黒龍見参

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

聖少女領域/黒龍見参 ◆ew5bR2RQj.



大量の紫水晶が焦土から突出する。
一人一人を分断するように、幾重にも連なった巨大な水晶が取り囲む。
まるで水晶の牢獄。
それを眺めているのは、一人だけ囚われずにいる翠星石
彼女が呆然としていると、一際大きな水晶が目前に現れる。
鏡のように自らの顔を映し込む水晶。
その一面が水面のように揺れ、中から一人の少女が出現する。

「迎えに参りました」

薄紫のドレスを着こなし、薔薇の眼帯が目立つ少女。
直接会ったわけではないが、真紅から容姿と名前を聞いていた。
ローゼンメイデン第七ドール・薔薇水晶

「なんで、お前が……」
「貴女は先程こんなところに居たくないと仰りました、だから迎えに来たのです」

空中に浮遊する薔薇水晶は、地上にいる翠星石を見下ろしている。

「よくもまた私の前に出てこれたものだな、その蛮勇。褒めてやる」

甲高い音を立て、遠方に聳え立っていた水晶が砕け散る。
牢獄から解き放たれた影は大きく跳躍して、彼女の前に着地した。

シャドームーン……」
「私を虚仮にした代償、今度こそ支払ってもらうぞ」

シャドームーンは左腕を掲げ、サタンサーベルの切先を突き付ける。
右腕を喪ってなお、王の威厳は少しも欠けていない。

「ククク……」

そんな彼を嘲るように、笑い声が聞こえる。
薔薇水晶のものではない。
第二次性徴を迎えて声変わりした大人の男の声だ。

「何者だ!?」

憤慨するシャドームーン。
彼に応えるように、薔薇水晶が扉にした巨大な水晶が薄く輝く。
水晶面に波紋が走り、腕が突き出される。

現れる漆黒。
濃密な存在感を纏いながら、覇王が焦土に君臨する。
その姿に、ここにいる多くの者は見覚えがあった。
全身を包み込む強化スーツに、胸部や手足を守る装甲。
左腕には龍を模した召喚器が装着され、腰に巻かれたベルトの中心には龍が刻印された長方形が飾られている。
そして、頭部に嵌められているのは仮面。
スリットの下から、赤い複眼が覗いている。

「龍騎……?」

水晶の隙間から北岡が呟く。
だが、疑問形。
目の前の存在が信じられないと言うように目を強張らせている。
彼らの前にいるのは、一見すれば城戸真司の変身する仮面ライダー龍騎と瓜二つ。
しかし、龍騎とは決定的に違う。
全身は邪悪なほどに黒く、纏わりつく雰囲気はあまりに剣呑。

「志々雄……!」

水晶を砕き、クーガーが顔を出す。
黒い龍騎の正体に、彼は見覚えがあったのだ。

「久しぶり……ってほどでもねぇか、なぁ、クーガー」
「どうしてお前がそこから出てきやがる!」

幕末が作り上げた覇王・志々雄真実
それが闖入者の正体であり、彼が変身しているのは仮面ライダーリュウガ。
鏡の魔物が産み落とした龍騎の影だ。

「貴様が志々雄真実か」

地面に足跡を刻みながら歩を進めるのは狭間。
彼の背後では、溶解した水晶の成れの果てが打ち捨てられている。

「一人だけ脱出した男が居るのは知っていたが、噂に違わぬ下衆な男のようだな」
「志々雄が脱出した? どういうことだ?」

事情を飲み込めないクーガーが狭間に問い掛ける。

「首輪を解除した上で、十二時間以上同行した者を殺害する
 この二つを満たすことで、この会場から脱出する権利が与えられるのだ」

狭間の説明を受けると、クーガーは志々雄に視線を移す。
その表情は、驚愕から憤怒へと変貌していた。

「じゃあ、三村が死んでいたのは、お前が脱出するためだってのか!?」
「ああ、そうだ、あいつはよく働いてくれた」
「お前……!」
「この男に何を言っても無駄だ、改心するような男ではない」

緋村剣心の後任になる形で影の人斬りとなった志々雄真実。
実力は申し分なかったが、異常なほどの支配欲を危険視され続けた。
仲間にすら危険視されるほどの支配欲。
これといった理由もなく、この世に生を受けた瞬間から悪の心を抱いていた。
謂わば、生まれついての悪。
誰かの言葉で改心するようなら、今頃地獄に墜ちている。

