聖少女領域/贖罪か、断罪か ◆ew5bR2RQj.
後藤との戦闘を終えたクーガーは、上田の運転する車を追い掛けた。
というより、それ以外の選択肢は無かったのだ。
脚部にアルターを装着し、夜空の下を駆けようとして止まる。
彼らの行き先を知らないことに気付いたのだ。
別れ際に聞いておけばよかったと唸るが、過ぎ去ったことを気にしても仕方がない。
虱潰しに探すしかないかと肩を落とした瞬間。
地面が大きく揺れ、遠方で夜闇を照らすほどの爆発が起こる。
そこで戦闘が行われていることは、もはや疑いようがない。
それもあの規模の爆発が起こるような激戦が、だ。
シャドームーンと真司達が戦っている。
そう確信したクーガーは、勢いよく地面を蹴った。
一刻も早く、援護に駆け付けなければならない。
その思いの下、全速力で走る。
だが、その努力も虚しく、走り続ける途中で振動や爆音は止んでしまった。
それでもクーガーは足を止めない。
真司や翠星石達の無事を祈りながら、ひたすら走り続ける。
走って、走って、走り続けて。
ようやく辿り着いた場所は、あまりにも閑散としていた。
駆け抜けてきた薄汚い路地から察するに、本来ならばここもアスファルトが続いているはずだろう。
打ち捨てられたビルや、目障りに光り続けるネオンがあるはずである。
しかし、ここには何も無い。
この一帯だけ削り取られたように、意味のあるものが存在しない。
存在するのは、焼け焦げた地面と無数に散らばる瓦礫。
まるでロストグラウンドの崩落地域である。
故郷の残滓を感じさせる土地だが、懐郷の念は抱かない。
散乱する瓦礫の中でも、とりわけ大きな瓦礫。
その上に腰掛ける銀の鎧姿。
外見の特徴から、それがシャドームーンであることはすぐに察した。
一瞬、嫌な予感が脳裏を過る。
だがシャドームーンの逆位置に見覚えのある顔触れが揃っているのを見て、クーガーは胸を撫で下ろした。
撫で下ろして、疑問を抱いた。
というより、それ以外の選択肢は無かったのだ。
脚部にアルターを装着し、夜空の下を駆けようとして止まる。
彼らの行き先を知らないことに気付いたのだ。
別れ際に聞いておけばよかったと唸るが、過ぎ去ったことを気にしても仕方がない。
虱潰しに探すしかないかと肩を落とした瞬間。
地面が大きく揺れ、遠方で夜闇を照らすほどの爆発が起こる。
そこで戦闘が行われていることは、もはや疑いようがない。
それもあの規模の爆発が起こるような激戦が、だ。
シャドームーンと真司達が戦っている。
そう確信したクーガーは、勢いよく地面を蹴った。
一刻も早く、援護に駆け付けなければならない。
その思いの下、全速力で走る。
だが、その努力も虚しく、走り続ける途中で振動や爆音は止んでしまった。
それでもクーガーは足を止めない。
真司や翠星石達の無事を祈りながら、ひたすら走り続ける。
走って、走って、走り続けて。
ようやく辿り着いた場所は、あまりにも閑散としていた。
駆け抜けてきた薄汚い路地から察するに、本来ならばここもアスファルトが続いているはずだろう。
打ち捨てられたビルや、目障りに光り続けるネオンがあるはずである。
しかし、ここには何も無い。
この一帯だけ削り取られたように、意味のあるものが存在しない。
存在するのは、焼け焦げた地面と無数に散らばる瓦礫。
まるでロストグラウンドの崩落地域である。
故郷の残滓を感じさせる土地だが、懐郷の念は抱かない。
散乱する瓦礫の中でも、とりわけ大きな瓦礫。
その上に腰掛ける銀の鎧姿。
外見の特徴から、それがシャドームーンであることはすぐに察した。
一瞬、嫌な予感が脳裏を過る。
だがシャドームーンの逆位置に見覚えのある顔触れが揃っているのを見て、クーガーは胸を撫で下ろした。
撫で下ろして、疑問を抱いた。
――――なんで、シャドームーンとあいつらが一緒にいるんだ?
距離はあるものの、互いに危害を加えようとする様子はない。
これでは彼らがシャドームーンと協力関係にあるようではないか。
いまいち状況を掴むことができないため、座り込んでいる集団へと近づいていく。
すると接近に気付いたのか、純白の学ランを着込んだ少年が立ち上がった。
これでは彼らがシャドームーンと協力関係にあるようではないか。
いまいち状況を掴むことができないため、座り込んでいる集団へと近づいていく。
すると接近に気付いたのか、純白の学ランを着込んだ少年が立ち上がった。
やはりか、と脳内で呟く。
先の情報交換で得た情報と狭間の容姿はあまりに似通っていた。
先の情報交換で得た情報と狭間の容姿はあまりに似通っていた。
「狭間? 俺はそいつを危険人物だって聞いてるぜ」
同時に、危険人物でもあると。
「狭間さんは危険人物なんかじゃありません!」
狭間の背後にいたつかさが捲し立ててくる。
穏やかな性格の彼女の発した大声に、クーガーは気圧されてしまう。
穏やかな性格の彼女の発した大声に、クーガーは気圧されてしまう。
「誰に吹き込まれたか知らないけど……狭間は信頼できるよ」
「疑って悪かったな」
「気にするな」
「気にするな」
そう告げる狭間の表情は、だいぶやつれているように見えた。
「つばささん、南岡さん、ジェロニモさん、まずは無事で良かったです」
互いの無事を祝うための一言。
会話に切り込むための常套句。
多くの命が潰えているとはいえ、知り合いの無事は喜ばしいことだろう。
会話に切り込むための常套句。
多くの命が潰えているとはいえ、知り合いの無事は喜ばしいことだろう。
「つばさ……?」
「ジェロニモ……?」
「南岡……?」
「ジェロニモ……?」
「南岡……?」
――――名前が間違ってなければの話だが。
「えっと……それってもしかして私達のことですか?」
「ジェしか合ってないではないか」
「俺なんか一文字増えてるんだけどさ、もしかしてわざとやってる? 絶対わざとやってるよね?」
「ジェしか合ってないではないか」
「俺なんか一文字増えてるんだけどさ、もしかしてわざとやってる? 絶対わざとやってるよね?」
呆れたようにクーガーを見る三人。
「ハハッ、すいません」
彼らに対し、クーガーは乾き笑いを浮かべた。
「そんなことよりも、ここで何があったか教えてくれないか?
