念ながらマミゾウに避けられる。
だが、氷の槍が彼女の予想を上回るスピードで飛んできたためか、彼女は驚きながら避けた。
「(外したか……)」
外したものの、スタープラチナならマミゾウまで十分届く勢いで投げれることが確認できた。
後は、『如何にして命中させるか』である。
スピードを擬似的に上げるためにメイド・イン・ヘブンの能力を使おうとすれば、精密動作性の低下等は避けられない。
DISCを変えるチャンスもない以上、スタープラチナのままの方がいいだろう。
とっておきにはなるが、時を止めるという手もある。
ディアボロは再び氷の槍を作ると、マミゾウが再び撃ち始めた弾幕を回避すべくまた走り出した。
……やはり明らかに体力の消耗の早さに差がありすぎる。
走って避けなければならないディアボロに対して、マミゾウは空中を移動すればいいため、体力をあまり消耗することなく弾幕をディアボロに撃てる。
周りが開けている故に隠れることもできない(が、おかげでマミゾウを見失うこともない)。
氷の槍を投げるタイミングと狙いを定めるのはスタープラチナに任せ、弾幕を避けながら一定の距離を保ち続ける。
そしてスタープラチナはタイミングを計り……二本目を投げる!
投げられた氷の槍は弾幕の隙間を一直線に通り抜けてマミゾウの元へと飛んでいく。
マミゾウは二本目の槍を避けるが、ディアボロは今度は2本同時に作ると、再び走って弾幕を回避する。
そして少しの間走ると、その内の一本をあえてマミゾウの頭上を越えるようにスタープラチナに投げさせる。
下手に動かなければ当たらないのが分かっている以上、マミゾウは動かない。
……槍『だけ』が飛んできたのなら。
マミゾウは見逃さなかった。
氷の槍に、男の上着の布(本当はイエローテンパランスの肉だが……)が幾つも絡まっており、彼がその布を掴んでいることを。
そして理解した。
その糸と氷の槍を利用して、彼は自分の元まで引っ張られてくるつもりだということを。
ディアボロは氷の槍に引っ張られ、マミゾウの元へと一直線に飛んでいく。
当然、マミゾウもただ見ているわけではない。
『引っ張られている』ということは、彼の軌道も引っ張っている物の後を追う形になる。
どう進んでくるのかが分かりやすい以上、対処法もさほど難しくない。
マミゾウは弾幕を撃ち続ける。
エアロスミスの射撃によって幾つかは相殺されているとはいえ、弾数ではあちらの方が上。
弾幕は氷の槍、イエローテンパランス、ディアボロに次々と命中していく。
氷の槍に弾幕が何発も命中したことにより、その衝撃で勢いを失い、落下していく。
それに引っ張られてディアボロも落ちていくのが、その瞬間にもう一本の氷の槍をスタープラチナに投げさせる。
同時にイエローテンパランスに落下するはずだった氷の槍を引き寄せさせ、ホルス神の冷気で修復を行う。
もう一本の氷の槍にも上着を模したイエローテンパランスの肉が絡まっており、スタープラチナに投げられたことで推進力を得た氷の槍は、弾幕の中をただ真っ直ぐ進んでいく。
ディアボロの奇策によって距離が詰められていく。
それでもまだ距離を詰めなければならない。
しかもイエローテンパランスの肉で捕まえようと伸ばした場合、何らかしらの要因でイエローテンパランスが切り離され、マミゾウを喰らってしまう可能性が否定できないのだ。
TEMPERANCE……『節制』のアルカナを由来としながら、制御下から離れると『貪欲に喰らう』その能力は、与える名前を間違えたのではないのかと思われてもおかしくはない。
幸い、自分に纏わりつかせていれば制御が効くので、スタープラチナか自分で捕まえることにする。
「面白い方法で距離を詰めてきたのう」
「てっとり早く接近するにはこれがいいと思ってな」
短い会話を交わしながら距離を取ろうとするマミゾウと、かなり無茶苦茶な方法で距離を詰めていくディアボロ。
化け狸達が見届ける中で、この少々変わった闘いは続いていく。
3回目に投げた氷の槍も撃ち落され、ディアボロはすぐにもう一本の氷の槍を投げる。
今までとは違い、高低差、距離共に縮まった今ならマミゾウの元まで先ほどより早く届くようになる。
マミゾウが今までのように難なく槍を避け、位置を変えようとしたその時。
彼女の動きが突如止まった。
周囲も静寂に包まれ……ているかと思いきや、空を切る音が聞こえる。
空を切る音の発生源は……もう一本の氷の槍だった。
その氷の槍は、先ほどの氷の槍とはマミゾウを挟んで反対側の方向で動きを止める。
ちょうど、二本の氷の槍にマミゾウが挟まれる形だ。
直後、二本の槍は同時に動き出し、それらに引っ張られる形でディアボロはマミゾウとの距離を急速に縮めていく。
マミゾウは咄嗟に上へと移動するが、ディアボロから目を離さなかったせいで……。
ベキィン!
