最初の晩餐

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最初の晩餐  ◆kT8UNglHGg



 田村玲子は空腹だった。
 故に彼女は食料を欲していた。

「A-3か」

  バックパックには地図、コンパス、食料、水、そして煙草、手錠、名簿が入っていた。
 地図を読み、眼前の建造物から位置を割り出す。
 名簿を確認すると、彼女が見知った名前が二つ。
 後藤、泉新一
 かたや最強のパラサイト。かたや不完全なパラサイト。
 しかし、彼女は二つの名前には心に惹かれる事は無かった。
 周囲の警戒を怠る事が無かった彼女は、自分の様子を窺っている気配に気付き、そちらに食指が動いていた。

「――誰だ」

 彼女は害意がない事を表す為に両手を挙げて振り返った。

 現れたのは身なりばかりか口調も古めかしい短身痩躯の青年だ。
 どちらかと言えば間の抜けた顔には痕がある。
 纏う気配にはある程度の修羅場をくぐった人間特有の剣呑さか見え隠れしている。
 彼女が近付こうとすると男は目に見えぬ速さ、神速と言っても過言ではない速さで飛び退く。
 二人を隔てる距離は10m程。後ろ向きの一足跳びで5m程退いた男の身体能力は決して低くはない。
 彼女は素直に感心する。
「お主は……何者でござるか?」

 間の抜けた顔から険しい顔に変わり隠していた剣呑さを露にする。

「返答次第では私を殺すか?」

 双方共に取り繕わない白刃の様な気配を発する。
 それに影響されて二人の周囲の空気の質が粘着な物に変わり、重くなった。
 返答はない。ただ、ごくりと息を呑む音だけが返ってくる。

「私は殺し合いに乗る気はない」

「本当でござるか?」

 返答には男の疑い深さが見える。否、獣じみた気配を発する彼女を信じる事に抵抗があるのだろう。

「ハァッハハハハハ!」

 彼女の無機質な笑いに、男は毒気を抜かれる。が、決して隙を見せる事はない。
 その用心深さは豊富な経験――戦いの経験を感じさせる。

「何の真似でござるか?」

「人間は面白いと思った時に笑う。違うか?」

 交錯するやり取りに鬼気が迫る。

「先程お前は私が何者であるか聞いたな?」

 ゆっくりと、無防備に近づくと拮抗していた空気が揺らぐ。

「――飛天御剣流――」

 彼女の尋常に有らぬ気配を感じたのか、男は鋭利な刃に似た剣気を解き放つ。

「九頭龍閃!!」

 ――壱弐参肆伍陸漆捌玖。

 それぞれに必殺の威力を秘めた九連撃が彼女を襲う。
 勝負にもし、たら、れば、の言葉は禁物である。
 もし自分の得物を持っていれば、彼――緋村剣心は見事に田村玲子を倒し得ただろう。
 が、不運な事に得物を持ち合わせていなかった彼は、素手で打撃を叩き込もうとした。
 更に重ねて、彼女が人間であると思い込んでいた。
 そもそも、闘いの質が違っていた。
 相手を殺さない不殺、相手を食べる捕食。
 二人の意志、刃は違い過ぎていた。

 彼は胸を貫いた刃――戦闘形態をなった彼女の頭部から触手の様に伸びた硬質な先端を見つめ、自らの攻撃が届く事が無かった事を悟ると呆けた様に笑い、崩れ落ちた。
 呆気ないと言えば呆気ない、ただの一瞬だけの交錯。

「私達はか弱いが……無敵だ……そして、私は殺し合いに乗る気はないが……ヒトを殺すという本能に逆らうつもりもない」

 彼女の声は夜の静寂に溶け、彼の耳には届かない。否、届きようがない。
 頭部を変形させた彼女に上半身は喰われ、胃の中に収まっているからだ。
 噛み千切られた部分からは緋色の血が流れ、薄紅の肉はおろか、臓物が覗いている。
 生臭い臭いにが満ち溢れ、大地には溢れ出た鮮血が池となっている。
 咀嚼する事なく上体を呑み込んだ彼女は、ついで下半身を一飲みに丸かじる。
 服を血で汚し、異形の姿で空腹を癒す彼女の姿は、まさに人に在らざるモノ――パラサイトと呼ばれるバケモノであった。
 食事を終えると、エサであった剣心の荷物――デイパックを拾い、彼女は深い闇へと紛れていった。


【緋村剣心@るろうに剣心 死亡】

【一日目深夜/A-3 美術館前】
【田村玲子@寄生獣
[装備]なし
[支給品]支給品一式×2、しんせい(煙草)@ルパン三世、手錠@相棒、不明支給品(0~3)
[状態]軽度の疲労
[思考・行動]
1:ヒトを観察
2:泉新一を危険視
3:今は満腹。


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