再会

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再会  ◆EboujAWlRA



【再会】


カズマの盟友である君島邦彦の愛車を運転しながら、上田は周囲を見渡した。
辺りもすっかり暗くなってしまった。
ちょうどこの殺し合いが始まった夜闇と同じ暗さだった。
とは言え、あの時と違うことは多々ある。
例えば、傍に居るのは可愛らしい由詑かなみではなく辛気臭い成人男性のLであることとか。
この大きな身体と小さな心も傷ついてしまったこととか。

「次郎号と勝手が違うと、どうも落ち着かないな」

上田の言葉はLに話しかけた言葉ではなく、沈黙に耐え切れないあまりの独り言だった。
Lは上田の独り言にも耳を傾けず、じっとニンテンドーDS型詳細名簿を見つめている。
上田だってLが自分のことを無視しているわけではないことはわかっている。
Lは頭脳をフル回転させてなにかを考え込んでいるのだ。
本来ならば知的労働は大学教授たる私の役目なのではないか、と考えたが上田は車を運転している。
相変わらず覇気のない顔で黙り込んだままだが、今のLには得も知れぬ迫力があった。

「……」
「なにかわかったのか」
「いえ、あまり」

Lの素っ気ない言葉に上田は肩を落とす。
シャドームーンを倒すと大見得を切ってから、Lはずっとこの調子だ。
ただ黙りこくって何かを考えている。
上田が気になって尋ねてみても要領の得ない曖昧な答えが返ってくるだけ。

「ふぅ、全く……」
『なぜベストを尽くさないのか』

上田はため息を漏らすと同時に手元の上田次郎人形を弄る。
ただ、この場を打開できない閉塞感だけが上田を支配していた。
今の場所は総合病院、城戸真司翠星石の姿はいまだ見つからない。
上田は苛立つように指先で車のハンドルを叩いていしまう。

その瞬間だった。

「むっ、な、なんだ!?」

夜の闇に支配されていた突然周囲が光りにあふれる。
上田は車を止めて、窓から後方を確認する。
月光を超える光量が、北にある山から柱のように輝いていた。

「あ、あの光は……!」
「……」

上田には緑光に心当たりがある。
二人のライダー相手にも猛威を奮っていたシャドームーンのシャドービームと全く同じ光だ。
Lもまた目を見開いている。
思えば、Lはシャドームーンの力を知らない。
この天を照らすほどの光で、初めてシャドームーンの力の一端を垣間見たのだ。
だが、Lの目は驚きにこそ満ちているが、諦めの色はなかった。

「な、なんだよ、あれ……!?」

同時に総合病院から五人ほどの集団が隠れるように出てくる姿を見つけた。
Lと上田と同じく北に現れた強烈な光の柱に目をやっている。

「……んぉ!? っと、ん、あれは!」

根が臆病である上田はその集団に一瞬だけ怯えを覚えるが、すぐに安堵で胸を下ろした。
その集団の中に顔見知りの姿を見つけたからだ。

「城戸くんに翠星石くんじゃないか!」

不幸なことであるが、上田次郎の顔見知りはすっかり少なくなってしまった。
出会った人間の多くが既にこの世には居ない。
生存者は隣にいるLと、鞄の中で眠る水銀燈、また、目の前の集団に現れた城戸真司と翠星石。
そして、恐怖の存在に他ならないシャドームーンだけだ。

車を一時停止させると、上田は車外に出る。
車に乗っていた人間が上田であることを確認すると、警戒に表情を染めていた城戸の顔が和らいだ。

「上田さん、Lさん!」
「どうも、城戸さん。思ったよりも早く再会できて良かった」

Lは真司の背後に居る翠星石、そしてクーガーを始めとする初対面の三人へと声をかける。
そして、一も二もなく真司と翠星石へと視線を向ける。
その視線から逃れるように、翠星石は真司の背後に隠れた。

「城戸さん……光太郎さんが死にました。それは、知っていますね?」
「……ええ、知っています」

真司が重苦しい言葉で応える。
志々雄真実三村信史との情報交換で放送の内容は把握している。
その中に南光太郎の名前があった。
真司は光太郎がライダーによく似た戦士であることを知っている。
それほどの人物が死んでしまったのかが不可解だった。

「どうして、死んだんですか?」

だからこそ、簡単に残酷な問いを投げかけてしまう。
Lが顔を伏せると、長い前髪がすっかりLの表情を隠してしまう。

「光太郎さんを殺したのはみなみさんです」
「………………は?」

真司の口から漏れた言葉は間抜けな音だった。
翠星石もまた虚を突かれたように表情を崩している。
Lは畳み掛けるように、あるいは誤魔化すように早口で説明する。

「彼女の心にかかった負担を甘く見ていました。
 二人も知人が目の前で殺されて、普通の女の子が平常で居られるわけがなかった」
「……殺し合いの、報酬ですか?」
「そうです、彼女は一度その奇跡に目が眩んだ。そして、この剣で光太郎さんを刺しました」

