RIP

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RIP  ◆.WX8NmkbZ6



 あの胸の痛みは今でも覚えている。
 二度と繰り返すまいと堅く心に誓ったはずだった。
――ならば私は、今まで一体何の為に……


 電信柱のてっぺんに遠方の光景を眺める人影が一つ。
 ジェレミア・ゴットバルト
 貴族服の男が立つ場所としては実に不釣り合いだが、この男とて伊達や酔狂で立っている訳ではない。
 視線を遠方から己の周囲に移して見回すと不意に動きを止め、飛び降りた。
「奈緒子!」
 特に苦も無く着地し、車の脇で待たせていた人物に声を掛ける。
「わ、びっくりした。 何か見つかったんですか?」
 ジェレミアがモールで調達したベーグルを頬張りつつ、奈緒子が振り返った。
 紙の袋に初め8個入っていたが今現在残りは1個。
 調達した本人曰く「飽くまで非常用食糧なので少しは残すように」との事だったので特に問題無い。
 なお支給品の食糧の方はと言えば、奈緒子に全体の1/3ほど食された上「まずい」と一蹴された。
「立ったまま物を食べるんじゃない、非常識な!」
「あ、歩く非常識のお前が言うな!」
 ジェレミアの説教じみた台詞に対して奈緒子もつい素の口調で返してしまう。
「……二人とも非常識なのは分かったから、奈緒子は座って食べなさい」
 殺し合いの行われている空間から大きく逸脱した会話にアイゼルも口を挟んだ。
 電柱の上に助走も付けずに跳び乗った事は二人から『非常識』と認定されたらしい。

 ジェレミアがわざわざそんな非常識な真似をした理由は各地で起きた爆発にある。
 車がH-7に辿り着いた頃にほぼ同時期に起きたC―7、F-5での爆発。
 どちらも遠目でも普通の爆薬に因る物でないと分かる物だった。
 前者に至っては爆発をある程度見慣れているジェレミアでも“世界の終り”を想起する威力だ。
 C―7での爆発に気付いて直ぐに電柱に上がったジェレミアは、一部始終を見ていた。
 C―7で燃え広がる炎も、F-5の上空から光線が落ちる瞬間も。
 それらを見届けた後周囲の索敵を済ませ、二人に状況を報せるべく電柱を降りたという次第だった。

 ほんの少し前までこの三人の行き先の候補として挙がっていたのはG―10の遊園地。
 理由はシンプルで、爆発が起きたからルルーシュが居るかも知れないからという事だった。
 しかし各地の爆発により遊園地に向かう理由は殆ど無くなり、かと言って他に行く充ても無く――
――話し合った結果三人はその場、H-7の静謐な市街地にて放送を待つ事になった。
 V.V.の言葉を信じるなら放送内容は犠牲者の数だけだが、それはつまり会場全体に関わる情報。
 少なくとも目的地を決めるに当たって参考にしても良いと判断されたのだ。

 定刻を待つ間、三人は相変わらずの気が抜けるような会話を続けた。
 他の参加者との接触が少なかった故に殺し合いを実感出来ていないから、というわけではない。
 ここが戦場で今も参加者同士が殺し合っている事を重々承知した上でのやり取りだ。
 それは三人に余裕があるからでも危機感が足りないからでも無く、恐らく――



 パキャ

 五十音順で並べられた内の最後の名前が読み上げられた時、ジェレミアの手の中で鉛筆が砕け散る。
 静寂――より正しくは無音のその場所で、誰も身動き一つ取れずに唯立ち尽くした。




 アイゼル・ワイマールは車内で、最後の1個のベーグルを齧りながら考える。
 逃がしてしまったあの白髪の男は今頃どうしているだろうかと。

 あの男が危険人物だと知りながら野放しにした。
 亡くなった16人の中にはあの男に殺された人も居るのかも知れない。
 ルルーシュがそうだという可能性も――低いが、考えずには居られなかった。
 そして仮にルルーシュが関係していなかった所でアイゼルの過失は変わらない。
 あの男は今も他の参加者を襲っているのだろう。
 分かっていた事ではあっても、放送で読み上げられた名前1つ1つが重かった。

