真・女神転生if...{break;} ◆GvGzqHuQe.
黄金の輝きを放ち続ける海。
無限に広がる色とりどりの花畑。
そして、どこかへ突き進んでいく浮遊感。
無限に広がる色とりどりの花畑。
そして、どこかへ突き進んでいく浮遊感。
これを味わうのは、初めてではない。
むしろ何度も何度も味わっていて、久方ぶりの光景に懐かしさすら覚えるほどである。
ほんの少し前まで全く信用していなかった、死後の世界に足を踏み入れる感覚。
無限の広がりを見せるこの空間に、突如として現れるのは一人の老人の姿である。
むしろ何度も何度も味わっていて、久方ぶりの光景に懐かしさすら覚えるほどである。
ほんの少し前まで全く信用していなかった、死後の世界に足を踏み入れる感覚。
無限の広がりを見せるこの空間に、突如として現れるのは一人の老人の姿である。
もちろん、その老人の姿も彼は覚えている。
片手に杖を持った老人の姿をし、黄泉の国の門の前に立ち続ける存在、カロン。
「……今回は、突っぱねてくれねえのか」
ポツリと、独り言をこぼす。
いつもならば、ここで突き返されるはずなのだ。
そのときに吐かれる台詞は決まっていた。
「お前はまだ次なる生を受ける魂ではない」
その一言が、今回はないということは。
「ま、だろうな……」
この最悪な殺し合いに巻き込まれ、こうして死に絶えることが自分の運命だったということ。
今までと違い、だんまりを決め込んでいる老人がその証である。
受け入れるべき、いや受け入れなくてはならない運命なのだ。
「……まだ悔いがあるようだな」
「悪ぃかよ、まだ神戸牛のシャトーブリアンだって食ってねーんだぞ」
「そういうことではない」
わざとおどけてみせたが、老人の目つきは依然として変わらないままである。
「チッ、お見通しかよ……」
そう、そんなことではない。
「そーだよ、気になってしょうがねえんだよ」
人間が死ぬとき、最後に失うのは聴覚だとされている。
逆に言えば、死んだ後少しだけは聴覚が残っているという事。
その残されたわずかな時間に、彼は一つの声を捕らえていた。
回復魔法の名を叫び続ける、宿敵の声を。
互いに憎みあっていたはずの存在が、なぜ相手の傷を癒すような行動を取ったのか?
それが、彼の心に引っかかり続けていたのだ。
気にしたところで何がどう変わる、というわけでもないのだが。
「転生を迎えるべき魂を、現世に送り返す事は出来ぬ」
表情一つ動かさずにそう告げるカロンに、思わず落胆の溜息をこぼす。
なぜ、それが残念だと感じるのか。しばらくは、分からなかった。
ゆっくりと、ゆっくりと思考の海へと入り込んでいく。
疑問という毛玉から、真実の赤い糸を探すように。
片手に杖を持った老人の姿をし、黄泉の国の門の前に立ち続ける存在、カロン。
「……今回は、突っぱねてくれねえのか」
ポツリと、独り言をこぼす。
いつもならば、ここで突き返されるはずなのだ。
そのときに吐かれる台詞は決まっていた。
「お前はまだ次なる生を受ける魂ではない」
その一言が、今回はないということは。
「ま、だろうな……」
この最悪な殺し合いに巻き込まれ、こうして死に絶えることが自分の運命だったということ。
今までと違い、だんまりを決め込んでいる老人がその証である。
受け入れるべき、いや受け入れなくてはならない運命なのだ。
「……まだ悔いがあるようだな」
「悪ぃかよ、まだ神戸牛のシャトーブリアンだって食ってねーんだぞ」
「そういうことではない」
わざとおどけてみせたが、老人の目つきは依然として変わらないままである。
「チッ、お見通しかよ……」
そう、そんなことではない。
「そーだよ、気になってしょうがねえんだよ」
人間が死ぬとき、最後に失うのは聴覚だとされている。
逆に言えば、死んだ後少しだけは聴覚が残っているという事。
その残されたわずかな時間に、彼は一つの声を捕らえていた。
回復魔法の名を叫び続ける、宿敵の声を。
互いに憎みあっていたはずの存在が、なぜ相手の傷を癒すような行動を取ったのか?
それが、彼の心に引っかかり続けていたのだ。
気にしたところで何がどう変わる、というわけでもないのだが。
「転生を迎えるべき魂を、現世に送り返す事は出来ぬ」
表情一つ動かさずにそう告げるカロンに、思わず落胆の溜息をこぼす。
なぜ、それが残念だと感じるのか。しばらくは、分からなかった。
ゆっくりと、ゆっくりと思考の海へと入り込んでいく。
疑問という毛玉から、真実の赤い糸を探すように。
泣いた。
ガラス玉のような大粒の涙を流し、頬が引き裂けんばかりの力を両手に込め、赤子のような声で叫びながら。
泣いた。
思考能力も行動能力も全て投げ捨て、耳に入ってこようとする放送の声を弾きとばすように。
泣いた。
いつ、どこで、誰が襲ってくるかわからないこの状況下で。
泣いて、泣いて、泣いて。
とどまることを知らない感情が溢れだし、狭間偉出夫という一人の人間を支配していく。
本来あるはずの「憎しみ」や「解放感」ではなく、「悲しみ」と「閉塞感」が彼を締め付ける。
「違う、違う、違う、違う、違う!」
その現実を、狭間は否定し続ける。
「私は、貴様を殺したいと思っていた」
「悲しみ」など抱くわけがない、目の前で息絶えているのは憎むべき相手なのだから。
「そして、貴様は死んだ。貴様が弱く、この場で生き残れなかった。簡単な話だ」
必ず殺すと誓った人間が死んでいるのだから、むしろ喜びすら見せるべきである。
「だが何だ! さっきから私を支配するのは! 私はこんなもの知らぬ!
蒼嶋、貴様が憎い、憎い、憎い! そのはずなのに、なぜ私は喜べないのだ!」
涙は止まらない。
憎むどころかその逆の感情を抱いてしまっている自分を繰り返し否定し続ける。
「答えろ、蒼嶋ァ! この魔神皇の時間をどこまで奪うつもりだッ!
答えろ、答えろ、答えろォォォォ!!」
死人に口無し、当然返事など返ってくるはずもない。
わかっているはずなのに、彼は遺体を繰り返し叩き続ける。
それがフェイクであることを、祈り続けるように。
「何故だあ、何故なんだあ、何故死んだァアアアア!!」
声が掠れそうになっても、彼は泣き叫ぶことをやめない。
いや、やめることなど出来はしなかった。
抗うことの出来ない何かに従わされるように、自分の意志とは全く違う行動を取り続けている。
「うあ、あ……あ、ああ、あああああああああ!!!!」
魔神皇の叫びが空に轟く。
ガラス玉のような大粒の涙を流し、頬が引き裂けんばかりの力を両手に込め、赤子のような声で叫びながら。
泣いた。
思考能力も行動能力も全て投げ捨て、耳に入ってこようとする放送の声を弾きとばすように。
泣いた。
いつ、どこで、誰が襲ってくるかわからないこの状況下で。
泣いて、泣いて、泣いて。
とどまることを知らない感情が溢れだし、狭間偉出夫という一人の人間を支配していく。
本来あるはずの「憎しみ」や「解放感」ではなく、「悲しみ」と「閉塞感」が彼を締め付ける。
「違う、違う、違う、違う、違う!」
その現実を、狭間は否定し続ける。
「私は、貴様を殺したいと思っていた」
「悲しみ」など抱くわけがない、目の前で息絶えているのは憎むべき相手なのだから。
「そして、貴様は死んだ。貴様が弱く、この場で生き残れなかった。簡単な話だ」
必ず殺すと誓った人間が死んでいるのだから、むしろ喜びすら見せるべきである。
「だが何だ! さっきから私を支配するのは! 私はこんなもの知らぬ!
蒼嶋、貴様が憎い、憎い、憎い! そのはずなのに、なぜ私は喜べないのだ!」
涙は止まらない。
憎むどころかその逆の感情を抱いてしまっている自分を繰り返し否定し続ける。
「答えろ、蒼嶋ァ! この魔神皇の時間をどこまで奪うつもりだッ!
