どんな辛さも流れ星 ─the last job─

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どんな辛さも流れ星 ─the last job─  ◆gry038wOvE



 時刻は六時を少し回ったあたりである。
 重々しい空気が彼らを取り囲む。
 先ほど、放送が終わったのだ。
 悲しみに浸る少女と豪剣を前に、北岡と五ェ門はかける言葉も見当たらなかった。

 北岡の知っている名前といえば、彼女たちに聞いた名前と「北条悟史」くらいだ。
 五ェ門も確かに、銭形という元の世界の宿敵の名を聞いたが、その胸にあるのは一抹の寂しさのみである。
 悲しい、というほど彼は銭形に愛着を抱いてはいなかった。この放送が影響する相手といえば、──やはり、ルパン三世という男だけだろう。

 そんな中で、涙する少女──つかさ。放送で悲しみを知ることが出来なかった北岡や五ェ門は、彼女にかける言葉がなかった。

 高良みゆきという名前は何か。友達だ。
 ルルーシュ・ランペルージという名前は何か。自分が引き金を引いてしまった仲間だ。
 柊かがみという名前は何か。──────家族だ。


「おね………っく…………ちゃん…………っ」


 ぽろぽろと彼女のスカートの裾に落ちていく涙。
 それは土砂降りの雨のような大粒で、スカートに湿地を作っていく。
 必死で目を擦りながら痙攣するその姿には、その悲しみが伝わってくるような非情さがあった。


「信じねぇ……信じねぇぞ…………相棒が、あのガンダールヴの平賀才人が死んじまうなんて…………
 俺だけ置いて、二人であの世に新婚旅行かよ……………………そりゃあねえよな、相棒」


 平賀才人とルイズ。
 その名前を忘れるわけがない。ルイズのあんなに長い名前を聞き間違えるわけもないのだ。
 聞き間違えるなら、きっと死亡者という部分だろう。だが、それが間違いでないのは少女の涙を見れば確かだった。

 デルフリンガーは改めて、二人のことを思い返す。
 スケベだが、自分を任すに相応しい最強のご主人・サイト。
 そのサイトのご主人のドキツい女・ルイズ。


 何回も何回も、顔を合わせば喧嘩ばかり。なんだかんだで仲の良い二人で、デルフリンガーはそんな姿を見守り続けた。
 二人とも戦いの中で死にかけたことだってある。そんな戦火の中でも、サイトは戦友と呼ぶに相応しい男だった。
 二人の喧嘩やサイトの浮気。死にかけの闘争や武器屋での出会い。
 何もかもが、良い思い出だった。


 みんな、死んだ。



「わーってる…………わぁってるよ…………今更信じねーなんて、虫の良い話はねぇ。
 嬢ちゃん、あんたもさ……気持ちは痛ぇくれぇに良くわかるが、こんなときこそ強くならねぇとな」


 大切な人を失ったもの同士、協調しあうかのように目を合わせる。
 明確には、デルフリンガーに目はないが、刀身は絶対につかさの目を見てそう語っている。


「強く……そうだ、強くならねぇといけねぇ。俺の相棒は強かったんだ…………こんな錆びた剣で女の子守って、平気で生きて帰ってくるくれぇに強ぇ。
 相棒が強かったから、俺まで死に損なってきたんだろうよ……。
 ならよぉ…………こんなデッケェ剣を二つも持ってるつかさが強かったら、全員まとめて生きて帰れるんじゃねーのかよ」


 北岡と五ェ門。二つの剣は、確かに武力と知力を併せ持っている。
 確かに強力な剣であった。

 カードデッキを奪われながらも、それを取り替えそうと意気込む北岡。
 北岡との契約を決して裏切らない協力者・五ェ門。

 その精神もまた、強い。
 なんと心強い味方だろうか。
 その二人に協力できる限りのことはする、と言ったことをつかさは思い出す。
 それも言わば、契約。もっと簡単な言葉を使うなら約束だった。

 ──私も……なにかお手伝いします──

 本当に何気無い一言だった。
 それでも、約束には違いない。
 カードデッキを取り返したいという北岡に協力した五ェ門。
 自分も何かしなくちゃ……そう思ってかけた一言。


「二人とも強い剣だ、そいつを使えるだけの力持たねぇとな……もったいねぇだろ」


 このままずっと、悲しみが収まるまで泣いてていい?
 このままずっと、一人でここにいて……どうせなら泣いたまま誰かが来ることにも気付かないで楽に、みんなのところに行っていい?
 このままずっと、このまま二人に甘えて泣いて……約束なんて忘れていい?