 それに、アイゼルが後悔している事はもう1つ。
 ジェレミアと奈緒子の抱く焦燥や不安に気付かなかった事だ。
 下らないとも言える会話にうんざりしながらもアイゼルは心根では楽しんでいた。
 だがあの二人にとっては不安を紛らわす為の物で、それどころでは無かったのかも知れない。
 ジェレミアは言わずもがな奈緒子も上田という人物を、口では色々言っていたが心配していた。
 知り合って数時間の相手では心の機微が分からなくても無理は無い。
 それでもアイゼルは二人の姿を見て、もう少し早く気付けなかったのかと考えてしまう。

 後悔するだけ後悔した後、アイゼルは気持ちを切り替えた。
 今は自分がしっかりしなければならない。
 二人に対し「協力を惜しまない」と言ってしまったのだから。
 ルルーシュを亡くしたばかりのジェレミアと未だ上田を探している奈緒子。
 自分は知人の心配をしないで良い分だけ気楽なのだから、せめて暗い表情にならないようにしよう。
 あの食い意地の張った奈緒子がベーグルをくれたという事は、表情に出ていたに違い無いのだ。
 それに奈緒子に弱った顔を見られるのは嫌だった。
 それは多分奈緒子がエルフィールやアイゼルと近い年頃で、彼女を思い起こさせるせいだろう。
 だから初対面でさん付けで呼ばれているのに、奈緒子の事を呼び捨てにしてしまうのかも知れない。

 考えている内にベーグルを食べ終わる。
 それなりに美味しかったが、ヴィオラートの作った(成功した時の)チーズケーキには及ばなかった。
――エルフィールとヴィオラートを逢わせたら、二人ともどんな顔をするかしら。
 エルフィールには数年来会って居ないが、きっと彼女は変わっていないだろう。
 アカデミーの泥棒騒動や夏祭りの見物。
 学生だった頃の楽しかった思い出が蘇って来るが、直ぐに振り払う。
 全部此処から帰ってから。
 その後でなら――久しぶりに会いに帰ってもいいかも知れない。



 ジェレミア卿も奈緒子もちょっと危なっかしいけど、仕方無いわね。
 三人旅は慣れているし……いいわ、私が面倒を見てあげるから安心しなさい。

――それにしてもあのベーグル、ジェレミア卿に無断で食べて良かったのかしら?


「ブイツーって子が本当の事を言ってるとは限りませんよね?」
 恐る恐る奈緒子が沈黙を破る。
 放送が真実かどうか判断するには情報が少な過ぎる。
 しかし真偽に関わらず各地で起こる爆発を見れば殺し合いが行われているのは明らかだった。
 そんな中で戦闘手段皆無の奈緒子と戦いを好んでいないアイゼルだけでは生き残るのは不可能だ。
 故にジェレミアには冷静で居て貰わねばならない。
 そう考えた上での発言だったが、ジェレミアは首を横に振った。
「V.V.は嘘を嫌う。 本人が言っていた通り、あの放送に嘘は無い」

 ジェレミアはV.V.の「最後の一人は無事に帰す」という言葉を信用出来なかった。
 殺し合い等という物を開催した張本人の言葉なのだから当然だ。
 しかしジェレミアはV.V.率いる嚮団の下で1年過ごしており、V.V.が嘘を嫌うのを知っている。
 更にV.V.はその信条をわざわざ放送の中で口にした。
 V.V.がそれを破ってまで放送を偽る程のメリットは見付けられない。
 それに「ルルーシュは絶対に死なない」と言い切れるかと言えば、……無理だった。
 詰めが甘い。見通しが甘い。身内に甘い。イレギュラーな事態に弱く体力が無い。
 幾ら優秀な頭脳とギアスを持ち合わせていても常に死線と隣り合わせ。
 それらを承知していたからこそジェレミアは合流を急いでいたのだ。

