がるぐる!

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がるぐる!  ◆.WX8NmkbZ6



 教会の中で、後藤は二人分の死体を食らっていた。

 装飾と彫刻が施された祭壇。
 その奥にはきらびやかなステンドグラス。
 背もたれの付いた木製の長椅子が整然と並び、その席数は参加者全員を座らせても埋まらない程だ。
 どれを取っても『立派な教会』と呼ぶに相応しい。
 しかし今は、この後藤というパラサイトの食堂として機能している。
 祭壇に捧げられるのは収穫された穀物や果物ではなく、食い散らかされた血と肉だった。

 闘争本能のままに暴れ、動き回った分の食事を採り。
 数匹の人間ごときに手こずった事に対し少々の苛立ちを感じつつも、一定の充足感は味わった。
 会場内に欲を満たすだけの相手がいる事に対し、後藤は喜びに近い感情を抱く。
 しかし満足には遠い。

 まずは休憩が必要だったが、未だ満たされない後藤は参加者の訪れを待った。
 首を刈り取った状態の死体を担いで移動したので遊園地方面からは血痕が点々と続いている。
 人が走る以上の速さで走った為その間隔は広いが追跡は難しくない。
 後から遊園地に辿り着いた誰かが血の跡に気付いたら――
 恐怖で逃げ出すか、好奇心のままに追ってくるか。
 出来れば後者であって欲しかった。
 それに教会が地図に掲載されている以上『餌』が自ら通りかかる事もあるだろう。
 どちらにせよ運任せになるが、広過ぎる会場の中で参加者を探して動き回るよりは効率的だ。
 そんな事を、後藤は残りの肉を咀嚼しながら淡々と思う。


――こなた……母さんいなくて、さみしいか?

――別に。
――お父さん一人で二人分賑やかだし、今はゆーちゃんもいるし。

――こなた……、ゆーちゃんって、誰だ?

――は?

 泉こなたは市街地にある民家に入り、茶を啜りながら流れてくる放送の内容をメモしていた。
 呼ばれた死者のうち知り合いは四人。
 斎藤一
 柊かがみ
 平賀才人
 高良みゆき
 そのうちの二人は親友だった。
 残る二人はその死の瞬間を直接見ていた。
 しかし悲しみは無い。
 こなたはこの殺し合いをゲームだと認識しているからだ。
 加えて言うならば、かがみを死に至らしめたのは他でもないこのこなたである。
(かがみんも協力してくれれば心強かったのになー。
 みゆきさんも脱落かー)
 ゆたかを生き返らせるのに必要なリセットボタン。
 それを主催者V.V.から受け取る為に、こなたはこの会場に残る最後の一人になろうとしている。
 この考えに賛同してくれそうになかったから――その程度の理由でこなたはかがみを殺した。
 楽しかった日常に帰る為に、全てを無かった事にする為に、こなたは狂ってしまったのだ。

 地図に載っていない、数ある民家のうちの一つ――この場所は安全圏だとこなたは思う。
 大魔王・後藤やクーガーも家を一軒一軒回るような真似は恐らくしない。
 幸い禁止エリアにも含まれなかった。
 落ち着いて休憩出来るこの環境に感謝しながら、こなたはゆっくりと優勝の為の道筋を探す。



 そのこなたが安全地帯から抜け出して教会を訪れたのは、危険と言えば危険な行為だ。
 せっかく後藤やクーガーから逃げ切ったというのに、危険地帯寄りの施設に戻って来た事になる。
 それにはこなたなりの理由があった。
 まず、本当は武器屋に行きたかったが地図上にそれらしいものが無かったのだ。
 教会の神父に頼んで死んだ仲間を生き返らせる、そんなゲームの事を思い出したという事もある。
 もっともそれには大金が必要だったし、今はRPGではなく『殺し合い』というゲームの最中。
 そう簡単に人が生き返る事は無いだろうが、何か大事なイベントが発生する事も考えられる。
 それに民家を渡り歩いて家捜ししたところで手に入るのは安い武器防具ぐらいだ。
 後藤のようなモンスターを倒すにはそれでは足りず、ある程度の危険を冒す事に必要性を感じた。
(まぁ、大魔王が教会になんて来るわけないしね)
 バトルロワイアルにゲーム感覚で参加しているこなたは、こうして教会の敷地内に足を踏み入れる。