「だが主催に加わった以上は私達の敵、容赦はしない! マハブフーラ!」

狭間の手に冷気が集結し、直径一メートルほどの球体と化す。
そこから猛吹雪が放射され、志々雄と薔薇水晶を呑み込もうとする。
マハブフーラは凍結系の中級魔法だが、攻撃範囲が広いという特徴を持つ。
そして中級魔法と言えども、狭間は魔法の天才だ。
並の悪魔であれば、一撃で氷像と化すだろう。

――――SURVIVE――――

志々雄と薔薇水晶を中心に、二条の黒炎が螺旋状に巻き上がる。
二匹の龍が絡み合い、天を目指しているようだ。
吹雪は黒炎の渦にぶち当たり、音を上げて蒸発する。

「効かねぇよ」

渦が収まると、無傷の志々雄――――リュウガが立っている。
狭間が舌打ちしたのも束の間。
背後の山を焼いている炎が猛り、変化が訪れる。

「ああぁぁ……」

最初の変化は左腕。
手甲のように一体化していた召喚器が、龍の顔を模した銃型に変わる。
続いて、両脚と右腕。
銀と黒に彩られた装甲は膨らむように重厚さを増していき、黄金の模様が刻まれる。
そして、胸部。
地を這うような雄叫びが唸った瞬間、龍の顔が飛び出る。
後頭部の角は三本に分裂し、肩部の装甲と融合。
顔は面影を残した巨大な鎧へと姿を変え、紅の眼が目の前の全てを威圧する。
最後に仮面の上部に黄金の線が走り、触覚が突き出ることで生誕。

本来の歴史には存在しない。
仮面ライダーリュウガのサバイブ形態。
龍騎サバイブと酷似した容姿を持つが、何かが決定的に違う。
あまりの禍々しさに、北岡やつかさは生唾を飲み込む。

「なんでお前がそのカードを持っている!?」

志々雄が使用したサバイブ―烈火―は、かつてクーガーが真司に譲ったカード。
彼が死んだからといって、志々雄の手に渡っていいはずがない。

「さぁな!」

答えると同時に疾走。
デッキから一枚のカードを抜き取り、馴れた手付きで召喚器に投げ込む。

――――SWORD VENT――――

龍騎やナイトとは異なる低い機械音声。
ブラックドラグバイザーツバイの口から鉛色の刃が吐き出される。

「メギド!」

呪文を唱えたことで、狭間の右掌からいくつもの火球が連射される。
機関銃のように発射され、全てが志々雄を狙い撃つ。
だが、効かない。
剣を巧みに操り、命中する前に全て叩き落されてしまう。
新たな魔法を唱えようとするが、志々雄の接近の方が速かった。
振り落とされる刃を、斬鉄剣を抜刀して受け止める。

「さぁ、翠星石、行きましょう」

狭間の動きが封じられたのを確認すると、薔薇水晶が動き出す。
狙いは目前にいる翠星石の奪取。
空中から滑るように下降し、抱き着くように両腕を伸ばす。

「させるか!」

それを妨害したのはクーガーの飛び蹴り。
脚部には流線型の装甲・ラディカル・グッドスピードが装着されている。
側面からの攻撃に対し、薔薇水晶は杭のように先端が尖った水晶を射出。
空中では回避できないと判断しての行動。
だがクーガーは伸ばしていた脚を上空に掲げ、靴底から空気を噴射することで地上へと落下していく。
着地と同時に加速し、呆然と突っ立っていた翠星石を回収。
そのまま脇目もふらずに走り去っていった。
回避と回収を同時に熟す動き。
端からそれが狙いだったのだろうと、薔薇水晶は推理した。



「つかさちゃん!」

一方で北岡はゾルダに変身することで檻から脱出し、脱出する手段の無いつかさの救助を行なっていた。
彼女が破片で負傷しないよう、慎重に水晶を砕く。
ジェレミアも刀を振るいながら、彼女の脱出に手を貸していた。
戦闘が始まった以上、時間は掛けられない。
得体の知れないライダー相手となれば尚更だ。
作業の開始から一分程で、人が通れる程度の隙間が開く。

「ありがとうございます、北岡さん、ジェレミアさん」
「礼などいらん、それより何処かに隠れて――――」
「いや、薔薇水晶は自分でnのフィールドの入り口を作れるから隠れてるのは意味ないよ」

