「────熱い」
突如として始まった、生き残るべきたった一つの命を決める戦場の一角で。
黒一色の空をぼんやりと見つめ、生気のない表情で男は小さく呟いた。
住み慣れた我が家で寛ぐかのように、大の字でだらりと寝転がりながら。
外敵への警戒を微塵も感じさせない無防備な有様は、自棄の結果か、はたまた豪胆さ故か。
如何なる理由があろうとも、この男が極めて異質な存在であるのは火を見るよりも明らか。
黒一色の空をぼんやりと見つめ、生気のない表情で男は小さく呟いた。
住み慣れた我が家で寛ぐかのように、大の字でだらりと寝転がりながら。
外敵への警戒を微塵も感じさせない無防備な有様は、自棄の結果か、はたまた豪胆さ故か。
如何なる理由があろうとも、この男が極めて異質な存在であるのは火を見るよりも明らか。
「熱い…、もう堪らねぇよ…。」
擦り切れた黒のインバネスコートに長い唾をした中折れハット。
まるで寒冷地でも渡り歩くかのような厚手の装い。暑さの一つも訴えよう。
しかし男を蝕む熱源は、別にある。身体の内より来たるぬるま湯じみた仄かな熱。
まるで寒冷地でも渡り歩くかのような厚手の装い。暑さの一つも訴えよう。
しかし男を蝕む熱源は、別にある。身体の内より来たるぬるま湯じみた仄かな熱。
「慣れねぇなぁ…。"命の熱さ"ってのは…」
現世に存在する全ての生物、誰もが持ち得る命の営み。
全能感にも似た充足を与えた熱に残る煩わしさ。
何十、何百、何千年と、この身に熱など影も形も無かったのだ。
"動く骸"であり続けた生を鑑みれば、異物感は拭えなくて当然。
全能感にも似た充足を与えた熱に残る煩わしさ。
何十、何百、何千年と、この身に熱など影も形も無かったのだ。
"動く骸"であり続けた生を鑑みれば、異物感は拭えなくて当然。
「何時でも死ねるのはいいが…、やっぱり俺には…あの寒さが心地いい…。」
絢爛の女王と狭間の王。二人の王によって刻み込まれた命の灯。
生なき者に死は訪れない。
限りある命があるからこそ、生命は簡単に病み、朽ち果て、そして死ぬ。
死をこよなく愛しながらも、死から悉く嫌われる。
晴れないジレンマを抱えた生涯に於いて、命とは死へ到達する為の望ましい代物。
生なき者に死は訪れない。
限りある命があるからこそ、生命は簡単に病み、朽ち果て、そして死ぬ。
死をこよなく愛しながらも、死から悉く嫌われる。
晴れないジレンマを抱えた生涯に於いて、命とは死へ到達する為の望ましい代物。
だとしても、どうにも気持ち悪い。忌々しい生者と同じ暖かさなど不愉快だ。
命を与えられた当初は、神にでもなったかに等しい高揚感を得たものだが。
時が過ぎ興奮が冷めれば、あちらこちらに不満ばかりが目につく。
やはり愛おしき"死"を身近に感じられる、血の通わない冷たさこそ尊きものだ。
未だ慣れない熱は、心地良い眠りの時はまだ遠いのだと実感させてくる。
命を与えられた当初は、神にでもなったかに等しい高揚感を得たものだが。
時が過ぎ興奮が冷めれば、あちらこちらに不満ばかりが目につく。
やはり愛おしき"死"を身近に感じられる、血の通わない冷たさこそ尊きものだ。
未だ慣れない熱は、心地良い眠りの時はまだ遠いのだと実感させてくる。
「…嗚呼…にしても、五月蠅い…。まだ…終わらないのか…。」
睡眠を妨げる要因は他にも存在する。
威勢の良い掛け声。所々から湧く呻き声。耳を澄まさずとも止まない音、音、音。
静寂とは正反対の乱痴気騒ぎ。乱闘の最中に眠れる程、意に関せずでは居られない。
眉を顰めながら上体を持ち上げ、騒音の発生源を見やる。
威勢の良い掛け声。所々から湧く呻き声。耳を澄まさずとも止まない音、音、音。
静寂とは正反対の乱痴気騒ぎ。乱闘の最中に眠れる程、意に関せずでは居られない。
眉を顰めながら上体を持ち上げ、騒音の発生源を見やる。
「無事カ、アミキササラ」
「うん、大丈夫だよ!マキナちゃんも危なくなったら直ぐに言ってね!」
「うん、大丈夫だよ!マキナちゃんも危なくなったら直ぐに言ってね!」
虚ろ気な視界の先には背中を預け、共にNPCの大群と戦う二人の男女。
否、正確には一体と一人と説明するのが、正しい表現か。
襲い来る怪物を殴り飛ばした男の鉄拳は、比喩ではなく紛れもない鉄の塊。
その全身の隅々に至るまで、鋼鉄で構成したアンドロイド。
背中に搭載されたブースターを吹かせながら、鋼の男は縦横無尽に戦場を駆ける。
否、正確には一体と一人と説明するのが、正しい表現か。
襲い来る怪物を殴り飛ばした男の鉄拳は、比喩ではなく紛れもない鉄の塊。
その全身の隅々に至るまで、鋼鉄で構成したアンドロイド。
背中に搭載されたブースターを吹かせながら、鋼の男は縦横無尽に戦場を駆ける。
今後数百年実現不可能であろうオーバーテクノロジーの産物。
其れだけでも驚きだが、学生服を着た女性もまた、異質と言わざる終えない。
大半が焼き切れたロングスカートに、胸に生き生きと咲き誇る一輪の紅いカンナ。
天女のような羽衣を纏い、無骨な薙刀を握り締め演じる、益荒男も仰天の大立ち回り。
最前線で注意を一心に集め、向かい来る敵の群れを勇猛果敢に薙ぎ払っていく。
其れだけでも驚きだが、学生服を着た女性もまた、異質と言わざる終えない。
大半が焼き切れたロングスカートに、胸に生き生きと咲き誇る一輪の紅いカンナ。
天女のような羽衣を纏い、無骨な薙刀を握り締め演じる、益荒男も仰天の大立ち回り。
最前線で注意を一心に集め、向かい来る敵の群れを勇猛果敢に薙ぎ払っていく。
彼彼女らは、本来仮想世界リドゥにて争いあった敵同士。
女神が管理する理想郷を守護するオブリガードの楽士、マキナ。
女神の慈悲を拒絶し、現実への帰還を目指す帰宅部、編木ささら。
互いに抱えた後悔と信条からぶつかり合うも、最終的に和解するに至ったが。
正史では終ぞ叶う事のなかった共闘関係。
それは新たな脅威、バトルロワイアル下により実現する形となった。
女神が管理する理想郷を守護するオブリガードの楽士、マキナ。
女神の慈悲を拒絶し、現実への帰還を目指す帰宅部、編木ささら。
互いに抱えた後悔と信条からぶつかり合うも、最終的に和解するに至ったが。
正史では終ぞ叶う事のなかった共闘関係。
それは新たな脅威、バトルロワイアル下により実現する形となった。
片や死を恐れる者。片や生を尊ぶ者。
何方もリドゥでの闘いの中、限りある人生の意義を確認し合った間柄。
そんな二人が命を踏み躙る殺し合いに同調する筈も無し。
辛くも輝かしい現実(じごく)へ帰還するべく、両名は迷わず手を取り合った。
協力を結んだ矢先に現れたのが、大量のNPCとそれら従える不吉なオーラを纏った男。
何方もリドゥでの闘いの中、限りある人生の意義を確認し合った間柄。
そんな二人が命を踏み躙る殺し合いに同調する筈も無し。
辛くも輝かしい現実(じごく)へ帰還するべく、両名は迷わず手を取り合った。
協力を結んだ矢先に現れたのが、大量のNPCとそれら従える不吉なオーラを纏った男。
多種多様な昆虫の蛹を集めてヒト型にした様な謎の怪物達。
そのどれもが生気はなく、無軌道な動作を繰り返す生きる屍と化していた。
仮想世界での体験を通じて、非現実的存在への耐性のある二人も。
ホラー映画の世界さながらなその悍ましい光景に、驚愕の色を隠せない。
そのどれもが生気はなく、無軌道な動作を繰り返す生きる屍と化していた。
仮想世界での体験を通じて、非現実的存在への耐性のある二人も。
ホラー映画の世界さながらなその悍ましい光景に、驚愕の色を隠せない。
なにより極めつけは、動く死体の中で平然と闊歩する黒い外套の男性。
死と戯れ、死体を操り、殺し合いの地を渡り歩く様は。
纏う色彩とオーラも相まって、まさに"死神"と表現するに相応しい怪人。
異質な雰囲気に呑まれかけた二人を他所に、無慈悲に掛かるネクロマンサーの号令。
一斉に襲い来るゾンビ兵。黙って殺されてやる道理なしと迎え撃ち、物語は今に至る。
死と戯れ、死体を操り、殺し合いの地を渡り歩く様は。
纏う色彩とオーラも相まって、まさに"死神"と表現するに相応しい怪人。
異質な雰囲気に呑まれかけた二人を他所に、無慈悲に掛かるネクロマンサーの号令。
一斉に襲い来るゾンビ兵。黙って殺されてやる道理なしと迎え撃ち、物語は今に至る。
「雑魚ハ片ヅケタ。後ハオマエダケダ」
「はぁ…せっかく手間暇かけて集めたってのに…呆気ねぇもんだよなぁ…。
いつもそうだ…。楽しようとすると…どうにも最後が上手くいかねぇ…。」
「はぁ…せっかく手間暇かけて集めたってのに…呆気ねぇもんだよなぁ…。
いつもそうだ…。楽しようとすると…どうにも最後が上手くいかねぇ…。」
NPCを殲滅し、最後に残った襲撃者へマキナは意識を向ける。
手勢を失い孤軍となっても尚、敵意を向けられた男は動揺一つ見せず。
誰に聞かせるでもなくブツブツ愚痴を呟きながら、ゆらりと背の丸まった上体を起こした。
手勢を失い孤軍となっても尚、敵意を向けられた男は動揺一つ見せず。
誰に聞かせるでもなくブツブツ愚痴を呟きながら、ゆらりと背の丸まった上体を起こした。
「ねぇあなた。あなたはどうして、誰かを傷つけようとするの?」
不穏さが絶えず滲み出す男に物怖じせず、ささらは一歩前に出て問いかける。
「もし死ぬのが怖くて殺し合いに乗っちゃったんだったら、今からでも一緒にやり直さない?
私やマキナちゃん、宝太郎ちゃんみたいに、一生懸命羂索ちゃん達に立ち向かおうとする人も沢山いる。
私たちも精一杯支えるから、殺し合うんじゃなくて、皆で生かし合うために協力出来ないかな?」
私やマキナちゃん、宝太郎ちゃんみたいに、一生懸命羂索ちゃん達に立ち向かおうとする人も沢山いる。
私たちも精一杯支えるから、殺し合うんじゃなくて、皆で生かし合うために協力出来ないかな?」
一見血迷ったかにも思える和解の提案は、純粋な善意によるもの。
傍から見れば死体を弄ぶ邪悪としか見えずとも。それだけで全てを断定をしない。
雰囲気や外面の所業だけが、その者の本質でないのは、リドゥでも同じだった。
心の奥へ臆せず踏み込み、対話し向き合って初めて、隠された後悔や理想が見えてくる。
傍から見れば死体を弄ぶ邪悪としか見えずとも。それだけで全てを断定をしない。
雰囲気や外面の所業だけが、その者の本質でないのは、リドゥでも同じだった。
心の奥へ臆せず踏み込み、対話し向き合って初めて、隠された後悔や理想が見えてくる。
今隣に立つマキナのように、初めは敵対していても同じ人間同士。
相手が何を考えているかを理解する事で、分かり合える道は確かに存在する。
もしも孤独や恐怖が彼を凶行に駆り立てた原因ならば、それを取り除く。
敵であろうと隣人に寄り添う献身こそ、殺し合いを生き抜く鍵だと信じて。
相手が何を考えているかを理解する事で、分かり合える道は確かに存在する。
もしも孤独や恐怖が彼を凶行に駆り立てた原因ならば、それを取り除く。
敵であろうと隣人に寄り添う献身こそ、殺し合いを生き抜く鍵だと信じて。
「死が怖い…?生かし合う…?ハ、ハハハ…冗談はよせよ…。」
しかし、そんな少女の慈悲を無下にするかの如く。
見当違いも甚だしいと、乾いた笑いが場に響いた。
死への恐れ。生の享受。実にバカバカしい。
長すぎる生涯において、望む理想は後にも先にもただ一つ。
見当違いも甚だしいと、乾いた笑いが場に響いた。
死への恐れ。生の享受。実にバカバカしい。
長すぎる生涯において、望む理想は後にも先にもただ一つ。
「俺はなぁ…、今すぐにでも死にたいんだよ…。」
生命の終末──死。
本来誰もが忌避する終わりこそが、男の恋焦がれる理想に他ならない。
本来誰もが忌避する終わりこそが、男の恋焦がれる理想に他ならない。
「ええ!?死にたいなんてどうして…?
確かに生きてたら辛い事苦しい事も多いけど、それ以上に楽しい事もいーっぱいあるんだよ!?」
「そういうなよ…、死なねぇ身体でもう何千何百と、無駄に生かされてんだぜ…?
生なんざ、ただただ喧しいだけだ…。静かな死が恋しくて仕方ねぇ…。」
「な、何千年…!?」
「フン、出鱈目ヲ言ウナ」
確かに生きてたら辛い事苦しい事も多いけど、それ以上に楽しい事もいーっぱいあるんだよ!?」
「そういうなよ…、死なねぇ身体でもう何千何百と、無駄に生かされてんだぜ…?
