あやまちは恐れずに進むあなたを ◆.WX8NmkbZ6
夢を。夢を見ていたのです。
夢の中で私は、カズくんと一緒にいました。
私は、お得意のサンドイッチを膝の上にのせて。
カズくんは「おいしい」って言って。
優しく微笑んでくれるのです。
私は、お得意のサンドイッチを膝の上にのせて。
カズくんは「おいしい」って言って。
優しく微笑んでくれるのです。
ああ、これは、私の夢です。
あの人じゃなく、私が見ている私の夢。
こうなりたいと願う、私の夢だったのです――。
あの人じゃなく、私が見ている私の夢。
こうなりたいと願う、私の夢だったのです――。
▽
「すみません……」
上田次郎に背負われた由詑かなみは、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。
「な、なに、この程度はスポーツ万能の優秀過ぎる私にとっては何の苦にもならない」
疲労の色の濃い上田は表情を引きつらせながら応える。
かなみはまだ八歳で、その上軽くない怪我を負っているのだ。
幾ら上田と言えど、そんな相手を歩かせる訳にはいかなかった。
ついでにかなみと上田、それぞれのデイパックも肩に掛けている。
「な、なに、この程度はスポーツ万能の優秀過ぎる私にとっては何の苦にもならない」
疲労の色の濃い上田は表情を引きつらせながら応える。
かなみはまだ八歳で、その上軽くない怪我を負っているのだ。
幾ら上田と言えど、そんな相手を歩かせる訳にはいかなかった。
ついでにかなみと上田、それぞれのデイパックも肩に掛けている。
「そうよ、少女かなみ。
彼は大地の戦士なのだから、この程度では疲れないわ」
「……はい……」
後ろから付いて来ている稲田瑞穂に、かなみは逡巡しながらも肯定する。
瑞穂が本気で言っていると分かっているだけに他に返す言葉が見付からなかった。
彼は大地の戦士なのだから、この程度では疲れないわ」
「……はい……」
後ろから付いて来ている稲田瑞穂に、かなみは逡巡しながらも肯定する。
瑞穂が本気で言っていると分かっているだけに他に返す言葉が見付からなかった。
三人が歩いているのはF-6の市街地。
山道からの南下はシャドームーンと接触した公園に近付いてしまう危険を孕んでいたが、負傷したかなみと瑞穂の手当ての為にはやむを得ない。
民家のうちの一つで怪我の応急処置を済ませ、三人は数時間程の休息を取った。
そしてかなみが目を覚ますとこれまでの経緯を上田が簡単に説明し、民家を出て現在に至る。
それ以上長居しなかったのは、上田が一刻も早く警察署で杉下右京と接触したいと考えていた為だ。
山道からの南下はシャドームーンと接触した公園に近付いてしまう危険を孕んでいたが、負傷したかなみと瑞穂の手当ての為にはやむを得ない。
民家のうちの一つで怪我の応急処置を済ませ、三人は数時間程の休息を取った。
そしてかなみが目を覚ますとこれまでの経緯を上田が簡単に説明し、民家を出て現在に至る。
それ以上長居しなかったのは、上田が一刻も早く警察署で杉下右京と接触したいと考えていた為だ。
「そうよね、ウェーダーマンネクスト」
「……も、もちろん」
会話が通じているようで全く通じていない瑞穂を右京が何とかしてくれると期待しながら、上田はこっそりと溜息を吐いた。
「……も、もちろん」
会話が通じているようで全く通じていない瑞穂を右京が何とかしてくれると期待しながら、上田はこっそりと溜息を吐いた。
「そう言えばかなみ君、君の支給品は何かな?」
話を逸らし、上田はかなみに話し掛ける。
休憩している間に上田自身のデイパックは整理したが、かなみが眠っている間にそのデイパックに触れるような事はしなかったのだ。
「私の支給品は……その……」
しかしかなみは言い辛そうに言葉を詰まらせ、そのまま黙り込んでしまった。
「何だ、言えないような物だったのか?
純粋なかなみ君にそんな物を支給するとは、V.V.という人物は全く卑劣な……」
話を逸らし、上田はかなみに話し掛ける。
休憩している間に上田自身のデイパックは整理したが、かなみが眠っている間にそのデイパックに触れるような事はしなかったのだ。
「私の支給品は……その……」
しかしかなみは言い辛そうに言葉を詰まらせ、そのまま黙り込んでしまった。
「何だ、言えないような物だったのか?