 ジェレミアは放送の真偽を考察出来る程度に冷静だった。
 それはナリタ、そしてブラックリベリオンで激情に身を任せた事でかなり痛い目を見た為に。
 人が生涯をかけて経験するであろう成功と挫折、アップダウンを僅か1年の内に味わった為に。
 だがそれらはこの場に於いてプラスに働いているとは言えない。
 いっそ逆上していれば「それでもあの御方が亡くなられるはずが無い」と現実逃避出来たのだから。

「そうか。 ルルーシュ様は、亡くなられたのだな」
 改めて言葉にするとそれは心に重く響き、低い声には自然と諦めの色が滲んだ。
 アイゼルは「先にクルマに戻っています」と奈緒子の手を引いてその場を離れる。
 奈緒子はジェレミアに何か問いたげに視線を送っていたがそのまま引きずられていった。
 俯いたジェレミアの目は虚ろで、恐らくアイゼルの声も奈緒子の視線も届いていない。
 ジェレミアは暫くの間茫然としていた。 茫然としている事しか出来なかった。

 ジェレミアの運の悪さは筋金入りだった。

 敬愛した主君マリアンヌはジェレミアが上からの命令で対象への警備から離れている間に。
 エリア11で仕えていたクロヴィスはジェレミアが当人の命令で前線に出ている間に。
 そして今回、ルルーシュはジェレミアが捜索に奔走している間に。
 護りたいと思っていた相手は悉く手のジェレミアの手の届かない場所で命を落とした。
 死を看取る事さえ許されない。

 ここまで、余りに多くの事があった。
 屈辱を知り、死の淵に立たされ、傀儡となり。
 だが結果は9年前と何も変わらない。
 純血派、代理執政官、機械の身体、ギアスキャンセラー……何の役にも立たなかった。
 変わった事と言えば涙を流す眼が片方だけになった事だけだ。

 あの胸の痛みは今でも覚えている。
 二度と繰り返すまいと堅く心に誓ったはずだった。
――ならば私は、今まで一体何の為に戦って来たのだ……!

「ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 努力が足りなかった訳では無い。
 覚悟が足りなかった訳でも無い。
 ただ決定的に、この男には運が無かった。




 山田奈緒子はアイゼルの隣で、デイパックを覗き込みながら考える。
 超能力も超常現象もあるはずが無いと。

 自称超実力派天才マジシャンの奈緒子は幼少時から笑うのも冗談を言うのも苦手だった。
 飼っている亀と鼠しか友達が居ないのも笑い方が奇妙なのも、そこに原因があるのかも知れない。
 その奈緒子がデイパック――本来の持ち主に断り無く自分の物にしてしまった――を観察している。
 奈緒子は霊能力も超常現象も信じない、正しくは「信じたくない」。
 それは奈緒子が幼い頃に亡くした、大好きだった父の遺志を継ぐ為に他ならない。
 例え売れなくてもしつこく手品師を生業にしているのもその為だ。
 故に容量の明らかにおかしいデイパックも奇術を使っているだけに違いないと考えていた。

 しかし困った事に幾ら覗けどデイパックの構造はさっぱり分からない。
 そればかりでなく、ジェレミアの言うKMFだとかアイゼルの言う錬金術だとか――
 普段耳にしたら間違いなく出来過ぎた嘘だと判断しているような話ばかりが車内に飛び交っていた。
 しかも「嘘くせーのが嫌い」と自負する奈緒子だが、二人が言う事は全く嘘臭く無かったのだ。
 もしデイパックに何のトリックも使われていなかったら。
 もしジェレミアとアイゼルが嘘を吐いていなかったら。
 もし、自分がその事を認めてしまったら。
 それは父を否定する事になるのではないだろうか。
 黒門島の出身だと言う連中を相手にする時と同じ不安が過る。

