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幕間1

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幕間1  ◆.WX8NmkbZ6



 戦闘に次ぐ戦闘、決着に次ぐ決着。
 手に汗を握る戦いの後に訪れるのは“静”の時間。
 弾丸飛び交うわけでなく、血飛沫舞い散るわけでない小休止。
 舞台の上に立つ彼らが得た、束の間の休息の時。

 これは戦いの幕が下りた後の、幕間の物語。
 再び幕が上がるまでの、取るに足らない物語。


▽



 幕間劇1



 放送が始まると、C.C.はヴァンにバイクを停めるよう指示した。
 しかし二人ともバイクから降りる事はなく、C.C.はヴァンの背中を下敷き代わりにして必要な事柄をメモしていく。
 そして放送の終了と共に溜息を吐いた。
 生存者、残り二十四名。
 想像以上に殺し合いが進んでいる。
 死者の内訳も、C.C.の気分を重くした。
 あの坊やが死んでから半日経ったのか――という感傷は振り払い、目先の事を考える。

 直接関わった蒼嶋駿朔、杉下右京、ルパン三世。
 元からの知り合いであるロロ・ランペルージ。
 右京と合流予定だったという南光太郎、カズマの探し人の由詑かなみ。
 岩崎みなみの同級生の泉こなた。
 ルパンの仲間である五ェ門と月、田村玲子。
 蒼星石はレナが初めて出会った参加者である真紅の姉妹にあたり、詩音もレナの友人だ。
 C.C.はアイゼル・ワイマール以外の全ての名前を聞き及んでおり、いずれも協力者足り得る相手だと認識していた。
 特に蒼嶋の死がC.C.を焦燥させる。
 レナの名前は呼ばれなかったが、何らかの戦いに巻き込まれた事は想像に難くない。

 考えるうちに、進行方向――東で轟音が響く。
 更に建物の上空に見えた白い影は、ミラーモンスターであるダークウイングとどこか似て見えた。
 戦闘が起きている。
 放送の一件もあり、レナがそこにいる可能性を考えて背筋が寒くなった。
 それでも感情を殺し、表情を隠して平静な声を作る。
「ヴァン、行くぞ――……?
 おいヴァン、もう出発していいぞ」
 しかしバイクが走り出す気配がない。
「おい――」
「動かない」
「は?」
 短く告げられた事実に耳を疑う。
 ヴァンの背後から覗き込めば、バトルホッパーのライトが不自然に明滅していた。
 エンジンの立てる奇妙な音は、啜り泣きに似ている。
 その音は「ライダー」と呼び掛けているようにも聴こえた。

「……何だ、お前も誰かに死なれたのか?」
 バイクに意思があるわけがないと思いながら、半ば自嘲するように言う。
 ライトが一際目立って明滅する中、ヴァンは拳を握ってエンジンに軽くぶつけた。
「だとしても、俺達は急いでるんだ。
 分かってるだろ」
 ヴァンがどこまで本気で言っているのか分からなかった。
 だがそのうちに明滅は収まり、エンジンが正常に掛かる。
 突然の不具合の原因も知れないまま、ヴァンは意に介さずにバイクを走らせた。



 緋色の空に立ち上る紅蓮の炎。
 ヴァンとC.C.が到着した時には全てが終わっていた。
 その場にいたのは五人、武器を持つ者はいても構えている者はいない。
 レナの姿はなかったが、代わりに見覚えのある顔を見付ける。
 地べたに座り込んだ茶髪の男と、それに寄り添うように佇む小柄な少女だ。
「お前達は……あの時車で寝ていたな。
 確か城戸真司と、翠星石。
 右京から私達の事は聞いているだろう?」
 茶髪の男――真司は力なく頷いた。
 到着したタイミングは、良かったとは言えないようだ。
 真司の目の前にある消し炭は、大きさからして元は人だったのだろう。
 事情を聞こうとバイクから降りて真司に近付くが、その間に学ランの少年が割り込んだ。