鏡のように滑らかな水晶を産み出す薔薇水晶は、オーディンのような瞬間移動能力を持っているに等しい。
いくら距離を離そうと、一瞬で追い付かれてしまう。

「俺達で守りながら戦うしか……」
「その必要は無い!」

翠星石を抱えたクーガーが走り込んでくる。

「俺がつばささんも一緒に抱えてます! だからアンタらあいつを!」

クーガーが指差した先を見ると、薔薇水晶が飛び込んできている。
辿り着くまでの時間は幾許もない。
迷っている暇は無かった。

「頼んだよ!」

クーガーにつかさを預けると、北岡はマグナバイザーを抜く。
同時に薔薇水晶が水晶の礫を大量に浮かべ、射出してくる。

「行け、ジェレミア!」

叫ぶと同時に発砲。
一分間に百二十発もの弾丸を吐き出すマグナバイザーであれば、水晶を撃ち落とすのは不可能でない。
幾重にも重なる銃撃音を背景にジェレミアが走り出す。
贄殿遮那と無限刃を抜刀。
薔薇水晶は空中で停止すると、水晶の剣を右手に形成した。

「今度こそ逃さん!」

無限刃と水晶の剣が衝突。
僅かな拮抗を経て、押し負けたのは薔薇水晶。
水晶の剣に亀裂が走り、表情が苦悶に歪む。
それを好機と見たジェレミアが、今度は贄殿遮那を横薙ぎに振るう。
水晶の剣は完全に砕け散り、薔薇水晶は丸腰となった。

「これで終わりだ!」

二本の刀を交差し、薔薇水晶に斬り掛かるジェレミア。
いくらローゼンメイデンでも、致命傷を避けられない。

「ジェレミア、避けろ!」

背後から聞こえる北岡の叫び声。
発言の意図が理解できず、ジェレミアは小首を傾げる。
しかし、数瞬もしない内に、本能がそれを悟らせた。
薔薇水晶の背後に迫るシャドームーン。
月光に照らされ、怪しく光るサタンサーベル。
切先は薔薇水晶の胴体に向いている。

「くっ!」

水晶の礫を発射した反動で剣先から離脱する薔薇水晶。
彼女が居なくなったことで、ジェレミアが紅の剣先の前に曝される。
背筋を駆け抜ける恐怖。
根源的な命の危機に直面し、咄嗟に地面に倒れ込む。
直後、頭部の上を紅の剣筋が走った。

「あの人形は私の獲物だ、貴様らが手出しすることは許さん」

上空の薔薇水晶を見上げながら、威圧的に語り掛けるシャドームーン。
反論は許さないと言うように直ぐ様跳躍する。
ジェレミアは地面に座り込みながら、その様子を眺めていた。

「おい、大丈夫か」

北岡が上から覗き込んできている。
それに気付くのに、ジェレミアは数秒の時間を必要とした。
頬を拭うと、グローブが仄かに湿る。
シャドームーンはジェレミアを殺そうとしたわけではない。
彼は『王の契約』を遵守している。
無論、屁理屈を捏ねて薔薇水晶と一緒にジェレミアを手に掛けようとした訳でもない。
先程の一撃は、純粋に薔薇水晶を狙ったものだ。
ただ、その剣先にジェレミアが居ただけの話。
わざわざ蟻を避けて歩く者がいないように、シャドームーンにも攻撃の手を止める必要が無かったのだ。

「これからどうするよ」
「……仕方がない、あの男ならば薔薇水晶の相手も容易だろう、我々は狭間の助太刀に――――」

溜息を吐きながら、ジェレミアは立ち上がる。
その時だった。

「ハハハハハハハハハハ!!」

志々雄の笑い声が聞こえてきたのは。



龍の口から生えた刃――――ドラグブレードが空から振り下ろされる。
狭間は斬鉄剣を横に構えることで防御。
両腕から肩に掛けて、電流が走るような痛みが駆け抜ける。

「どうした、その程度か、魔人皇さんよ」

そう、両腕だった。
狭間が魔法を使用する際、手を翳す必要がある。
しかし今は、斬鉄剣の柄を両手で握り締めている。
片腕だけでは、志々雄の猛攻を受け止めることができないのだ。
志々雄の剣筋は大胆にて緻密。
剣の心得があるからこそ、目の前の男の圧倒的な実力が理解できる。
綿密な足捌きで身体を支え、放たれる剣戟は全て必殺。
狭間に反撃の隙を与えぬよう、距離を離さないように戦っている。
魔法の弱点を知られていると推理する狭間。
実際、志々雄は彼と鷹野の戦闘を観察していた。

