「……ああ、奈津子をこっちに呼んでくれ。急いでな。」
電話が終わると同時に、社長室を春本の深い溜息が包んだ。
「はぁ……。しかしアイツにも困ったもんだ。いくら特権とはいえ……。」
(まぁ次はなんとか持つだろう。なんせアイツは……)
春本が物思いに耽るうちにやがて奈津子がやってきた。
コンコンと2回ノックが鳴る。
コンコンと2回ノックが鳴る。
「入れ」
「失礼します」
「失礼します」
儀礼的に挨拶を済ませると、早速春本が切り出す。
「奈津子…お前またやったらしいじゃないか。」
「はい。ごめんなさいっ!でも …」
「でもじゃない。」
「はい。ごめんなさいっ!でも …」
「でもじゃない。」
弁解のチャンスを遮られ不満げな表情で睨みつける奈津子に、春本も思わず語気を弱める。
「いやまあ…でもなぁ奈津子。お前はこの赤羽エイトフォーことAKV84のエースなんだぞ。もう少しその自覚を持ってだな……。」
長くなりそうな説教にうんざりし、春本の言葉を折る奈津子。
「それが私の特権でしょ!?」
AKVでは主力メンバーにはさまざまな特権が与えられている。
中でも「なっちゃん」の愛称でファンから絶大な人気があり、AKVの屋台骨とも言える奈津子には唯一“専属マネージャー”が与えられていた。
しかし、いくら特権とはいえ春本が頭を抱えるのも無理はない。
事実、奈津子がAKVに入ってからおよそ3年足らずの間に、専属マネージャーは21回も替わっているのだ。
中でも「なっちゃん」の愛称でファンから絶大な人気があり、AKVの屋台骨とも言える奈津子には唯一“専属マネージャー”が与えられていた。
しかし、いくら特権とはいえ春本が頭を抱えるのも無理はない。
事実、奈津子がAKVに入ってからおよそ3年足らずの間に、専属マネージャーは21回も替わっているのだ。
原因は奈津子の性癖である。
生粋のサディストである奈津子は、事あるごとに彼らに「教育」称して様々な暴力や凌辱を加えるのだ。
それは、彼らが壊れるか、はたまた逃亡するまで続くのである。
生粋のサディストである奈津子は、事あるごとに彼らに「教育」称して様々な暴力や凌辱を加えるのだ。
それは、彼らが壊れるか、はたまた逃亡するまで続くのである。
今回のマネージャーは奈津子の元ファンであった。
それだけにどんな「教育」にも懸命に耐えてはいたが、それでも僅か3ヶ月も持たずに崩壊してしまった。
それだけにどんな「教育」にも懸命に耐えてはいたが、それでも僅か3ヶ月も持たずに崩壊してしまった。
「あんまりゴチャゴチャ言われたらやる気無くなっちゃうなあ。
それにー早く新しいマネージャー雇ってくれないと…社長のこといじめちゃうかもな~」
それにー早く新しいマネージャー雇ってくれないと…社長のこといじめちゃうかもな~」
口調こそ陽気ではあるが、その目は笑っていない。
年端も行かない少女の視線に圧倒され、思わず目を背けてしまう自分に情けなさを感じながらも、春本はおもむろに一枚の履歴書を机の上に差し出した。
年端も行かない少女の視線に圧倒され、思わず目を背けてしまう自分に情けなさを感じながらも、春本はおもむろに一枚の履歴書を机の上に差し出した。
「あ!もしかして!」
飛び付く奈津子。
春本は椅子をくるりと回転させ窓の外を目を向けながら口を開いた。
春本は椅子をくるりと回転させ窓の外を目を向けながら口を開いた。
「新しいマネージャーだ。23歳。高校まで大手事務所でモデルなんかをやってたみたいだが、今は引退して無職らしい。俺の知り合いがなんとかここで雇ってくれというもんでな。
元々モデル時代からロクに仕事もせず喧嘩だなんだと明け暮れていたようだし、ボクシングの経験もあるようだから、いままでの奴等よりは打たれ強いだろう。」
元々モデル時代からロクに仕事もせず喧嘩だなんだと明け暮れていたようだし、ボクシングの経験もあるようだから、いままでの奴等よりは打たれ強いだろう。」
奈津子もまたくるりと春本に背を向け、机に腰掛けながら履歴書をまじまじと眺める。
「ふ~ん。ありがと♪」
「構わんよ。しかし今度こそもう少し大事につか……」
と春本が振り返る頃には、既に奈津子はスキップ混じりに部屋を飛び出していた。
「普通にしていれば何でもないかわいい女の子なんだが…。」
と感慨に耽る春本の心を余所に、奈津子は廊下を軽快に歩きながら早速次の「教育」の方法を、あれこれと考えていた。