「あんた、最初の会場でV.V.に突っ掛かってたよな」

 既に何度目かになる指摘にC.C.は足を止める。
 鬱陶しげに長い髪を掻き上げて、自分よりも背の高い少年に見下すような視線を向けた。
「確かに私はV.V.を知っている、持っている情報をお前達に渡してもいい。
 だが、どうやら取り込み中らしいな?」
 包帯の男とこの少年は随分余裕のある表情をしている。
 対する残りの三人の表情は厳しく、両者の間にある溝は明らかだった。
 面倒なゴタゴタに関わる気はない、情報が欲しければさっさと場を纏めろ。
 暗にそう示しながら見ていると、真司が立ち上がった。
「なぁ……重要な話があるっていうのは、本当なのか?」
「ああ、とっておきの情報だ」
 少年にそれを確かめると、真司は耐えるようにグッと歯を食い縛る。
 真司一人なら我を通せても、翠星石がいる以上どこかで妥協せねばならないのだろう。
 「分かった」と真司が震える声で言うと、包帯の男は笑みを深めた。

「決まったな、まずは移動しよう。
 こっちとしては、地図に載ってる施設に行きたいんだが」
 場の主導権を握っているのはこの少年らしい。
 ここから近いのは図書館か、総合病院か――そう候補を挙げたところでC.C.が口を挟む。
「西からシャドームーンが向かっている。
 戦闘を避けたければ相応の場所を選んだ方がいいだろうな」
 シャドームーンの名前に真司と翠星石が反応する。
 他の三人には心当たりがないようだったが、『強力な危険人物』という点は伝わったようだった。
 見たところ五人とも万全の状態には程遠く、一番余裕があるのが一番重傷に見える包帯の男だという奇妙な状態だ。
 反対する者はおらず、総合病院に向かうという事で話が決着した。

 サングラスの男が消し炭となった死体の傍らにあったデイパックを拾い上げ、真司に投げ渡す。
 弔いさえ出来ない事に未練があるのか、一同が歩き出してからも真司は何度もその場所を振り返っていた。

▽

 ヴァンとC.C.という二人の新たな参加者の訪れは幸運だった。
 総合病院へ向かう道中、互いの名前だけの簡単な自己紹介を頭に入れながら三村は思う。
 ずっと探していたV.V.の関係者で、赤いライダー――城戸真司と知り合いのようだった。
 貴重な情報源であり、殺し合いに乗っていないと証明する手間も省けた。
 それにあのまま五人だけで話していては真司と志々雄が決裂していたかも知れない。
 人が増えた事で空気が変わり、話し合いに持ち込みやすくなった。

 そう、話し合い。
 「この場にいる五人を気絶させ、その間に首輪を解除する」のではない。
 三村は元々穏便に済ますつもりでいるがそれ以上に、志々雄にその気がないからだ。

 志々雄がここにいる五人に負けるとは思えない。
 真司、クーガー、翠星石の三人は満身創痍でヴァンも負傷しており、C.C.は聞いた限りでは不死以外の能力はない。
 しかし志々雄は初めからここで戦闘をする気はないようだった。
 思えば、今回だけではない。
 ロロ。
 後藤二回。
 シャナ。
 これまでの戦闘で、志々雄は戦いを「仕掛ける」が「深追いをしていない」のだ。
 カードデッキには時間制限があるが、志々雄はデッキ無しでも充分強い。
 それなのに敵を執拗に追い掛け回すような真似はしない。
 今回もシャナは殺害に至ったが、それ以外の面々に対してはどうも「戦って気絶させる」という選択を想定していなかったようだ。

 好戦的な志々雄にしては、随分穏当な手段を選んできているように思う。
 そこで三村は一つ、考えた。

『志々雄は連続戦闘が出来ないのではないか』

 主に対して失礼な仮説。
 しかしもしも強大な力を持つ志々雄にそんな弱点があるのだとすれば、それを補ってこその犬だ。
 この状況で如何に話を志々雄に有利に進めるか、それだけを目的に三村は思考する。
 今の三村にとっての光の照らし出す方に、開かれた未来を目指すように。



 既に日が落ちた宵闇の中、半壊した病院は独特の不気味さを纏ってそこにあった。
 そこかしこに鎮座する瓦礫に広がる血痕、崩れた壁からは鉄骨が突き出している。
 首輪を解除するなら人が多い方がいい――とは思っていたものの、既にジェレミアとつかさはここを離れたようだった。