「アンタ、俺をあの鷹野って女と同じように考えてないか?」

志々雄が不意に話し掛けてくる。
それでも剣の嵐が止むことはない。

「カードデッキは簡単に力を手にすることができるが、それでも元の力が関係ないわけじゃない」

先の戦いがいい例だろう。
オーディンのゴルトフェニックスのAPが8000なのに対し、ベルデのバイオグリーザはその半分の4000。
数値だけを鑑みれば、オーディンはまさに桁違いと言えるだろう。
しかし実際の戦闘では、オーディンとベルデにそこまでの差は無かった。
その理由は変身者の違い。
オーディンが素人に毛が生えた程度の鷹野なのに対し、ベルデは戦闘のプロフェッショナルであるスザク。
狭間への憎悪を含んだとしても、鷹野とスザクの間には歴然とした力の差がある。

「あの女は素人だが俺は違う。そしてこのリュウガサバイブはオーディンとほぼ同じ力を持つ、この意味が分かるか?」

龍騎のカードに比べ、リュウガのカードは常に1000AP高い。
例えば同じドラグセイバーでも、龍騎が2000APでリュウガが3000APだ。
それはサバイブ形態でも同じ。
龍騎サバイブのドラグブレードが3000APなのに対し、リュウガサバイブは4000AP。
これはオーディンのゴルトセイバーと同じ数値である。
そして、リュウガサバイブの契約モンスターであるブラックドラグランザーのAPは8000。
ドラグランザーの7000APを凌駕し、ゴルトフェニックスに匹敵している。
つまりリュウガサバイブとオーディンは同格なのだ。

「オーディンを倒したテメェでも、この俺には勝てないってことだよ!」

腰元から放たれる逆袈裟切り。
やはり回避は不可能であり、狭間は斬鉄剣で受け止める。
刹那、脇腹を突き抜ける衝撃。
志々雄の回し蹴りが、狭間の脇腹に刺さっている。
踏ん張ることができず、跳ね飛ばされる狭間。
十数メートルほど宙を舞った後、瓦礫の山に叩き付けられた。

「狭間!」

加勢に加わろうとする北岡とジェレミア。

「遊び相手がいないなら用意してやるぜ」

――――ADVENT――――

傍に生えていた巨大な水晶を入り口とし、ブラックドラグランザーが召喚される。
全長十メートルを越える漆黒の身体がが蠢き、夜の空を覆い尽くす。

「殺れ」

志々雄の指示を受け、ブラックドラグランザーが咆哮を上げる。
天地を揺るがすほどのその声量に、北岡とジェレミアは身震いした。

「あぁん?」

ふと、真横を振り向く志々雄。
いつの間にか立ち上がっていた狭間が、志々雄に右手を向けていたのだ。

「油断したな……」

モンスターを召喚している隙に体勢を整えた狭間。
痛手は喰らったが、今の彼と志々雄の間にある距離は大きい。
接近戦では志々雄が有利だが、遠距離戦となれば多彩な魔法のある狭間に分がある。

「油断? 何のことだ」

ドラグブレードの刀身が黒い炎を纏っていく。

「これは『余裕』というもんだ!」

志々雄がそれを振るうと、刀身から黒炎の衝撃波が放たれた。
バーニングセイバー。
龍騎サバイブが使用可能な必殺技の一つであり、影であるリュウガサバイブも当然使用可能な技だ。
狭間の呪文を唱えるよりも早く、衝撃波は彼の下に到達。
爆発が起こり、周辺の瓦礫が黒炎に呑み込まれる。

「ハハハハハハハハ、ざまぁねぇな」

盛大な高笑いを浮かべる志々雄。
夜闇の中を、炎のように真っ赤な双眸が光っている。
その先にいるのは、ブラックドラグランザーと激闘を繰り広げている北岡とジェレミア。

「奴は私が止める!」
「あ、おい、待て!」

志々雄の視線に気付いたジェレミアは戦線を離脱する。
北岡が制止の声を投げ掛けるが、彼らを分断するようにブラックドラグランザーの火球が地面を焼いた。



「アイツ……!」

黒炎の幕の先では、ジェレミアと志々雄の剣戟が繰り広げられる。
だが、いつまで持つか。
リュウガサバイブがオーディンに匹敵するというのが事実なら、ジェレミアが一人で挑んで勝てる相手ではない。
だが、誰かが志々雄の足止めをしなければならないのも事実。
その役目は、ブラックドラグランザーへの決定打が無いジェレミアが適任だった。