 正面の扉をいきなり開けるような事はせず、まずは脇に廻り込んで窓からこっそりと中を覗く。
 最初に目に入ったのは赤い床だった。
 真っ赤な絨毯などという意味では当然無く、文字通り血で床が赤黒く染まっているのだ。
 更にその血の海の中には食い散らかされた手足や目や内臓が無造作に投げ出されていた。
 正常な精神の人間が見ればそれだけで発狂出来る、異常な光景。
 しかし幸いにして、それを覗いた少女は既に精神を壊している。
(結構リアルだなー。
 このゲームって一般に発売するなら間違いなく十八禁だよね)
 そんな普段通りの感想しか抱かなかった。
 多分ここで参加者同士の戦いがあり、誰かが脱落したのだろう――こなたはそう結論付ける。

 視線を動かして行くと、祭壇の前に肌色の塊が鎮座していた。
 一瞬人間かと思ったが、遠目では「人間のような何か」という事しか分からない。
(まぁ、中に入って調べてみれば分かるでしょ)
 後藤やクーガーの姿は見えない。
 物音もせず、人の気配自体が無い。
 それらからこなたはこの教会を「血だらけなだけで安全」と判断した。
 念の為女神の剣を手にしながら、安易な気持ちで重厚な扉に手を掛ける。


 後藤は、五頭。
 文字通り五体のパラサイトが同居し、寄生生物の先天的な闘争本能はその数の分だけ倍増している。
 後藤が戦闘に存在意義を見出すのはその為だ。

 しかしだからこそ後藤は、窓の外の気配に気付きながら先手を打たなかった。

 こなたが教会内を窺っていた頃、後藤はこれまでとは大きく異なる容姿になっていた。
 耳は鋭く尖り、裂けた頬の合間からは新たに二つの眼が覗く。
 唇の無い口から歯が剥き出しになり、両腕は根元から二つずつに枝分かれしていた。
 更に手足の先を鉤型に変えたその外見は、もはや人間とは呼び難い。
 後藤がこうして人の形態を捨てたのは、この会場では人の群に紛れ込む必要は無いと判断した為だ。

 その姿のまま後藤は座り込み、頭を両腕で抱え込むようにして休息を取り始める。
 だが完全に意識を手放したわけではなく、頭部の裂け目から覗いた眼が周囲を警戒していた。
 故に、窓の外でピンと立った青い髪が揺れていれば気付くのは当然の事だ。

 その気になれば即座に窓を叩き割って殺す事も出来た。
 それをしなかったのは後藤が少なからず人間に『期待』していたからだ。

 この会場に来て最初に食った、三木に相手をさせた少女は思わぬ反撃をしてきた。
 初めから後藤が戦っていればあの適度な緊張感のある戦闘は生まれなかっただろう。
 ただ空腹を満たすだけなら後藤が直接戦う必要は無いが、後藤が求めているのは戦闘。
 一瞬で勝負がついてしまっては戦闘欲求が満たされないのだ。
 生存している参加者が五十人未満となった今、無防備な相手を即死させる事に抵抗があった。
 残り全員を餌に出来るならともかく、人間同士でも勝手に殺し合っている。
 人間の言葉を借りるなら「勿体ない」といったところか。

 よって後藤は、外にいる人間が扉を開けてから殺すと決めた。
 あの少女のように抵抗して楽しませてくれる事を期待しながら。
 縮めていた手足を伸ばし、扉が開いた瞬間に相手の首を切り落とせるよう腕の先端を刃に変える。
 扉の反対側まで気配が移動した。

 そして後藤が見詰める中、扉は――






――扉は、開かなかった。
 後藤の気配に気付いたようだ。

 少し拍子抜けするが、追い掛けて行って殺す事はしなかった。
 二人分の食事で空腹はある程度収まっており、更に一人食ってもせいぜい『デザート』止まりだ。
 今はそれよりも疲労の回復に専念すべきと判断する。