というより、なんであいつがいるんだ?」
というより、なんであいつがいるんだ?」
クーガーが指差した先にいるのはやはりシャドームーン。
右腕が欠損し、装甲は所々剥がれ落ち、そうでない箇所も焼け焦げている。
生きている事すら不思議な重症だが、纏う空気は一流の武人のそれだ。
幾多の死線を潜り抜けてきたクーガーですら、安易に近付く気にはなれなかった。
右腕が欠損し、装甲は所々剥がれ落ち、そうでない箇所も焼け焦げている。
生きている事すら不思議な重症だが、纏う空気は一流の武人のそれだ。
幾多の死線を潜り抜けてきたクーガーですら、安易に近付く気にはなれなかった。
「それは――――」
「ここは俺が説明するから、狭間は休んでなよ」
「ここは俺が説明するから、狭間は休んでなよ」
狭間が口を開いた瞬間、軽い口調で北岡がそれを遮る。
だがそれもどこか痛々しく、空元気だと察するのは容易だった。
だがそれもどこか痛々しく、空元気だと察するのは容易だった。
「そうか、頼む」
疲れ果てたように座り込む狭間。
彼の様子を見て、これから北岡が語る出来事が決していい話ではないとクーガーは確信した。
彼の様子を見て、これから北岡が語る出来事が決していい話ではないとクーガーは確信した。
「城戸が……翠星石さんに……」
北岡の口から語られたシャドームーンとの戦闘の顛末は、クーガーにとってあまりに予想外であった。
――――城戸真司が翠星石に殺された。
殺し合いが始まった頃からずっと一緒にいた二人。
出会いは最悪であったが、彼らの間に確かな絆があったのはクーガーの目からも見て取れた。
出来ることならば、彼らが共にここから脱出できることを祈っていた。
あまりに残酷過ぎる終点。
ここに至るまで多くの死別を体験してきたクーガーでも、胸の内を掻き毟られるような痛みを覚えた。
出会いは最悪であったが、彼らの間に確かな絆があったのはクーガーの目からも見て取れた。
出来ることならば、彼らが共にここから脱出できることを祈っていた。
あまりに残酷過ぎる終点。
ここに至るまで多くの死別を体験してきたクーガーでも、胸の内を掻き毟られるような痛みを覚えた。
「私がもう少し早く治療魔法を使っていれば……」
「いや、アンタが悪いわけじゃないさ」
「いや、アンタが悪いわけじゃないさ」
北岡が齎した情報はこの一件以外にも色々とあった。
その中の一つが、目の前にいる狭間偉出夫という少年。
優れた頭脳を持ち、多彩な魔法を使い熟す。
性格には癖があるものの、非常に頼りになる仲間だということだ。
彼が知る中でも最上級の治療魔法を施しても、真司の死を止められなかった。
どの道、彼の死は避けられなかったということである。
その中の一つが、目の前にいる狭間偉出夫という少年。
優れた頭脳を持ち、多彩な魔法を使い熟す。
性格には癖があるものの、非常に頼りになる仲間だということだ。
彼が知る中でも最上級の治療魔法を施しても、真司の死を止められなかった。
どの道、彼の死は避けられなかったということである。
「それよりも心配なのは、翠星石さんの方だ」
真司の死は非常に痛ましいが、それ以上に不安なのは翠星石である。
あれから眠り続けたままだが、起きた時に一悶着あるのは想像に難くない。
あれから眠り続けたままだが、起きた時に一悶着あるのは想像に難くない。
「翠星石、ねぇ……」
翠星石の名前を聞き、露骨に顔を顰める北岡とジェレミア。
「……やっぱり、そういう反応になっちゃいますか」
「わざとじゃないのは分かってるんだけどねぇ」
「散々場を荒らしたのだ、当然だろう」
「わざとじゃないのは分かってるんだけどねぇ」
「散々場を荒らしたのだ、当然だろう」
やんわりと苦言を呈する北岡に、ピシャリと言い放つジェレミア。
どちらも翠星石を疎んでいるのは同じである。
狭間が苦心の末に取り付けたシャドームーンとの停戦協定。
最終的に締結したものの、彼女の乱入で破談寸前まで陥った。
その挙句に真司を殺したとなれば、嫌悪感を抱くのも当然だろう。
どちらも翠星石を疎んでいるのは同じである。
狭間が苦心の末に取り付けたシャドームーンとの停戦協定。
最終的に締結したものの、彼女の乱入で破談寸前まで陥った。
その挙句に真司を殺したとなれば、嫌悪感を抱くのも当然だろう。
「今は眠っているが、目覚めたらどうなるか」
背後に目配せをするジェレミア。
瓦礫の影に隠れるように、豪華な装飾の施されたトランクケースが置かれている。
気絶した彼女はその中で眠っているが、いつ目覚めてもおかしくない。
起きた瞬間にシャドームーンを襲撃されたら、取り付けた停戦協定が破談になってしまう。
故に視界にシャドームーンが入らないように配置し、交代で見張っているのだ。
瓦礫の影に隠れるように、豪華な装飾の施されたトランクケースが置かれている。
気絶した彼女はその中で眠っているが、いつ目覚めてもおかしくない。
起きた瞬間にシャドームーンを襲撃されたら、取り付けた停戦協定が破談になってしまう。
故に視界にシャドームーンが入らないように配置し、交代で見張っているのだ。
「さっきまでは翠星石しかnのフィールドに入れないと思ってたけど、今はシャドームーンも居るからなぁ
はっきり言っちゃうと、翠星石を仲間にする意味も無いんだよね
あいつがシャドームーンと手を組むとも思えないし」
はっきり言っちゃうと、翠星石を仲間にする意味も無いんだよね
あいつがシャドームーンと手を組むとも思えないし」
当初の彼らの目的は、唯一主催陣営に乗り込む手段を持つ翠星石の保護だった。
しかしシャドームーンも同じ能力を所持している上、翠星石の希少性は大きく薄れる。
今や彼女も立派な危険人物であり、シャドームーンと大差ない。
彼らの一方としか協力できない場合、もう一方は不要な存在と化すのだ。
しかしシャドームーンも同じ能力を所持している上、翠星石の希少性は大きく薄れる。
今や彼女も立派な危険人物であり、シャドームーンと大差ない。
彼らの一方としか協力できない場合、もう一方は不要な存在と化すのだ。
「随分と翠星石さんのこと根に持ってるんですね」
「当たり前じゃない、あいつは城戸を殺したんだよ?」
「当たり前じゃない、あいつは城戸を殺したんだよ?」
悟ったように語り掛けるクーガーに対し、北岡は僅かに語調を荒げる。
「アンタが城戸のことでそんなに怒るなんて意外だな」
「え?」
「いやぁ、アイツから北岡さんとは敵対してたって聞いてたもんですから」
「え?」
「いやぁ、アイツから北岡さんとは敵対してたって聞いてたもんですから」
北岡の口がぽかんと開く。
厳密には以前敵対していたであったが、仮面ライダーである以上は敵同士だったのは間違いない。
にも関わらず、北岡は真司の死を随分と根に持っているように見える。
厳密には以前敵対していたであったが、仮面ライダーである以上は敵同士だったのは間違いない。
にも関わらず、北岡は真司の死を随分と根に持っているように見える。
「さぁね」
一言残してそっぽを向く北岡。
その反応が可笑しく、クーガーの顔からは自然と笑いが溢れていた。
その反応が可笑しく、クーガーの顔からは自然と笑いが溢れていた。
「た、大変です! 翠星石ちゃんが!」
つかさの大声で、崩れた表情が引き締まる。
「翠星石ちゃんが目を覚ましました!!」
☆ ☆ ☆
目を覚まして最初に目に入ったのは、見覚えのない少女の横顔だった。
彼女の目線を追うと、これまた見覚えのない男が三人いる。
状況が理解できずに首を傾げていると、真っ白な服に身を包んだ痩せ型の少年が近づいてきた。
彼女の目線を追うと、これまた見覚えのない男が三人いる。
状況が理解できずに首を傾げていると、真っ白な服に身を包んだ痩せ型の少年が近づいてきた。
「起きたか?」
服と同じように青白い肌をした少年を見て、翠星石は桜田ジュンを思い出す。
しかし、ジュンのような温かみは感じない。
