0/1(いちぶんのぜろ)

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 「0/1(いちぶんのぜろ)」。

 超えられない横線、解の無い公式。
 0と1――死と生。無と有。
 隣り合っているはずの両者の距離は、遠い。


「もう、いいよ。……ありがとう」

 ディアラハンを唱え続ける狭間偉出夫に声を掛けたのは、セーラー服に身を包んだ少女だった。
 狭間より少し年下に見えるその少女は涙を落としながら、それでも笑顔を作る。
 震える唇が引き攣って、無理をしているのは明らかで、それでも笑おうとしていた。
「詩ぃちゃんも、五ェ門さんも……蒼嶋さんも……死んじゃったんだよ」
「……ッ!!」
 その言葉に、狭間は少女の襟を掴み上げた。
 わなわなと手が震え、反論しようとしても何も言えず、ただその姿勢のまま少女を睨み付ける。

 どんな事でも、この頭脳で叶えてきたはずだった。
 狭間を軽んじて蔑んだ者達は学校ごと魔界に叩き落とし、強力な悪魔達を屈服させて従えた。
 今更――『人の死』程度を超えられないはずがなく、覆せないはずがない。
 魔神皇に、不可能があってはならないのに。
 有能である事を、万能である事を、それらを誇示する事でしか人に関わる事すら出来ないのに。

「蒼嶋さんと……友達だった?」
「!! ……ち、がう……ふざけるな、違う!
 違う、わ、私は……私は、私が殺すはずだった……!!
 殺す為に、私は……ッ!!」

 取り乱した姿は見苦しい。
 それでも喚く事しか出来なかった。
 見当違いな事を言う無礼な少女にメギドをぶつけようとしても、魔力は形を成さない。
 掴んでいた襟を手放し、少女に背を向ける。

 蒼嶋駿朔を殺す――それだけを目的にしていた。
 倒されたはずの自分がこうしてこの殺し合いに呼び出されたのはその為だと、それ以外何も見えていなかった。
 その目的を奪われた狭間は、空っぽになった。
 胸に空いた穴は塞がらない。
 これから何をするのか、何をしたいのかさえ分からなかった。
 虚無感と混乱が渦巻いている。
 この少女と向き合っているとそれらが破裂してしまいそうで、逃げ出したくなった。

「でも、悲しんでくれた……よね。
 レナは蒼嶋さんとちょっとしか一緒にいられなかったけど、蒼嶋さんの為に必死になって貰えて凄く嬉しかった。
 だからレナは、お礼を言いたいの」

 自分の事をレナと呼んだ少女は、狭間の背に向かってもう一度言う。

「ありがとうね……狭間さん」

 名を呼ばれ、狭間は振り返る。
 蒼嶋から容姿について聞いていたのか、制服のワッペンを見て同じ高校の者と判断したのか、レナは狭間の事をすぐに認識出来ていたらしい。
 だが蒼嶋から話を聞いているなら、狭間と蒼嶋の関係も知っているはずだ。
 知った上で『友達』などと宣った――虚仮にしているのかと、少女に対する腹立たしさが膨らむ。

「蒼嶋さんが言う程、悪い人じゃないみたいで良かった」
「何だと……?」
「お願いしても……いいかな、かな」

 狭間が言い返すよりも早く、レナが言葉を繋げる。
 勝手な解釈と物言いにより苛立ちを募らせるが、それはその後のレナの言葉と行動で驚愕に変わった。

「助けて下さい」

 深々と頭を下げられた。
 横でやり取りを見ていた男に対しても「ほら、北岡さんも」と言って頭を下げさせている。

「凄く強いって、聞きました。
 レナ達だけじゃ戦えないから……お願いします」

 狭間は今まで、誰かに感謝される事も頼られる事も経験した事がなかった。
 正面から礼を言われ、丁寧に願い事をされた、その後にどうしていいのかを狭間は知らない。
 困惑しながら視線を泳がせてしまう。
 しかし、思い当たる――「ありがとう」は、ご機嫌取りなのだと。
 助けて欲しくて、自分達が助かりたくて、魔神皇である自分に世辞を言っている。
 そうに違いない、この二人も今まで出会った人間達と同類だ。

「我が身がそんなにも可愛いか、愚かな人間共」
「違います」

 狭間の嘲りを迷わず断ち切って、頭を下げていたレナが顔を上げる。
 背筋を伸ばし、狭間の目を見据えてくる。
 魔法も使えない、ただの人間のはずなのに、狭間は身を固くした。

「この会場に、強い人がいっぱいいるんです。
 このままじゃ、みんな死んじゃうから……だから」

 凛としたその目は、青く燃えるようだった。


「一緒に戦って下さい。
 みんなを、助けて下さい」



 柊つかさジェレミア・ゴットバルトと共に総合病院を出た。
 リフュールポットが完成し、アイゼル・ワイマールの遺体を霊安室に運び終え、改めて黙祷を捧げ。
 病院ですべき事はなくなった。
 恐らくこの先、何か用が無ければこの場所にはもう訪れないだろう。
 訪れたとしても霊安室へは行かない――そんな時間があるなら錬金術に打ち込んだ方がいい。
 だから妹とも師とも、これでお別れだ。
 「さよなら」と、隣にいるジェレミアにさえ聞こえない声量で言う。