ホルス神の能力で作られた氷の板が落下してきてマミゾウの頭にぶつかってしまう。
薄いおかげか、それとも上昇の勢いのせいか、氷の板にヒビが入ったのだが今はどうでもいい。
その間に距離を詰めれればそれで十分だったのだから。
スタープラチナがマミゾウを捕まえる。
それを確認したディアボロはイエローテンパランスに氷の槍を離させる。
こうなると当然慣性の法則に従ってある程度進んだ後落ち始めるのだが、マミゾウを捕まえた今なら別にかまわない。
だがマミゾウを盾にそのまま地面に落ちようとすると、スタープラチナを自分の手前に移動させると弾幕を撃たれるのは目に見えてわかっている。
そこで、ディアボロがとった行動とは……!
まだ向こうは彼に気づいていない。
「(反応は正面からのみ、そして正面にいるのはマミゾウ達だけ……)」
エアロスミスのレーダーは二酸化炭素に反応する。が、虫のように呼吸が弱い場合は探知することができない。
ずっと息を止めているか、呼吸を必要としない者でもいなければ、この場にはディアボロとマミゾウと狸しかいないことになる。
「(このまま向かっても大丈夫だろう)」
歩きながら安全を確認し、そのままマミゾウのもとに接近する。
開けた場所に向かっているうちに、マミゾウ達がこちらを振り向いた。
どうやらこちらに気づいたようだ。
「おやおや、人間がこんなところにいるとは珍しいのう」
「……ただ単に道に迷っただけだ」
出会ったのが偶然であるかのように装い、マミゾウとの会話を始める。
「どうやら人だと思ったら妖怪だったようだな。……まあいい」
ディアボロはそう言って地面に座る。
「歩きすぎて疲れた。少しの間でいいからここで休ませてくれ」
寝そべりはしないが、ため息もついて肩の力を抜く。
妖怪の目の前でそんな状態になるなんて無謀にも程があるのだが、襲い掛かってもイエローテンパランスなら容易く対処できる。
「……」
マミゾウは目の前の男の大胆な行動に呆気に取られている。
まあ、目の前の男の正体がディアボロなどとは知る由もないが、見ず知らずの男がいきなりやってきて目の前で座って「休ませてくれ」なんて言われたら返す言葉が思いつかないだろう。
狸たちは警戒しているが、彼はまったく気にしていない。
「大胆な男じゃのう……」
マミゾウは眼前の恐れ知らずな男を見てそう呟く。
その体躯がもたらす力に自信があるのか、それとも襲われた時に反撃する術を持っているのか。
男の正体も考えも知らない彼女も、承太郎の姿をしたディアボロを警戒せずにはいられなかった。
「安心しろ。そっちが襲ってこないなら、こっちもお前らを攻撃しない」
ディアボロはそういうと周囲を見る。
狸と目が合うとより相手の警戒心が強まる……ような気がする。
条件付きで襲わないと公言したとはいえ、突然やってきた見ず知らずの大男の発言を信じろという方が難しい。
殺気はまだ発してはいないが、恐らくマミゾウが信頼しなければ狸たちも今のディアボロを信用しないだろう。
「お主、儂らが怖くないのか?」
「化ける前の狸なら、下手に手を出さなければ問題ない」
マミゾウの問いに答えながら、気づかれないようにエアロスミスのレーダーをもう一度見る。
反応の数に変更はなし、遠くの反応もなし。『呼吸を必要とするもの』はこの場にはいないことになる。
「化けておったら?」
「そもそも狸だと気づかない。だから怖くはない」
狸が化ける瞬間をディアボロは『見たこと』はない。
