Encounter and farewell -出会いと別れ-
玄関のベルが鳴った。
「おっと、ピザーラが来たぞ」
ハイドが出ていって、ピザを受け取る。店員の差し出した携帯デバイスに親指を押し付け、受取の本人確認を済ませる。所属人員の情報を一括管理している情報部門から購入通知が返ってくると、ようやく食卓にピザが運ばれる。
「軍にいる間は、情報のセキュリティも管理も楽チンだったのにな……」
そう言いながらソファに戻ってきたハイドは、既にハラペーニョをパクついていた。
「民間じゃ、セキュリティは当然、キープするのだって金がかかる。」
「情報のキープをしてるのは軍じゃない。情報部門の人間は全員セキュリティ会社からの派遣だから、厳密に言えば民間の情報セキュリティ会社だ。僕らの給料の一部からコストとして支払ってるんだ」
「細かいこと気にしてると禿げるぞ。自分で金のやりくりをする様になった頃から軍部にいてカタギ経験がねぇから分からないのだよ」
「医療記録とか個人情報に必要な指紋声紋顔紋網膜脳波の類い、信用状態やその他諸々をサーバーにしまっておきながら、必要な時はいつでもアクセシブルな状態にキープしておくってのは、コストの掛かることだからね、僕らの行動履歴をデータ越しに監視、もといオペレートしている情報分析官たちとの契約金の支払い、彼らへの給料を渡しているって感じさ」
「それが言いたかった」と首を縦に振る。
「こんな楽チンな生活とはおさらばになるのか」
と、ウィリアムズの携帯端末に呼び出しが入る。入念に指についたピザの油を拭き取り、応答した。自分の端末だからどうしようと勝手だが、この時期この時間に掛けてくる相手なんてのは1人しかいない。俺なら三コール以内に応答する。たとえ端末が油でギトギトになろうともな、とマイペースというべきか芯を貫くウィリアムズの行動に関心すると同時に呆れながらウィリアムズの通話を眺める。
「はい。……そろそろだと思ってましたよ。ええ、準備は……出来てます。では一時間以内に」
通話を続けたまま壁のナノレイヤーにコマンドパッドを描くと、フリック動作でハイドの前に滑り込ませてきた。コマンドパッド入力のプレビュー画面をメモ替わりとして、「着替えろ、お呼び出しだ」と書かれていた。
大きな溜息を吐くハイド。
「…………行くか」
上層部からのお達しによってスーツスタイルの格好で階層間エレベーターに乗った。
その存在を世の中に隠しながらも、知る人ぞ知る恨まれ役の部隊に所属する以上、ネームプレートや勲章などがジャラジャラとぶら下がった制服で下層都市を歩くのは、自殺行為に近い。要するに普段着で来いとの事だったが、ウィリアムズが、お偉いさんと会うのに制服を着ていないのが落ち着かないと、入念にネクタイの結び目を気にする素振りを見せる。窮屈な制服に袖を通している以上、ファッションに気を遣う必要は全くない。が、ハイドのような下層都市出身者からしてみたらスーツスタイルですら窮屈に感じた。
私服が楽というハイドの考えとは正反対にウィリアムズは、私服には個人の価値観が入り込み、その価値観の違いが互いの相性にも繋がりかねないのが嫌、ということらしい。ハイドらは軍用エレベーターではなく、民間用のエレベーターで長い時間をかけて、アークスや軍の作戦本部のある上層都市へ上がった。今や軍部内で顔の知れたある意味有名人となった二人が招集されたということを上層部は身内にも隠しておきたいらしい。そういう訳で極力一般人のフリをしながら、事務業務のインターンで訪れた学生に混ざって本部に入っていく。上層本部に訪れるのは初めてではないが、来る度にまるでおのぼりさんの様な気分が湧いてきて、どうも恥ずかしい。
正面口から堂々と入って行っても服装は皆バラバラで制服を着用している者の方が少ない気がした。誰が一般人で誰が職員なのかの判別も難しい。時代の発展と共に、進歩していった生体認証による個人の存在証明のおかげでファッションによって人を判別する必要性がある程度薄れたから。
個人のアイデンティティーは髪型や服装にはなく、情報セキュリティ会社のサーバー内にしまってあるから、そういうことらしい。
そんな訳で、職員とは言えラフな格好で勤務しがちな傾向になっている。当然軍部に所属している以上、ココへの出入りは必ずしもあるし、ハイドも幾度となく足を運んでいる。その時も格好は比較的ラフなものでまとめていた。しかし今の二人の状況下ではラフな格好で本部を出入りするのは難しかった。
会議室が集中したエリアに入ると、ほとんどの部屋に使用中の札が下げられており、全ての部屋に見出しが付いていた。
シップ間で起こる小さな紛争や環境問題など様々なカテゴリの内容の会議が行われているエリアの廊下を静かに歩く。
「ここだ」
ウィリアムズが一つの部屋の前で止まる。そこには立ち入り禁止の札がかけられていた。
「立ち入り禁止──ここの部屋だけ会議内容が随分とシュールな話題だな」
明らかに緊張しているウィリアムズを和まそうと言った冗談に彼は小さく笑った。再びネクタイの結び目を確かめ扉をノックすると、部屋の中から男の声がした。
「指紋を認証したまえ、そこの小さな端末だ」
ドアの横に設置された切手くらいのサイズの指紋認証デバイス。言われた通り、デバイスに親指を押し付けると、ドアのロックが解除され自動的に扉が開く。
半円形の会議テーブルの外周に整列したように綺麗な等間隔で座る壮年の男女たち。二人が部屋に入るとその全員が話し合いを辞め一斉にコチラを向いた。その中で、一人の男が立ち上がった。
「彼らが、ユニットDの最後のメンバーです」
その男は、二人が見た事も話したこともない見知らぬ男だったが、男は二人をそこにいる全員に紹介した。周りをよく見ると、ドアから入ってすぐの所にD分遣隊の女性メンバーが同じくスーツスタイルで立っていた。
ハイドが女性面子に声を掛けようとすると会議テーブルの中央に座っていた黒髭の男が話し始めた。
「君達の今後についての話だ。先日ら不運な事故で亡くなった君達の上官ネイサン・ステインだが、組織の幹部ぐるみで色々な方面の代表たちから不当な金を受け取り、様々な犯罪行為を隠匿していたことが判明した。組織の代表、指揮官の死と暴かれた不正。事実上、「R.S.O.C.」は解散となる。君達のように何も知らなかった隊員が、同業界からの信用を失う結果となってしまったが、君達ユニットDは、公安局からの強い申し出により、公安局への異動が決定した。元より社会には存在を認知されていない特殊部隊だったが、今後も情報の扱いには充分注意してほしい。何か質問はあるかね?」
ウィリアムズが手を挙げ、「ルツはどうなるのでしょうか……」と小声で質問すると、黒髭の男は呆れたように溜息を付いた。
「ウィリアムズ……それについて、君に話すことはないと、何度も言っているだろう」
二週間程前、ネイサンからルツを救出したあの日、病院に搬送されてからルツの所在が掴めなくなった。上層部は何も話す気がないと、場所を一切話さなかった。ウィリアムズはこの二週間、何度も上層部に掛け合ったがそれでも何も引き出す事が出来なかった。それに加え公安局のダニエルに止められ、それ以上聞くことも出来なかった。そして今、再びこの場で問おうと言葉を続けると、それを遮る声がした。
「ウィル、もう行くぞ」
ハイドはウィリアムズの肩を掴み部屋の外に引っ張る。魂が抜けたように口の開いたまま、外に連れ出される。部屋の外にはダニエルが待っていた。
「ウィリアムズ、あやつが心配なのは分かるが今は耐えろ、耐えるんだ。腐っているのはネイサンだけではない。あそこに座っている奴らもネイサンの同類だ。目を付けられないようにするんだ」
ハイドとダニエルでウィリアムズをその場から引き離す。当然後ろにはバーバラとアンジュもついてきている。
「とにかく今は場所を移すべきだ」
急ぎ足で、本部から出るとダニエルの車に全員で乗り込み、バイパスに乗って上層都市から中層都市のダニエルの勤める署へと降りる。
「アイツらが何で俺達を今すぐ始末しないかを考えろ、お前のそのキレる頭なら分かるだろ」
つい先程、解散と宣言されたR.S.O.C.の中で特殊作戦群D分遣隊は、アークスシップ一隻を一つの国家とするならば、今現在いる94番艦以外の様々な国家の機密を知る部隊だ。国家間に巻き起こる戦争もD分遣隊の持つ情報の使い方次第では、国家の心臓を突き刺す鋼の刃となる。しかし刃は刃でも国家の保有するその刃は諸刃の剣にもなりうる代物。下手に手を出せば国家を揺るがす問題に発展しかねない。だから迂闊に動けない、しかし手を出さない訳ではない。懐に潜り込んで心臓を突き刺す機会を伺っているのは明確だった。そんなことはウィリアムズにだって分かる。
今のウィリアムズがすべきは、耐え忍ぶこと事、ただそれだけなのだ。
目が覚めると、見慣れぬ天井がそこにあった。自宅の打ちっぱなしの鉄筋コンクリートの天井とは違う、金属のようにうっすらと光沢のある機械的な天井。何本もの光のラインが交錯し天井を流れている。
ぼんやりと聞こえていた音が、鮮明になってくる。光のラインが天井の端に当たる度に鳴る木琴の低音のような音。壁の端から垂直に伸びる透明な壁。そこには何もないのではないかと錯覚を覚えそうなほどの透明度のガラスの向こうからも音が聞こえてくる。
『──うございます』
身体を起こし、目を擦る。ぼやけた視界にも焦点を合わせる。
『おはようございます。本日もストレス浄化に努めましょう』
立ち上がり、ガラスまで歩いていき外を見る。ガラスの向こう側、真っ直ぐと伸びる道の向こうにも自分のいるこの部屋の物の配置を全て逆さまにしたような配置の部屋が見える。それは鏡なんかじゃない。中にいる人間は自分ではない別の誰か、その金属らしき壁に頭をひたすらに打ち付け、赤色のペイントで壁を彩っている。
その男の隣の部屋もそのさらに隣も外観内観ともに全く変わらぬ部屋が規則正しく等間隔に見えなくなる先の方まで続いている。
ただひたすらに長い一直線の細い二本の道の上に並ぶ小部屋。各部屋の前には橋が掛かっており、対岸とコチラ側を繋いでいる。
ガラスのすぐ目の前のコンクリートの道を移動するドローン。ドローンの頭部、目とも言えるセンサーがついていない後頭部には、どこがで見たことのあるロゴマークが見えた。
あぁ、ここはアークスの施設なのか。
ようやく思考が追い付いてきた。とにかく状況を整理しよう。
何故自分は今ここにいるのか。
最後に覚えてるのは、ネイサンがジェイクに逮捕され連行されていく姿。そうだ、あの戦闘の後、気を失ったのか。となるとここは病院なのだろうか。
状況を整備しながら周囲の様子を観察する。
自分のいるこの部屋以外には次々とドローンが止まり食事を配っているのが見えた。この部屋には一台もドローンが止まらない。
大多数の部屋の人間が食事をとり終えた頃合いにブザーがなり一斉にドローンが投入され、食器の片付けを始める。
その光景を1日の間に3回見た。時計も窓もない独房のような部屋だから時間の感覚もおかしくなる。そもそも自分が目覚めた時、朝だったのか夜だったのかそれすらも分からない。食事を終えて二時間程度が経過し、消灯時間なのか外の天井に張り付く無数の白色電光が一気に消灯。
暗い中、周りの部屋を見ると、皆ぼちぼちベッドに寝転び始めている。消灯時間が何時なのかは分からないが、おおよそ現在が夜であることは把握出来た。
しかし見知らぬ場所、それも独房のような所に突っ込まれて安心した睡眠が取れるはずもなく、ベッドに寝転んだまま、天井のラインが行き来するのをひたすら目で追って時間を潰す。
何時間この光景を眺めただろう。最初に見た対岸の小部屋の住人は完全に眠ったのか。透明なガラスが磨りガラスへと変わっている。他のどの部屋も皆磨りガラスになっている。なるほどこういう便利な機能も備わっているのか。
コツンコツンとコンクリートの道を歩く足音が聞こえてくる。
ドローンが移動するタイヤの滑走音ではなく、明らかに硬い靴底で地面を蹴っている音。
見回りか?
ここが病院なのか牢屋なのか定かではないが、どちらにせよ見回りくらいはするか、と納得し特に外の様子を伺うこともなく、ひたすらに天井を眺め続けると、近くで足音が止まった。
足音が止まったのに気が付き、顔を横に向けるとガラスの向こうに人影が立っていた。その人影が手を伸ばし、ガラスに触れるとガラス面に様々な数値とパラメーター、グラフが表示される。
「うむ、バイタルも回復しているし、だいぶ意識もハッキリしているようだね。腹部、脇腹、左腕の打撲傷も回復しているね」
声から察するにコイツは男だ。シルエットはかなりヒョロ長い。シルエットでもわかる特徴といえば、あの尖った長い耳。なるほどニューマンか。
「今の気分はどうかな?」
身体を起こし、ベッドに座り、ガラスの向こうの男と話をする。
「最高の気分だね。朝から晩までこの光を追い続けるの。楽しいからアンタもやった見たらどうだ?」
「遠慮しておくよ。目が覚めたのなら、ここにいる必要もない」
男が、ガラス面でコマンドパッドの操作をすると透明なガラスがその場でパッと消える。初めからそこには何も無かったかのように跡形もなく。
「これでも、僕は忙しい身の上だからね。説明は移動しながらしようか」
男は、コマンドパッドを握る潰すようにして手の中に仕舞う。指の間からホログラムの粒子が大気に消えていく。男は歩き出す。指の先を自身の方に二三度曲げ、ついてこいと言うように手招く。男の指示どおり、ガラス窓を越え、男のあとについて歩く。
外に出て分かったのは、ここが病院ではないということ。今歩いているこの道の下にも同じような道があり、当然そこには先程までいたような小部屋がある。隣にも更にその隣にも。それが何層も何層も下に繋がっている。対岸の道も同様に。
今思えば彼は、この施設を知っている。
アークスシップ0番艦イルシール。
表向きは、ダーカー因子を蓄積させたアークスを浄化作業に専念させるために作られた隔離病棟だが、その実、収容されたら二度と出ることが叶わない牢獄。アークスだけでなく、様々な犯罪者がそのに収容されていると聞く。彼自身も何人もの犯罪者をここに送ってきた。
「君が寝ていたこの二週間の間に、世の中は大きく変化したよ。まずR.S.O.C.の解散。指揮官ネイサン・ステインの死亡と組織の幹部と彼が隠匿していた様々な罪が発覚し、R.S.O.C.は存続不可能な状況に追い込まれ解散」
「ちょっと待て、ネイサンが死んだ?」
「移送中何者かに暗殺されている。詳細は何も分かっていないのだけどね。話を続けるよ。R.S.O.C.の解散、そして公安局 局長デュナン・ルーファスの解任と逮捕などなど、軍事業界は、今かなり混乱しているよ。アークスも同じく先のダークファルス【巨躯】との戦いで多くの兵士を失った」
前を歩く男が、歩きながらコマンドパッドを展開し、ニュースクリップをフリックし、俺の前に飛ばしてくる。男からニュースクリップを受け取り眺めながら歩く。
惑星ナベリウスに突如姿を表したダークファルス【巨躯】との戦いの記録が載せられていた。アークスシップ数隻が大破しその被害は想像を絶するものだった。ニュースクリップの中に気になる記事を発見。開いてみるとそこにはかつての仲間チェーサーの活躍が記載されていた。
『期待のルーキー、ダークファルス【巨躯】討伐!』
デカデカと派手な配色で目立ちやすくなった見出しで書かれた記事によると、アレックス・チェーサーという新人アークスがなんと一人でダークファルス【巨躯】を倒したのだという。
ルーキーの記事を読んでいるのを見て男は、
「気になるかい?彼のこと」
当然だ。ある日突然何の前触れもなく、フォトンを扱う力を手にし、六芒均衡のマリアからのスカウトでアークスとなった元親友のことが気にならない訳がない。羨ましくもあったし同時に恨めしかった。いつも俺の後ろをついて歩いていたアイツがいつの間にか俺の数歩先を歩いていたのだから。
「いや、別に」
「強がる必要はないよ。君はよくやっているよ。今じゃその存在すら知っているものが少ない、そのフォトンジェネレーターで今まで戦って来たんだから。武器やジェネレーターそのものに改良を加えているとはいえ、数撃でダークラグネを屠るとは大したものだよ」
男が言った。ダークラグネ。任務でダーカー襲撃で逃げ遅れた地方議会議員の救助依頼の際に討伐したことがある。それ以外では倒したことなど一度もないし、まして遭遇したのだってあの時だけだった。
「なんで、あんたがあの時の俺の戦いを知ってんだ」
「なんでもなにも、君は僕に気が付いていたじゃないか」
その言葉に違和感を感じながら、当時を思い出すと、ダークラグネとの戦闘の後、ビルの上からコチラを見る何者かを発見したのを思い出した。
「あの時、見てたのはアンタか……」
「その通りだよ。型落ちのフォトンジェネレーターでよくやる子がいると聞いて観察していたんだ。……僕はね、君に興味があるんだ」
「なんだ?告白でもしようってか?生憎俺にそっちの気はない、他を当たってくれや色男さん」
「君だって望んでいる筈だ。君には僕の力が必要さ」
「俺がアンタを必要とする要素なんてどこにも……」
「後天的フォトン適性付与手術、君なら知っているんじゃないかな?」
後天的フォトン適性付与手術。フォトン適性というものは本来先天的なものである為、成長して身につくものでも、経験を積んで身に付けるものでもなかった。しかしそれを可能にしたのが、後天的フォトン適性付与手術、
rb:虚空機関が生み出した技術だ。
「そうか、自己紹介がまだだったね。僕はルーサー、
rb:虚空機関の総長をやっている者だ。以後お見知りおきを」
虚空機関はアークスに属する研究機関で、アークス創立当時からアークスを支えるような形でずっと残り続けている組織、のはずだが、その活動、研究内容の一切が分からない組織としてアークスだけじゃなく業界でも有名な研究機関だ。
「それで? 俺が
rb:虚空機関総長様からの直々のオファーだからってハイハイと了承するとでも思ったのか?」
「……誘いには乗らないということかな?」
「乗る理由がねぇ」
そうは言ったものの、内心ではかなり悩んでいた。ルーサーの誘いを受ければ、今まで以上の強さが望める。大嫌いなダーカーを叩きのめす事の出来る力が手に入る。
「……そうか、残念だ。気が変わったらいつでも来るといい僕は君を歓迎するよ……。もうひとつ言い忘れていたが、君の身柄は現在虚空機関が預かっていることになっている。くわえて、今現在君は一般市民と同じ扱いだから、その辺気をつけたまえ」
イルシールの隔離病棟から出ると、ルーサーのキャンプシップで九十四番艦に帰されたかと思いきや、そこは三番艦ソーンだった。
情報セキュリティ会社に預けていたデータにアクセスすると全ての登録情報が市民としてのものに書き換えられていた。
「長期休暇だと思って、よく休むといい」
いつでも連絡しろと、連絡先をリストに登録されルーサーは去っていった。ルツは何も知らない、右も左も分からない都市に一人置き去りにされてしまった。フリック操作で目線にコマンドパッドを展開し、都市マップを開く。同時に情報セキュリティ会社にアクセスし、この都市での自分の家がどこに割り当てられているかを探し出す。マップ上に家の場所がマークされた。今いる地点から徒歩10分程度のマンションだった。
ルーサーが用意した部屋ということに、どこか警戒しつつ帰宅すると、九十四番艦の自室に近い形で家具が配置されていた。リラックス出来るようにという彼なりの気遣いなのかは分からないが逆にそれが気持ち悪く、帰宅早々ではあるが外出し、今日泊まる宿を探した。マップの一キロ先に二十四時間営業のダイナーを発見する。これで、今日の宿は決まった。
道中、ルーサーに渡されたニュースクリップからチェーサーについての関連記事を漁った。
最終更新:2024年05月22日 11:44