純粋なかなみ君にそんな物を支給するとは、V.V.という人物は全く卑劣な……」
その後も続く愚痴のような悪口のような、見当違いな独り言を聴きつつかなみは密かにホッとする。
かなみは瑞穂を信用して良いものか迷っていた。
瑞穂の行動は全て善意や正義感に基づいているが、その異常性はどこに傾くか分からない。
あの少年を殺してしまった事も、本当に正しかったと言えるのか――かなみには判断出来なかった。
故に瑞穂も会話を聴いているこの場では答えられなかったのだ。
かなみが瑞穂の手に渡る事を恐れたそれは――
かなみは瑞穂を信用して良いものか迷っていた。
瑞穂の行動は全て善意や正義感に基づいているが、その異常性はどこに傾くか分からない。
あの少年を殺してしまった事も、本当に正しかったと言えるのか――かなみには判断出来なかった。
故に瑞穂も会話を聴いているこの場では答えられなかったのだ。
かなみが瑞穂の手に渡る事を恐れたそれは――
「役に立つ支給品が無かったからといって気にする事は無い。
私があの少年の分も持っているからな」
「はい……――!?」
上田に返事をした時、かなみの背筋にゾッと悪寒が走った。
私があの少年の分も持っているからな」
「はい……――!?」
上田に返事をした時、かなみの背筋にゾッと悪寒が走った。
遠くに何かがいる。
遠くに、自分達へ明確な悪意を向けた何かがいる。
遠くに、自分達へ明確な悪意を向けた何かがいる。
「逃げて下さい! 早く!」
これまで大きな声を出した事が無かったかなみが切迫した声を上げた。
上田は緊急事態と判断しすぐに逃げようとした。
しかし何から、どこへ逃げればいいのかまるで分からず、走り出すのに躊躇する。
「早く、早く――」
これまで大きな声を出した事が無かったかなみが切迫した声を上げた。
上田は緊急事態と判断しすぐに逃げようとした。
しかし何から、どこへ逃げればいいのかまるで分からず、走り出すのに躊躇する。
「早く、早く――」
かなみの声の隙間を、風が吹き抜けた。
「ウェーダーマン、」
瑞穂が上田に何か言おうとした時、瑞穂の首は突如裂ける。
紅い噴水の如き鮮血を激しくほとばしらせて、瑞穂はその場に崩れ落ちた。
瑞穂が上田に何か言おうとした時、瑞穂の首は突如裂ける。
紅い噴水の如き鮮血を激しくほとばしらせて、瑞穂はその場に崩れ落ちた。
振り返った上田が見たのは、例え上田が躊躇い無く行動していたとしても避けられなかった結果。
上田がその状況を理解するには数秒を要し――
上田がその状況を理解するには数秒を要し――
「おかしいなァ……」
いつの間にか現れた青い着物の少年が、キョトンとした表情で呟いた。
たった今瑞穂を斬ったのはこの少年だと、血の滴る剣から嫌でも分かる。
しかしそうは思えない程に落ち着いた様子は現実離れしており、上田は悲鳴を上げるよりも先に気絶しそうになっていた。
たった今瑞穂を斬ったのはこの少年だと、血の滴る剣から嫌でも分かる。
しかしそうは思えない程に落ち着いた様子は現実離れしており、上田は悲鳴を上げるよりも先に気絶しそうになっていた。
▽
宗次郎は東へ駆けていた。
南で起きた爆発に関心はあったが、爆発は既に複数の参加者達の争いが起きている事を意味している。
そこに乗り込んで行って厄介事に巻き込まれるのは御免だった。
宗次郎の目的は飽くまで憂さを晴らす事であり、戦闘はその手段に過ぎない。
無理な戦いを仕掛けて獲物を仕留め損なっては、苛立ちが余計に募ってしまうのだ。
実力を充分に発揮する為の刀が無い事も南を避ける後押しとなる。
南で起きた爆発に関心はあったが、爆発は既に複数の参加者達の争いが起きている事を意味している。
そこに乗り込んで行って厄介事に巻き込まれるのは御免だった。
宗次郎の目的は飽くまで憂さを晴らす事であり、戦闘はその手段に過ぎない。
無理な戦いを仕掛けて獲物を仕留め損なっては、苛立ちが余計に募ってしまうのだ。
実力を充分に発揮する為の刀が無い事も南を避ける後押しとなる。
移動に徒歩を使わなくなったのは、余計な事を考えない為だった。
既に宗次郎の精神はいつ崩壊してもおかしくない状態だ。
それを宗次郎も何となく察していた故に、休憩を挟みながらも多少の疲労を承知で疾走する事に集中している。
既に宗次郎の精神はいつ崩壊してもおかしくない状態だ。
それを宗次郎も何となく察していた故に、休憩を挟みながらも多少の疲労を承知で疾走する事に集中している。
E-4で発見した四人組も宗次郎は接触しようとしなかった。
苛立ちを誤魔化すように移動していた宗次郎が遠くに捉えた彼らは、休憩している様子だったが油断は見えない。
緊迫した空気を纏っており、特にそのうちの一人である青年は相当な実力者である事が窺えた。
何人かは確実に殺せるが、手痛い反撃を被る確率が高い。
未だ四分の三の参加者が残っている現状で、それは進んで陥りたい事態とは言えなかった。
よって宗次郎は四人に気付かれないうちに迂回し、更に東へと道なりに進む。
苛立ちを誤魔化すように移動していた宗次郎が遠くに捉えた彼らは、休憩している様子だったが油断は見えない。
緊迫した空気を纏っており、特にそのうちの一人である青年は相当な実力者である事が窺えた。
何人かは確実に殺せるが、手痛い反撃を被る確率が高い。
未だ四分の三の参加者が残っている現状で、それは進んで陥りたい事態とは言えなかった。
よって宗次郎は四人に気付かれないうちに迂回し、更に東へと道なりに進む。
志々雄真実をして『天才』と言わしめた少年は冷静に相手を見定めていた。
そして山道を抜けた市街地で見付けたのが、三人の参加者だ。
そして山道を抜けた市街地で見付けたのが、三人の参加者だ。
宗次郎が知っているものより硬く平らな地面に違和感を覚えつつ探索している時だった。
宗次郎の視界にギリギリ入る位置の民家から出て来たのは、成人男性とそれに背負われた子供、それに女性。
歩くテンポは遅く、その挙動からは遠目でも素人である事が容易に知れた。
使い慣れない上に折れた剣であっても、余裕を以て対処出来る相手である事は明らか。
宗次郎は口元に笑みを浮かべて剣を構え、俊足で駆け抜ける。
宗次郎の視界にギリギリ入る位置の民家から出て来たのは、成人男性とそれに背負われた子供、それに女性。
歩くテンポは遅く、その挙動からは遠目でも素人である事が容易に知れた。
使い慣れない上に折れた剣であっても、余裕を以て対処出来る相手である事は明らか。
宗次郎は口元に笑みを浮かべて剣を構え、俊足で駆け抜ける。
▽
冷たいコンクリートに倒れ伏した瑞穂の身体は、急速に体温を失ってゆく。
手足の先は痺れ、感覚はとうに無くなっていた。
手足の先は痺れ、感覚はとうに無くなっていた。
(マウンテンカメール……)
戦士仲間から任された守護対象を、守れない。
光の戦士として、水の戦士こと亀山が命懸けで託した遺志を汲んでやれない事が申し訳無かった。
戦士仲間から任された守護対象を、守れない。
光の戦士として、水の戦士こと亀山が命懸けで託した遺志を汲んでやれない事が申し訳無かった。
(ウェーダーマンネクスト……逃げて……)
仲間を守る時に真価を発揮するとは言え、無知な上田だけでは強大な悪魔に打ち勝つ事は出来ない。
ただの少女に過ぎないかなみも、この会場内に他にもいるであろう無力な一般人達も、誰も守れない。
シャドームーンや桐山のような悪魔達が会場を闊歩するのを、止められない。
仲間を守る時に真価を発揮するとは言え、無知な上田だけでは強大な悪魔に打ち勝つ事は出来ない。
ただの少女に過ぎないかなみも、この会場内に他にもいるであろう無力な一般人達も、誰も守れない。
シャドームーンや桐山のような悪魔達が会場を闊歩するのを、止められない。
口惜しく、目の前の少年の姿をした悪魔に手を伸ばす。
しかし、届かない。
「おかしいなァ」
幼さの残る凛とした声を耳にしながら、瑞穂の意識は薄れていった。
しかし、届かない。
「おかしいなァ」
幼さの残る凛とした声を耳にしながら、瑞穂の意識は薄れていった。
【稲田瑞穂@バトルロワイアル 死亡】
▽
「やっぱりおかしいや。
一撃で首を撥ねるつもりだったのに、失敗するなんて」
宗次郎はたった今殺害した少女には一瞥もくれずに、血塗れの剣を眺める。
一撃で首を撥ねるつもりだったのに、失敗するなんて」
宗次郎はたった今殺害した少女には一瞥もくれずに、血塗れの剣を眺める。
「……ああ、初めまして。
僕は瀬田宗次郎って言います」
そしてその時初めて上田達の姿を見付けたかのように、宗次郎は人懐っこい微笑みを見せた。
「刀を探しているんですが、持ってませんか?