 頭の中に、そんな問いが生まれた。

 このままずっと、泣いてていい?
 このままずっと、甘えてていい?

 だが、そんな問いを振り払って、デルフリンガーの言葉を掴み取る。


「……ぅん…………北岡さんのお手伝いするって約束だもんね。……強くならなきゃ、できないよ」

 うずくまった体から立ち直る。
 友達であったり、家族だったり、そんな身近な人の死に涙を浮かべていた少女はもういない。


(強くならないと……だってもう、私がお姉ちゃんよりちょっとだけお姉ちゃんだもん)


 強気な双子の姉を見て育った温厚な少女。
 もう既に、彼女が生きていた時間を、つかさは少しだけオーバーした。
 ほんの少しの人生の差を、柊の姉妹は逆転してしまった。

 姉は強くなければならない。
 強い姉よりも、ずっとずっと強い姉に……。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺もそこまで強くはないし、知り合いが死んだら……そりゃあ少しは悲しむってもんさ」

「拙者についても過大評価だ。…………だが、いい心がけだと思うぞ、つかさ殿」


 褒められたつかさが一瞬だけ人の死を忘れて、小さく微笑んだのはその数秒後だった。




 澱んだ空気が振り払われると、さて──と五ェ門と北岡が声を合わせる。
 これからまずは、図書館に寄って休養をとり、病院へ直行する予定であった。
 だが、図書館に寄る暇はない。何故なら、隣接するエリアが禁止エリアに指定されたからだ。
 図書館から真っ直ぐ最短ルートを通って病院に行くなら、G-7の禁止エリアギリギリを通る必要がでてきてしまう。
 遠回りするだけの余裕は、北岡の今の体力にはない。

 肩こりに腰痛、持病。そんなジジ臭い身体の北岡では遠回りして禁止エリアを避けていくには先ほどのように野外で休憩することになってしまう。
 そうなると結局、誰かに襲われる確率も特大だ。


「どうするか、北岡殿」

「どうもこうも、9時が指定ってことは少しくらいなら休めるだろ? なら余裕をもって休んどくのが一番良いさ」

「異論はない」


 三人は地図や名簿をしまい、ゆっくりと立ち上がる。
 北岡の場合は体の節々に筋肉痛ゆえのだるさと動きの遅さがあったが、それでも結局安全に休むためには図書館に向かう必要があった。


─────


「これが『とっつぁん』の亡骸か」


 銭形という男の体は──────氷だった。
 銭形をくるむカーテンのほうが温かい。それが死。
 五ェ門は彼が死んだと放送で理解していたが、ここまで強く突きつけられた現実には絶句する。
 ルパンに誰よりも執着し続けた男。ルパンの宿敵であり、兄であり、父であり、親友だった男。
 五ェ門との接点はルパンに比べれば小さかった。事実、五ェ門も同じく犯罪者である以上対立はしたが、銭形にとって眼中にある男ではなかったのだ。
 それでも──


「北岡殿、つかさ殿。ここに来たのは正解だった。この男が死ぬときは、せめてその亡骸というものを頭に刻んでおきたかった」


 五ェ門は結局、追いつ追われつ、命がけのあの日々が楽しかったのだろう。
 五ェ門の顔は感情を見せない。感情を有しながらも、それを見せようとはしていない。
 時に冷酷に見えるが、それがつかさには『強さ』以上の何者にも見えてはいない。