「早く合流しないと!」

適任といっても、志々雄とジェレミアの間にある力量差は著しい。
一刻も早くブラックドラグランザーを撃破し、二人掛かりで対応する必要があった。
ギガランチャーの照準を空中のブラックドラグランザーに合わせる。
その巨体ゆえ、狙いを定めるのは容易だ。
周囲に細心の注意を払い、素早く引き金を絞る。
同時にブラックドラグランザーが黒炎の火球を発射。
砲弾と火球が空中で衝突し、大きな爆発へと発展する。
上空で起きた爆発なため、地上への被害は軽微。
ブラックドラグランザーへの被害の方が大きいが、致命傷には到底及ばない。
再びギガランチャーの照準を定め、引き金に手を掛ける。

――――その瞬間だった。

「フフフ……」

目の前を薔薇水晶が通過する。
背筋が凍るような感覚が北岡を突き抜け、引き金に掛けた指から力が抜けていく。
その直後、ギガランチャーの射線上をシャドームーンが通過した。
『王の契約』により、シャドームーンに攻撃の手を加えることは禁じられている。
抵触する可能性がある以上、北岡は攻撃することができない。
先程から薔薇水晶はこれを利用し、ギガランチャーの射線上にシャドームーンを誘導しているのだ。

「クソ!」

悪態をつく北岡。
戦力的には此方側が有利なのに、まるでその力を発揮できていない。
先程からシャドームーンが薔薇水晶を追い続けているが、その攻撃は明らかに精彩を欠いている。
その理由は、薔薇水晶とシャドームーンの移動法。
シャドームーンが跳躍なのに対し、薔薇水晶は飛行。
空中戦において、空を自由に移動できるというのは非常に重要なアドバンテージだ。
さらに薔薇水晶が防御に徹しているのもあるだろう。
一流の戦士であっても、防御に徹した相手を打ち崩すのは困難だと言われている。
そして、もう一つ。
薔薇水晶が窮地に陥りそうになると、ブラックドラグランザーは彼女の援護に回る。
北岡の攻撃が緩んでいるため、それは容易に行うことができた。

「いくらなんでも滅茶苦茶過ぎる……」

薔薇水晶とブラックドラグランザーの連携は万全。
対する此方側は滅茶苦茶。
数も力も優っているにも関わらず、戦況は相手側に大きく傾いている。

「クーガー、何とか戦えないの?」
「無茶言うな!」

つかさと翠星石を両脇に抱えながら、クーガーは上空から降り注ぐ火球を回避している。
彼女達がいる以上、クーガーが攻撃に回るのは不可能。
翠星石の目も焦点が定まっておらず、戦力としては期待できない。

「クソ!」

空を仰ぐと、黒龍の身体が満月を覆い隠していた。



「おおおおおおおッ!」

雄々しく猛り声を上げながら突撃するジェレミア。
対する志々雄の体勢は制止。
ドラグブレードを胸の前で構えながら、悠然とジェレミアを待ち受ける。
訪れる衝突。
贄殿遮那とドラグブレードが拮抗し、耳障りな金属音を鳴らす。
だが、ジェレミアは二刀流。
右腕が受け止められても、左腕が残っている。
側面から胴体を狙うように、次なる斬撃が迸った。

「ほう、二刀流か」

胴体の寸前で、何かが斬撃を阻まれる。
火焔のように真っ赤な刀身の剣が、無限刃の刃を受け止めていた。

「……ッ!?」

再び全身を駆け抜ける恐怖。
全身を焼かれるような錯覚が網膜に写り、ジェレミアは背後へと跳ぶ。

「一目でこいつの強さが理解できるとは、流石と言ったところか」

志々雄が新たに取り出した剣はヒノカグツチ。
大地母神を殺した炎神の力を封じた魔剣。
余程の強者でなければ、振るうことすら許されない。

「アンタが持ってたんだな」
「……何のことだ」
「アンタが左手で握っている刀、そいつは元々俺の物だ」

ジェレミアが左手で振るっているのは無限刃。
元々はアイゼルの支給品であり、彼女の死後に譲り受けたものだ。

「そうか、貴様の刀だったか、悪趣味なのも頷けるな」

無限刃が普通の刀で無いことは一目瞭然だった。
刀身が鋸状に拵えられているのだ。
その理由は刃こぼれを防ぐためだと推察できたが、ジェレミアが悍ましさを抱いたのはそこではない。
刃先にこびり付いた脂と、残った僅かな焦げ跡。
多くの人間を惨殺した末にこびり付いた脂を、抜刀した際に生じる摩擦で発火させる。
その使用法に気付いた時、嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

