ゴミムシ概論

以下、素人による俄か勉強で得た知識の整理。2016年の初心者時に作成したもの。

内容


分類学的位置付け

自分が採集対象としている広義のゴミムシ類(=オサムシ類+狭義のゴミムシ類ここでは定義)は、甲虫目オサムシ科及びホソクビゴミムシ科に属する種群である。そのうち、いわゆるオサムシ類はオサムシ科オサムシ亜科に属する種群であり、その他すべてがいわゆる狭義のゴミムシ類となる。

昆虫の種数は全生物の60%を占め、甲虫目はそれのさらに40%で、既知のものだけでも39万種もある大きな分類群である。
さらに、オサムシ科は約4万種を占め、甲虫目の他の主要な分類群(ハネカクシ科6万種、コガネムシ科3万種、カミキリムシ科2万種)と並ぶ大きな分類群となっている。ホソクビゴミムシ科は小さい科で、世界でもわずか約600種が知られるにすぎない。

日本では、甲虫目全体で約1万種、そのうち、オサムシ科は約1500種、ホソクビゴミムシ科は10種が知られている。このうち、いわゆるオサムシ類はわずか40種程度にすぎず、大半がゴミムシ類となっている。

進化系統的位置付け

昆虫は古生代シルル紀(4億2千万年前)に登場した最古の陸上動物の1つである。2億7000万年前の地層から、甲虫類の祖先といえる「原型甲虫」"Protocoleoptera"の化石が見つかっている。この時点ではまだ前翅は完全には硬くなっていなかったと推測されている。また、触覚も13節のものがいた(現生甲虫では11節)。2億6000万年前になると、原始甲虫"Archecoleoptera"と呼ばれる現在のナガヒラタムシによく似た甲虫が現れる。そして、2億4000万年前から2億2000万年前の三畳紀あたりになると、甲虫の多様化が進み始めたことが化石から分かり、その後のジュラ紀ではさらに多様化し、白亜紀後期に被子植物が出現すると、甲虫の多様性は爆発的に増大している。オサムシ亜目の祖先は三畳紀には分化していたようである。
※その後、オサムシ科の甲虫がどのように分化していったかについては、手元に情報なし。

日本のゴミムシ相の形成

日本列島は、現状に近い形に形成された2万年前以降も、繰り返し訪れた氷期に大陸と地続きとなっており、その度に、南方と北方から異なる系列のゴミムシ類が列島に進入し、南北から分布を広げて現状の相が形成された、というのが基本的な考え方である。
飛翔能力に乏しいゴミムシ類は、山脈などの地形による障壁の影響を受けやすいため、地域ごとに種分化が進むことになる。特に、南北の2つの系列の分布が重なる関東山地や、火山活動の影響が少なかった四国や紀伊半島では、地域の固有種を含む豊かな相が形成されている。
氷期が終わり気候が温暖になってくると、北方系列の種群は、本州では寒冷な高山地に取り残され、局地的に点在する分布を形成する。
いずれにしても、昆虫類はそもそも化石が残りにくく、詳細な相形成史はほとんど不明というのが現状。DNA解析により構築する系統樹を日本列島形成に関する地学的知見と関連付けて理解するなど、今後の研究の発展に期待するところである。

生態

食性:鱗翅目幼虫やミミズ、他の節足動物、貝類などを対象とする捕食性の種が多い。マルガタゴミムシ類やゴモクムシ類は種子食を主とする雑食性として知られる。地上を徘徊しながら餌を探す種が多いが、種子食の種は草によじ登ることもあり、樹上に生息して鱗翅目幼虫を狩る種もいる。

生息環境:草原、河川敷、森林、樹上、湿地、海岸、平地から高山まであらゆる環境に生息する。種によって特定の環境への選好性が大きく異なる。乾燥した場所にはあまりいないが、ヒョウタンゴミムシやオサムシモドキなど、海岸の乾いた砂浜に生息する種もある。
特異な例として、地下浅層や洞窟などの地下環境に生息する種もある(チビゴミムシ亜科、一部のナガゴミムシ亜科)。特に、メクラチビゴミムシ類のように、地下環境に適応して複眼が退化した種もいる。特に日本では、1洞窟1種のように、洞窟ごとに固有種が存在するほどの多様性があることが知られている。そうした地下生息性ゴミムシ類は日本でも数百種に及び、種数では決して例外的ではない。