 そこで奈緒子は、改めてデイパックの構造や諸々の問題を考えるのを後回しにした。
 考えていても結論は出そうに無い。
 それに、こんな時は案外上田が物理や化学を使ってすんなり解決してしまっているかも知れないのだ。
 取り敢えず生きては居るようなので、その辺りは任せる事にしよう。

 隣に座るアイゼルは、理由は分からないが放送以降沈んでいた。
 何とか慰めようと最後の1個のベーグルをあげてみると少し落ち着いたようだった。
 奈緒子のその行動には勿論、恩を売ってうにをゲットするという下心が満ちている。
 その為ならジェレミアに「少しは残すように」と言われたベーグルの消費も厭わない。
 それがジェレミアが密かに楽しみにしていた物だとは知る由も無いとは言え、奈緒子は無責任だ。
 しかしアイゼルの感想は「まあまあね」という程度で奈緒子の試みは空振りに終わった。

 アイゼルはうにをホムンクルスだと思っているのだから食べさせてくれる訳が無い。
 だがそれでも奈緒子は諦めず、放送前からしつこくせがんだ。
 その執念にはアイゼルもジェレミアも「何故そこまで食べ物に拘るのか分からない」と引いていた。
 貴族二人には多分、パンの耳にドレッシングを掛けて食い繋ぐ気持ちは説明しても伝わらないだろう。
 その辺りに関しては、アイゼルとは和解出来そうにない。
 ただ友達が一人も居ない奈緒子にとって――アイゼルとの会話は新鮮だった。

 そして外で背を向けて立って居るジェレミアの方を見やる。
 具体的に何を考えているのかまでは分からないが、前向きな事を考えているとは思えない。
 インチキ超能力者の奇術を推理で暴いても何の解決にもならない――
 そんな後味の悪い事件に何度も出遭って来たからか何となく嫌な予感がした。
 ジェレミアもアイゼルもここから脱出してしまえば何の縁も無い他人に過ぎなくなる。
 だけど多分一人で助かっても良い気分じゃないだろうなと、ぼんやり考えた。
 ジェレミアには確認する事が出来てしまった事もあって、しっかりして欲しいと奈緒子は思う。

 そのジェレミアを見ていてつい、上田の姿を思い出した。
 多分身長が同じぐらいだからだろう。 ついでに尊大な態度。 大人げない、理屈っぽい。
 その辺りで、幾らジェレミア相手でも上田と一緒にしたら失礼だと思い直す。
 そして先程からちょくちょく上田の事を考えている事に気付き、何となく嫌な気分になった。



 それでも上田さん、どこに居るんだろう。
 上田さん――あんまり心配させないで下さい。
 私……上田さんの為なら何だって――

――とでも言うと思ったか、馬鹿上田!
 どうせ今頃、怖い目にでも遭って私の事なんてすりっと忘れてるんだろ!
 この臆病者! 巨根! 童貞!


 車に戻ったジェレミアは遅れた事を謝罪すると直ぐに今後の方針について切り出した。
 ……その平然とした態度が、逆に二人の不安を煽るのだが。
 ともかく三人はまず共通の目的――生存と脱出を確認し合い、単独行動は絶対に避ける事を決めた。
 後者はジェレミアが強く主張した事だ。
 恐らく合流を待たずに命を落とした主君あっての主張なのだろうと二人は察し、素直に頷く。
 そして上田を探す為目的地は展望台になった。
 この会場内で最も目立つ建物の一つでもあり人探しをするには都合が良いという判断だ。
 進路は9時から禁止エリアとなるG―7は避け代わりにG―8の病院を通る事にした。
 なるべく地図上の施設を経由した方が上田と接触出来る可能性も上がるだろう。
 そうして一通り決めるべき事を決めると車は走り出す。