 ジェレミアとの間に会話は殆ど無かった。
 彼の主であるルルーシュ・ランページを殺害し、アイゼルの死の原因になった――つかさから話し掛ける事は出来ない。
 けれどポットで回復して動くようになった彼の右腕と、つかさの歩調に合わせて進んでくれる背に僅かな安堵を抱く。
 許して貰えなくても歩み寄れているはずだと、信じて前に進む。

 しかし病院を出てすぐにつかさもジェレミアも足を止めてしまった
 北岡秀一石川五ェ門と待ち合わせた南の民家までは一本道。
 故に迷う事はないだろうと思っていたのだが――つかさは空を見詰める。
 病院から見て北東、教会方面で上がっている黒煙は、数時間前にここで見たものと良く似ていた。
 北岡達が巻き込まれたのかも知れないと、そう思った途端に全身に震えが走る。
 北岡達は南の民家でつかさを待っていたはずだが、別れてから三時間以上が経過していた。
 つかさの帰りが遅くなれば病院まで迎えに来てくれると、約束していたにも関わらず来ていない。
 それは、来られない事情があるからではないか。

 つかさは自分の身を抱き締めるようにして震えを押さえながら、ジェレミアの様子を窺う。
 北東を見据える彼に、意を決して声を掛ける。
「あの、……」
「待ち合わせ場所から離れれば、入れ違いになる確率も上がる。
 そのリスクは分かっているのか」
 北岡達が巻き込まれた可能性も、つかさがそれを危惧している事も、ジェレミアは察していたようだった。
 突き放すような口調に気圧され、それでもつかさは頷いた。
「分かって、ます。
 でも……心配で」
 俯いて地面を身詰める。
 北岡や五ェ門が今無事でいるのか、考える程に胸が張り裂けそうになった。

 立ち止まったままでいたつかさを余所に、ジェレミアが歩き出す。
 向かっているのは北東だ。
「ジェレミアさん……?」
「様子を見に行くだけだ。
 北岡達の姿が無ければ予定通り南に向かう」
 つかさは思わず顔を上げるが、ジェレミアは既につかさの方を見ていなかった。
 僅かに歩調を早めたジェレミアを、つかさは小走りで追い掛ける。

 そうして無事でいて欲しい一心で進んでいたつかさだったが、道の途中で唐突に止まったジェレミアの背にぶつかった。
 謝ろうとするものの、当のジェレミアは特に気にしていない。
 正確には正面に気を取られ、つかさが当たった事にも気付いていないようだった。

枢木スザク……!」

 そう言ったジェレミアの声には微かに喜色が滲んでいる。
 彼と二人で進んでいた道の中央に佇むのは、栗色の髪の少年だった。
 情報交換の中で「殺し合いに乗っている可能性はない」とされていた、ジェレミアの知り合いだ。
「どうやら無事で――」
 しかしジェレミアが言い掛けてから口を噤む。
 スザクは全く笑わず、警戒も解いていなかった。
「ジェレミア卿、自分は――」
 苦々しく苦しげな表情を浮かべ、スザクが腰に挿していた銃を抜く。
 真っ直ぐにジェレミアと向かい合った目は濁り切っていた。

「もう、後戻り出来ないんです」


 スザクに銃口を向けられ、ジェレミアはつかさの制服の襟を掴んで持ち上げた。
 小さい悲鳴が上がったのも構わずにそのまま小脇に抱え、跳躍して弾を躱す。
 ジェレミア自身は銃弾を跳ね返す事が出来るが、下手に跳弾すればつかさに当たりかねないので回避を選んだ。
 とは言え、困惑は拭えない。

「君は、正しさを求めているものと思っていた」
「……僕は……間違っていません」

 スザクの強い否定に、ジェレミアは違和感を覚える。
 殺し合いを肯定しているようにさえ聴こえるその言葉は、ジェレミアが知る彼の人物像から大きく乖離していた。

 ジェレミアとスザクの縁は、第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニア暗殺事件に端を発している。
 当時純血派を率いていたジェレミアが犯人として捕らえたのがスザクだった。
 それはジェレミアの人生の転機、枢木スザク奪還事件――オレンジ事件へ繋がる。
 ジェレミアがスザクの人となりを知ったのは、その後の事だ。

 『ゼロ』に救出されたスザクは、わざわざ軍事法廷に戻って来た。
 結果的に特派がその後ろ盾の力で無罪にしたから良かったものの、それがなければどうなっていたか分からない。
 しかもそれから数日後、彼は純血派内の粛正で殺されようとしていたジェレミアを助けている。
 自分を陥れた相手を救おうとした彼の行為と考えは、まさしく『異常』――『異常』なまでに、正しかった。

「……我が君の命令でない限り、君とは戦いたくなかったのだがな」

 出会った時は純血派と名誉ブリタニア人として。
 これから起こるはずだった第二次東京決戦では黒の騎士団員とナイトオブラウンズとして。
 同じ陣営でも違う陣営でも、不思議と敵対する事になる少年。
 しかしジェレミアは、スザクとこの場でまで敵対するとは考えていなかった。
 ブリタニア軍、純血派、黒の騎士団、そうした組織のしがらみさえ無ければ戦う理由はないと、そう思っていたのだ。