幽霊のように不気味な顔を直視することができず、彼女は顔を逸らす。
その先に居たのは先程の少女。
大きなリボンを揺らしながら、心配そうに彼女を覗き込んでくる。
面識がないので無視。
再び視線を逸らして、今度は二人組の男が目に入った。
しかし、ジュンのような温かみは感じない。
幽霊のように不気味な顔を直視することができず、彼女は顔を逸らす。
その先に居たのは先程の少女。
大きなリボンを揺らしながら、心配そうに彼女を覗き込んでくる。
面識がないので無視。
再び視線を逸らして、今度は二人組の男が目に入った。
「ッ!?」
二人の表情を見て、彼女は思わず俯いてしまう。
蔑むような視線。
少年や少女と違い、二人組の男は明確な敵意を放っている。
蔑むような視線。
少年や少女と違い、二人組の男は明確な敵意を放っている。
「翠星石さん!」
居心地の悪さに震えているところに助け舟。
聞き覚えのある声を聞き、翠星石は顔を上げる。
そこには想像通りの人物がいた。
聞き覚えのある声を聞き、翠星石は顔を上げる。
そこには想像通りの人物がいた。
「クーガーじゃないですか!」
「無事だったんですね! 良かったです……」
「え、えぇ、なんとか」
「え、えぇ、なんとか」
クーガーの足元に辿り着くと、彼を盾にするように背後に回る。
歯切れの悪い返事であるが、彼女が気付いた様子はない。
歯切れの悪い返事であるが、彼女が気付いた様子はない。
「あんな化け物にたった一人で勝つなんてさすがはクーガーです!」
「あの、翠星石さん」
「翠星石も鼻高々ってやつですよ!」
「聞いてますか?」
「あの、翠星石さん」
「翠星石も鼻高々ってやつですよ!」
「聞いてますか?」
クーガーに喋る暇も与えず、翠星石は捲し立てる。
「ところでクーガー、一つ聞いていいですか?」
「何でしょうか?」
「何でしょうか?」
狭間達を見回し、きょとんとした顔を浮かべる翠星石。
「こいつら誰です?」
空気が凍りつく。
呆然としていた少年達の顔が、驚愕一色に染まっていく。
再び訪れる居心地の悪さに、翠星石は辺りを見回す。
クーガーですら同じ顔をしていた。
呆然としていた少年達の顔が、驚愕一色に染まっていく。
再び訪れる居心地の悪さに、翠星石は辺りを見回す。
クーガーですら同じ顔をしていた。
「貴様、何を言っているのだ?」
二人組の男の一人――――橙色の仮面をした男が一歩前に出る。
「なに言ってって……翠星石はお前らなんか知らねーです」
「ふざけているのか!?」
「ひっ」
「ふざけているのか!?」
「ひっ」
仮面の男の怒鳴り声が響き渡る。
その声に怯えた翠星石は頭を引っ込め、クーガーの背後へと隠れた。
その声に怯えた翠星石は頭を引っ込め、クーガーの背後へと隠れた。
「ク、クーガー……あいつ、怖いです!」
「そうですねぇ、ジェロニモさん、女性相手に怒鳴るのは駄目でしょ――」
「真司? 真司は何処ですか!?」
「そうですねぇ、ジェロニモさん、女性相手に怒鳴るのは駄目でしょ――」
「真司? 真司は何処ですか!?」
絶句する一同。
沸騰しつつあった空気が、瞬く間に凍り付いていく。
沸騰しつつあった空気が、瞬く間に凍り付いていく。
「お前……ホントになに言ってんの?」
「だから真司は何処かって聞いてるんです! なんで真司がいないんですか!?」
「だから真司は何処かって聞いてるんです! なんで真司がいないんですか!?」
引き気味の北岡を無視し、翠星石は大声で喚き散らす。
忙しなく首を動かし、真司の姿を探し続ける。
誰も言葉を挟むことはできない。
縋るように喚く翠星石を、呆然と眺め続けている。
忙しなく首を動かし、真司の姿を探し続ける。
誰も言葉を挟むことはできない。
縋るように喚く翠星石を、呆然と眺め続けている。
「何処! 何処にいるんです!? 真司!」
許容量の限界を越える出来事があった時、人間はその記憶を封じ込めて精神の安定を図るという。
俗にいう記憶喪失。
忘却の彼方で眠ることで、幻の幸せに身を委ねるのだ。
翠星石は人間では無いが、ローゼンメイデンは人間以上に繊細に作られている。
この一日で姉妹や仲間との死別を数えられないほど経験し、その末に真司を殺してしまった。
その重責に耐えることができず、彼女は気絶する直前の記憶を封印してしまったのである。
俗にいう記憶喪失。
忘却の彼方で眠ることで、幻の幸せに身を委ねるのだ。
翠星石は人間では無いが、ローゼンメイデンは人間以上に繊細に作られている。
この一日で姉妹や仲間との死別を数えられないほど経験し、その末に真司を殺してしまった。
その重責に耐えることができず、彼女は気絶する直前の記憶を封印してしまったのである。
「城戸はお前が殺したんだろ!」
だが、そんな事情は他人に関係ない。
翠星石の態度に苛立ったスーツの男が、背けていた事実を突き付ける。
翠星石の態度に苛立ったスーツの男が、背けていた事実を突き付ける。
「はぁ?」
スーツの男の言葉を受け、翠星石の挙動が止まる。
「翠星石が真司を殺した? ふざけたこと抜かすのも大概にしやがれです!」
しかし、認めない。
スーツの男を睨み上げ、事実から顔を背け続ける。
彼女が決してふざけている訳ではないと察したのか、男は二の句を継ぐことができない。
スーツの男を睨み上げ、事実から顔を背け続ける。
彼女が決してふざけている訳ではないと察したのか、男は二の句を継ぐことができない。
「黙るってことは適当なこと言ったですね! 次に同じことを言ったらその口を縫い付けて――」
「翠星石」
「翠星石」
大声で叫び続ける翠星石を見かねて、最初に話しかけてきた不気味な少年が前へと出る。
「私は狭間偉出夫、ストレイト・クーガーの仲間だ
今から言うことが全て本当のことだということを踏まえた上で、私の話を聞いて欲しい」
今から言うことが全て本当のことだということを踏まえた上で、私の話を聞いて欲しい」
幼子に接するように丁寧な口調で前置きを述べる狭間。
だがその奥にあるのは、有無を言わさずといった無言の圧力。
尋常ではない様子を感じ取ったのか、翠星石は怯えるように後退りを始める。
だがその奥にあるのは、有無を言わさずといった無言の圧力。
尋常ではない様子を感じ取ったのか、翠星石は怯えるように後退りを始める。
「君が探している城戸真司はいない。彼は死んだ。君が――――殺したんだ」
翠星石の目を見据え、悼むように狭間は告げる。
「な、なに言ってるですか……なんで翠星石が真司を殺す必要が――」
『やあ、皆』
『やあ、皆』
翠星石の言葉を遮るように、支配者の声が空から降り掛かる。
禁止エリアと死者を告げる放送。
事実から目を背け続ける少女を嘲笑うように、支配者は言葉を並べていく。
禁止エリアと死者を告げる放送。
事実から目を背け続ける少女を嘲笑うように、支配者は言葉を並べていく。
『城戸真司』
そして、呼ばれる。
ずっと一緒にいた仲間の名が。
死者を告げる目的の放送で、城戸真司の名が呼ばれる。
つまり、その意味は――――
ずっと一緒にいた仲間の名が。
死者を告げる目的の放送で、城戸真司の名が呼ばれる。
つまり、その意味は――――
――――てめーさえ死ねば、全部片が付く話です
身に覚えがないはずなのに、記憶の中の翠星石はシャドームーンと対峙している。
自身の内側に眠る太陽のような力を過信し、たった一人で暴君に立ち向かおうとしている。
自身の内側に眠る太陽のような力を過信し、たった一人で暴君に立ち向かおうとしている。
――――止めろ翠星石!!
「い、や」
彼女は、その記憶を知っている。
思い出してはいけないと、脳が警鐘を鳴らしている。
それでも記憶は溢れてくる。
手で押さえ付けても、指の隙間から漏れ出てくる。
思い出してはいけないと、脳が警鐘を鳴らしている。
それでも記憶は溢れてくる。
手で押さえ付けても、指の隙間から漏れ出てくる。
――――死にやがれですっ!!!