生なんざ、ただただ喧しいだけだ…。静かな死が恋しくて仕方ねぇ…。」
「な、何千年…!?」
「フン、出鱈目ヲ言ウナ」
男の自殺願望にあわあわと待ったをかけるささらと対照的に。
それをばっさりと虚言と切り捨てたマキナは、機械仕掛けの眼光で彼を冷たく射貫く。
己の望みを嘘と決めつける不躾なサイボーグへ、男の虚ろな眼がギョロリと向いた。
それをばっさりと虚言と切り捨てたマキナは、機械仕掛けの眼光で彼を冷たく射貫く。
己の望みを嘘と決めつける不躾なサイボーグへ、男の虚ろな眼がギョロリと向いた。
「ああ…?」
「死ニタイナド所詮口ダケだ。本当ニ死ニタイナラ、ワタシ達ヲ襲ウ理由ガナイ。
ソノ"レジスター"ヲ強引ニデモ破壊シテ、サッサト死ネバ済ムハナシダ。」
「死ニタイナド所詮口ダケだ。本当ニ死ニタイナラ、ワタシ達ヲ襲ウ理由ガナイ。
ソノ"レジスター"ヲ強引ニデモ破壊シテ、サッサト死ネバ済ムハナシダ。」
本当に自死を求めるならば、手っ取り早い手段が文字通り手元にある。
殺し合い参加者を縛る枷である致死性の感染症、バグスターウイルス。
活性化すれば細胞一つ残らずこの世から消滅し死に至る。その効能は哀れな生贄二人で実証済み。
現在皆が健全に活動出来ているのは運営から装着された腕輪、レジスター内の鎮静剤のお陰。
殺し合い参加者を縛る枷である致死性の感染症、バグスターウイルス。
活性化すれば細胞一つ残らずこの世から消滅し死に至る。その効能は哀れな生贄二人で実証済み。
現在皆が健全に活動出来ているのは運営から装着された腕輪、レジスター内の鎮静剤のお陰。
鎮静剤の供給も停止も、全ては主催者の指先三寸。
絶死の罰が待ち受けているからこそ、誰も表立っては逆らえない。
しかし逆に言えば、ペナルティを一切恐れなければ、レジスターは何の枷にもなりはしない。
寧ろ死にたがりにとっては、最短距離で死ねる最高の報酬。
もし本当に死を望むなら、闘いを強制されている他の参加者と違い、誰かを殺しに掛かる動機など皆無のはず。
絶死の罰が待ち受けているからこそ、誰も表立っては逆らえない。
しかし逆に言えば、ペナルティを一切恐れなければ、レジスターは何の枷にもなりはしない。
寧ろ死にたがりにとっては、最短距離で死ねる最高の報酬。
もし本当に死を望むなら、闘いを強制されている他の参加者と違い、誰かを殺しに掛かる動機など皆無のはず。
「ああ…そうだな…。オマエの言う通りだ…。死ぬだけなら何時でも死ねる。
長年の悩みのタネが、こんなちんけな腕輪を壊せば終わり。
眩暈がするくらい簡単に、静かな静かな、終わりが来る…。」
長年の悩みのタネが、こんなちんけな腕輪を壊せば終わり。
眩暈がするくらい簡単に、静かな静かな、終わりが来る…。」
男はマキナの指摘を肯定しレジスターへ視線を移す。
現世から消え去る瞬間を想像し、訪れる死に頬を大きく歪ませた恍惚の表情を浮かべ、
現世から消え去る瞬間を想像し、訪れる死に頬を大きく歪ませた恍惚の表情を浮かべ、
「────と思ってたんだ。」
喜色に満ちた表情が死に絶え、一瞬にして"無"に変わる。
「死んだって、変わらなかったんだ。この世も、あの世も。聞くに絶えねぇ雑音が。
何処に行っても…ず~っと俺にしつこく纏わりつく、喧しい声が…」
何処に行っても…ず~っと俺にしつこく纏わりつく、喧しい声が…」
耳障りな鼓動も脈動も聞こえない、あらゆる雑音を排した無音の世界。
滅びの先には、快適な眠りが約束されると、そう信じ切っていた。念願の死を経験する前までは。
死後、待っていたのは怨嗟と苦痛に満ちた呻き声が延々と木霊する地獄。
想像と掛け離れた実際の死の世界は、まさに悪夢そのもの。
終わらない責め苦が無限に続くと理解した時の絶望は、今でも鮮明に思い出せる。
滅びの先には、快適な眠りが約束されると、そう信じ切っていた。念願の死を経験する前までは。
死後、待っていたのは怨嗟と苦痛に満ちた呻き声が延々と木霊する地獄。
想像と掛け離れた実際の死の世界は、まさに悪夢そのもの。
終わらない責め苦が無限に続くと理解した時の絶望は、今でも鮮明に思い出せる。
「…だから、また死ぬ前に…静寂に満ちた理想の死の世界を、アイツらに願って創ってもらう…。
煩わしい生者も、鬱陶しい亡者も一掃した世界で、誰にも邪魔されずゆっくり熟睡する……」
煩わしい生者も、鬱陶しい亡者も一掃した世界で、誰にも邪魔されずゆっくり熟睡する……」
羂索が提示した皆殺しと引き換えに手に入る理想成就の権利。
地獄に差した一筋の光明を掴む為なら、不快極まる一時の生さえ甘んじて受け入れられる。
忌々しい生者の溢れかえる現世に呼び戻されても、何ら苦ではない。
やる事は創造主の道具だった頃と、何一つとして変わらないのだから。
地獄に差した一筋の光明を掴む為なら、不快極まる一時の生さえ甘んじて受け入れられる。
忌々しい生者の溢れかえる現世に呼び戻されても、何ら苦ではない。
やる事は創造主の道具だった頃と、何一つとして変わらないのだから。
「──そのために、死ね。くたばれ生者共。死んで全員、生きた屍になれ。」
死を。病を。毒を。腐敗を。穢れを。呪いを。
この宇宙に生きとし生ける全ての存在に等しく与え続ける生体兵器。
それこそが男の──宇蟲五道化、静謐のグローディの存在理由。
この宇宙に生きとし生ける全ての存在に等しく与え続ける生体兵器。
それこそが男の──宇蟲五道化、静謐のグローディの存在理由。
「聞クニ堪エン話ダ…。ダガ1ツダケ、ハッキリシタ事ガアル。
オマエハ、コノコロシアイニ於イテ、ワタシガ"最モ倒サネバナラナイ敵"ダト言ウコトダ。」
オマエハ、コノコロシアイニ於イテ、ワタシガ"最モ倒サネバナラナイ敵"ダト言ウコトダ。」
生を憎み、命を疎み、己が眷属となる骸を欲する悍ましい死神。
"死"───機械の身体を得てまで、遠ざけようとした恐怖の具現。
鼓動が。呼吸が。繰り返される度、勝手に終わりに近づいていく不完全さ。
自分達人間は、ただただ死ぬためだけに生まれて来た呪われた存在なのだと。
拭えない後悔を抱え、理想郷へ現実逃避した嘗ての自分ならば。
戦う選択肢など微塵も考えず、一目散で逃げ出していただろう。
"死"───機械の身体を得てまで、遠ざけようとした恐怖の具現。
鼓動が。呼吸が。繰り返される度、勝手に終わりに近づいていく不完全さ。
自分達人間は、ただただ死ぬためだけに生まれて来た呪われた存在なのだと。
拭えない後悔を抱え、理想郷へ現実逃避した嘗ての自分ならば。
戦う選択肢など微塵も考えず、一目散で逃げ出していただろう。
「モウワタシハ、死カラ逃ゲル為ニ闘ウノデハナイ。明日ヲ生キル為ニワタシハ闘ウ。」
命に回数券があるのは誰もが等しく同じ。
死は必ず訪れると知りながら、それでも人が生きるのは。
人生が悔いなき素晴らしいものだったと誇るため。
一秒も無駄に出来ない刹那の刻を、やり残しなく生き切りたいから。
死は必ず訪れると知りながら、それでも人が生きるのは。
人生が悔いなき素晴らしいものだったと誇るため。
一秒も無駄に出来ない刹那の刻を、やり残しなく生き切りたいから。
同じ楽士に裏切られ、死へ極限まで近づいた今わの際で。
自分にも人生にやり残しがあるのだと理解して初めて。
"死にたくない"ではなく、"生きたい"と願えるようになった。
"死を忌避する事"と"生を渇望する事"。二つは似て非なるものなのだと気づかされた。
自分にも人生にやり残しがあるのだと理解して初めて。
"死にたくない"ではなく、"生きたい"と願えるようになった。
"死を忌避する事"と"生を渇望する事"。二つは似て非なるものなのだと気づかされた。
死が怖いなら、限りある日々を我武者羅に走り抜けばいい。
やりたい事と必死に向き合いえば、何時か恐怖を感じる暇さえなくなる。
そう教えてくれた、マイペースながらも何処か一本芯の通った隣に立つ彼女のように。
漫然と死から逃げ続けるのではなく、生きるために前を向いて現実と闘ってみたい。
その為にも殺し合いが齎す耐え難い死の恐怖とも、背を向けず正面から打ち破って見せよう。
やりたい事と必死に向き合いえば、何時か恐怖を感じる暇さえなくなる。
そう教えてくれた、マイペースながらも何処か一本芯の通った隣に立つ彼女のように。
漫然と死から逃げ続けるのではなく、生きるために前を向いて現実と闘ってみたい。
その為にも殺し合いが齎す耐え難い死の恐怖とも、背を向けず正面から打ち破って見せよう。
「アミキササラ。ワタシ達楽士ノヨウニ、ヤツヲ理解出来ルナドト思ウナ。
アレハ…アマリニモ価値観ガ違イスギル。分カリ合エルトハ、到底思エナイ。」
「…そうだね。」
アレハ…アマリニモ価値観ガ違イスギル。分カリ合エルトハ、到底思エナイ。」
「…そうだね。」
これ以上の対話は無意味。そう諭すマキナの言葉に、ささらは悲し気に頷いた。
語った言葉全てが真実ならば、彼の思考はもう同じ人間の域に存在しない。
不老不死。
殺し合いの中で誰よりも"長生き"の自負があった自分でさえ、到底想像の及ばない悠久の時。
その中で男は沢山の命を、良心の呵責もなく奪って来たのだろう。
そう確信出来てしまう程に、彼は死を愛し肯定し過ぎている。
語った言葉全てが真実ならば、彼の思考はもう同じ人間の域に存在しない。
不老不死。
殺し合いの中で誰よりも"長生き"の自負があった自分でさえ、到底想像の及ばない悠久の時。
その中で男は沢山の命を、良心の呵責もなく奪って来たのだろう。
そう確信出来てしまう程に、彼は死を愛し肯定し過ぎている。
どんな人生を歩み、如何なる事情があれど、決して許していい相手ではない。
それでも分かってもらえる。諦めず頑張って声をかけようと。
無謀な説得に死を最も恐れる"少年"を付き合わせ続ける程、彼女は能天気ではない。
それでも分かってもらえる。諦めず頑張って声をかけようと。
無謀な説得に死を最も恐れる"少年"を付き合わせ続ける程、彼女は能天気ではない。
「あの人はきっと、長く生き過ぎちゃったんだと思う…
終わりの来ない長過ぎる時間が、死ぬ事の怖さと一緒に、生きる事の大切さも、感じれなくしてしまった。」
終わりの来ない長過ぎる時間が、死ぬ事の怖さと一緒に、生きる事の大切さも、感じれなくしてしまった。」
生を尊ぶ理由も、死の恐れる瞬間もない無限の命。
永遠の呪いが心を摩耗させ、やがて他者の生命さえ何とも思わない怪物へと変貌させる。
生を忘れ去り、死に慣れ過ぎてしまった命の簒奪者。
その心を変えるだけの、人生の重みをもたない自分では、もうかける言葉や手段は思いつかない。
だからと言って。男に根差す恐ろしい闇に触れた以上、無視する事も当然不可能。
永遠の呪いが心を摩耗させ、やがて他者の生命さえ何とも思わない怪物へと変貌させる。
生を忘れ去り、死に慣れ過ぎてしまった命の簒奪者。
その心を変えるだけの、人生の重みをもたない自分では、もうかける言葉や手段は思いつかない。
だからと言って。男に根差す恐ろしい闇に触れた以上、無視する事も当然不可能。
生物へ向けるには危険過ぎる力と悪意で、誰かを傷つけようとするのならば、
この会場に連れてこられているかもしれない、大事な仲間や家族を殺そうとするならば、
この会場に連れてこられているかもしれない、大事な仲間や家族を殺そうとするならば、
「──あの人を止めよう…!私たちで皆を守らないと」
全身全霊を以て守り抜くのみ。
男の掲げる理想を壊してでも、かけがえのない現実へと帰還する。
やり直したい程の後悔を抱えて尚、歯を食い縛って生きようとする素晴らしい命。
彼らの長く眩い未来を守るためにこそ、この力はあるのだから。
男の掲げる理想を壊してでも、かけがえのない現実へと帰還する。
やり直したい程の後悔を抱えて尚、歯を食い縛って生きようとする素晴らしい命。
彼らの長く眩い未来を守るためにこそ、この力はあるのだから。
「ああ…寒っみ…。そういう寒さは求めちゃねぇんだよ…」
全身に眼が眩む活力を漲らせながら。
うすら寒い言葉を並べ、必定の死へ抗おうとする生者達。
その目障りな輝きに感じた既視感。
それも当然。一度目の命が潰える瞬間に見た光なのだから。
"命の煌めき"、己を滅ぼした王達は確かそう呼んでいたか。
原理こそ今も全く理解出来ないが、その厄介さは己の身で体感済み。
あの不快な光を綺麗さっぱりに消し去るには、NPCの死体程度じゃ実力不足も当たり前。
うすら寒い言葉を並べ、必定の死へ抗おうとする生者達。
その目障りな輝きに感じた既視感。
それも当然。一度目の命が潰える瞬間に見た光なのだから。
"命の煌めき"、己を滅ぼした王達は確かそう呼んでいたか。
原理こそ今も全く理解出来ないが、その厄介さは己の身で体感済み。
あの不快な光を綺麗さっぱりに消し去るには、NPCの死体程度じゃ実力不足も当たり前。
「結局……死体が欲しけりゃ、俺が気張るしかないって事か…」
心底面倒くさ気にため息を吐き捨て、目を閉じる。
小さく呟いた直後、倒れ込んだ五体を起点に広がり始める影。
底なし沼へ落ちるかの如く、影へとゆっくり沈み込んでいくグローディ。
纏わりつく不浄なる闇が、死神の正体を露わにしようとして──
小さく呟いた直後、倒れ込んだ五体を起点に広がり始める影。
底なし沼へ落ちるかの如く、影へとゆっくり沈み込んでいくグローディ。
纏わりつく不浄なる闇が、死神の正体を露わにしようとして──
「────いや」
瞬間、霧散する漆黒。
始まろうとした変態が中断され、浮き上がるように一息で起き上がる。
始まろうとした変態が中断され、浮き上がるように一息で起き上がる。
「折角の機会だ…。アイツらが仕込んだ"玩具"を試すのも悪かねぇか…。」
ふと思いついた、他愛も無い一時の気紛れ。
面倒ながらも本腰を入れる選択は変わりないが、丁度良い強さの相手が現れたのだ。
支給品として宛がわれた玩具の試運転。座興に耽るのも一興だろう。
ごそごそと古ぼけたコートの内側を弄り、取り出されたのは二つのアイテム。
面倒ながらも本腰を入れる選択は変わりないが、丁度良い強さの相手が現れたのだ。
支給品として宛がわれた玩具の試運転。座興に耽るのも一興だろう。
ごそごそと古ぼけたコートの内側を弄り、取り出されたのは二つのアイテム。
左手にゲームのコントローラーに似た紫のバックル。