「彼女の為に……僕は、戦うしかないんです」
「彼女?」

 ジェレミアの訝しむ声には反応せず、スザクが引き金を引く。
 抱えていたつかさを手近な民家の庭先に放り込み、ジェレミアは胸や腕に当たった弾丸を全て弾いた。
 スザクはその様子に目を見開いて驚愕していたが、なおも怯む事なく距離を詰めてくる。
 無駄弾の使用を嫌ったのか銃は腰に挿し直し、代わりに蹴りを繰り出した。
 地面を跳ね、体を浮かせた状態で放つ回し蹴り。
 それをジェレミアは右腕で受け止める。
 しかし蹴りを防がれた体勢からスザクは空中で体を捻らせ、ジェレミアの顔を狙って逆の足で蹴りを入れる。
 ジェレミアはその足首を左手で掴み、大きく振るってスザクを投げ飛ばした。
 宙を舞ったスザクは回転しながら体の向きを変え、ジェレミアから数メートル離れた地点に綺麗に着地する。

 改造されたジェレミアに引けを取らないスザクの身体能力を前に、汗が頬を伝う。
 ジェレミアは荷物を減らす為、移動中は刀も剣もデイパックの中に入れたままにしていた。
 リフュールポットに疲労回復の効果は無く、これ以上の体力の消耗を抑える為にはそうせざるを得なかったのだ。
 しかしスザクは徒手空剣で楽に勝てる相手とは言えず、デイパックから刀を抜く機会を窺いながら彼の真意を確かめようとする。
 可能なら説得、或いは戦闘不能を目指す――それらが無理なら、殺すしかない。


「『彼女』とは……ユーフェミア皇女殿下の事か?」


 その問いは、ジェレミアにしてみればほんの確認に過ぎなかった。
 だがスザクの変化は劇的だった。

「ゆ……ふぇ、み……あ?」

 スザクの手がガタガタと震える。
 顔色は血の気が引いたように真っ青になり、頭を抱えて指で掻き毟る。

「ち、がう……僕は……水銀燈……水銀燈の、……ちが……ゆ、……の為……に……?」

 ジェレミアとて、スザクと親しかった訳でも彼個人の情報を集めていた訳でもない。
 ただ嚮団で『ゼロ』がルルーシュであると聞かされてから、ルルーシュの真意を確かめる為に動いていた。
 ジェレミアが社会と隔絶されている間に起きたブラックリベリオンについても、当然調べている。
 ギアスの犠牲となったユーフェミア。
 そして彼女の騎士こそがスザクであり――スザクが『彼女』と言えばユーフェミアの事だろうと、単純に考えたのだ。
 その名が今のスザクにどれ程の混乱をもたらすのか、ジェレミアが知るはずがない。

「ああぁぁあああああぁぁあぁあぁぁぁああぁあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 眼にただ凶気と殺意を漲らせ、スザクがジェレミアに向かって駆け出した。



 スザクが洗脳されたのは偶然で、そうならない可能性は幾らでもあった。
 洗脳されるのがスザクである必然性もなかった。
 だがこうしてジェレミアとスザクが敵対した事は、恐らく偶然ではない。

――奇妙な関係だな、私と君は。

 それは第二次東京決戦の後、ジェレミアがスザクに告げるはずだった言葉の通り――


――結局敵となる運命なのかも知れない。



 真っ直ぐに歩く事さえ覚束ない状態で、スザクは目的地も無く彷徨っていた。
 ただ闇雲に他の参加者を探し、その中で偶然再会したのがジェレミアだった。
 昔の自分を知る相手を前にして、スザクは僅かに冷静さを取り戻す。
 ナリタ攻防戦で死亡したとされていた彼の生存に純粋な喜びさえあった。
 だが同時に、彼の姿を見て思う――「殺すなら今だ」と。
 カードデッキの制限はまだ解除されていないものの、ジェレミアは疲労を隠せていない上に非戦闘員を連れている。
 『彼女』の為に、ここで殺すべきだ。

――好きな人を生き返らせようと思うのは当然のことなんですから。

 しかし一時的に得た冷静さは、ジェレミアの一言で簡単に消し飛んだ。

「『彼女』とは……ユーフェミア皇女殿下の事か?」

――ユーフェミア皇女殿下

「ゆ……ふぇ、み……あ?」

 大切な名前――だった、気がする。
 思い出すべきだ、思い出したい、思い出してはいけない。

「ち、がう……僕は……水銀燈……水銀燈の、……ちが……ゆ、……の為……に……?」

 違う違う違う違う違う違う違う。
 水銀燈の為に、水銀燈を生き返らせる為に戦っている。
 水銀燈の為なら、水銀燈を生き返らせる為ならどんなものでも犠牲に出来る。

(でも……水銀燈といつ。
 どうやって出会った……?)