答えろ、答えろ、答えろォォォォ!!」
死人に口無し、当然返事など返ってくるはずもない。
わかっているはずなのに、彼は遺体を繰り返し叩き続ける。
それがフェイクであることを、祈り続けるように。
「何故だあ、何故なんだあ、何故死んだァアアアア!!」
声が掠れそうになっても、彼は泣き叫ぶことをやめない。
いや、やめることなど出来はしなかった。
抗うことの出来ない何かに従わされるように、自分の意志とは全く違う行動を取り続けている。
「うあ、あ……あ、ああ、あああああああああ!!!!」
魔神皇の叫びが空に轟く。
踊る。
悶える。
振り払う。
地面を叩く。
髪を掻き毟る。
頭を打ちつける。
虚空を蹴りあげる。
目に映るモノを殴る。
悶える。
振り払う。
地面を叩く。
髪を掻き毟る。
頭を打ちつける。
虚空を蹴りあげる。
目に映るモノを殴る。
大暴れと呼ぶにふさわしい、破壊を生まない数々の破壊行動。
悲痛な叫びと、止めどなく流れる涙と共に。
螺旋が、巻き起こる。
悲痛な叫びと、止めどなく流れる涙と共に。
螺旋が、巻き起こる。
空虚。
それが彼の胸に残り続ける一つの感覚。
憎むべき相手がいた、この場で必ず殺すと思った。
ようやく出会った相手は、物言わぬ屍だった。
手段は違うが目的は達成した、そのはずなのに。
彼の気持ちは「終わった」ことにさせてくれない。
その場で高笑いを決め込み、悦に浸りたいほど喜ばしい出来事なのに。
なぜか、素直に喜べない。
挙げ句の果てには効きもしない回復魔法を唱えるなど、まるで「死んでほしくなかった」と言わんばかりの行動を繰り返している。
それが彼の胸に残り続ける一つの感覚。
憎むべき相手がいた、この場で必ず殺すと思った。
ようやく出会った相手は、物言わぬ屍だった。
手段は違うが目的は達成した、そのはずなのに。
彼の気持ちは「終わった」ことにさせてくれない。
その場で高笑いを決め込み、悦に浸りたいほど喜ばしい出来事なのに。
なぜか、素直に喜べない。
挙げ句の果てには効きもしない回復魔法を唱えるなど、まるで「死んでほしくなかった」と言わんばかりの行動を繰り返している。
自己矛盾。
思考と行動が等号で結ばれていない。
受け入れ拒否。
起こした行動が自らの行動であると言うことを認めたくはない。
「違う。私は、私は!」
憎むべき相手を、憎めないどころか救いたかったとすら思っている自分の心を否定する。
そうしていつの間にか迷い込んでいた暗闇の中で、ひたすら自己と闘い続けていた。
そんな彼の元に、一つの声が届く。
思考と行動が等号で結ばれていない。
受け入れ拒否。
起こした行動が自らの行動であると言うことを認めたくはない。
「違う。私は、私は!」
憎むべき相手を、憎めないどころか救いたかったとすら思っている自分の心を否定する。
そうしていつの間にか迷い込んでいた暗闇の中で、ひたすら自己と闘い続けていた。
そんな彼の元に、一つの声が届く。
「いつまでやってんだよ」
それは、ずっと追い続けていた声。
聞き間違えることもない、聞き間違えるはずがない。
「蒼……嶋」
それは、ずっと追い求めていた姿。
見間違えることもない、見間違えるはずがない。
この世でたった一人の宿敵、蒼嶋駿朔。
「蒼嶋ァァァァァァアアアア!!!」
涙が残るその顔に笑みと怒りを浮かべ、握り拳を作って殴りかかる。
全身のバネを生かした渾身の右ストレートが、現れた影の左頬へと突き刺さる。
その一発を、影は。
「……効かねえなあ」
笑って受け止めていた。
その様子に怒りを示し、もう一本の腕を伸ばす。
だが、突き進む拳へと変化する前に、その手は押さえられる。
「全く、さっきまでメソメソ泣いてたのはどこのどいつだったんだろうな?」
「うるさいっ! 黙れっ!」
顔に怒りを浮かべ、狭間は蒼嶋に止められながらも殴りかかろうとする。
蒼嶋は苦笑いしながら、まるで子供をあやすように狭間を宥めようとする。
「そんなにぶっ殺したいと思ってるんだったら、俺が死んで満足だろうに。
どうしてさっきまでビースカ泣いてたんだよ?」
「な、泣いてなどいない!」
「ほぉ~、そんなにおめめをぷっくり腫らしてる人間の言う台詞じゃ無いと思うけど~?」
顔を真っ赤にしながら反論していた狭間が、急に押し黙っていく。
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべつつ、蒼嶋は狭間へと問いかける。
「なあ狭間、お前は何を守ろうとしてるんだ?」
質問の意味が理解できない、といった表情をしている狭間を見つめながら、蒼嶋は問いかけを続けていく。
「自分の本当の気持ちを偽って、否定して、受け入れる事を拒み続けて、それで何が生まれるんだ?」
「拒んでなどいない! 私の気持ちは私の気持ちのままだ!」
「じゃ、なんでブチ殺したいほど憎んでる相手の傷を治そうとしたりしたのさ」
反論しようにもうまく言葉に出来ず、狭間は唸るばかりである。
意地悪そうな顔をしながらも、蒼嶋の問いは狭間の芯へ迫ろうとしている。
「本当の気持ちを否定してまで、お前が演じているモノは何なんだ?」
狭間は答えない、答えられない。
ただ、ただ、狼が何かを警戒するように喉を鳴らすだけである。
「ったくよぉ~、始めっからそうだったよなぁ~」
蒼嶋が顔にペチりと手を当てながら、呆れ返るような態度を取る。
そして溜息を一つ零してから、きっぱりと言い放っていく。
それは、ずっと追い続けていた声。
聞き間違えることもない、聞き間違えるはずがない。
「蒼……嶋」
それは、ずっと追い求めていた姿。
見間違えることもない、見間違えるはずがない。
この世でたった一人の宿敵、蒼嶋駿朔。
「蒼嶋ァァァァァァアアアア!!!」
涙が残るその顔に笑みと怒りを浮かべ、握り拳を作って殴りかかる。
全身のバネを生かした渾身の右ストレートが、現れた影の左頬へと突き刺さる。
その一発を、影は。
「……効かねえなあ」
笑って受け止めていた。
その様子に怒りを示し、もう一本の腕を伸ばす。
だが、突き進む拳へと変化する前に、その手は押さえられる。
「全く、さっきまでメソメソ泣いてたのはどこのどいつだったんだろうな?」
「うるさいっ! 黙れっ!」
顔に怒りを浮かべ、狭間は蒼嶋に止められながらも殴りかかろうとする。
蒼嶋は苦笑いしながら、まるで子供をあやすように狭間を宥めようとする。
「そんなにぶっ殺したいと思ってるんだったら、俺が死んで満足だろうに。
どうしてさっきまでビースカ泣いてたんだよ?」
「な、泣いてなどいない!」
「ほぉ~、そんなにおめめをぷっくり腫らしてる人間の言う台詞じゃ無いと思うけど~?」
顔を真っ赤にしながら反論していた狭間が、急に押し黙っていく。
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべつつ、蒼嶋は狭間へと問いかける。
「なあ狭間、お前は何を守ろうとしてるんだ?」
質問の意味が理解できない、といった表情をしている狭間を見つめながら、蒼嶋は問いかけを続けていく。
「自分の本当の気持ちを偽って、否定して、受け入れる事を拒み続けて、それで何が生まれるんだ?」
「拒んでなどいない! 私の気持ちは私の気持ちのままだ!」
「じゃ、なんでブチ殺したいほど憎んでる相手の傷を治そうとしたりしたのさ」
反論しようにもうまく言葉に出来ず、狭間は唸るばかりである。
意地悪そうな顔をしながらも、蒼嶋の問いは狭間の芯へ迫ろうとしている。
「本当の気持ちを否定してまで、お前が演じているモノは何なんだ?」
狭間は答えない、答えられない。
ただ、ただ、狼が何かを警戒するように喉を鳴らすだけである。
「ったくよぉ~、始めっからそうだったよなぁ~」
蒼嶋が顔にペチりと手を当てながら、呆れ返るような態度を取る。
そして溜息を一つ零してから、きっぱりと言い放っていく。
「お前はさ、自分の立場を守ろうとしてるんだよ」
「なっ……!? この私が、保身に走っているだと!?」
思わず声を荒げて返答する狭間に対し、蒼嶋はまあ落ち着けよと言わんばかりの態度を保ったままである。
口を開いて今にも怒鳴り散らさんとする狭間を押さえつけるように、蒼嶋は言葉を被せていく。
「ま、初めとはちょーっと意味合いが変わってるけどな」
蒼嶋が何を言おうとしているのか、狭間には全く予想もつかなかった。
ただの一人の男の戯言だろうと、頭の中では決め付けようともしていた。
だがその戯言から耳を離そうとしない自分も、確かにそこにいた。
「初めは……ま、あの世界に対しての復讐の意味合いが大きかった。
対話どころか、狭間偉出夫っていう一人の人間に向き合ってももらえない世界に対して」
ある事ない事を作り上げ、一人の人間像を勝手に染めていく人間達。
対話を試みようとしても、向き合うどころか一方的に突き放していく人間達。
挙句、狭間偉出夫という一人の人間に関わることを拒もうとする人間達。
誰も彼に構わない。
誰も彼と話をしない。
誰も彼へ寄り添わない。
誰も彼を愛してくれない。
誰も、誰も、誰も、誰も、誰も。
狭間偉出夫にとって、現世とは暗い暗い牢獄のような場所だった。
「そんで、お前はそんなクソったれた世界の上に立つ方法を身につけた……まー方法はこの際いいだろ。努力は努力だし。
ごく狭い世界とはいえ、誰しもがお前の存在を認識して、恐れるようになった」
狭間は一つのことを決めた。
誰も応じてくれないのならば、応じてくれるような力を持てばいいと。
圧力を以って、対話に応じさせればいいと。
そして彼は人間を恨み、世界を恨み、魔界を統べる力へと手を伸ばしていった。