周囲の制止を振り切り、翠星石はシャドームーンに攻撃を仕掛ける。
真紅から受け継いだ薔薇の花弁を発射し、ジャンクのように傷だらけの鎧を穿とうとする。
だが、花弁はシャドームーンに命中しなかった。
真紅から受け継いだ薔薇の花弁を発射し、ジャンクのように傷だらけの鎧を穿とうとする。
だが、花弁はシャドームーンに命中しなかった。
「いや……」
薔薇の花弁が、真司の頭部を通り抜けていく。
頬を剥ぎ取り、顎を砕き、首元まで抉り取っていく。
頬を剥ぎ取り、顎を砕き、首元まで抉り取っていく。
「いや、イヤ……」
そうだ、城戸真司は。
今までずっと一緒にいた城戸真司は――――
今までずっと一緒にいた城戸真司は――――
翠星石が、殺したんだ。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
記憶と現実が重なる。
二重の悲鳴が脳内で響き渡り、彼女に現実を知らしめる。
嗚咽を漏らし、狂乱し始める翠星石。
心が許容できないと判断した事実を思い出したのだ。
惨劇は鮮明に再生され、最初に経験した時と同様の衝撃を齎す。
二重の悲鳴が脳内で響き渡り、彼女に現実を知らしめる。
嗚咽を漏らし、狂乱し始める翠星石。
心が許容できないと判断した事実を思い出したのだ。
惨劇は鮮明に再生され、最初に経験した時と同様の衝撃を齎す。
「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
それでも忘却は許されない。
気絶することもできず、激闘の末に残った死は彼女の精神を蝕んでいく。
頭を押さえ、翠星石は狂ったように叫ぶ。
狂うことができないまま、現実を噛み締めて叫び続ける。
気絶することもできず、激闘の末に残った死は彼女の精神を蝕んでいく。
頭を押さえ、翠星石は狂ったように叫ぶ。
狂うことができないまま、現実を噛み締めて叫び続ける。
「ッ!!??」
視界の隅で何かが月光を反射する。
振り向いた先にあったのは銀の鎧。
憎き仇敵、シャドームーン。
振り向いた先にあったのは銀の鎧。
憎き仇敵、シャドームーン。
「シャドームゥゥゥンッッ!!!」
弾けたように駆け抜ける翠星石。
黒翼で加速し、庭師の鋏を構える。
それらを一瞬で行った後、遠くの瓦礫に腰掛けているシャドームーンへと突進した。
黒翼で加速し、庭師の鋏を構える。
それらを一瞬で行った後、遠くの瓦礫に腰掛けているシャドームーンへと突進した。
「ッ!」
だがその動きは唐突に停止する。
シャドームーンの射線上に狭間が立ち塞がったことで、停止せざるを得なかったのだ。
シャドームーンの射線上に狭間が立ち塞がったことで、停止せざるを得なかったのだ。
「そこを退けです! 私はあいつをぶっ殺してやらなきゃいけないんです!」
「シャドームーンに危害を加えることは許さん!」
「お前が交わした契約があるからですか!?」
「そうだ、シャドームーンとは契約を交している、主催を潰すまでは互いに危害を加えない『王の契約』だ」
「シャドームーンに危害を加えることは許さん!」
「お前が交わした契約があるからですか!?」
「そうだ、シャドームーンとは契約を交している、主催を潰すまでは互いに危害を加えない『王の契約』だ」
王の契約。
魔人皇と世紀王が王の名の下に取り付けた契約。
V.V.を始めとした主催陣営を倒すまで、互いに一切合財の危害を加えることを禁じる。
狭間がシャドームーンの首輪を解除する代わり、シャドームーンは狭間と協力して主催陣営を潰す。
そしてそれを終えた後、残った面子でシャドームーンと決着を付ける。
魔人皇と世紀王が王の名の下に取り付けた契約。
V.V.を始めとした主催陣営を倒すまで、互いに一切合財の危害を加えることを禁じる。
狭間がシャドームーンの首輪を解除する代わり、シャドームーンは狭間と協力して主催陣営を潰す。
そしてそれを終えた後、残った面子でシャドームーンと決着を付ける。
「そんなもの翠星石は一言も賛成などしてないです!」
「お前の気持ちは痛いほど分かる。私もシャドームーンを許す気などない。主催を倒したら必ずあの男を殺す」
「お前の許す許さないなんかはどうでもいいんです! とにかくアイツと協力できるわけなんかないです!」
「お前の気持ちは痛いほど分かる。私もシャドームーンを許す気などない。主催を倒したら必ずあの男を殺す」
「お前の許す許さないなんかはどうでもいいんです! とにかくアイツと協力できるわけなんかないです!」
あくまで理論的に説得する狭間に対し、翠星石は感情論を振り翳す。
本人すらも御しきれていない感情を、他人である狭間が理解できるはずがない。
本人すらも御しきれていない感情を、他人である狭間が理解できるはずがない。
「C.C.も言っていただろう。シャドームーンと同盟を結べば、奴が齎す被害を主催の連中に押し付けられると」
「だから何度も言ってるじゃないですか! あいつが約束を守るはずがないって!」
「シャドームーンは約束を守る、この私が保証する!」
「お前の保証なんか知ったこっちゃないです! 何度も同じこと言わせるなんて馬鹿ですかお前は!」
「だから何度も言ってるじゃないですか! あいつが約束を守るはずがないって!」
「シャドームーンは約束を守る、この私が保証する!」
「お前の保証なんか知ったこっちゃないです! 何度も同じこと言わせるなんて馬鹿ですかお前は!」
彼らの言葉の応酬は、やがて説得から口喧嘩へと形を変えていく。
もし狭間の交渉術が本当に意味で熟成していれば、彼女の説得も可能だったかもしれない。
しかし数時間前まで彼は魔神皇であり、他者とのコミュニケーションは苦手であった。
特に女性は天敵である。
支離滅裂な感情論を振り翳す翠星石は、既に狭間の手に負える存在ではない。
もし狭間の交渉術が本当に意味で熟成していれば、彼女の説得も可能だったかもしれない。
しかし数時間前まで彼は魔神皇であり、他者とのコミュニケーションは苦手であった。
特に女性は天敵である。
支離滅裂な感情論を振り翳す翠星石は、既に狭間の手に負える存在ではない。
「ストップ」
苦戦する狭間を見兼ねたのか、今まで静観していたスーツの男が一歩前へ出る。
「頑張ってるとこ悪いけどさ、俺に交代してもらえないかな?」
「だが、翠星石は私が何とかすると……」
「はぁ、ホントに糞真面目だねぇ、でももしお宅が頑張りすぎて倒れたらシャドームーンが契約無効とか言い出すかもよ?」
「しかし……」
「このまま続けても、翠星石が折れるとは思えないよ」
「だが、翠星石は私が何とかすると……」
「はぁ、ホントに糞真面目だねぇ、でももしお宅が頑張りすぎて倒れたらシャドームーンが契約無効とか言い出すかもよ?」
「しかし……」
「このまま続けても、翠星石が折れるとは思えないよ」
選手交代を渋る狭間に対して、早口で捲し立てるスーツの男。
翠星石は知らないが、この男は元の世界では黒を白に変えると謳われた敏腕弁護士だ。
悪どい方法も当然使うものの、弁護の世界とは舌戦が本分である。
感情的になる相手も多く見ており、交渉なら狭間より適任と言えた。
翠星石は知らないが、この男は元の世界では黒を白に変えると謳われた敏腕弁護士だ。
悪どい方法も当然使うものの、弁護の世界とは舌戦が本分である。
感情的になる相手も多く見ており、交渉なら狭間より適任と言えた。
「スマン、任せる」
「いいって、ゆっくり休んでなよ」
「いいって、ゆっくり休んでなよ」
背を向け、肩を落としながら、狭間はその場に座り込む。
代わりに前へ出たのはスーツの男。
代わりに前へ出たのはスーツの男。
ここに来て、翠星石はようやくこの場にいる全員の名を知る。
――――しかし、ここで自己紹介したのは致命的な失敗だった。
「……北岡?」
聞き覚えのある名前。
今から数時間前、総合病院で行った情報交換で何度か出た名前。
よくよく振り返れば、警察署でも頻出した名前だ。
首を上げれると、山の方では未だに炎が広がり続けている。
今から数時間前、総合病院で行った情報交換で何度か出た名前。
よくよく振り返れば、警察署でも頻出した名前だ。
首を上げれると、山の方では未だに炎が広がり続けている。
北条悟史が拡声器を使用したことが発端となった乱戦。
終焉の狼煙を上げたのは、北岡が所持するゾルダのエンド・オブ・ワールドであった。
無論、本当の下手人は彼ではない。
ゾルダのデッキを奪い取ったレイ・ラングレンである。
しかしレイがエンド・オブ・ワールドを発射する時、浅倉が北岡の名前を叫んだ。
それがその場に居たものに定着し、誤情報として各地に広まっていた。
廻り回って、その情報が翠星石の耳にも入ったのである。
終焉の狼煙を上げたのは、北岡が所持するゾルダのエンド・オブ・ワールドであった。
無論、本当の下手人は彼ではない。
ゾルダのデッキを奪い取ったレイ・ラングレンである。
しかしレイがエンド・オブ・ワールドを発射する時、浅倉が北岡の名前を叫んだ。
それがその場に居たものに定着し、誤情報として各地に広まっていた。
廻り回って、その情報が翠星石の耳にも入ったのである。
「はぁ? なに言ってんの」
「惚けるんじゃねーです! 蒼星石や水銀燈から聞いてるですよ!
最初の放送が始まる前に北岡って奴にあそこで襲われたって!」
「惚けるんじゃねーです! 蒼星石や水銀燈から聞いてるですよ!