 裁判で無罪になった後、ゲットーを歩いている時に空から降って来た『彼女』。
 虐げられたイレブンの為に憤り、KMF同士の戦闘の最中にその身一つで仲裁に入った。
 『お飾りの総督』と呼ばれてもなお、日本の為に心を痛めていた彼女は――

――■ー■ェミ■・リ・■リ■ニア

――ユーフェミア・リ・ブリタニア

――ユフィ

 忘れるはずがない、忘れていいはずがない、大切な人。

 水銀燈が、好きだ。
 好きで、愛しくて、恋しくて、幾ら言葉を尽くしても足りない。
 足りないのに――何故水銀燈が好きなのか分からない。
 桃色の髪の『彼女』を好きになる理由は、幾つでも挙げられるのに。
 それなのに『彼女』の桃色の髪が、黒い羽根に埋もれて見えなくなっていく。
 漆黒のドレスに身を包んだ、薄紫の瞳の彼女しか見えなくなっていく。

 ユーフェミア――水銀燈。
 ユー水フ銀ェミ燈ア。
 水ユ銀フェ燈ミ。
 ユ水銀フ燈。
 水銀燈。
 水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈――


「ああぁぁあああああぁぁあぁあぁぁぁああぁあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 それは、比較してはならない事だった。
 水銀燈を無条件で愛し、焦がれなければならないのに、矛盾が生まれてしまう。
 だから脳がその矛盾を否定して掻き消すように、再び『彼女』の名と姿が打ち消される。
 記憶は混濁し、水銀燈と『彼女』に関する思い出が融け合い、水銀燈への思慕だけが残った。


 『彼女』の為に人を殺す。
 スザクの過ちを責める資格はジェレミアに無い。
 主の為、守りたいものの為であれば人を殺す事に抵抗は無く、既に一人殺害している。
 だからジェレミアもまた、スザクが相手であっても彼が障害となるなら殺せるのだ。
――だがそれはスザクの行動が「彼自身の意志によるもの」であったなら、の話である。

 スザクの精神が正常な状態にない事は明らかだった。
 もしも自らの意志に反して戦っているのなら、止めてやりたい。
 スザクに対してそう思うだけの借りがあり、情もあり、引け目もある。
 故にジェレミアは刀を抜く事を諦め、極力攻撃しないようにしながら呼び掛ける。
「枢木、一体何が――」
「うるさい!!」
 スザクの蹴りがジェレミアの鼻先を掠めた。
 何を言ってもまともな応答はなく、ただ加減を知らない拳と蹴りを躱し続ける。
(ギアスか……!?)
 記憶の操作、特定の対象への人工的な感情――ギアスが掛かっているのなら、スザクの置かれている状況に説明がつく。

 避け切れなかったスザクの拳が頬に当たり、ジェレミアがよろめく。
 しかし追い打ちを狙って踏み込んで来たスザクに対して右足を振り上げ、スザク自身の勢いを逆手に取って胸に蹴りを入れた。
 肺を圧迫して強制的に後退させ、距離が出来たところでジェレミアは仮面を開く。

 緑色の義眼が青白く輝き、逆さのギアスの紋が浮かび上がった。
 そしてその眼を中心に、辺りを青い光が包む。

「これで……――!?」
 しかし突然ぐら、とジェレミアの視界が歪んだ。
 強烈な吐き気と全身の倦怠感に襲われ、平衡感覚が失われる。
 倒れそうになったところで目に入ったのは、変わらず殺意を帯びて乗り込んでくるスザクだった。
 ジェレミアの鳩尾に蹴りが食い込み、コンクリートの地面に叩き付けられる。
 仰向けになったジェレミアの上にスザクが馬乗りになり、ジェレミアの首に手を掛けた。
「か、は……っ」
 呼吸しようと喘いでも息が出来ない。
 スザクの手首を掴んで剥がそうとするがその力は緩まなかった。

 苦痛の中で、ジェレミアはスザクの顔を見る。
「水……銀燈……水銀燈、水銀燈、」
 譫言のように一つの名を呟きながら、スザクは泣いていた。
 子供のようにポロポロと涙を零し、それがジェレミアの頬に落ちる。
 首を絞められている最中のジェレミアよりもなお、苦しみが深く見えた。

 気道を塞がれて視野が狭まり、指先が痺れ、感覚が消えていく。
 それでもジェレミアは手を突き出し、スザクの首を掴んだ。
 ここで自分が死ねばスザクを止められず、更に犠牲者が出る。
 しかも次はつかさの番だ。
 アイゼル、それにストレイト・クーガーから託されたものが「守れない」。
 これ以上手にしたものを取り零すまいと、この時だけは手加減を止めて首を締め上げた。
 スザクの口から呻きが漏れる。
「……ッ」
 互いに首を絞め合い、肉を千切らんばかりに指を食い込ませる。
 そして下敷きにされた不利な状況から、ジェレミアはスザクごと横倒しになった。
 同時にスザクの頭を地面に叩き付け、彼の握力が弱まった瞬間に彼の手首を掴んで首から引き剥がす。
 咳き込みながらもその手を掴んだまま体を起こし、今度はジェレミアがスザクの上に馬乗りになった。
 両腕を押さえ付けられて藻掻くスザクに、それを押し留めようとするジェレミア。
 しかしこのままでは、消耗しているジェレミアが先に力尽きる。