「お前はさ、話を聞いてくれる人間が欲しかったんだよ。
でも、普通にしてたら誰も話を聞いてくれない。
だから、人より上の立場に立つための力を手に入れて、話を聞いてもらってたんだよ」
その計画は成功した。
狭間偉出夫は魔界を統べる皇、魔神皇として世界の一部を魔界へと飲み込んだ。
圧倒的恐怖と絶対的権力を以て、今まで自分のことを見下していた人間や、対話に応じようとすらしなかった人間と"対話"した。
会話のようなキャッチボールではなく、狭間側からの一方的な銃撃に近いものだったが。
巻き込まれた人間達は、魔神皇の言うことを聞くしかなかった。
そう呼んでいいのかどうかは疑問が残るが、彼にとっては擬似的に会話という物は成立していた。
交流が成り立たないのならば、成り立つような環境を作ればいい。
彼が長く続いた苦痛の末に、はじき出した答えは学校の支配だった。
「なっ……!? この私が、保身に走っているだと!?」
思わず声を荒げて返答する狭間に対し、蒼嶋はまあ落ち着けよと言わんばかりの態度を保ったままである。
口を開いて今にも怒鳴り散らさんとする狭間を押さえつけるように、蒼嶋は言葉を被せていく。
「ま、初めとはちょーっと意味合いが変わってるけどな」
蒼嶋が何を言おうとしているのか、狭間には全く予想もつかなかった。
ただの一人の男の戯言だろうと、頭の中では決め付けようともしていた。
だがその戯言から耳を離そうとしない自分も、確かにそこにいた。
「初めは……ま、あの世界に対しての復讐の意味合いが大きかった。
対話どころか、狭間偉出夫っていう一人の人間に向き合ってももらえない世界に対して」
ある事ない事を作り上げ、一人の人間像を勝手に染めていく人間達。
対話を試みようとしても、向き合うどころか一方的に突き放していく人間達。
挙句、狭間偉出夫という一人の人間に関わることを拒もうとする人間達。
誰も彼に構わない。
誰も彼と話をしない。
誰も彼へ寄り添わない。
誰も彼を愛してくれない。
誰も、誰も、誰も、誰も、誰も。
狭間偉出夫にとって、現世とは暗い暗い牢獄のような場所だった。
「そんで、お前はそんなクソったれた世界の上に立つ方法を身につけた……まー方法はこの際いいだろ。努力は努力だし。
ごく狭い世界とはいえ、誰しもがお前の存在を認識して、恐れるようになった」
狭間は一つのことを決めた。
誰も応じてくれないのならば、応じてくれるような力を持てばいいと。
圧力を以って、対話に応じさせればいいと。
そして彼は人間を恨み、世界を恨み、魔界を統べる力へと手を伸ばしていった。
「お前はさ、話を聞いてくれる人間が欲しかったんだよ。
でも、普通にしてたら誰も話を聞いてくれない。
だから、人より上の立場に立つための力を手に入れて、話を聞いてもらってたんだよ」
その計画は成功した。
狭間偉出夫は魔界を統べる皇、魔神皇として世界の一部を魔界へと飲み込んだ。
圧倒的恐怖と絶対的権力を以て、今まで自分のことを見下していた人間や、対話に応じようとすらしなかった人間と"対話"した。
会話のようなキャッチボールではなく、狭間側からの一方的な銃撃に近いものだったが。
巻き込まれた人間達は、魔神皇の言うことを聞くしかなかった。
そう呼んでいいのかどうかは疑問が残るが、彼にとっては擬似的に会話という物は成立していた。
交流が成り立たないのならば、成り立つような環境を作ればいい。
彼が長く続いた苦痛の末に、はじき出した答えは学校の支配だった。
「逆に言えば、それがないと誰も話を聞いてくれない。
狭間偉出夫に逆戻りしたら、誰もお前と向き合ってくれない。
だから、お前は魔神皇である必要があった。」
逆の考えをすれば、あの魔界で人々は狭間偉出夫と会話していたのではない。
魔神皇という、一つの恐怖と会話していたのだ。
もし、相手が魔神皇でなく狭間偉出夫という一人の人間だったら?
普段どおりの、どこにでもいる一人の人間に戻ってしまったら?
その結果は考えるまでもない、狭間自身が容易に察することが出来る。
"誰も相手にしてくれない"へ逆戻り。
一人の惨めな人間が、そこにいるだけになってしまう。
「お前が魔神皇でなくなることは、存在の消滅を意味するようなもんだしな。
だから魔神皇の地位を脅かす存在を、抹消しようとしてたわけだよ」
そこで「ま~っ、俺の方が強かったけどなー!」と蒼嶋はおどけてみせる。
蒼嶋の言うとおり、狭間は力を失い魔神皇でなくなることを恐れた。
それと同時に、自身の作り上げた魔界を乗り越えられる人間などいる訳がないとも思っていた。
だが、蒼嶋駿朔と赤根沢玲子は魔界を乗り越え、狭間を打ち倒し、精神世界へと入り込んできていた。
敗北は考えてはいなかったが、彼らにそれ相応の実力があるのは明らかだ。
万が一、己が魔神皇で無くなり、また無視される存在へと逆戻りすることが、彼はたまらなく怖かったのだ。
「ここに来てもそうさ、お前は魔神皇としての立場を使って人と対話しようとした。
怖いからな、他人が話を聞いてくれないことを。
どうせそーなんだろぉ~? 言わなくったってわかるっつの」
すべてお見通しといわんばかりに、蒼嶋は意地悪な笑みを浮かべる。
反論しようと思っても、頭によぎった水銀燈とのやり取りを振り返るだけでも、自分の口から言葉は何一つ浮かんでこない。
「……自分と向き合ってもらえないことが怖い、だから魔神皇として高圧的な態度をとらなくちゃいけない。
どんな他人に対してもお前が高圧的だったのはそれで全部理由がつくんだよ」
喉を鳴らすことしか出来ないほど、的確な指摘。
何かを言い返そうとしても、空虚の薄っぺらい言葉しか出てこない。
押し黙るだけ、押し黙るだけ。
そんな狭間を見据え、蒼嶋の表情が途端に厳しくなる。
「じゃ、もう分かるよな? 俺が死んで、お前が思ってるはずもない感情をむき出しにして、ビースカ泣いてた理由がよ。
……え? ……まっさか、まだ分かんねえのか!? かーっ、ニブチンも大魔王クラスかよ」
もう一度、手を顔にピシャリと当て、落胆の溜息を零す。
確かに蒼嶋の語る魔神皇生誕の理由の大筋は合っている。
しかし、何故それが自分の先ほどの行動が思念とかみ合わない理由を解説できるのか。
狭間には幾ら考えても理解できなかった。
狭間偉出夫に逆戻りしたら、誰もお前と向き合ってくれない。
だから、お前は魔神皇である必要があった。」
逆の考えをすれば、あの魔界で人々は狭間偉出夫と会話していたのではない。
魔神皇という、一つの恐怖と会話していたのだ。
もし、相手が魔神皇でなく狭間偉出夫という一人の人間だったら?
普段どおりの、どこにでもいる一人の人間に戻ってしまったら?
その結果は考えるまでもない、狭間自身が容易に察することが出来る。
"誰も相手にしてくれない"へ逆戻り。
一人の惨めな人間が、そこにいるだけになってしまう。
「お前が魔神皇でなくなることは、存在の消滅を意味するようなもんだしな。
だから魔神皇の地位を脅かす存在を、抹消しようとしてたわけだよ」
そこで「ま~っ、俺の方が強かったけどなー!」と蒼嶋はおどけてみせる。
蒼嶋の言うとおり、狭間は力を失い魔神皇でなくなることを恐れた。
それと同時に、自身の作り上げた魔界を乗り越えられる人間などいる訳がないとも思っていた。
だが、蒼嶋駿朔と赤根沢玲子は魔界を乗り越え、狭間を打ち倒し、精神世界へと入り込んできていた。
敗北は考えてはいなかったが、彼らにそれ相応の実力があるのは明らかだ。
万が一、己が魔神皇で無くなり、また無視される存在へと逆戻りすることが、彼はたまらなく怖かったのだ。
「ここに来てもそうさ、お前は魔神皇としての立場を使って人と対話しようとした。
怖いからな、他人が話を聞いてくれないことを。
どうせそーなんだろぉ~? 言わなくったってわかるっつの」
すべてお見通しといわんばかりに、蒼嶋は意地悪な笑みを浮かべる。
反論しようと思っても、頭によぎった水銀燈とのやり取りを振り返るだけでも、自分の口から言葉は何一つ浮かんでこない。
「……自分と向き合ってもらえないことが怖い、だから魔神皇として高圧的な態度をとらなくちゃいけない。
どんな他人に対してもお前が高圧的だったのはそれで全部理由がつくんだよ」
喉を鳴らすことしか出来ないほど、的確な指摘。
何かを言い返そうとしても、空虚の薄っぺらい言葉しか出てこない。
押し黙るだけ、押し黙るだけ。
そんな狭間を見据え、蒼嶋の表情が途端に厳しくなる。
「じゃ、もう分かるよな? 俺が死んで、お前が思ってるはずもない感情をむき出しにして、ビースカ泣いてた理由がよ。
……え? ……まっさか、まだ分かんねえのか!? かーっ、ニブチンも大魔王クラスかよ」
もう一度、手を顔にピシャリと当て、落胆の溜息を零す。
確かに蒼嶋の語る魔神皇生誕の理由の大筋は合っている。
しかし、何故それが自分の先ほどの行動が思念とかみ合わない理由を解説できるのか。
狭間には幾ら考えても理解できなかった。
「心のどっかで思ってたんだろ? 俺なら話聞いてくれるかもしれないって。
魔神皇としてじゃなく、狭間偉出夫って言う一人の人間と向き合ってくれる奴だって」
「ふざけたことを!」
飛び出した蒼嶋の発言に、今まで以上に怒りを露わにして飛びかかる。
ギリギリと歯を鳴らし、襟元を全力で掴みにかかる。
何を言い出すと思えば、蒼嶋は自分が「蒼嶋を頼りにしていた」などと言う。
魔神皇へ反逆の意を示し、魔界の数々を打ち破り、最後には自分の精神世界へと入り込んで過去を洗いざらい探ってきた。
狭間にとって、これ以上なく許せず、これ以上なく憎むべき存在。
その蒼嶋駿朔を、なぜ頼らなければいけないのか?