マミゾウが尻尾が隠せていないことがあることは知っているが、もしも尻尾を隠せている状態だったらディアボロも正体がマミゾウであることに気づけないだろう。
「……」
二つの問いの答えにマミゾウはまた沈黙する。
「(こやつ……何を考えておる?)」
(イエローテンパランスを使っているとはいえ)ポーカーフェイスなディアボロを見て、マミゾウも彼を警戒し始める。
敵意も感じ取れず、表情も変化せず、なおかつあまり喋ろうとしないその様子を見れば、この反応も自然なものだろう。
「(警戒されているな……当然か)」
マミゾウと狸の様子を見たディアボロは、少し待つことにする。
相手の出方次第で、こちらも手段を考えなくてはならないからだ。
「(相手の機嫌を損ねるわけにはいかないが、唐突におだてても疑われるだけか)」
何としてもマミゾウの協力を得たいディアボロにとって、相手方の機嫌を損ねるのはマズいことだ。
しかしここでイエローテンパランスの能力を解除しても、変装して自分と会ったことにあらぬ疑いを掛けられるかもしれない。
マミゾウと出会って『まだ1日も経っていない』のだ。ぬえとの関係が良好なおかげである程度の信頼は得られているかもしれないが、まだその信頼は強固なものではない。
ディアボロの態度を見て、マミゾウはある疑問を抱く。
「(何故こやつは儂らの側にいながらこんなに無防備でいられるんじゃ?)」
マミゾウが幻想郷にやってきてからあまり経っていない。
しかし、幻想郷の外にいたときに彼と会ったことはない。
まだここであまり名が知られていない中で、彼はどうしてこんなに無防備な状態でいられるのだろうか。
『妖怪が襲ってくるとは限らない』という見た目と違ってお花畑思考の持ち主なのか、或は襲われてもいいと思っているおかしな奴なのか。
「お主、儂らが襲ってくると思わないのか?」
「襲ってこないなんて初めから思っていない」
マミゾウの問いに対し、ディアボロは体勢も表情も変えることなく答える。
それは彼の思考がお花畑に染まったわけではないことを意味していた。
「ほう、襲ってくるかもしれないと分かっていながら、自ら儂らの元に来たというのか」
「そういうことだ」
笑みを浮かべるマミゾウに、ディアボロはやはり表情一つ変えずにマミゾウに質問をする。
「お主、面白い奴じゃのう」
「…………」
ディアボロには今マミゾウが浮かべている笑みがどんなものかよくわかっていた。
……あの笑みは間違いなく悪いことを考えているときの笑みだった。
「気に入ったぞい。少々遊びに付き合ってもらおうかのう」
それを聞いてもディアボロは動じない。
まだ『遊び』がどんな内容なのかを聞いていないからだ。
「遊びの内容は何だ」
「お主のその体格なら体力も十分あるじゃろう」
マミゾウはそう言って少し考え、何かを思いつく。
「そうじゃ、弾幕ごっこなんてどうかのう?」
「…………」
確かに空条承太郎を模したこの外見の体格は相当いいものだ。
だからといって、(外見上は)ただの人間に弾幕で勝負するなどという発想は如何なものか……。
「お主が儂の弾幕から逃げ切ればお主の勝ち。お主が負けを認めるか、お主が耐えられない程に被弾したら儂の勝ちじゃ」
そう言ってマミゾウは宙に浮き始める。
「(……ここで駄々をこねたところで、マミゾウとの関係を悪くするだけだな)」
ディアボロは無言で立ち上がり、浮いているマミゾウを睨む。
「文句を言っても聞き入れてもらえないだろうから相手をするが……」