 まずは体力の残っているヴァンとC.C.、三村が簡単に見て回り、端末を探し出してネットに接続出来る事を確認。
 そして霊安室の扉を開き、四人の遺体を発見した。
 そこで三村が感じたのは恐怖でも悲しみでもなく、呆れだった。
(……あの後、アイゼルの死体を運んだのか)
 数時間前に病院を訪れた、その際に得られた情報を反芻する。
 後藤、志々雄、三村、クーガーという面々が去った後、残っていたのはジェレミアとつかさのみ。
 怪我人と女子高生だけでわざわざ死体を移動させて弔った、その行為を三村は『無駄』と判じたのだ。
(志々雄が配下に入れたがらなかったのも分かるな……)
 そう思える程度に、志々雄の『教育』は三村の中に浸透していた。

 霊安室の扉を閉ざす。
 生きた参加者が居ないのなら、それ以上そこに用はなかった。

 施設の中に人がいない事を確かめた後、一同は一階のエレベーターホールに集まった。
 クーガーによれば、朝方にもこの施設で大人数の情報交換を行ったらしい。
 電気はまだ通っていたものの肝心の蛍光灯の大半が割れており、明かりはランタンに頼らざるを得なかった。
 ただし真司やクーガーの体力は限界に近く、三村が本題に入るのを後回しにして暫しは雑談に留める事にする。

 各人が破壊を免れた椅子に腰掛け、思い思いに休息を取る。
 そんな中で、翠星石が席を立った。

「先に確かめておきたい事があるです」

 そう言って翠星石は座っていた真司の手を引き、ホールの片隅に置かれた鏡の前に立つ。
 人一人が裕に全身を映せる程の大きさの鏡。
 横一直線に亀裂が走っていたが、それでも翠星石の姿を映すには充分だった。
 それから翠星石が鏡に向かって一歩踏み出し――その足を下ろす前に、元の位置に戻した。
 翠星石はきょとんとした顔をし、再び踏み出しては戻す。
「何してるんだ?」
 三村の気持ちを代弁するように真司が問う。
 翠星石はその声に振り返らないまま答えた。
「……翠星石を、後ろから押せです」
「は?」
「いいから押すです」
 翠星石以外の全員が怪訝な顔を浮かべる。
 それでも真司は言われるままにその背を押した。

「い、いぃぃ嫌ですっ、触るなですぅうう!!!」
「いってぇ!?」

 突然、翠星石が藻掻くように抵抗を始めた。
 振り返って真司の頬をはたき、息を弾ませる。
 呆然とする真司を見て、翠星石もハッとして口元を押さえる。
「ち、ちが、これは……」
 慌てて言い繕う翠星石――その襟を、志々雄が背後から掴み上げた。
「!!? は、離っ……」
 翠星石が驚愕して暴れるが、志々雄への恐怖が勝って本気で殴る事も出来ないようだ。
 真司やクーガーが目を剥いて止めようとしたが、志々雄はそれを意に介さない。
 志々雄が翠星石を鏡の中に放り込もうとすると、翠星石は眼の色を変えた。

 志々雄の腕に、翠星石が如雨露を叩き付ける。
 叩き付けようと、した。
 だが志々雄はそれより前に手を離し、翠星石は床に落下する。
「きゃっ……」
 真司がその体を受け止め、体を打つのは免れた。
 だが真司は志々雄に向かって強く睨む。
「おい、お前――」
「この嬢ちゃんには鏡の中に入る力がある。
 にも関わらず入れない、入ろうとすると自分の意思に反して拒んじまう。
 確かめたかったのはこんなところか?」
 別に翠星石を傷付けるつもりで手を出したわけではない――それを示すように志々雄が確認を取る。
 それは的を射ていたようで、呆気に取られていた翠星石も素直に頷いた。

「この会場に連れて来られてからずっと、nのフィールドに入れないのです。
 鏡の前に立つと入りたくなくなって……」

 nのフィールド。
 その単語に三村は息を飲んだ。
 あのサイトに列挙されていた項目の一つ、『nのフィールドの危険性』。
 殺し合い脱却の手掛かりがあるかも知れない単語だ。
 しかし翠星石の言わんとしている事は何となく分かるものの、原因が分からない。
 三村も考え込むが、C.C.があっさりと答えを出した。