「それでも名刀なのには違いない、返すわけにはいかんな」
「そうか、なら奪い返してやるぜ!」

言葉を叩きつけると同時に踏み込む志々雄。

「それにしてもアンタも二刀流か、流行ってんのか?」
「知るか!」

突き出される左腕。
龍の口から生えた刃が、目の前の敵に喰らいつこうとする。
ジェレミアは半身になることで回避。
そのまま志々雄の背後に周り、彼の首に贄殿遮那を伸ばす。
だが、その背後から紅の刃が忍び寄ろうとしていた。

「なら、俺も流行に乗ってみるとしようかね!」

ジェレミアの一連の行動は、志々雄に見透かされていた。
刺突の踏み込みに利用した左脚を軸に身体を半回転させ、その勢いを乗せた一撃で背後を狙う。
一流の剣客に備わる”読み”があってこその芸当。
空中に描かれる紅の軌跡。
咄嗟に横に飛んでいなければ、ジェレミアの首は胴体から離れていただろう。

「普段は一本だけだが今回は特別だ、別々に試すのが面倒くせぇ」

左手にドラグブレード。
右手にヒノカグツチ。
炎の力を宿した剣を同時に構える志々雄は、まるで神話に登場する炎神のような威圧感を放っている。

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

今の志々雄が想像を絶する力を手にしているのは理解できる。
しかし、ジェレミアは退かない。
炎を扱う刀を両手に携え、志々雄へと斬り込む。
攻撃の隙を与えないよう、怒涛の勢いで刀を振るう。
必死で動き続けているためか、あるいは志々雄が纏っている異常な高熱のせいか。
ジェレミアは全身を大量の汗が流れているが、それでも刀を降ろさなかった。
身体のあらゆる箇所を動かし、自身の知る全ての剣技を叩き付ける。

だが、それでも志々雄には通じない。
放った斬撃は全て避けられ、流され、受けられる。

「シャアアアァァッ!」

不意を狙った一撃。
炎のように紅い剣が、ジェレミアの脇腹に放たれる。
回避は間に合わず、防御も届かない。
だが、問題は無い。
ジェレミアの左半身はKMFの攻撃にすら耐え得る特殊な金属に覆われている。
いくら強大な剣と言えど、この防御を突破できるはずがない。

「がッ!?」

鈍い痛みが左半身から全身に広がる。
ピシッと音が鳴り、脇腹の装甲に亀裂が走る。
突破されないはずの防御が突破される。
痛みと共に焦燥感が身体を支配し、ジェレミアは突き動かされるように跳躍した。
空中で腕を交差させ、落下の勢いをつけて斬り付ける。

「中々の腕だな、世が世ならそれなりに名を馳せたかもしれねぇ」

それも志々雄は受け止めた。
ジェレミアと同じように剣を重ね、刀の交点へ衝突させる。

「だが、それだけだ、アンタの剣は軽い」

鍔迫り合いが始まり、力と力の押し合いへと突入。
その瞬間も、志々雄は口を閉じない。
饒舌な気質なのか、言葉を紡ぎ続けている。


「アンタ、生き残る気ないだろ?」


動揺が走る。


「図星か、そうだろうな、アンタの剣からは生きる気力を感じねぇ、空っぽだ」

ルルーシュを失い、奈緒子を失い、アイゼルを失い、他にも多くを失った。
既にジェレミアの中身は失われ、生きる気力は枯れ果てている。
ここから脱出したとしても、ルルーシュの後を追うつもりだ。
故に、図星。
志々雄が突き付けた言葉は、寸分の狂いもなく当たっている。

「俺を止めるとか言ってたな?」

ジェレミアの身体が徐々に押し込まれていく。
引き摺るように後退させられるが、やがて一歩ずつ下がり始める。
無限刃に亀裂が入っていく。

「自分の命も掛かってねぇような軽い剣で、この志々雄真実を止められるわけねぇだろ!!」

無限刃が砕け、贄殿遮那が弾かれる。
鍔迫り合いに敗北したジェレミアは大きな隙を曝す。

「壱の秘剣――――」

志々雄の意思に応えるように、二本の剣が炎を纏い始める。
ドラグブレードは光を埋め尽くす暗黒の炎。
ヒノカグツチは闇を切り裂く紅蓮の炎。
対照的な色合いの火焔が交じり合い、叫ぶように猛っていく。