生活史:基本的に1年1化。平地に生息する種の場合、春繁殖型か秋繁殖型のいずれかに概ね分かれる。
春繁殖型の場合、春先に繁殖活動をし、卵→幼虫を経て夏には新成虫が現れる。成虫越冬する。
秋繁殖型の場合、秋に繁殖活動をし、幼虫で越冬する。翌年初夏に新成虫が現れる。夏には夏眠に入る種もあり。
いずれの場合でも、長寿命で生き残った成虫は再度越冬休眠を行う。
寒冷な高山地に生息する種では、1年で活動可能な期間が短いため、繁殖期の春/秋の区別は曖昧になる。また、幼虫の期間が延びて2年1化になる場合もある。
上記の生活史の通り、成虫の活動期間は長いはずなのだが、実際に観察していると、同じ種でも1年の間に見られる個体数は季節によって相当変化する。繁殖期には同時多発的に多くの個体が見られるが、それを過ぎると激減する傾向があるように見える。どこかに隠れているのだろうが。
越冬場所は土中や朽木の中が多い。種によっては、土中か朽木のいずれかではっきりした選好性を持つものがある。アオオサムシやルイスオサムシは土中、クロナガオサムシやアオゴミムシは朽木、など。

活動時間帯:大半の種は夜行性であり、日中は落ち葉や石の下などに隠れていることが多い。マルガタゴミムシ類は日中も活動することで知られる。夜行性の種でも正の走光性を持つ種があり、ゴモクムシ類やヒラタゴミムシ類などで夜間の灯火に飛来する種が多い。

飛翔能力:ゴミムシ類は、後翅が退化して飛べない種と、後翅が発達して活発に飛翔する種がある。
一般に、安定的な環境である森林内地表に生息するオサムシ亜科やナガゴミムシ亜科の大型種は地表徘徊性に特化しているものが多く、荒地や草地、湿地や河畔などに生息するミズギワゴミムシ亜科、アオゴミムシ亜科、マルガタゴミムシ亜科、ゴモクムシ亜科などの種は、不安定な環境に生息するために飛翔能力が高い種が多い。森林性でも樹上に生息するアトキリゴミムシ亜科やナガゴミムシ亜科のモリヒラタゴミムシ類では、活発に飛翔する種が多い[森2008a]。

主な下位分類ごとの特徴


オサムシ科オサムシ亜科
いわゆるオサムシ類。
カタビロオサムシ類を除いて飛翔能力を失っている。日本では、種/亜種ごとの分布、生活史、食性などが詳細に研究されている。特に一部の種で近縁種が特定の山脈や河川を隔てて明瞭に棲み分けている例が知られ、あたかもガラパゴス諸島のように、生物進化・種分化の研究題材にもなっている。
マイマイカブリは日本国内だけに生息する異形の形態のオサムシとして知られている。

オサムシ科ヒョウタンゴミムシ亜科
2018年1月現在、まだ2種しか採ってない。本亜科の種はいずれもこの特徴的な形態。微小な種の生態は不明なようである。ゴミムシ類は基本的に捕まえようとすれば素早く動いて逃げようとするが、ヒョウタンゴミ、ナガヒョウタンゴミの動きの鈍さは実に印象的である。脚の形は、素早く動くよりも穴掘り用に適応しているよに見える。捕食性らしいが、獲物を捕まえるときの動きはどうなのだろうか?