 車が徐々に速度を上げる中、奈緒子は気に掛かっていた事を確かめる事にした。
「そう言えばジェレミアさん、ブイツーと知り合いだったんですね」
 少し間を置いて「ああ」とジェレミアの生返事があった。
 ジェレミアは放送の後に失言をしていた事を思い出し、思索する。
 今後もこの二人と同行すると決めた以上どの道話す必要のある案件だったので焦る事は無い。
 問題はどこまで話すかだが、余計な疑心を抱かれては困るので同じ組織に居た事は伏せ

「もしかして同じ組織の人だったりします?」

 悲鳴のような甲高い摩擦音で車に急ブレーキが掛かった。
 運転席から振り返ったジェレミアのみならず奈緒子の隣に座っていたアイゼルも目を丸くしている。
「エヘヘヘヘヘ」
 二人の反応に満足したように、奈緒子はいつも通りの不自然な笑いを零した。

 ルルーシュとV.V.が知り合いで、ジェレミアとルルーシュが知り合い。
 この時点でジェレミアとV.V.が知り合いでもおかしく無かった。
 そして知り合いというだけでなく『同じ組織』という可能性を考えたきっかけは、服だった。
 V.V.による殺し合いの宣言の直後、豪奢なホテルで奈緒子はジェレミアに出会う。
 だからこそ気付いたと言える部分もあるかも知れない。
 白、それに青紫を基調にした金の縁取りの服。 首にはスカーフ。
 ジェレミアとV.V.の服は似ていた。
 アイゼルと会った時もジェレミアの時と同様に「劇団の人」と称してしまったが、方向性が違う。
 ルルーシュやC.C. が全く違う服を着ていた以上、同じ世界に住んでいたからという理由でも無い。
 加えてV.V.の服の両袖には『V』の字を膨らませたような模様が付いていた。
 それを逆さまにするとジェレミアのコートの背の意匠と一致する。
 そこへ放送後のジェレミアの言葉があり、ジェレミアとV.V.の関連に確信を抱き確認に至ったのだ。

 そこまで説明すると、奈緒子はジェレミアを真っ直ぐ指差す。

「ジェレミアさんの考えは、全部まるっとお見通しだ!」

 ジェレミアとて悪戯にこの事を黙っていた訳では無く相応の理由があった。
 しかし伏せていた事が知られてしまった以上、今二人からは不信感を抱かれているはずだ。
 ここでV.V.と仲間では無いと証明出来なければこの二人からの信用は

「でも今は仲間じゃないんですよね」
「確かにジェレミア卿とV.V.が仲間なら、ルルーシュさんが参加している訳が無いわね。
 私達に黙っていたのはV.V.の仲間だと思われると困るからかしら?」
「ルルーシュさんと合流出来たら私達と別行動するつもりだったから、必要無いと思っていたとか」

 度肝を抜かれた。
 どうやら最低限の信用は得られていたらしいが、驚きの理由はそちらではなく。
 奈緒子の推理に対しジェレミアと同様に驚愕していたはずのアイゼルまで一緒になって考察が進む。
 しかもどれも正解だった。
 ただし、付け加えるなら――
「ジェレミア卿の表情からすると、大体合ってるみたいね」
「じゃあブイツーについて知ってる事を教えて貰いましょうか……
 あ、でも別に今説明してくれなくても良いです。 もっと落ち着いてからで。
 ミレニアムをあげます」
「モラトリアムだろう」
「……それだ!」
「全然違うじゃない」
――今まで二人にV.V.に関する情報を伏せていた最大の要因は、首輪。
 放送で死者の名を読み上げるという事は参加者の動向を把握しているという事だろう。
 嚮団の技術ならこのサイズの首輪に盗聴器を仕掛けるのは容易い。
 筆談という手もあるが視覚情報まで筒抜けという可能性も拭えない。
 ともすれば首輪を爆破され兼ねない状態でV.V.本人の情報を他人に渡しても良いのか。
 ジェレミアはまだ決め兼ねている。
 よって奈緒子の申し出――『猶予期間』の内に決める事にした。