「枢木……これが、君の本心だと言うのか……!!」

 ギアスのせいでないのなら、本当に自らの意志なのか。
 自分から狂気に走り、殺し合いに加わったのか。
 自分を有罪にしようとする裁判に自ら赴き、のみならず敵を窮地から救った枢木スザクの選択なのか。
 ジェレミアが息を切らしたまま責めるように叫んでも――スザクには届かない。



「好きな人を生き返らせようと思って……何が悪いッ!!!」



 訪れていたはずの未来で、スザクは神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝のナイトオブゼロの席に。
 ジェレミアはナイトオブワンの席に着いた。
 そして、二人は他の協力者達と共にゼロ・レクイエムを成すはずだった。
 悪逆皇帝に鉄槌を下す仮面の英雄『ゼロ』として――悪逆皇帝を守る騎士ナイトオブワンとして。
 だが今は、スザクとジェレミアは共犯者ではなく敵対者に過ぎない。
 0と1の名ををそれぞれに冠するはずだった二人の距離は、余りに遠かった。



 泣きながら咆えるスザクを前に、ジェレミアは言葉を失った。
 生き返らせたい人はいる、果たしたい忠義もある。
 だが生き返らせられる可能性を捨てて他の参加者を守ろうとし、その人の仇と行動を共にしている自分の忠義はどこにあるのか。
 散々迷い、葛藤し、諦めがついたはずだった。
 だがスザクの叫びに、己の支えとしていた芯が僅かに揺らぐ。
 アイゼルの死を看取っても涙一つ流せなかった自分よりも、泣き叫ぶスザクの方が余程人間的で――腕に籠めた力が抜けてしまった。

 スザクが上半身のバネの力だけで起き上がり、押し退けられたジェレミアが倒れる。
 立ち上がったスザクに対し、ジェレミアも片膝を着いて体を起こすがそれ以上は動けなかった。
 スザクの手がジェレミアの襟に伸びる。

「やめてええええええええええええ!!!」

 戦う事も出来ない、有用な支給品も持たない、無力な少女の声。
 狂気と殺意が渦巻いた場が時を止めたような静寂に包まれるが、それも数秒の事だった。
 今のスザクには、つかさの声も届かない。

 しかし彼女の声は、信頼する仲間には届いていた。
 スザクがジェレミアから視線を外し、ジェレミアもその音を聞いた。
 数人が地面を蹴って走る足音に、男女の話す声が混じる。

「つかさちゃんッ!!!」

 駆け付けたのは北岡と見知らぬ少女だった。
 スザクはその姿を見て多勢に無勢と判断したらしく、道路脇の塀を足場にして跳躍。
 民家を乗り越えるようにして逃走する。
「待て、枢木……!!」
 ジェレミアが呼ぶ声も届かないまま、スザクはその視界から消えた。


 部活メンバーも、真紅も、千草貴子も、蒼嶋も、皆死んでしまった。
 思い出すと涙が出そうになるが、レナは制服の袖で目元を拭う。
 これ以上犠牲になる人を出してはいけない。
 レナの身代わりのような形で死んでいった真紅や蒼嶋に誇れるように生きようと、強く思う。

 だが狭間へ向けた要請は断られた。
「何故この私が、貴様らに協力しなければならない?」
 もっともな言い分に、それでもレナは何とか説得しようとする。
 しかし後ろにいた北岡は我関せずといった調子で、狭間が地面に投げ出していた機械を拾い上げた。
「これ何?」
「……参加者の位置を知る為のデバイスだ。
 私には最早無用な品だ、貴様らにくれてやる」
 北岡は「それは都合がいい」と言って機械を操作する。
 狭間を前にしても緊張感の薄い北岡にレナは戸惑うが、北岡が何も考えずにそうしている訳ではない事に気付いた。
 気楽そうに話しながら、目は真剣そのものだ。
 やがて北岡は一通りの操作を終えると機械の電源を落とし、狭間に差し出した。

「返すよ。必要な事は分かったから」
「……」

 くれてやる、と言った傍から返されたのでは狭間の機嫌を害しかねない。
 事実狭間が眉を顰めたのだが、北岡は構わずに言う。

「俺達は柊つかさって子と合流する。
 俺達に協力する気になったら、このデバイスで追って来てくれ」

 狭間が目を丸くして絶句する中、北岡は五ェ門と蒼嶋、それに園崎詩音の遺体を教会の敷地内に移動させた。
 既に教会は原型を留めていなかったが、道端に置き去りにするよりはとレナもそれを手伝う。
 その途中で北岡がデルフリンガーの残骸を、レナはブラフマーストラを回収する。
 そうして北岡とレナが動き回っている間も、狭間は立ち尽くしていた。

「じゃあ、待ってるよ」

 そう言って北岡は狭間に背を向け、レナもそれに続く。
「待、……」
 狭間は何か言い掛けたが、その先が発される事はなかった。



「来ると思う? あいつ」
「分かりませんけど、あれで良かったと思います」
 不安そうに尋ねる北岡に、レナは力強く頷く。
 尊大な態度と話し方の狭間ではあったが、レナにはそれが背伸びしているだけのように見えた。
 蒼嶋に死なれた衝撃を含めたとしても、そもそも人と話をするだけで精一杯に思えたのだ。
 狭間の言動や振る舞いを短い時間ながら観察し、レナは彼について悪い感情を抱かなかった。

