(うーん…)
両面宿儺との邂逅を終え、村を後にしそう間もない頃。
ダグバは悩んでいた。
ダグバは悩んでいた。
見つめる先にはおかしな生物が一匹。
キィキィと鳴き声らしきものを絶えず発しながら、一心不乱に駆けている。
その姿はどう見てもリントではない異形。
かと言って自分達グロンギとも違う。二足歩行ですらない。
強いて似ているものを挙げるとすればゴウラムだろうか。
古代のリントによって生み出された、クウガを支援する人工生命体。
現代においても度々クウガの力となり、数体の同胞が屠られたと聞く。
尤も実際にゴウラムとあの異形を並べてみれば、全く似ていないという結果で終わるだろうが。
キィキィと鳴き声らしきものを絶えず発しながら、一心不乱に駆けている。
その姿はどう見てもリントではない異形。
かと言って自分達グロンギとも違う。二足歩行ですらない。
強いて似ているものを挙げるとすればゴウラムだろうか。
古代のリントによって生み出された、クウガを支援する人工生命体。
現代においても度々クウガの力となり、数体の同胞が屠られたと聞く。
尤も実際にゴウラムとあの異形を並べてみれば、全く似ていないという結果で終わるだろうが。
異形の姿が見えなくなってから、少し遅れて別の何者かが現れた。
今度は黒髪の少年だ。脇目も振らずに異形と同じ方向へかけて行く。
異形と少年はどちらもダグバに気付いた様子は無い。
それなりに距離が離れており、片や逃げるのに、片や追いかけるのに必死でこちらへ意識を回す余裕も無かったのだろう。
今度は黒髪の少年だ。脇目も振らずに異形と同じ方向へかけて行く。
異形と少年はどちらもダグバに気付いた様子は無い。
それなりに距離が離れており、片や逃げるのに、片や追いかけるのに必死でこちらへ意識を回す余裕も無かったのだろう。
彼らを追うか否か、それがダグバの悩みだった。
普段であればあれこれ考えずこちらから仕掛けていたが、今は南の方へ自分を楽しませてくれるだろう参加者がいるとの情報を得ている。
何より彼らの進行方向には宿儺と出会った村がある。
虫のような異形が急に方向転換して村には寄らない可能性もあるが、絶対にそうなるとも言い切れない。
もし異形と少年を追って村に戻ってしまえば、またあの少女の腹立たしいニヤケ面を拝む事になる。
ダグバからすれば、正直言って宿儺には二度と会いたくなかった。
最初に殺した少女のように逃げるだけの相手ならつまらないとは思いつつも、機嫌を損ねはしなかっただろう。
一方的に挑発を繰り返し、それでいてマトモに殺し合う気は無し。
アレと付き合っても笑顔になるどころか、ただただ不愉快になるだけ。
仮に今からでも気が変わったと本気で殺しに来るなら構わないが、そうならない事くらいダグバにも分かる。
普段であればあれこれ考えずこちらから仕掛けていたが、今は南の方へ自分を楽しませてくれるだろう参加者がいるとの情報を得ている。
何より彼らの進行方向には宿儺と出会った村がある。
虫のような異形が急に方向転換して村には寄らない可能性もあるが、絶対にそうなるとも言い切れない。
もし異形と少年を追って村に戻ってしまえば、またあの少女の腹立たしいニヤケ面を拝む事になる。
ダグバからすれば、正直言って宿儺には二度と会いたくなかった。
最初に殺した少女のように逃げるだけの相手ならつまらないとは思いつつも、機嫌を損ねはしなかっただろう。
一方的に挑発を繰り返し、それでいてマトモに殺し合う気は無し。
アレと付き合っても笑顔になるどころか、ただただ不愉快になるだけ。
仮に今からでも気が変わったと本気で殺しに来るなら構わないが、そうならない事くらいダグバにも分かる。
「今はいいかな…」
追われる虫と追う少年を見送り、結局ダグバは彼らを無視すると決めた。
あの虫達が果たして宿儺と遭遇する羽目になったらどうなるかは多少興味があっても、直接確かめたいと思う程のものでも無い。
魔法の絨毯による移動を再開、村からはどんどん離れて行く。
あの虫達が果たして宿儺と遭遇する羽目になったらどうなるかは多少興味があっても、直接確かめたいと思う程のものでも無い。
魔法の絨毯による移動を再開、村からはどんどん離れて行く。
道中誰とも会わずに真っ直ぐ南下し、辿り着いたのは流れる川のすぐ傍。