Lは女神の剣を掲げながら、重々しい言葉で告げる。
後悔の念に塗れた、聞き手も辛くなるような声色だった。

「ですが、光太郎さんの死に際の説得でそのまま殺し合いを肯定する立場にはなりませんでした」
「光太郎さんは、みなみちゃんを守れたってことですか?」

光太郎は死んでしまったのに、そのように思ってしまった。
Lは真司の言葉に頷き返すと、さらに言葉を続けた。

「そして、翠星石さん。桐山和雄は死にました。
 確かにカズマさんが……我々が殺しました」
「……そうですか」

父と同じくらい愛する双子の妹である蒼星石を殺害した少年、桐山和雄。
その死を知っても、複雑な想いしか翠星石の胸には生まれない。
桐山が死んだところで蒼星石は戻ってこない、喪失感も埋まりはしない。
死という取り返しの付かない事実の前には爽快感もなにもない。
たとえ憎い相手の死でも、胸のやりどころをなくしてしまった喪失感が上回る。
ただあるのは、物事に一つの区切りがついたという気持ちだけだった。
それだけは収穫だった、留まっていた場所から次の場所へと向かうことができる。
それはLも同じだったのだろう。

「Lさん、そう言えばみなみちゃんは……車の中ですか?」

真司の当然の疑問に、相変わらず暗い顔のまま言葉を続ける。

「……また、桐山との交戦によってカズマさんとみなみさんも死にました」
「なっ!?」

真司と翠星石よりもクーガーがより強く反応を示す。
前に立っていた真司を押し出すように身を乗り出し、Lへと詰め寄る。

「カズマが!?
 っ、それに岩崎みなみって言うと、かがみさんの……!?」

クーガーがカズマの知り合いだということは、誰もがわかるほどの動揺の仕方だった。
らしくない。
出会ったばかりの真司ですらそう思うような動揺の仕方だった。

「かがみさん……はい、柊かがみさんはみなみさんの知り合いと聞いていますので、間違いないでしょう。
 そして、私はカズマさんの命も、みなみさんの命も救うことは出来ませんでした」
「そ、その……私もだ。結局、なにも出来なかった」

Lは隠そうともせずに、だが、重い口調で応える。
そのLの言葉に上田も続く。
両者ともに、後悔の念が見て取れた。

「アイツは、カズマはアンタ達と一緒だったのか?」
「……はい、私達がその死を看取りました。間違いなく、カズマさんは死にました」

顔をうつむかせ長い前髪でその瞳を隠しながら、Lはゆっくりと話した。
後悔の念しかない。
人の死を覆せない以上、Lは失敗したのだ。
そして、その犠牲はL自身ではなくカズマやみなみへと訪れた。
いや、もっと言えば右京や光太郎もLの選択次第では生き残っていた。
その後悔はクーガーにも痛いほど伝わってきた。

「そうか……アイツは、アンタ達と……」

クーガーはなにかを考えるように張り詰めていた表情を徐々にほぐしていく。
そして、肩の力を抜き、自然体のままに言った。

「そいつは、最悪じゃなかったみたいだ」
「ク、クーガー!?」

だが、そんなLに向かってクーガーは穏やかな声をかけた。
その言葉に対してL以上に動揺したのは真司だ。
まるで人の死を歓迎するようなクーガーの物言いに、怒りよりも先に戸惑いを覚えたのだ。

「アイツの最後は一人じゃなかった。
 かなみちゃんが死んでも、アイツは一人じゃなかったんだろ?」

動揺する真司を無視するように、クーガーは言葉を続ける。
志々雄と三村によって真司が光太郎の死を知っているように、クーガーもかなみの死を知っている。
だからこそ、カズマのことが心配だった。
ライバルとも言える劉鳳が死に、近しい人物だった橘あすかも死んだ。
そして、最愛の少女である由詑かなみまで死んだ。
そんなカズマが、一人ではなく誰かに看取られて死んでいったというではないか。
クーガーはそこに一つの答えを見つけていた。
そして、カズマの死を悔やんでいるLに対して、なにかを伝えようとしているのだ。