 ジェレミアは既に奈緒子の推理力もアイゼルの柔軟性も知っていた。
 特に奈緒子に関しては初めに抱いた『民間人』という評価は大いに間違っていたと思っている。
 だがそれでもまだ彼女達を過小評価していたらしいと、ジェレミアは反省した。
 この二人は守られるだけの一般人ではなく、ここを脱出する為に協力する相手だと認識を新たにする。
 同時に二人からの信用に応えるべく、無事元の生活に帰す決意を固めて再びアクセルを踏み込んだ。

 不安を、後悔を、絶望をそれぞれが抱えながら、何事も無かったかのように車内は元の空気に戻る。
 心の内の後ろ暗い感情を知られずに済めば良いと、それぞれが思っていた。




 ジェレミア・ゴットバルトは一頻り泣いた後、涙を拭って考えた。
 命を落とした主君の為に、自分に何が出来るのかと。

 まず湧き上がった感情は、憎悪だった。
 年若くまだ成すべき事が残っていた主君の無念を想い血が滲む程拳を握り締める。
 ルルーシュの命を奪った参加者を見つけ出し、殺す。
 それはかつての恩人であるV.V.も変わらない。
 マリアンヌの事件に関わりが無かったとしても最早生かしておけるはずが無かった。
 コードを奪うのは骨だが――奪えなくとも手足を縛って海に沈めてやるだけだ。

 次いで気に掛かったのはナナリーの安否だった。
 ナナリー・ヴィ・ブリタニア――マリアンヌの第二子。
 ブラックリベリオンの最中にV.V.に連れ去られたルルーシュの実妹。
 現在はエリア11の総督の地位に就き、『ゼロ』であるルルーシュとは対立する位置に居る。

 ジェレミアがこれから参戦しようとしていた『第二次東京決戦』の目的は彼女の確保だった。
 だが今は指揮官のゼロも前線に出るジェレミアも、総督確保に向かうロロも咲世子も居ない。
 ブリタニア軍主戦力たるスザクも居ないとは言え騎士団の敗色は濃厚だ。
 恐らくナナリー奪還は失敗し、彼女は安全の為ブリタニア本国に帰されるだろう。
 それなら心配は要らないが、もし騎士団がナナリー確保に成功したら――
 日本解放の交渉材料に使われるのだろうが、それが決裂した場合ナナリーにその価値は無くなる。
 そうなればゼロが居ない騎士団に身を置くのは危険だ。
 万一ではあるが、その時の為に一刻も早くこの殺し合いの場から帰還せねばならない。
 そして出来る事ならルルーシュの遺体を回収し、彼女の下に届けてやりたかった。
 東京決戦の後、1年振りの再会をするはずだった兄妹――だがそれはもう叶わない。
 ならばせめてと、ジェレミアは思う。

 その先は――何も無い。

 どの道騎士団に帰るつもりは無かった。
 もしルルーシュが騎士団を離れる事があればジェレミアも離脱する、その程度の場所だ。
 そしてジェレミアは1年前死亡した事になっている為ブリタニア軍やゴットバルト家には戻れない。
 嚮団等以ての外だ。
 ナナリーもジェレミアにとっては本来謁見すら叶わぬ相手であり、彼女に仕えるのも不可能だ。
 第一母も兄も守れなかった男がナナリーの傍に立つ事を許されるはずが無い。
 つまりナナリーの件さえ済めば、ジェレミアには他に何も残っていなかった。
 自分の生きる意味も価値も、ジェレミアは見失った。

 ルルーシュの死によってジェレミアが生きる理由を失うのは無理からぬ事だ。
 そもそもイケブクロでルルーシュの真意を確認した時点で、思い残す事は無かったのだ。
 だが今後生きる理由が無い事はこの場に於いて必ずしもマイナスに働いているとは言えない。

