四つ仮名(よつがな)
『言語学大辞典術語』
日本語の濁音の相互識別に関して,「し」「ち」,「す」「つ」の四つの仮名をさす.16世紀前後に,「し」と「ち」の濁音,および,「す」と「つ」の濁音が,それぞれ,1つに合流したために,これら4つの仮名について発音の区別が問題とされ,また,それに平行してそれぞれの書き分けが問題とされた.発音と仮名表記とは一体の関係で把握されている.合流が進行しつつあった期間,そして,合流が完成したあと,しばらくの期間,すなわち,16世紀末から17世紀にかけて,四つ仮名と開合(オ段長音の広狭)とを正確に言い分け,また,書き分けるかどうかが,所属する社会階層の言語的指標とされた.ただし,「四つ仮名」という名称は,謡曲の伝書,『音曲玉淵集』(1727)にみえるのが古い使用例とされている(亀井孝,1974).
日本語の濁音の相互識別に関して,「し」「ち」,「す」「つ」の四つの仮名をさす.16世紀前後に,「し」と「ち」の濁音,および,「す」と「つ」の濁音が,それぞれ,1つに合流したために,これら4つの仮名について発音の区別が問題とされ,また,それに平行してそれぞれの書き分けが問題とされた.発音と仮名表記とは一体の関係で把握されている.合流が進行しつつあった期間,そして,合流が完成したあと,しばらくの期間,すなわち,16世紀末から17世紀にかけて,四つ仮名と開合(オ段長音の広狭)とを正確に言い分け,また,書き分けるかどうかが,所属する社会階層の言語的指標とされた.ただし,「四つ仮名」という名称は,謡曲の伝書,『音曲玉淵集』(1727)にみえるのが古い使用例とされている(亀井孝,1974).
『(仮名文字使)蜆縮凉鼓集』(1695)は,「しじみ」「ちぢみ」「すずみ」「つづみ」を標題にしたもので,〈図〉に示す題箋にあるとおり,「しちすつ」の仮名の使い分けを明らかにした仮名遺書である.同書の解説,および,あげられた諸例からみると,語頭でもそれ以外でも,事実上,それぞれの発音の区別は失われていたと見なしてよい.天草本『平家物語』(1592)には,四つ仮名も開合も混用例が目立つのに対して,同『エソポ寓話集』(1593)に混用例がほとんど指摘できないのは,前者が,日本語の習得を目的として編纂されているのに対し,後者は,その次の学習段階として,「日本のことば稽古のたより」としてだけでなく,宣教師たちが「よき道を人に教え語るたよりともなる」ように,上品なことばで記されていることと無関係ではない.
ダ行子音は,より古い時期に,すべての母音の前で[d]であったと推定されている.しかし,それと同じ時期におけるザ行子音の音価については,複数の可能性が想定されている.したがって,どれを採るかによって合流のシナリオも微妙に違ってくるが,狭母音[i,u]の前で子音の口蓋化を生じたことが,この変化を生じた原因である.この合流が生じた結果,サ行とザ行,および,夕行とダ行との間に存在していた音韻体系の対称性が破壊され,サ行とタ行とが,濁音として[ジ][ズ]を共有することになった.
[参考文献]亀井孝(1974),「蜆縮凉鼓集を中心にみた四つがな」,『亀井孝論文集』3(吉川弘文館,東京)