オサムシ科ミズギワゴミムシ亜科
その名の通り、平地の河原や山地の沢などの水辺に棲む「砂磯河原性スペシャリスト」[李2009]で、水生の小動物を捕食するようである。小型の種が多い。

オサムシ科ナガゴミムシ亜科
森林性、湿地性、樹上性、地下浅層など様々な環境にそれぞれ選好性を持つ種がある。基本的にいずれも捕食性であり、鱗翅目幼虫、ミミズ類、陸上貝類などを捕食する。オオゴミムシやセアカヒラタゴミムシなど、人間の居住地に近い環境にも多数生息する種もある。

オサムシ科マルガタゴミムシ亜科
種子食性が強い。ゴモクムシ亜科と同様、人間の居住地近くでも生息している種が多く、個体数も多いが、灯火飛来する個体はほとんど見ない。マルガタゴミムシはどこでも普通に見られるゴミムシ類の代表種。

オサムシ科ゴモクムシ亜科
大きな頭部に寸胴型の体型が特徴。種子食性が強い種が多い。耕作地、河川敷の草原、都市公園など人間の居住環境の近くでも生息している種が多い。生息地では個体密度が高く、中~大型の種も灯火によく飛来するため、ゴミムシ類では最も目につきやすい仲間である。平地で見られる本亜科の仲間は、同所的に多数の種が生息しているが、ゴミムシ、ホシボシゴミムシ、ツヤアオゴモクムシ等の脚が黒い種と、ケウスゴモクムシ、ウスアカクロゴモクムシ、オオゴモクムシ等の脚が黄色い種があり、前者が春繁殖型、後者が秋繁殖型と、繁殖期をずらして棲み分けているように見える。ゴミムシ類の他の分類群でも言えることだが、個体数が非常に多い普通種であっても、繁殖期以外では観察される成虫の個体数が激減する。

オサムシ科アオゴミムシ亜科
美麗な種が多い。生息環境としては、明瞭な湿地性の種もあれば、そうでもないのもある。捕食性で、鱗翅目幼虫やミミズを狩る種が多いようである。捕まえると、消毒薬のクレゾールのような匂いのガスを放つ。この臭気が手に付くと洗ってもすぐには落ちない。
※余談だが、まったく同じような匂いのガスを、オサムシ科とは遠縁の甲虫のスナゴミムシダマシの仲間も出すのだが、同じ物質なのだろうか。

オサムシ科ヨツボシゴミムシ亜科
2018年1月現在、まだ2種しか採ってない。基本的に湿地性。生態もよく分かっていないようである。生息地でも個体数は多くないため採集が難しい。

オサムシ科
アトキリゴミムシ亜科
樹上性で、鱗翅目幼虫のハンターとして君臨する種が多い。一部の種では、幼虫が特定の昆虫の幼虫のみを捕食対象とするなどの狭食性を示すことが知られている。また、アリスアトキリゴミムシのように好蟻性を伺わせる種もいるなど、生態が興味深いが、大半の種では詳しい生態は不明なようである。
樹上性の種が多く、活動期の目視での採集は難しい。自分でもまだ採集種数が少なく、次期シーズンは改造ビーティングネットによるアトキリハンティングがテーマ。

ホソクビゴミムシ科
ヘッピリムシとして有名なミイデラゴミムシが代表種。襲われると毒ガスを噴射する特殊能力を持つ種が多い。また、ミイデラゴミムシの幼虫はケラの卵を専門に食べるなど、特異な生態で知られる。他の種の生活史は未解明なものが多く、幼虫がどこで何を食べているのか大変興味深いのだが、現状では全く不明らしい。

環境の生物多様性の評価指標として

ゴミムシ類は種数が多く、植物が生えている環境ならばどこでも生息しており、また、種によって食性や生息環境への選好性が異なる。この特性を利用し、ある環境のゴミムシ類を網羅的に捕獲してその群集構造を調べることにより、その環境の生物多様性の程度を評価する研究が多数行われている。ゴミムシ類群集構造を対象とすると、かなり小さな場所の環境変化も調べることができ、また、毎年世代が交代するため、環境の変化をリアルタイムに反映した調査が可能となる利点がある[森2006a]。