この人の物でもいいんですけど」
宗次郎が瑞穂から続け様に上田達を斬らなかったのは、この質問の為だけだった。
殺してからデイパックの中を探ってもいいが、その手間が省けるならそれに越した事は無い。
最初に一人殺害したのも、その方が残りの人間が大人しく従ってくれるだろうと思ったからだ。
事切れてからも血溜まりを広げる瑞穂の遺体を指しながら問い掛ける。
僕は瀬田宗次郎って言います」
そしてその時初めて上田達の姿を見付けたかのように、宗次郎は人懐っこい微笑みを見せた。
「刀を探しているんですが、持ってませんか?
この人の物でもいいんですけど」
宗次郎が瑞穂から続け様に上田達を斬らなかったのは、この質問の為だけだった。
殺してからデイパックの中を探ってもいいが、その手間が省けるならそれに越した事は無い。
最初に一人殺害したのも、その方が残りの人間が大人しく従ってくれるだろうと思ったからだ。
事切れてからも血溜まりを広げる瑞穂の遺体を指しながら問い掛ける。
「わ、私は日本科技大教授でカンフーの達人でブルース・リーの論文も書いていて出す本全てがベストセラーになる上田次郎だ。
ざ、残念ながら私にそのような物は支給されていないし、彼女も持っていなかったはずだ」
「大学? ……の教授?
そうなんですか」
上田の言葉の半分程は宗次郎に理解出来る物ではなかったが「恐らく偉いのだろう」と思い、流す事にした。
ざ、残念ながら私にそのような物は支給されていないし、彼女も持っていなかったはずだ」
「大学? ……の教授?
そうなんですか」
上田の言葉の半分程は宗次郎に理解出来る物ではなかったが「恐らく偉いのだろう」と思い、流す事にした。
「それじゃあ後ろの君は?」
声を掛けられ、かなみは震え上がる。
穏やかな声とは正反対に荒れ狂う内面に、向けられている悪意――殺意に。
「私は、……持っていません」
「へぇ、本当に?」
否定する時、かなみは声を震わせてしまった。
それを宗次郎は見逃さない。
「ちょっと見せて貰いますね」
穏やかな声とは正反対に荒れ狂う内面に、向けられている悪意――殺意に。
「私は、……持っていません」
「へぇ、本当に?」
否定する時、かなみは声を震わせてしまった。
それを宗次郎は見逃さない。
「ちょっと見せて貰いますね」
上田達と宗次郎の間には三メートル以上の距離があった。
しかし上田が一度目の瞬きをした時、宗次郎は目の前に。
二度目の瞬きをした時には肩のデイパックの持ち手が斬られ、本体を奪われていた。
「ドゥワッ!?」
「ええと、こっちは色々入ってて分からないな……こっちか」
宗次郎は上田のデイパックに手を入れ、刀と思しき物が無い事だけ確認する。
そして支給品一つ一つ見て行くような事はせずに、もう一方のデイパックの方に関心を移した。
しかし上田が一度目の瞬きをした時、宗次郎は目の前に。
二度目の瞬きをした時には肩のデイパックの持ち手が斬られ、本体を奪われていた。
「ドゥワッ!?」
「ええと、こっちは色々入ってて分からないな……こっちか」
宗次郎は上田のデイパックに手を入れ、刀と思しき物が無い事だけ確認する。
そして支給品一つ一つ見て行くような事はせずに、もう一方のデイパックの方に関心を移した。
「やめてッ!!」
かなみは叫び、宗次郎を止めようとする。
デイパックに入っている『それ』で、これから何をしようとしているのか分かっているからだ。
しかしその声も虚しく、宗次郎はデイパックから一振りの刀を取り出した。
「何だ、持ってるじゃないですか。
見た目はちょっと変わってるけど……」
拵えは大陸の物――しかし引き抜くとその刀身は紛れも無く日本刀。
宗次郎が普段扱って来た打刀ではなく、戦国期に主に使われていた太刀。
かなみは叫び、宗次郎を止めようとする。
デイパックに入っている『それ』で、これから何をしようとしているのか分かっているからだ。
しかしその声も虚しく、宗次郎はデイパックから一振りの刀を取り出した。
「何だ、持ってるじゃないですか。
見た目はちょっと変わってるけど……」
拵えは大陸の物――しかし引き抜くとその刀身は紛れも無く日本刀。
宗次郎が普段扱って来た打刀ではなく、戦国期に主に使われていた太刀。
雪代縁が使用する大陸製日本刀「倭刀」が、由詑かなみの支給品だった。
「ちょっと長いけど、これよりはいいかな」
刀の仕上がりの良さを見て宗次郎は満足し、それまで使っていた剣と二つのデイパックを捨てて上田達に向き直る。
「さて――」
「き、き、君は、どうしてこんな事をするんだ?」
渾身の勇気を振り絞り、上田は宗次郎の言葉を遮った。
宗次郎は苛立っているとは言え生来のんびりとした性格であり、殺す事に焦る気も無かったので耳を傾ける。
「……確か、上田さんでしたね。
教授とか本がどうとか、つまり偉いんですよね?」
「そ、そうとも、私は偉――」
刀の仕上がりの良さを見て宗次郎は満足し、それまで使っていた剣と二つのデイパックを捨てて上田達に向き直る。
「さて――」
「き、き、君は、どうしてこんな事をするんだ?」
渾身の勇気を振り絞り、上田は宗次郎の言葉を遮った。
宗次郎は苛立っているとは言え生来のんびりとした性格であり、殺す事に焦る気も無かったので耳を傾ける。
「……確か、上田さんでしたね。
教授とか本がどうとか、つまり偉いんですよね?」
「そ、そうとも、私は偉――」
「でもあの時、助けに来てくれなかったじゃないですか」
数秒の間、三人の間を沈黙が支配した。
上田は宗次郎を刺激しないようにしながら必死に言葉を探す。
「あの時……とはどの時の事だ?
