夢と現と幻

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夢と現と幻  ◆.WX8NmkbZ6



 道の真ん中に、白髪の青年は突っ立っていた。
 その年齢に見合わない色の髪は先の戦闘で乱れたままだが、青年――雪代縁が気に掛ける様子は無い。

「そうか……そういう事なんだネ、姉さん。
 緋村剣心はもう死んダ……」

 縁はただ道の先の虚空に向かって淡々と言う。
 話し掛けるというより呟くといった方が近い、そんな小さな声だった。
 俯き加減の表情は前髪と黒眼鏡に隠れ、口元以外うかがえない。

 その奥の虚ろな瞳が映すのは、在りし日の姉の姿だった。


 縁が姉の緋村巴を亡くしたのは十五年前、雪が降りしきる年の瀬の寒い日の事だった。
 前後に姉と緋村剣心の間で行われたやり取りを縁は知らず、ただその死の瞬間だけを目撃する。
 早くに他界した母に代わって縁に愛情を注ぎ育てた、縁の最愛の姉。
 彼女の鮮血が雪景色の中を舞う光景は、まだ少年だった縁の脳裏に深く深く刻み込まれた。
 それは髪が真っ白く染まるほどの衝撃であり。
 若い女性に対し無意識のうちに姉の面影を見、殺せなくなるほどの傷であり。
 その傷によってもたらされた結果が現状――

「クソォッ!!」

 時間の経過と共に緩んだいきてるナワを振りほどき、地面に落ちたそれを何度も踏みつける。
――抜刀斎の『不殺』の象徴とも言える逆刃刀で女を殺して回り、最後に本人に血刀を投げ渡す。
 縁の決意と裏腹に女性は誰も殺せず、その上手痛い反撃を受けるという不本意な結果に終わった。
 毎回あと少しのところで対象を逃がし、或いは対象からの逃走を余儀なくされ、縁は苛立ち、焦る。

 復讐の為だけに縁はこの十五年間を生きてきた。
 日本語の発音を忘れるほどの期間を上海で過ごし、闇社会の頭目にまで登りつめた。
 そして剣心と再会してから更に九日、人誅の日を待っていた。
 その間ずっと、姉を待たせ続けているのだ。
 九日前に抜刀斎に宣戦布告をした直後、姉――の幻影――も縁に言った。
 「もっと早く」と。
 十五年も待たされた上での言葉なのだから、それはもっともな言い分に聞こえた。
 姉も人誅の時を待っている。
 少なくとも縁はそう解釈した。
 だからこそ姉をいつまでも待たせておくわけにはいかず、焦りがつのるのだ。

 縁のその解釈は、姉の望みから自ら遠ざかるような大きな勘違いだと言っていいだろう。
 だが縁本人にとっては紛れもない真実だ。
 焦燥、そして弱点を克服出来ない己への怒りで、脇にあった道路標識に拳を打ちつける。
「殺してやル……次は、必ず……!!」



 そうしているうちに流れ出したV.V.による定時放送を、縁は無視した。
 禁止エリアでさえ「関係ない」と言わんばかりに聞き流す。
 縁にとって自分をこの会場に連れてきた主催者は姉なのだから、当然と言えば当然だ。
 抜刀斎以外の誰が死のうが生きようが、それらの情報は縁には何の意味も成さなかった。
――故に縁は己の耳を疑う。
「何だと……?」
 しばしの間、縁は呆気に取られる事になった。
 宿敵、仇敵、怨敵。
 そのどれもが当てはまる敵の名が、死者の名として読み上げられてしまった。



 縁には姉の意図が分からなくなった。

 まだ人誅は終わっていない。
 むしろこれからが人誅の完成の始まりで、今までの襲撃はあくまで下準備に過ぎない。
 そんな時期に姉が抜刀斎ごと自分をこの場に誘った理由――それは自分の弱点の克服の為。
 縁はそう捉えていた。
 だというのに肝心の抜刀斎が死んだとあっては、全てが水泡に帰してしまう。
「どういう事なんだ、姉さん……!?
 抜刀斎への復讐はまだ……!」
 姉が間違いを犯すわけがない、ならば自分が何か大きな勘違いをしているのかも知れない。
 抜刀斎が苦しみもがく様を、姉も見たがっているはずだ。
 では姉が連れてきたこの場で何故抜刀斎が死ぬのか――何か重大な見落としをしているのではないか。
 縁は熟考し、そして時間を掛けて結論を導き出す。