なぜ、話を聞いてもらえるなどと浮ついた願望を抱かねばならないのか?
あり得ない、与太話にも程がある。
その鬱陶しい口を閉ざすために、襟元から喉元へと手を伸ばそうとしたとき、蒼嶋が話を続けた。
「一人の人間として話を聞いてもらえるかもしれない、だから俺に会いたかった。
でも、魔神皇の立場を失えば他人はまともに話に取り合ってもらえ無い。
だから、魔神皇としての威厳を保つための行動とともに、俺に会いに行こうと考えたんだ」
「うるさい! 黙れ、黙れ、黙れぇぇぇ!!」
何度も何度も、蒼嶋の襟元を掴んで揺する。
手を引いて、伸ばして、引いて、伸ばして。
体が前後に大きくブレながらも、蒼嶋の目は狭間をしっかりと見つめていた。
「でも、俺は死んでいた。だから、本当の気持ちを押さえきれなくなって、ああいう行動に出た。
抑えきれなくなった本心が爆発して、もうどうにも出来なくなったんだよ」
「馬鹿げたことを! 寝言は寝ていえ! それともここで永遠に眠らせてやろうか!!」
狭間はその言霊を受け入れようとしない。
テトラカーンや、マカラカーンや、どんな防具の力よりも分厚く強大な盾をつくってその全てを弾こうとする。
だが蒼嶋の言葉はその盾のわずかな穴をすり抜けるように、狭間の心の中へと入り込もうとする。
「だけど、魔神皇としての立場も守らなきゃいけないから、その気持ちが偽りであることを言い聞かせ続けた。
体裁を保つように、誰もそんなことを気にはしていないのに。魔神皇で有り続けた」
「違う、違う、違ああああああああう!! この私が、魔神皇が! 下等な人間に媚びるような姿勢をとるなど! あり得るはずがない!」
心の中に入り込んでくる言霊の一つ一つを、弾こうと必死にあがく。
むき出しの心へ迫ってくる真実という刃たちを、血を流しながら素手で弾き落としていく。
受け入れたくない、受け入れたくない、その一心で拒否していく。
その言葉を受け入れることは、それまでの自分の否定になるから。
自分が正しいと思ってきたモノが、ガラガラと崩れ落ちそうだから。
「んなことしなくったって、話聞いてくれる人間はいるぜ?
あとはテメー次第だ、そこで普通に話しかけることさえできりゃ、話を聞いてくれる人間なんて幾らでもいる。
元の世界にだって、この殺し合いの世界にだってな」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェ!! 」
魔神皇としてじゃなく、狭間偉出夫って言う一人の人間と向き合ってくれる奴だって」
「ふざけたことを!」
飛び出した蒼嶋の発言に、今まで以上に怒りを露わにして飛びかかる。
ギリギリと歯を鳴らし、襟元を全力で掴みにかかる。
何を言い出すと思えば、蒼嶋は自分が「蒼嶋を頼りにしていた」などと言う。
魔神皇へ反逆の意を示し、魔界の数々を打ち破り、最後には自分の精神世界へと入り込んで過去を洗いざらい探ってきた。
狭間にとって、これ以上なく許せず、これ以上なく憎むべき存在。
その蒼嶋駿朔を、なぜ頼らなければいけないのか?
なぜ、話を聞いてもらえるなどと浮ついた願望を抱かねばならないのか?
あり得ない、与太話にも程がある。
その鬱陶しい口を閉ざすために、襟元から喉元へと手を伸ばそうとしたとき、蒼嶋が話を続けた。
「一人の人間として話を聞いてもらえるかもしれない、だから俺に会いたかった。
でも、魔神皇の立場を失えば他人はまともに話に取り合ってもらえ無い。
だから、魔神皇としての威厳を保つための行動とともに、俺に会いに行こうと考えたんだ」
「うるさい! 黙れ、黙れ、黙れぇぇぇ!!」
何度も何度も、蒼嶋の襟元を掴んで揺する。
手を引いて、伸ばして、引いて、伸ばして。
体が前後に大きくブレながらも、蒼嶋の目は狭間をしっかりと見つめていた。
「でも、俺は死んでいた。だから、本当の気持ちを押さえきれなくなって、ああいう行動に出た。
抑えきれなくなった本心が爆発して、もうどうにも出来なくなったんだよ」
「馬鹿げたことを! 寝言は寝ていえ! それともここで永遠に眠らせてやろうか!!」
狭間はその言霊を受け入れようとしない。
テトラカーンや、マカラカーンや、どんな防具の力よりも分厚く強大な盾をつくってその全てを弾こうとする。
だが蒼嶋の言葉はその盾のわずかな穴をすり抜けるように、狭間の心の中へと入り込もうとする。
「だけど、魔神皇としての立場も守らなきゃいけないから、その気持ちが偽りであることを言い聞かせ続けた。
体裁を保つように、誰もそんなことを気にはしていないのに。魔神皇で有り続けた」
「違う、違う、違ああああああああう!! この私が、魔神皇が! 下等な人間に媚びるような姿勢をとるなど! あり得るはずがない!」
心の中に入り込んでくる言霊の一つ一つを、弾こうと必死にあがく。
むき出しの心へ迫ってくる真実という刃たちを、血を流しながら素手で弾き落としていく。
受け入れたくない、受け入れたくない、その一心で拒否していく。
その言葉を受け入れることは、それまでの自分の否定になるから。
自分が正しいと思ってきたモノが、ガラガラと崩れ落ちそうだから。
「んなことしなくったって、話聞いてくれる人間はいるぜ?
あとはテメー次第だ、そこで普通に話しかけることさえできりゃ、話を聞いてくれる人間なんて幾らでもいる。
元の世界にだって、この殺し合いの世界にだってな」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェ!! 」
普段なら「くだらない一人の人間が戯言を言っている」と一蹴できるはずの、一人の男の話。
聞く必要なんて微塵もあるわけが無い男の話。
心の中で耳を塞いでも、震えた空気が鼓膜を揺らす。
その鬱陶しい口を閉ざすために、音の源を断とうと試みる。
首を掴む、力が入らない。
魔法を唱える、魔力が溜められない。
手下を呼ぼうとする、誰も来ない。
それどころか「この声を聞き、この話に応じたい」と考えている自分がいる。
ありえない、ありえないことのはずなのに。
うまく、否定が出来ない。
「もう、いい加減やめたらいいじゃねえか。テメーが繕ってるその姿は、テメーの願いをかなえてくれはしない。
他にやるべきことがたくさんある、テメーがやんのはそれを全部済ませることだろ?
……あーあ、これに気づくのが早けりゃ、あんなことも起こらなかっただろうけどな。
まあ、今更起こってしまったことにガタガタいうつもりはねーけど」
叫びつかれて喉もガラガラになり、黙り込んだ狭間を蒼嶋は優しく見つめる。
掴んでいた襟元から、ゆっくりと力を緩め、崩れ落ちるように倒れこんでいく。
漏れるのは嗚咽と涙、自身の考えが分からないという感情。
自分は魔神皇だ、全ての物の上に君臨すべき存在だ。
だから、こんな話を聞く必要はない。力を持って全てを支配すればいい。
それだけの簡単なこと、分かっているはずなのに。
否定をする理論が立たない、ただそれを拒否することしか出来ない。
心の中に響き渡る何かを、弾き出す事が出来ずにいる。
一種の無力感、それをひしひしと感じながら、狭間は蹲っていく。
「……まっ、昔は俺もそんなんだったしな」
「なっ!?」
突然飛び出した単語。
あの蒼嶋駿朔も、自身と同じ経験をしていたというのか?