 蒼嶋による狭間の評は決して良いものではなく、狭間自身も蒼嶋を殺すつもりだったと言っている。
 実際に会っていれば間違いなく喧嘩になっただろうし、殺し合いになっていたかも知れない。
 けれどその後は、友達になっていたかも知れない。
 可能性の一つでしかないけれど、レナにはその光景が想像出来た。
 蒼嶋が下らない事を言って、狭間が呆れて。
 狭間が人を小馬鹿にしたような事を言って、蒼嶋が言い返して。
 そんな関係も、あり得たのだと思う。

「狭間さんには考える時間が必要なんだと思います。
 素直に来てくれるかはちょっと分かりませんけど、あのまま無理強いするよりずっといいです」
「……ま、こっちも誠意は見せたからね。
 今は早くつかさちゃんに会おう」

 つかさとH-8の民家で待ち合わせた――しかし北岡が機械で確認した彼女の位置はG-9だったという。
 エンドオブワールドの派手な爆発もあり、心配してこちらに向かっているのかも知れない。
 G-9なら今いるエリアの隣で、すぐに合流出来るはずだ。

 だがそう遠くない距離から聞こえてきた悲鳴で、二人の間に緊張が走る。
「こっちだ!!」
「はい!」
 北岡がその方角に向かって走り出し、レナもそれを追い掛けた。


 北岡がつかさとの再会を喜ぶ暇もなく、すぐに移動する事になった。
 自力では立ち上がれない程に疲弊したジェレミアに肩を貸し、付近の民家に身を隠す。

 リビングに置かれた四人掛けのテーブルにそれぞれが着席して向かい合うと、北岡を中心にしてすぐに情報交換を始めた。
 北岡とつかさ、つかさとジェレミアで同行している時間が長いので、数十分もあれば終わる。
 コードやギアスについても知らなかったのは北岡のみで、その説明もすぐに済んだ。

 その中で五ェ門とデルフリンガーの最期についても触れたが、つかさは泣かなかった。
 この場にいないという時点で既に察していたのだろう――北岡がアイゼルについて気付いていたように。
 唇を噛んで下を向き、震えていたつかさはやがて顔を上げる。
 無理に笑顔を作ったその顔は、蒼嶋を失くした直後のレナの表情に似ていた。



「その、少し……意外でした。C.C.さんから聞いた印象と違ってて」

 それぞれが話を終えてから、レナはそう口にする。
 視線の先にいるのは、それまで沈黙していたジェレミアだった。
 新たに使ったポットで殆どの怪我が治癒したものの疲労は深刻で、話はつかさに任せていたのだ。
 暫く休んだお陰か先程よりも顔色は少し良くなっており、レナもそれを見越して声を掛けたのだろう。
「私が何か?」
「支離滅裂な言葉遣いで追い掛け回されて、海底に無理心中する羽目になったって」
 数秒の気まずい静けさの後、ジェレミアはレナから目を背けた。
 「改造されたばかりの頃は脳内活動電位とニューロフィラメントが」等と専門用語を並べているが、事実ではあるらしい。
「しかし、それは一年前の事だ。
 嚮団殲滅戦では同じ部隊に属し、何度も顔を合わせているというのに何故その話になる?」
 気を取り直すように問うジェレミアに対し、レナは困ったように言う。
「C.C.さんはその殲滅戦の話もしていませんでした。
 嚮団が健在なのを前提にして話していたと思います」
 話の食い違いは激しく、北岡も首を傾げずにはいられなかった。

 ジェレミアもC.C.も嘘を吐いているとは思えない。
 C.C.に直接会った訳ではないが、この二人の話の多くが共通しており矛盾もないからだ。
 加えて、どちらにも互いの関係を偽るメリットがない。
 これからV.V.や嚮団を相手にしようという時に、殲滅したかどうかという重要な情報を操作する意味もない。
「ま、そこはC.C.と直接会って話し合わないと結論は出ないでしょ」
 これ以上続けても無駄と判断し、北岡が切り上げる。
 狭間のデバイスをやはり受け取っておくべきだったかと若干の後悔はあるものの、今は言っても仕方がなかった。

「で、それはギアスキャンセラー……ってのが原因なのか?」
 話題に区切れがついたところで、北岡はかねてからの疑問を口にする。
 ジェレミアが身動きを取れなくなる程の、極度の疲労。
 元々連戦で疲弊していたせいもあるだろうが、スザクを説得している最中に突然この状態になったのだという。
「恐らくは……しかし、本来はこうはならん。
 C.C.の回復の遅れ、ロロのギアスの変調……V.V.にそんな力があるかは疑問だが、何か手を加えられた事は確かだろう」
「でもスザクが正気に戻らなかったんなら、そもそもキャンセラーが発動しなかった可能性だって――」
「あの、」
 北岡が言い掛けたところへ、つかさが口を挟む。

