一晩の悲劇

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一晩の悲劇  ◆ew5bR2RQj



不気味さを漂わせた暗い病院の一部屋で、前原圭一は手にした名簿をに視線を注いでいる。
その体は小刻みに震えており、恐怖で顔は蒼白に染まっていた。
もし誰かが今の彼を見れば、バトルロワイアルと言う殺戮の舞台に強制出演させられたからだと思うだろう。
だが違うのだ。彼は今、違うことに関して恐怖を感じている。
参加者の中に居るはずの無い、居てはならない人間が存在しているのだ。

(確かに……確かにあの時死んだはずなのに)

彼の言う死んだ人物いうのは、竜宮レナ園崎魅音、そして自分自身である前原圭一の計三人。
死亡したはずの人間の名前が名簿に記されていることに、彼は恐怖しているのだ。


圭一は雛見沢と呼ばれる村に一ヶ月ほど前に引っ越してきた。
そこで竜宮レナや園崎魅音と言った友人と出会い、毎日幸福に満ちた時間を過ごしていたのだ。
しかしある時を境に幸福に満ちた日々は一変。
彼は村人から命を狙われ始め、やがて未知の薬物ををレナと魅音に打たれそうになり―――――

(二人を、殺してしまったんだ……)

身体中が凍りつくような感覚に襲われる圭一。
同時に彼の脳内で、自分が友人達を殺害した映像が再生された。

薄暗い血塗れの部屋で、金属バットを振り回し雄叫びを上げる自分。
抵抗もせずに、その華奢な体で鈍器を受け止めるかつての友人達。
そうして気が付いた時には、全てが終わっていたのだ。

(その後に俺も死んだはずだったんだよな……)

彼は二人を殺害した後、彼女達の仲間に捕まらないように家の裏口から逃亡した。
しかし結局彼は打たれていないはずの薬物の症状と同じ、自らの喉を掻き毟るいう方法で自殺してしまったのだ。

(でも、俺も皆も生きている)

死んだはずの圭一は、気がついたらこのゲームに参加させられていたのだ。
喉には致命に達していたはずの傷の代わりに、冷たい首輪が巻き付いている。

(あれは……夢だったのか?)

あの雛見沢での出来事を夢と考えた圭一だが、すぐにそれを否定した。
自分が他者の命を奪う感覚、そして自分自身の命が消えていく感覚。
両者共に、夢とは思えない程の生々しさを伴っていたのだ。

(じゃあ……生き返った?)

死亡した人間が生きているならこの答え以外は有り得ない。しかしその結論はあまりにも常識を逸している。
この矛盾が痛みとなり、彼の頭を蝕んでいった。

圭一は必死で頭脳を回転させるが、いくら考えても答えは出てこない。
やがてそれを考えてるうちに、罪悪感が彼を苛み始めた。

「レナ……魅音……」

確かに彼女達は、彼の命を狙っていた。
あの時も反撃しなければ、彼女等に殺されていただろう。
しかし後悔が無いと言えば、嘘になる。
どんな経緯があったにせよ、彼は大切な仲間を殴り殺してしまったのだ。

「………」

目尻に浮かび上がりそうになった涙を、強引に拭い去り圭一は考える。
自分やレナ、魅音がどういう経緯で生き返ったかは分からない。
しかし生き返ったのなら、今度こそは精一杯足掻いてやる、と。

「それにまだ気になることもあるしな」

手にした名簿に視線を戻すと同時に呟く圭一。
そのの視線の先には、北条悟史の名前が刻まれていた。

「悟史……お前もここに居るのか」

北条悟史。
北条沙都子の実兄であり、一年前に雛見沢から姿を消した男
それがこのゲームに参加しているのだ。

圭一は悟史と会ったことは無いため、どんな人物かは知らない。
しかし悟史は彼と似通った運命を辿った末、失踪したのだ。
何も解き明かせず命を落とした彼にとって、これほど興味の湧く人物は他に存在しなかった。

「よし、とりあえず悟史に会いに行こう、あいつなら何か知ってるかもしれない」

そう考えた圭一は、名簿を取り出して以来放置していたデイパックの中に手を入れる。
周囲の人間は全て敵、自分の命を狙いに来る殺人者だ。
ならば自分もその覚悟を決めて、行動しなければならない。
そのためにもまずは現状を把握し、支給された荷物を確認する。
それはバトルロワイアルと言うゲームおいてに定石とも居える行動であり、彼が早くもこのゲームに順応した証拠だった。