私と君は初対面のはずだ」
「そう、初対面です。
当然じゃないですか、あの時助けてくれなかったんですから」
意味が分からなかった。
東條やミハエルや瑞穂との会話のように、噛み合っていない。
上田は宗次郎を刺激しないようにしながら必死に言葉を探す。
「あの時……とはどの時の事だ?
私と君は初対面のはずだ」
「そう、初対面です。
当然じゃないですか、あの時助けてくれなかったんですから」
意味が分からなかった。
東條やミハエルや瑞穂との会話のように、噛み合っていない。
「不殺とか弱い者を守るとか、上田さんもそれが大事だと思いますか?」
「と、当然だろう。
大学教授として弱者を守るのは、」
「でも、それは間違いなんです」
上田が理念を理解していないと見ると、最後まで聞く事すらせずに否定した。
「この世の理は弱肉強食……僕は強くて、あなた達は弱い。
だからあなた達はここで死ぬんです」
宗次郎がトントン、とつま先で地面を叩いて草鞋の位置を整える。
そして縮地で動こうとした時――
「と、当然だろう。
大学教授として弱者を守るのは、」
「でも、それは間違いなんです」
上田が理念を理解していないと見ると、最後まで聞く事すらせずに否定した。
「この世の理は弱肉強食……僕は強くて、あなた達は弱い。
だからあなた達はここで死ぬんです」
宗次郎がトントン、とつま先で地面を叩いて草鞋の位置を整える。
そして縮地で動こうとした時――
「い、今から私に出来る事は無いか!?」
ピタ、と宗次郎の動きが止まる。
「あ、『あの時』とはいつの事か知らないが……君はまだ、見たところ十五、六だろう……!?」
「あ、『あの時』とはいつの事か知らないが……君はまだ、見たところ十五、六だろう……!?」
――何を言っているんだろう。
――何ヲ言ッテイルンダロウ?
――何ヲ言ッテイルンダロウ?
上田は必死だった。
殺されるのは嫌だが、かと言って戦って勝てる相手には見えない。
「相談なら幾らでも乗ろう!」や「君もベストを尽くすんだ!」、「私を失う事は日本にとって重大な痛手となる!」と思い付く限りの言葉を並べる。
殺されるのは嫌だが、かと言って戦って勝てる相手には見えない。
「相談なら幾らでも乗ろう!」や「君もベストを尽くすんだ!」、「私を失う事は日本にとって重大な痛手となる!」と思い付く限りの言葉を並べる。
だが上田は知らなかったし、気付かなかった。
「まだ若い君が、何故好き好んで人を殺しているんだ!?」
――ホントハ殺シタリナンカ――
上田が苦し紛れに掛けた言葉の中には、確実に宗次郎の琴線に触れる物があった事を。
「まだ手遅れではないはずだ!」
――何を……何ヲ……
ここに至るまでに、宗次郎の精神は既に何度も限界を迎えていた。
この殺し合いのスタート地点、新一との戦闘中、D-1の分岐点と、ギリギリまで本心を誤魔化していた。
そして今、上田の言葉が最後の一押しとなり……
この殺し合いのスタート地点、新一との戦闘中、D-1の分岐点と、ギリギリまで本心を誤魔化していた。
そして今、上田の言葉が最後の一押しとなり……
――ソウダ…ボクハアノ雨ノ中デ笑ッテイタケド
――ホントハ泣イテイタンダ
――ホントハ泣イテイタンダ
「今からやり直す事は出来ないのか!!?」
崩壊した。
「う゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
頭を抱え咆哮する宗次郎の姿は上田にとっては突然の豹変であり、思わず腰を抜かす。
(ど、どうしたと言うのだ……私の大学教授としての威光に当てられてしまったのか……!?)
何はともあれ今の内に逃げよう、と思うが足が震えて動かない。
「か、かなみ君、立つのを手伝ってくれ……」
「え……」
「君だけでも逃げるんだ」とは言えず、かなみを背中から降ろして手を引いて貰う。
とても怪我をしている八歳の少女にさせる事ではないが、上田は生き残る事に必死だったのだ。
(ど、どうしたと言うのだ……私の大学教授としての威光に当てられてしまったのか……!?)