「キャンセラー……ちゃんと発動、してたと思います。
 私……思い出しました」

 ジェレミアがキャンセラーを発動させた時、すぐ傍にいたつかさも巻き込まれたという。
 そして‘忘れさせられていた記憶を取り戻した’。


 いつも通りの、電車での帰宅。
 それなりに混んだ車内で座席に座り、姉の柊かがみと何気ない雑談を楽しんでいた。

 だが気付くと、車両から人がいなくなっていた。

「あれ……?」
 おかしいな、ぐらいの軽い気持ちで顔を上げ――そして、出会った。
 無人の車内で姉妹の他に唯一残った、くすんだ銀色の髪に驚く程整った顔立ちをした少年。
(うわあ、かっこいいなぁ……幻の美形、って感じ)
 今になって思い返せば、ルルーシュとどこか似た雰囲気を纏っていたように思う。
 けれどその時のつかさは何の警戒心も抱かずにぼんやりとしていた。
 そして少年は言葉を発した――その眼に赤い鳥の紋を浮かべながら。


「柊かがみ、そして柊つかさに命じる。
 私に大人しくついて来い。
 そして会場に着いたら、私の事は忘れろ」



 その後、小早川ゆたかの首が爆破された場まで記憶は途切れているらしい。
 「忘れさせられた」記憶はキャンセラーで戻っても、ギアスに掛かっている間「忘れてしまった」記憶は戻らないようだ。
 この銀の髪の少年についてはジェレミアも知らないという。
 北岡も興味があったのでキャンセラーを掛けて貰いたかったのだが、ジェレミアが疲労している今は避ける事にする。

「キャンセラーは発動してた、と。
 スザクについては水銀燈ってのに聞いた方が早いかもね」
 スザクが口走った名前であり、真紅も警戒していた水銀燈。
 彼女がギアス以外の方法でスザクを洗脳した、と考えるのが自然だ。
「何にせよ、今は休もう」
 情報が増え、混乱してきた部分もある。
 今は休憩し、その後は――この会場にいる危険人物を、排除する。

 浅倉威
 北岡の宿敵であり、ジェレミアにとっても縁の深い相手。
 五ェ門とも、浅倉との決着をつけると約束した。
(随分長い付き合いになっちゃったけど……そろそろきっちり、決めようか)
 浅倉が今教会の傍にいる事はデバイスで確認している。
 浅倉も、北岡との最後の戦いを望んでいるはずだ。
 再び手にしたデッキを見詰め、北岡はその時を待つ。


【一日目 夕方/Gー9 民家】
【北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]:レイの靴@ガン×ソード
[所持品]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎@二時間変身不可、レミントン・デリンジャー(0/2)@バトルロワイアル、デルフリンガーの残骸@ゼロの使い魔、
     支給品一式(水を消費)、確認済み支給品(0~2)(剣・刀では無い)
[状態]疲労(大)、軽症
[思考・行動]
1:浅倉と決着をつける。
2:ギアスキャンセラーに興味。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。
※レナと情報交換をしました。

竜宮レナひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[所持品]:支給品一式、インスタントカメラ(数枚消費)@現実、空飛ぶホウキ@ヴィオラートのアトリエ、真紅の下半身@ローゼンメイデン、
     Kフロストマント@真・女神転生if…、ブラフマーストラ@真・女神転生if…、庭師の鋏@ローゼンメイデン
[状態]:疲労(大)、悲しみ
[思考・行動]
1:C.C.、ヴァンと合流する。
2:翠星石蒼星石も探す。
3:水銀燈、後藤、シャドームーン、白髪の男(縁)、浅倉、スザク、ロロを警戒。
[備考]
※ギアス、コードについて一定の理解を得ました。
※北岡達と情報交換をしました。

【柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式×2(水のみ三つ)、確認済み支給品(0~2) 、レシピ『錬金術メモ』、陵桜学園の制服、かがみの下着、リフュールポット×4
[状態]疲労(中)
[思考・行動]
1:錬金術でみんなに協力したい。
2:もっと錬金術で色々できるようになりたい。
3:みなみに会いたい、こなたは……
[備考]
※錬金術の基本を習得しました。他にも発想と素材次第で何か作れるかもしれません。
※アイゼルがレシピに何か書き足しました。内容は後続の書き手氏にお任せします。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。

【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]無限刃@るろうに剣心
[所持品]支給品一式×2(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×2@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた、
    ミニクーパー@ルパン三世、不明支給品(0~2)、琥珀湯×1、フラム×1、薬材料(買い物袋一つ分程度)、メタルゲラスの角と爪、
    エンドオブワールドの不発弾(小型ミサイル数個分)、メタルゲラスの装甲板、ヴァンの蛮刀@ガン×ソード
[状態]右半身に小ダメージ、疲労(特大)、精神磨耗、両腕の剣が折れたため使用不能
[思考・行動]
1:浅倉とV.V.を殺す。
2:他の参加者に協力する。クーガーとの約束は守る。
3:全て終えてからルルーシュの後を追う。
4:スザクを止めたい。水銀燈を特に警戒。
[備考]
※病院にて情報交換をしました。
※制限により、ギアスキャンセラーを使用すると疲労が増大します。他にも制限があるかも知れません。
※ロロ殺害について、この場にいる三人には伏せています。