「ギアスだな」

 一同の視線が翠星石からC.C.へ移る。
 確かにギアスがつかさから聞いた通りのものであれば、人の精神に干渉出来るはずだ。
 志々雄も顎に手を当てて頷く。
「成る程な。
 もしそうなら、ジェレミアのぎあすきゃんせらあとやらを使えばそこに入れるようになるってわけだ」
 しかしC.C.の返事は、完全に予想外のものだった。

「キャンセラー……?
 何だそれは」

 時間が止まったような沈黙。
 三村だけでなく、志々雄もクーガーも面食らったようだった。
「ギアスを解除する?
 そんな都合のいい能力があるはずがないだろう。
 しかも、選りに選ってジェレミアだと?」
「いやいや、貴女はジェレミア卿の仲間でしょう?」
 苛立ちを露わにするC.C.に対し、クーガーが会話に割って入って言う。
 だがそれは火に油を注ぐ結果となった。
「誰が仲間だ!!
 確かに知ってはいるが、あいつのせいで私がどれだけ迷惑を被ったと……!」
 話が全く噛み合わない。
 ヒントが見付かったという興奮から一転、三村は頭を抱えた。

 C.C.の話を纏めれば。
 ジェレミアと最後に接触したのは一年前、顔の半分に奇妙な機械を装着していた、仮面ではない。
 支離滅裂な言動でルルーシュごと追い掛け回された末に、面倒だったので海中に押し込んでやった。
 その後ジェレミアは嚮団に回収された可能性がある。
 『ゼロ』を恨んではいたが極端な保守派である純血派を率いていたので、その正体がルルーシュと知れば従うかも知れない。
 なおC.C.自身は嚮団の殲滅について全く知らない、あり得ない。
 ギアスをキャンセルする能力も聞いた事がない。

 三村がつかさ経由で知ったジェレミアの情報と一致する部分もあれば食い違う部分もある。
 一番納得出来ずにいるのは、直接ジェレミアと話した事があるクーガーだった。
「そういうタチの悪い冗談は通じないタイプだと思うんですけどねぇ」
「ならば、冗談を言っているのは私か?」
「そうは言いませんがねぇ」
 クーガーとC.C.が緊迫した空気を纏う中、志々雄が顎で三村の方を指す。

「三村、仮説を挙げてみろ」
「あいよ」

 埒があかないと思ったのだろう。
 無茶を言ってくれる、と悪態をつきたくなるものの、こうなる事は想像していたので諦める。
 三村は少し間を空けて考えを纏めてから、口を開く。
「仮説一つ目。
 C.C.か、ジェレミアか、もしくは二人とも記憶を操作されてる可能性だ。
 C.C.はV.V.の関係者なんだ、喋られたら困る情報があったのかも知れない。
 記憶の混乱を起こして誤解を生んで、そこから殺し合いを加速させる……なんてのもあるかもな」
 「まさか、出来るわけが」と言い掛けてC.C.は口を噤む。
 頭から否定出来ない程度の信憑性はあるようだった。

 ただしこれ一つでは志々雄が納得しないだろうと、他の仮説も捻り出す。
「この会場にいる参加者は色んな世界から集められてる……これは共通認識でいいよな?」
 前提を確かめると、五人それぞれに心当たりがあるようで頷かれた。
「シンプルに考えれば、C.C.が知るジェレミアと参加者のジェレミアは別人。
 これが仮説その二だ」
 エリア11にブリタニア、大東亜共和国、エンドレスイリュージョン――違いすぎるせいで、感覚が麻痺している。
 もっと近似した世界、同じ顔と名前の別人が生きる別世界があるかも知れない。
 パラレルワールドという言葉を使った方が説明が楽なのだが、志々雄にこれを教えるのは逆に面倒なので避けた。

「で、仮説その三だが……参加者間で違うのは世界だけじゃない。
 志々雄は何と明治時代に生きてたらしいぜ、西暦で言ったら一八七八年。
 世界どころか時代までバラバラってこった」
 明治時代、という言葉で一同の表情が驚愕の色に変わる。
 ヴァンだけは舟を漕いでいる――初めから話を聞いていないようなので無視する。
「時代っつうと分かりにくいけど、時間だ。
 時間がバラバラ……もしかしたらC.C.は将来、ジェレミアと仲間として再会するのかも知れない。
 で、C.C.は再会する前の時代――時間から。
 ジェレミアは後の時間から来た」
 一通り説明し、息継ぎをする。
 荒唐無稽は今に始まった話ではないのだから、笑い飛ばされる事はないはずだ。

