不利益を被らせたこと、これでも真に申し訳ないと感じているよ。頭を下げよう。どうか、これで納得してくれないかな?



ジュンルート、ギアーズの母艦の甲板では、機構上層部の意思、その代行者たるアポルオン敵の首魁を捕えて帰還していたが……
味方のはずの刻鋼人機達に対しても、()理解不能な言葉(呪詛)を吐き影装で無差別に攻撃を加えるという非常事態が生じていた。
乱丸歩行兵器は全滅、エリザベータ雷撃イヴァン荷電粒子砲も、等しく重力崩壊の孔の前に掻き消され、消耗を強いられ続ける。

捕獲した反抗勢力の少女の発言から、アポルオンの素体が彼女の兄であるらしいという事実。
何らかの意図を以て強権を使い出撃してからの、この突然の暴走
実働部隊指揮官のアレクサンドルは冷徹に目の前の現実を観察し、呟く。

「作為、か」

運命などという言葉を彼は信じない。この世において神や英雄と等しく、唾棄すべき言葉と考えている
故に、この状況は何かに仕組まれていると、そこまで理解してはいたのだが……
己が全力で鎮圧を図った場合、自爆等により艦ごと周辺一帯が吹き飛ぶ可能性が消えない以上、技術流出防止の観点からは完全な排除に移行する事も困難かと───

そう思案し待機するアレクサンドルに秘匿通信が入る。

『ああ、梃子摺っているようだな。アレクサンドル・ラスコーリニコフ。済まないな。私の不手際を任せてしまっているようだ』

それは、喉の奥で喜悦を転がすような、それでいて諦観に塗れていると感じられる、不思議な声であった。

「理解した。貴方が《預言者(アポルオン)》の操者であるか」

数多存在する実働部隊に命令を下していた何者かにして、謎に包まれた機構上層部に君臨しているであろう怪人物
現場指揮官の問に対し、返ってきたのは含み笑い。聞く者全ての癇に障るような、悪童めいた神か悪魔に通じる音色だった。

『理解が早くて助かる。御覧の通り、私は()の意思により弾かれてしまってね。
全ては私の不徳の成すところ。まったく、いやはや申し訳ない。
だが安心してくれたまえ、既に手は打ってあるとも――そら来たぞ、援軍だ(・・・)

その声と同時に墜落してきたのは───紅の装甲を纏う、無名の機兵
予期せぬ存在に、この場にいるアポルオン以外の全ての者達を驚愕が襲う。

絶対緊急停止命令(デッドロックコード)・No.149――発動(ロード)

「――、――――了解(オーバー)

ネイムレスの胸部に秘められた三基の刻鋼式永久機関から放たれた見えない音響と、電子から放たれる不可視の命令により
どこまでも暴れ狂うかに見えた半人半機の執行者は従順に従い、紅の機兵と共に直立不動のまま沈黙したのだった

暴走するネイムレス(秘匿技術)の捕獲か破壊――そう自分達に命令が下されていたはず
だが、誰も捕獲できなかったはずの意思なき機兵には、人の精神でしか動かせない三基の永久機関が組み込まれ
機構の最大戦力とされるアポルオンの停止機能すらあらかじめ内蔵されていた

認めがたい結論が、ここに導き出された
アレクサンドルは、重々しく口を開く。

「……つまり、これら万事茶番であったと?」

それに対し、アポルオンの操手は薄笑いを崩すこともなく回答する。

『いいや、実験だよ。詳細は明かせないが、君達を含めた当人が事態を認識しないことも重要な要素(ファクター)だったのだ。
不利益を被らせたこと、これでも真に申し訳ないと感じているよ。心苦しくも真実を隠蔽したのは覆せない。
あげく暴走まで許したとあれば、穴があったら入りたいという心境さ。頭を下げよう。どうか、これで納得してくれないかな?』


くぐもった微笑の囁きを前に、アレクサンドルは一瞬だけ瞑目し……
損失や費用の浪費、求められた効果……それが上層部の意思によるものなら、自身の感情は二の次。
納得は出来ずとも――歯車を円滑に回すために必要な事であれば、鉄のように己の意思は冷ますべきだろうと。

────是非もありません。我ら、歯車の使徒たれば」

それに対し、声の主は全てを見透かすように。

『有り難い。君ならば必ず(・・)そう言ってくれる(・・・・・・・・)と思っていたよ(・・・・・・・)

……よって、全ては予定調和へと落ち着く

『彼女は丁重に扱ってあげたまえ。この場から逃れるだけの力もない、客人(ゲスト)として紳士的な対応を求めるよ』

その言葉を最後に、通信は途絶。
未だ全貌を見せぬ時計機構の意思は、この場にいる者の心を逆撫でしながらその言葉を終えた


そうして――残されたのは、与えられた状況を何とか飲み込もうとする実働部隊と。
ずっと追い続けてきた存在と、肉親の残骸を見上げながら、言葉を失う小さな少女の姿だった…




  • アレクサンドルの正義は一概に否定出来ないけどオルフィレウスの元についたのだけは明確に間違いだよね、アレクサンドルの正義にそぐわない否定した英雄そのものだもの -- 名無しさん (2020-02-24 14:52:18)
  • ぱっと見糞眼鏡がナギサに向けて言ったセリフかと思った -- 名無しさん (2020-03-13 06:14:55)
  • 《本当に申し訳ない》 -- 名無しさん (2020-03-18 21:41:47)
  • 君ならば必ずそう言ってくれると思っていたよ(とりあえず煽っとこ) -- 名無しさん (2020-04-21 12:42:14)
  • ↑ とりあえずというか……理解した上で機械神はじっくりそう言っているというか……(そっちの方がよりたちが悪いけど -- 名無しさん (2020-05-31 10:05:13)
  • オルフィレウス『(薄笑いで)頑張れ❤️頑張れ❤️』 -- 名無しさん (2020-07-12 15:24:28)
  • ……なんだ、この茶番は(ドン引き -- 名無しさん (2020-07-16 02:57:35)
  • 機械神『テヘペロ♪(真顔』 -- 名無しさん (2020-07-24 00:02:58)
  • ここのオルフィレウスの薄笑い気味の台詞は実にイラッ、とさせてくれる -- 名無しさん (2020-09-20 01:10:03)
  • 《どこか遠くでやってけろ……》 -- 名無しさん (2020-12-07 08:18:06)
  • 一瞬グレンファルトのセリフだと思った -- 名無しさん (2021-04-12 19:40:38)
  • 本当に申し訳ない -- 名無しさん (2021-04-18 19:11:10)
  • ↑2爽やか野郎の場合は「いやぁスマンスマンははは」で済ますだろうな。結論どっちもうぜぇ… -- 名無しさん (2021-11-10 19:05:57)
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最終更新:2023年10月09日 23:40