小説 > 飛燕たちの慟哭1ー3

『ジン、 集中して……あれは』
「あれは……マゲイア?」

薄紫の世界に異物の黒点が数個。例えではなく本当に漆黒の機体が4機確認された。氷の煙も音もたてず、真っ直ぐ突っ込んで来る。

「相手の出方を見る」

回り込み、並走するジンが警告無線を相手に送る。しかし送り終える前に4機は撃ち返してきた。向こうは戦闘するために走っている。

回避行動をとったジンは手に持っていたライフル銃を構え相手の足下に撃つ。それに反応したマゲイア群は二つに分かれて責めてくる。2機はこちらにまっすぐ、もう2機は更に二つに分かれて回り込もうとしていた

『ジン! 囲まれる』
「分かってる!」

前方の2機に向かって加速を始める。ヤルダバオート製の動力のついた醜い腕をいっぱいに広げ空へ羽ばたくかの如く腕の動力部の出力も全開にする。より一層蒸気に包まれ入道雲のようになったPSホークはその巨大を高速で前進させながら前方の2機へまっすぐ突っ込んでいく。
前方2機は回避行動をとるも間に合わず、PSホークの両腕に飲まれ、ひしゃげて飛ばされた。部品を失いながら回転し飛んでいくマゲイアはもう原型を留めておらず、黒い鉄塊になったまま沈黙した。
PSホークは後方の敵を倒すべく方向転換をはかるも遠心力が邪魔をし大きく宙を舞う。中のジンは圧倒的なGに潰され血液が自機に弄ばれる感覚を覚えながら少し作戦を間違えたのではないかと思い始めた。やがて地面に足をつけたPSホークは悲鳴に似た音をたてながら先程のマゲイアのように転がり、やがて沈黙した。

「あの馬鹿! 散々カッコイイ事言っといてこれか」

ジンの戦いを遠巻きで見ていたアンドリューは頭を抱えながら叫ぶ。ここのテウルギアの扱い方は散々教えたにもかかわらずよりによって子供のような…………アホのような方法を使い沈黙したのだ。今までの苦労が水の泡になるのではないかと一瞬脳裏をよぎる。
ゲラゲラと味方が笑う声がする。もしかしたら死んだかもしれないというのにのんきなものだ。

『おい、 生きてるか? 大丈夫か?』

無線でジンに問いかけるとPSホークの右腕が上がる。どうやら大丈夫なようだ。

『ったく、 ものの数分でコケてお釈迦にするやつがあるかよ。 おいみんな! 残りをはやく片付けてこのアホを持って帰るぞ』

まわりからブーイングの嵐が起こるのをなだめながら一斉通信を飛ばす。

『あのアホのおかげでどんな兵装で来ているか全く分からない。 新型兵器を積んでる可能性もあるので全員注意するんだぞ。 いいな?』

了解を示す信号音がなり始める。おおよそ聞き終わったところでアンドリューは機体を傾け敵方面へ突っ込んでいく

最終更新:2018年04月08日 11:20