最初の放送が始まる前に北岡って奴にあそこで襲われたって!」
今も燃え盛る山を指差し、翠星石は言葉を叩き付ける。
「そんなこと俺はしてないよ! 誰かの勘違いじゃ――――っ!!?」
「ゾルダのデッキはずっと奪われてたんだ、だから俺じゃない」
「口ではどうとでも言えるです
それに真司も言っていたですよ、昔のお前に遠くから襲われたって!」
「口ではどうとでも言えるです
それに真司も言っていたですよ、昔のお前に遠くから襲われたって!」
真司と北岡は最初は敵対していたものの、時間を重ねていくにつれて共闘することも多くなった。
それでも最初の頃に敵対していた事実は変わらない。
真司に悪気があったわけではないが、彼は北岡のことを舌先三寸で上手く誤魔化すような奴であると告げていた。
それでも最初の頃に敵対していた事実は変わらない。
真司に悪気があったわけではないが、彼は北岡のことを舌先三寸で上手く誤魔化すような奴であると告げていた。
「それは昔の話だよ!」
「一度でもそれをしてたのが問題なんです!」
「一度でもそれをしてたのが問題なんです!」
警察署を出る寸前、真司は今の北岡がそんなことをしないとも言っている。
が、そもそも騙し討ちをしていた時期があったことが問題なのだ。
総合病院で考察をした際、Lが参加者ごとに時間軸が違う可能性があるのを述べた。
今の真司と北岡が同じ時期から参戦しているとは限らないのだ。
その証拠に、上田次郎から北岡を異常に怖がっていた少年がいたという話も聞いている。
が、そもそも騙し討ちをしていた時期があったことが問題なのだ。
総合病院で考察をした際、Lが参加者ごとに時間軸が違う可能性があるのを述べた。
今の真司と北岡が同じ時期から参戦しているとは限らないのだ。
その証拠に、上田次郎から北岡を異常に怖がっていた少年がいたという話も聞いている。
「北岡さんは絶対にそんなことしません!」
「このパソコンには参加者事の詳細な行動記録が――――」
「黙るです! お前達が用意したものなんて信用できないです!」
「このパソコンには参加者事の詳細な行動記録が――――」
「黙るです! お前達が用意したものなんて信用できないです!」
雲行きが怪しくなったのを見て、つかさとジェレミアが加勢に入る。
だが翠星石は彼らの言葉に耳を傾けない。
今までの出来事で異常な精神状態下にあるため、新たな登場人物を信用することができないのだ。
元々先走りやすい性格であるが、普段の彼女ならもう少し冷静に物事を判断しただろう。
だが翠星石は彼らの言葉に耳を傾けない。
今までの出来事で異常な精神状態下にあるため、新たな登場人物を信用することができないのだ。
元々先走りやすい性格であるが、普段の彼女ならもう少し冷静に物事を判断しただろう。
「それにジェレミア・ゴットバルト! C.C.からお前に追い回されたことがあるって聞いてるです!」
激情に駆られた翠星石は止まらず、今度はジェレミアに攻撃対象を移す。
「何時の話をしている、それは一年も前の話だ
貴様は寝ていたから知らないだろうが、その食い違いの話は既に終わっている」
「フンッ、どうですかね。……ん? そこのお前」
「えっと、私ですか?」
貴様は寝ていたから知らないだろうが、その食い違いの話は既に終わっている」
「フンッ、どうですかね。……ん? そこのお前」
「えっと、私ですか?」
そして、つかさへと。
彼女の首から下を舐めるように見回すと、翠星石は歪に笑う。
彼女の首から下を舐めるように見回すと、翠星石は歪に笑う。
つかさのが着用していのは、こなたやみなみと同じ白いブラウスに赤いスカート。
彼女達が通う、陵桜学園の制服だ。
彼女達が通う、陵桜学園の制服だ。
「泉こなたが逃げたせいで色んな奴が死にましたし、岩崎みなみに至っては南光太郎を殺したです」
心の内側から湧き出てくる悪意を抑えることができない。
事実を告げる度に瞳が潤んでいくつかさを見て、翠星石は胸が空くような気持ちを覚えた。
事実を告げる度に瞳が潤んでいくつかさを見て、翠星石は胸が空くような気持ちを覚えた。
「こなたのせいで私の大事な妹が死んだんですよね~
それに光太郎はとっても強い奴でしたから、あいつが生き残ってりゃ死ななかった奴もいたんじゃないですかね」
それに光太郎はとっても強い奴でしたから、あいつが生き残ってりゃ死ななかった奴もいたんじゃないですかね」
つかさの表情が、今にも泣き出しそうなところまで崩れている。
「仲間がこんな体たらくなら、お前も誰か殺したりしてるんじゃないですか?」
ついに翠星石は”禁句”に触れた。
「貴様、言わせておけば!」
我慢の限界を迎えたのはジェレミア。
軍靴をかつかつと鳴らし、拳を握り締めながら踏み出す。
僅かに恐怖を覚える翠星石だが、今の自分は以前よりも圧倒的に強い。
本気で喧嘩になれば、分があるのはこちら側だ。
軍靴をかつかつと鳴らし、拳を握り締めながら踏み出す。
僅かに恐怖を覚える翠星石だが、今の自分は以前よりも圧倒的に強い。
本気で喧嘩になれば、分があるのはこちら側だ。
「やめなよ」
激情するジェレミアを制したのは意外にも北岡。
右手を伸ばして進路を塞ぎ、ジェレミアを押さえ込む。
右手を伸ばして進路を塞ぎ、ジェレミアを押さえ込む。
「しかしこいつは!」
「最初から乗り気じゃなかったけどさ、今はっきりと思ったよ」
「最初から乗り気じゃなかったけどさ、今はっきりと思ったよ」
憤怒の熱に染まったジェレミアとは違い、北岡が向けているのは冷たい侮蔑の視線。
氷のように冷えきっていて、暖かみなど欠片もない。
氷のように冷えきっていて、暖かみなど欠片もない。
「翠星石とは協力できない。こいつが俺達に協力する気がないんだからどうしようもないよ」
「同感ですね。お前達と協力なんかこっちから願い下げです」
「ふーん、でもいいのか?」
「同感ですね。お前達と協力なんかこっちから願い下げです」
「ふーん、でもいいのか?」
翠星石の返事を聞くと、北岡が意地悪く笑う。
「俺達はもう全員が協力するって決めてるんだ、お前だけ仲間外れになるってことだけどその意味が理解できる?」
「何が言いたいんです?」
「もし俺達が脱出しても、お前は一人ここに取り残されるんだ」
「――さん」
「ああ、それともう一つ、もしシャドームーンに攻撃とかしたら俺達は全員でお前を攻撃するからね?」
「――岡さん!」
「それに――――」
「何が言いたいんです?」
「もし俺達が脱出しても、お前は一人ここに取り残されるんだ」
「――さん」
「ああ、それともう一つ、もしシャドームーンに攻撃とかしたら俺達は全員でお前を攻撃するからね?」
「――岡さん!」
「それに――――」
「北岡さん!!」
鋭い言葉で胸を抉り続ける北岡を止めたのは、翠星石に侮辱された張本人であるつかさだった。
「私のことはいいですから……」
目尻に涙を溜めながら制止を訴えかけるつかさ。
彼女の言葉で冷静になったのか、北岡はバツが悪そうに辺りを見回す。
彼女の言葉で冷静になったのか、北岡はバツが悪そうに辺りを見回す。
「ッ、ごめん……」
踵を返しながら、彼は短く呟いた。
「悪い、失敗した……」
数メートル先で腰を下ろしている狭間の下まで行き、彼は再び謝罪する。
「いや、いい」
北岡が座り込むのと同時に立ち上がる狭間。
暗い表情で歩いてくるつかさとジェレミアとすれ違い、彼は改めて翠星石の下へ向かう。
だが、それを塞ぐように対峙する影が一つあった。
暗い表情で歩いてくるつかさとジェレミアとすれ違い、彼は改めて翠星石の下へ向かう。
だが、それを塞ぐように対峙する影が一つあった。
「ここは俺に任せな」