右手には往年のゲームカセットの形状をした白のデバイス。
右手には往年のゲームカセットの形状をした白のデバイス。
『ガッチョーン!』
説明書の記載に従い、バックルを腰に巻き付けたベルトに装着。
ノイズ混じりの電子音声に続けて、残るデバイス──ガシャットのスイッチを入れる。
ノイズ混じりの電子音声に続けて、残るデバイス──ガシャットのスイッチを入れる。
『デンジャラスゾンビ…!』
「「────────ッ!!」」
ぞわり。
死神と対峙する二人の全身を強烈な悪寒が駆け巡った。
恐ろしい何かが、今まさに始まろうとしている。
機械であるマキナでさえ、背筋が凍る幻覚を感じる程の悍ましい何かが。
ガシャットを中心に発生した歪な波動が、辺り一帯に伝播していく。
バーチャドールが生み出すフロアのような劇的な環境の変化は齎さない。
だが確実に、自分達の世界が急速に塗り変えられ、侵食されたのを彼らは本能的に理解した。
死神と対峙する二人の全身を強烈な悪寒が駆け巡った。
恐ろしい何かが、今まさに始まろうとしている。
機械であるマキナでさえ、背筋が凍る幻覚を感じる程の悍ましい何かが。
ガシャットを中心に発生した歪な波動が、辺り一帯に伝播していく。
バーチャドールが生み出すフロアのような劇的な環境の変化は齎さない。
だが確実に、自分達の世界が急速に塗り変えられ、侵食されたのを彼らは本能的に理解した。
背後に出現したモニターに映る派手なタイトルロゴと『GAME START』の文字。
カセットを挿入し、コントローラーのボタンを押す。
この一連の動作から始まるのはたった一つ。年端もいかない子供でも分かる簡単な問題。
ゲームだ。ただしただのゲームでは留まらない。
此度のゲームを遊ぶメインプレイヤーは、遍く星に死を振り撒く殺人兵器。
生者の命を刈り取る死神との遊戯は、絶望と恐怖に満ちた命懸けのデスゲームに他ならない。
カセットを挿入し、コントローラーのボタンを押す。
この一連の動作から始まるのはたった一つ。年端もいかない子供でも分かる簡単な問題。
ゲームだ。ただしただのゲームでは留まらない。
此度のゲームを遊ぶメインプレイヤーは、遍く星に死を振り撒く殺人兵器。
生者の命を刈り取る死神との遊戯は、絶望と恐怖に満ちた命懸けのデスゲームに他ならない。
「………変身」
『ガシャット!バグルアップ!』
『デンジャー!デンジャー!ジェノサイド!』
『デンジャー!デンジャー!ジェノサイド!』
起動と同時に迸る紫電。ガシャットに刻まれた夥しい"死"が解放。
グローディの身体にノイズが走り、止めどなく湧き出す黒々とした瘴気の波濤に飲み込まれる。
腰のバックル、バグヴァイザー中央の発光パネルの映像が装着者を隠す様に投影。
けたたましい電子音声が、眼の前の脅威を懸命に伝えるが、もう遅い。
命を惜しんで逃げ出すには、警告が聞こえた頃ではとうに時間切れ。
グローディの身体にノイズが走り、止めどなく湧き出す黒々とした瘴気の波濤に飲み込まれる。
腰のバックル、バグヴァイザー中央の発光パネルの映像が装着者を隠す様に投影。
けたたましい電子音声が、眼の前の脅威を懸命に伝えるが、もう遅い。
命を惜しんで逃げ出すには、警告が聞こえた頃ではとうに時間切れ。
『デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビィ!』
『Woooooo!!』
『Woooooo!!』
身の毛もよだつ咆哮をバグヴァイザーから轟かせ、電子のバリケードを突破し現れるモンスター。
黒のボディースーツに骨を模したアーマーが散りばめられた、おどろおどろしい骸骨チックな仮面戦士。
コミカルな眼が覗く頭部のバイザー、空になった体力ゲージを表示する胸部のモニター。
どれも見るも無残に砕け割れ、変身した傍から既に死に体。生きる屍、ゾンビに近しい惨状。
仮面ライダーゲンム、レベルX(エックス)
自称神が作り上げた未知数の称号を冠する死の象徴が、死をこよなく愛する死神の元へと渡った瞬間である。
黒のボディースーツに骨を模したアーマーが散りばめられた、おどろおどろしい骸骨チックな仮面戦士。
コミカルな眼が覗く頭部のバイザー、空になった体力ゲージを表示する胸部のモニター。
どれも見るも無残に砕け割れ、変身した傍から既に死に体。生きる屍、ゾンビに近しい惨状。
仮面ライダーゲンム、レベルX(エックス)
自称神が作り上げた未知数の称号を冠する死の象徴が、死をこよなく愛する死神の元へと渡った瞬間である。
「騒々しい…。もっと静かに出来ねぇのかよ…。」
未知の兵装、仮面ライダーへの初変身。
五道化が王鎧武装に似た武装を纏う、その構図自体は滑稽であり愉快。
全身を巡る生と相反する、死滅のエネルギーも自分の趣味とあっている。
それだけに変身時に響き渡る一々騒々しい電子音。これは如何にかならないものか。
静謐のせの字もないデスメタル調の騒音が、零距離でダイレクトに耳と脳を震わす。
これを平然と受容しているなら、元の持ち主とは間違いなく反りが合わない。
五道化が王鎧武装に似た武装を纏う、その構図自体は滑稽であり愉快。
全身を巡る生と相反する、死滅のエネルギーも自分の趣味とあっている。
それだけに変身時に響き渡る一々騒々しい電子音。これは如何にかならないものか。
静謐のせの字もないデスメタル調の騒音が、零距離でダイレクトに耳と脳を震わす。
これを平然と受容しているなら、元の持ち主とは間違いなく反りが合わない。
愚痴も程々に、ゲンムは虚空より現れた凶器を握る。
幾千幾万の生命を死体へと変えた愛用の大鎌、シックルシーカー。
死闘へ赴くとは思えない緩慢な動きで歩み出し、相対する命を狙う。
幾千幾万の生命を死体へと変えた愛用の大鎌、シックルシーカー。
死闘へ赴くとは思えない緩慢な動きで歩み出し、相対する命を狙う。
「…来ルゾ。先ズハワタシガ先行スル。」
「マキナちゃん、無理だけはしちゃダメだからね」
「分カッテイル。何カアレバ、アミキササラは援護ヲ頼ム」
「うん、任せて!マキナちゃんは絶対に私が死なせないから」
「マキナちゃん、無理だけはしちゃダメだからね」
「分カッテイル。何カアレバ、アミキササラは援護ヲ頼ム」
「うん、任せて!マキナちゃんは絶対に私が死なせないから」
本能的な恐怖を刺激する狂気の変身。だが、気圧されている場合ではない。
濃密な死の気配を漂わせる仮面の戦士相手に、一番槍を買って出るマキナ。
戦場での役割は、何方も同じ前衛。
ならば、生身よりも機械の身である自分の方がリカバリーが効きやすい。
濃密な死の気配を漂わせる仮面の戦士相手に、一番槍を買って出るマキナ。
戦場での役割は、何方も同じ前衛。
ならば、生身よりも機械の身である自分の方がリカバリーが効きやすい。
背を預けられる仲間の心配と期待を背に、闘志と呼応するようにエンジンが躍動。
ブースターが唸りを上げ瞬く間に距離を詰める。
拳打を口火に眼にも止まらぬ連撃を繰り出す早業、マシンガンラッシュ。
充分過ぎる程の速度と重さを伴った鉄塊が、敵を瞬時に戦闘不能へ追い込む。
ブースターが唸りを上げ瞬く間に距離を詰める。
拳打を口火に眼にも止まらぬ連撃を繰り出す早業、マシンガンラッシュ。
充分過ぎる程の速度と重さを伴った鉄塊が、敵を瞬時に戦闘不能へ追い込む。
「──重ぇな…。初めて使うんだ…、ちょっと手加減してくれよ…」
「ナニ…ッ!」
「ナニ…ッ!」
様子見と言えど手を抜いたつもりは無し。
寧ろこの一撃終わらせる腹積もりで攻撃を繰り出したが。
放たれた拳は、いとも容易くゲンムの手の平へと収まった。
愚鈍に思えた挙動とは裏腹に、的確に初撃を見切り受け止める身体能力。
先のNPCのゾンビ達と同じと舐めてかかれば屍となるのは間違いなく此方。
脅威度を上方修正。速やかに次手へ移ろうとした所で、マキナの身体に異変が起こる。
寧ろこの一撃終わらせる腹積もりで攻撃を繰り出したが。
放たれた拳は、いとも容易くゲンムの手の平へと収まった。
愚鈍に思えた挙動とは裏腹に、的確に初撃を見切り受け止める身体能力。
先のNPCのゾンビ達と同じと舐めてかかれば屍となるのは間違いなく此方。
脅威度を上方修正。速やかに次手へ移ろうとした所で、マキナの身体に異変が起こる。
「グ、ガガッ…!?」
突如挙動に不具合が発生。不自然に生じた謎のバグが肉体の制御を搔き乱す。
直ちに異変の発生元を分析すると、その根源は右腕。
拳を掴むゲンムの掌から噴き出す瘴気が、マキナの体内へと侵食。
悪意に満ちたコンピュータウイルスが、彼を蝕む毒となって襲い来る。
直ちに異変の発生元を分析すると、その根源は右腕。
拳を掴むゲンムの掌から噴き出す瘴気が、マキナの体内へと侵食。
悪意に満ちたコンピュータウイルスが、彼を蝕む毒となって襲い来る。
女神リグレットから賜ったアンドロイドとしての理想の姿。
あらゆる死や病を退ける、不滅と不死と強さの象徴。
列車との正面衝突さえ耐え切る、物理的耐久性にも優れた鋼の肉体。
しかし今回に限っては、機械の身体であった事が彼に災いを招いた。
あらゆる死や病を退ける、不滅と不死と強さの象徴。
列車との正面衝突さえ耐え切る、物理的耐久性にも優れた鋼の肉体。
しかし今回に限っては、機械の身体であった事が彼に災いを招いた。
ゲンムの手を覆う強化グローブ、リビングデッドグローブ。
対象のライダーシステムや武器に深刻な被害を齎すウイルスを流し込む悪魔の手。
生身の人間や本来の攻撃対象である仮面ライダーであっても。
大なり小なり実害こそあれ、致命的状況にはなりえないが。
サイボーグ化したマキナにとってそれは、自らの死へ直結する劇薬そのもの。
対象のライダーシステムや武器に深刻な被害を齎すウイルスを流し込む悪魔の手。
生身の人間や本来の攻撃対象である仮面ライダーであっても。
大なり小なり実害こそあれ、致命的状況にはなりえないが。
サイボーグ化したマキナにとってそれは、自らの死へ直結する劇薬そのもの。
「ッ…!ハナセ!」
病が駆逐されたリドゥに存在し得ない未知の破壊プログラム。
原因が判明しても大元を断たねば、バグの駆除もままならない。
徐々に内部より破壊されていく恐怖に耐えながら。
猶予が残されている内に腹を全力で蹴り上げ、天敵を強引に引き剝がす。
原因が判明しても大元を断たねば、バグの駆除もままならない。
徐々に内部より破壊されていく恐怖に耐えながら。
猶予が残されている内に腹を全力で蹴り上げ、天敵を強引に引き剝がす。
自由を得たマキナはすかさずバックステップで退避を選択。
しかし、狩りで弱らせた獲物を素直に逃がすハンターはいない。
死神の鎌が振るわれるも、ウイルスにより低下した機動力では躱しきれず。
厄災を齎す不浄の刃がまた一つ、新たな命の根源を断ち切る。
しかし、狩りで弱らせた獲物を素直に逃がすハンターはいない。
死神の鎌が振るわれるも、ウイルスにより低下した機動力では躱しきれず。
厄災を齎す不浄の刃がまた一つ、新たな命の根源を断ち切る。
「マキナちゃんから手を放してっ!」
その直前、差し込まれる薙刀の柄。訪れる死に天女が待ったをかける。
すかさず刃を跳ね上げて弾き、大上段からの唐竹割り。
一撃を見舞うのみでは満足せず、攻撃の勢いに乗り技を更に派生。
愛する仲間に近づけさせまいと、少女渾身の薙ぎ払いがゲンムを大きく吹き飛ばす。
実際はインパクトの瞬間に合わせ跳躍され、衝撃こそ殺されたが。
マキナからゲンムを退ける、サポート役の役目は充分成し遂げた。
すかさず刃を跳ね上げて弾き、大上段からの唐竹割り。
一撃を見舞うのみでは満足せず、攻撃の勢いに乗り技を更に派生。
愛する仲間に近づけさせまいと、少女渾身の薙ぎ払いがゲンムを大きく吹き飛ばす。
実際はインパクトの瞬間に合わせ跳躍され、衝撃こそ殺されたが。
マキナからゲンムを退ける、サポート役の役目は充分成し遂げた。
「大丈夫!?マキナちゃん!」
「モ、ンダイ…ナイ、直グニ、セルフメンテナンス、デ…!?」
「モ、ンダイ…ナイ、直グニ、セルフメンテナンス、デ…!?」
ささらの援護で離脱したマキナは即座に自己修復プログラムを起動。
内外問わず破損個所をスキャンし、適切な修復を開始しようとするが一向に検知が始まらない。
仕込まれたウイルスは戦闘力の大幅な低下と共に、搭載されたシステムの正常動作を阻害。
頼みの綱は機能不全。多大なる障害を抱えた状態では戦線復帰は絶望的。
内外問わず破損個所をスキャンし、適切な修復を開始しようとするが一向に検知が始まらない。
仕込まれたウイルスは戦闘力の大幅な低下と共に、搭載されたシステムの正常動作を阻害。
頼みの綱は機能不全。多大なる障害を抱えた状態では戦線復帰は絶望的。
「落ち着いて。ここは私が治してあげるから」
しかしそれは、彼一人であればの話。
感情の発露により発現した編木ささらの異能、カタルシスエフェクト。
通常は薙刀のように攻撃スキルが主だが、彼女の博愛精神が能力に影響を与えたか。
仲間の傷や不調を治療し、戦況を有利に運ばせる、癒しの力も体得している。
帰宅部随一のヒーラーである駒村二胡。彼女がいなかった時期は回復役を一手に担う場面も多かった。
此度もマキナの危機に対し、迷わず回復スキルを発動。
ゲンムのウイルスは弱体化と認識され、彼の動きを阻害するバグが徐々に駆逐されていく。
感情の発露により発現した編木ささらの異能、カタルシスエフェクト。
通常は薙刀のように攻撃スキルが主だが、彼女の博愛精神が能力に影響を与えたか。
仲間の傷や不調を治療し、戦況を有利に運ばせる、癒しの力も体得している。
帰宅部随一のヒーラーである駒村二胡。彼女がいなかった時期は回復役を一手に担う場面も多かった。
此度もマキナの危機に対し、迷わず回復スキルを発動。
ゲンムのウイルスは弱体化と認識され、彼の動きを阻害するバグが徐々に駆逐されていく。
「あれ…?いつもならもっと軽く治せるはずなんだけど…。」
「恐ラク羂索の言っていた制限ダロウ…。ダガ、此処マデ回復スレバ、後ハ自力デ修復可能ダ。感謝スル。」
「恐ラク羂索の言っていた制限ダロウ…。ダガ、此処マデ回復スレバ、後ハ自力デ修復可能ダ。感謝スル。」
本来は弱体化の治療には一回にさした疲労はないはずだが。
まるで複数回余分に使用したかのような疲れを感じ、思わず首を傾げるささら。