何はともあれ今の内に逃げよう、と思うが足が震えて動かない。
「か、かなみ君、立つのを手伝ってくれ……」
「え……」
「君だけでも逃げるんだ」とは言えず、かなみを背中から降ろして手を引いて貰う。
とても怪我をしている八歳の少女にさせる事ではないが、上田は生き残る事に必死だったのだ。
「邪魔です、上田さん……」
しかしその必死さも虚しく、宗次郎は強引に息を整えて抜刀する。
「……何が正しいかなんてもういい。
あなたが誰だろうと、今がいつだろうと……ここで殺す!!」
しかしその必死さも虚しく、宗次郎は強引に息を整えて抜刀する。
「……何が正しいかなんてもういい。
あなたが誰だろうと、今がいつだろうと……ここで殺す!!」
その鬼気迫る姿に上田が今度こそ気絶しそうになった時、地面が震えた。
「……? これは……何の音だ?」
北の方角から、地響きが聴こえた。
もう一度ズシンと、もう少し時間が長ければ地震と間違うような衝撃が届く。
かなみはその正体に気付いていた。
それは、最愛の家族が前へ前へと進む音。
北の方角から、地響きが聴こえた。
もう一度ズシンと、もう少し時間が長ければ地震と間違うような衝撃が届く。
かなみはその正体に気付いていた。
それは、最愛の家族が前へ前へと進む音。
「――ズくん……」
目の前で人が殺されても、シャドームーンと対峙しても、それでも流れなかった涙が。
溢れてしまう。
流れてしまう。
いつか会える、きっと会えると信じていた人が、すぐ傍まで来ている。
溢れてしまう。
流れてしまう。
いつか会える、きっと会えると信じていた人が、すぐ傍まで来ている。
「カズく―――――――――んッ!!!」
次の地響きがすぐ傍まで来た時、その男は宗次郎と上田達の間へ舞い降りた。
そして周囲の全てを無視し、家族の声にだけ応える。
そして周囲の全てを無視し、家族の声にだけ応える。
「あいよ」
落下点とその周辺のコンクリートを叩き割るという、舞い降りたと呼ぶには少々乱暴な着地だったが。
黄金のアルターで右腕を包んだ少年カズマは、確かにそこにいた。
黄金のアルターで右腕を包んだ少年カズマは、確かにそこにいた。
▽
桐山達と別れたカズマは一路南へ進んでいた。
手掛かりは何も無くなり、施設を適当に回ろうとしたのだ。
真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに進んでいた時聴こえた叫び。
聞き間違いかと疑いたくなる程度に遠い――しかし参加者がいる場所にはかなみに関する情報があるかも知れない。
この会場内で失った名前を思い出しながら、藁にも縋る思いで地面を叩いてカズマは跳躍する。
手掛かりは何も無くなり、施設を適当に回ろうとしたのだ。
真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに進んでいた時聴こえた叫び。
聞き間違いかと疑いたくなる程度に遠い――しかし参加者がいる場所にはかなみに関する情報があるかも知れない。
この会場内で失った名前を思い出しながら、藁にも縋る思いで地面を叩いてカズマは跳躍する。
そして二度、三度と地面を殴り南へ向かった時、カズマは辿り着く。
最愛の家族の姿が、そこにはあった。
最愛の家族の姿が、そこにはあった。
「元気してたか、かなみ……――!? 怪我してるじゃねぇか!
誰にやられた!? こいつか!? そいつか!?」
カズマは上田と宗次郎の顔を交互に見比べる。
「はは、僕じゃありませんよ」
突然の乱入者を宗次郎は丁寧に観察していた。
新たに舞い込んだ敵を前に表面上の冷静さを取り戻し、口調と態度も元に戻っている。
もっとも表情までは戻らず、目も口もまるで笑っていないのだが。
カズマ達が話している間に奇襲を掛けるような真似はせず、慣れない刀を適当に振って重さや長さを確かめる。
「わ、私は今までかなみ君を保護していたんだぞ!
怪しい者ではない!!」
カズマから見て上田は胡散臭さで構成されているような男だったが、かなみが少々曖昧ながらも頷いて見せたので信用する事にした。
誰にやられた!? こいつか!? そいつか!?」
カズマは上田と宗次郎の顔を交互に見比べる。
「はは、僕じゃありませんよ」
突然の乱入者を宗次郎は丁寧に観察していた。
新たに舞い込んだ敵を前に表面上の冷静さを取り戻し、口調と態度も元に戻っている。
もっとも表情までは戻らず、目も口もまるで笑っていないのだが。
カズマ達が話している間に奇襲を掛けるような真似はせず、慣れない刀を適当に振って重さや長さを確かめる。
「わ、私は今までかなみ君を保護していたんだぞ!
怪しい者ではない!!」
カズマから見て上田は胡散臭さで構成されているような男だったが、かなみが少々曖昧ながらも頷いて見せたので信用する事にした。
「私は大丈夫だよ、元気してたよ。
でも、寂しかった……会いたかったよ、カズくん……ッ!!」
折れた腕にも構わず、かなみはカズマにしがみ付く。
「言ったろ、どこにいたって駆けつけるってよ。
しかしまぁ、遅くなって悪ぃ。すまねぇ。許せ」
「そんなに言わなくていいよ……」
この殺し合いとは関係無く、カズマとかなみが出会うのは数カ月振りだった。
カズマは劉鳳との喧嘩が終わった後もロストグラウンドに介入しようとする本土の部隊と戦い続け、かなみの元に帰っていなかったからだ。
目に涙を浮かべながら、かなみはただカズマとの再会を喜ぶ。
でも、寂しかった……会いたかったよ、カズくん……ッ!!」
折れた腕にも構わず、かなみはカズマにしがみ付く。
「言ったろ、どこにいたって駆けつけるってよ。
しかしまぁ、遅くなって悪ぃ。すまねぇ。許せ」
「そんなに言わなくていいよ……」
この殺し合いとは関係無く、カズマとかなみが出会うのは数カ月振りだった。
カズマは劉鳳との喧嘩が終わった後もロストグラウンドに介入しようとする本土の部隊と戦い続け、かなみの元に帰っていなかったからだ。
目に涙を浮かべながら、かなみはただカズマとの再会を喜ぶ。
「泣くなよ、かなみ。
代わりに……悪ぃ奴は、俺がぶっ飛ばしてやっからよ」
カズマが宗次郎を睨むと、宗次郎はキョロキョロと辺りを見回す。
「……あ、もしかして僕の事ですか?」
「当たり前だ!
『我慢出来ねぇ』って顔に書いてるやつが、しらばっくれてんじゃねぇ!!」
「それもそうですね」
言って、宗次郎は剥き出しにしていた刀を鞘に納めた。
途端に空気は凍り、張り詰める。
代わりに……悪ぃ奴は、俺がぶっ飛ばしてやっからよ」
カズマが宗次郎を睨むと、宗次郎はキョロキョロと辺りを見回す。
「……あ、もしかして僕の事ですか?」
「当たり前だ!