「銭形という男は強い男だ。この男が何度、『死なない男』を追い詰めたことか。
 死体ながらも、今に執念で拙者の手を掴もうとするのでないかと考えてしまうほど……」


 ──捕まえたぞ~、五ェ門~。貴様を囮にルパンのやつをおびき出してやる~~──

 この男の死に顔はそう言おうとしている。だが、体は氷になってしまったから動かない。
 彼に追われることがなくなってしまうのは、安心なんていう感情ではない。

 ルパンファミリーにとっては、不安でしかないのだ。



「拙者がこの強い男に負けずにここまで来たのは、能ある仲間がいたから……それだけに過ぎん。
 悔しいが、拙者の能力はこの男に劣っていた────そんな男の首を捻った男を倒すには、やはり数に頼るしかないだろう」

「五ェ門さんより……強い人……」


 つかさは遠目でしか銭形を見せてもらえない。つかさに見えるのはコートと手足、体。
 その男がどんな顔をしているのか、つかさにはわからない。体はがっしりしていて、とても強そうだ。
 柔道か、アメフトか、ラグビーか、野球か。そういうスポーツをやり続けた人なのだろう。


「つかさ殿、北岡殿。体は休まったか? それなら──」

「早まるなよ、五ェ門。時間はまだ少しある」

「そうであった。拙者としたことが、つい先急いでしまったな」

「こんなところで言うのも難だけどさ……落ち着けよ、五ェ門。はっきり言わせて貰うと、お前、見てられないよ」


 五ェ門の手は何度も死体の体温を確かめていた。
 そこに熱が戻ることを期待しているかのように。
 北岡も、つかさも、デルフリンガーも、それに気付いている中──それに気付いていないのは当の本人だけ。

「人間、誰でもそうなるんだよ。俺だって、それに対する恐怖は誰よりも理解してるつもりさ。
 でも、お前は結局吹っ切れてない。どっかに死なない人間がいるって、信じきってるよ、お前。
 で、そんな人間抱えて俺たちはどうしろっていうのさ? 俺たちも死なない人間に認定されて、あんたのその力をうまく使ってもらわないまま死ねっていうのか? 冗談じゃないよ、まったく」


 北岡は五ェ門の様子を勘ぐって、カマをかけるように諭し始めた。
 五ェ門は北岡の言葉に反論できない。「言わせておけば!」と掴みかかりたいところだが、それをするには北岡の言葉は自分の内心に合致していた。




 死なない男と謳われたルパン三世と、彼を逮捕するために死ぬような目に遭って来た銭形警部
 結局、彼らは死ぬこともなく生き続けている。
 ゴキブリも驚きの生命力が、彼らの生を保ち続けてきた。
 そんな非現実を現実としてきたのが、彼の何よりの不幸だろう。

 ここにきて、現実らしい現実を受け入れられないのが今の五ェ門だ。


「俺も兄ちゃんの意見に賛成だ。相棒より上手く剣が使えるってのに、錆びた剣や若い姉ちゃんよりも肝が弱いってのかい?
 あんたのことを強い剣だって言ったのは、本当に過大評価だったみてぇだ。撤回させてもらいてぇ。
 葬式なんかじゃあ友の死を受け入れられない男ってのは感動の名場面だが、ここじゃあ誰かの食いモンさ。本当に力があんのはお前だけだろ、兄ちゃん。そのあんたがこれじゃあ、二人はどうすりゃいいってんだよ」


 五ェ門の死とは、この場にいる全員の死のようなものだ。
 五ェ門の腕が鈍っては、つかさや北岡の剣が錆びたようなもの。
 誰よりも期待された男が、今は誰よりも弱い。


「……そうであったな。拙者は万全でなければならん」


 五ェ門はすぐさま銭形の亡骸に背を向け、図書館内の椅子に座った。
 ここから出る予定の時間まで、残りは数分だが五ェ門の体を休めるには充分である。
 少しでも体を休め、少しでも平静を取り戻さなければならない。


