薄暗い世界が広がっていた。少し北寄りの東に太陽が居座り時の流れを感じさせない光景が広がっていた。青みがかった紫色の氷の上を無数の黒い影が太陽の方向へと移動している。
「しかし物好きもいたもんですね」
ひとりが通信する。マゲイアから発せられる無言の駆動音に耐えられなくなった若い隊員だ。後ろからテウルギアに乗るジンもあとに続く。
「全くです。 東といえば汚染地域の広がった無法地帯じゃないですか」
「もっと南の方を攻めてもいいのになぁ……アレクトリスとかEAAとか。 そしたら俺たちは関係ないのに」
若い隊員は大きなため息をつき再び無言になる。隊員一同面倒くさいことははやく終わらせたかった。一連の通信は隊長であるアンドリューも聞いていた。本社の地理的要素で敵が主権領域に入ることはあまりなく、まして汚染地域に覆われているであろう東側から侵入する物好きなんぞ今までいなかったのだ。これがEAAグループやアレクトリスならば大問題だ。東からの侵入ルートが確立されてしまっては一気にここが戦場となり規模が小さい本社は戦火に巻き込まれ簡単に瓦解することが目に見えている。なんとかここで食い止めねばとマゲイアの背後画面に切り替える。数十機の部下たちとジンの駆るテウルギアが白煙を上げながら迫っている。放射熱で霧の塊となったジンを見ながらまだまだ下手くそだと笑う。虎の子の彼はこれから死なずに成長していくのか、隊は、会社は、自分は…………彼を支えるだけの力があるのか心配で胃が軋みながら画面を戻す。
暫くして警告音。レーダーにいくつかの光点が浮かぶ。レーダー画面にはあとどれくらいでロックオンが可能か示す数値が表示され、武器のロックを解除するかと聞いてくる。
「お客さんだ。 派手に歓迎してやろうぜ」
アンドリューは全員に通信を飛ばす。通信を返してくるもの、来ないものさまざまな返事が飛んでくる。
「目標は4機。 大きさからするとテウルギアではなさそうだ。 数はこちらが上だ、 マゲイアなら楽して帰れそうだ」
『PSホーク、 前面に出ます。 みなさん援護をお願いします』
「お、 やる気満々だな」
「正体が分からないのでテウルギアである僕がいきます。 相手が小型のテウルギアって事もあるかもしれませんし……」
普段あまり言わない頼もしい台詞をはいたことで隊の皆がジンを囃し立てる。ジンは照れたようになにか早口で言っているが駆動音がうるさくて聞こえない。前に出たPSホークが足元の氷を粉砕し巻き上がる水蒸気に視界が遮られるので他のメンバー達は高度を上げ視界を確保する。一同思い思いの武器を構え近づいてくる数機の敵を身構えるのだった。
最終更新:2018年02月11日 23:52