ふざけた話にも程があると思っていても、狭間はどうしてもそれについて聞きたくてたまらなかった。
「っと、時間か。まあせいぜい頑張れよ。
まだ間に合う。取り戻せるんだったら、テメーの両足が動くうち動け」
「ま、待て! 貴様だけ言いたいことを言って逃げるつもりか!」
蒼嶋の体が突然光を纏う。
同時に、真っ暗闇だった二人の空間に光があふれ出していく。
瞬間的に蒼嶋の体がどこか遠くへと向かっていく。
手を伸ばしても手を伸ばしても、その体には届かない。
「私は、まだ、まだ、貴様を殺していないんだぞ! 待て! 待てェ! 蒼嶋ァ!!」
何度目か分からない怒声が響き、狭間一人だけが光の中に残され。
そして、彼も光へ溶けていった。
聞く必要なんて微塵もあるわけが無い男の話。
心の中で耳を塞いでも、震えた空気が鼓膜を揺らす。
その鬱陶しい口を閉ざすために、音の源を断とうと試みる。
首を掴む、力が入らない。
魔法を唱える、魔力が溜められない。
手下を呼ぼうとする、誰も来ない。
それどころか「この声を聞き、この話に応じたい」と考えている自分がいる。
ありえない、ありえないことのはずなのに。
うまく、否定が出来ない。
「もう、いい加減やめたらいいじゃねえか。テメーが繕ってるその姿は、テメーの願いをかなえてくれはしない。
他にやるべきことがたくさんある、テメーがやんのはそれを全部済ませることだろ?
……あーあ、これに気づくのが早けりゃ、あんなことも起こらなかっただろうけどな。
まあ、今更起こってしまったことにガタガタいうつもりはねーけど」
叫びつかれて喉もガラガラになり、黙り込んだ狭間を蒼嶋は優しく見つめる。
掴んでいた襟元から、ゆっくりと力を緩め、崩れ落ちるように倒れこんでいく。
漏れるのは嗚咽と涙、自身の考えが分からないという感情。
自分は魔神皇だ、全ての物の上に君臨すべき存在だ。
だから、こんな話を聞く必要はない。力を持って全てを支配すればいい。
それだけの簡単なこと、分かっているはずなのに。
否定をする理論が立たない、ただそれを拒否することしか出来ない。
心の中に響き渡る何かを、弾き出す事が出来ずにいる。
一種の無力感、それをひしひしと感じながら、狭間は蹲っていく。
「……まっ、昔は俺もそんなんだったしな」
「なっ!?」
突然飛び出した単語。
あの蒼嶋駿朔も、自身と同じ経験をしていたというのか?
ふざけた話にも程があると思っていても、狭間はどうしてもそれについて聞きたくてたまらなかった。
「っと、時間か。まあせいぜい頑張れよ。
まだ間に合う。取り戻せるんだったら、テメーの両足が動くうち動け」
「ま、待て! 貴様だけ言いたいことを言って逃げるつもりか!」
蒼嶋の体が突然光を纏う。
同時に、真っ暗闇だった二人の空間に光があふれ出していく。
瞬間的に蒼嶋の体がどこか遠くへと向かっていく。
手を伸ばしても手を伸ばしても、その体には届かない。
「私は、まだ、まだ、貴様を殺していないんだぞ! 待て! 待てェ! 蒼嶋ァ!!」
何度目か分からない怒声が響き、狭間一人だけが光の中に残され。
そして、彼も光へ溶けていった。
「ん……あ……」
腫れ上がった目を擦りながら開く。
それから体を瞬間的に跳ね上がらせ、まるで遅刻寸前の学生のように飛び起きる。
「私としたことが……眠りに落ちていたのか」
震える両手を見つめ、辺りを見渡していく。
一振りの刀、崩れ落ちた瓦礫たち、そして変わらずそこに居る蒼嶋の死体。
そう、蒼嶋駿朔は死んだ。
この殺し合いの場で、如何なることがあったのかは知らないが。
蒼嶋駿朔という一人の人間はこの地で、たった一つしかない命を落とした。
"死んだ人間は蘇らない"という、幼稚園児でも知っているようなことを欠如していたのは、いつからだったか。
魔神皇として人ならざる力を手にし、魔界をも手に入れたときからだったか。
蒼嶋の死体は満足げな顔を浮かべたまま、焼け焦げた姿でそこに倒れている。
口を開くことも、その腕が振り回されることは、もう二度とない。
「……夢を見るのは、何時ぶりだ」
いつの間にか眠りに落ち、そして夢を見た。
夢にしてはやけに現実味を帯びた夢だったが、時にはそんな夢もある。
「くだらん……実に、くだらん……」
夢の中で見た蒼嶋の行動を頭の中で振り返る。
一人の男のくだらない話だと、片付けてしまえばそれで終わりの話だ。
所詮夢は夢でしかない、人がまどろみの中に見出す幻想でしかないのだ。
夢の中でどんな人物が現れ、どんなことを言われようと、それは現実ではない。
現実ではない現象に諭され、心を動かすなど、愚の骨頂である。
そうだ、何も気にすることはない。
無防備な体制で睡眠をとってしまったにもかかわらず、誰にも襲われずに済んだことを幸運に思いながら、また生き続ければいい。
ここは殺し合いの場、生き残るのはこの唯一絶対の存在である魔神皇ただ一人でいい。
立ちふさがる下賎な人間など、皆殺しにしてしまえばよいのだ。
目障りな蒼嶋駿朔は死んだ、ならばあとはこの場の人間を殺しつくし、あのV.V.と名乗る少年を恐怖の底へ叩き込めばよい。
魔神皇として、絶対的な力と権力を持つものとして、人間達を支配すればよい。
迷うことはない、やるべきことなど決まっている。
傍に落ちていた刀を拾い上げ、服についた埃を払う。
そして彼はゆっくりと、その一歩を踏み出していく。
夢の中の、自分の行動を振り返ることなく。
決めた道を、進んでいく。
腫れ上がった目を擦りながら開く。
それから体を瞬間的に跳ね上がらせ、まるで遅刻寸前の学生のように飛び起きる。
「私としたことが……眠りに落ちていたのか」
震える両手を見つめ、辺りを見渡していく。
一振りの刀、崩れ落ちた瓦礫たち、そして変わらずそこに居る蒼嶋の死体。
そう、蒼嶋駿朔は死んだ。
この殺し合いの場で、如何なることがあったのかは知らないが。
蒼嶋駿朔という一人の人間はこの地で、たった一つしかない命を落とした。
"死んだ人間は蘇らない"という、幼稚園児でも知っているようなことを欠如していたのは、いつからだったか。
魔神皇として人ならざる力を手にし、魔界をも手に入れたときからだったか。
蒼嶋の死体は満足げな顔を浮かべたまま、焼け焦げた姿でそこに倒れている。
口を開くことも、その腕が振り回されることは、もう二度とない。
「……夢を見るのは、何時ぶりだ」
いつの間にか眠りに落ち、そして夢を見た。
夢にしてはやけに現実味を帯びた夢だったが、時にはそんな夢もある。
「くだらん……実に、くだらん……」
夢の中で見た蒼嶋の行動を頭の中で振り返る。
一人の男のくだらない話だと、片付けてしまえばそれで終わりの話だ。
所詮夢は夢でしかない、人がまどろみの中に見出す幻想でしかないのだ。
夢の中でどんな人物が現れ、どんなことを言われようと、それは現実ではない。
現実ではない現象に諭され、心を動かすなど、愚の骨頂である。
そうだ、何も気にすることはない。
無防備な体制で睡眠をとってしまったにもかかわらず、誰にも襲われずに済んだことを幸運に思いながら、また生き続ければいい。
ここは殺し合いの場、生き残るのはこの唯一絶対の存在である魔神皇ただ一人でいい。
立ちふさがる下賎な人間など、皆殺しにしてしまえばよいのだ。
目障りな蒼嶋駿朔は死んだ、ならばあとはこの場の人間を殺しつくし、あのV.V.と名乗る少年を恐怖の底へ叩き込めばよい。
魔神皇として、絶対的な力と権力を持つものとして、人間達を支配すればよい。
迷うことはない、やるべきことなど決まっている。
傍に落ちていた刀を拾い上げ、服についた埃を払う。
そして彼はゆっくりと、その一歩を踏み出していく。
夢の中の、自分の行動を振り返ることなく。
決めた道を、進んでいく。
人間は、いつか死ぬ。
死後、人は黄金の輝きを放ち続ける海と無限に広がる色とりどりの花畑の先にある川を渡る。
それを経て次の新たな命へと転生していく。
輪廻を繰り返し、繰り返し、終わることなく続けていく。
ずっと、ずっと、人の一生から人の一生へと繋がっていく。
死後、人は黄金の輝きを放ち続ける海と無限に広がる色とりどりの花畑の先にある川を渡る。
それを経て次の新たな命へと転生していく。
輪廻を繰り返し、繰り返し、終わることなく続けていく。
ずっと、ずっと、人の一生から人の一生へと繋がっていく。
しかし、その人間の輪廻には例外がある。
強烈な思念、それは時として姿を持ち、黄泉の国にある川を渡ることを拒み、自ら輪廻の外へと向かっていく。
たった一度しか訪れない死の機会を拒み、この世を彷徨い力となることを選ぶ存在がいくつか存在している。
有名な例を挙げてみれば、平将門がそれに該当する。
彼はその強烈な思念を持ち、この世に幽霊の体となったとしても残ることを選び、東京という一つの世界を守ることを決めた。
何年、何十年、何百年も彷徨い続け、己の存在を受け入れる者の力となり、東京を守護し、見守り続けた。