 実際、「筋は通っている」という事でC.C.やクーガーも落ち着いたようだった。
 仮説二か三なら本人達が嘘を吐いているのでも記憶を弄られているのでもなく、受け入れやすいだろう。

「さて……改めて、少し休んだらどうだ?
 このままじゃ本題どころか普通の情報交換も出来ないだろ」

 ここで大切なのは正解となる仮説を考える事ではなく、揉めている連中を納得させて大人しくさせる事。
 その意味で三村の思惑通りの結果になっていた。

▽

 暫しの休憩で一同の息が整った頃。
 志々雄と三村、クーガー、C.C.が中心となって、休憩を兼ねながら情報交換を行っていた。
 真司は聞かれた限りの事を答えながら、頭では別の事を考えている。

――誰も死なせない、誰も殺させない……誰も、泣かせたりなんかしない!
――お前がこのままだったら、きっとここから人がまた消えてしまう!
――もうここから消えてしまう人なんて出さない!

――それが俺の『正義』だ!

 気付けば情報交換は終わり、三村の言う『本題』までまた少し時間を置く事になったようだった。
 悩んで迷っていられるのも、ここが最後だろう。

「クーガー、少し……いいか」

 真司はクーガーに対してそう切り出す。
 振り向いたクーガーの顔色は悪く億劫そうではあったが、浮かべる表情は真剣だった。
「俺……分からないんだ。
 どうすればいいのか……どうすれば良かったのか……」
「俺に相談するもんかねぇ……俺だって散々取り零してる真っ最中だってのに」
 自嘲するクーガーだったが、話を聞く姿勢は見せてくれた。

 神崎優衣の為に全てのライダー――北岡や浅倉、東條、それ以外も全員を倒すと決めた。
 殺すと決めた。
 しかし結果は無関係の劉鳳の死。
 それからずっと戦ってきたが、何も変えられなかった。
 新一とミギーが死んだ。
 蒼星石とこなたと右京とかなみが死んだ。
 放送では光太郎の名が呼ばれたという。
 シャドームーンは倒せず、桐山や浅倉は止められず――そして、シャナが殺された。
 ライダーを殺すという決意が半端だったように、何もかも半端なまま失った。
 人を守る為にライダーになった、はずなのに。

 これまでの事は、情報交換の中で全て話した。
 だから真司はただ真っ直ぐに思いを吐露する。

「俺は、何も出来てない……劉鳳さんの意思を継いだのに!!
 これじゃ、何にもしないのと同じだ……!」

 握った拳が震える。
 しかしそれを聞いたクーガーは余裕の表情を見せた。
「あのなぁ……劉鳳が完璧な男だったと思うか?
 早とちりするわ一人で突っ走るわ人の話を聞かないわ、お前と良く似た大馬鹿野郎だぞ」
 肩を微かに揺らし、苦笑する。
「で、お前さんは俺に何を言って欲しいんだ?
 俺が『もっと頑張れ』つったら頑張って、『もういい休め』っつったら休むのか?」
「っそ、それは……」
 言い澱む真司に対し、クーガーは畳み掛けた。
「俺はそれでも最速で走り抜くと決めている、俺の魂を信じている」
 黒い、胡散臭いとも言えるサングラスを外す。
 弱り切っているはずなのに、真司に向ける目は鋭く力強い。

「お前はどうなんだ、城戸。
 お前はどうしたいんだ。
 走りたいのか、走りたくないのか、何も出来ないまま死にたいのか」
「俺はっ……」

――善悪の問答をするつもりはないけど、この世に生きる存在にとってはそれこそが『正義』なのよ。

――所詮、コイツは弱かったのさ。俺が殺さなくても誰かが殺したさ。

――結局、人は死んでるだろ?