そう告げるやいなや、狭間の返事も聞かずに翠星石の隣へと歩き出すクーガー。
困惑する狭間達を尻目に、彼は彼女の隣にある瓦礫へと座り込む。
北岡や狭間と違い、彼はこの場で唯一信用できる人間である。
それでも自分を説得するため赴いたのには変わりない。
自然と警戒心が湧き出てくる。
困惑する狭間達を尻目に、彼は彼女の隣にある瓦礫へと座り込む。
北岡や狭間と違い、彼はこの場で唯一信用できる人間である。
それでも自分を説得するため赴いたのには変わりない。
自然と警戒心が湧き出てくる。
「翠星石さん」
「何ですか」
「何ですか」
夜空を見上げながら、翠星石を呼ぶクーガー。
地面を見下ろしながら、クーガーに答える翠星石。
地面を見下ろしながら、クーガーに答える翠星石。
「無事でよかったです」
クーガーの口から出てきたのは、説得のための詭弁ではなく無事を祝う言葉。
身構えていたため、思わず力が抜けてしまう。
身構えていたため、思わず力が抜けてしまう。
「……クーガーも……無事でよかったです」
だからなのか、彼女の口から漏れ出た言葉も彼の無事を祝うものだった。
たった一言だというのに、やけに口にするのが憚られた。
口にした瞬間、奇妙な感覚を覚える。
水分を失って乾き切った地面を如雨露で潤すような、そんな感覚だった。
たった一言だというのに、やけに口にするのが憚られた。
口にした瞬間、奇妙な感覚を覚える。
水分を失って乾き切った地面を如雨露で潤すような、そんな感覚だった。
「ええ、何とか」
「……真紅や水銀燈の仇を討ってくれてありがとうです」
「はい、後藤はしっかりと倒してきました」
「真紅や水銀燈もきっと喜んでるですよ」
「……真紅や水銀燈の仇を討ってくれてありがとうです」
「はい、後藤はしっかりと倒してきました」
「真紅や水銀燈もきっと喜んでるですよ」
何気ない会話なのに懐かしい。
壊れそうなほどの痛みが、胸を締め付けている。
壊れそうなほどの痛みが、胸を締め付けている。
「……よく、一人であいつに勝てたですね」
突風のように現れて、水銀燈とLを虐殺した後藤。
最初に戦った時、三人で挑んでも勝てなかったとクーガーは語った。
にも関わらず、どうして今回は一人で勝てたのだろうか。
最初に戦った時、三人で挑んでも勝てなかったとクーガーは語った。
にも関わらず、どうして今回は一人で勝てたのだろうか。
「俺の方が速かった、それだけの話です」
返ってきた答えは単純明快。
何処までもクーガーらしい答えだ。
何処までもクーガーらしい答えだ。
「いや、違うな」
その答えを、クーガーはあえて否定する。
「今回ばかりは、Lや他の奴の助けがなかったら勝てなかったかもしれないな……」
クーガーは右掌を広げると、慈しむように自身の胸部を擦る。
その仕草は彼に不似合いだと、翠星石は思った。
その仕草は彼に不似合いだと、翠星石は思った。
「……そうなんですか?」
「はい、そうです」
「はい、そうです」
再び夜空を見上げるクーガー。
彼に続くように、翠星石も空を見上げる。
紅と翠の瞳が写したのは、黒夜の中で煌々と輝く満月。
その大きさは、彼女のちっぽけな身体を覆い尽くすほどに大きい。
彼に続くように、翠星石も空を見上げる。
紅と翠の瞳が写したのは、黒夜の中で煌々と輝く満月。
その大きさは、彼女のちっぽけな身体を覆い尽くすほどに大きい。
「知ってますか? 月は自分で光ってる訳じゃないんです」
「そのくらい知ってるですよ、月は太陽の光を反射して光ってるんですよね?」
「そのくらい知ってるですよ、月は太陽の光を反射して光ってるんですよね?」
首肯するクーガー。
太陽のような恒星とは違い、月は自ら光を発することができない。
太陽光を反射することで煌めいているのである。
太陽のような恒星とは違い、月は自ら光を発することができない。
太陽光を反射することで煌めいているのである。
「それと同じです」
まるで独白のように、クーガーは静かに語り続ける。
「月と同じで、どんな生き物も一人じゃ生きられないんですよ」
「……何が言いたいですか?」
「……何が言いたいですか?」
首を傾げる翠星石。
北岡との問答とは違い、今回は本当に意図を理解することができなかった。
北岡との問答とは違い、今回は本当に意図を理解することができなかった。
「シャドームーンも同じで、一人じゃあ生きられないんです」
その言葉を聞いた瞬間、身体が沸騰したように熱くなる。
「お前も……クーガーですらも、アイツと協力しろって言うんですか!?」
怒轟を飛ばす。
真司や水銀燈と深く関わっていたクーガーだけは、彼らの無念を継いでくれると信じていたのだ。
真司や水銀燈と深く関わっていたクーガーだけは、彼らの無念を継いでくれると信じていたのだ。
「大体! あんな強い奴が一人で生きてけないわけないじゃないですか!」
「強いからこそ、一人じゃ生きていけないんです」
「強いからこそ、一人じゃ生きていけないんです」
視線を逸らした先に居るのはシャドームーン。
瓦礫の上に鎮座する姿を、淡い月光が照らしている。
瓦礫の上に鎮座する姿を、淡い月光が照らしている。
「いくら強くたって、一人じゃ意味はありません
敵や味方がいるからこそ、強さは初めて意味を持つんです」
敵や味方がいるからこそ、強さは初めて意味を持つんです」
どれだけの強さがあろうと、一人では意味を為さない。
戦う敵や守る味方がいてこそ、強さとは初めて発揮される。
戦う敵や守る味方がいてこそ、強さとは初めて発揮される。
「そんなの……そんなの私には関係ないです!」
言葉の意味自体は理解できる。
だが、そんなこと、翠星石には関係ない。
だが、そんなこと、翠星石には関係ない。
「翠星石さんだって同じです
いつまでも意地を張っていたら、貴女はいつか孤立してしまう
シャドームーンは俺達を敵に回しても生きていけるでしょうが……貴女はどうですか?」
いつまでも意地を張っていたら、貴女はいつか孤立してしまう
シャドームーンは俺達を敵に回しても生きていけるでしょうが……貴女はどうですか?」
クーガーの言葉を聞き、翠星石は閉口する。
現時点での生存者は十二人。
志々雄と縁を除けば、全員がシャドームーンとの共闘を掲げている。
つまりは翠星石の敵。
いつの間にか彼女と関わりの深かった者は全滅し、生存者の殆どは敵に回った。
ヴァンやC.C.や上田も共闘を掲げる以上、もはや相容れることはないだろう。
その中で唯一残ったのがクーガー。
もし彼すらも敵に回ってしまうのなら、味方は誰も居なくなってしまう。
現時点での生存者は十二人。
志々雄と縁を除けば、全員がシャドームーンとの共闘を掲げている。
つまりは翠星石の敵。
いつの間にか彼女と関わりの深かった者は全滅し、生存者の殆どは敵に回った。
ヴァンやC.C.や上田も共闘を掲げる以上、もはや相容れることはないだろう。
その中で唯一残ったのがクーガー。
もし彼すらも敵に回ってしまうのなら、味方は誰も居なくなってしまう。
「俺は孤立する貴女の姿は見たくない……協力できませんか?」
共闘はあくまで一時的なものであり、最終的にはシャドームーンも倒す。
それにシャドームーン同様、V.V.も許せない存在である。
効率を求めるのならば、共闘しない理由はない。
頭では理解することができる。
それにシャドームーン同様、V.V.も許せない存在である。
効率を求めるのならば、共闘しない理由はない。
頭では理解することができる。
「シャドームーンは、新一やミギーや……水銀燈に酷いことしてるです」
だが、心では認めることができない。
新一やミギーの命を奪い、水銀燈の尊厳を踏み躙った者との協力は。