強烈な思念、それは時として姿を持ち、黄泉の国にある川を渡ることを拒み、自ら輪廻の外へと向かっていく。
たった一度しか訪れない死の機会を拒み、この世を彷徨い力となることを選ぶ存在がいくつか存在している。
有名な例を挙げてみれば、平将門がそれに該当する。
彼はその強烈な思念を持ち、この世に幽霊の体となったとしても残ることを選び、東京という一つの世界を守ることを決めた。
何年、何十年、何百年も彷徨い続け、己の存在を受け入れる者の力となり、東京を守護し、見守り続けた。
それは「死ねなくなる」ということを受け入れるほどの強烈な思念を持つことで実現する。
永久の時が過ぎようと、彷徨い続けて成し遂げたいと思う何かがあってこそ、川を拒むことが出来るのだ。
永久の時が過ぎようと、彷徨い続けて成し遂げたいと思う何かがあってこそ、川を拒むことが出来るのだ。
「……案外上手く行くもんだな」
青いブレザー、緑と白と青のボーダーのズボン。
光でも闇でもないその空間に一人佇むのは、蒼嶋駿朔その人だった。
「皆が、皆、卓を囲って肉でも食えるような日常。
当たり前の日常、それだけでいいんだよ。"もし"……なんていらない。
"もし"を打ち砕けるならば、俺はその"もし"をぶっ壊す力になりたい」
蒼嶋は、気がつけばカロンの目の前でこう呟いていた。
狭間の手によって奪われた、幾多もの日常。
そして、この殺し合いによって奪われた六十余名の日常。
何の罪もない人間の日常、ただ平然と過ごしていただけの日常。
誰にも侵す事のできないその領域に立ち入り、平然と奪い去っていくもの達。
蒼嶋は、どうしてもその存在を許すことは出来なかった。
志半ばで倒れてしまったが、叶うことならその存在を打ち砕く牙となりたい。
人々の日常、それを守るため。力無き人の力となる存在になりたい。
ずっと思い続けたことが彼の心の中に納まりきらず、溢れ返るように零れ出して耐え切れなくなった。
「そうだな、こういうときはカッコいい名前でも名乗るもんだよな。
魔人、イフブレイカーとか……? かーっ、だせーっ! 江戸時代の奴でも言わねーよ! ダサすぎて鼻が曲がるぜ!」
そうして彼は川を渡ることを拒み、常世を彷徨う存在へとなった。
輪廻を外れ、永遠の時を駆ける苦しみをも受け入れ、力なき者へと力を差し伸べる。
どんな存在よりも硬いその意志は、決して曲がることはなかった。
日常を奪うものを倒し、罪無き人の日常を取り戻すたった一つの力となるために。
「狭間よう、頼んだぜ? その殺し合いとか言う、ふざけた"もし"をぶっ潰してやれ」
まずは、目の前にある破壊行動。
幾多もの人から日常を奪い去った、バトル・ロワイアルというふざけた遊戯。
それを打ち砕くために、彼は魔神皇へと手を差し伸べていく。
嘗ては敵であり、憎むことしかできない存在だった。
だがどうだ? 自分の死体を見つめ、あの傲慢の極みに立っていたはずの魔神皇は、大粒の涙をぼろぼろ零しながら泣き崩れたではないか。
川へと辿り着くまでのわずかな時間で、彼は考え、考え、思考に思考を繰返して一つの結論を立てた。
自分が知りえなかったこと、もしの可能性をまで思考を張り巡らせた。
そして、辿り着いた。
彼も日常が欲しかったのではないかという結論へ。
狭間偉出夫という一人の人間もまた、日常を奪われた一人なのではないかと。
一つの結論を手にし、夢という媒体を用いて狭間の精神に話しかけた。
結局、彼本人からのはっきりとした返答は無かったが、返答に近い反応を得ることはできた。
そして、蒼嶋は確信した。
彼も、日常を奪われた人間なのだと。
「俺も、力を貸してやるからさ」
かつて彼は憎むべき敵だった。
人々の、友の、自分の日常を奪い去った憎むべき敵だった。
だが、それは彼が日常を手にするための手段だった。
もちろん、それも褒められたことではない。
人々の日常を奪い、自分だけが日常を手にすることなど、あってはならないのだから。
しかし、今の彼は重要な岐路に立っている。
自分の死によって、ずっと押さえ込んできた本当の気持ちと、向き合う時が来ている。
本当の気持ちと向き合えれば、きっとこれからでも普通の日常を手にすることができる。
だから、これからがんばって彼の日常を手にすればいい。
彼が手にしようと思っても手にすることのできなかった、なんてことはない日常を手に入れればいい。
それを手に入れるため、やり直す時間はこれからたくさんある。
そのために、まずは目の前の非日常をぶちこわす必要がある。
幾多もの人の日常を奪い去った要因を壊し、なんてことはない日常を取り戻す。
そして、彼があの世界で得ることができなかった日常を手に入れるため。
日常の過ごし方を知らない、少し不器用な彼のために。
青いブレザー、緑と白と青のボーダーのズボン。
光でも闇でもないその空間に一人佇むのは、蒼嶋駿朔その人だった。
「皆が、皆、卓を囲って肉でも食えるような日常。
当たり前の日常、それだけでいいんだよ。"もし"……なんていらない。
"もし"を打ち砕けるならば、俺はその"もし"をぶっ壊す力になりたい」
蒼嶋は、気がつけばカロンの目の前でこう呟いていた。
狭間の手によって奪われた、幾多もの日常。
そして、この殺し合いによって奪われた六十余名の日常。
何の罪もない人間の日常、ただ平然と過ごしていただけの日常。
誰にも侵す事のできないその領域に立ち入り、平然と奪い去っていくもの達。
蒼嶋は、どうしてもその存在を許すことは出来なかった。
志半ばで倒れてしまったが、叶うことならその存在を打ち砕く牙となりたい。
人々の日常、それを守るため。力無き人の力となる存在になりたい。
ずっと思い続けたことが彼の心の中に納まりきらず、溢れ返るように零れ出して耐え切れなくなった。
「そうだな、こういうときはカッコいい名前でも名乗るもんだよな。
魔人、イフブレイカーとか……? かーっ、だせーっ! 江戸時代の奴でも言わねーよ! ダサすぎて鼻が曲がるぜ!」
そうして彼は川を渡ることを拒み、常世を彷徨う存在へとなった。
輪廻を外れ、永遠の時を駆ける苦しみをも受け入れ、力なき者へと力を差し伸べる。
どんな存在よりも硬いその意志は、決して曲がることはなかった。
日常を奪うものを倒し、罪無き人の日常を取り戻すたった一つの力となるために。
「狭間よう、頼んだぜ? その殺し合いとか言う、ふざけた"もし"をぶっ潰してやれ」
まずは、目の前にある破壊行動。
幾多もの人から日常を奪い去った、バトル・ロワイアルというふざけた遊戯。
それを打ち砕くために、彼は魔神皇へと手を差し伸べていく。
嘗ては敵であり、憎むことしかできない存在だった。
だがどうだ? 自分の死体を見つめ、あの傲慢の極みに立っていたはずの魔神皇は、大粒の涙をぼろぼろ零しながら泣き崩れたではないか。
川へと辿り着くまでのわずかな時間で、彼は考え、考え、思考に思考を繰返して一つの結論を立てた。
自分が知りえなかったこと、もしの可能性をまで思考を張り巡らせた。
そして、辿り着いた。
彼も日常が欲しかったのではないかという結論へ。
狭間偉出夫という一人の人間もまた、日常を奪われた一人なのではないかと。
一つの結論を手にし、夢という媒体を用いて狭間の精神に話しかけた。
結局、彼本人からのはっきりとした返答は無かったが、返答に近い反応を得ることはできた。
そして、蒼嶋は確信した。
彼も、日常を奪われた人間なのだと。
「俺も、力を貸してやるからさ」
かつて彼は憎むべき敵だった。
人々の、友の、自分の日常を奪い去った憎むべき敵だった。
だが、それは彼が日常を手にするための手段だった。
もちろん、それも褒められたことではない。
人々の日常を奪い、自分だけが日常を手にすることなど、あってはならないのだから。
しかし、今の彼は重要な岐路に立っている。
自分の死によって、ずっと押さえ込んできた本当の気持ちと、向き合う時が来ている。
本当の気持ちと向き合えれば、きっとこれからでも普通の日常を手にすることができる。
だから、これからがんばって彼の日常を手にすればいい。
彼が手にしようと思っても手にすることのできなかった、なんてことはない日常を手に入れればいい。
それを手に入れるため、やり直す時間はこれからたくさんある。
そのために、まずは目の前の非日常をぶちこわす必要がある。
幾多もの人の日常を奪い去った要因を壊し、なんてことはない日常を取り戻す。
そして、彼があの世界で得ることができなかった日常を手に入れるため。
日常の過ごし方を知らない、少し不器用な彼のために。
一筋の光となって、一直線に伸びていった。
足が、止まる。
たった今、全てを破壊し尽くすと決めたはずの足が、ぴくりとも動かなくなる。
何者の手によるモノでもない、彼自身がそうしているのだ。
心の奥底で引っかかり続けている、夢のやりとりが何よりも重い足枷としてその歩みを止める。