「ひっ…!!」

だが、彼は運が悪かった。
彼のデイパックに入っていた支給品。
それは園崎魅音が彼を殺害するために用意した注射器だった。

反射的に握っている注射器を投げ捨てる圭一。
注射器は床に衝突し、数回転がって動きを止める。
彼は注射器が転がり終えるのを目で追跡した後、背後の壁に背を預けその場に座り込んだ。

「何でこんな物が……」

圭一は自身を殺そうとした凶器を見て、命を狙われた恐怖を思い出す。
日常の顔から豹変し、爬虫類のような瞳で自身を問い詰める竜宮レナ。
薄ら笑いを浮かべながら、縫い針の混入されたおはぎを差し出した園崎魅音。
雛見沢での体験が、彼から根こそぎ冷静さを奪っていった。

「うわぁああああ!!」

溢れてくる不安感に押し潰されそうなり、乱暴にデイパックを引っくり返す圭一。
理由は単純、今すぐ自らの身を守れる武器が欲しかったからだ。
デイパックからは水や食料、ペンなどの日用品が落ちてくる。
その中で一つ、細い棒状の物―――鉄パイプが窓から射す月光を反射するのを見逃さなかった。

圭一は半狂乱になりながら鉄パイプを掴み取り、周囲に警戒心を振りまく。
この病院内に誰かが潜んでいて自らの命を狙っているような感覚を、彼は感じているのだ。

「ハァ……ハァ……」

そうして一分間、何も起こらないのを確認した圭一は手にした武器を下げる。
乱れた息を整え、必死に冷静になろうと努力していた。

(……クールになれ前原圭一、もし誰かが俺を狙ってるならもっと前に殺されてるはずだ
 そうだ、この場には誰もいない。だから落ち着け、前原圭一!)

自身に落ち着けと促した後、再び周囲を見回し誰もいないことを確認した所で、ほっと溜め息を吐いた。


圭一は握り締めた鉄パイプを見ながら考える。
確かにこれは長さや太さもちょうどよく、武器として使用するには最適だ。
しかし拳銃等の飛び道具には及ばず、これ一本だけで生き残る自信は彼には無かった。

(何か他の物は無いのか……鉄砲にも負けないものが……ッ!?)

周囲に散らばった支給品に視線を走らせる圭一。
その中に一つ、他の支給品とは一線を逸した明らかに異質な物が存在した。

(ただのノート……だよな?)

表紙が黒に塗り潰されてる以外、普段圭一が使っている物と何も変わらないノート。
なのにそのノートは禍々しい何かに包まれ、表現しがたい雰囲気を醸し出している。

「………」

圭一はノートの迫力に気圧されつつも、表紙を捲り始める。
すると一枚、説明書のような紙が滑り落ちてきた。

(なんだよこれ……なんなんだよこれ!?)

固唾を飲み込みながら、床に平伏す紙を拾い上げる。
そして書かれた内容を確認した瞬間、彼は時が停止したような錯覚に襲われた。

「このノートに名前を書かれたものは死ぬ……?」

そう、大きく記されていたのだ。

――――――――――――――――――――――――

馬鹿らしい、そう思いつつもノートに惹きこまれて行く圭一。
説明書を読み終えた彼は、次にノートのページを捲り始めていた。
そこに綴られているのは、数え切れない量の人間の名前。
どのページにも均等な間隔で、無駄が無いよう刻まれているのだ。

「悪戯にしてはやりすぎてる……まさか……本物?」

名前を書けば人が死ぬノート。
常識的に考えれば、その存在は有り得ない。
しかし彼の中では、既に常識と言う観念は崩壊している。
死んだはずの人間が生き返り、突然異空間に飛ばされ、殺し合いを強制させられる。
これほどまでの異常事態を連続して体験してしまった圭一は、同じく異常な代物であるノートの存在を許容しつつあった。

「こいつが本物なら……間違いなく最強のカードだ……」

狂ったような笑みを浮かべる圭一。
彼の言葉通りノートが本物なら、これ程この舞台に便利な道具は存在し無いだろう。
名前と顔を知るだけで、人を殺すことが出来るのだ。
一人一人手間をかけて殺害するより効率的で、尚且つ安全に事を進められる。
まさに最強のカードの名に相応しい支給品だった。