羂索の事前説明では強力な能力には制限を課すとあったが、回復能力もまたその対象なのだろう。
致命傷に至る傷もいとも簡単に治せてしまったら、円滑な殺し合いの進行に支障が生じる。
制限が必要なら最初から呼ぶなと、心優しい彼女に代わって文句を言ってやりたいが。
参加していたお陰で生き長らえたの事実。今は思考の片隅に追いやり、恩人への感謝のみを伝える。
まるで複数回余分に使用したかのような疲れを感じ、思わず首を傾げるささら。
羂索の事前説明では強力な能力には制限を課すとあったが、回復能力もまたその対象なのだろう。
致命傷に至る傷もいとも簡単に治せてしまったら、円滑な殺し合いの進行に支障が生じる。
制限が必要なら最初から呼ぶなと、心優しい彼女に代わって文句を言ってやりたいが。
参加していたお陰で生き長らえたの事実。今は思考の片隅に追いやり、恩人への感謝のみを伝える。
「なんだ…機械でも治せちまうのか…。早々楽させてくれねぇなぁ…。」
「アノ腕は厄介ダ。マタ触レラレル前ニ早期決着ヲ付ケルシカナイ」
「アノ腕は厄介ダ。マタ触レラレル前ニ早期決着ヲ付ケルシカナイ」
接触一つで発動する弱体化能力。
簡単な条件で効果が発揮される上に、他にも類似の能力を所持する可能性を考えると。
攻防を長引かせれば長引かせる程、戦況は不利に傾く。
まだ身体が万全に近い内に、渾身の一撃を以て仕留めるのが現状考え得る最善策。
簡単な条件で効果が発揮される上に、他にも類似の能力を所持する可能性を考えると。
攻防を長引かせれば長引かせる程、戦況は不利に傾く。
まだ身体が万全に近い内に、渾身の一撃を以て仕留めるのが現状考え得る最善策。
「なら今度は私が前に出てなるべく時間を稼ぐね。
その間にマキナちゃんは、あの人を倒せるくらいすごいのお願いできる?」
「イイノカ。ワタシノ攻撃ニハアル程度ノ時間ヲ要スル。
例エ生身デモ、ヤツニ別ノ弱体化手段ガアレバオマエハ…」
「いいの、本当は私が一番に前に出て、守らなきゃだったんだから。
安心して!こう見えて私、マキナちゃんに負けないくらい頑丈なんだよ。」
その間にマキナちゃんは、あの人を倒せるくらいすごいのお願いできる?」
「イイノカ。ワタシノ攻撃ニハアル程度ノ時間ヲ要スル。
例エ生身デモ、ヤツニ別ノ弱体化手段ガアレバオマエハ…」
「いいの、本当は私が一番に前に出て、守らなきゃだったんだから。
安心して!こう見えて私、マキナちゃんに負けないくらい頑丈なんだよ。」
火力に乏しいささらが守り、敵の攻撃を対処し辛いマキナが攻める。
構成自体は最適。しかし強敵を仕留める大技発動には一定量のチャージが要求される。
その間未だ未知数の怪人を単独で相手取るなど、その危険度は計り知れない。
死の可能性も充分にある。にも関わらず、平時と変わらない柔らかな笑顔を向けるささら。
興玉駅や学園祭で闘った際に見せた自己犠牲にも似た献身は変わらず。
自らを死に近づけ過ぎる帰来を持つ彼女に、一抹の不安が過ぎるが。
構成自体は最適。しかし強敵を仕留める大技発動には一定量のチャージが要求される。
その間未だ未知数の怪人を単独で相手取るなど、その危険度は計り知れない。
死の可能性も充分にある。にも関わらず、平時と変わらない柔らかな笑顔を向けるささら。
興玉駅や学園祭で闘った際に見せた自己犠牲にも似た献身は変わらず。
自らを死に近づけ過ぎる帰来を持つ彼女に、一抹の不安が過ぎるが。
「大丈夫。私はまだまだ死なないよ。だから信じて…ね?」
その不安を感じ取ったかの如く伝えられた生の意志。
自分にあった様にリドゥでの経験を経て起きた心境の変化が、彼女にもまたあったのだろう。
僅かな懸念が杞憂だと分かれば、後は彼女から注がれる全幅の信頼に応えるのみだ。
自分にあった様にリドゥでの経験を経て起きた心境の変化が、彼女にもまたあったのだろう。
僅かな懸念が杞憂だと分かれば、後は彼女から注がれる全幅の信頼に応えるのみだ。
「…分カッタ。ダガソウ長ク時間ハ掛ケナイ───行クゾ!」
掛け声と共にマキナが両手を前へ翳すと、掌を中心に集約するエネルギー。
瞬間、激しい閃光。ゲンムへ向け、一直線に放たれるレーザー光線。
熱線発射に付随する眩いフラッシュは、闇に慣れ親しんだ目には刺激が強い。
思わず眼が眩むゲンムの状態などお構いなしに、熱線は標的を焼き尽くさんと飛来する。
瞬間、激しい閃光。ゲンムへ向け、一直線に放たれるレーザー光線。
熱線発射に付随する眩いフラッシュは、闇に慣れ親しんだ目には刺激が強い。
思わず眼が眩むゲンムの状態などお構いなしに、熱線は標的を焼き尽くさんと飛来する。
フラッシュの直前、一瞬見えた弾道からタイミングを予測。
大鎌を振るい、熱線は見事一刀両断。
分かれた光は左右へ綺麗に逸れ、地面を瞬時に焼き切った。
一時の脅威を退け、回復した視界には走り寄って来る小娘一人。
熱線を放ったサイボーグの姿は、何故か忽然と消えていた。
大鎌を振るい、熱線は見事一刀両断。
分かれた光は左右へ綺麗に逸れ、地面を瞬時に焼き切った。
一時の脅威を退け、回復した視界には走り寄って来る小娘一人。
熱線を放ったサイボーグの姿は、何故か忽然と消えていた。
「あなたの相手は私!」
「誰でも変わらねぇよ…。どの道お前らじゃ俺は殺せねぇ…」
「誰でも変わらねぇよ…。どの道お前らじゃ俺は殺せねぇ…」
視界に映る限りではそれらしき影は無し。
本腰を入れて探そうとするも、それ以上の捜索の暇は与えられない。
先んずれば人を制す、と鋭利な踏み込みで放つ斬撃二閃。
本腰を入れて探そうとするも、それ以上の捜索の暇は与えられない。
先んずれば人を制す、と鋭利な踏み込みで放つ斬撃二閃。
もしも普通の相手ならば充分な腕前だろうが。
全員が百戦錬磨、一騎当千の王。
宇宙の片隅の惑星チキューが誇る守護者、王様戦隊キングオージャー。
彼らを単独であしらう宇蟲五道化を真正面から相手取るには余りにも遅く、そして軽い。
必要最小限の動作で獲物を振るい、脅威と呼ぶにはお粗末な攻撃を捌く。
全員が百戦錬磨、一騎当千の王。
宇宙の片隅の惑星チキューが誇る守護者、王様戦隊キングオージャー。
彼らを単独であしらう宇蟲五道化を真正面から相手取るには余りにも遅く、そして軽い。
必要最小限の動作で獲物を振るい、脅威と呼ぶにはお粗末な攻撃を捌く。
「まぁ…いいか。どっちかと言えば…殺したかったのはお前だ。」
苦しみ喘ぐ者に活きる力を与え、死の運命から遠ざける癒し手。
死と病を振り撒き、星を弄ぶ殺戮兵器にとって最も不快で邪魔な存在だ。
ささらに向け発せられる、汚泥にも似た重く纏わりつく殺気。
その重圧に汗が滲み、脚が竦むが、どんなものであれ、意識を自分に向けられたなら上々。
仲間の合図が来るまで時間を稼ぐのみと精神を集中させる。
死と病を振り撒き、星を弄ぶ殺戮兵器にとって最も不快で邪魔な存在だ。
ささらに向け発せられる、汚泥にも似た重く纏わりつく殺気。
その重圧に汗が滲み、脚が竦むが、どんなものであれ、意識を自分に向けられたなら上々。
仲間の合図が来るまで時間を稼ぐのみと精神を集中させる。
「はああああっ!!」
気合の叫びで己を奮い立たせ、果敢に攻め込むささら。
袈裟切り。一閃突き。回転切り。連続突き。
どれだけ防がれようと。躱されようと。一歩でも前へと踏み出し技を繰り出す。
ゲンムを受けに回らせ、攻めの一手を打たせる暇を与えない縦横無尽の大乱舞。
袈裟切り。一閃突き。回転切り。連続突き。
どれだけ防がれようと。躱されようと。一歩でも前へと踏み出し技を繰り出す。
ゲンムを受けに回らせ、攻めの一手を打たせる暇を与えない縦横無尽の大乱舞。
「無駄に熱くなるなよ…鬱陶しいだけだ。」
決死の覚悟で放つ怒涛の攻めを、溜息混じりに軽く一蹴。
のらりくらりと薙刀を受け流す中で、その激しさにも慣れてしまった。
斬閃の嵐を掻い潜り、漆黒の刃が遂にささらを捉える。
傷は浅い。まだまだ戦えると柄を握る手に力を込めるが。
全身を襲う強烈な痛みと脱力感。耐え難い苦痛に思わず膝を付く。
のらりくらりと薙刀を受け流す中で、その激しさにも慣れてしまった。
斬閃の嵐を掻い潜り、漆黒の刃が遂にささらを捉える。
傷は浅い。まだまだ戦えると柄を握る手に力を込めるが。
全身を襲う強烈な痛みと脱力感。耐え難い苦痛に思わず膝を付く。
「俺の武器は触れたものを腐らせる…。まあ…長くは効かんが…。」
無様に首を晒した命を刈り取る猶予は充分。
消えた機械の横槍が入るかも知れないが支障はない。
寧ろ探す手間が省けるというもの。
何一つとて憂いはない。新たな骸を生み出すべく、鎌を振り上げ──
消えた機械の横槍が入るかも知れないが支障はない。
寧ろ探す手間が省けるというもの。
何一つとて憂いはない。新たな骸を生み出すべく、鎌を振り上げ──
「───まだ…だよ!」
生を諦めない弱者の藻掻きが、驕れる強者を切り裂いた。
普段の淑やかな様子からは想像も出来ない。
鬼人の如き表情で、力強く旋回させた薙刀から放つ無数の斬撃。
普段の淑やかな様子からは想像も出来ない。
鬼人の如き表情で、力強く旋回させた薙刀から放つ無数の斬撃。
「…?どうして動ける…」
シックルシーカーの毒は王鎧武装も貫通する呪毒。
長時間持続しないと分かっているが、幾らなんでも立ち直りが速すぎる。
元々が守りなど不要であったが故に防御が疎かになり、奇襲を受けたのは止む負えないとして。
レジスターの制限だけでは説明が付かない現状に、ゲンムの中の疑問が晴れない。
長時間持続しないと分かっているが、幾らなんでも立ち直りが速すぎる。
元々が守りなど不要であったが故に防御が疎かになり、奇襲を受けたのは止む負えないとして。
レジスターの制限だけでは説明が付かない現状に、ゲンムの中の疑問が晴れない。
「え、えへへ…どうしてでしょう…!」
肩で息をしながらも、慣れない不敵な笑みを精一杯浮かべる。
最初の小競り合いでマキナを蝕んだ弱体化をささらは強く警戒。
少しでも異常を感じた瞬間に、回復スキルを発動すると決めていた。
急場の治療では完治には程遠く、何とか身体が動く程度だが問題なし。
窮鼠猫を嚙む。命の危機であればある程に技のキレが増す、起死回生のスキルが真価を発揮。
後は気合と根性だ。持ち前の精神力で苦痛を持ちこたえ、死神から生の権利を勝ち取った。
最初の小競り合いでマキナを蝕んだ弱体化をささらは強く警戒。
少しでも異常を感じた瞬間に、回復スキルを発動すると決めていた。
急場の治療では完治には程遠く、何とか身体が動く程度だが問題なし。
窮鼠猫を嚙む。命の危機であればある程に技のキレが増す、起死回生のスキルが真価を発揮。
後は気合と根性だ。持ち前の精神力で苦痛を持ちこたえ、死神から生の権利を勝ち取った。
「無駄だと分かって尚足掻く…。これだから生き物ってのは嫌いだ…。」
足掻いたとて掴み取った時間などほんの僅か。
予定された死が本来より少し先にずれ込んだだけの話。
両者の有利不利は依然崩れず。面倒事がこれ以上、顔を出す前に片づけよう。
沸々と苛立ちが積もる中、強がりな死にぞこないへと向き直り、
予定された死が本来より少し先にずれ込んだだけの話。
両者の有利不利は依然崩れず。面倒事がこれ以上、顔を出す前に片づけよう。
沸々と苛立ちが積もる中、強がりな死にぞこないへと向き直り、
「退ケ───ッ!アミキササラ!」
「────!うん!」
「────!うん!」
遠く彼方から聞こえる叫喚が、二人だけの戦場に割って入った。
見上げるは遥か上空。轟々と燃え盛るオーラを纏う鋼鉄の戦士。
意識が逸れた隙に残る力を振り絞り、この先の大技に巻き込まれない様ささらは飛び退く。
見上げるは遥か上空。轟々と燃え盛るオーラを纏う鋼鉄の戦士。
意識が逸れた隙に残る力を振り絞り、この先の大技に巻き込まれない様ささらは飛び退く。
「エネルギー充填100%────滅却する!」
一斉掃射(フルバースト)発動。
指示系統の命令に従い、身体の各所から砲門が展開。
上空から四方八方への爆撃を以て、敵を撃滅するマキナの切り札、メギドバースト改。
女神に仇名す反逆者(バグ)たちを駆逐する裁きの炎。
此度はただ一人の怪人を打ち滅ぼさんが為、天より降り注ぐ。
指示系統の命令に従い、身体の各所から砲門が展開。
上空から四方八方への爆撃を以て、敵を撃滅するマキナの切り札、メギドバースト改。
女神に仇名す反逆者(バグ)たちを駆逐する裁きの炎。
此度はただ一人の怪人を打ち滅ぼさんが為、天より降り注ぐ。
接近するミサイルの雨嵐。確かに全弾受ければ、ダメージは大きいだろう。
しかしブースターの駆動音で存在を気取られない為か。
飛行の高度を高くしており、着弾までにまだかなり距離がある。
数秒でも猶予があれば退避は可能。真正面から付き合う義理はない。
機械の仲間同様、さっさと飛び退こうとして、その場でストンとしゃがみ込んだ。
しかしブースターの駆動音で存在を気取られない為か。
飛行の高度を高くしており、着弾までにまだかなり距離がある。
数秒でも猶予があれば退避は可能。真正面から付き合う義理はない。
機械の仲間同様、さっさと飛び退こうとして、その場でストンとしゃがみ込んだ。
「何だ…?」
思考に反して場に留まろうとする不可解な行為。
本気の困惑が過ぎるその足元には、何時の間にか展開された青のネット。
これが原因と瞬時に断定。鎌で電子の網を切断すると拘束が解除されるが既に手遅れ。
逃げ遅れたゲンムにミサイル群が着弾。
戦場に爆音が轟き、多大な熱と衝撃が装甲越しに苦痛を与える。
静寂と寒さを好むグローディにとって最悪に等しい環境下で。
朦々と立ち込める爆煙を切り裂き飛来した───銀色の流星。
本気の困惑が過ぎるその足元には、何時の間にか展開された青のネット。
これが原因と瞬時に断定。鎌で電子の網を切断すると拘束が解除されるが既に手遅れ。
逃げ遅れたゲンムにミサイル群が着弾。
戦場に爆音が轟き、多大な熱と衝撃が装甲越しに苦痛を与える。
静寂と寒さを好むグローディにとって最悪に等しい環境下で。
朦々と立ち込める爆煙を切り裂き飛来した───銀色の流星。
「────────────!」
「吹キ飛べ────ッ!」
「吹キ飛べ────ッ!」
刹那、炸裂する衝撃。
鋼の肉体が持つ大質量、ブースターの推進力を得た超加速。