「焔霊!!」


二つの魔剣が十字を描く。
夜闇の中を二筋の炎が迸り、耳を劈くような絶叫が響き渡った。



圧倒的戦力差にも関わらず、長期化していた戦場。
長らく続くと思われていたが、ついに終末が訪れる。

「これで終わりだ!」

何時までも逃げ続ける薔薇水晶に痺れを切らすシャドームーン。
大きく身体を屈め、薔薇水晶やブラックドラグランザーを見下ろせる高度へと跳躍する。
脚部やレッグトリガーの損傷は少なく、普段通りの力を発揮できた。

「シャドービーム!」

腰のバックルに埋め込まれたキングストーンが点灯。
全身からエネルギーが収集され、高密度な光へと転換される。
そして、凝縮された光は地上へと降り注いでいく。
まるで雷撃の豪雨のように、全方位にシャドービームが照射された。
全体に攻撃を加えれば、薔薇水晶が身のこなしに長けていようと意味は無い。
鬱陶しいブラックドラグランザーも一掃でき、理想的な戦法と言えた。

だが、その戦法は予想だにしない形で破られる。

目前に巨大な長方形の水晶を生み出す薔薇水晶。
同時にブラックドラグランザーが、素早い動きで彼女を握り込んで回収。
そのまま水晶面へと侵入し、別世界に避難してしまったのだ。

「嘘でしょ……!?」

上空を見上げながら北岡が叫ぶ。
薔薇水晶とブラックドラグランザーは消えたが、一度発動したシャドービームは止まらない。
シャドービームは、北岡とクーガーに降り注ぐ。

「ぐあああぁぁぁぁっっ!!」

大気が爆ぜ、地面が膨張する。
降り注いだ光の奔流は、北岡とクーガーを呑み込む。
北岡はギガランチャーを盾にするも、玩具のように簡単に破壊されてしまう。
それによって発生した爆風に大きく弾き飛ばされた。

「クソッ……!」

雨のように降り注ぐ光線を紙一重で回避し続けるクーガー。
悪かった足場がさらに悪化していくため、次第に回避は困難になっていく。

「イヤ……!」

怯えるような翠星石の声。
シャドービームで恐怖心を刺激されたのか、翠星石が腕の中から逃れようと藻掻きだす。

「翠星石さん、大人しくしてください!」

青白い顔のつかさを傍目に捉えながら、クーガーは翠星石を宥める。
だが、無意味。
聞こえていないのか、彼女の抵抗はさらに熾烈を極めていく。
その最中、彼の正面に光線が着弾。
クーガーは宙に投げ飛ばされ、翠星石も腕から離れていく。
手を伸ばすが、既に届く位置に無い。
つかさだけでも庇い切ろうと、自らの身体で覆うように抱き締めた。

「がっ……あぁ」

背中から叩き付けられ、クーガーは呻き声を上げる。
意識が飛びそうになるほどの激痛が、全身に広がっていく。

「つばささん……大丈夫、ですか……」

それでも彼が気にしたのは腕の中にいるつかさの安否。
気絶はしているが、目立った負傷は無かった。

「翠、星石、さん……」

続いて、遠くで地に伏せている翠星石に手を伸ばす。
つかさと同様に気絶しているようだ。
震える脚で立ち上がり、彼女を回収しようとするクーガー。
そんな彼を嘲笑うように薔薇水晶が掻っ攫っていく。
瓦礫に背を預けながら北岡がマグナバイザーを連射するが、薔薇水晶は難なくそれを潜り抜けてしまった。

「また逃げる気か、許さん!」

地面に着地したシャドームーンが、薔薇水晶の下へ駆け出そうとする。


「待てよ」


それを止めたのは一人の男。
漆黒の装甲で身を固め、彼と同様に紅の剣に選ばれたライダー。

「世紀王ともあろうお方が、背を向けるつもりか?」

仮面ライダーリュウガサバイブ――――志々雄真実。

「知らんな、貴様など」
「そうかい、なら今覚えてくれや」
「覚える必要などない。世紀王の邪魔をした罪、ここで清算してくれよう」
「ははっ、いいねェ」

サタンサーベルが鮮血なら、ヒノカグツチは獄炎。
シャドームーンが魔王なら、志々雄真実は覇王。
強大な力を支配する二人の王が、ここの対峙する。

「ザンダイン!」

志々雄の背後から忍び寄る衝撃波。
身体を反転しさせ、その遠心力でヒノカグツチを振るう。
発生した炎に切り裂かれ、空気の刃は消滅した。

「生きてやがったか」
「……お生憎様でな」

志々雄の背後から十メートル後方に立つのは狭間。
その背中では、赤いマントが真っ二つに切り裂かれている。
それはKフロストマント。
火属性への耐性とある程度の防御力を装備者に付加するマントだ。
バーニングセイバーを撃ち込まれた際、彼はこれを身体に巻き付けて防御した。
だが、バーニングセイバーは焼くと斬るの同時攻撃。
炎は消滅したものの、斬撃は防ぎ切れなかった。
狭間の制服はぱっくりと裂け、そこから血が滴っている。