 気持ちを吐き出す。
 シャナの言葉に、志々雄の言葉に、三村の言葉に、押さえ付けられていた言葉を絞り出す。


「それでも、守りたいんだよッ!!」


 怒声に近いその声に、会話に参加していなかった面々まで振り返った。
 それに構わず、真司は息をついてクーガーを見据える。
 クーガーはそれを見て満足気に笑みを深めた。

「何だ、最初から決まってるんじゃねぇか。
 俺もお前も、バカは考えずにただ行動するだけ……ってな」

 言って、座り直して真司に背を向けた。
(そうだ……俺は……)
 叫んだ言葉を反芻する。
 気付くと、隣には翠星石が座っていた。

「真司」

 一瞬間があった。
 翠星石に名前を呼ばれるのは初めてかも知れない。

「翠星石は、お前がいなかったらもう死んでるです」

 翠星石の言葉を聞きながら、真司は呆然としてしまった。
 真剣だった翠星石の表情はやがて赤く頬が染まり、真司から目を逸らす。
「お、お前が翠星石の事を忘れているみたいだったから、思い出させてやっただけですぅ……」
 頬を膨らませ、それからふっと表情を消した。

「お前がいつまでも落ち込んでいたら……危なっかしくて、翠星石がへこんでられないです。
 迷惑ですぅ」

 真司がハッとして息を飲み込む。
 真紅を、そしていつも一緒にいた双子の姉妹である蒼星石を失った。
 それに劉鳳、新一、こなた、右京、かなみ、シャナ、光太郎――真司にとっての喪失は、ずっと同行していた翠星石にとっての喪失でもある。
 L達と別れた後に泣いていたが、それも僅かな時間だった。
 落ち着く暇もなく戦いに巻き込まれ、ここにいる。
 泣いたぐらいで、休んだぐらいで、立ち直れるはずがない。
 そこまで気付いてやれなかった事を恥じ、「ごめん」と謝った。
「だ、だだ、だから、とっととシャキッとしろって事ですぅ!!」
 高さの合わない椅子に無理矢理座り、足をぱたぱたと揺らす少女。
 翠星石なりの不器用な気遣いと子供らしい仕草に、真司は思わず笑みを零した。
「な、何を笑ってやがるですか!!」
「いや、悪い……わざとじゃないんだ」
 やかましくがなる翠星石の頭に手を置く。

「守るよ。
 劉鳳さんの代わりとかじゃなくて……俺が守りたいから守るんだ」

 「あ」とか「う」とか、顔を真っ赤にしたまま呻くような声を出していた翠星石は、そのうちに真司の手を振り払った。
「い、今更すぎるですぅ!!」
 ふい、とそっぽを向いた翠星石を見ながら、真司は決意を新たにする。
 翠星石だけではない、生き残った参加者を守る。
 シャドームーンや志々雄の好きにはさせない。
 その為なら、殴り掛かる悲しみさえ全身で打ちのめす。


「そろそろ、頃合いか」


 怪人の声が一同の鼓膜を揺さぶる。
 その響きは、真司の決意を嘲笑うように。

▽

「ヴァン」

 呼ばれる声に、目を開ける。
 大きな欠伸をしながら周囲を見渡せば、小難しい話し合いは一応終わったようだ。
「今度こそちゃんと聞いていたんだろうな?」
「……すみません」
 前にもこのようなやりとりがあったような気もするが、忘れた。
 隣に座る緑髪の女は目を鋭く細めたが、溜息と共に肩を竦めて笑みを見せた。
「期待はしていなかったよ」
 機嫌が良いのか悪いのか、はっきりしないがヴァンにはどうでも良い事だった。
 ともかく話があるから話し掛けてきたのだろう、これ以上機嫌を損ねない程度に聞いておく事にする。

「私は、V.V.の関係者だ」
「それは聞いた」
「……この殺し合いは、私のせいで行われているのかも知れない」
「それは初耳だ」

 改めてC.C.は説明を始めた。
 V.V.と親しい者達の間で進めていた計画に賛同していた。
 あるきっかけでその計画との縁を断ち切る事になったが、今も未練がないとは言えない。
 世界の意識を統一する計画――そこまで聞いたところで、ヴァンは眉を顰めた。
 カギ爪の事を思い出し、胸が悪くなる。

「V.V.は子供の頃の理想を、未だに追い求めているのかも知れない。
 それを増長させたのは私で……この殺し合いがあの計画に関わっているのなら、私は」
「あんたはもう協力してないんだろ」
「協力はしていない、しかし」
「してないんなら、いいだろ」