夢で見た男の戯言なんて気にする必要など全くないはずなのに、心にずっしりと重くのしかかっている。
人間など、話を聞く価値すらない下等な生物である。
誰一人としてまともな対話を望もうとしない、ありもしない話を種に盛り上がり、自分の独断で相手の価値を判断していく。
そこで自分より下だと判断すれば、徹底的に卑下していくし、自分より立場が上の者に対しては驚くほど簡単にひれ伏してみせる。
己の身が第一、自分が危険にならなければよいと考えているのだ。
そんな愚かしい人間たち、その存在すら認めてはいけない者たち。
分かっている、分かっているはずなのに。
「ふん……小賢しい真似を」
ふと、言葉を漏らす。
まるで、背後にある蒼嶋の死体が狭間の足を掴んでいるかのように感じられたからか。
「まあいい、かつてこの魔神皇に刃を衝き立てた者の言葉として。
この私の時間を与え、貴様の言葉について考えてやろう」
思ってもいないはずのことを頭に置き、思考を張り巡らせていく。
たった今、全てを破壊し尽くすと決めたはずの足が、ぴくりとも動かなくなる。
何者の手によるモノでもない、彼自身がそうしているのだ。
心の奥底で引っかかり続けている、夢のやりとりが何よりも重い足枷としてその歩みを止める。
夢で見た男の戯言なんて気にする必要など全くないはずなのに、心にずっしりと重くのしかかっている。
人間など、話を聞く価値すらない下等な生物である。
誰一人としてまともな対話を望もうとしない、ありもしない話を種に盛り上がり、自分の独断で相手の価値を判断していく。
そこで自分より下だと判断すれば、徹底的に卑下していくし、自分より立場が上の者に対しては驚くほど簡単にひれ伏してみせる。
己の身が第一、自分が危険にならなければよいと考えているのだ。
そんな愚かしい人間たち、その存在すら認めてはいけない者たち。
分かっている、分かっているはずなのに。
「ふん……小賢しい真似を」
ふと、言葉を漏らす。
まるで、背後にある蒼嶋の死体が狭間の足を掴んでいるかのように感じられたからか。
「まあいい、かつてこの魔神皇に刃を衝き立てた者の言葉として。
この私の時間を与え、貴様の言葉について考えてやろう」
思ってもいないはずのことを頭に置き、思考を張り巡らせていく。
一つ。
蒼嶋の言うとおり、あの世界の人間は存在価値のない人間達だった。
誰も向き合ってくれはしないし、勝手な偏見を押し付けてくる。
それがどれだけ一人の人間を傷つけるのか、彼らは全く考えることはない。
自分の気分がいいなら、自分が傷つかないのならばそれでいいのだから。
だから、自分は力を手にした。
自分が味わった痛みを、苦しみを、辛さを、彼らに思い知らせるために。
そして、力を手にした自分は彼らにその痛みを何倍にもして返すことに成功した。
七つの大罪をなぞらえる様に、彼らの罪を自覚させてやった。
蒼嶋の言うとおり、あの世界の人間は存在価値のない人間達だった。
誰も向き合ってくれはしないし、勝手な偏見を押し付けてくる。
それがどれだけ一人の人間を傷つけるのか、彼らは全く考えることはない。
自分の気分がいいなら、自分が傷つかないのならばそれでいいのだから。
だから、自分は力を手にした。
自分が味わった痛みを、苦しみを、辛さを、彼らに思い知らせるために。
そして、力を手にした自分は彼らにその痛みを何倍にもして返すことに成功した。
七つの大罪をなぞらえる様に、彼らの罪を自覚させてやった。
だが、イレギュラーがあった。
その痛みにも負けずに魔神皇へ逆らう存在、蒼嶋駿朔が現れたのだ。
数々の苦しみを乗り越えた先で、この魔神皇の体に剣を突き刺した。
「ふ……恐れ、か」
始めはなんてことはなかった。
ただ、少し調子に乗った人間が現れた程度にしか思っていなかった。
だが、彼が数々の難題を解き明かしていくうちにそれは違う気持ちへと変わって行った。
「確かに、私はお前を恐れていたのかもしれんな」
蒼嶋の言うとおり、怖かった。
魔神皇としての力を失い、ただの人間に戻り、また普段どおりの生活になってしまうことが。
これ以上なくたまらなく怖く、恐れ続けていた。
だから、それ以上の、それ以上の難題を次々に与え。
いつかどこかで心折れ、朽ち果てることを望んでいた。
だから、蒼嶋が自分の目の前に現れた時。
たまらなく怖くて、怖くて、仕方がなかった。
「もし、あの時私がお前と対話していれば……」
だがあの時を思い返してみれば、心のどこか奥底で嬉しがっている自分もいた。
これだけの痛みを乗り越え、これだけの苦しみを味わい、これだけの辛さを背負ってきたこの人間なら。
ひょっとしたら、自分の心と対話してくれるのではないかと。
砂粒ほどの大きさの希望を、確かにその胸に抱いていた。
だが、それは果て無き砂漠ほどの恐怖の前では、無力だった。
魔神皇としての自分を、守らなくてはいけない。
この立場がなければ、また無力な自分に逆戻りである。
ありもしない烙印を押され、一人の人間を簡単に追い詰め、嘲笑う連中の中に、また放り込まれてしまうから。
だから、狭間は蒼嶋と戦った。
もし、あの時恐怖ではなく希望を多く抱いていれば。
もし、全てを打ち明け、蒼嶋と対話することが出来れば。
彼は、自分の心中を理解してくれたのだろうか。
自分は、彼と上手く対話することが出来たのだろうか。
その痛みにも負けずに魔神皇へ逆らう存在、蒼嶋駿朔が現れたのだ。
数々の苦しみを乗り越えた先で、この魔神皇の体に剣を突き刺した。
「ふ……恐れ、か」
始めはなんてことはなかった。
ただ、少し調子に乗った人間が現れた程度にしか思っていなかった。
だが、彼が数々の難題を解き明かしていくうちにそれは違う気持ちへと変わって行った。
「確かに、私はお前を恐れていたのかもしれんな」
蒼嶋の言うとおり、怖かった。
魔神皇としての力を失い、ただの人間に戻り、また普段どおりの生活になってしまうことが。
これ以上なくたまらなく怖く、恐れ続けていた。
だから、それ以上の、それ以上の難題を次々に与え。
いつかどこかで心折れ、朽ち果てることを望んでいた。
だから、蒼嶋が自分の目の前に現れた時。
たまらなく怖くて、怖くて、仕方がなかった。
「もし、あの時私がお前と対話していれば……」
だがあの時を思い返してみれば、心のどこか奥底で嬉しがっている自分もいた。
これだけの痛みを乗り越え、これだけの苦しみを味わい、これだけの辛さを背負ってきたこの人間なら。
ひょっとしたら、自分の心と対話してくれるのではないかと。
砂粒ほどの大きさの希望を、確かにその胸に抱いていた。
だが、それは果て無き砂漠ほどの恐怖の前では、無力だった。
魔神皇としての自分を、守らなくてはいけない。
この立場がなければ、また無力な自分に逆戻りである。
ありもしない烙印を押され、一人の人間を簡単に追い詰め、嘲笑う連中の中に、また放り込まれてしまうから。
だから、狭間は蒼嶋と戦った。
もし、あの時恐怖ではなく希望を多く抱いていれば。
もし、全てを打ち明け、蒼嶋と対話することが出来れば。
彼は、自分の心中を理解してくれたのだろうか。
自分は、彼と上手く対話することが出来たのだろうか。
「……フフッ、我ながら馬鹿馬鹿しい、馬鹿馬鹿しすぎるな」
思考の先のもしもの可能性、そこに辿り着いて頭を振るう。
そう、"もし"なんて考える必要はない。
蒼嶋駿朔は死に、狭間偉出夫は生きている。
たったそれだけの事実は、揺るぎようがないのだから。
「お前が生きていれば、こんなことを考えることもなく、あの時のようにその胸に刃を突きたててやったというのに。
全く……本当に最後の最後まで私を苦しめてくれるな」
そう、すべては蒼嶋駿朔の死が招いた出来事だ。
蒼嶋駿朔が死なずに、狭間偉出夫と出会うことが出来たならば。
何も考えずに、互いの刃を交えることが出来たのならば。
そして、どちらかの命を奪い去ることが出来たのならば。
こんなことを考えることもなかったし、あのような無様な姿を晒すこともなかった。
それも、考える必要のない"もし"の世界ではあるのだが。
「対話か……この場所にいる、異世界の人間なら。
お前の言うとおりかもしれないな」
自分のいた世界、あの忌まわしき世界に自分と対話する人間がいるとは到底思えない。
だが、この殺し合いの世界に招かれし者たちなら。
あの世界とは違う、異次元の世界の住人なら。
力を用いなくても、妙なレッテルを貼られずに会話が出来るかもしれない。
互いに何も知らないし、何も通用しない。
自分が魔界に巻き込んだ人間ならともかく、何の面識もない人間に魔神皇の名を使って強請った所で結果は知れている。
ここにいる人間達は、魔神皇ではなく狭間偉出夫として、自分を見つめているのだから。
蒼嶋の言うとおり、魔神皇としての力を見せて会話を無理やり試みなくてもいい。
あの世界で望み続けた、狭間偉出夫という一人の人間として対話できる可能性は確かにある。