「そうか……そういう事なんだネ、姉さん。
 緋村剣心はもう死んダ……」

 縁はただ道の先の虚空に向かって淡々と言う。
 話し掛けるというより呟くという方が近い、そんな小さな声だった。
 俯き加減の表情は前髪と黒眼鏡に隠れ、口元以外うかがえない。

 だが「破顔ィィ」とその口の端を吊り上げると、それまでの静かな様子から一変した。

「つまり、後は『人斬り抜刀斎』に人誅を下せばいいという事だネ!?」

 “六人の同志”と最初に一堂に会した場での己の発言を思い出す。
――このまま抜刀斎に「あくまで自分は剣心だ」と開き直られたままでは
――例えどんな圧倒的な力でブチ殺したところでのれんに腕押し
――復讐は達成出来ません
 そう、彼らを集めたのは抜刀斎を追い詰め、過去の罪を再び認識させる為だった。
 だが「『緋村剣心』が死んだ」という事は、つまり抜刀斎が「自分は抜刀斎だ」と自覚したという事。
 緋村剣心は己の罪を認め、『剣心』などという名を捨てて『人斬り抜刀斎』に立ち返ったのだ。

 同志達の力を借りるまでも無く目的は成った。
 逆刃刀を手にした時点で既に同志に頼る気は無くなっていたが、喜ばしい事に変わりは無い。
 後は弱点さえ克服出来れば、抜刀斎を生き地獄に叩き込んでやれる。
 これはきっと姉が計らってくれた結果に違いない、そう納得して縁は幻影に声を掛けた。
「ありがとう姉さん、次はきっと成功させるからネ」
 縁は今もこれからも、常に共にいると信じてやまない姉の姿を凝視する。

 その口に、眼に、笑みは無かった。

 静寂な一時を愛した彼女は、元々喜怒哀楽を余り表に出さない女性だ。
 縁にはそう見えていただけの話ではあるが――それでも今までは確かに微笑んでいた。
 しかし縁がこの場に連れて来られてからは、一度も笑顔を見せていない。

 そして姉は目を伏せた。
 深い漆黒の眼は瞼に隠れ、より哀しげな様相になる。

「……姉さん」
 長らく待たせてしまった。
 人誅を半端に済まそうとしてしまった。
 失敗を重ねてしまった。
 いくら姉が穏やかとは言え、怒るのも無理は無い。
「次に会った女は必ず殺すヨ。
 抜刀斎への復讐だって果たしてみせる」
 心優しい姉は全てを終わらせればきっと許してくれる、きっと今まで通り微笑い掛けてくれる。
 縁はそう信じた。
 縁には信じる以外に選択肢が無かったと、そう言ってもいいかも知れない。

 踏みしめる地面の固さ。
 首に嵌められた金属の冷たさ。
 心の奥底で僅かな違和感を覚えながら――縁はそれに蓋をする。
「……そうすれば、また微笑ってくれるよネ?」
 全ての現実から眼を逸らし、肯定の言葉を求めて縋るように問う。

「……そうだと言ってくれよ、姉さん……」

 しかし縁の問いに、姉は答えなかった。



 バトルロワイアルが始まってから六時間。
 連戦が途切れ、縁には振り返り考える機会が与えられた。
 だが姉が微笑わない理由――己の犯している根本的な間違いに気付くには至らない。

 痛みも疲労も感じずに、縁は道なりに進む。
 方角は北、装備は逆刃刀一つ。
 夢と現、現と幻の区別も付かぬまま、その先に姉の笑顔があると信じて。


【一日目朝/H-2 道】
【雪代縁@るろうに剣心】
[装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心
[所持品]:無し
[状態]:左肩に刺し傷、両拳に軽症
[思考・行動]
1:逆刃刀を使って、女を殺しまわる。
2:抜刀斎に会ったら、血塗れの刀を投げつける。
[備考]
※殺し合いを姉が仕掛けた夢だと思っています。
※ぶっちゃけ、姉と抜刀斎以外のことはあまり考えていません。抜刀斎も人誅まで殺すつもりはありません。
※『人斬り抜刀斎』がまだ生きていると思っています。
※『緋村剣心』以外の死者の名前、及び禁止エリアの放送を聞き逃しました。

※H―2にいきてるナワが放置されています。


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075:二人の超人 女の意地 雪代縁 104:英雄



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