不思議な魔界のトリッパー

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不思議な魔界のトリッパー  ◆af1ZWrRY4.



 彼――狭間偉出夫の胸には穴が空いている。
 ヒノカグヅチで貫かれた傷跡は塞がっているが、心にぽっかりと穴が空いている。
 人よりも優れていた為に孤独であり、同級生からはイジメにあい、教師からは冷たく扱われた。
 誰も彼の穴を埋める事はなかった。穴を広げる事はあっても、埋める事はない。
 ただ一人、否、二人だけが彼の悲しみを知っている。
 同級生の少年と彼の妹、レイコ。
 精神世界に閉じ籠り泣き叫ぶ彼は魔界を支配した魔神皇の威厳などなく、ただの子供でしかなかった。
 最終決戦に破れた彼は、そのまま消える筈だった。
 しかし運命の悪戯か、悪魔のゲーム、バトルロワイアルの参加者に選ばれ、彼は魔界の深淵より現界へと呼び出された。
 彼の心の穴は未だ埋まっていない。

◆◆◆

「―――今から、皆に殺し合いをしてもらいたいんだ」

 白髪の少年の言葉は彼の耳を流れるだけだ。
 破裂音、爆発音と共に弾けた少女の遺体、流れる血、響く悲鳴。彼の澱んだ瞳にはただ映像として映るだけだ。
 何もかもが現実感を伴わず、彼の興味を引かない。

 ――下らない。
 あまりにも退屈で、滑稽で、意味がない光景に、彼は呆れた。
 白髪の少年――V.V.のやっている事にある意味、同族嫌悪感に似た不快感を抱く。
 彼がやった事に比べれると徹底はしているが、絶対的な恐怖が足りていない。
 V.V.――殺すという行為。殺し合いを共用すること。
 彼――力を誇示する事。支配を強要する事。
 さほど変わりはないが、確実に違っている。
 彼は無意識の内下にらない物を排除しようとした。
 彼にはそれだけの力がある。それだけの力が備わっている。

「ハマオ――」

 大天使ミカエルでさえ、竜王ヤマタノオロチですら一撃で屠る魔法を唱えようとした。
 その時、白濁とした彼の視界の端に現実感を帯びた人物が見えた。
 輕子坂高校の生徒。彼の同級生。魔界にて彼を打ち倒した少年。

「まさか、な」

 不完全な詠唱の為か、原因はわからないが力が失われた為か。彼の身体を虚脱感が駆け巡る。
 しかし、彼の視界は色彩を帯び始める。
 憎いと言えば憎い。しかし、憎くないと言えば憎くない人物の存在に、彼の心の穴は痛みを伴って動き始める。
 穴が埋まるかもしれないし、広がるかも知れない。

 ――ドクン、ドクン。

 心臓が早く激しく鼓動を打つ。
 ざわめく様に血潮が身体を流れる。
 自分の顔に手を当てると、笑っている事に気付いた。
 目尻を下げ、唇が歪んでいる。

 込み上げてくる笑いを止められなくなった時、彼は白いもやの様な闇に包まれた。

◆◆◆

 気付くと彼は見知らぬ場所にいた。
 知らぬ間に手にバックパックを持ち、ただ、ただ立っていた。

「空間転移、か」

 V.V.の力によるものだろうと結論付けると、自分と同等か、それ以上の力の持ち主であると見当付ける。
 つまり、倒さねばならぬ敵であると認識をした。

 次いで自分の持ち物、支給品を確認する。
 元からの所持物は無し。支給品は当座の食料と水、照明器具、参加者名簿、地図、コンパス。
 そして、白木の柄、白木の鞘の一振りの太刀。
 ――抜けば珠散る様な氷の刃。
 使い古された賛辞が良く似合う、寒気がする程の冷たい輝きを帯びた刃は、相応の業物であると無言ではあるが雄弁に語っている。
 地図と照らし合わせ地形から現在地を照らし合わせると、さほど離れていない所に研究所がある事が分かった。

「学校が無くて良かった――」

 忌まわしき記憶がある学校という建造物は彼を不快にさせる。
 イジメられ、馬鹿にされ、無視されたトラウマは彼の心を握りしめて話すことはない。
 もしあったのならば、彼は学校を魔界へと貶めてしまうだろう。
 それほど迄に不快で忌み嫌う物が無い事彼は素直に安堵の溜め息を尽く。

「――まずは奴を探すか」

 荷物をバックパックにしまい、太刀をベルトに挟み、あてのない道のりを歩き始める。
 親愛なる宿敵を求めさ迷い歩く。その一歩一歩は力強い。

 特注の白い制服、病的に白い肌は月夜の闇に妖しく浮かび上がる。

 彼は求める。穴を埋める存在を。

【一日目深夜/A-10 研究所付近】
【狭間偉出夫@真・女神転生if…】
[装備]斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(確認済み)0~2
[状態]軽度の疲労
[思考・行動]
1:中心部に向かって進む
2:主人公男を探す

※参加時期はレイコ編ラストバトル中
※人間形態


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GAME START 狭間偉出夫 056:仇敵



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