人間との関わり

ゴミムシ類は大半が夜行性であるため、そもそも人の目に付きにくい。また、害虫扱いされる種も少ないため、積極的に駆除の対象とされることもない。しかし、地上徘徊性という性質の宿命として、人間の土地利用形態の影響を大きく受けやすい。生息地が開発されて消失すれば、そこにいた個体群は全滅するしかない。
ゴミムシ類の中でも、イネ科植物の種子食性が強いマルガタゴミムシ類やゴモクムシ類は、雑草が生えている環境があれば生存でき、飛翔も可能であるため、人間活動空間の周囲に適応して、現在でも比較的繁栄している。また、高山や深い森林に生息するような種は、人間の手の及ばない環境にいるため、温暖化の影響など地球規模の環境変化がない限り、当分絶滅の心配はない。人間の開発行為の影響を最も受けやすいのは、湿地や河畔に生息する種である。現代では、小河川まで遍く護岸工事がなされ、河畔の消失や乾燥化が進んでいる。また、緩やかな丘陵地の谷戸地形では湧水による湿地がよく形成されるが、そのような場所は宅地開発の対象とされやすい。オオサカアオゴミムシやツヤキベリアオゴミムシなど、ぜひ自分の手で採ってみたい美麗種であるが、現在では関東でも見つけるのが難しくなってきているようである。
このような状況において、ヨコハマナガゴミムシは、現在では神奈川県鶴見川の特定エリアの河川敷にのみ生息しているが、保護運動が実を結び、生息地は開発を免れ、人の立ち入りも制限されて厳重に保護されるようになった、という奇跡的な事例と言える。

採集対象としてのゴミムシ類

昆虫採集を趣味としている人々は採集対象を限定していることが多く、大抵、チョウ派か甲虫派に分かれる。そして、甲虫派の中でダントツに人気があるのはカミキリムシであり、その他の人気は細分化している。いわゆるオサムシ類は中~大型の種が多く、地域ごとに色彩変異に富むため、一部に熱狂的な愛好家がいるが、その他のゴミムシ類を網羅的に採集している人は少ないようである。
ごく一部に、専用のトラップを用いて地下性チビゴミムシ類の収集に取り組んでいる人もいる[原2015a]。
採集対象としてのゴミムシ類の魅力(私見)を挙げると、
  1. 好きな甲虫の仲間である
  2. 種数が膨大。日本国内に限っても1000種を超える
  3. 同じような形態の種が多く、微妙な差を見分けて種同定するのがパズルのようでおもしろい
  4. 成虫越冬する種が多いので、成虫がほぼ一年中採れる
  5. 夜行性の種が多いので、平日の帰宅後の時間も利用して採集が可能
  6. ターゲットとする種の性質を考慮して、地図を見ながら生息地を予想するゲーム性(これはゴミムシ類に限らないが)
と言ったところ。特に4, 5は本当にありがたい。カミキリやチョウなどを対象としたら、日中に採集に出かけるのが必須となるため、採集に出られる日が限定されてしまう。

主な採集方法

基本事項として、活動期の個体を狙う場合、ターゲットとする種が決まっているなら、その生活史を要考慮。いずれの種でも春~晩秋まで長い期間成虫が見られることが多いが、繁殖期には圧倒的に多くの個体が見られる。春繁殖型ならば4~5月、夏繁殖型ならば6~7月、秋繁殖型ならば9~10月が狙い目。生活史として成虫の期間は確かに長いはずなのだが、繁殖期以外では実際に観察される個体数が激減する印象がある。

ルッキング:昆虫採集の基本。自分の採集方法はほとんどこれ。ゴミムシは夜行性の種が多いため、夜間に地面を懐中電灯で照らしながら探す。平地ならば畑や自然公園的な場所、山地ならば別荘地や林道など、歩きやすい道(雑草や落ち葉など視界を妨げるものもない)場所が狙い目。
この方法だと、実際に活発に動き回るゴミムシ類を直接観察できる魅力がある。交尾中のものもいれば、餌のミミズをくわえているのも見られる。

落ち葉掻き:小型の熊手で森の中の地上の落ち葉を掻き、掻いた場所を凝視して何か動くものを探す、というのをひたすら繰り返す。森林性種を日中探すのに有効。

側溝探索:山地の林道脇にある側溝は大抵フタをしていない場合が多く、水も流れておらず落ち葉が入っているだけの場合が多いので、言わば、ゴミムシ類の落とし穴トラップと化している。側溝内の落ち葉とかを掻くとよく見つかる。例え見失っても、側溝内にいるのは確実なので、確実に採集できる。