 加えて、ここで見逃す事によって生まれるメリットもある。
 遊園地から残してきた血痕を辿らせる――参加者をこの教会に呼び寄せる種は既に蒔いた。
 しかしそれだけでは確実性に欠ける。
 この人間を逃がす事で、人間同士で徒党を組んで改めてここを訪れるかも知れない。
 そうなればもっと楽しめるだろう。
 逆にこの場所に近寄らないよう広められる事も考えられたが、大した問題ではない。
 誰も来なければ自ら餌を探しに赴き、食う。
 単に面倒が増えるだけで最終的に辿り着く結果は何も変わらないのだ。

 もはや祈るという本来の目的には到底使えそうにない、血染めの教会で改めて後藤は眠りにつく。
 人に擬態する事をやめたその姿は、次なる戦闘の時を待つ獣のようだった。


【一日目朝/F-9 教会】
【後藤@寄生獣
[装備]無し
[支給品]支給品一式、不明支給品0~2(未確認)、ヴァンの蛮刀@ガン×ソード
[状態]疲労(大)、空腹(小)
[思考・行動]
1:少し休憩。
2:強い奴とは戦いたい。
3:泉新一を殺す。
4:田村玲子が本物なら戦ってみたい。
5:しばらく他の参加者が来るのを待つ。
[備考]
参戦時期は市役所戦後。
※後藤は腕を振るう速度が若干、足を硬質化させて走った際の速度が大幅に制限されています。


 こなたは民家で茶を啜っていた。
 放送を聞いていた時と同じ家だ。

 とんぼ返りである。

(いやー、参ったね。
 まさかあんな所にいるとは思わなかったよ)

 こなたは扉に手を掛けた時、足下に血痕が落ちている事に気付く。
 血なら教会内に溢れているが、振り返るとその血痕は広い間隔で長く続いているようだった。
 少しその血の跡を辿ってみると、向かう先は……遊園地の方角。

 遊園地方面から止まる事無く流れていたなら、専門知識の無いこなたでも致死量と分かる出血だ。
 まだ乾き切っていない事から先程の戦闘が関わっていると考えていい。
 つまりこの血はサイトと斎藤の両者、或いはどちらかの血。
 そして間隔の広さからかなりのスピードで運んだと想像出来る。
 安易に扉を開けようとしていたこなたは立ち止まり、真剣に状況を見詰め直す事にした。

 こなたに考えられた可能性は二つ。
 一つはクーガーが遊園地から二人の死体を運んできたという可能性だ。
 ここはゲームの世界だというのに、クーガーは人間の死を真剣に悲しんでいるようだった。
 弔いの為に教会まで来ていても不自然ではない。
(あの人ってあれだよ、ゲームキャラに感情移入し過ぎちゃうタイプだね)
 しかしクーガーにはわざわざ死体を損壊する理由が無く、教会内の惨状が説明出来ない。
 教会の中の血肉がこの件とは別の物だとも考えられるが、可能性は低かった。

 もう一つは、後藤が何らかの理由で二人の死体をここに運んで来た可能性。
 理由は分からない。
 もしかしたら死体をバラバラにするのが好きだというスプラッタな趣味でもあるのかも知れない。
 大魔王なのだからあり得る。
 クーガー達との戦いぶりから、死体を頭からバリバリと食べている光景も目に浮かんだ。
 理由はどうあれ、こちらの方がまだ信憑性があった。
 そしてこの考えに至ってすぐに、こなたの脳裏に嫌な予感が過ぎる。

(あれ?
 もしかしてさっきの肌色、後藤の第二形態とか?)

 せっかく苦労して与えたダメージを全回復して更にパワーアップする、プレイヤー泣かせのアレ。
 ゲームのボスクラスの敵の定番。

 気付いた時には来た道を全速力で逆走していた。
 女神の剣によって上昇した身体能力を余す事無く使い、脱兎の如く逃げ出したのだ。

「全く、早く気付いて良かったよ。
 あのまま鉢合わせてたらゲームオーバーだったね」
 間一髪、最強の寄生生物との再会を免れたこなたは独り言と共に安堵の溜息を漏らす。
 そして思考を切り替え、後藤を倒す為の方策を考え始めた。
 武器依存、能力固定で立ち回りが問われるゲームだという判断は間違っていないはずだ。
 だが武器屋が無い以上やはり他の参加者から武器を奪う事や協力関係を結ぶ必要がありそうだった。