ディアボロは狸達の方を見て、何もしてくる様子がないことを確認すると、もう一度マミゾウを睨んで会話を続ける。
さらに、ディアボロがマミゾウを睨んだ直後、彼の手元で空気が凍りつく。
ホルス神のスタンド能力だ。
「反撃されても、文句を言うんじゃあないぞ」
その氷は槍の形をかたどっていき、その光景をマミゾウは面白そうに見ていた。
そして、完成した氷の槍をディアボロは素手(実際はイエローテンパランス越しにだが)で掴み、マミゾウの様子を伺う。
「成程、儂らが妖怪だと分かっていて動じずにいられる理由は『それ』だったのか」
「生憎だが、無抵抗でやられるわけにはいかないんでな」
それを聞いたマミゾウはニヤリと笑い
「どうやら儂の予想以上に面白くなりそうじゃ。……では、始めるぞい!」
そう言ってマミゾウが弾幕を撃ち始めたのを切欠に、弾幕ごっこが始まった。
マミゾウの撃ち始めた弾幕を、エアロスミスに装備されている機銃で相殺したり、走って避けながら、ディアボロは氷の槍を投げるチャンスを探る。
今はジャンピン・ジャック・フラッシュのDISCを装備していない上に、装備しているDISCを変更しようとするところを見られれば正体がばれるか自分の関与を疑われる。
それに、槍を投げるタイミングが悪ければ弾幕に撃ち落されてマミゾウに掠りもしない。
そのうえ、確実にマミゾウの元まで槍を投げるためには『槍を持つことができる姿をしており』、『ある程度のパワーとスピードを併せ持つ』必要がある。
これではディアボロの方が圧倒的に不利。疲弊するのも確実にディアボロの方が先。
こいしの時のように氷柱の弾幕を撃とうにも、弓やボウガンのように勢いよく飛ばすかかなり距離を詰めなければマミゾウに当てることはかなり難しい。
そのままでは放物線の最も上のあたりで当てようとするようなものだ。威力も期待できないだろう。
この条件下で、ディアボロは被弾を避けつつ氷の槍を命中させなければならない。
かなり難しいが、やるしかない。
ディアボロは走りながらスタープラチナを出し、氷の槍を持たせて狙いを定め始める。
そのままディアボロは弾幕を避け続け、スタープラチナはマミゾウに狙いを定めた!
「オラァァァァァァァァァ!」
スタープラチナが叫びながら投げた氷の槍は
「ぬおっ!?」
残念ながらマミゾウに避けられる。
だが、氷の槍が彼女の予想を上回るスピードで飛んできたためか、彼女は驚きながら避けた。
「(外したか……)」
外したものの、スタープラチナならマミゾウまで十分届く勢いで投げれることが確認できた。
後は、『如何にして命中させるか』である。
スピードを擬似的に上げるためにメイド・イン・ヘブンの能力を使おうとすれば、精密動作性の低下等は避けられない。
DISCを変えるチャンスもない以上、スタープラチナのままの方がいいだろう。
とっておきにはなるが、時を止めるという手もある。
ディアボロは再び氷の槍を作ると、マミゾウが再び撃ち始めた弾幕を回避すべくまた走り出した。
……やはり明らかに体力の消耗の早さに差がありすぎる。
走って避けなければならないディアボロに対して、マミゾウは空中を移動すればいいため、体力をあまり消耗することなく弾幕をディアボロに撃てる。
周りが開けている故に隠れることもできない(が、おかげでマミゾウを見失うこともない)。
氷の槍を投げるタイミングと狙いを定めるのはスタープラチナに任せ、弾幕を避けながら一定の距離を保ち続ける。
そしてスタープラチナはタイミングを計り……二本目を投げる!