「ま、そういうわけさ。俺たちはまだ生きてる。生きている激しさってやつを確かめようじゃないの。ここから帰って、パーッと遊んでさ」


 五ェ門は瞑った目を片目だけ開くと、北岡に告げる。



「お主は、少しだけルパンに似ているな」

「お前は城戸とか秋山っていうやつに似てるよ。言ってることと感情とが噛み合ってないところとかな」

「それは……北岡さんもだと思います」

「え、俺が? 俺はいつでも正直に自分の内面を言ってるんだけどなぁ」

「つかさ殿は…………うむ、可憐だ」

「ほぇ?」

「うわ……出たよ、いるんだよなぁ、こういうヤツ。青春時代をまともに過ごせなかったヤツが、大人になってから小さい女の子に色目使い出すんだよ」

「うんうん、わかるぜぇ兄ちゃん。この兄ちゃんは生真面目そうだもんなぁ。青春時代はきっと女にロクに手を出せなかったに違いねぇ。おい兄ちゃん、お姫様の運送係を変わってやったらどうだい?」

「そいつはいい考えだな。ただ、その兄ちゃんってのはよしてくれないか?」

「そうだなぁ。こういうのはどうたい? あんたがイケてる兄ちゃんで、あっちがロリコンの兄ちゃんだ」

「なかなか良いこというじゃないか、デルフリンガー」

「貴様ら、言わせておけば……!」

「わ……ちょっと待って、五ェ門さん……!!」

「おい待て、俺には危害を加えないって約束だろ!?」

「問答無用!」


─────


「ふぅ……なんとか収まったし、もう時間だな」


 北岡は時計を確認する。
 おそらく、禁止エリア指定時間にG7を通ることはないが、数時間以上の余裕を持って行動したほうがいいだろう。たとえば、正面から襲われて別方向に逃げることになったときや、眠りの鐘が誤作動してしまったときのことを考えれば、それなりの余裕は必要になる。


「うむ。行くか──」


 五ェ門は一度だけ、銭形の亡骸を見つめて手を合わせる。
 まずやるべきことはこれだったが、この死体と鉢合わせたときはまだ死を飲み込めえていなかった。
 だから、それを飲み込んだ今だからこうして死体に礼を尽くす。
 もう一度遣り残したことを、ここですることにならないように。



【一日目朝/F-7 図書館】
北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]レイの靴@ガン×ソード 、FNブローニング・ハイパワー@現実(13/13)
[所持品]予備マガジン(5/15)
[状態]健康? 、肩こり、腰痛、筋肉痛、数か所の擦過傷
[思考・行動]
1:総合病院で体勢を整える。
2:金髪の男(レイ)からデイパックを奪い返す。
3:2を達成し、もしデッキがあれば浅倉と決着をつける。
4:戦闘は五ェ門、交渉は自分が担当する。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※ルパン勢について把握しました。


石川五ェ門@ルパン三世】
[装備]デルフリンガー(錆び)@ゼロの使い魔
[支給品]支給品一式(水を消費)、確認済み支給品(0~2)(剣・刀では無い)
[状態]左手のひらに大きな傷、右肩に刀傷(共にサラシで止血済み)
   軽い裂傷が数か所、サラシ無しで腹が寒い…
[思考・行動]
0:北岡、つかさを護衛する。
0:とっつぁん……。
1:総合病院で体勢を整える。
2:浅倉と決着をつける気があるなら、北岡のカードデッキを奪い返す手伝いをしてもいい
3:早急に斬鉄剣、もしくは代わりの刀か剣を探す
4:ルパン、次元と合流し、脱出の手だてを探す
※錆びた剣であるデルフリンガーを折らないよう、加減して戦っています。
※龍騎シリーズライダーについてはほぼ正確に把握しました。


柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式(水のみ二つ)、眠りの鐘@ゼロの使い魔(二時間使用不能)、確認済み支給品(0~2)
[状態]腕と脚に数か所の擦過傷、左足首にねんざ(五ェ門のサラシと木の枝で固定済み) 、悲しみと決意
[思考・行動]
0:北岡、五ェ門と協力する。
1:総合病院で体勢を整える。
2:精神的に強くなる。
3:こなた、みなみに会いたい 。



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076:寝・逃・げでリセット! 柊つかさ 100:癒えない傷
石川五ェ門
北岡秀一



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