『我慢出来ねぇ』って顔に書いてるやつが、しらばっくれてんじゃねぇ!!」
「それもそうですね」
言って、宗次郎は剥き出しにしていた刀を鞘に納めた。
途端に空気は凍り、張り詰める。
宗次郎が唯一自分で名付けた技、「瞬天殺」。
それは縮地の突進から抜刀術へ繋げる連続技であり、刀を納めた状態から発動する。
つまり宗次郎は今、カズマがこの技に見合う相手だと認め、真の意味で臨戦態勢に入ったのだ。
それは縮地の突進から抜刀術へ繋げる連続技であり、刀を納めた状態から発動する。
つまり宗次郎は今、カズマがこの技に見合う相手だと認め、真の意味で臨戦態勢に入ったのだ。
「かなみ、警察署に行ってろ。
右京っておっさんと……他にも何人か集まるみてぇだからよ」
カズマは宗次郎からは目を離さずに、自分から離れるようかなみに手で合図する。
他に誰がいたか思い出そうとしたが、既にカズマに覚え切れる人数を越えていたので思い出せなかった。
「右京!? では、亀山君が言っていた通りか!」
かなみに向けた言葉に対して返答した上田を睨み、カズマは忠告する。
「あんたはちゃんとかなみを守れよ。
……かなみに何かあってみろ、俺のこの自慢の右手で――」
握り締めた金色の右手を電信柱に打ち当てるとその箇所は粉砕され、電線を切断しながら音を立てて倒れていった。
「ぶっ飛ばしてやる!」
「は、ははは……あ、安心したまえ。
この会場内に私程頼りになる人間はいまい」
精一杯の虚勢を張りながら、上田は内心冷や汗で震えていた。
(いったい最近の子供はどうなっているんだ……!)
この会場で出会った少年少女達を思い出しながら、上田は泣きそうになる。
聞いていた以上に暴力的で荒々しいこの少年が大人しいかなみの家族とは、とても思えなかった。
右京っておっさんと……他にも何人か集まるみてぇだからよ」
カズマは宗次郎からは目を離さずに、自分から離れるようかなみに手で合図する。
他に誰がいたか思い出そうとしたが、既にカズマに覚え切れる人数を越えていたので思い出せなかった。
「右京!? では、亀山君が言っていた通りか!」
かなみに向けた言葉に対して返答した上田を睨み、カズマは忠告する。
「あんたはちゃんとかなみを守れよ。
……かなみに何かあってみろ、俺のこの自慢の右手で――」
握り締めた金色の右手を電信柱に打ち当てるとその箇所は粉砕され、電線を切断しながら音を立てて倒れていった。
「ぶっ飛ばしてやる!」
「は、ははは……あ、安心したまえ。
この会場内に私程頼りになる人間はいまい」
精一杯の虚勢を張りながら、上田は内心冷や汗で震えていた。
(いったい最近の子供はどうなっているんだ……!)
この会場で出会った少年少女達を思い出しながら、上田は泣きそうになる。
聞いていた以上に暴力的で荒々しいこの少年が大人しいかなみの家族とは、とても思えなかった。
「では、ここは任せたぞカズマ君!」
「カズくん、絶対来てね……待ってるから……!!」
かなみを背負い、上田は一目散に逃げて行く。
疲労して腰を抜かしていたはずだったが、危険から逃れられるとなれば上田は幾らでも能力を発揮出来るようだった。
「それから北岡ってのに気を付けな!
もう何人も殺してるらしいからよ!」
走り去る上田達の背に向かって、カズマが忠告する。
(なんと……では私の仮説は正しかったのだな……!)
瑞穂が殺害した少年はやはり、北岡という人物に襲われて錯乱した被害者だったのだ。
声が届かない距離になってしまったので、上田は声には出さず心中でカズマに感謝する。
(ありがとうカズマ君、危機を救ってくれただけでなく私の説に確信をもたらしてくれるとは!)
「カズくん、絶対来てね……待ってるから……!!」
かなみを背負い、上田は一目散に逃げて行く。
疲労して腰を抜かしていたはずだったが、危険から逃れられるとなれば上田は幾らでも能力を発揮出来るようだった。
「それから北岡ってのに気を付けな!
もう何人も殺してるらしいからよ!」
走り去る上田達の背に向かって、カズマが忠告する。
(なんと……では私の仮説は正しかったのだな……!)
瑞穂が殺害した少年はやはり、北岡という人物に襲われて錯乱した被害者だったのだ。
声が届かない距離になってしまったので、上田は声には出さず心中でカズマに感謝する。
(ありがとうカズマ君、危機を救ってくれただけでなく私の説に確信をもたらしてくれるとは!)