加えて、高所からの位置エネルギーが上乗せされた三種混合技。
凄まじい破壊力を伴って放たれた飛び蹴りは、ゲンムの全身を瞬く間に蹂躙。
一切の抵抗の余地さえ許されず、無惨に宙へ吹き飛ばされる。
サッカーボールの様になすがまま転がり、やがて地面に五体を広げて倒れ伏した。
鋼の肉体が持つ大質量、ブースターの推進力を得た超加速。
加えて、高所からの位置エネルギーが上乗せされた三種混合技。
凄まじい破壊力を伴って放たれた飛び蹴りは、ゲンムの全身を瞬く間に蹂躙。
一切の抵抗の余地さえ許されず、無惨に宙へ吹き飛ばされる。
サッカーボールの様になすがまま転がり、やがて地面に五体を広げて倒れ伏した。
「…対象ノ沈黙ヲ確認。機体ノ冷却作業ヘ移行スル…」
過剰出力によるオーバーヒートを防ぐべくクールダウンを開始。
排熱が順調に進行する最中、聞き慣れた足音を検知。
見れば心配そうに駆け寄ってくるこの闘いの功労者の姿。
自分も疲労と痛みでいっぱいいっぱいだろうに、他人の気遣いを優先しに来るとは。
呆れを通り越して、関心さえ湧く彼女のお人好しっぷりは相変わらずだと苦笑する。
排熱が順調に進行する最中、聞き慣れた足音を検知。
見れば心配そうに駆け寄ってくるこの闘いの功労者の姿。
自分も疲労と痛みでいっぱいいっぱいだろうに、他人の気遣いを優先しに来るとは。
呆れを通り越して、関心さえ湧く彼女のお人好しっぷりは相変わらずだと苦笑する。
ウイルスの治療に大技までの時間稼ぎ。ささらの助力なしでは何度死んでいた事か。
更には二手に分かれる前、手渡した支給品を適切に活用してくれたのも大きい。
更には二手に分かれる前、手渡した支給品を適切に活用してくれたのも大きい。
先の一連の戦闘において、ゲンムの身体を釘付けにした正体。
防衛を専門とするエージェントが所有する"グラヴィネット"と呼ばれるアイテムによるもの。
外観は通常のグレネード。殺傷能力こそないが、床などに投げつけ着弾する事で起動。
瞬時に内部のナノワイヤーの網が展開。ネット上にいる敵を一時的に拘束する代物。
防衛を専門とするエージェントが所有する"グラヴィネット"と呼ばれるアイテムによるもの。
外観は通常のグレネード。殺傷能力こそないが、床などに投げつけ着弾する事で起動。
瞬時に内部のナノワイヤーの網が展開。ネット上にいる敵を一時的に拘束する代物。
平時であれば容易く回避されていたであろう小細工だが。
今まさにミサイルの掃射に晒されんとしている、僅かな猶予もない土壇場。
意識の隙間を縫い、ネットを投下した彼女の功績があってこその勝利。
楽士として単独戦闘に慣れたリドゥでは経験した事のない連携の賜物に、感謝の念が尽きない。
今まさにミサイルの掃射に晒されんとしている、僅かな猶予もない土壇場。
意識の隙間を縫い、ネットを投下した彼女の功績があってこその勝利。
楽士として単独戦闘に慣れたリドゥでは経験した事のない連携の賜物に、感謝の念が尽きない。
溜まった恩を何処で返そうかと、そこまで考えた所でふと気づく。
何時の間にかささらの足音が止んでいた。
互いの居た場所に大した距離もない。
とうの昔に到着し、甲斐甲斐しく声をかけて来そうなものだが。
彼女の方向へ視線をやると、ささらは少し離れた先で立ち止まっていた。
何時の間にかささらの足音が止んでいた。
互いの居た場所に大した距離もない。
とうの昔に到着し、甲斐甲斐しく声をかけて来そうなものだが。
彼女の方向へ視線をやると、ささらは少し離れた先で立ち止まっていた。
立ち尽くす彼女は何処か一点を見つめている。
リドゥでも滅多に見せた事もない青ざめた表情を浮かべながら。
その視線の矛先はマキナの後方。
其処にいつも気丈な彼女を怯ませるだけの何があるのか。
冷却を終え、クリーンになった思考回路を以てしても皆目見当が付かなかった。
リドゥでも滅多に見せた事もない青ざめた表情を浮かべながら。
その視線の矛先はマキナの後方。
其処にいつも気丈な彼女を怯ませるだけの何があるのか。
冷却を終え、クリーンになった思考回路を以てしても皆目見当が付かなかった。
否、そんな筈がない。
其処にあるものをマキナは知っている。
寧ろ彼だからこそ一番理解してなければおかしい。
ただ"そんな馬鹿な事があって良い訳がない"と都合のいい理想に縋っていただけ。
認めれば心挫けそうになる非情な現実を、無理やりにでも否定したかっただけだ。
其処にあるものをマキナは知っている。
寧ろ彼だからこそ一番理解してなければおかしい。
ただ"そんな馬鹿な事があって良い訳がない"と都合のいい理想に縋っていただけ。
認めれば心挫けそうになる非情な現実を、無理やりにでも否定したかっただけだ。
「ア──アアア────」
そんな無駄な抵抗を不意にする、亡者の呻き声。
氷柱を体内へ直接捻じ込まれたような、背筋が凍る機械らしからぬ幻覚。
潤滑油が必要になりそうな位に、スムーズとは程遠い速度で首を回す。
意を決して振り返ったその先に待ち構えていた、正真正銘の恐怖。
氷柱を体内へ直接捻じ込まれたような、背筋が凍る機械らしからぬ幻覚。
潤滑油が必要になりそうな位に、スムーズとは程遠い速度で首を回す。
意を決して振り返ったその先に待ち構えていた、正真正銘の恐怖。
白の骸から湧き出す黒々とした死の瘴気。
バチバチと迸る紫のスパークが弾け、バキボキと不快な音を立て屍が目を覚ます。
生物の常識を逸脱した、見た者の嫌悪を刺激する不規則な挙動。
幽鬼の如くゆらりと立ち上がると、首をぐるりと大きく一回転。
我が身の健在をみせつけるかの如く、死神の冷めた哄笑が混沌しつつある場に響き出した。
バチバチと迸る紫のスパークが弾け、バキボキと不快な音を立て屍が目を覚ます。
生物の常識を逸脱した、見た者の嫌悪を刺激する不規則な挙動。
幽鬼の如くゆらりと立ち上がると、首をぐるりと大きく一回転。
我が身の健在をみせつけるかの如く、死神の冷めた哄笑が混沌しつつある場に響き出した。
「ハ、ハハハハ──ああそうか…。また同じ事の繰り返しか…羂索も芸の無ぇ事だ…。」
「ドウイウ、事ダ…!?確カニ決マッタハズ…!何故平然トシテイラレル!?」
「あ…?何故も何も…見りゃ分かるだろ。」
「ドウイウ、事ダ…!?確カニ決マッタハズ…!何故平然トシテイラレル!?」
「あ…?何故も何も…見りゃ分かるだろ。」
先の攻防が夢幻であったかの如く。
何事もなかったかのように悠々と大地に立つゲンム。
視覚センサーから届く視覚情報を疑いたくなる信じたがたい光景。
抑えたくとも、動揺から自然と語気が強まるマキナに対し。
世間知らずに一般常識を告げるような、何処か小馬鹿にした口ぶりで彼は疑問に答えた。
何事もなかったかのように悠々と大地に立つゲンム。
視覚センサーから届く視覚情報を疑いたくなる信じたがたい光景。
抑えたくとも、動揺から自然と語気が強まるマキナに対し。
世間知らずに一般常識を告げるような、何処か小馬鹿にした口ぶりで彼は疑問に答えた。
「オレは──コイツは"死体"だ。
なぁ、教えてくれよ。どうやったら死体がもう一度死ぬんだ…?」
なぁ、教えてくれよ。どうやったら死体がもう一度死ぬんだ…?」
死人は病まない。
病むに足る正常な箇所が一つもないから。
死人は苦しまない。
苦痛を感じる肉も心も当の昔に滅んだから。
死人は死なない。
生亡き骸に死を与えるなど、一体誰が出来ようか。
病むに足る正常な箇所が一つもないから。
死人は苦しまない。
苦痛を感じる肉も心も当の昔に滅んだから。
死人は死なない。
生亡き骸に死を与えるなど、一体誰が出来ようか。
どんな強力な攻撃だろうと、どんな策を弄そうとも。
胸部のモニターが指し示す命の証(ライダーゲージ)は最初から空っぽ。
死にながら生き続ける宇宙のバグを、削除する手段など何処にも存在しない。
胸部のモニターが指し示す命の証(ライダーゲージ)は最初から空っぽ。
死にながら生き続ける宇宙のバグを、削除する手段など何処にも存在しない。
「俺は死なない。殺せない。何をしようが…死ぬのはお前ら命ある生者だけだ。」
ゲンムの足元の影が不気味に波打ち、変形を開始。
大きく広がった夜の闇より深い影から伸びる、見覚えのある無数の白い手。
この短時間で耐え難い苦痛を味合わせた、忌まわしき悪魔の手。
脳裏に過ぎった最悪の想像は、今現実と化す。
大きく広がった夜の闇より深い影から伸びる、見覚えのある無数の白い手。
この短時間で耐え難い苦痛を味合わせた、忌まわしき悪魔の手。
脳裏に過ぎった最悪の想像は、今現実と化す。
大地を掴み、闇から這い出たる白き死神、ゾンビゲーマー。
寸分違わぬ姿と武器を携えた動く死体が、一人、また一人とこの世に降り立ち。
最終的に二人の前に並び立つ"五体"の骸。
眼前に突き付けられた抗い難い絶望。最早二の句さえ継ぐ余裕さえ彼らにはない。
寸分違わぬ姿と武器を携えた動く死体が、一人、また一人とこの世に降り立ち。
最終的に二人の前に並び立つ"五体"の骸。
眼前に突き付けられた抗い難い絶望。最早二の句さえ継ぐ余裕さえ彼らにはない。
「……掴マレ!此処ハ退クゾ!」
正真正銘の不死身の肉体に逆転された人数差。
このまま呆けていれば、待つのは死のみ。
自分達が置かれた絶望的戦況を冷静に見極め、即時撤退を決断。
有無も言わさず同行者の元へ急行。
素早く抱きかかえ飛翔し、全速力で死地からの離脱を試みる。
このまま呆けていれば、待つのは死のみ。
自分達が置かれた絶望的戦況を冷静に見極め、即時撤退を決断。
有無も言わさず同行者の元へ急行。
素早く抱きかかえ飛翔し、全速力で死地からの離脱を試みる。
「…グアッ!?」
「きゃあ!」
「きゃあ!」
直後鳴り響く、甘えた逃走を許さない無情な発砲音。
意識外からの衝撃に苦悶の声を上げるが、一度だけでは留まらない。
駄目押しに二度三度と発砲が繰り返され、機体のあちこちから鮮血代わりの火花が散る。
狙撃により飛行ユニットが破損。飛行状態を維持できず重力に従い急落下。
墜落するマキナの視界には発砲音の出所を示す、硝煙を吹き上げる大鎌の柄。
意識外からの衝撃に苦悶の声を上げるが、一度だけでは留まらない。
駄目押しに二度三度と発砲が繰り返され、機体のあちこちから鮮血代わりの火花が散る。
狙撃により飛行ユニットが破損。飛行状態を維持できず重力に従い急落下。
墜落するマキナの視界には発砲音の出所を示す、硝煙を吹き上げる大鎌の柄。
グローディの武器は鎌であると同時に、遠距離狙撃を可能とする仕込み銃でもある。
状況不利を理由に一目散で逃げだそうとするマキナ達を見て即座に武器を変形。
死から逃れようとする、自然の摂理に反した愚者を撃墜した。
状況不利を理由に一目散で逃げだそうとするマキナ達を見て即座に武器を変形。
死から逃れようとする、自然の摂理に反した愚者を撃墜した。
「グッ…!マズイ、アミキササ───」
襲い来る落下の衝撃。蓄積した狙撃の負傷と相まって全身が軋むが構う暇はない。
飛び交う銃弾からは頑強な機械の身体が庇う形となったが。
咄嗟の逃走で体勢がまだ不安定だったが故に押さえがままならず。
ささらを上空で手放し見失う、最大にして最悪の失態を侵してしまった。
飛び交う銃弾からは頑強な機械の身体が庇う形となったが。
咄嗟の逃走で体勢がまだ不安定だったが故に押さえがままならず。
ささらを上空で手放し見失う、最大にして最悪の失態を侵してしまった。
カタルシスエフェクトで強化された彼女は最優の守護者だ。
マキナに勝るとも劣らない程に耐久性に優れており、多彩な治療の術も併せ持っている。
多少のダメージも許容出来るが、それでも生身の人間。
落下時に当たり所が悪ければ意識不明…それ以上の最悪のケースも充分考え得る。
逸る気持ちに突き動かされ、一刻も早くささらの元へ向かうべく走り出そうとして。
マキナに勝るとも劣らない程に耐久性に優れており、多彩な治療の術も併せ持っている。
多少のダメージも許容出来るが、それでも生身の人間。
落下時に当たり所が悪ければ意識不明…それ以上の最悪のケースも充分考え得る。
逸る気持ちに突き動かされ、一刻も早くささらの元へ向かうべく走り出そうとして。
「逃げようとすんじゃねぇよ…めんどくせぇ…」
マキナの視界を埋め尽くす死神の魔の手。
「まずはお前からだ…、スクラップにでもなってろ…」
顔に。腕に。脚に。全身に組まなく伸びる無数の手。
生き餌に喰らいつくゾンビかの如く群がり、逃げ遅れた犠牲者を抑え付ける。
最初の接触同様、注入された破壊ウイルスがマキナを蝕むが、今回はそれだけに留まらない。
掌を起点に彼の外殻を汚染する痛々しい錆。たちどころに腐っていく。
レベルXへと進化したゲンムが獲得した恐るべき異能。
CRドクターのゲーマドライバーさえ、機能不全に陥らせた強力な腐食能力によるもの。
生き餌に喰らいつくゾンビかの如く群がり、逃げ遅れた犠牲者を抑え付ける。
最初の接触同様、注入された破壊ウイルスがマキナを蝕むが、今回はそれだけに留まらない。
掌を起点に彼の外殻を汚染する痛々しい錆。たちどころに腐っていく。
レベルXへと進化したゲンムが獲得した恐るべき異能。
CRドクターのゲーマドライバーさえ、機能不全に陥らせた強力な腐食能力によるもの。
「オ、オオオオオアああアアああ────ッ!!!」
ノイズに汚染された歪で悲痛な絶叫の声があがる。
凄まじいスピードで錆色に塗り潰される永遠の銀。
Error。Error。Error。Error。Error。
脳内で大量の警告音が鳴り止まないが止める術がない。
凄まじいスピードで錆色に塗り潰される永遠の銀。
Error。Error。Error。Error。Error。
脳内で大量の警告音が鳴り止まないが止める術がない。
侵されていく。壊されていく。無くなっていく。
鋼の肉体に宿る命の灯をじわじわと消される感触が。
鮮明に感じ取れるのが恐ろしくて堪らない。
救いを求め、必死に伸ばした手を掴む者は現れない。
抗う事さえ次第に忘れ、覆いかぶさった死に埋もれていき、
鋼の肉体に宿る命の灯をじわじわと消される感触が。
鮮明に感じ取れるのが恐ろしくて堪らない。
救いを求め、必死に伸ばした手を掴む者は現れない。
抗う事さえ次第に忘れ、覆いかぶさった死に埋もれていき、
「────その子に触らないで」
煌めく白刃一閃。