灯火収集(ライトトラップ):蛍光灯などの紫外線を出す光源に集まる個体を採集する。畑や河川敷の近くの街灯を見て回るのが効率がよいが、最近はLED照明に変わってきているので、都合のよいポイントを見つけるのは難しいかも。蛍光灯式のランタンを使えば集められるかもしれないが、実際やってみると大量に蛾が飛来して鬱陶しい。
この方法だと、当然ながら採れるのは走光性の種のみ。また、光に集まった個体が元々どこに生息していたのかが分からない場合がある。
現在の自宅マンションの外通路が蛍光灯照明で、周辺の畑に生息するゴモクムシ類に対する格好のトラップになっており、初夏や初秋にたくさん飛んでくる。

朽木崩し:冬季に森の中にある朽木を崩し、越冬中の個体を掘り出す方法。マイマイカブリなど、越冬時に朽木選好性のある種に対して非常に有効な方法らしいが、ゴミムシ類狙いの場合あまりにも効率が悪いので、自分は敬遠している(自分の技術が悪いだけかもしれないが)。
特に、それなりに深い森林の中に転がっている朽木を崩しても、ヨリトモナガばかりやたら出てきて、目ぼしい種が出てきたことがほとんどない。そもそも、森林性のゴミムシ類で越冬場所としてわざわざ朽木を選ぶ種は多くないのではなかろうか?
また、朽木はゴミムシ類のみならず、様々な昆虫の棲家となっており、その環境を破壊してしまうデメリットがある。実際、甲虫類でもヒラタムシ、ゴミダマ、コメツキ、クワガタ、タマムシ類、カミキリ等の幼虫がよく出てくるし、朽木を壊してしまうと元には戻せない。
なので、やるにしても節度が必要。また、樹皮のみ一部剥がして探し、可能な限り元に戻すなどの配慮も必要。

崖堀り:越冬中のオサムシ類を掘り出す古典的方法。日陰の湿った土崖の表面を薄く掘り、潜っている個体を掘り出す。温度変化少ない北向きの斜面を狙うのが定石。これも、やり過ぎは環境破壊になるので禁物。
自分の経験として、下手に深い森の中に分け入って斜面を狙うよりも、林道脇、谷戸の林縁、沢沿いなど、人間がアクセスしやすい場所にある小さめの崖を狙う方が出やすい。
クワやスコップで掘ると、虫そのものを傷つける恐れがある。自分が試した方法として、斜面に生えているシダなどの植物を根こそぎ何センチか引っ張り、周囲の土を下に落とすと、土と一緒にゴミムシ類が落ちてくる。

土掘り(河川敷):砂や粘土質の泥が堆積したヨシ原などで、植物の根元の砂を掘る。湿地性のゴミムシ類が見つかる。

石起こし:川原の石をひたすらひっくり返すと、たまに湿地性のゴミムシ類が見つかる。冬でも有効。微小なミズギワゴミムシ類から、オオナガゴミムシなどの大型種まで。単に石を起こすだけで、生息環境を破壊することがないのがこの方法のよいところ。

水没:特に淀んだ水際で微小な種を狙う場合、虫が隠れていそうな土や落ち葉などをスコップで掬い、水に放り込む。虫がいれば、とりあえず浮かび上がってくる。

ピットフォールトラップ(PFT):ゴミムシ類を効率よく採集する古典的方法。プラスチックのコップをフィールドに埋めて、落とし穴として使う。コップの中にサナギ粉や肉などの餌を入れておけば、肉食性のゴミムシ類を誘引することができる。餌を入れず、落ちた虫がすぐ死ぬようにエタノール水溶液を入れてフィールドに大量に仕掛ければ、食性によらず、地上徘徊性のゴミムシ類をまんべんなく採集することができる。環境のゴミムシ類群集構造調査などでよく行われている方法である。
が、実際にPFTをやろうとすると、トラップを仕掛けるときと回収するときで、同じ場所に2度行く必要があるという煩わしさがあり、1個や2個仕掛けただけでは簡単には入ってくれないため、自分は敬遠している。とにかく面倒くさい。