「一人で生きて、一人で戦って、一人で死ぬ……悲しいだろ、そんなの」

クーガーの脳裏によぎるのは一人で粋がる一匹の餓鬼。
ただ目的もなく生き続けかねない無頼漢の姿だ。

「アイツの周りに人が居た。そして、周りの人間のアンタ達にもアイツが居た。
 かなみちゃんも居ないのに、カズマの周りにはそんな奴らが居てくれた」

それはLに言っているのか、それとももうこの世には居ない出来の悪い弟分へと言っているのか。
普段のクーガーが使う早口とは違う、ゆったりとした言葉だった。

「だけど、アイツは一人じゃなかった……だから、安心しただけだ」

そして、クーガーはやはりあの特徴的な清々しい笑みを見せる。
Lと上田に対して、そして、死んでしまったという岩崎みなみへと向けて。

「それと、ありがとよ」

ただ、クーガーは礼を言っていた。
それはなんの気休めでもない。
カズマの知人として、兄弟分として、カズマと共に居てくれてありがとうと。
心の底から礼の言葉を出していた。

「……ありがとうございます」

それに対して、Lもまた礼の言葉を返していた。
救われたわけではない。
Lの動き次第ではカズマの死を避けることが出来たのかもしれないのだから。
それでも、クーガーの言葉はLの心を楽にする言葉ではあった。

「ただ……」

なにかを思うようにクーガーは呟いた。
夜空を眺めるように顔を上げ、しかし、瞳は閉じたままだ。

「俺の速さが、また間に合わなかったってことだな」

その無念の想いを感じ取り、Lは静かに目をつぶる。
クーガーは、Lは人の命の危機に間に合わなかった。
だが、それを引きずっていても仕方ない。
たとえ誰に恨まれようとも、今生き残っている者たちの命を守らなければいけない。

「城戸さん達はどこへ向かっているのですか?」
「いや、今まで病院に居たんですけど。その、ちょっと危険だから離れようと……
 って、そうだ! Lさん、首輪のことなんですけど!」
「むっ、首輪が外れているじゃないか!」

真司の言葉に上田は興奮したように答えるが、Lは対照的に落ち着いた様子だった。
精神的に追い詰められていた上田は今まで気づいていなかったようだが、Lは気づいていたのだ。
どこまでも冷静であるが、上田の反応を見てLは自身の情が薄いように感じて自己嫌悪の念を僅かに覚えた。

「はい、そちらの女性と翠星石さんの首輪が外れていることですね。
 聞こうと思っていましたが、その点も含めて一度腰を落ち着けたい。
 情報の整理……というよりも、考えておきたいことがありますので。
 貴方たちが首輪を外した場所へ、案内してくれませんか?」

そして、LはC.C.へと視線を向ける。
黒目がちの瞳が永遠の若さを保っているC.C.の美貌を射抜いた。

「そちらの女性はC.C.さんですね」
「そういうお前がLか」
「はい、私がLです」

C.C.は杉下右京からLのことを聞いている。
Lは猫背の背中をさらに丸めて、軽くお辞儀をする。

「首輪のことだけでなく、様々なことを聞きたいのですがよろしいでしょうか」
「……仕方ないだろうな」

これからのことを考えて、C.C.は少しだけため息を漏らした。
C.C.の関わっていた計画は、『ラグナレクの接続』は話していて気持ちのいいことではない。

「病院に入るか。目立つが、現場で話した方がお前も都合がいいだろう」
「助かります。
 上田さん。車を目立たない場所に……おっと、その前に」

C.C.の提案に対してLは猫背のまま頭を下げて礼を告げた。
そして、翠星石へと向き直った。

「翠星石さん」

話しかけてくるLに対し、翠星石はさらに隠れるようにして真司の背中へと動く。
Lから見れば、もうその長い髪とフリルのドレスしか見えないほどだ。
翠星石はLが苦手だ。
小さな翠星石ですら見上げるような、こちらを窺ってくる瞳がどうにも好きになれない。
やましいことはないのに、その腹を探られているような不快感があった。
だが、Lはそんな翠星石に向かって普段通りの淡々とした口調で話しかける。

「ここに来る途中、貴方の姉妹と出会いました。
 そして、今ここで眠っています」
「姉妹……って、水銀燈!?」

そのLの言葉に翠星石が驚きの声を上げる。
まさか、その名が飛び出すとは思っていなかったのだろう。
そして、Lの指さした先の上田の手元にローゼンメイデンには馴染み深い鞄を見つけたからだ。

「はい、水銀燈さんです。上田さん、起こしてください」
「ああ」

Lの言葉に上田は手元の鞄を開く。
その中には一つの人形が眠っていた。
銀色の髪と漆黒のゴシックドレスを着た愛らしい人形だ。

「ん……んん……」
「す、水銀燈! お前って奴はなに呑気に眠ってやがるですか!」
「なによ、うるさいわね……って、す、翠星石!?」

翠星石の問い詰めるような口調に対し、水銀燈は強く動揺して顔を隠すようにそっぽを向いた。
強気で憎たらしいまでに余裕ぶる水銀燈らしくない態度だった。
翠星石は顔を不可解な色に染め、水銀燈へと問いかける。