マキナの叫びは確かに一人、守護者の元へ届いていた。
一刻を争う仲間の危機に、手の甲の輝きを一画、躊躇いなく力へと変換。
纏わりつく死人の群れを、蜘蛛の子を散らすように薙ぎ払う。
マキナの叫びは確かに一人、守護者の元へ届いていた。
一刻を争う仲間の危機に、手の甲の輝きを一画、躊躇いなく力へと変換。
纏わりつく死人の群れを、蜘蛛の子を散らすように薙ぎ払う。
「さ────さ…さら…」
「ごめんね…。私が守らなきゃなのに、こんなにもボロボロにさせちゃって…」
「ごめんね…。私が守らなきゃなのに、こんなにもボロボロにさせちゃって…」
見るも無残な鉄屑と化したマキナの手をそっと取る。
癒しの波動が、表面を覆い尽くす錆を急速に取り除いていく。
令呪による一時的制限の撤廃が、ささら本来の回復力を取り戻し。
闇に沈みかけていたマキナの意識を再び現世へと引き上げた。
癒しの波動が、表面を覆い尽くす錆を急速に取り除いていく。
令呪による一時的制限の撤廃が、ささら本来の回復力を取り戻し。
闇に沈みかけていたマキナの意識を再び現世へと引き上げた。
「眠らせときゃいいのに無駄に叩き起こしやがって…。いい加減学べよ…。」
ささらの治療も令呪の効力を受けた一撃さえ全て無意味と嘲笑い。
死した状態でなおも平然と起き上がる死神達。
本体と同一の力を保持しているのか、分身も堪えた様子もなく健在。
生へと続く未来が見えない現状は何一つとして変わっていないまま。
死した状態でなおも平然と起き上がる死神達。
本体と同一の力を保持しているのか、分身も堪えた様子もなく健在。
生へと続く未来が見えない現状は何一つとして変わっていないまま。
「これ以上時間を掛けるのも億劫だ…。もうとっとと逝っちまえ…。」
そう言い放つゲンムが赤と青のボタンを同時に押し込むと同時。
エネルギーを充填するような待機音が戦場に木霊する。
仮面ライダーのシステムを理解せずとも直感的に理解した。
闘いを速やかな終幕へと導く、死神にとっての必殺の一撃が放たれようとしていると。
エネルギーを充填するような待機音が戦場に木霊する。
仮面ライダーのシステムを理解せずとも直感的に理解した。
闘いを速やかな終幕へと導く、死神にとっての必殺の一撃が放たれようとしていると。
絶望の来訪を告げる音は、一度だけでは終わらなかった。
本体の意志に従い、分身も一斉にバグヴァイザーのボタンを操作。
重なり合う待機音声が不快な死の音色を奏で。
ちっぽけな命に喰らいつく瞬間を今か今かと待っていた。
重なり合う待機音声が不快な死の音色を奏で。
ちっぽけな命に喰らいつく瞬間を今か今かと待っていた。
「死ぬのか…"僕"たちは…。」
刻々と近づく可視化された死。
身体自体は正常に回復したとしても所詮一時の延命。
心までは癒せず、蹂躙され尽くした胸中は黒一色に塗り潰されたまま。
何をやっても退けられない。どう足掻いても避けられない。
唐突に現れた理不尽な終わりに、命の回数券など関係ない。
生命皆等しく訪れる絶対の運命を具現化したかの如き災厄が。
前を向こうと固く誓った理想郷での決意を塵へと還す。
身体自体は正常に回復したとしても所詮一時の延命。
心までは癒せず、蹂躙され尽くした胸中は黒一色に塗り潰されたまま。
何をやっても退けられない。どう足掻いても避けられない。
唐突に現れた理不尽な終わりに、命の回数券など関係ない。
生命皆等しく訪れる絶対の運命を具現化したかの如き災厄が。
前を向こうと固く誓った理想郷での決意を塵へと還す。
「嫌だ…死にたくない…!」
心を強く保つ為に演じていた仮面が剥がれる。
日常以上に死と隣合わせな世界に於いて。
理不尽と戦うための支えであった楽士マキナとしての理想(ロール)。
幼心であっても怯える彼に勇気と力をくれた不滅の象徴。
日常以上に死と隣合わせな世界に於いて。
理不尽と戦うための支えであった楽士マキナとしての理想(ロール)。
幼心であっても怯える彼に勇気と力をくれた不滅の象徴。
しかしそんな憧れは真の不死者により徹底的に凌辱され。
残っているのは、間近に迫った死に怯える哀れな少年。
限りある命の減少に無意味な抵抗を繰り返していた頃の嘗ての現実。
残っているのは、間近に迫った死に怯える哀れな少年。
限りある命の減少に無意味な抵抗を繰り返していた頃の嘗ての現実。
「死にたくない…死にたくない…死にたくない…!」
収縮する筋肉もないのに、震えが止まらない。
酸素の要らない肉体に呼吸が蘇り、速まる呼吸に悶え苦しむ。
同じフレーズを延々と繰り返す様はまさに壊れた機械そのもの。
光さえ届かない孤独な夜に死んでいくのだと絶望した時
酸素の要らない肉体に呼吸が蘇り、速まる呼吸に悶え苦しむ。
同じフレーズを延々と繰り返す様はまさに壊れた機械そのもの。
光さえ届かない孤独な夜に死んでいくのだと絶望した時
「死なないよ」
壊れかけた少年の心を天女が優しく繋ぎ止めた。
「怖くない怖くない。大丈夫、マキナちゃんはもう絶対に私が傷つけさせないから。」
強く、それでいて思いやりに溢れた慈愛の抱擁。
体温など感じない鉄の身体に確かに伝わる、陽だまりに抱かれているような温もり。
仄かな人の暖かさが、決して孤独ではないのだと懸命に訴えかけてくる。
その訴えが芯に響いたのか、次第に震えも呼吸も収まっていく。
ささらは安定したのを確認すると、そっと呆ける少年に顔を合わせ。
親が子へ、祖父母が孫へ向ける愛しさに満ちた和やかな笑みを浮かべた。
体温など感じない鉄の身体に確かに伝わる、陽だまりに抱かれているような温もり。
仄かな人の暖かさが、決して孤独ではないのだと懸命に訴えかけてくる。
その訴えが芯に響いたのか、次第に震えも呼吸も収まっていく。
ささらは安定したのを確認すると、そっと呆ける少年に顔を合わせ。
親が子へ、祖父母が孫へ向ける愛しさに満ちた和やかな笑みを浮かべた。
「────────」
「え…?」
「え…?」
囁かれた声に応える前に、気が付くとマキナは空を舞っていた。
己の意志とは関係なく、飛翔の勢いを受け一直線にグングンと加速。
遠ざかっていく戦場をただ黙って見過ごすしか出来ず。
少年を襲おうとした死は、彼を伝う温もりと共に遠ざけられた。
己の意志とは関係なく、飛翔の勢いを受け一直線にグングンと加速。
遠ざかっていく戦場をただ黙って見過ごすしか出来ず。
少年を襲おうとした死は、彼を伝う温もりと共に遠ざけられた。
「良かった。どう使うかよく分からなかったけど…あれで合ってたみたい」
マキナが無事飛び立ったのを見送り、ほっと息をつくささら。
彼女が使ったのは、対象者を戦闘から瞬時に離脱させる罠カード、緊急脱出装置。
頭が悪いせいで説明を読んでもいまいち使い方がピンと来なかったが
彼を逃がしたい気持ちに応えてくれたのか、上手く機能してくれたらしい。
彼女が使ったのは、対象者を戦闘から瞬時に離脱させる罠カード、緊急脱出装置。
頭が悪いせいで説明を読んでもいまいち使い方がピンと来なかったが
彼を逃がしたい気持ちに応えてくれたのか、上手く機能してくれたらしい。
先行き短い老兵と未来溢れる若者。
命の優先順位を見誤るほどまだ老いさらばえていない。
死ぬのは人生の列の先頭に立つ自分から。意図しない横入りは絶対に防いで見せる。
若人の幸多き現実を守る。その為なら命を捨てる事さえ厭わない。
と、かつての自分ならば捨て鉢になっていただろうと過去を振り返り、ささらは己を取り囲む死と対峙した。
命の優先順位を見誤るほどまだ老いさらばえていない。
死ぬのは人生の列の先頭に立つ自分から。意図しない横入りは絶対に防いで見せる。
若人の幸多き現実を守る。その為なら命を捨てる事さえ厭わない。
と、かつての自分ならば捨て鉢になっていただろうと過去を振り返り、ささらは己を取り囲む死と対峙した。
「おいおい…勘弁しろよ…。追う手間が増えちまった…。」
「あの子は追わせない。私がいる限り、ここから先は通さないから!」
「そうか。────じゃあ、さっさと死ね」
「あの子は追わせない。私がいる限り、ここから先は通さないから!」
「そうか。────じゃあ、さっさと死ね」
『『『『『クリティカルエンド!』』』』』
放たれた五重の死の宣告。
一斉に飛び上がり、禍々しい黒と白のエネルギーを帯びながら縦に高速回転。
晴れない永遠の闇へとプレイヤーを追放する、荒れ狂う紫電迸る回転蹴り。
一発でもゲームエンドを齎すに足るゲンムの切り札。
それが五発同時ともなれば終わりは必定。
一斉に飛び上がり、禍々しい黒と白のエネルギーを帯びながら縦に高速回転。
晴れない永遠の闇へとプレイヤーを追放する、荒れ狂う紫電迸る回転蹴り。
一発でもゲームエンドを齎すに足るゲンムの切り札。
それが五発同時ともなれば終わりは必定。
「ううん、死なないよ。だってみんなと約束したんだもん。
元の世界に帰って、やらなきゃいけない事がいっぱいあるんだから!」
元の世界に帰って、やらなきゃいけない事がいっぱいあるんだから!」
全身全霊を以て挑む一世一代の大勝負。
決して朽ちる事のない決意を力に変え、薙刀を構え一息に一回転。
刃先で地面に大きく円を描き、その軌跡から溢れ出す光の壁。
全ての傷を癒し、遍く不幸を退ける編木ささらの奥義(オーバードーズスキル)。
限界を引き出す令呪のアシストを得て、如何なる不浄の侵入をも許さない絶対の障壁と化した。
決して朽ちる事のない決意を力に変え、薙刀を構え一息に一回転。
刃先で地面に大きく円を描き、その軌跡から溢れ出す光の壁。
全ての傷を癒し、遍く不幸を退ける編木ささらの奥義(オーバードーズスキル)。
限界を引き出す令呪のアシストを得て、如何なる不浄の侵入をも許さない絶対の障壁と化した。
「はああああああああああ────ッ!!」
ぶつかり合う光と闇。凄まじい衝撃が前後左右より襲う。
一瞬でも力を緩めれば、忽ち壁は砕け散り簡単に圧し潰される。
それでも持てる力、命の限りを絞り尽くし極光を維持。
徐々に亀裂が入るも懸命に歯を食い縛り、迫る死を寄せ付けない。
一瞬でも力を緩めれば、忽ち壁は砕け散り簡単に圧し潰される。
それでも持てる力、命の限りを絞り尽くし極光を維持。
徐々に亀裂が入るも懸命に歯を食い縛り、迫る死を寄せ付けない。
「吹けば飛ぶ命一つ…どうしてこうも生き足掻ける…。」
不死を滅ぶす力はおろか、五道化と真面に渡り合う力すら持ち得ない只の人間。
そんなちっぽけな命一つの全力など、令呪込みでも虫けら同然に容易く踏み潰せる。
己を葬った王達の様に群れを成している訳でも無し。
なのにどうして、死を待つだけだった生者が、未だに立っているのか。
定められた理を覆す、認めがたい事実に苛立ちと疑問が尽きない。
そんなちっぽけな命一つの全力など、令呪込みでも虫けら同然に容易く踏み潰せる。
己を葬った王達の様に群れを成している訳でも無し。
なのにどうして、死を待つだけだった生者が、未だに立っているのか。
定められた理を覆す、認めがたい事実に苛立ちと疑問が尽きない。
「一人だけど…一人じゃないからだよ…!」
「あぁ…?」
「どんなに離れていても、色んな人と出会って、触れ合って、出来た沢山の繋がりがある。
だからそんな大切な皆との絆を守りたいって、一生懸命頑張りたいって思えるようになるの…!」
「あぁ…?」
「どんなに離れていても、色んな人と出会って、触れ合って、出来た沢山の繋がりがある。
だからそんな大切な皆との絆を守りたいって、一生懸命頑張りたいって思えるようになるの…!」
死ぬなんて言っちゃ駄目だと泣いてくれた、ヒトの心を学び始めた少女のために。
まだまだ死なないと殺し合いで約束した、自分の後悔と向き合い始めた少年のために。
死んでほしくないと怒ってくれた、見ず知らずの命を惜しんでくれる新たな家族のために。
まだまだ死なないと殺し合いで約束した、自分の後悔と向き合い始めた少年のために。
死んでほしくないと怒ってくれた、見ず知らずの命を惜しんでくれる新たな家族のために。
偽物と本物、理想と現実。短くも長い生涯で出会った様々な顔が浮かぶ。
二つの世界で得た枚挙に暇がない位の沢山の繋がりが、老いた心と若い体に希望をくれる。
現実を知って尚生きて欲しいと願ってくれる、こんなにも素敵な出会いをくれた素晴らしき人生だ。
終活(トゥルーエンド)を迎えるその時まで自分勝手に死ぬ訳にはいかない。
例え命を擲つのが合理だとしても、我儘に生きて行こうと足掻く力を与えるのだ。
二つの世界で得た枚挙に暇がない位の沢山の繋がりが、老いた心と若い体に希望をくれる。
現実を知って尚生きて欲しいと願ってくれる、こんなにも素敵な出会いをくれた素晴らしき人生だ。
終活(トゥルーエンド)を迎えるその時まで自分勝手に死ぬ訳にはいかない。
例え命を擲つのが合理だとしても、我儘に生きて行こうと足掻く力を与えるのだ。
「…意味が分からねぇ…もういい。さっさと逝け。」
命の意味を理解出来ないよう作られた死神に、生を尊ぶ言葉は何一つとして響かない。
他人など耳障りな雑音を立てるだけの醜悪な存在。
其処に尊ぶべき繋がりなどありはしない。寧ろただ断ち切るのみだ。
答えを聞いても思考は晴れず、ただ苛立ちが増しただけ。
感情に呼応するように障壁を押し込むパワーが更に一段階上がる。
他人など耳障りな雑音を立てるだけの醜悪な存在。
其処に尊ぶべき繋がりなどありはしない。寧ろただ断ち切るのみだ。
答えを聞いても思考は晴れず、ただ苛立ちが増しただけ。
感情に呼応するように障壁を押し込むパワーが更に一段階上がる。
令呪なしでまだこの余力。
眼前に突きつけられる埋め難い生物としての純然たる格差。
ブーストのタイムリミットも近い。このままでは押し切られるのは自明。
令呪一画では逆転は程遠い。ならば、話は簡単だ。
手に宿した神秘の輝きが更に一つ消え、全身へと還元。
二画による強化が相成った数秒に、この命が持てる限りを全て出し尽くせばいい──!
眼前に突きつけられる埋め難い生物としての純然たる格差。
ブーストのタイムリミットも近い。このままでは押し切られるのは自明。
令呪一画では逆転は程遠い。ならば、話は簡単だ。
手に宿した神秘の輝きが更に一つ消え、全身へと還元。
二画による強化が相成った数秒に、この命が持てる限りを全て出し尽くせばいい──!