 聞くのも話すのも面倒になってきた。
 再度欠伸をし、言いたい事だけを言って話を終わらせる事にする。

「あのな……俺は筋を曲げるのが嫌いなんだ。
 この殺し合いが終わるまで、俺はあんたの護衛。
 それで問題あるのか?」

 人はいつか死ぬ。
 必ず消える。
 だから心に嘘はつかずに生きていく。
 緑髪の女の返事は数秒の間を置いて、溜息と共に吐き出された。

「……ないな」

 その短い言葉の響きに、苛立ちは見受けられなかった。
「ヴァン、私は初めて会った時よりもお前を見直している」
「そりゃどーも」
「私の名前は覚えたか?」
「……すみません」
 これも、怒られはしなかった。
 代わりに手を差し出される。

「私はC.C.だ」
「そうか、俺はヴァン。
 今は無職のヴァンで通ってる」

 手を差し出されるままに取り、握手する。
 そうして漸くヴァンは『C.C.』という名を認識した。

 手を離したところで丁度、真司の怒鳴るような声。
 C.C.の意識がそちらに奪われた事でヴァンとC.C.の会話は終わった。

▽

 椅子を移動させ、七人が円を作るようにして座った。
 立っているのは一人――三村だけだ。
 これから三村の言う『本題』に入るという段で、クーガーはその姿を油断なく観察する。
 無論、志々雄に動きがないかという点も常に注意していた。

「志々雄と俺は、首輪の解除方法を見付けた」

 最初の一言でヴァン以外の全員の目付きが変わった。
 真司に至っては立ち上がりそうになった程だ。
 それでもクーガーやC.C.が冷めた視線を、ヴァンが寝ぼけ眼を向ける中、三村は話を続ける。

「ただしそれには条件が要る……五人以上の参加者が一ヶ所にいなきゃならない。
 だから俺達は、あんた達を集めたんだ」

 曰く、五人集まれば首輪の爆破機能が停止する。
 停止している間にカバーを外し、決められた順序で配線を切れば首輪は外れる。
 シンプルと言えばシンプルな解除方法。
 三村がそこまで説明したところで、クーガーが手を挙げた。
「話の腰を折って悪いが。
 その方法はどこで見付けたんだ?」
「教えられないな。
 情報を持ってるってアドバンテージの大きさは分かるだろ。
 誰も彼もが知ってちゃ情報の価値がなくなる」
 三村の言い分はもっともだ。
 これが不服であっても、協力しないとも言えない。
 互いに益のある話だ。
 嘘の可能性はあるが、少なくとも殺すつもりなら志々雄は既に殺しているだろう。

「五人に一人が首輪を外せる。
 つまりこの中で、三人。
 これ以上こっちの情報は渡せない、それでも協力して貰う……それだけじゃフェアじゃない。
 だから条件を出す」

 場を支配しているのは三村――否、三村と全て算段を決めてあるであろう、志々雄真実。
 不本意ではあるが、飲むしかない。

「志々雄の首輪を外す協力をして貰う……つってもそこに居て貰うだけだが。
 代わりにあんた達の中の二人の首輪を、俺が外す。
 悪い話じゃないと思うぜ」

 集めるのが死んだ参加者でいいのなら、志々雄はこんな面倒な方法は取らない。
 しかし、志々雄は「この場の全員を武力で制圧して気絶させ、その間に首輪を外す」という手段を持っている。
 まだ話し合いという手法を使っているうちにこの条件を飲まなければ、志々雄は動く。
 クーガーがC.C.に目配せすると、C.C.も頷いた。
 飲むしかない事は分かっているようだ。

「君は、それでいいのか」

 三村にそう尋ねたのは真司だ。
 志々雄に反発している真司には、三村が当然のように志々雄を優先している事に抵抗があったのだろう。
 対する三村は「仕方ないだろ」と事もなげに返す。
「俺が解除して貰うには、他に配線をいじれる人間が必要だ。
 情報を広げられない以上、諦めるしかない」
 クーガーはその言葉の裏に「志々雄が最優先に決まっているだろ」という本音を垣間見た。
 完全に心酔している三村に、何を言っても無駄だろう。
 話題を戻すように、クーガーが言う。