新一やミギーの命を奪い、水銀燈の尊厳を踏み躙った者との協力は。
「それに、真司だって……ッ!」
咄嗟に真司の名前が出てしまう。
絶対に口に出さないようにしていたのに、とうとう漏れ出てしまった。
脳裏に蘇る惨劇。
翠星石の放った凶弾が、真司の顔面を通り抜けていく。
薔薇の花弁のように噴き出す鮮血。
昆虫のように藻掻く肢体。
絶対に口に出さないようにしていたのに、とうとう漏れ出てしまった。
脳裏に蘇る惨劇。
翠星石の放った凶弾が、真司の顔面を通り抜けていく。
薔薇の花弁のように噴き出す鮮血。
昆虫のように藻掻く肢体。
「……城戸のこと聞きました」
重苦しい声色で一言。
それが罪を糾弾しているように聞こえ、翠星石は耳元に手を伸ばす。
それが罪を糾弾しているように聞こえ、翠星石は耳元に手を伸ばす。
「分かってます、わざとじゃないんですよね?」
そうして耳を塞ぐ寸前、クーガーの言葉が通り抜けていく。
「翠星石さんがアイツを殺そうとするわけがないじゃないですか、事故だったんですよね?」
先程とは一転して優しい声色。
引き裂かれた心を癒すように、クーガーの言葉が染み渡っていく。
引き裂かれた心を癒すように、クーガーの言葉が染み渡っていく。
「当たり前です! なんで……なんで翠星石が真司を殺さなきゃ……」
視界が歪んでいく。
翠の左眼から一滴の涙が零れ落ちる。
続いて、紅の右眼からも涙が溢れ始める。
翠の左眼から一滴の涙が零れ落ちる。
続いて、紅の右眼からも涙が溢れ始める。
「わざとじゃないんです……真司が急に前に出てくるから……」
「翠星石さんが城戸を殺す気が無かったことくらい、狭間さんも北岡さんもジェレミアさんも分かってます」
「翠星石さんが城戸を殺す気が無かったことくらい、狭間さんも北岡さんもジェレミアさんも分かってます」
今まで彼女の罪を赦す者は居なかった。
クーガーの言う通り、狭間達も彼女に殺意が無かったことは承知している。
しかし、それを言葉にする者はいなかった。
クーガーの言う通り、狭間達も彼女に殺意が無かったことは承知している。
しかし、それを言葉にする者はいなかった。
「じゃあ! なんで! 翠星石は責められるです!?」
一番大切な仲間を殺した後、彼女を待ち構えていたのは侮蔑の視線。
無論、暴走した彼女に原因の一端があることは間違いない。
それを理解していても、頼れる仲間を失った彼女は心を痛め続けていた。
無論、暴走した彼女に原因の一端があることは間違いない。
それを理解していても、頼れる仲間を失った彼女は心を痛め続けていた。
「頭では分かっていても、心では許せないんです
翠星石さんがシャドームーンを許せないように……」
「え……?」
「貴女なら、とっくにシャドームーンと組んだ方が得だと気付いてるのでしょう?」
翠星石さんがシャドームーンを許せないように……」
「え……?」
「貴女なら、とっくにシャドームーンと組んだ方が得だと気付いてるのでしょう?」
図星だった。
先程、シャドームーンと共闘した方が効率的だと認識したばかりである。
先程、シャドームーンと共闘した方が効率的だと認識したばかりである。
「頭で分かっていても、心がシャドームーンを許すことができない
水銀燈さんや泉新一さんのことを思うと、シャドームーンを受け入れるわけにはいかないと思ってしまうんですよね?」
水銀燈さんや泉新一さんのことを思うと、シャドームーンを受け入れるわけにはいかないと思ってしまうんですよね?」
諭すように語り掛けるクーガーを見て、翠星石は素直に頷いてしまう。
喉を鳴らしながら、何度も何度も頷く。
喉を鳴らしながら、何度も何度も頷く。
「それと同じです。貴女に城戸を殺した責任が貴女に無いことは分かっていても、心では赦すことができないんです」
「じゃあ、どうすれば許してもらえるんですか!?」
「じゃあ、どうすれば許してもらえるんですか!?」
頭では分かっていても、心では赦すことができない。
ならば、どうすることで罪を贖えるのか。
ならば、どうすることで罪を贖えるのか。
「ハハッ、そんなの簡単じゃあないですか」
笑い掛けてくるクーガー。
その悩みが馬鹿らしいとでも言うような明朗快活な笑み。
散々悩んでいるにも関わらず、どうして笑い飛ばすことができるのか。
彼の態度に怒りを覚えて、それを口に出そうとする。
その悩みが馬鹿らしいとでも言うような明朗快活な笑み。
散々悩んでいるにも関わらず、どうして笑い飛ばすことができるのか。
彼の態度に怒りを覚えて、それを口に出そうとする。
「貴女自身がその答えになってるはずです」
口に出そうとして、止まる。
「劉鳳を殺した城戸と、貴女はこれまでずっと一緒にだったじゃないですか」
気付かされる。
悩み続けていた答えが、自分自身の中にあったことに。
悩み続けていた答えが、自分自身の中にあったことに。
「あ……」
浸透していく言葉。
凍り付いた身体が、ゆっくりと溶けていく。
冷え切っていた手足に力が漲る。
震えていた肉体に熱が戻る。
凍り付いた身体が、ゆっくりと溶けていく。
冷え切っていた手足に力が漲る。
震えていた肉体に熱が戻る。
心が、解き放たれる。
そうして、胸の奥底から蘇る。
――――なんで……なんで、劉鳳を殺したですか!?
出会いは最悪だった。
真司は劉鳳と戦闘を始め、その末に彼を殺害した。
最終的に誤解だったことが分かったが、それで劉鳳を殺した罪が消えるわけではない。
そう簡単に、赦せるわけがない。
真司は劉鳳と戦闘を始め、その末に彼を殺害した。
最終的に誤解だったことが分かったが、それで劉鳳を殺した罪が消えるわけではない。
そう簡単に、赦せるわけがない。
――――お前ら! …………翠星石を庇ってくれたんですか?
それが切欠だった。
シャナによって振るわれる長槍。
その穂先が翠星石を貫く寸前、真司がそれを払い飛ばしたのだ。
そうして彼女を撃退し、気が付いたら一緒に歩き始めていた。
シャナによって振るわれる長槍。
その穂先が翠星石を貫く寸前、真司がそれを払い飛ばしたのだ。
そうして彼女を撃退し、気が付いたら一緒に歩き始めていた。
――――我が名はシャドームーン、次期創世王にして貴様らの命を終焉に導く者だ
立ちはだかる強敵。
世紀王・シャドームーン。
吹き荒ぶ雷光が、煌めく紅剣が、容赦なく襲い掛かる。
それでも翠星石が生き残ることができたのは。
真司が命懸けで護ってくれたからではないだろうか。
それだけではない。
警察署の惨劇を経て、翠星石はLの下を離脱することにした。
あの時はLが極悪人に見えたが、思い返せば彼も最善を尽くしていたのだろう。
警察署を出て行ったのはただの我儘。
蒼星石や右京の死をLに押し付けて、果たすべき責務から逃げたのだ。
でも真司は、我儘に付き添ってくれた。
本当はまだ休息が必要だったのに、自分の後ろを付いて来てくれた。
世紀王・シャドームーン。
吹き荒ぶ雷光が、煌めく紅剣が、容赦なく襲い掛かる。
それでも翠星石が生き残ることができたのは。
真司が命懸けで護ってくれたからではないだろうか。
それだけではない。
警察署の惨劇を経て、翠星石はLの下を離脱することにした。
あの時はLが極悪人に見えたが、思い返せば彼も最善を尽くしていたのだろう。
警察署を出て行ったのはただの我儘。
蒼星石や右京の死をLに押し付けて、果たすべき責務から逃げたのだ。
でも真司は、我儘に付き添ってくれた。
本当はまだ休息が必要だったのに、自分の後ろを付いて来てくれた。
――――お、俺なんか、あいつの悪趣味な剣ぶんどってお箸にしてやるからな!
――――正義。仮面ライダー龍騎……!