「やあああああああ────っ!!」
腹の奥から轟く戦士の裂帛の叫び
突如爆発的に激しさを増した生命の奔流。
優勢を保ち続けた骸達が初めて劣勢へと追い込まれる。
限界の更に一歩先を行く力を以てして、まだ競り合える死神を恐れるべきか。
惑星を滅ぼし、宇宙を弄ぶ怪物を並び越さんとする人間の爆発力に瞠目すべきか。
異常同士が拮抗する勝負の数秒、決着は唐突に訪れた。
突如爆発的に激しさを増した生命の奔流。
優勢を保ち続けた骸達が初めて劣勢へと追い込まれる。
限界の更に一歩先を行く力を以てして、まだ競り合える死神を恐れるべきか。
惑星を滅ぼし、宇宙を弄ぶ怪物を並び越さんとする人間の爆発力に瞠目すべきか。
異常同士が拮抗する勝負の数秒、決着は唐突に訪れた。
「────ッ!熱ぃ…!この熱さは────」
恐れ知らずの死神を襲う致命的なイレギュラー。
死の淵に立つ者さえ癒す浄化の光が、全身に纏う膨大な死を遂に上回る。
急速に穢れを駆逐する不快で心地よいそれは、この身にも巡る命の熱。
その熱さに搔き乱された死の群れを、光は一気に呑み込み、
死の淵に立つ者さえ癒す浄化の光が、全身に纏う膨大な死を遂に上回る。
急速に穢れを駆逐する不快で心地よいそれは、この身にも巡る命の熱。
その熱さに搔き乱された死の群れを、光は一気に呑み込み、
溢れんばかりの命の煌めきが世界を照らした
◆◆◆
「はぁ…はぁ…!」
疲弊した肉体が、酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。
本来持ち得る力量以上の力を無理やりに出し尽くし、身体は限界ギリギリ。
薙刀を杖代わりに立っているのがやっと──それでも編木ささらは此処に立っている。
文字通りの必殺技を受けて生き延びた。死の運命に打ち勝って見せた。
でもまだ終わりではない。
ささらは自分と同じく苦し気に胸を抑える死神へ視線を向ける。
本来持ち得る力量以上の力を無理やりに出し尽くし、身体は限界ギリギリ。
薙刀を杖代わりに立っているのがやっと──それでも編木ささらは此処に立っている。
文字通りの必殺技を受けて生き延びた。死の運命に打ち勝って見せた。
でもまだ終わりではない。
ささらは自分と同じく苦し気に胸を抑える死神へ視線を向ける。
「…力が、抜ける…!なんだ…こりゃ…?」
一度目の生で味わった忌々しくも神々しい命の熱が、再びゲンムを焼き焦がす。
彼の身に起きているのは、令呪二画分の奇跡が引き起こしたバグ。
死と相反する膨大な生のエネルギーがガシャットに蓄積された死のデータを中和。
結果、ゲンムはレベルX(エックス)を維持出来ず。その前段階、レベルX(テン)へと強制的にグレードダウン。
一時は不滅にも思えたゾンビゲーマーの分身達は、退化を経て跡形もなく消滅。
測定不能の力を奪われた本体だけが一人取り残されていた。
彼の身に起きているのは、令呪二画分の奇跡が引き起こしたバグ。
死と相反する膨大な生のエネルギーがガシャットに蓄積された死のデータを中和。
結果、ゲンムはレベルX(エックス)を維持出来ず。その前段階、レベルX(テン)へと強制的にグレードダウン。
一時は不滅にも思えたゾンビゲーマーの分身達は、退化を経て跡形もなく消滅。
測定不能の力を奪われた本体だけが一人取り残されていた。
「もう終わりにしましょう?これ以上闘ってもあなたは…」
「終わり…?ああ、そうだな…。これで終わりだ…」
『ガッシューン!』
「終わり…?ああ、そうだな…。これで終わりだ…」
『ガッシューン!』
呼びかけに応じた結果か。グローディは変身を解き、白の装甲から黒の外套に身を包んだ姿へと戻る。
分かってくれたか、とそう思えたのはほんの一瞬だけ。
死神と見紛う男から漂う殺気は殺し合いが始まる前と一つとて変わらず。
やがて生気のない人肌がボロボロと崩れ落ち、怪人の化けの皮が剥がれた。
分かってくれたか、とそう思えたのはほんの一瞬だけ。
死神と見紛う男から漂う殺気は殺し合いが始まる前と一つとて変わらず。
やがて生気のない人肌がボロボロと崩れ落ち、怪人の化けの皮が剥がれた。
人間態時の服装と酷似した黒の出で立ちから無数に生えた寄生虫のような触角。
腐乱した死体に蛆が湧いたかの如き禍々しい様相は、先の変身以上に死を連想させる。
病を慕い、腐れに焦がれ、死を愛す。屍の友を携え生なき世界を渡り歩く死神の真の姿。
腐乱した死体に蛆が湧いたかの如き禍々しい様相は、先の変身以上に死を連想させる。
病を慕い、腐れに焦がれ、死を愛す。屍の友を携え生なき世界を渡り歩く死神の真の姿。
「…そう。まだ、終わらないんだね…、なら私は──」
人の身さえ脱ぎ捨てて尚も死を求め続ける怪物。
場を支配し始めた一層濃い死の気配が、新たな闘いの幕開けを告げる。
既に満身創痍。まともに闘う力など最早ささらには残されていない。
だが、諦めない。生きて帰るという大勢と交わした破れない誓いがあるのだから。
そうして心に希望を灯し、生と死が鎬を削る闘いの第二幕へと一歩踏み出し
場を支配し始めた一層濃い死の気配が、新たな闘いの幕開けを告げる。
既に満身創痍。まともに闘う力など最早ささらには残されていない。
だが、諦めない。生きて帰るという大勢と交わした破れない誓いがあるのだから。
そうして心に希望を灯し、生と死が鎬を削る闘いの第二幕へと一歩踏み出し
「────言ったろ…。これで終わりだってよ…。」
嘘のようにあっさりと決着が着いた。
死神の大鎌がゆらりと揺らめいた。
最期に彼女が理解出来たのはそれだけ。
直後、学生服に一本の線が引かれ、鮮血が弾け出す。
胸に気高く咲いた、檀特が夜風に舞い散っていった。
最期に彼女が理解出来たのはそれだけ。
直後、学生服に一本の線が引かれ、鮮血が弾け出す。
胸に気高く咲いた、檀特が夜風に舞い散っていった。
昆虫最終奥義、グローディバイド
神速の一太刀で敵の命を刈り取るグローディ本来の必殺技。
今まで奥義を使用しなかったのは、彼女らが支給品の性能を試す試金石でしかなかったから。
気張るといいながらも、何時でも気軽に死体へと変えられると高を括っていた。
しかし結果として、ささらは幾度も死を切り抜け、此処まで生き延びた。
生蔓延る世界で最も忌み嫌う癒し手を、王様戦隊以外で技を使うに値する敵と認識したのだ。
神速の一太刀で敵の命を刈り取るグローディ本来の必殺技。
今まで奥義を使用しなかったのは、彼女らが支給品の性能を試す試金石でしかなかったから。
気張るといいながらも、何時でも気軽に死体へと変えられると高を括っていた。
しかし結果として、ささらは幾度も死を切り抜け、此処まで生き延びた。
生蔓延る世界で最も忌み嫌う癒し手を、王様戦隊以外で技を使うに値する敵と認識したのだ。
(ああ…駄目だなぁ…。立たなきゃなのに動けないや…)
宣言通りの一瞬の終幕。悔しかろうと身体は全くいう事を聞かない。
決定的な何かが抜け出てしまった感覚に、鎌に付着した腐毒のオマケ付き。
精魂使い果たした今では回復はおろか攻撃スキルの一つも使えない。
ぼんやりとしていく思考の中、ささらは静かに終わりを悟る。
死なないと約束したのに、結局破ってしまった。
大切な家族たちの泣き顔や怒り顔が目に浮かび、申し訳なさで胸がいっぱいだ。
決定的な何かが抜け出てしまった感覚に、鎌に付着した腐毒のオマケ付き。
精魂使い果たした今では回復はおろか攻撃スキルの一つも使えない。
ぼんやりとしていく思考の中、ささらは静かに終わりを悟る。
死なないと約束したのに、結局破ってしまった。
大切な家族たちの泣き顔や怒り顔が目に浮かび、申し訳なさで胸がいっぱいだ。
いざ終わりが近づくと、色々な思考が目まぐるしく浮かんでは消えていく。
マキナは今後、無事に生き残れるだろうか。彼はもう充分死に悩み苦しんできた。
これから先、味わった恐怖に負けないだけの良い巡り合わせがある事を祈る。
帰宅部の皆は巻き込まれてはいないだろうか。自分だけなら何よりだが、そう都合よくもいかない。
でもあの若人たちなら必ず生きて現実へ戻れると信じている。出来ればマキナの事も支えてあげて欲しい。
マキナは今後、無事に生き残れるだろうか。彼はもう充分死に悩み苦しんできた。
これから先、味わった恐怖に負けないだけの良い巡り合わせがある事を祈る。
帰宅部の皆は巻き込まれてはいないだろうか。自分だけなら何よりだが、そう都合よくもいかない。
でもあの若人たちなら必ず生きて現実へ戻れると信じている。出来ればマキナの事も支えてあげて欲しい。
まだまだ心残りが沢山あるのに、残された時間はもう長くない。
人生の最期に、自分は何を考えるべきか。
謝罪、感謝、後悔、どれも正しい気がするがやはり答えは一つしかない。
人生の最期に、自分は何を考えるべきか。
謝罪、感謝、後悔、どれも正しい気がするがやはり答えは一つしかない。
(────────負けないでね)
何処までも遠くに届くよう、万巻の思いを込めて。
少年にも送った精一杯の声援(エール)
振りかかる死や恐怖に負けず、無限に広がる未来を歩めると信じ。
幸福な人生の不幸な死に屈せず、老婆は微笑んで永久の眠りに落ちた。
少年にも送った精一杯の声援(エール)
振りかかる死や恐怖に負けず、無限に広がる未来を歩めると信じ。
幸福な人生の不幸な死に屈せず、老婆は微笑んで永久の眠りに落ちた。
「────────起きろ」
幸福を祈る生者の心中など知る由も無く。
安らかな眠りを妨げる、無情なる死神の一声。
安らかな眠りを妨げる、無情なる死神の一声。
「何が面白いのか知らねぇが…寝るにはまだ早えだろ…。」
死に顔を覗き込む瞳に映る、青く渦巻いた螺旋。
その渦が怪しく輝くと今まさに終わりを迎えた骸が眼を見開き立ち上がる。
全ての生を尊び謳歌し、活力に満ち溢れた天女はもう此処にはいない。
胸の傷口から凝固し切らない赤黒い血液がドロドロと流れ出し。
主と生気に欠けた肌と同じ螺旋を眼に宿した歩く死人となった。
その渦が怪しく輝くと今まさに終わりを迎えた骸が眼を見開き立ち上がる。
全ての生を尊び謳歌し、活力に満ち溢れた天女はもう此処にはいない。
胸の傷口から凝固し切らない赤黒い血液がドロドロと流れ出し。
主と生気に欠けた肌と同じ螺旋を眼に宿した歩く死人となった。
「ああ…ようやく。また静かになった。でも所詮は一時だけ…」
騒々しかった戦場も屍だけとなれば、心地よい静謐さに包まれる。
しかし、少しでも遠くへ耳を澄ましてみれば。
うんざりする程聞こえてくる活気に満ちた忌々しい生者の声。
幸いこの地は死と争いには事欠かない。殺して増やしてを繰り返し理想の死の世界を創り出す。
久々にやりがいに満ちた大仕事。その為にも人手は必要だ。
新たに誕生した同胞へギョロリと目をむけ、グローディはじわりと頬を歪ませた。
しかし、少しでも遠くへ耳を澄ましてみれば。
うんざりする程聞こえてくる活気に満ちた忌々しい生者の声。
幸いこの地は死と争いには事欠かない。殺して増やしてを繰り返し理想の死の世界を創り出す。
久々にやりがいに満ちた大仕事。その為にも人手は必要だ。
新たに誕生した同胞へギョロリと目をむけ、グローディはじわりと頬を歪ませた。
「これも一つの"繋がり"だ。手伝ってくれるよ…なぁ?」
生きた骸だけを唯一の友とし、静寂を求め彷徨い歩く亡霊。
死を愛しながらも、死者の尊厳を踏み躙る静謐のグローディ。
この世に命ある限り、死神の行進は終わる事を知らない。
死を愛しながらも、死者の尊厳を踏み躙る静謐のグローディ。
この世に命ある限り、死神の行進は終わる事を知らない。
【編木ささら@Caligula2 死亡】
【グローディ・ロイコディウム@王様戦隊キングオージャ―】
状態:正常
服装:いつもの服装
装備:シックルシーカー(自前)@王様戦隊キングオージャ―、ガシャコンバグヴァイザー@仮面ライダーエグゼイド、バグスターバックル@仮面ライダーエグゼイド
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×0~4(グローディ、ささら)、デンジャラスゾンビガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ホットライン
思考
基本:静寂に満ちた理想の死の世界へ
01:生者を全て生きた骸に変える
02:逃げた機械も殺す。操れるかは死ねば分かるか。
参戦時期:47話死亡後
備考
※操れる死体は本人が直接殺害した物に限ります。また異常成虫による巨大化は出来ません。
※NPCで操れる数は生物系は無制限。機械系もシュゴッドソウルのように魂があれば可能です。
参加者の死体に関しては採用時、後続の書き手様にお任せします(人数制限や意識の有無など)
※死のデータが中和され、レベルテンに戻りました。分身、強力な腐食能力は使えません。
再び死を繰り返せば、レベルエックスに戻る可能性があります。
状態:正常
服装:いつもの服装
装備:シックルシーカー(自前)@王様戦隊キングオージャ―、ガシャコンバグヴァイザー@仮面ライダーエグゼイド、バグスターバックル@仮面ライダーエグゼイド
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×0~4(グローディ、ささら)、デンジャラスゾンビガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ホットライン
思考
基本:静寂に満ちた理想の死の世界へ
01:生者を全て生きた骸に変える
02:逃げた機械も殺す。操れるかは死ねば分かるか。
参戦時期:47話死亡後
備考
※操れる死体は本人が直接殺害した物に限ります。また異常成虫による巨大化は出来ません。
※NPCで操れる数は生物系は無制限。機械系もシュゴッドソウルのように魂があれば可能です。
参加者の死体に関しては採用時、後続の書き手様にお任せします(人数制限や意識の有無など)
※死のデータが中和され、レベルテンに戻りました。分身、強力な腐食能力は使えません。
再び死を繰り返せば、レベルエックスに戻る可能性があります。
【ガシャコンバグヴァイザー+バグスターバックル@仮面ライダーエグゼイド】
グローディ・ロイコディウムに支給。
檀黎斗がゲームパッド型の可変型武器。
ボタン操作でビームガンエリミネーター、チェーンソーエリミネーターに変形する。
付属のバグスターバックルを利用する事で変身ベルト、バグルドライバーとしての機能を果たす
グローディ・ロイコディウムに支給。
檀黎斗がゲームパッド型の可変型武器。
ボタン操作でビームガンエリミネーター、チェーンソーエリミネーターに変形する。
付属のバグスターバックルを利用する事で変身ベルト、バグルドライバーとしての機能を果たす
【デンジャラスゾンビガシャット@仮面ライダーエグゼイド】
グローディ・ロイコディウムに支給。
ガシャコンバグヴァイザー+バグスターバックルの付属として支給されている。
檀黎斗が自身の死のデータを元に完成させた十一本目のガシャット。
バグルドライバーに使用する事で仮面ライダーゲンムゾンビゲーマーレベルX(テン)に変身。
ライダーゲージが0になった瞬間の一時的な無敵状態を維持し続け、疑似的な不死性を有する。