それが悲しい誤解とは知らぬまま、上田は走る。
▽
「こいつを殺したのはあんたかい?」
カズマが瑞穂を指すと、宗次郎は「そうですよ」と首肯した。
「へっ、そうかい」
気に入らねぇな、と吐き捨てる。
カズマの脳裏には自然と劉鳳や橘の姿が浮かんだ。
カズマに真っ当な道徳観や正義感は無かったが、人を殺して平然としている目の前の少年に確かなイラつきを感じていた。
そのカズマの苛立ちに気付いた宗次郎は尋ねる。
カズマが瑞穂を指すと、宗次郎は「そうですよ」と首肯した。
「へっ、そうかい」
気に入らねぇな、と吐き捨てる。
カズマの脳裏には自然と劉鳳や橘の姿が浮かんだ。
カズマに真っ当な道徳観や正義感は無かったが、人を殺して平然としている目の前の少年に確かなイラつきを感じていた。
そのカズマの苛立ちに気付いた宗次郎は尋ねる。
「カズマさん……でしたっけ。
さっきの女の子、妹さんですか?」
「……何だっていいだろ」
「他人ってそんなに大事ですか?」
「難しいことは分かんねぇが、かなみは俺が守る。
そんだけだ」
今の宗次郎には、何が正しいのか、何が間違っているのか分からない。
ただ『あの時』助けて貰えなかった事、家族と呼べる人間がいなかった事は事実。
心は乱れ切っている。
まともに頭が回っていない事も自覚している。
それでも宗次郎は確認せずにはいられなかった。
さっきの女の子、妹さんですか?」
「……何だっていいだろ」
「他人ってそんなに大事ですか?」
「難しいことは分かんねぇが、かなみは俺が守る。
そんだけだ」
今の宗次郎には、何が正しいのか、何が間違っているのか分からない。
ただ『あの時』助けて貰えなかった事、家族と呼べる人間がいなかった事は事実。
心は乱れ切っている。
まともに頭が回っていない事も自覚している。
それでも宗次郎は確認せずにはいられなかった。
「それにしてもスゴいですね、安慈さんより強そうだ。
甘い考えなのにそんなに強いなんて、ちょっとずるいや」
「あぁ? 何が甘いってんだ?」
よく知りもしない相手に勝手に決め付けられるのは、カズマが最も嫌う事のうちの一つだ。
眉根を寄せて不愉快そうにするカズマの質問に対し、宗次郎は更なる質問で返す。
甘い考えなのにそんなに強いなんて、ちょっとずるいや」
「あぁ? 何が甘いってんだ?」
よく知りもしない相手に勝手に決め付けられるのは、カズマが最も嫌う事のうちの一つだ。
眉根を寄せて不愉快そうにするカズマの質問に対し、宗次郎は更なる質問で返す。
「弱肉強食ってどう思います?」
「……難しいことは分かんねぇっつってんだろ」
「強い者は生き、弱い者は死ぬ……自然の摂理の事です。
正しいと思いますか?」
「強い者は生き、弱い者は死ぬ……自然の摂理の事です。
正しいと思いますか?」
宗次郎は他人に応えを求める。
今まで通り、自分で考える事を放棄しながら。
それが何よりも『楽』だから。
今まで通り、自分で考える事を放棄しながら。
それが何よりも『楽』だから。
「あんた、何言ってんだ? そんなもん――」
(ああ、やっぱり。
この人も緋村さんや泉新一と同じか――)
頭痛がする、頭がおかしくなる。
宗次郎は鞘に納めたままの刀を左手に、腰を低くして右足を前に出した。
右手は柄に触れずにやや下げた「瞬天殺」の構え。
カズマの返答と同時に、即座にカズマを絶命させる為の構えだ。
この人も緋村さんや泉新一と同じか――)
頭痛がする、頭がおかしくなる。
宗次郎は鞘に納めたままの刀を左手に、腰を低くして右足を前に出した。
右手は柄に触れずにやや下げた「瞬天殺」の構え。
カズマの返答と同時に、即座にカズマを絶命させる為の構えだ。
「当たり前じゃねぇか」
宗次郎は目を見張り、意図せず抜刀の構えが崩れた。
想像していなかった答えに。
それをわざわざ口にする事すら馬鹿馬鹿しいとでも言うような、カズマの余裕の笑みに。
想像していなかった答えに。
それをわざわざ口にする事すら馬鹿馬鹿しいとでも言うような、カズマの余裕の笑みに。
「生きるか死ぬかの瀬戸際にいるなら、生きる方を取る。
ウダウダ悩んでる暇なんてねぇしグチってる時間が惜しい。
痛ぇのだって怖いのだってその辺に転がってやがるんだ。
だから生きるために戦ってやる」
ウダウダ悩んでる暇なんてねぇしグチってる時間が惜しい。
痛ぇのだって怖いのだってその辺に転がってやがるんだ。
だから生きるために戦ってやる」
その生き方は、誰に教え込まれたのでも刷り込まれたのでも無い。
カズマが自分で選び、本能のままに奔放に、怯まずに、臆さずに、ひたすら勝ち得て来た道。
カズマが自分で選び、本能のままに奔放に、怯まずに、臆さずに、ひたすら勝ち得て来た道。
「この光輝く右腕で、どんなもんでも手に入れる。
食い物も。明日も。生も。
できなくてもやる。なくても見つけだす。
弱いままじゃ何も手に入らねぇ。
生きるって事はそういうもんだろ」
食い物も。明日も。生も。
できなくてもやる。なくても見つけだす。
弱いままじゃ何も手に入らねぇ。
生きるって事はそういうもんだろ」
宗次郎が信じて来た節理とは本当に似通っており――それでいてまるで非なる信念。
それは、清々しい程に真っ直ぐだった。
それは、清々しい程に真っ直ぐだった。
「はは……あはははははははははははははははははははははははは!!!」
一瞬言葉を失った宗次郎が笑い出し、カズマは怪訝な顔でそれを眺める。
「何かおかしなとこでもあったか?」
「いえ、おかしくなんてありませんよ」
クツクツと笑いを堪えながらカズマに応える。
宗次郎自身も何が可笑しくて笑っているのかは分からなかった。
上田との会話で自分の感情が制御出来なくなっているのかも知れない。
「何かおかしなとこでもあったか?」
「いえ、おかしくなんてありませんよ」
クツクツと笑いを堪えながらカズマに応える。
宗次郎自身も何が可笑しくて笑っているのかは分からなかった。
上田との会話で自分の感情が制御出来なくなっているのかも知れない。
だがそれだけではなく、何の迷いも無く突き進むカズマの姿を見て――宗次郎の中で渦巻いていた何かが吹っ切れたのは確かだった。
「でも、何であの子を守るんです?
弱いのに」
本能に従って生きるカズマにまともな返答は期待しないまま、宗次郎は疑問を口にする。
「守りてぇもんを守って何が悪ぃんだ、ごちゃごちゃ理屈並べやがって。
あんた、喧嘩がしてぇんだろ?
だったら――」
その期待の通り論理的とは言えない返事をしたカズマは拳を握り、宗次郎に向けて突き出した。
弱いのに」
本能に従って生きるカズマにまともな返答は期待しないまま、宗次郎は疑問を口にする。
「守りてぇもんを守って何が悪ぃんだ、ごちゃごちゃ理屈並べやがって。
あんた、喧嘩がしてぇんだろ?
