ある日の朝。学園の中庭でわたしは悩んでいました。
「今日は誰に併走お願いしましょう……エスキモーちゃんはデビューが近いから慎重にやらせてくれってエスキモーちゃんのトレーナーさんに止められちゃいましたし、ドーベル姉さまは夏のイベントに本腰入れるからってお屋敷に籠もっちゃいましたし……」
「今日は誰に併走お願いしましょう……エスキモーちゃんはデビューが近いから慎重にやらせてくれってエスキモーちゃんのトレーナーさんに止められちゃいましたし、ドーベル姉さまは夏のイベントに本腰入れるからってお屋敷に籠もっちゃいましたし……」
そんな時に聞こえたのはある2人の会話。少し立ち止まり耳を傾ける。
「エノラ、今日はどうするの? 誰か併走誘っちゃう?」
「うーん……カラレス、フラワーさん、ラピッドさん……次もチームの人がいいかな。もっとみんなと仲良くなりたい」
「……! うーん、エノラちゃんと適性被りそうな人って他に……」
「エノラ、今日はどうするの? 誰か併走誘っちゃう?」
「うーん……カラレス、フラワーさん、ラピッドさん……次もチームの人がいいかな。もっとみんなと仲良くなりたい」
「……! うーん、エノラちゃんと適性被りそうな人って他に……」
そうそう、あの2人は最近チームに入ったエノラちゃんとカラレスミラージュちゃんですね。わたしと一緒で併走相手を探しているそうです。これはチャンスですっ!
「あの、ごめんなさい。エノラちゃんとミラちゃんですよね! 今の話ちょっと聞こえちゃいまして」
「あっ、エスキーさん、おはようございます!」
「エスキー……?」
「ほら、同じチームの先輩でこの前ダービー勝ってたエスキーさん! 適性もバッチリ合うし、何せとっても強いから併走相手にぴったりだよ! エノラちゃんも本気出せるんじゃない?」
「強い? だったら併走してほしい……もっとみんなと仲良くなりたい、覚えたい……」
「そう褒められるとちょっと照れちゃいますね……ん、覚えたい?」
「まあまあ良いじゃないですか! じゃあエスキーさん、放課後にエノラちゃんと併走お願いできますか? 私はゴール役するので!」
「分かりましたっ。では放課後楽しみにしてますねっ!」
「あっ、エスキーさん、おはようございます!」
「エスキー……?」
「ほら、同じチームの先輩でこの前ダービー勝ってたエスキーさん! 適性もバッチリ合うし、何せとっても強いから併走相手にぴったりだよ! エノラちゃんも本気出せるんじゃない?」
「強い? だったら併走してほしい……もっとみんなと仲良くなりたい、覚えたい……」
「そう褒められるとちょっと照れちゃいますね……ん、覚えたい?」
「まあまあ良いじゃないですか! じゃあエスキーさん、放課後にエノラちゃんと併走お願いできますか? 私はゴール役するので!」
「分かりましたっ。では放課後楽しみにしてますねっ!」
覚えたい? そういえばチームに入られた時ちゃんと挨拶したはずなんですけど、今日初めて会いましたって雰囲気でしたね。もしかして……
そう疑念を抱きつつ、2人と別れるのでした。
─────
迎えた放課後。ジャージに着替えトレーニングコースで待つこと数分、同じくジャージに着替えたエノラちゃんとミラージュちゃんがコースに現れました。
迎えた放課後。ジャージに着替えトレーニングコースで待つこと数分、同じくジャージに着替えたエノラちゃんとミラージュちゃんがコースに現れました。
「お待たせしてすいません!」
「いえいえ、わたしもさっき来たばっかりですから……どうしてミラージュちゃんまでジャージを?」
「それはまあ……万が一のためです!」
「? まあせっかくですし、併走前に一緒に体解しましょう。怪我が1番怖いですから」
「いえいえ、わたしもさっき来たばっかりですから……どうしてミラージュちゃんまでジャージを?」
「それはまあ……万が一のためです!」
「? まあせっかくですし、併走前に一緒に体解しましょう。怪我が1番怖いですから」
─────
ストレッチ、柔軟、1ハロン20秒ほどの軽いジョグ。その全てを終えると、わたしとエノラちゃんはスタート位置に、ミラちゃんはゴールの位置にそれぞれ向かいました。
ストレッチ、柔軟、1ハロン20秒ほどの軽いジョグ。その全てを終えると、わたしとエノラちゃんはスタート位置に、ミラちゃんはゴールの位置にそれぞれ向かいました。
「芝左回り2400m。ダービーと同じですね、楽しみですっ! よろしくお願いしますね、エノラちゃん!」
「よろしく……えーっと……」
「エスキーですよ。この併走でちゃんと“覚えて”いってくださいね?」
「……! もしかして貴方は私のこの“病”のことを……」
「おーい! そろそろ始めるよー! 2人とも位置についてー!」
「よろしく……えーっと……」
「エスキーですよ。この併走でちゃんと“覚えて”いってくださいね?」
「……! もしかして貴方は私のこの“病”のことを……」
「おーい! そろそろ始めるよー! 2人とも位置についてー!」
大事な会話を中断されちゃいましたが、全部併走終わってから確認するとしましょうか。
エノラちゃんが内枠、わたしが外枠に位置取り、そして、
「では、よーいドン!」
ミラちゃんの掛け声とともにスタートを切る。位置取り争いは起きず、まるで示し合わせたかのようにわたしが先行の位置、エノラちゃんが差し、いや追込の位置を確保した。