今ロワでは不死性に制限が掛けられており、変身毎の許容量を超えると強制的に変身が解除される。
また、その状態で致命傷レベルのダメージを負い続ける事で死のデータが蓄積し、レベルX(エックス)に進化。
外見は変わらないが、大幅なステータス増加に加え、同一能力を有した分身・腐食能力を会得する。
グローディ・ロイコディウムに支給。
ガシャコンバグヴァイザー+バグスターバックルの付属として支給されている。
檀黎斗が自身の死のデータを元に完成させた十一本目のガシャット。
バグルドライバーに使用する事で仮面ライダーゲンムゾンビゲーマーレベルX(テン)に変身。
ライダーゲージが0になった瞬間の一時的な無敵状態を維持し続け、疑似的な不死性を有する。
今ロワでは不死性に制限が掛けられており、変身毎の許容量を超えると強制的に変身が解除される。
また、その状態で致命傷レベルのダメージを負い続ける事で死のデータが蓄積し、レベルX(エックス)に進化。
外見は変わらないが、大幅なステータス増加に加え、同一能力を有した分身・腐食能力を会得する。
【グラヴィネット@VALORANT】
マキナに支給。
ノルウェーの工作員デッドロックが使用する最先端のナノワイヤー技術を駆使した特殊なグレネード。
着弾すると起爆しネットが展開。範囲内にいる敵を強制的に拘束し、移動速度を低下させる。
マキナに支給。
ノルウェーの工作員デッドロックが使用する最先端のナノワイヤー技術を駆使した特殊なグレネード。
着弾すると起爆しネットが展開。範囲内にいる敵を強制的に拘束し、移動速度を低下させる。
【強制脱出装置@遊戯王OCG】
編木ささらに支給。通常罠(トラップ)カード
①:フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻す。
今ロワではカード使用者が対象に選んだ相手一人を会場の何処かへと飛ばす
編木ささらに支給。通常罠(トラップ)カード
①:フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻す。
今ロワではカード使用者が対象に選んだ相手一人を会場の何処かへと飛ばす
【NPCモンスター解説】
- サナギム@王様戦隊キングオージャ―
バグナラクの住民にして戦闘員。今ロワでは地帝国時代の個体で登場。
人間への憎悪に燃える前国王の過激思想と弱肉強食の意識が根付いており、好戦的な性格の個体が多い。
ライフル銃としても扱える長槍ガンショベルを専用武器として装備
人間への憎悪に燃える前国王の過激思想と弱肉強食の意識が根付いており、好戦的な性格の個体が多い。
ライフル銃としても扱える長槍ガンショベルを専用武器として装備
◆◆◆
少年が降り立ったその先に彼を脅かす死は何処にもなかった。
其処にあるは暗闇と静寂。
喧騒なき架空の街に一時の孤独な夜だけが広がっていた。
其処にあるは暗闇と静寂。
喧騒なき架空の街に一時の孤独な夜だけが広がっていた。
少年は、夜が怖くて堪らなかった。
誰もが皆ふとした瞬間に、前触れもなく消える可能性を抱えている。
身内や親友といった身の回りの命も、自分自身も例外なく。
もしも眠りに付き眼を閉じれば、もう二度と開かないのではと。
この闇に包まれたまま、もう朝日を拝む事は叶わないのではないかと。
絶えず発作を起こし眠れぬ夜を、部屋の四隅で震えながら一人耐え忍んだ。
誰もが皆ふとした瞬間に、前触れもなく消える可能性を抱えている。
身内や親友といった身の回りの命も、自分自身も例外なく。
もしも眠りに付き眼を閉じれば、もう二度と開かないのではと。
この闇に包まれたまま、もう朝日を拝む事は叶わないのではないかと。
絶えず発作を起こし眠れぬ夜を、部屋の四隅で震えながら一人耐え忍んだ。
現実で生と向き合う勇気を得た矢先に始まった非日常。
恐怖心に執り憑かれた妄想や幻覚へなく、明確な現実として存在する死。
皆が限りある命を奪い合い、そうでなくとも刻一刻と命のカウントダウンは進む。
理想郷での出来事を経てもなお、先の見えない殺し合いの夜は絶望しかなく。
それでも彼が闘おうと思えたのは、その日の夜は孤独ではなかったからだろう。
恐怖心に執り憑かれた妄想や幻覚へなく、明確な現実として存在する死。
皆が限りある命を奪い合い、そうでなくとも刻一刻と命のカウントダウンは進む。
理想郷での出来事を経てもなお、先の見えない殺し合いの夜は絶望しかなく。
それでも彼が闘おうと思えたのは、その日の夜は孤独ではなかったからだろう。
しかし少年に希望を齎した繋がりは、その希望自身を死へと誘った。
「どうしてなんだよ…あんなのがあったなら…とっくに…」
見知らぬ地に取り残され、膝から崩れ落ちる少年マキナ。
死から逃れられたにも関わらずその表情は重く、そして険しい。
本来生き残るのは自分ではなかった。生存の権利は彼女にあった。
自らに配布された支給品で、逃げられる筈だったのに。
そのたった一つの席を自分は奪った。誰よりも優しい彼女に譲らせてしまったのだ。
死から逃れられたにも関わらずその表情は重く、そして険しい。
本来生き残るのは自分ではなかった。生存の権利は彼女にあった。
自らに配布された支給品で、逃げられる筈だったのに。
そのたった一つの席を自分は奪った。誰よりも優しい彼女に譲らせてしまったのだ。
「死なないんじゃ…なかったのかよ…!」
確定した訳では無くとも、あの死地を乗り越えられる保証は皆無。
何より最後に見た微笑み。其処に滲ませた死への覚悟が、その後の結末を悟らせる。
生きると宣言したばかりで、早々に命を投げ捨てて。
舌の根も乾かぬ内に約束を違えた裏切者への怒りがこみ上げる。
否、その怒りの矛先は誓いを破らせてしまった他ならぬ己自身に対して。
何より最後に見た微笑み。其処に滲ませた死への覚悟が、その後の結末を悟らせる。
生きると宣言したばかりで、早々に命を投げ捨てて。
舌の根も乾かぬ内に約束を違えた裏切者への怒りがこみ上げる。
否、その怒りの矛先は誓いを破らせてしまった他ならぬ己自身に対して。
もしこの身が涙を流せたならば。
内に溢れる悲しみや後悔を少しは吐き出せたのだろうか。
澱んだ心を洗い流せない不完全さに、初めて己の理想の身体を疎ましく思った。
機械の身体に宿る人の心が完全でないのだけだというのに。
内に溢れる悲しみや後悔を少しは吐き出せたのだろうか。
澱んだ心を洗い流せない不完全さに、初めて己の理想の身体を疎ましく思った。
機械の身体に宿る人の心が完全でないのだけだというのに。
死の順番を譲らせてしまった罪悪感が、心の摩耗に拍車を掛ける。
寄り添い支えてくれた命の消失。その重さは15歳の少年には余りにも重すぎた。
これから先、マキナは向き合わなければならない。
一筋の光明さえ見えない死と絶望だけが蔓延する正真正銘の地獄とたった一人で。
寄り添い支えてくれた命の消失。その重さは15歳の少年には余りにも重すぎた。
これから先、マキナは向き合わなければならない。
一筋の光明さえ見えない死と絶望だけが蔓延する正真正銘の地獄とたった一人で。
「生きなきゃ……負けちゃ駄目なんだ…でも────」
怖い。どうしようもなく怖くて仕方ない。
死神に克明に刻み込まれたトラウマが忘れられない。
暖かな光さえ容易く吞み込んだ、この世界の闇に勝てる気さえ起らない。
この造られた世界で、許された時間はもう幾ばくもないのだと思うと。
取り囲む全てが自分を取り殺す為、今か今かを待ち構えてる様に見えて。
死神に克明に刻み込まれたトラウマが忘れられない。
暖かな光さえ容易く吞み込んだ、この世界の闇に勝てる気さえ起らない。
この造られた世界で、許された時間はもう幾ばくもないのだと思うと。
取り囲む全てが自分を取り殺す為、今か今かを待ち構えてる様に見えて。
「また、震えが…止まれよ…頼む、止まってくれ…!」
温もりに止めてもらった機体のバグが再発する。
逃げずに生きたいと彼女に語った決意は何処へ行ったのか。
これではリドゥへ逃げた頃と何も変わらない。
逃げずに生きたいと彼女に語った決意は何処へ行ったのか。
これではリドゥへ逃げた頃と何も変わらない。
一人小さく蹲り、がたつくボディをガンガンと叩き続ける。
機械を叩けば直るなど昭和の迷信でもあるまいし。
非合理だと頭では理解しながら、振るう拳を止められない。
鉄拳で何度も自分を殴りつけるその様は、自罰のようにも見えた。
機械を叩けば直るなど昭和の迷信でもあるまいし。
非合理だと頭では理解しながら、振るう拳を止められない。
鉄拳で何度も自分を殴りつけるその様は、自罰のようにも見えた。
「頼む、頼む頼む頼む────!」
切なる祈りは聞き届けられず、震えと拳は激しさを増すばかり。
真に壊れているのは、体か心か。
何方であろうとも、かつて少年に寄り添った天女は既に死神に刈り取られた。
死と呪いに満ちた戦場で、病に囚われた見ず知らずの命一つの為に。
奉仕と献身を尽くす奇特者が、一体何処にいるという。
真に壊れているのは、体か心か。
何方であろうとも、かつて少年に寄り添った天女は既に死神に刈り取られた。
死と呪いに満ちた戦場で、病に囚われた見ず知らずの命一つの為に。
奉仕と献身を尽くす奇特者が、一体何処にいるという。
「やめなさい」
錯乱しつつマキナの耳に、行為を制す女性の声が届く。
殴打を繰り返す両の腕が真っ新な手袋に覆われた細腕に掴まれ。
それ以降、前にも後ろにもピクリとも動かなくなる。
機械由来の高馬力をして抗えない膂力に驚愕する間も与えられず。
その剛力を以て強引に身体を引き上げ起立、混乱冷めやらぬ少年の顔を緋色の瞳が覗き込んだ。
殴打を繰り返す両の腕が真っ新な手袋に覆われた細腕に掴まれ。
それ以降、前にも後ろにもピクリとも動かなくなる。
機械由来の高馬力をして抗えない膂力に驚愕する間も与えられず。
その剛力を以て強引に身体を引き上げ起立、混乱冷めやらぬ少年の顔を緋色の瞳が覗き込んだ。
「反自保護的な自傷行為。心的外傷による精神疾患の兆候が見られます。
本来機械修繕はメカニックの領分なのでしょうが、関係ありません。
人と同じく心の病に蝕まれるならば、医療的アプローチからでも救える命の筈です。」
本来機械修繕はメカニックの領分なのでしょうが、関係ありません。
人と同じく心の病に蝕まれるならば、医療的アプローチからでも救える命の筈です。」
清潔さが保たれた赤と黒を基調とした英国風の軍服。
一本に結わえた淡い桃色髪を棚引かせ、背筋を整え凛と立つ淑女。
表情の変わらない鉄仮面めいた相貌は、マキナ以上に機械然とした印象を持たせるが。
揺らがぬ信念を宿す狂気と激情に燃え滾る瞳が、鉄の女を人たらしめている。
一本に結わえた淡い桃色髪を棚引かせ、背筋を整え凛と立つ淑女。
表情の変わらない鉄仮面めいた相貌は、マキナ以上に機械然とした印象を持たせるが。
揺らがぬ信念を宿す狂気と激情に燃え滾る瞳が、鉄の女を人たらしめている。
「問診の後、可及的速やかに治療へ移ります。ご安心を。
例え貴方を破壊してでも、必ず貴方に巣くう病魔を破壊し尽くすと約束しましょう。」
「は、破壊…!?何言ってるんだよお前…!治したいのか殺したいのかどっちなんだよ!」
「…?医療従事者へ向けて、その質問は侮辱と捉えられても仕方ない程にナンセンスなものです。
以後他のメディックに会う様な事があれば、そのような発言は慎むように。」
例え貴方を破壊してでも、必ず貴方に巣くう病魔を破壊し尽くすと約束しましょう。」
「は、破壊…!?何言ってるんだよお前…!治したいのか殺したいのかどっちなんだよ!」
「…?医療従事者へ向けて、その質問は侮辱と捉えられても仕方ない程にナンセンスなものです。
以後他のメディックに会う様な事があれば、そのような発言は慎むように。」
目的と結果が破綻した矛盾しきった狂気の言動に困惑しかないマキナ。
言葉が通じているのに対話の通らない。違うベクトルの恐怖が湧いて来そうになる。
そんな彼の状態など気にも留めず、鉄の女は孤独に震える患者へ淡々と告げた。
言葉が通じているのに対話の通らない。違うベクトルの恐怖が湧いて来そうになる。
そんな彼の状態など気にも留めず、鉄の女は孤独に震える患者へ淡々と告げた。
「生を求める患者がいる限り命を賭してそれを救う。それが我々医療に携わる者の使命。
苦悶し、それでもなお生きると貴方が道を選ぶなら───私は必ず貴方を救います。」
苦悶し、それでもなお生きると貴方が道を選ぶなら───私は必ず貴方を救います。」
後悔蔓延る現実に奇跡を齎す神などおらず。
生死を握られた殺し合いという地獄で、善意で誰かに手を差し伸べるなど。
正気の沙汰では成し得ない所業。ならば、狂気を以て不条理を制そう。
殺してでも救う。決して砕けぬ不屈の信念(しめい)を携えて。
死を恐れる鋼の命を救済すべく、鋼鉄の白衣を纏った天使が戦場へと舞い降りる。
生死を握られた殺し合いという地獄で、善意で誰かに手を差し伸べるなど。
正気の沙汰では成し得ない所業。ならば、狂気を以て不条理を制そう。
殺してでも救う。決して砕けぬ不屈の信念(しめい)を携えて。
死を恐れる鋼の命を救済すべく、鋼鉄の白衣を纏った天使が戦場へと舞い降りる。
【マキナ@Caligula2】
状態:健康、死や殺し合いへの恐怖(極大)
服装:リドゥでのアバター(機械化)
装備:
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~2、ホットライン
思考
基本:生きるために現実と戦う
01:目の前の女性(ナイチンゲール)に対処…?
02:ささらを死なせた事への強い後悔
負けるなって言われても、僕は無理だ…
03:不死の男(グローディ)に最大級の警戒。
参戦時期:最終章後
備考
※
状態:健康、死や殺し合いへの恐怖(極大)
服装:リドゥでのアバター(機械化)
装備:
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~2、ホットライン
思考
基本:生きるために現実と戦う
01:目の前の女性(ナイチンゲール)に対処…?
02:ささらを死なせた事への強い後悔
負けるなって言われても、僕は無理だ…
03:不死の男(グローディ)に最大級の警戒。
参戦時期:最終章後
備考
※
【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
状態:健康
服装:いつもの軍服(第一再臨)
装備:
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~3、ホットライン
思考
基本:戦場にいる全患者の救済。そして、殺し合いという病巣の根絶。
01:目の前の患者の問診後、即時心的外傷の治療へ
参戦時期:少なくともカルデア召喚後(1部5章以降)
備考
※
状態:健康
服装:いつもの軍服(第一再臨)
装備:
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~3、ホットライン
思考
基本:戦場にいる全患者の救済。そして、殺し合いという病巣の根絶。
01:目の前の患者の問診後、即時心的外傷の治療へ
参戦時期:少なくともカルデア召喚後(1部5章以降)
備考
※