だったら――」
その期待の通り論理的とは言えない返事をしたカズマは拳を握り、宗次郎に向けて突き出した。
「とっとと始めりゃいいじゃねぇか!」
「あはは、乱暴な人だなぁ」
地面を蹴ったカズマを、柔和な笑みを浮かべた宗次郎は剣を鞘に納めたまま迎え打つ。
『楽』以外の感情が欠落しているからではなく、『楽』しいから笑う。
地面を蹴ったカズマを、柔和な笑みを浮かべた宗次郎は剣を鞘に納めたまま迎え打つ。
『楽』以外の感情が欠落しているからではなく、『楽』しいから笑う。
――そうか、この人は――
今の宗次郎は、何が正しいのかという問いがどうでも良くなっていた。
それは先程までのような、自棄から来る考えではない。
「戦った後で考えればいいや」と、宗次郎らしく『楽』に考えた結果だった。
それは先程までのような、自棄から来る考えではない。
「戦った後で考えればいいや」と、宗次郎らしく『楽』に考えた結果だった。
互いが互いの間合いに入った時、倭刀は抜刀される。
――志々雄さんに似てるんだ。
“天剣”の宗次郎と“シェルブリット”のカズマ。
それぞれの剣と拳が、交差した。
それぞれの剣と拳が、交差した。
▽
夢の中のあの人の気持ちは、なんの淀みもなく、雲一つない青空のように澄み渡っていました。
悲しい別れも、辛い気持ちも背負ってる。
でも、やるべきことを見つけた今は。
今は、迷う必要などどこにもないと、そうあの人は、強く感じていたのです。
悲しい別れも、辛い気持ちも背負ってる。
でも、やるべきことを見つけた今は。
今は、迷う必要などどこにもないと、そうあの人は、強く感じていたのです。
そして、私は。
あの人の強さに、どうしようもないくらい惹かれてしまうのです。
どうしようもないくらいに……。
あの人の強さに、どうしようもないくらい惹かれてしまうのです。
どうしようもないくらいに……。
【一日目午前/F-6 市街地北部】
【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]シェルブリット第一形態、暗視ゴーグル
[支給品]支給品一式、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ
[状態]健康
[思考・行動]
1:かなみを守る為に宗次郎を倒す。
2:『他』は……後で考える。
[備考]
※Lのメモには右京、みなみの知り合いの名前と簡単な特徴が書いてあります。夜神月について記述された部分は破られました。
※蒼星石とはほとんど情報を交換していません。
【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]シェルブリット第一形態、暗視ゴーグル
[支給品]支給品一式、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ
[状態]健康
[思考・行動]
1:かなみを守る為に宗次郎を倒す。
2:『他』は……後で考える。
[備考]
※Lのメモには右京、みなみの知り合いの名前と簡単な特徴が書いてあります。夜神月について記述された部分は破られました。
※蒼星石とはほとんど情報を交換していません。
【瀬田宗次郎@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(漫画)】
[装備]倭刀@るろうに剣心
[所持品]ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ、基本支給品
[状態]全身打撲、疲労(中)
[思考・行動]
1:獲物と得物を求めて徘徊。
2:弱肉強食に乗っ取り参加者を殺す。志々雄に関しては保留。
3:カズマを殺す。
[装備]倭刀@るろうに剣心
[所持品]ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ、基本支給品
[状態]全身打撲、疲労(中)
[思考・行動]
1:獲物と得物を求めて徘徊。
2:弱肉強食に乗っ取り参加者を殺す。志々雄に関しては保留。
3:カズマを殺す。
【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲 、疲労(大)
[思考・行動]
1:面倒事はカズマに任せて警察署を目指す。
2:竜宮レナと北岡秀一と瀬田宗次郎を警戒。
3:杉下右京に頼る。
4:何か忘れているような……?
※龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。カードデッキが殺し合いの道具であったことについても知りましたが、構造などに興味はあるかもしれません。
※東條が一度死んだことを信用していません。
※デスノートの中身はまだ確認していません。
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲 、疲労(大)
[思考・行動]
1:面倒事はカズマに任せて警察署を目指す。
2:竜宮レナと北岡秀一と瀬田宗次郎を警戒。
3:杉下右京に頼る。
4:何か忘れているような……?
※龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。カードデッキが殺し合いの道具であったことについても知りましたが、構造などに興味はあるかもしれません。
※東條が一度死んだことを信用していません。
※デスノートの中身はまだ確認していません。
【由詑かなみ@スクライド(アニメ)】
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]左腕骨折、頭部に損傷、全身打撲(処置済み)
[思考・行動]
1:警察署でカズマを待つ。
2:アルターが弱まっている事、知らない人物がいる事に疑問。
※彼女のアルター能力(ハート・トゥ・ハーツ)は制限されており
相手が強く思っている事しか読む事が出来ず、大まかにしか把握できません。
又、相手に自分の思考を伝える事もできません。
※本編終了後のため、自分のアルター能力を理解しています。
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]左腕骨折、頭部に損傷、全身打撲(処置済み)
[思考・行動]
1:警察署でカズマを待つ。
2:アルターが弱まっている事、知らない人物がいる事に疑問。
※彼女のアルター能力(ハート・トゥ・ハーツ)は制限されており
相手が強く思っている事しか読む事が出来ず、大まかにしか把握できません。
又、相手に自分の思考を伝える事もできません。
※本編終了後のため、自分のアルター能力を理解しています。
※上田、瑞穂、かなみのデイパック、黄金の剣(折れている)@ゼロの使い魔は、瑞穂の死体付近に放置されています。
【倭刀@るろうに剣心】
大陸製日本刀。
刀身は江戸期以降主流となった打刀ではなく、戦国期に主に使われていた太刀である。
大陸製日本刀。
刀身は江戸期以降主流となった打刀ではなく、戦国期に主に使われていた太刀である。
時系列順で読む
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081:光を求めて影は | カズマ | 117:本日は晴天なり |
090:Innocence | 瀬田宗次郎 | |
093:上田次郎は二人の狂人を前に気絶する | 上田次郎 | 111:拗れる偶然 |
由詑かなみ | ||
稲田瑞穂 | GAME OVER |