地図で言うE-5エリアの最南端にて、一度絨毯から降り大地に足を着ける。
これ以上南へ行けば禁止エリアに指定された場所へと足を踏み入れてしまう。
既に定時放送から数時間が経過している。
主催者の説明が正しければ、禁止エリアはとっくに機能している筈だ。
地図で言うE-5エリアの最南端にて、一度絨毯から降り大地に足を着ける。
これ以上南へ行けば禁止エリアに指定された場所へと足を踏み入れてしまう。
既に定時放送から数時間が経過している。
主催者の説明が正しければ、禁止エリアはとっくに機能している筈だ。
取り敢えず周囲を見回してみるが、人っ子一人見当たらない。
宿儺の情報によると、ダグバを笑顔にしてくれるだろう人物は南にいるらしい。
が、具体的にどのエリアだとか、何らかの施設にいるだとかは言って来なかった。
よくよく考えれば宿儺と件の参加者が出会ったのは、時間的に考えれば恐らく定時放送よりも前。
村を出た時は早々に宿儺から離れたいのと、無駄に不機嫌となったのを解消したくて頭を回さなかったが、とっくに南側から移動していると考える方が自然である。
宿儺の情報によると、ダグバを笑顔にしてくれるだろう人物は南にいるらしい。
が、具体的にどのエリアだとか、何らかの施設にいるだとかは言って来なかった。
よくよく考えれば宿儺と件の参加者が出会ったのは、時間的に考えれば恐らく定時放送よりも前。
村を出た時は早々に宿儺から離れたいのと、無駄に不機嫌となったのを解消したくて頭を回さなかったが、とっくに南側から移動していると考える方が自然である。
結局は無駄足かとため息を吐き、またもや宿儺へのストレスが溜まる。
本人に文句を言ったところで、「貴様が愚図なのが悪い」とあの意地の悪い笑みと共に返されるだけだとは思うが。
とはいえ何時までも傍に居ない者へ苛立った所で、それこそ時間の無駄だ。
強引に気持ちを切り替え地図を取り出す。
南にいたであろう人物が向かったと思われる場所、それでなくとも参加者が集まりそうなエリアを探してみる事にした。
本人に文句を言ったところで、「貴様が愚図なのが悪い」とあの意地の悪い笑みと共に返されるだけだとは思うが。
とはいえ何時までも傍に居ない者へ苛立った所で、それこそ時間の無駄だ。
強引に気持ちを切り替え地図を取り出す。
南にいたであろう人物が向かったと思われる場所、それでなくとも参加者が集まりそうなエリアを探してみる事にした。
まず目に付いたのは北西にある施設、葛飾署。
警察官と呼ばれるリント達の拠点、警察署と言うやつだろう。
四方を池に囲まれた街に存在する施設だが、魔法の絨毯があればわざわざ橋を渡らずとも行ける。
警察官と呼ばれるリント達の拠点、警察署と言うやつだろう。
四方を池に囲まれた街に存在する施設だが、魔法の絨毯があればわざわざ橋を渡らずとも行ける。
「ガドルが標的にしたリント達なら、ここに集まるかも」
少し前、新たな進化を遂げたクウガに倒されたゴ集団のリーダーたる同胞。
そのガドルがゲゲルの標的として命を奪ったのは、警察官と呼ばれるリント達だった。
ガドルが己の力を高め、ダグバとのザギバスゲゲルに勝利する事を最終的な目標としていたのは知っている。
故にリントの中でも戦い慣れた戦士、警察官を標的と選んだ。
警察官一人一人はグロンギと戦い勝てる力は無いが、現代のクウガと協力関係にあるらしい。
更に連中はクウガの力抜きでドルドを撃破したらしく、それにはダグバも僅かながら関心を抱いたものだ。
そういうリント達ならば多少は楽しめるのかもしれない。
そのガドルがゲゲルの標的として命を奪ったのは、警察官と呼ばれるリント達だった。
ガドルが己の力を高め、ダグバとのザギバスゲゲルに勝利する事を最終的な目標としていたのは知っている。
故にリントの中でも戦い慣れた戦士、警察官を標的と選んだ。
警察官一人一人はグロンギと戦い勝てる力は無いが、現代のクウガと協力関係にあるらしい。
更に連中はクウガの力抜きでドルドを撃破したらしく、それにはダグバも僅かながら関心を抱いたものだ。
そういうリント達ならば多少は楽しめるのかもしれない。
「でもやっぱりこっちかな」
暫し迷った末にダグバは葛飾署ではなく、北東にある街を目的地として選んだ。