 そのうちに一つの方策を思い付いた。

(そうだ、他の人達と戦わせてもっと弱ったところを倒せばいいんだ)

 勇者として最後の一撃さえ自分で入れられれば、弱らせる方法は問われないだろう。
 パーティーを組むにしても、味方と共に前線に出て命を張る必要は無い。
 「友達が教会にいる化け物に捕まった」。
 小学六年生の頃からほとんど変化していない体格と外見を活かし、子供らしく。
 お人好しの参加者相手なら騙せる自信がある。 
 後藤と戦えば大抵の人間は無事では済まないので、他の参加者も減らせて一石二鳥だ。
 力が無い分を武器で補い、容姿を活用し、頭を使い、他人を利用する。
 序盤でラスボスに遭ってしまうゲームである以上、使えるものは全て使うべきだ。

 出来る限り大勢の参加者を連れて来よう。
 こなたは奮起した。
 それこそ後藤の思惑通り、期待通りの策だったのだが、こなたには知る由も無い。



 放送の中に小早川ゆたかの名前が無かった事に、こなたは複雑な感情を覚えた。
 悲しかったわけではない。
 ゆたかは死んだわけではないからだ。
 ただ、ゆたかも他の参加者のように脱落したのに名前が呼ばれない――
――いつか皆がゆたかの事を忘れてしまう。
 それだけが、何にも動じなくなったこなたの壊れた心に微かなさざ波を作る。

――こなたお姉ちゃんは、私のこと、忘れないでね。

(ゆーちゃん、私が忘れるわけないでしょ。
 お父さんは忘れちゃったしかがみんはすぐに諦めちゃったけど、私は忘れないし諦めないよ。
 それに歩く萌えキャラの二人にツンデレかがみんが死んじゃうなんて、人類の損失だよ)

 クーガーは「これはゲームではない」としつこく言ってきた。
――ゲームじゃないなら、なんでゆーちゃんが死んでるの?
 クーガーが言っている事は間違っている。
 いや、むしろゲーム中のトラップだと考えるのが妥当だ。
 ラスボスの「仲間にならないか」という問いに「はい」と答えればゲームオーバーになるように。
 クーガーの言う事を聞いたらゲームオーバーなのだ。
 何を言われても聞く耳を持つまいと、こなたはクーガーに対して一層心を頑なにした。

 他の参加者に助けを求めるついでに彼を悪人と広めておけば、勝手に殺し合ってくれるだろうか。
 打倒後藤を志しながら、こなたはクーガー排除も視野に入れた。

 ゲーム開始から六時間で四人に一人が死亡。
 単純計算をするならあと十八時間程で終わる。
(なーんだ、結構すぐじゃん。
 待っててねゆーちゃん、かがみん、みゆきさん。
 こんなゲーム、私がちょちょいっとクリアしてあげるからさ)
 昏く澱んだ眼を除いて、普段と何も変わらない。
 親しい友人達や家族への思いも変わらない。
 ただ――このゲームで勝ち残る為なら、その友人達や家族を殺す事さえ厭わない。
 いかに普段通りであっても、普段通りであるが故にこなたは壊れていた。

 壊れたこなたは他の参加者を探す。

 未だ何の怪我もしておらず、さして痛い目にも遭っていない。
 恵まれた支給品。
 頼りなかったとはいえ助けに現れた少年。
 後藤との二度目の遭遇の回避。

 <幸運の星(ラッキー・スター)>は確実に、泉こなたに味方していた。


【F-8 民家】
【泉こなた@らき☆すた】
[装備]:女神の剣@ヴィオラートのアトリエ
[所持品]:支給品一式、確認済み支給品0~2個、ルイズの眼球、背骨(一個ずつ)
[状態]:健康
[思考・行動]
1:優勝して、ブイツーからリセットボタンをもらう。
2:他の参加者を教会に向かわせて後藤と戦わせる。後藤が弱ったら後藤を倒す。
3:クーガーの悪評を流す。


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072:Ultimate thing(後編) 泉こなた 100:癒えない傷
後藤 109:遊星よりの物体X



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