「……翠星石とC.C.、だろうな」

 C.C.は不死だと言うが、女子供を差し置いて首輪を外すわけにはいかない。
 それこそ志々雄の計算通りになっているのかも知れないが、これ以外の選択肢はなかった。
 三村と志々雄に反発する真司も翠星石の為ならと折れ、ヴァンは最初から興味がないらしい。
「なら、これで――」
「その前に、もう一つこっちから条件がある」
 話を進めようとした三村に、クーガーが言葉を被せる。

「解除の順番は志々雄が最後だ」

 本当に外す事が出来るのか、罠ではないかを試すという意味では志々雄が最初でも良い。
 しかし志々雄の首輪が外れた後、残る二人の解除の約束を反故にされる可能性がある。
 逆はあり得ない――志々雄に対抗出来る人間は、この場にいない。
 同時に罠である可能性もないと見ていいだろう。
 絡め手を使わなくても、志々雄ならばここで全員殺せるのだから。
 そんなクーガーの提案に応えたのは、三村ではなく志々雄だった。

「ククッ……いいぜ、構わねぇ。
 俺が最後だ、そっちの順序にまでは口出ししないでおいてやるよ」

 未だ志々雄の掌の上――志々雄は上機嫌だった。
 そして話が纏まると、「ならば私からだ」とC.C.が席を立つ。
「本当に解除出来るのか、見せて貰おう」
 不死故の自信。
 翠星石への配慮でもあるのだろう。
 三村はそれを了承し、首輪の解除が始まった。

 三村の指示に従って三人が首輪のカバーを外す。
 呆気なく外れたカバーは金属音を立てて床を転がった。
「成る程、中身は流体サクラダイトか。
 確かにこれなら首が飛ぶ」
「そう言えばあんたの世界ではポピュラーな品なんだったな」
 雑談に近い会話をしつつ、三村がC.C.の首輪の配線を切っていく。
 解除中は三村の手元を見ない約束になっており、クーガーにはC.C.の背が障害物となって視界を妨げていた。

 時間にして二分程度。
 再び金属音が響き、首輪だったものが床に落ちる。
「……本当に、外れた……」
 真司が思わず声を漏らす。
 クーガーも余りの呆気なさに驚いていた。
 三村が配線を切る順番を暗記している――というのを差し引いても、そもそもの構造が単純過ぎるのではないか。
 クーガーの同僚のアルター、スーパーピンチのような大型のロボットが闊歩するC.C.やV.V.の世界の技術にしてはお粗末だ。
 クーガーがその理由について考えているうちに、翠星石の首輪も外された。

「さて、最後だ。
 手を滑らすなよ、三村」
「分かってるって」

 軽口と共に志々雄の首輪解除が始まり、外れる。
 その時の志々雄の表情を見て、クーガーは一つの後悔をした。
 配線が切られている途中に最速でこの場を離れ、志々雄を殺すべきだったのではないか。
 卑怯極まりない、文化的でない美しくないその考えが、一瞬巡った。
 普段のクーガーならば決して考えない手段を考えた、その原因。

 首輪という枷のなくなった志々雄の顔に浮かぶのは、狂気にして狂喜。
 この男の枷を無くす事は、凶悪な鬼を人里に放すようなものなのではないか――
 考えても、遅い。
 首輪の解除は終わったのだ。
 時計の時刻は二十一時を回っていた。

「ちょっと俺と志々雄は席を外す。
 構わないだろ?」
「どこに行く?」
「休憩室だ、すぐそこだよ。
 話があるんだ」

 三村が指したのは、同じフロアにある一室。
 廊下を真っ直ぐ数メートル程進んだところにある部屋だ。
 ここから別行動を始める――というのなら、そう言えばいい。
 何を企んでいるのかという不気味さはあったが、了承する事にした。

「十分だ、それ以上掛かるようなら呼びに行く」
「……ああ、いいぜ。
 十分経っても出て来なかったら、呼びに来るなり扉を蹴破るなり好きにしてくれ」

 一応の保険として制限時間を設けたが、三村の表情は涼しげだった。
 そして志々雄と三村は部屋に入り、鍵を掛ける音が廊下に響く。


 時計の針が動く。
 十分――志々雄と三村が部屋から出てくる事は、なかった。


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143:夢見るように目覚めて ヴァン 150:2nd STAGE
C.C.
148:緋色の空-the sky of FLAME HAZE-(後編) 城戸真司
志々雄真実
翠星石
ストレイト・クーガー
三村信史



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