しかし信憑性が高かろうと、一度使用してみなければ確証は得られない
だから圭一は、早速ノートを試験的に使用してみることにした。

(なるべくすぐ死んだと分かる奴を書きたいけど……贅沢は言えない。やはりここはレナと魅音の名前を……)

書こうと考え、ペンを握るが彼の中に一瞬だけ迷いが生まれてくる。
だが彼はその迷いを心の中で押し潰し、そしてノートに名前を書いた。

竜宮レナと園崎魅音の名前を。

「これで、あいつらはまた……」

ノートが本物だったら、今から四十秒後に二人は死亡する。
成功すれば僥倖、失敗しても自分に降りかかるリスクは少ない。
そう考えていたのに、彼の中には拭いきれぬ物が残っていた。


「とりあえず……ここはとっとと出るか」

溜め息を吐きながら、ふと呟く圭一。
最初は病院に篭城するつもりでいたが、この建物内にまだ誰かが潜んでいる可能性がある。
さらに自ら動かなければ、悟史に会うことは出来ないのだ。
ならば安全性の低い病院に、いつまでも籠っている必要は無い。
そう結論付けた彼は、散乱した荷物を回収し始めた。

「このデイパック荷物が入ってるのに全く重さを感じないな……なんでだろ」

手際よく時計や地図と言った道具を拾い、デイパックに収納していく。
そして最後に、彼を恐慌に走らせた注射器が残った。

「………」

圭一は額に汗を浮かべながら考える。
かつて自分に向けられた凶器を扱うのは怖いが、自分が生きていくのに有利になる道具を放置しておく道理は無い。
しかし理性でそう考えていても、恐怖というものは簡単に拭えるはずもなく
彼は恐る恐ると言った様子で注射器を拾い上げ、ガラス物であるにも関わらず乱暴にデイパックの中に放り投げる。
そして静かに立ち上がった彼は何も言わずに扉を開け、病室を去っていった。
胸に、様々な物を抱え込みながら。


―――ここまでに至る際、圭一は様々な勘違いを犯していた。
その中でも、とくに大きな物は二つ。
一つ目は注射器の正体、そもそも園崎魅音は圭一に注射器など向けていない。
彼は雛身沢症候群と言う発症すると極度の疑心暗鬼に陥る風土病の末に見た幻覚で、魅音の持つペンを注射器と誤認してしまったのだ。
ならば、彼に支給された注射器には何が入っているのだろうか。
答えは雛見沢症候群の症状を抑える効能を持つ、C120という治療薬だ。
これは首を掻き毟る薬物などではなく、首を掻き毟るのを防ぐ薬物だったのである。

もう一つは、ノートに書いた二人の名前。
実は二人とも他者に本名を名乗っていないため、実質的に名簿に記されている名は偽名であった。
圭一は園崎魅音の本名は知らず、竜宮レナの本名は異常事態に陥ったせいで忘れてしまっている。
ノートは本名を書かないと効力を発揮しないため、二人が死亡することは無いのだ。

だが仮に圭一が本名を書けたところで、二人が死亡することは無い。
何故ならこのノートは本物ではなく、実在した本物をモデルにして作られた精巧な偽物だったのだから。


【一日目深夜/G-8 総合病院内】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備] 鉄パイプ@現実
[所持品]支給品一式 デスノート(偽物)@DEATH NOTE、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に
[状態] 健康、雛見沢症候群L3
[思考・行動]
1、どんな手段を駆使してでもこのゲームを生き残る。
2、悟史に会う
3、悟史以外のひぐらしメンバーを警戒
4、ノートについては半信半疑だが、どちらかといえば信じている。
[備考]
参戦時期は鬼隠し編終了後です。
※デスノート(偽物)は12巻の最後に登場した、ジェバンニが作った物です
ですのでノートの表紙及び説明書きの部分は英語ではありません。
※デスノートの説明書に記されているルールは、原作一話で登場した物だけです。
しかしノート自体がそもそも偽物なので、このルールに意味はありません。
※C120はあくまで雛見沢症候群の症状を抑えるだけで、完治させることは不可能です。
ちなみに健常者に使用すると10分以内に全身の発疹、発熱、瞳孔の拡大、妄想を引き起こすとされています。


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