その後も、ずっと、ずっと、真司は一緒に居てくれた。
時には前に出て、守ってくれた。
時には後ろに下がり、励ましてくれた。
翠星石と真司の関係を考えたことがある。
仲間であることに間違いはないが、もう少し特別な関係でもいいだろう。
だが、相棒ではない。
おそらく彼の相棒は別にいる。
他にも色々な言葉を探したけれど、ピタリと合致する言葉は中々見つからない。
そうして、ふと思いついた言葉。
それは『兄妹』だった。
離れたくても離れられない関係。
時には傷つけ合い、時には守り合う関係。
城戸真司という人間は、翠星石にとって他の姉妹達と同様に特別な存在になっていた。
真司という『兄』の背中を、翠星石という『妹』は追い続けた。
多くの者との死別を経ても、翠星石がここまで来れたのは。
時には前に出て、守ってくれた。
時には後ろに下がり、励ましてくれた。
翠星石と真司の関係を考えたことがある。
仲間であることに間違いはないが、もう少し特別な関係でもいいだろう。
だが、相棒ではない。
おそらく彼の相棒は別にいる。
他にも色々な言葉を探したけれど、ピタリと合致する言葉は中々見つからない。
そうして、ふと思いついた言葉。
それは『兄妹』だった。
離れたくても離れられない関係。
時には傷つけ合い、時には守り合う関係。
城戸真司という人間は、翠星石にとって他の姉妹達と同様に特別な存在になっていた。
真司という『兄』の背中を、翠星石という『妹』は追い続けた。
多くの者との死別を経ても、翠星石がここまで来れたのは。
城戸真司という『兄』が傍に居たからではないだろうか。
「貴女がアイツと一緒だったのは、アイツのことを赦したからなんじゃないですか?」
劉鳳を殺したことを憎んでいたのなら、ここまで同行するわけがない。
ここまで頼りにするわけもない。
言葉にはしなかったものの、翠星石は疾うの昔に真司のことを赦していたのだ。
ここまで頼りにするわけもない。
言葉にはしなかったものの、翠星石は疾うの昔に真司のことを赦していたのだ。
「なら、貴女が次に為すべきことも分かりますね?」
背負った十字架の重さに悔い、悩み、苦しむ。
それでも投げ出すことなく、バカ正直に背負いながら歩き続ける。
そんな兄の姿を、翠星石はずっと見てきた。
それでも投げ出すことなく、バカ正直に背負いながら歩き続ける。
そんな兄の姿を、翠星石はずっと見てきた。
道標は、前に続いている。
「分かったです、クーガー、私も――――」
――――そんな簡単に赦されていいの?
手を伸ばそうとして止まる。
頭の奥から、囁くような声が聞こえる。
頭の奥から、囁くような声が聞こえる。
――――貴女に彼の真似ができるの?
「イヤ……」
脳裏を埋め尽くす惨劇。
まるで墓場から蘇った亡者のように手を伸ばしてくる真司。
顔に大きな穴を開けて、地面に横たわる。
虚ろな目で翠星石を見上げながら、空気が通り抜けるような声を漏らす。
怨みと嘆きを抱えるその姿は、ホラー映画に出てくるお化けとは比較にもならない。
まるで墓場から蘇った亡者のように手を伸ばしてくる真司。
顔に大きな穴を開けて、地面に横たわる。
虚ろな目で翠星石を見上げながら、空気が通り抜けるような声を漏らす。
怨みと嘆きを抱えるその姿は、ホラー映画に出てくるお化けとは比較にもならない。
「真司は翠星石のことを怨んでるです、せっかく護ってやったのに……な、なんで殺したんだって……!」
翠星石が真司のことを赦していたのは事実だ。
絶影が発現したことから、きっと劉鳳も赦していたのだろう。
城戸真司が赦免されていたことは間違いない。
絶影が発現したことから、きっと劉鳳も赦していたのだろう。
城戸真司が赦免されていたことは間違いない。
しかし、翠星石は誰に許しを請えばいいのだろう。
劉鳳が死ぬ直前、真司は誤解を解いて謝罪している。
その上で、翠星石を護り続けた。
だが、今はその土台がない。
真司は既に死に、仲間もクーガー以外は全滅した。
そのクーガーも優しすぎるため、翠星石を簡単に赦してしまうだろう。
それでは駄目なのだ。
真司のように、責任を果たす相手が必要なのだ。
真司が背負い続けてきた十字架が、翠星石の上に倒れ込んでくる。
伸し掛かる十字架は、余りに冷たくて重い。
その上で、翠星石を護り続けた。
だが、今はその土台がない。
真司は既に死に、仲間もクーガー以外は全滅した。
そのクーガーも優しすぎるため、翠星石を簡単に赦してしまうだろう。
それでは駄目なのだ。
真司のように、責任を果たす相手が必要なのだ。
真司が背負い続けてきた十字架が、翠星石の上に倒れ込んでくる。
伸し掛かる十字架は、余りに冷たくて重い。
「翠星石さん?」
「きっとそうに決まってます……お前を絶対に許さない、お前を殺してやるって!」
「きっとそうに決まってます……お前を絶対に許さない、お前を殺してやるって!」
尋常ではない翠星石の様子を不審に思ったのか、クーガーは声を張り上げる。
「嫌です、私は……殺したくなんか……」
「翠星石さん、聞いてください!!」
「翠星石さん、聞いてください!!」
翠星石の肩を掴み、大声を上げるクーガー。
「城戸の奴が倒れた時、その顔は本当に貴女への怨みや怒りが篭ったものでしたか!?」
真司の最期の形相は、赤黒い血に塗れて見えない。
「今までずっと一緒にいた真司は、貴女の中にいる城戸真司という男は!
何時までも怨みを引き摺るような奴でしたか!?」
何時までも怨みを引き摺るような奴でしたか!?」
反響する大声。
脳裏で再生され続ける真司の最期。
だが、そこに声はない。
真司の最期の言葉は、薔薇の花弁が掻き消してしまった。
脳裏で再生され続ける真司の最期。
だが、そこに声はない。
真司の最期の言葉は、薔薇の花弁が掻き消してしまった。
真司の遺志は、永遠に分からない。
「なんで……どうしてこうなってしまったです……?
私は戦いたくなんてなかった、ローザミスティカなんて欲しくなかった、ただ皆と一緒にいられれば良かったんです」
私は戦いたくなんてなかった、ローザミスティカなんて欲しくなかった、ただ皆と一緒にいられれば良かったんです」
胸を掻き毟る。
小さな手に力を込めて、何度も何度も掻き毟る。
その内側で輝き続ける石の欠片達は、何も応えようとはしない。
翠星石はアリスゲームには反対していた。
自らが傷つくのも嫌だったし、それ以上に誰かを傷つけるのが嫌だった。
戦わなければならない運命の中、翠星石は別の道を探し続けた。
その最中、新たな殺し合いが始まる。
今までの努力を嘲笑うように、袋小路の中に放り込まれたのだ。
どうしてこんなことになってしまったのか。
翠星石に殺し合いを強制される理由はない。
蒼星石にも、真紅にも、水銀燈にも、劉鳳にも、新一にも、真司にも。
誰一人として、こんな理不尽な殺し合いに巻き込まれる理由はない。
十字架を背負う理由は無かったのだ。
小さな手に力を込めて、何度も何度も掻き毟る。
その内側で輝き続ける石の欠片達は、何も応えようとはしない。
翠星石はアリスゲームには反対していた。
自らが傷つくのも嫌だったし、それ以上に誰かを傷つけるのが嫌だった。
戦わなければならない運命の中、翠星石は別の道を探し続けた。
その最中、新たな殺し合いが始まる。
今までの努力を嘲笑うように、袋小路の中に放り込まれたのだ。
どうしてこんなことになってしまったのか。
翠星石に殺し合いを強制される理由はない。
蒼星石にも、真紅にも、水銀燈にも、劉鳳にも、新一にも、真司にも。
誰一人として、こんな理不尽な殺し合いに巻き込まれる理由はない。
十字架を背負う理由は無かったのだ。
「もう……もうこんなところに居たくないです!!」
限界を迎える。
多くの姉妹や仲間を喪い、摩耗していた心が完全に擦り切れる。
十字架を背負い切れるほど、翠星石は強くない。
『兄』で在り続けた真司ほど、彼女の心は強くない。
多くの姉妹や仲間を喪い、摩耗していた心が完全に擦り切れる。
十字架を背負い切れるほど、翠星石は強くない。
『兄』で在り続けた真司ほど、彼女の心は強くない。
「分かりました、翠星石」
そんな彼女の叫びを聞き、道化師の使いは現れる。
時系列順で読む
Back:永すぎた悲劇に結末を――彼女の名を知らず Next:聖少女領域/黒龍見参
投下順で読む
Back:永すぎた悲劇に結末を――彼女の名を知らず Next:聖少女領域/黒龍見参
160:因果応報―始まりの終わり― | ストレイト・クーガー | 160:聖少女領域/黒龍見参 |
翠星石 | ||
シャドームーン | ||
狭間偉出雄 | ||
北岡秀一 | ||
柊つかさ | ||
ジェレミア・ゴットバルト | ||
161:第四回放送 | 薔薇水晶 |