ノムラホイホイ:2リットルペットボトルを利用した、餌入りPFTの改良版。地面に埋めるという煩わしさを解消でき、かつ、設置から回収の間に多少日数を置いても問題ない、というメリットがある。
厚木市内の湿地で、サナギ粉を餌としたトラップを1個のみ設置して試したことがあり、設置から数日後に回収したところ、入っていたのはシデムシ類とエンマコガネ類が大半で、ゴミムシ類としてはアオオサムシ1個体のみだった。その場所はミイデラゴミムシやアオゴミムシ類がたくさん生息しているのだが。いずれにしても、PFTと同じ理由で敬遠。

衝突板トラップ:空中を飛翔する虫を捕える方法。透明なビニールのシート等を広げて空中にうまく設置し、飛翔中にシートに衝突して落下した虫が、下に設置した容器に入るような仕掛け。樹上性のアトキリゴミムシ類やモリヒラタゴミムシ類などを効率よく捕えられるらしい[森2008a]。まだやったことはないが、それなりに面倒かも。

ビーティング:木の枝の下にネット(ビーティングネット)を広げ、木の枝を叩いたりして、樹上性の虫を下に落として捕まえる方法。まだあまりやったことはないが、簡単そうではある。高いところの枝を狙う場合、長尺の補虫網を改造するなど、道具に一工夫が必要。

種同定

自分のように趣味としてゴミムシ類を採集する場合、やや古いが、保育者の図鑑「日本原色甲虫図鑑II」が未だに重宝する。というか、これがないと種同定ができない。前胸や上翅にある点刻の密度、前胸後角の形状(丸い?尖る?)、上翅の微毛のありなしなど、図鑑にある記述と一致するかどうかを実態顕微鏡で見ながら丹念に調べるのが基本。ゴミムシ類収集の醍醐味の1つである。外観での区別が困難な種がある場合、♂の個体の交尾器を取り出してその形状を調べる方法もある。

標本の作成・管理

殺虫:通常の甲虫類の標本作成と同様。採集した個体は酢酸エチル蒸気で殺す。酢酸エチル試薬は個人では入手しにくいため、ドラッグストアなどで販売されているマニキュアの除光液(ノンアセトンタイプで主成分が酢酸エチルのもの)で代用可能である。
酢酸エチルで殺虫した場合、
  • 殺虫後虫体が軟らかい状態で数日持つ
  • 消毒効果もあり、ダニなどの寄生生物も確実に殺せる
の利点がある。
冷凍して殺虫すると、そのまま長期間保管できるので便利なのだが、
  • 付着していたダニがしぶとく生き残る
  • 解凍すると腐敗臭が出る場合がある
  • 特にホソクビゴミムシ類などで黒っぽく変色しやすい
の欠点があるので、最近は敬遠している。

展足:体長が8 mm程度以上の個体はピンを上翅右側に刺し、発砲スチ台の上でピンで足や触角の向きを整える。
上記より小さい個体はピンを刺すのが不可能なので、虫体を発砲スチ台上で仰向けにして、ピンで展足する。最初に前胸と上翅の間のくびれ部分を挟むように、2本のピンをクロスさせるように刺して虫体を固定するのがポイント。

乾燥:展足した虫体を、乾燥剤を入れた大きめのタッパーに数日入れて保管し、虫体を乾燥・硬化させる。乾燥剤の種類にもよるが、入れっ放しにしておくと乾燥しすぎて触角や脚が自然に折れてしまう場合があるので注意が必要。

小さい虫体は台紙に貼る:乾燥後、仰向け展足した小さい虫体は、以下の要領で台紙に貼り付ける。
厚紙を尖った台形に切ったものを用意し、台形の広い方にピンを刺す。台形の狭い方の先端に木工用ボンドを付け、虫体を貼りつける。台紙は虫体に対して横向きにし、虫体の左右いずれか片方の腹側のみ隠れるように貼りつける。こうすれば、台紙貼り付け後も腹側の構造を確認することができる。

ラベル付け:採集者はどうせ自分に決まっているので、最低限、採集日、採集地、整理用の標本番号を記載したラベルを用意し、ピンで刺す。趣味でやってるので固いことは言わない。ゴミムシ類の場合、虫体が小さいものが多いので、標本箱内のスペースの節約のため、ラベルもできるだけ小さく作った方がよい。標本番号と対応付けて、標本リストを別途作成し、詳細な情報はそちらに記載する。

最終更新:2020年06月04日 23:23