(競ってこないなら……ちょっと試してみましょうか)
第1コーナーの辺りで足を踏み込み、エノラちゃんとの距離を広げにかかる。その差7バ身、8バ身……いやもっと開いただろうか。
(おそらくエノラちゃんは中盤から捲っていくタイプの追込型。でしたらここで飛ばしきらずに徐々にペースを落としていって……)
第2コーナーを過ぎてバックストレッチへ。ペースを落としてもそれほど詰めてはこない。末脚で捲り切れると思われてるのだろうか。
(ちょっとそれは舐められてるような気がして腹が立ちますね……まあでも今は我慢我慢……)
バックストレッチ半ばを過ぎ、最初の1000mを迎える。おそらく1分1〜2秒ぐらいで通過したはず。ストップウォッチでタイムを計測してる彼女の様子を確認するべくゴールの方をチラッと横目で見ると……
(案の定目を白黒させてますね。そして肝心のエノラちゃんは特に気づいてる様子もなし……これは勝たせてもらいましたね)
第3コーナーの手前で後ろから大きく足を踏み込む音がした。そしてその足音が少しずつ近づいてくる。8バ身、7バ身、6バ身……まるでAメロが終わり、サビに入ったかのように足音が迫り、その圧が背中を押してくる。レースではなく併走だとしても、これが作戦通りだったとしても、やはり後ろから差してくる時の恐怖は変わることはない。
迎えた第4コーナー。2バ身、1バ身と迫ってきた姿を捉えようと後ろを振り向くと、そこにいたのは恐怖と喜びが入り混じる複雑な表情をしたエノラちゃんだった。
(エノラちゃんが何を求めているのか、そのためにわたしは何をしてあげられる、いやしないといけないのか分かった気がします。でしたらこの勝負、ちょっと本気出させてもらいますねっ!)
2人が横に並んだのは刹那。ギアを一気に上げ再び2バ身、3バ身と差を広げにかかる。ここで捲り切れるのだと思って一気にスパートをかけていたんだろう。足音が追ってくることはなく、差を広げたままゴール位置を通過した。
─────
併走と呼ぶのは躊躇われる、約140秒の真剣勝負。勝ったのはわたしでした。
併走と呼ぶのは躊躇われる、約140秒の真剣勝負。勝ったのはわたしでした。
「……ふぅ! とても楽しかったですっ! ミラちゃんもゴール役ありがとうございましたっ!」
「えーっとエスキーさん……?」
「さんじゃなくていいですよぅ。同じ中等部なんですし敬語もいりません。距離遠く感じちゃいます」
「分かり……いや分かったよエスキーちゃん。それでね、さっきのレース中のことなんだけど……もしかして全部作戦通りだったとか?」
「やっぱりミラちゃんは途中で気づいてたんですね」
「だってあれだけ逃げてるのに1000mの通過タイム遅かったし! ストップウォッチが壊れたのかと思っちゃった。それで最後は迫ってきたエノラちゃん突き放して……」
「もう少し抑えても良かったんですけど……あっ、エノラちゃん復活したみたいですね」
「えーっとエスキーさん……?」
「さんじゃなくていいですよぅ。同じ中等部なんですし敬語もいりません。距離遠く感じちゃいます」
「分かり……いや分かったよエスキーちゃん。それでね、さっきのレース中のことなんだけど……もしかして全部作戦通りだったとか?」
「やっぱりミラちゃんは途中で気づいてたんですね」
「だってあれだけ逃げてるのに1000mの通過タイム遅かったし! ストップウォッチが壊れたのかと思っちゃった。それで最後は迫ってきたエノラちゃん突き放して……」
「もう少し抑えても良かったんですけど……あっ、エノラちゃん復活したみたいですね」
レース後少し離れたところで大の字になって空を見上げていたエノラちゃんがムクリと起き上がり、わたしたち2人の方へゆっくりと歩いてきた。
「エノラちゃん、今日は併走に付き合ってもらってありがとうございましたっ!」
「こちらこそありがとう、“エスキー”さん」
「エノラちゃん、ちゃんと覚えてる……! 良かったね……!」
「今回も覚えられる条件満たしたんだから当然でしょ。貴方がそんな喜ぶことじゃ……」
「エノラちゃんに友達増えるんだし喜ぶに決まって……でも友達が増えて私の存在がエノラちゃんの中で小さくなっていって……」
「こちらこそありがとう、“エスキー”さん」
「エノラちゃん、ちゃんと覚えてる……! 良かったね……!」
「今回も覚えられる条件満たしたんだから当然でしょ。貴方がそんな喜ぶことじゃ……」
「エノラちゃんに友達増えるんだし喜ぶに決まって……でも友達が増えて私の存在がエノラちゃんの中で小さくなっていって……」
何やらミラちゃんから冷気が漏れているような……いつもと雰囲気違いますし……帰りましょうか。
「え、えーっと、ではわたしはこの辺で失礼しますねっ! お疲れさまでしたっ!」
「……はっ!? エスキーちゃんお疲れさま! ほんとにありがとねー!」
「エスキーさん、明日からもよろしくね」
「……はっ!? エスキーちゃんお疲れさま! ほんとにありがとねー!」
「エスキーさん、明日からもよろしくね」
─────
普通のようで普通じゃない2人。今日はそんな2人の秘密と不思議な関係性を少し垣間見れたような気がしました。
普通のようで普通じゃない2人。今日はそんな2人の秘密と不思議な関係性を少し垣間見れたような気がしました。
「……よしっ! 明日は誰と走りましょうか!」