「二人掛かりか、くくっ……ハハハハハハハハハハ!!」

前方にシャドームーン、後方に狭間偉出夫
二人の王に挟まれながらも、志々雄は笑うことを止めない。
現状が心底楽しいとでも言うように、仮面の下で笑い続けている。

「翠星石は回収できました、帰還します」

そんな彼の真上で、翠星石を抱えた薔薇水晶が告げた。

「なんだよ、もう終わったのか」

笑い声が止み、志々雄はつまらなそうに言葉を漏らす。
ヒノカグツチを腰の鞘に収め、腰のデッキから一枚のカードを抜き取る。

「逃がすか!」

シャドームーンがサタンサーベルを構えて疾走。
併せるように、狭間も電撃を放射。
二対の攻撃が志々雄に襲い掛かるが、避けるように彼は上空へと昇っていく。
彼の真下から塔型の水晶が生え、彼の身体を持ち上げたのだ。
そして水晶から出現するブラックドラグランザー。
シャドームーンと狭間を蹴散らし、上空に舞い上がっていく。

「次に持ち越しだな」

ブラックドラグランザーの頭部に飛び乗る薔薇水晶と志々雄。
地上を見下しながら、召喚器にカードを放り込む。

――――STRANGE VENT――――

――――NASTY VENT――――


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ――――!!!!!!!』


天地を揺り動かすほどの咆哮。
瓦礫が粉砕し、粉塵が突風となって飛び交う。
志々雄が使用したのは、状況に適した様々なカードに変化するストレンジベント。
今回選択されたのは、ナイトが所有しているナスティベントだ。
本来のナスティベントは、ダークウイングによる超音波攻撃である。
しかしブラックドラグランザーに超音波を放つ能力は無いため、咆哮という形で代用したのだ。
あまりにも規格外の咆哮に、シャドームーンも狭間も体勢を維持することができない。
音は空気の振動によって伝わる。
あまりに巨大な咆哮は、衝撃波となって地上へと襲い掛かるのだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!!!!!!!」


だが、それを乗り越える男が一人いた。
己の速さを信じ、揺れ動く地面を蹴り上げ、天に反逆する。

「翠星石さん! 目を開けてください!」

最速の男――――ストレイト・クーガー
アルター能力を振り絞り、上空へと飛翔したのだ。

「翠星石さん!!」

黒龍の眼前に対峙するクーガー。
鋭刃の如き紅蓮の双眸に睨まれても、彼が射竦められることはない。
薔薇水晶の腕の中で眠り続ける翠星石に手を伸ばす。
あと少しで届きそうな距離。
だが、その僅かな距離がどうしようもない程に遠い。
近づいたことで衝撃波はより苛烈さを増し、彼を阻んでいるのだ。
それでも彼は退くことなく、叫びながら手を伸ばし続ける。

「……邪魔です」

水晶の杭を投擲する薔薇水晶。
身を捩って飛来する杭を回避するクーガーだが、姿勢を変えたことで衝撃波に耐えられなくなる。
まるで滝から押し流されるように、身体が後方へと下がっていく。
抵抗しようとしても、荒れ狂う濁流の前には無意味。
気が付けば、翠星石の姿は小さくなっていた。


「翠星石さん! 待っていてください!!」


落下しながらも、クーガーは叫ぶ。


「必ず、必ず、貴女を迎えに行きます!! だから――――」


咆哮で掻き消されまいと、声を張り上げ続ける。



「心を強く持ってくださいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――ッ!!!!!」



時系列順で読む


投下順で読む


163:聖少女領域/贖罪か、断罪か ストレイト・クーガー 163:聖少女領域/薔薇獄乙女
翠星石
シャドームーン
狭間偉出雄
北岡秀一
柊つかさ
ジェレミア・ゴットバルト
薔薇水晶
161:第四回放送 志々雄真実

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー