爆発音と警報が鳴り響く。
稼働を止め廃墟となったコンビナートを改造して建設された、とある研究施設の内部。3人の男達が小型通信端末と銃を手に研究所の廊下を駆ける。前方と後方を仲間たちに守られながら、真ん中を走る男は銃の代わりに密封ケースを抱えていた。後方より迫り来る黄色いジャケットに袖を通した警備隊からケースを守るよう銃を用いて牽制している。
「この先の格納庫内に起動できそうな車両がある!」
先頭の男が片手に持った端末で研究所内の地図を表示。地図内に操作できる電子機器や端末、車両などがポイントされており、三人の前方にある筈の格納庫のマップには貨物用の車両がマーキングされていた。
マップに表示されたルート通り道を進み大きなシャッターを越えると中は薄暗く、コンテナが高く積み上げられ隠れるには丁度良い感じになっていた。入ってすぐの壁にある端末を操作しシャッターを閉じる。シャッターはキーと耳障りな音を掻き鳴らしながらゆっくりと降下していく。その間にも警備隊はシャッターを潜り部屋に侵入しようとしてくるのに対し、ピシャリと完全に部屋のシャッターは閉ざされ、真っ暗になった部屋で地図を頼りに車を探す。いくつものコンテナを乗り越えた先に銀色の中型車両が一台止まっていた。一人は運転席に、一人は密封ケースを抱え助手席へ、一人は銃を構え後部座席に乗り込んだ。車両はすぐさま動き、貨物搬入口から出てトンネルに入る。
助手席の男がシートに背中を預け、溜息を漏らす。
「一体何だっていうんだ。イエロージャケットが警備についてるなんて話聞いてないぞ」
「俺だって知らないよ、いいから早くデータのバックアップを本部に送れ!」
「まったく」
息をつくのも束の間、運転席の男に言われるまま小型通信端末を密封ケースに近づけるとカチャと音を立てて何かが起動し、ケースのロックが解除される。内容物に衝撃を与えないように敷き詰められたウレタンの中にピッタリと納まっていた小型メモリを取り出すと小型通信端末に差し込みデータの転送を始める。送信中のプログレスバーはゆっくりと進んでいく。
「このデータさえ本部に送れば最悪俺らが死んだって目的は達成させられる。それまでは時間稼ぎだ」
「死んでもだって? 潜入ルートは安全だったはずだ。ブリーフィングでも」
「潜入もクソもあるか。もう警報も鳴り響いて俺らの姿は奴等にバレてるんだぞ。外の連中も警報が鳴った時点で失敗と判断して引き上げている頃だろうさ」
車両がトンネルを抜けるとそこは広大な敷地を持つ研究施設の正面ゲート手前だった。しかし重要なデータを盗まれた施設が侵入者を簡単に逃がす訳はなく、既にゲートの前には警備の人間が待ち伏せしていた。
「くそっ!しっかりつかまってろよ!」
運転手は急いでハンドルを右に回す。車両は右に転回し施設の方に戻る様に進路を変える。
後ろからは警備隊のピックアップトラックが数台、追ってきている。
後部座席に乗っていた男はリアガラスを叩き割り、座席から乗り出すようにして後続車に銃を乱射する。
男の放った銃弾は後続車のフロントガラスを捉え、ガラスは蜂の巣のようになり先頭車は急ハンドルをきり、さらに後ろから加速する別の車両に接触し、二台とも大破。しかしそれを避けるようにして更に後ろから新たに車が出てくる。
後続の車からも人が身を乗り出し車両に向けて発砲する。戦闘を想定した警備隊の装甲の厚いピックアップトラックとは違い、こっちの車両は一般車、銃を持ち戦う人数も違い圧倒的不利。それを覆そうと後部座席の男はハンドグレネードを後続の車の群れを目掛けて投げ込む。
投げられたグレネードは車の群れの中に落ちる前に空中で爆発させられ中型車両とピックアップトラックの間で爆発した。その爆風で中型車両は前に押し出された。爆風で押し出されたことによる急加速でピックアップトラックとの距離は大きく開いたが、ハンドルは取られ、操縦が利かないまま斜め前方にあった大きな柱に激突してしまった。稼働が停止して長らく使用されていなかったコンビナートの錆びた柱が衝撃に耐えられるはずもなかった。小枝のように簡単に折れ、中型車両のボンネットにめり込んだ。更にその柱の上で支えられていたであろう先が鋭利な鉄の棒が降り注ぎフロントガラスを突き破って運転手を串刺しにし、運転手は残酷なハリネズミのように姿を変えてしまった。その光景を隣で目の当たりにしてしまった助手席の男は車を飛び出すも我慢しきれずその場で嘔吐してしまう。
後部座席に乗っていた男もシートに頭を打ったのか頭を抑えてはいるが特に大きな外傷はない様子でドアを蹴破り出てくる。
「おい、大丈夫か!?」
しかし既に車両は完全武装の警備隊に囲まれていた。銃を構えジリジリと近付いてきている。嘔吐し俯いていた顔を上げ状況を理解した男は助手席に置きっぱなしにしてしまった端末を取ろうと立ち上がる。男が端末に手を掛けたところで、放たれた銃弾が男の左脚を貫通した。
「があぁぁぁぁ…!!」
男は出血する左脚を抑え痛みにもがき苦しんでいる。警備隊の一人が助手席に歩み寄り、血で赤く染まった端末を拾い上げる。画面にはいまだ転送中と表示され進行度のプログレスバーは80パーセントのラインを示していた。警備員は端末を操作し転送を中止させた。
「終わった、俺たちの努力も運転手の死も全て無駄になった」と後部座席から降りた男の心の中の自分がそう呟く。両手を頭の後ろで交差させ、膝立ちになる。
隣でのたうち回っていた男も取り押さえられ、うるさい口を布で抑えつけられていた。一番体格の良い警備の奴がジリジリと間合いを詰め眉間にマズルを突き付けたその時。
コツン。その警備隊のヘルメットに何かが当たった。コロコロと地面を転がったそれは小さな石。人の気配を感じ右を見る。が、そこにいるのは同じ警備隊の人間。
「いやいやそっちじゃねえよ」
どこからか声が聞こえる。それなりに近い距離から聞こえるが、その声の主の姿らしき人影はどこにも見当たらない。
振り返り、最初の位置から左の方角を見る。
「ちがうちがう、こっちだよ」
ゴツゴツゴツと先程のよりもそれなりに大きい石が何個もヘルメットに当たる。
「隊長、上です!」
別の隊員、おそらくその男の部下であろう者が銃に取り付けたフラッシュライトで隊長と呼んだ男の頭上を照らす。
そこには鉄塔の入り組んだ鉄棒の上しゃがみこんで、下にいる警備隊を見下ろす何者かの姿があった。
大きな襟が特徴的な黒味がかった暗い赤色で統一されたコート。一見してキャストの頭部のように見えるが襟足が出ている所似て非なるヘルメットのようなだと分かるものを装着した人物が警備隊に手を振る。
「やっと気づいたな。」
そこにいる警備隊は全員突然現れたそいつに呆気を取られて見上げるだけで何もしなかった。
しかし二人にはそれが誰なのか一瞬にして分かっていた。二人が所属する組織の中で、「頭のネジがぶっ飛んだイカレ野郎たち」が配属されている部隊があった。第十三実験部隊、サーティーンズと呼ばれる組織の中でずば抜けてイカれた男、それが目の前にいる男だった。
「なんてザマだお前ら、一人は車で串刺し、一人はM奴隷みたいに猿ぐつわ付けられちまって、一人はなんの抵抗もすることなく降伏とは、そんで目的のものまで取られるとは情けねぇなあ!」
何も言い返せなかった、家で帰り待つ妻と娘に生きてもう一度会いたいが為に、少しでも生存確率の高い降伏を選びなんの抵抗もしなかった。
rb:運転手ならもっと軍人らしく死ぬまで抗ったかもしれないがそんな勇気も力もなかった。
「ブツを取り返したらお前の腕へし折って、生まれたばかりのお姫さあまを抱けないようにしてやるから覚悟しとけ」
そう言って男は背負う二本の刀を抜く。鍔鳴りで呆気に取られていた警備隊達も我に返り、銃弾の雨を浴びせる。それらを全弾回避するように鉄棒から飛び上がり空中で身体をひねり回りながら着地。ぐるりと二本の刀を弄び、刀を持ったままクイッと動かし挑発する。警備隊は挑発に乗って正面から一斉射する。
「おい、待っ……っ!?」
目の前でパチパチと光るマズルフラッシュ。自分の体が蜂の巣になるまで数秒と掛からないが思わず目をぐっと閉じる。しかし自分の体に痛覚は走らない、分かるのは金属音が絶え間なく鳴り続いているということ。薄っすらと目を開けると男が自分の前に立ち二本の刀の柄頭同士を合わせバトン演技のように素早く動かし銃弾を刃で二つに切り裂くか、刀身を傾け別方向に弾き流していた。弾き流された銃弾は他の警備隊の体を貫き鮮血を噴出させていた。どんなに周囲から「頭のおかしい奴」と言われていてもその身体能力、戦闘技術は本物だと改めて実感させられた。
男は片方の刀を隊長の右肩に槍投げのように投げつけた。
「ぐっ…」
相手もそれなりの手練れ、その程度では膝は付かなかったが傷からは大量の血が流れている。しかもかなり深くまで刺さったようだ。男は刀を投げ振り切った手をそのまま太腿のホルスターに当てハンドガンを取り出し連射。弾はそれぞれ警備隊の眉間に風穴を空けた。それを横目に右肩に刀を刺したまま攻撃を続ける隊長の方に走り、柄頭をサッカーボールのように蹴りさらに深くまで刀を突き刺した。
「があああぁぁぁ」
腹から出るいっぱいいっぱいの声で痛みを訴え、痛みのあまり両膝から崩れ落ちる。刺さったままの刀の柄を握り上に斬り下げると隊長の右腕は地に落ちた。声にならない叫びを上げ隊長はバタリと倒れ動かなくなった。その容赦無い攻撃、精密機械のような正確な射撃の腕に警備隊たちは怯え始め攻撃の手を止めた、中には恐怖のあまり武器を捨て逃げ出す者もいた。
「ほら、お仲間逃げちゃったぞ~?アイツみたいに今ここで逃げるなら、見逃してやってもいいぞ?」
警備隊の連中も隊長を殺したこの男に復讐しようか、逃げ出そうか悩み立ち尽くしている奴が数名。男の言葉を聞き逃げ出す奴が大半を占めていた。
「ほら早く逃げろよ!……がおー!」
子供がライオンの鳴き声を真似するように声を上げ片手の拳銃を空に向けて3発放つ。その銃声に驚いて迷っていた者も含め全員が逃げ出していった。
「モノマネが上手すぎたか?」
刀をぐるりと弄び背中の鞘に納める。チャキ―と鍔鳴りが鳴るのと同時に振り返る。
「ほら、いつまで膝ついてんだ、立てよ」
目の前で起こった出来事に気を取られ過ぎて未だ降伏のポーズで座っていた俺は手を下ろし、差し出されたルツの手を取って立ち上がった。「そういえばM奴隷くんは?」と後ろを見ると猿ぐつわをされた状態で吐き出した嘔吐物に顔つっこみ動かなくなっていた―足元を見ると大量の血が流れていたのを見ると多量出血で死んだか、今の戦闘で流れ弾を喰らって死んだかはよくわからないが―今から手を施してももう手遅れだっただろう。
転がる警備隊の死体が握る端末を取り上げるとデータの転送は一時停止中になっていただけで完全に消されてはいなかった。転送の再開のボタンを押すとプログレスバーが動き、本部へのデータ転送は完了した。
転送完了の文字が表示されると安心して大きく息を吐きだした。
「これで二人の死は無駄にはならなかった。助かったよルツ。」
「勘違いするな、俺の任務はお前らがヘマした時の後始末だ。貸し一つ、この前の分も合わせる二つだぞ、ニコラス。 いつになったら返してくれるんだかな」
「それでも本当に助かったよ、ありがとな」
負傷した足を引きずりながら後ろ歩くニコラスの姿を見て、溜息をついて仕方が無いと呆れたように肩を貸すルツ。
「何だかんだ言って、ルツは優しいよな」
「ほんとに腕へし折っちまうぞ」
廃コンビナートを離れる頃には濃紺色だった空がだんだんと青々しくなっていた。
ーーーー
コンコン。今時珍しい木製の扉を指で叩く音、中からの入室許可の声を聞くとその扉を押し開き部屋の中に入る。
部屋は奥に広くUの字型の机が配置されている。既に部屋には三人の人物が椅子に腰かけていた。一人目は一番奥の高級そうな木製の椅子に背中を預け座る初老の男性。二人目は白い眼鏡を掛けたインテリ風の褐色肌の若い男。三人目は谷間を見せ付けるかのようにシャツの胸元を大きく開いた朱色の髪の女性が座っていた。
「失礼します」
扉を慎重に閉め一礼するニコラスと行儀悪くクチャクチャと音を鳴らしガムを噛むルツ。違う性格の人間ふたりが同時に部屋に入る。
「まあ、そんなに気を張らなくても良い、もっと楽にして」
ニコラスは奥の初老の男性、分隊指揮官のネイサン・ステインの傍に座る様に部屋の奥へと歩を進め、ルツは入口近くに座る朱色髪の女性のすぐ隣に腰掛けた。二人が机に着くと壁一面の窓にスクリーンが掛かり部屋は暗くなった。眼鏡の男が指を鳴らすと共にスクリーンに様々な画面が映し出される。部屋はスクリーンに映し出さた画面の色が部屋を包んだ。ほのかに天井の小さな電灯もお互いの顔、服装がちゃんと分かる程度には明るくなった。
「先日はご苦労だったニック。君のお蔭でデータを手に入れることが出来た。解析の方も既にウィルが終わらせている。そして我々がこの場に君を呼んだのには明確な理由がある。君が命を懸けて守り抜いたこのチップの中に一体どんなものが記されていたのか。君にはそれを知る権利がある」
「はい。ありがとうございます。」
「ではウィル、説明を頼む」
「承知いたしました。―では、これを見てくれ」
スクリーンの画面が切り替わる。画面には二重螺旋で記された遺伝子情報や、グラフなどで様々な情報が記されており、そのデータ量は部屋の壁一面のスクリーンを埋める程。その中でもこの部屋にいる全員の目に留まったのが一つの画像。そこには裸のヒューマンの少女が映し出されていた。
「この子は?」
ウィリアムズは手元の端末を弄りながら、少女の画像の後ろに隠れたウィンドウを前面に出す。そこには身長、体重、スリーサイズから遺伝子配列まで事細かに記されていた。
「これに与えられた名は『セイレーン』、先日君が潜入した研究施設で生み出された生体兵器の設計図」
「生体兵器? 設計図? 意味が分からない、だってこの子はヒューマンじゃ?」
「百点満点のリアクションをありがとうニック。一から細かく説明するからスムーズに理解してくれると助かる」
「いや、違う。この子はヒトの手で0から生み出された正真正銘の人間だ。人体錬成の研究が行われているという情報を知っておきながら見逃す訳にはいかない。人体錬成が実行される前に設計図を奪い確実な証拠を見つけた上で逮捕するために君たちを派遣したんだ。」
人体錬成。それはこのオラクルでは禁止行為の一つである。それにかなりの高難度で簡単に出来るものではない。ずっと昔、フォトナーの生き残りが多く残っていた時代に定められた規律で、成功した例もその時代以降一つも無かった。それを成功させた者がいる、それだけでオラクル全体では連日の報道を騒がす大ニュースになるが問題はそこじゃなかった。
「人体錬成の研究が進められている。ここまでは我々も分かっていた情報だ。しかし新たな問題が見つかった。この研究の第一人者がシェリル・スチフという女科学者だという事だ。」
シェリル・スチフ。3年前アークス数人を拉致監禁しダーカー因子を特殊な分配で組み込み、邪悪な力、ネガフォトンを扱うことの出来るアークスを生み出そうという実験を行っていた女博士。
実験の結果は失敗。強大すぎるダーカーの力に負けてしまったアークスは侵食され人型ダーカーと化してしまった。人型ダーカーは秘密裏に抹殺され表沙汰には公表されていないが、非人道的で、オラクルを脅かし兼ねない実験を行ったとして逮捕され今も豚箱の中の筈だった。
「シェリル・スチフは現在イルシールに収容されてる。だろ?」
隣に座る女性の太股を触りながら問いかけるルツ。その行為に対して女性とウィリアムズは反応していないが、ネイサンの額には青筋が浮かんでいる。
ネイサンが怒鳴り始めると面倒臭いと指揮官が口を開きそうになった所にウィリアムズが言葉を被せる。
「ああ、その通りだ。彼女は今も尚イルシールのレベル6に囚われたまま。尋問の結果、彼女がその研究をしていたことは確かだがその研究データは完全に抹消したらしい。」
一息着くように机の上のコーヒーを1杯口に運ぶとチェーサーが口を開く。
「その話は本当なのか?」
「嘘を付いている可能性もあるが、我々には確かめようがない。現在彼女の研究所の監視カメラに彼女以外の人間が映っていないかを確認中だ。彼女が捕まったのが三年前だからな解析には少々時間が掛かるだろうな。」
目的の話を終えたのか、ウィリアムズの指鳴らしと同時に壁一面のスクリーンが青空を映し出す窓に戻っていき、薄暗かった部屋に明かりが差し込んでいく。
「解析中な以上、我々にはどうする事も出来ない。だがいつでも出撃出来るように準備はしておけ。話は以上だ。」
ネイサンが立ち上がり先に退室していく。
退室際にルツを睨み不機嫌な様子で思い切りドアを閉める。
「程々にしとけよ」とウィリアムズが椅子に背を預け伸びをしながら言う。
「バーバラさん!もう少し長いスカートを履くか、その胸元のボタン閉めるか、どっちかにして下さいよ。目のやり場に困るんですよ…」
「別に見たかったら見てもいいんだぞ?」
悪戯な笑みを浮かべ、わざとスカートを捲っていく。思春期の中学生のように顔を真っ赤にし手で目を覆い塞ぐチェーサー。その様子を見て3人は笑っている。頭の堅いスケベ指揮官と初な子供のような同僚を揶揄うのが趣味な3人。イケ面のウィリアムが立ち上がり「飯行こうぜ」と3人を誘う。
ルツ、バーバラは「行こういこう」、と立ち上がり先に部屋を出ていくがチェーサーだけは、「悪い、この後彼女と約束があるんだ」、と誘いを断り三人が進むのとは逆の方の廊下を歩いていった。
バーバラを真ん中に男2人でサイドを挟むようにして長い廊下の真ん中を肩で風を切るように歩く。
すれ違う人は皆、顔を下に向け接触しないよう道の端を歩いている。何故なら女の左側を歩く男、ルツに絡まれると面倒な事になるからだ。
三日前、ルツに絡まれた男性局員が病院送りになっている。
その事もあってか皆いつも以上に足早にルツの視界から逃げていく。
エントランスの自動ドアから外に出る。外は晴天、R.S.O.C本部に社会科見学に来た士官学校の中等部くらいの子供たちや、荷物の配達に来た運送会社の青年、ペットの散歩に来たご婦人など行き交う人々は様々。それらを横目に広場の脇の路上駐車場に止めてある真っ赤なFord GTに乗り本部から離れ車を走らせる。
入り組んだ街並みの市街地区の外れ、中心街に比べ薄汚く華やかさに欠け、歩く人の雰囲気も暗い市街地区の南端に聳え立つ地上50階建てのビルの前に景観にそぐわないピカピカな車を止める。
自動ドアの先、正面のエレベーターに乗り30階のボタンを押す。
30階に到着するとレストランが数々入っておりその内の一店舗、中華料理店に入っていく。
「いらっしゃいませ〜」、という若い女の店員の声が店内に響き奥の個室に案内される。
ウィリアムズがいつものと頼むと女性店員は沢山の肉が盛り付けられたお皿を10枚近く個室に運んでくる。3人はよくこの中華料理店に焼肉を食しに来る。
運ばれた肉を受け取るとすぐに焼き始めるバーバラ。しかしそこへ、まだ一枚目を焼き始めたばかり新しい皿が運ばれてくる。だが他の皿とは違い肉では無く数々の書類がルツの前に置かれる。
ルツはバーバラに目をやる。バーバラそれに対し目もくれず肉を焼く。
「俺はいつからヤギになったんだ?」
「ふぎのひごとだ(次の仕事だ)。」
肉を噛みちぎりながらウィリアムズが口にする。美味しそうに肉を頬張る2人と、その一方で紙と睨めっこするルツ。次の仕事と渡された書類の内容から見るにいつも暗殺任務とは違うらしい。
ターゲットは地方議会議員のアグニカという男。
アグニカは、アークスが民間企業や議会に援助金として回していた資金の幾らかを横領していたことが発覚したらしい。その決定的証拠を掴んで欲しいとのこと。証拠を追うくらいなら探偵にやらせろよと思いつつも自分宛に依頼された任務、部隊にではなく隊員個人に任務の依頼が来るというのはその実力を認められている証であり誇るべき事。ということを頭の中で繰り返し唱え、渡された端末の承諾画面にサインし、ウィリアムズに突き返し自分も肉を頬張る。
幾らか食べた所で立ち上がり自分の分の勘定を机に置くと2人より早く店を出た。
店のあるビルから歩いて10分程度にある立体駐車場に入り自分の車を取りに行く。エレベーターで上の階へ上がっていき、シンプルに黒一色に塗装されたマッスルカーに乗り込む。眠りから目覚めた獣の咆哮が立体駐車場中に響き獲物を狩るために走り出す。
アークスシップ市街地エリアの中心、一番街には多くの高層ビルが建ち並び、東京都心やニューヨークの様な景観が広がり人と車の通行が絶え間なく続いている。民間人の一般的な乗用車とは明らかに毛色の違う漆黒の車が繁華街の路肩に停車し、獲物が動くのをじっと待つ。ここに来る途中に買ったフラペチーノのストローを口に咥えながら眼先の建物からアグニカが出てくるのを待つ。
待つこと15分頃、割腹のいい髭の白い初老の男性、フライドチキンの店の前に笑顔で立つあの像の男の様な見た目をしたアグニカが、同じく市議会議員であるモートンと店から出てきた。
自分が追われているとは露知らず談笑しながら腹を揺らし歩く2人。
すぐに通りに面したパーキングに停められたBMWに乗り走っていくアグニカを追って車を走らせる。
ハイウェイに乗って街を上から見下ろすようにしながら曲線の多い道路を進む。インターを降りる所で二番街の看板が目に入る。
二番街。様々な企業の本社や事務所が点在する区画で歩く人は皆ビジネススタイルの服装を着用した大人達。走る車も、ルツのチャレンジャーのようなマッスルカーなど一台も走っておらずサラリーマンパパが家から乗ってきたであろうファミリーカーやエリートビジネスマンが乗るような黒塗りの高級車だらけ。このまま二番街に入ったら流石に怪しい。尾行してると大声で叫びながら走っているのと同じようなものだ。
インターから二番街に入る前、アグニカのBMWはトンネルに入った。今までより少し距離を取ってトンネルに入る。車内のナビゲーションレーダーにはしっかりとアグニカの車は写っているが、フロントガラスの先には他の一般車のせいで見えなくなっている。
二車線ある内の対向車線側の車線に移る。向かいから来る車の中で二番街のビジネススタイルにあった適切な車を探す。ただ二番街を走るだけならファミリーカーでもいいのだが、アグニカを追うとなるとエリートビジネスマンが多く住まう高級住宅区に入らないとも限らない為、それなりに値段の高そうな車を選ぶ。アグニカの車がトンネルを出てルツがそろそろトンネルを出るという頃、ようやく適切且つ気に入ったデザインの車が走ってくる。その車に目を光らせる。別にこの車は奪おうという訳ではない。ただ見た目を借りるだけ。ハンドルの横、青いボタンを押すと青いレーザーがその車の形をなぞっていく。多分、当の車の持ち主は驚いている事だろう。車の頭から尻までなぞり終えた所でトンネルを抜ける。トンネルを抜けるとルツのチャレンジャーは銀色のメルセデス・ベンツに変わっていた。
何が起きたのか簡単に説明すると「車のデザインを貼り替えた」。R.S.O.Cから支給された車両で外見を用途や景観に応じて張り替えることが出来る。要は四つのタイヤが付いた骨組みにホログラム外装を貼り付けている。
そうして相手に尾行など気付かれないように状況に応じて車の見た目を変えている。距離を取ったのは目的のアグニカに悟られないようにする為であり、他の二番街の住人には関係ない為である。それに今の世の中ではこの技術は一般化も始まっており、人によっては同じ技術を搭載した車を持ったビジネスマンもいる可能性は高い。しかし走りながら姿を変えるほどの高性能技術を有した車両は未だルツが所属する軍他アークス内でしか技術として確立していない。
一番街と大して変わらぬ見た目の二番街に入るとルツの眼球に装着されたウェアラブルコンピューター、角膜投影仮想現実、通称ヴァーチャルに仮想ディスプレイで二番街の案内板が表示され、交通状況や天気などが詳細に記載されている。車のナビゲーションレーダーに映し出されたアグニカのナンバーを追い前方車両を追い越して車と車の間を縫うようにして距離を詰めていく。
フロントガラス越しにアグニカを捉えた辺りでアグニカの車は一つの事務所の前で止まった。そこはモートンの事務所。挨拶を交わすとモートンは事務所に入っていき、ようやくアグニカ1人になる。あとは人目の少ない室内などにアグニカが入るか、もしくは誘導すれば尋問(お話)は出来る。機会を伺っているとアグニカが電話を始める。その様子を見ていると途中アグニカは焦った表情になり、電話をしながら車を走らせた。
かなり焦っている様子で、かなりの速度を出して走っている。アグニカの車は二番街の列車駅に止まると服を乱し汗を多く流したアグニカが足早に改札を越え地下鉄に乗り込む。ある程度離れた適切な距離で追跡してるとアグニカはR.S.O.C本部で降りた。本来この駅はR.S.O.Cの隊員のみが降りる駅。一般市民が降りた所で入れるのはトイレくらい。駅が本部に直結しており、本部に入る為にはIDが必要となっている。そもそもIDはR.S.O.Cの隊員にしか配布されていないはずだが、アグニカは手首に装着された端末を改札にかざすとID認証を完了させ本部に入っていく。
そして、そのまま本部のエレベーターにもアクセスし上層階に登っていく。まさか本部に来るとは思っていなかったルツは腕時計型装着端末を車の中に置いてきてしまったため、本部内に入る為には面倒臭い指紋と網膜認証を完了させなければならない。改札横のスキャンルームに入り指紋と網膜認証を完了し終える頃にもう駅の中にアグニカの姿は無かった。仕方ない、と情報管理課のモニター監視室のあるA区2階に上がっていく。
人の数よりも圧倒的にモニターの方が多く、チップス片手にサイダーを飲んだ、太った顔中ニキビだらけのオタクが好みそうな薄暗い部屋に入っていく。だが、実際に部屋にいるのは細身の男性ばかり。奥のモニターの前に行き、前に座る男の肩を叩く。男はすっと立ち上がりルツに席を譲る。
今日、本部の会議室からあの中華料理店に行くまでにすれ違った人間たちと違い、ルツを見ても騒ぎ立てること無く、ルツの行動にも興味すら持っていない様子で各々自分の仕事を進めている。
端末を操作して、全フロアのカメラ映像を表示していく。無数に設置されたカメラの中、何処か必ず一箇所はアグニカの姿を捉えている筈だ。しかし何処にもアグニカの姿が映っていない。現在稼働中の監視カメラにはアグニカの姿はどこにも映っていないのだ。
可能性があるとすればこのフロア、E区4階。情報管理課の話によれば先日このフロアで他の部署同士で乱闘騒ぎがあったらしくその時にこの区画の監視カメラが故障したらしい。現在は業者が修理を行っているとの事。地上六階ほどの高さしかないとはいえ、面積的にはかなり大きなR.S.O.C本部の全フロア、全区画に設置された監視カメラを回避しながら行動するのはほぼ可能だ。光学迷彩でも付けていればある程度までは回避出来るだろうが、全ては不可能だろう。
それでも見つからないというのなら、エレベーターで4階に直接向かった可能性を考える。本来民間人はC区一階しか入れないことになっている。しかしそこに居ないなら他にエリアにいる可能性がある。しかしアグニカがどのような要件で本部を訪れたかは分からないが可能性はゼロではない筈。ルツは他の監視カメラにアグニカの姿が映ったら連絡するように情報管理課に伝え4階へと向かった。
情報管理課の話通り、修理業者と思われる制服を着た男に何人もすれ違った。
その中の1人に、端末にアグニカの写真を表示させ見せながら「この男を見なかったか」と声を掛ける。修理業者の男は作業中にも関わらず嫌な顔一つせず、丁寧に「B区の書庫に入っていきました」と答えた。軽く礼を言いその場に向かう。
書庫、正確には昔の書籍や新聞をデータ化したものを保管した部屋だが、入ろうとドアの開閉端末に手を当てるが、開かない。本来公共の場として使われる書庫にはロックなど掛かっていないのだが、今日に限ってはロックが掛けられていた。しかも面倒臭いことに網膜認証。
アグニカが出てくるまで目の前で待つ訳にも行かない。真っ向から資金横領について聞き出した所でアグニカが相当な阿呆でない限り答えるはずがない。少し考えた末、観葉植物の枝に小型カメラを設置していくことにした。カメラを起動し車のインターネットデバイスとリンクさせて書庫を後にする。
車に戻りリクライニングシートを限界まで下げ、寝転がった状態でデバイスでゲームを起動しアグニカが出てくるのを待つ。横スクロール格闘ゲームのステージを全てクリアして同じ作業を三巡した頃、アグニカが出てきたことをデバイスが通知した。ゲーム画面を閉じ、カメラの映像に接続する。そこにはアグニカだけじゃなく様々な企業の社長や地方議会議員、そしてR.S.O.Cの分隊指揮官ネイサンの姿まで在った。
この面子で一体どんな話が行われていたのか。何でかルツの第六感が嫌な気配を感じ取った。
アグニカとネイサンは笑顔で会話しエレベーターの方へ向かって行くのが見えた。行き際にカメラが設置された観葉植物の横を通り過ぎると会話の内容が少しだけ聞こえてきた。
「今日は遅れて申し訳ない…。お詫びと言っては何ですが今夜はいつもの所に新しい子を二人、連れていきますので…お楽しみください」
これだけではなんの事だかさっぱりだが、新しい子、ということはおそらく人間であるのだろうし、アグニカのニヤニヤとした表情と声の調子からして恐らく若い女の子であろう。
恐らく五十前もしくは五十過ぎの男が若い女で楽しむ。これだけ聞くと今晩その男が何をするのかなんて想像に固くない。あくまでこの断片的な情報だけでなら。実際に何が行われるかは後でアグニカ本人から聞き出せばいい。
その時端末が鳴る。
情報管理課のモニター監視室のイトウからだ。さっき何も言わずモニターを操作させてくれたルツの数少ない友人の一人。イトウからのメールにはC区一階アグニカの姿ありと書かれていた。ルツはすぐにC区一階に移動する。C区は行政関係者も多く出入りする区画でありその場にアグニカがいた所で不思議ではない。案の定アグニカさもC区一階の行政関係者たちと同じく何らかの仕事で来たかのように堂々としながら本部から出てきた。今の所何らかの悪巧みの断片は掴んだが、依頼された資金横領に関する決定的証拠は掴めていない。空は夜の帳が降り始めている。街頭がと着き始め、本部からは退社時間の事務員たちがちらほらと帰っていくのが見える。アグニカは本部から数百メートル離れた場所にある広場のベンチに腰掛け、携帯端末を弄っている。自分も少し離れたベンチに腰掛け様子を伺っているとルツ視覚内の左上が赤く点滅し耳のインカムに警報を響かせる。
『緊急事態発生。アークスシップの一隻がダーカーの襲撃を受けています。』
その警報が鳴ったのと同時刻、今度は着信の通知が鳴る。受話のウィンドウをフリックするとインカムから声が聞こえる。
「仕事中悪いな。だが本来こっちがお前の本命だろ?」
恐らく
rb:あっちは既に本部で作戦準備中。端末の向こう―彼の後ろの方―がガヤガヤとした中でウィリアムズの声がやや小さくに聞こえる。
昨日と今日と人間相手の仕事を請け負っているが、本来ルツはR.S.O.Cのエージェント。アークスとしてダーカーの殲滅が最優先事項であり、
rb:COは副業みたいなもの。ウィリアムズに対して「はいはい」、と軽い返事を返し、アグニカを横目に見送りながら立ち上がり本部に引き返す。
R.S.O.Cのエージェントの多くが作戦用の特殊戦闘服に着替えており、アークスロビー直結のワープポータルから次々と作戦開始に向けキャンプシップに乗り込む手続きをしに行く。ルツも自分の小隊のブリーフィングルームに向かうと既にブリーフィングルームの前に特殊戦闘服に着替えたウィリアムズが立っていた。
「俺らは別任務だとさ」
ウィリアムズから特殊戦闘服を受け取り今まで着ていたジャケットやらスラックスやらを脱ぎ捨て受け取った服をインナーの上から着込む。身体のラインがはっきり分かる程ぴっちりとした素材で作られたそれは見た目の薄さの割にかなりの硬度と柔軟性を持ち、武器で切りつけても傷つかない代物。前部のジッパーを上まで閉めると肩、腰のライトが青く点滅する。これで準備完了。スーツとリンクした
rb:角膜投影拡張現実にスーツの状態などを映し出す。ライトが点滅した事を確認すると二人はブリーフィングルームに入る。中にはバーバラ、ハイド、アンジュが席に座っている。
「あれ、アレックスは?」、とルツが問うと、「お前が右腕へし折ったんだから出撃できる訳ねえだろ」、とハイドから即答で返ってくる。ルツも、「ああそうか」、と思い出したように頷き自分も席に座る。緊急任務の警報が鳴り響く中自分達だけはブリーフィングルームで雑談会。昨日の夜は何を食べたとか、この映画が面白いだの話しているとブリーフィングルームのスクリーンに指揮官ネイサンの顔が映し出される。
『アレックスを除いて、全員揃っているな。お前達にはダーカー殲滅より優先して、ある特別な任務を遂行してもらう。……逃げ遅れた地方議会議員の救出だ。』
ネイサンの言葉と共にブリーフィングテーブルにホログラフィックで逃げ遅れた地方議会議員のいるビルが映し出される。ネイサンの話が進むと同時にホログラフはフロア毎に展開されビル内部の行動ルートの説明がされていく。展望フロアを含め地上102階の高さのある高層ビルのおよそ90階くらいのフロアだけ赤く表示されている。ネイサン曰く、最後に姿が確認されたのは、このフロアらしい。ルツとウィリアムズは指揮官の適当な指示に対して溜め息をつつ了解と返事をする。
『決して傷一つ負わせずにお前達で連れ帰るように。他の民間人よりもこの議員の安全を最優先にするように。作戦の説明は以上だ。何か質問はあるか。』
皆、お互いの顔を見合わるが誰も発言しない。画面の向こうのネイサンも全員を見渡すが誰も発言しないのを見て通信を切断する。
ネイサンの顔が部屋の中から消えると高校の休み時間の教室のような雰囲気に戻る。ワイワイと話しながらワープポータルに向かう。
ワープポータルに向かう道中、ルツは今回の救出対象が地方議会議員ということを思い出し少し考え始める。先程のアグニカや企業の社長らと同じく、何らかの悪巧みに加担するメンバーの1人なのではないかと。ネイサンは男の身の安全について口煩く話していたのを思い出し、どうも気になったルツは端末でイトウにメールを送った。ここ数日、今回の救出対象であるガルナの行動とネイサンの行動を調べて欲しいと依頼する。
『d(。 ・`ω・´) ラジャ☆』
と、イトウから可愛らしい顔文字付きで返信が帰ってくる頃にはキャンプシップ出撃手続き終え降下準備を行っていた。
各々アイテムストレージ端末の手紋認証で本人であることを証明した上で、ストレージ内から自分の武装を取り出す。各々の適正クラスによって装備は異なる。特殊作戦群D分遣隊は中でも最もダーカーの出現数が多い区画やそれ以外の要因でも、他の部隊員に遂行が難しいと判断された作戦地域に派遣される部隊である為、武装に関しては最新鋭の装備を揃えられている。特殊作戦群D分遣隊は様々な作戦に対応出来る様、主要となるクラスの他、いくつかのクラス適正を持ったアークスが配属されている。今回の作戦は建物内での救出作戦のためハンターのような長い得物ではなく、抜剣を扱うブレイバーや銃火器を扱うレンジャー、ガンナーのように小回りの利くクラスが適切とシステムが判断しストレージから適切な装備の候補リストを提示する。ルツはディオラディエグルを取り出す。特殊戦闘服に専用ホルスターを装備し収納する。
『降下、5分前です』
キャンプシップのパイロットが作戦開始地点上空への到着時間までのタイムリミットを告げる。
rb:角膜投影拡張現実の時計に表示される時刻合わせを行い、特殊戦闘服の機能確認を始める。三分前となるとテレポーテーションプールが起動し浅葱色の微光を放つ。
『降下一分前。カウント開始。』
視覚上にタイマーが表示される。テレポーテーションプールの縁に並ぶ様に立つ。特殊作戦群d分遣隊がダーカー殲滅の任務に着いた時、毎度行っている恒例行事。最も撃破数の少ない者がその晩の夕食を奢るというもの。プールの縁に立った時、分遣隊員は皆顔を見合わせて視線で相手を挑発し合う。ちなみにこれに関してはルツは1度たりとも負けたことはなく、いつも負けているのはハイドかアレックスだ。今日の作戦はアレックスがいない為負けはハイドで確定か、なんて想像していると視覚上のカウントが残り10カウントを表示する。降下前に静かな高揚感を感じつつ目を閉じる。
『降下開始。ご武運を』
パイロットの声と共に目を開き、プールに飛び込む。
最終更新:2024年05月22日 01:59