うには美味いな、美味しいな

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うには美味いな、美味しいな  ◆....mo.z..



(殺すしか……殺すしかないじゃない。でも、殺せない)

 アイゼル・ワイマールは何度もそう思いながら、それでもなお一度として青年のほうを振り向くことなく走り続けた。
 少しでも振り返れば、自分は青年を殺すしかない。根拠もなく、そんな考えが浮かんでいたから怖くて一度も振り返れなかった。
 うつぶせに倒れた青年から逃げるように、息を切らしながら彼女は走った。
 そして、気がつけば彼女は、H-6橋の下。テトラポットが積み上げられた海岸に隠れるようにして蹲っていた。

(どうしたらいいのよ……)

 師匠に倣い、ザールブルグを出たのは決して殺し合いのためではない。
 恋心を抱いたノルディスと別れ、グラムナートを目指したのは殺人のためじゃない。
 ただひとえに、錬金術の道を究めるためだった……そのはずじゃないか。

(ねぇみんな、……私はどうしたらいいの?)

 殺したらいい。きっと師匠のヘルミーナなら迷わずそう答えるだろう。
 心の奥に、絶対のやさしさを隠しながら、それでいて誰よりも冷徹になれる女ヘルミーナ。もしも彼女がこの場に呼ばれていたら、今頃あの青年は焼死体になっていただろう。
 しかし結局自分は彼女のようにはなれなかった。錬金術の腕前なら、すでに肩を並べたといっていい。
 マイスターランクに入らず、グラムナートに旅立ったのは決して腕に自信がないからじゃない。逆に、マイスターランクに入らずとも錬金の道を究めていけるという絶対の自負からだ。
 こんな事件に巻き込まれていなければ、今頃は旅路の途中であった人参娘とともに錬金術を語り合っていてもおかしくなかったかもしれないと言うのに。

(ヴィオラート……あなたなら……)

 のどかな村で過ごす能天気娘ヴィオなら、こういう時どうしただろう? きっと慌てふためいて自分に助けを求めるだろうか?

 ───あ、アイゼルさん。どうしよう? 私殺しあえって言われても何もできないよ。

 そして自分はあの娘の前で、ちょっとお姉さんぶってこう答えるんだ。

 ───あらヴィオラート。あわてちゃダメよ。こういうときはね、深呼吸して落ち着くのが一番。じっくり考えればきっと解決策が浮かぶわ。


(ふふっ、解決策なんてありもしないのにね……)

 ヴィオラートの性格はかつて共に学びあった友人エルフィールを思い出させる。
 錬金術をするにも、必死さなんてかけらもない。彼女の周りは、いつも和やかで笑いが絶えない。

 ───お兄ちゃん、錬金術ってすっごいんだよ。お洗濯のシミが一発で取れちゃうんだから!!
 ───あ! 今ちょっと手が離せない。お兄ちゃん、お鍋ぐるこんしといて!!

 あの娘ったら、とても錬金術を学んでるようには見えなかったわねぇ。
 はじめてあった時から、何を調合するにしても、必死さや焦りなど見せず、マイペースと明るさを忘れない彼女。
 アカデミーではエルフィール以外に見ることのなかったその姿は、どこか懐かしくて、どこもかしこも危なっかしい。

(だから、私はお姉さんになれたのかしら?)

 もちろん、一回り年が離れていたからというのもあるだろう。
 いい加減、自分もいい年だ。気がつけば、かつてエルフィールと共に見たドナスターク家の花嫁と同じぐらいの年になっている。

(エルフィールはもう結婚したかしらね……意外とあの娘、モテてたしねぇ……)

 自分が好いていた男だけでなく、他にもエルフィールに惹かれている男がいるというのはチラホラ聞いた話だ。

(あの娘が結婚してたのなら、私もしていいかもね……もっとも、私に相手はいないけどね。ヴィオラートの冴えないおにいちゃんでも口説いてみるかな?)


 アイゼルがくすりと笑った瞬間、不意に大きく寄せた波が、その体に飛沫をかけた。
 あぁそうだ。ここは海岸線だった。とり止めもない思考に耽ってしまったことをアイゼルは少し後悔し、そして少し笑った。
 結婚など、束の間の現実逃避だということは分かっている。ざわざわと寄せては返す小波の群れが、いやでもここが殺し合いの舞台だということを思い出させ、アイゼルを現実へと引き戻す。

(妄想は少しの間終わりね)


 現世の夢ならば、現世に帰ってから見ればよい。そう思ったアイゼルの目に、突然ありえないものが飛び込んできた。

(何かしら……アレ? どうして、アレが海に……)

 アイゼルの常識から言えば、森にあるはずの物体が引き返す波の下に一瞬だけ姿をあらわした。
 どうして、ソレがそこにあるのだろう?
 塩水にぬれることも厭わず、錬金術師の興味赴くまま、アイゼルはソレをひょいと拾い上げた。

「これは……うに?」

 どこからどう見ても間違いない。森で採れるはずの『うに』が、何故か海に落ちている。
 しかも、テトラポットの濡れ具合からして、満潮なら胸までつかるほどの深さに『うに』がいる。

「どうして? ここは森なのかしら?」

 馬鹿な……どう見ても海じゃないか。ありえない考えにアイゼルは首を振り。
 それでも確かにそこにある『うに』を見て考え始める。

「錬金術の考察の基本は、現実をありのままに捉えること……
今分かる現実は二つ。ここが海であることとこれが『うに』であること」

 はじめに正解を言えば、普段アイゼルが目にしている『うに』は実際には毬栗(いがぐり)と呼ばれるもので、
正式な『うに』ではない。したがって、彼女が普段常識的に『毬栗=うに』と捉えていることこそが誤りなのだが、
20年以上、その常識に浸り続けた女にそれに気づけというのも無理なものだ。
 彼女の頭には、『うには森で木に生っているもの。茶色くなったら、木から落ちてくるもの』という常識が支配している。

「っひぁ!!」

 突然、『うに』が動いた。仕掛けを知っていれば当たり前な話。
 だが彼女は『毬栗=うに』の常識に生きる生粋のシグザール娘。海なんてエリーと一緒にカスターニェに行くまで見たことありませんでしたが何か?


「ま、まさか……このうに生きてるの?」

 ちなみに、毬栗だって植物から落とされたものなので、生き物っちゃ生き物ですよ?

「どうして? 生きてるウニなんて聞いたこともないわ……」

 ぶっちゃけ、聞いたことないのアンタらだけです。多分弟子のヴィオラートなら普通に知ってます。


 しげしげと観察し、ウニだけにウニウニ動く足を見てアイゼルはふとひらめいた。

「そっか、これは生きてる縄とか、生きてる箒と同じ種類のものね……私も昔作ったことがあったっけ」

 学生時代、ヘルミーナに教わって作ったホムンクルス(人工生命)と同じものだ。そう考えれば合点がいく。

「きっと誰かが作って、使わないから海に捨てたのね……可哀想に、森の物なのに……」

 いいえ、海の物です。

「こんな殺し合いの中、あなたも大変でしょう……」

 いいえ、殺し合い関係ありません。海には普通にいます。

「きっと息ができなくなって、必死で陸まで歩いてきたのね」

 いいえ、海でも陸地近くの岩場の浅いところに結構います。
 ぶっちゃけ筆者は小学生のころよくとって食べてました。


「私が森に返してあげようかな?」

 可哀想です。やめて下さい。普通に死にます。

「そうだよね? そうしよう。あなたもその方が嬉しいでしょう? それとも創造主のところがいいかな?」

 どっちも迷惑です。っていうか、創造主って何ですかソレ?

「決めたわ。私と一緒にここから脱出しましょう? 私が、あなたの創造主を探してあげるわ」

 創造主なんていません。

「私が学生だったころ、あなたみたいなホムンクルスを作ったことがあるんだけど、先生に言われたのよ?
 作られた命でも、命であることに変わりはない。本当の母親になった気持ちで、精一杯の愛情を注ぎなさいってね。
 あなたの創造主にも同じことを言ってあげるわ。大丈夫、私怒ると結構怖いのよ? 絶対に言うこと聞かせてあげるから」

 いえ、だから創造主なんていませんってば。

「頑張ろうね、私絶対に約束は守るわよ」

 いえ……だからね。そのね…………
 あーーーー、これだから異文化コミュニケーションって嫌なんだよ!!!!

━━━━


 こうしてアイゼルは、ひょんな所から立ち寄った海岸で、一匹の友達を得た。
 うにうに足を動かすだけで、話しかけても返事はないけれど少し心が休まる感じがした。
 目的定まらぬ殺し合いの中、とりあえず一緒に脱出しようと思える友がいるだけで全く気分が違ってくる。

 相手はホムンクルスだし、喋れないのも珍しくない。
 っていうか、グラムナートに来てから喋れない生き物なんていくらでも見てきた。
 そう言えば、この間は「やる気マンマン」のテラフラム(超絶威力の爆弾)でパーティー全滅(自分以外)したっけかな……
 何かとホムンクルス(人工生命)に縁のある人生だ。

「ま、これも悪くないかな?」

 そんな風に思い彼女は、うにをデイパックの中にいれ壊れないように大切に保管した。
 だって、うには友達なんだもん。




 あ、そうそうアイゼルさん。
 その友達のうにちゃん。食べるとおいしいですよ?
 生でいけます。ガリっと割って黄色いところをズルッとやっちゃってください。
 マジにうまいっす。お勧めっすから。




【一日目深夜/H-6 端の近く海岸線】
【アイゼル・ワイマール@ヴィオラートのアトリエ】
[装備]:無限刃@るろうに剣心
[所持品]:支給品一式、未確認支給品0〜2個、うに(現地調達)
[状態]:軽傷
[思考・行動]
1.うにと一緒に脱出!
[備考]
※自分たちが連れてこられた技術にヘルミーナから聞かされた竜の砂時計と同種のものが使われていると考えています。
※うにのことをホムンクルスだと思っていますが、もちろん唯のウニです。


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027:ねぇ、教えて、どうしたらいいの? アイゼル・ワイマール 063:オレンジ焦燥曲



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