「まるで貴様に乗せられているようで気に食わんが……その言葉は受け止めよう」
夢に諭されたなど馬鹿馬鹿しい話ではあるが、夢の中での出来事も一理ある話だった。
この自分が恐れなどを抱いていたとは思わないが、もしも人間が歩み寄ろうとしているとするならば。
人と人として対話し、向き合ってくれるかどうかを確かめる時間はいくらでもある。
「物は試しだ、寛大な私がもう一度だけ人間にチャンスをやろう。
魔神皇としてではなく、軽子坂高校2年E組の狭間偉出夫として、人間と向き合ってやるというこの上ないチャンスをな……」
この場にいる人間に絶望を叩き込むのは、蒼嶋亡き今その気になれば何時でもできる。
別に殺してもかまわない存在たちに、彼は一つの課題を与えることを決めたのだ。
蒼嶋のようにその課題を乗り越えられるかどうか、人間に蒼嶋の言うような存在がいるのか。
それを、確かめるために。
「竜宮レナと言ったな、蒼嶋に感謝することだな。
この全知全能の魔神皇が、対等な立場で力を貸そうとしているのだからな。
くれぐれも失望させてくれるな。有事の時には即刻斬り捨てるぞ」
彼の手に握りしめられたニンテンドーDSが光り輝く。
その画面に映り込むのは、数点の光の印。
数と方角を確認し、目的の方向を見据えた後、もう一度蒼嶋の死体へと振り返った。
「さらばだ、蒼嶋。せめてもの手向けに、受け取れ」
別れの言葉と共に打ち出された小さな火球。
まっすぐに蒼嶋の体へと突き進み、もう動かない体に触れた瞬間に巨大な火柱へと変化していく。
火柱は蒼嶋の肉体を飲み込み、パチパチという音と共に燃え上がり続ける。
肉の焼ける臭いが少し続いた後、火柱から顔を出したのは真っ黒な炭へと変化した遺体。
突けば崩れ落ちそうなそれに、刀を一気に降り抜いていく。
遺体はその太刀筋に斬られる、というより砕けると言った方が正しいか。
黒い炭と白い骨の粉がさらさらと空に舞い、混じりあうこと無く風と共に過ぎていく。
涙は、流さない。
堂々とした顔持ちで、狭間はその光景を見送っていた。
「地獄の煮え湯に浸かりながら指でもくわえて見ていることだな、この私の姿を」
そう言い残した、彼はその場を後にした。
足取りは軽く、どこかにまっすぐに突き進むようにも思える。
そして、新しい何かへ向かおうと進む彼の後ろから。
一筋の光が彼を見守るように、ゆっくりと近づいていく。
狭間は近づいてくる光に気がつく素振りを全く見せない。
やれやれ、という聞いたことのあるような声が聞こえるように。
一筋の光は、静かに狭間へと入り込んでいった。
思考の先のもしもの可能性、そこに辿り着いて頭を振るう。
そう、"もし"なんて考える必要はない。
蒼嶋駿朔は死に、狭間偉出夫は生きている。
たったそれだけの事実は、揺るぎようがないのだから。
「お前が生きていれば、こんなことを考えることもなく、あの時のようにその胸に刃を突きたててやったというのに。
全く……本当に最後の最後まで私を苦しめてくれるな」
そう、すべては蒼嶋駿朔の死が招いた出来事だ。
蒼嶋駿朔が死なずに、狭間偉出夫と出会うことが出来たならば。
何も考えずに、互いの刃を交えることが出来たのならば。
そして、どちらかの命を奪い去ることが出来たのならば。
こんなことを考えることもなかったし、あのような無様な姿を晒すこともなかった。
それも、考える必要のない"もし"の世界ではあるのだが。
「対話か……この場所にいる、異世界の人間なら。
お前の言うとおりかもしれないな」
自分のいた世界、あの忌まわしき世界に自分と対話する人間がいるとは到底思えない。
だが、この殺し合いの世界に招かれし者たちなら。
あの世界とは違う、異次元の世界の住人なら。
力を用いなくても、妙なレッテルを貼られずに会話が出来るかもしれない。
互いに何も知らないし、何も通用しない。
自分が魔界に巻き込んだ人間ならともかく、何の面識もない人間に魔神皇の名を使って強請った所で結果は知れている。
ここにいる人間達は、魔神皇ではなく狭間偉出夫として、自分を見つめているのだから。
蒼嶋の言うとおり、魔神皇としての力を見せて会話を無理やり試みなくてもいい。
あの世界で望み続けた、狭間偉出夫という一人の人間として対話できる可能性は確かにある。
「まるで貴様に乗せられているようで気に食わんが……その言葉は受け止めよう」
夢に諭されたなど馬鹿馬鹿しい話ではあるが、夢の中での出来事も一理ある話だった。
この自分が恐れなどを抱いていたとは思わないが、もしも人間が歩み寄ろうとしているとするならば。
人と人として対話し、向き合ってくれるかどうかを確かめる時間はいくらでもある。
「物は試しだ、寛大な私がもう一度だけ人間にチャンスをやろう。
魔神皇としてではなく、軽子坂高校2年E組の狭間偉出夫として、人間と向き合ってやるというこの上ないチャンスをな……」
この場にいる人間に絶望を叩き込むのは、蒼嶋亡き今その気になれば何時でもできる。
別に殺してもかまわない存在たちに、彼は一つの課題を与えることを決めたのだ。
蒼嶋のようにその課題を乗り越えられるかどうか、人間に蒼嶋の言うような存在がいるのか。
それを、確かめるために。
「竜宮レナと言ったな、蒼嶋に感謝することだな。
この全知全能の魔神皇が、対等な立場で力を貸そうとしているのだからな。
くれぐれも失望させてくれるな。有事の時には即刻斬り捨てるぞ」
彼の手に握りしめられたニンテンドーDSが光り輝く。
その画面に映り込むのは、数点の光の印。
数と方角を確認し、目的の方向を見据えた後、もう一度蒼嶋の死体へと振り返った。
「さらばだ、蒼嶋。せめてもの手向けに、受け取れ」
別れの言葉と共に打ち出された小さな火球。
まっすぐに蒼嶋の体へと突き進み、もう動かない体に触れた瞬間に巨大な火柱へと変化していく。
火柱は蒼嶋の肉体を飲み込み、パチパチという音と共に燃え上がり続ける。
肉の焼ける臭いが少し続いた後、火柱から顔を出したのは真っ黒な炭へと変化した遺体。
突けば崩れ落ちそうなそれに、刀を一気に降り抜いていく。
遺体はその太刀筋に斬られる、というより砕けると言った方が正しいか。
黒い炭と白い骨の粉がさらさらと空に舞い、混じりあうこと無く風と共に過ぎていく。
涙は、流さない。
堂々とした顔持ちで、狭間はその光景を見送っていた。
「地獄の煮え湯に浸かりながら指でもくわえて見ていることだな、この私の姿を」
そう言い残した、彼はその場を後にした。
足取りは軽く、どこかにまっすぐに突き進むようにも思える。
そして、新しい何かへ向かおうと進む彼の後ろから。
一筋の光が彼を見守るように、ゆっくりと近づいていく。
狭間は近づいてくる光に気がつく素振りを全く見せない。
やれやれ、という聞いたことのあるような声が聞こえるように。
一筋の光は、静かに狭間へと入り込んでいった。
新しいスタート、新しい可能性。
気がつくことの出来なかった感情、気がつくことの出来なかった方法。
それをしっかりと握りしめるように手にし、見据えた先に待つ場所へ向かっていく。
慣れないことに対して初めは不器用で、どうしようもなくて上手くいかないことも沢山あるかもしれない。
だがゆっくりと、確実に彼は進もうとしている。
いつか掴むことの出来なかった、自分の人生へ。
気がつくことの出来なかった感情、気がつくことの出来なかった方法。
それをしっかりと握りしめるように手にし、見据えた先に待つ場所へ向かっていく。
慣れないことに対して初めは不器用で、どうしようもなくて上手くいかないことも沢山あるかもしれない。
だがゆっくりと、確実に彼は進もうとしている。
いつか掴むことの出来なかった、自分の人生へ。
もう一つの"もし"は、これから始まっていく。
【一日目夜/F-9教会跡地】
【狭間偉出夫@真・女神転生if…】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式、ニンテンドーDS型探知機
[状態]:人間形態
[思考・行動]
1:人間と触れ合ってみる。滅ぼすかどうかはそれから考える。
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。
【狭間偉出夫@真・女神転生if…】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式、ニンテンドーDS型探知機
[状態]:人間形態
[思考・行動]
1:人間と触れ合ってみる。滅ぼすかどうかはそれから考える。
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。
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139:0/1(いちぶんのぜろ) | 狭間偉出夫 | 150:2nd STAGE |