投げられた氷の槍は弾幕の隙間を一直線に通り抜けてマミゾウの元へと飛んでいく。
マミゾウは二本目の槍を避けるが、ディアボロは今度は2本同時に作ると、再び走って弾幕を回避する。
そして少しの間走ると、その内の一本をあえてマミゾウの頭上を越えるようにスタープラチナに投げさせる。
下手に動かなければ当たらないのが分かっている以上、マミゾウは動かない。
……槍『だけ』が飛んできたのなら。
マミゾウは見逃さなかった。
氷の槍に、男の上着の布(本当はイエローテンパランスの肉だが……)が幾つも絡まっており、彼がその布を掴んでいることを。
そして理解した。
その糸と氷の槍を利用して、彼は自分の元まで引っ張られてくるつもりだということを。
ディアボロは氷の槍に引っ張られ、マミゾウの元へと一直線に飛んでいく。
当然、マミゾウもただ見ているわけではない。
『引っ張られている』ということは、彼の軌道も引っ張っている物の後を追う形になる。
どう進んでくるのかが分かりやすい以上、対処法もさほど難しくない。
マミゾウは弾幕を撃ち続ける。
エアロスミスの射撃によって幾つかは相殺されているとはいえ、弾数ではあちらの方が上。
弾幕は氷の槍、イエローテンパランス、ディアボロに次々と命中していく。
氷の槍に弾幕が何発も命中したことにより、その衝撃で勢いを失い、落下していく。
それに引っ張られてディアボロも落ちていくのが、その瞬間にもう一本の氷の槍をスタープラチナに投げさせる。
同時にイエローテンパランスに落下するはずだった氷の槍を引き寄せさせ、ホルス神の冷気で修復を行う。
もう一本の氷の槍にも上着を模したイエローテンパランスの肉が絡まっており、スタープラチナに投げられたことで推進力を得た氷の槍は、弾幕の中をただ真っ直ぐ進んでいく。
ディアボロの奇策によって距離が詰められていく。
それでもまだ距離を詰めなければならない。
しかもイエローテンパランスの肉で捕まえようと伸ばした場合、何らかしらの要因でイエローテンパランスが切り離され、マミゾウを喰らってしまう可能性が否定できないのだ。
TEMPERANCE……『節制』のアルカナを由来としながら、制御下から離れると『貪欲に喰らう』その能力は、与える名前を間違えたのではないのかと思われてもおかしくはない。
幸い、自分に纏わりつかせていれば制御が効くので、スタープラチナか自分で捕まえることにする。
「面白い方法で距離を詰めてきたのう」
「てっとり早く接近するにはこれがいいと思ってな」
短い会話を交わしながら距離を取ろうとするマミゾウと、かなり無茶苦茶な方法で距離を詰めていくディアボロ。
化け狸達が見届ける中で、この少々変わった闘いは続いていく。
3回目に投げた氷の槍も撃ち落され、ディアボロはすぐにもう一本の氷の槍を投げる。
今までとは違い、高低差、距離共に縮まった今ならマミゾウの元まで先ほどより早く届くようになる。
マミゾウが今までのように難なく槍を避け、位置を変えようとしたその時。
彼女の動きが突如止まった。
周囲も静寂に包まれ……ているかと思いきや、空を切る音が聞こえる。
空を切る音の発生源は……もう一本の氷の槍だった。
その氷の槍は、先ほどの氷の槍とはマミゾウを挟んで反対側の方向で動きを止める。
ちょうど、二本の氷の槍にマミゾウが挟まれる形だ。
直後、二本の槍は同時に動き出し、それらに引っ張られる形でディアボロはマミゾウとの距離を急速に縮めていく。
マミゾウは咄嗟に上へと移動するが、ディアボロから目を離さなかったせいで……。
ベキィン!
ホルス神の能力で作られた氷の板が落下してきてマミゾウの頭にぶつかってしまう。
薄いおかげか、それとも上昇の勢いのせいか、氷の板にヒビが入ったのだが今はどうでもいい。
その間に距離を詰めれればそれで十分だったのだから。
スタープラチナがマミゾウを捕まえる。
それを確認したディアボロはイエローテンパランスに氷の槍を離させる。
こうなると当然慣性の法則に従ってある程度進んだ後落ち始めるのだが、マミゾウを捕まえた今なら別にかまわない。
だがマミゾウを盾にそのまま地面に落ちようとすると、スタープラチナを自分の手前に移動させると弾幕を撃たれるのは目に見えてわかっている。
そこで、ディアボロがとった行動とは……!