「……水銀燈、いったいどうしたですか?」
「うるさい、黙りなさい! いいから、こっちをジロジロ見ないでちょうだい!」
「はぁ!? いったい何様のつもり……って、その脚……」
「うるさいうるさい! 黙りなさい!」

翠星石が気づいたのは、ドレスの裾から伸びている脚が欠けていることだった。
左脚が欠損しているのだ。
もちろん、人形であるローゼンメイデンがその傷は致命傷に陥るようなものではない。
だが、その傷には死以上の意味があった。
父から授かった身体に傷がつくということは、ローゼンメイデンにとって死以上の苦しみがあったのだ。

「……水銀燈」
「なによ、その目は……翠星石なんかが、私を見下してるの!?」

同じローゼンメイデンである翠星石にだけは知られたくなかった。
その姿に翠星石は戸惑ってしまう。
水銀燈には尋ねたいことがあった。
蒼星石を襲ったことや、今まで何をしていたのか、なぜ殺し合いに乗ってしまったのか。
だが、その言葉が全て出てこない。
そこにある姿は、身体の一部を失ってしまった姿。
ローゼンメイデンならば何よりも恐れる姿だったからだ。

「……少し、間が悪かったんじゃないか?」
「このまま会わないままということは不可能ですので、遅いか早いかの違いです。
 水銀燈さんにも聞いておきたいことがありますし」

明らかに険悪な人形たちの姿を見て上田は気まずそうにつぶやくが、Lは相変わらず冷静なままだ。
水銀燈と翠星石の間を沈黙が支配する。
ただ、翠星石は戸惑いの色を見せて水銀燈は羞恥に顔を染めているだけだ。

「……」
「……」
「水銀燈さんはシャドームーンを打倒するまでの間、協力することを約束しました」

Lは翠星石にではなく、残りの四人に向かって告げた。
シャドームーンを知らないクーガー以外の全員が息を呑む。

「シャドームーン、か」

C.C.が憂鬱な想いを隠すことなくつぶやく。
その強大さはすでに共通の意識となっている。
ヴァンですら顔を引き締めるほどだ。

「先ほど、山峰から浮かび上がった緑色の光は間違いなくシャドームーンの仕業でしょう」
「あ、ああ……あれは、間違いなくあの時の光線と同じ光だ」

上田が震えた声で肯定する。
あの光は間違いなくシャドームーンの攻撃、シャドービームと同じ光だった。
ベルトに埋め込まれた動力源から生み出される天をも裂く光の力。
それを上田は自分自身の目で確かに見ているのだ。

「……私はシャドームーンも、またパラサイト生物である後藤も知りません。
 ライダーデッキにしても聞きかじった程度の知識に過ぎません。
 ただ、それらは強力なモノであるとしか……あまりにも心もとない情報です。
 それでも、様々な情報を一度整理しておきたいんです」

Lの目的は情報の整理だった。
膨大な情報を一度整理しておき、これからの方針を明確にしておく。
強敵の打倒や殺し合いの脱出といった諸問題がある。
情報を集めることで、これらを解決する思わぬ鍵が見つかるかもしれない。
そんな期待もあった。

「首輪も外せるなら私たちも外したいですが……
 城戸さんたちが未だに首輪をつけているということは、そうはいかないようですね」
「はぁ? なにそれ。翠星石、貴方だけ首輪がないなんてズルいじゃない」
「うっせーですぅ」

首輪をしていない翠星石にようやく気づいたのか、水銀燈は棘のある視線と言葉を向ける。
翠星石はその棘のある態度が普段の水銀燈に近いことにどこか安堵し、憎まれ口で応えた。
だが、二人の間には未だに友好とも敵対とも言えない奇妙な空気が漂っていた。

「上田さん、車を物陰に駐車してきてください。
 ただ、隠すと言ってもあまり遠くには……」
「なぁに、わかっているさ」

そう言いながら上田は君島邦彦の運転していく。
車は少しだけ走った後、すぐに停車した。
上田は病院から二つほど民家を隔てた物陰に車を駐車する。
夜の闇が手伝い、見つかりにくい場所だった。

「問題ないだろう?」
「はい、結構です」

そして、上田は駆け足で戻ってくる。
少しの間とはいえ、一人でいるのは心細かったのだろう。
Lは自信無さげに尋ねてくる上田に応え、病院を見上げる。
半壊した病院はこれからの先行きを示しているようで、どこか不快な気持ちが胸中に広がった。


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投下順で読む


150:2nd STAGE ヴァン 156:検分
C.C.
城戸真司
翠星石
ストレイト・クーガー
153:Painful Return 上田次郎
L
水銀燈



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