――それは即ち全て終わらせた後、何の躊躇も無く主君の後を追えるという事なのだから。

 前向きか後ろ向きかはともかく一通りの気持ちの整理は付けた。
 呼吸を整えて表情を作り、いつの間にか居なくなっていた二人を追う形でジェレミアも車に向かう。
 その時ふとV.V.の「何か願いを叶えてあげる」という言葉を思い出した。
 「何か」に死者の蘇生は含まれているだろうかと一瞬だけ考えを巡らすが直ぐに否定する。
 幾ら嚮団の技術が後ろ盾にあってもそれは不可能だ。
 それにV.V.に頭を垂れる事をジェレミアが構わなくとも、ルルーシュ自身が許さないだろう。
 しかも最後の一人になるという事は、と車の後部座席の方を見やる。
 ルルーシュを「甘い」と称したジェレミアだが、この点に関しては人の事を言えなかった。

 改めて車に戻る。
 戻りながら――ジェレミアに信仰する宗教は無いが――祈らずにはいられなかった。



 今はただ、マリアンヌ様を亡くされた日から茨の道を進んで来たあの御方に――
――どうか安らかな眠りを。


【一日目朝/ H-7 市街地】

【アイゼル・ワイマール@ヴィオラートのアトリエ】
[装備]:無限刃@るろうに剣心
[所持品]:支給品一式、うに(現地調達)、不明支給品(0~2)
[状態]:軽傷
[思考・行動]
1:うに、ジェレミア、奈緒子と一緒に脱出!
2:ジェレミアと奈緒子に協力を惜しまない。
3:次に白髪の男(雪代縁)に会うことがあったら見逃さない。
4:奈緒子にうには渡さない。
[備考]
※自分たちが連れてこられた技術にヘルミーナから聞かされた竜の砂時計と同種のものが使われていると考えています。
※うにのことをホムンクルスだと思っていますが、もちろん唯のウニです。
※ジェレミアの説明で、電気や電化製品について一定の理解を得ました。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しています。
※ジェレミアと奈緒子の知り合いに関する情報を聞きました。

【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]ミニクーパー@ルパン三世
[所持品] なし
[状態]右半身に中ダメージ、疲労(中)、精神的疲労(特大)、左腕の剣が折られたため使用不能
[思考・行動]
1:アイゼル、奈緒子と協力して元の世界に帰還する。
2:ルルーシュを殺した参加者とV.V.を殺す。
3:アイゼルと奈緒子にV.V.の情報をどの程度伝えるか決める。
4:V.V.に9年前の事件について聞く。
5:アイゼルが住んでいた世界について聞く。
6:ルルーシュの遺体を探し、ナナリーの下に送り届ける。
7:全て済ませた後、ルルーシュの後を追う。
[備考]
参戦時期はR2、18話直前から。ルルーシュの配下になっている時期です。
※奈緒子とアイゼルに知り合いについて簡単に説明しました。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しています。
※ギアス能力以外の特殊能力の存在を疑っています。

【山田奈緒子@TRICK】
[装備]なし
[所持品] 支給品一式(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×3@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた
[状態]健康
[思考・行動]
1:とりあえず上田を探す。デイパックの構造については上田に任せる。
2:ジェレミアとアイゼルにしばらく同行。危なくなったら逃げる。
3:もう危険な目に遭いたくない。
4:今は腹八分目。でもアイゼルのうにを食べる。
5:ジェレミアにお礼を言いそびれた。……まあいいか。
[備考]
※ジェレミアとアイゼルに知り合いについて簡単に説明しました。
※ジェレミアを(色々な意味で)凄く変で非常識な人物と認識しています。いい人なんだけど……。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しています。
※ジェレミアのデイパックを本人に無断で私物化しました。
※ジェレミアがモール内でベーグル@現実を補充していたようです。他にも何かあるかも知れません。


【ベーグル@現実】
 外側はカリッと、内側はもっちりとした歯触りの普通のベーグル。
 8個入りだったが奈緒子とアイゼルが完食。


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063:オレンジ焦燥曲 ジェレミア・ゴットバルト 100:癒えない傷
山田奈緒子
アイゼル・ワイマール



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