※ジェレミアとC.C.以外の参加者は、銀髪の少年のギアスによって会場に集められたようです。他にも例外はあるかも知れません。


 誰も追って来ない事を確認してスザクは走る速度を緩めた。
 度重なる記憶の混乱で脳に負荷が掛かり、心臓が脈打つ度に頭を殴られるような痛みが走る。

「水銀、燈……」

 ジェレミアのキャンセラーで、スザクに掛けられた二つのギアスが解除された。
 ルルーシュによる「生きろ」というギアスと、会場に連れて来られる際に掛けられたギアス。
 しかし連れ去られた時の記憶が戻っても、行動が変わる訳ではない。
 ただスザクも知らない間に、彼の親友の『願い』は消された――皮肉にもその親友の家臣であるジェレミアの手で。
 スザクが己の意志に反して生き残る事はなくなり、水銀燈の為に命を捨てる事も可能になった。
 望んだ通りの、結果を得た。

 ルルーシュを撃った。
 ルルーシュのギアスが消えた。
 真に親友との繋がりが断ち切られ、スザクは独りになった。
 偽りの愛情の対象が生存している事すら知らないまま、スザクは舞台の上で孤独に踊り続ける。


【一日目夕方/G-8 市街地】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ(アニメ)】
[装備]:ゼロの銃(弾丸を六発消費)@コードギアス 反逆のルルーシュ、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎
[所持品]:支給品一式×2(食料は一つ多め)、ワルサーP-38(3/9)@ルパン三世、ワルサーP-38の弾薬(11/20)@ルパン三世、
     日輪の鎧@真・女神転生if...、Kフロストヅーラ@真・女神転生if...、確認済み支給品0~1(武器はない)
[状態]:ダメージ(中)、惚れ薬の効果継続中、記憶と精神の一部に混乱、疲労(大)、強い頭痛。
[思考・行動]
1:参加者を全員殺し、水銀燈を生き返らせる。
2:狭間偉出夫は絶対に許さない、見付け出して殺す。
[備考]
※ゾルダの正体を北岡だと思っていましたが、違う可能性に気付きました。
※水銀燈は死亡したと思っており、ユーフェミアの事を思い出せなくなっています。
第二回放送を聞きませんでした。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。


 北岡とレナが立ち去って数十分経っても、狭間は一歩も動けずにいた。
 今はV.V.への憎悪すら虚しい。

 北岡達の所に行くのか、行かないのか。
 残された選択肢を前に、狭間は何も出来なかった。
「ふざけるな……下賤な人間風情が、私に何を……」
 DS型探知機を握り締めた拳が震える。
 探知機が用済みなら、このまま握り潰してしまえばいい。

――ありがとうね……狭間さん。

 何を言われようと、所詮人間如きの言葉なのだから聞き流せばいい。

――じゃあ、待ってるよ。

「何故、私が……!!」

 北岡達の提案を下らないと思う一方で、怯えていた。
 矢野暁子に恋文を贈った時のように、保健医の香山に体を求めた時のように。
 狭間が動いたところで否定され、拒絶され、嘲笑されるのではないかと――怖かった。

 探知機を壊す事が出来ない癖に、素直になる事も出来ない。
 言葉が出ない、理解出来ない、動き出せない。
 出来ない事、知らない事ばかりが目の前に並べたてられる。
 これでは魔神皇になる前と、変わらない。

「何故、死んだ……」

 お前さえ死ななければこうはならなかったのにと、狭間は蒼嶋の遺体の前に跪く。
 体は隣り合っていても、0(死)と1(生)の間にある距離は余りに遠い。
 爆発が起きたばかりの地面は煤だらけで、膝を着いただけで真っ白だった制服が灰に汚れた。
 握っていた探知機が手から落ちても、拾えない。
 握り締めた拳を地面に叩き付ける。
 地面に這い蹲って、何度も、何度も、叩き付ける。

「うっ……うぅっ、うぅううう……ッ!!」

 何に憤っているのか、何に戸惑っているのか、何に悲しんでいるのか、我が事でありながら何も分からない。
 声を押し殺しながら、自分の流した涙で濡れた地面を何度も叩く。
 ただ癇癪を起こした子供のように、それだけを繰り返した。

「わぁぁああああああぁあぁぁあああああああああああ!!!!!」

 狭間の慟哭は続く。
 狭間偉出夫が立ち上がるには、まだ暫しの時間が要る。


【一日目夕方/F-9教会跡地】
【狭間偉出夫@真・女神転生if…】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式、ニンテンドーDS型探知機
[状態]:疲労(小)、精神疲労(中)、人間形態
[思考・行動]
1:北岡達に協力する……?
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。


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127:死せる者達の物語――I continue to fight ジェレミア・ゴットバルト 147:FINAL VENT - 戦わなければ生き残れない
柊つかさ
138:It was end of world(後編) 北岡秀一
竜宮レナ
狭間偉出夫 149:真・女神転生if...{break;}
枢木スザク 152:SAMURAI X



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