理由は至って単純、こちらの方が地図に載っている施設の数が多いから。
施設が多いと言う事は、その分発見した参加者がいるということ。
それに街には必然的に人が集まるもの。
流石に誰とも会えない、何て事はもう無いだろうと再び絨毯に乗り込んだ。
理由は至って単純、こちらの方が地図に載っている施設の数が多いから。
施設が多いと言う事は、その分発見した参加者がいるということ。
それに街には必然的に人が集まるもの。
流石に誰とも会えない、何て事はもう無いだろうと再び絨毯に乗り込んだ。
街へ行く前、一応念の為にとE-6の草原地帯へ寄ってみたがやはり収穫は無し。
尤もダグバが草原を探索している間、E-5にて風都タワーへ向かった一団が合流の目印に晶術を使ったのだが、本人は知らない。
見事にすれ違った結果である。
寄り道を挟みつつも街へ到着したダグバが最初に見つけたのは、少女の死体。
首から上は離れた位置に転がっており、虚ろな顔と目が合った。
自分の肉体となった少女と同じか、少し年下に見える外見。
そう言えば放送で発表された死者の中に、同じ外見の画像があったような気がする。
さして興味も無かったのでうろ覚えだが。
尤もダグバが草原を探索している間、E-5にて風都タワーへ向かった一団が合流の目印に晶術を使ったのだが、本人は知らない。
見事にすれ違った結果である。
寄り道を挟みつつも街へ到着したダグバが最初に見つけたのは、少女の死体。
首から上は離れた位置に転がっており、虚ろな顔と目が合った。
自分の肉体となった少女と同じか、少し年下に見える外見。
そう言えば放送で発表された死者の中に、同じ外見の画像があったような気がする。
さして興味も無かったのでうろ覚えだが。
死体の傍にデイパックは無く、首輪も持ち去られていた。
支給品はともかく何故首輪まで取ったのだろうか。
戦利品のつもりで集めているのかも。そんなどうでもいい事を考えつつ、地図にあった施設に行ってみようかと振り返り、
支給品はともかく何故首輪まで取ったのだろうか。
戦利品のつもりで集めているのかも。そんなどうでもいい事を考えつつ、地図にあった施設に行ってみようかと振り返り、
「ん?」
青褪めながら走る青年の姿が視界に映った。
○○○
私、どうなったんだっけ。
確か斬られて、地面に落っこちて…。
ああ、ヘマしちゃったなぁ。無茶しておいてこの様なんて、操真にも申し訳ないよ。
確か斬られて、地面に落っこちて…。
ああ、ヘマしちゃったなぁ。無茶しておいてこの様なんて、操真にも申し訳ないよ。
…うん、でも反省は全部終わってからだよね。
立って戦わないと。宮藤っぽい言い方をすれば、私が皆を守らないと、だね。
立って戦わないと。宮藤っぽい言い方をすれば、私が皆を守らないと、だね。
『ああああああああ!!』
この声…ロビン!?
まさか私が倒れてる間、マズい事になっちゃったの!?
待ってて!すぐに行くから!
まさか私が倒れてる間、マズい事になっちゃったの!?
待ってて!すぐに行くから!
『やめろ…!やめてくれハルトマン…!!』
え?
急に何言い出すのさ伊藤。
止めなきゃならないのは私じゃなくて、ロビンを襲ってる奴で……
あれ、今ロビンを痛めつけてるのって…
急に何言い出すのさ伊藤。
止めなきゃならないのは私じゃなくて、ロビンを襲ってる奴で……
あれ、今ロビンを痛めつけてるのって…
『あっ、あがっ、あぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!!?!』
い、伊藤!?
な、何?何が起きてるの?誰に攻撃されてるの!?
…ちょっと待って。何か、おかしい。
伊藤を掴んでるこの腕、誰の?
な、何?何が起きてるの?誰に攻撃されてるの!?
…ちょっと待って。何か、おかしい。
伊藤を掴んでるこの腕、誰の?
『やめろって言ってんだろ!バカヤロウがあああああああっ!!』
え、え?ゲンガー…?
どうして、どうして私を斬るのさ…。
待って、待ってよ。だってこれじゃ、まるで私が……。
どうして、どうして私を斬るのさ…。
待って、待ってよ。だってこれじゃ、まるで私が……。
『テメェェェッ!何してくれてんだぁぁぁっ!』
こ、今度は何?
…えっ?あの燃えてるのって、ロビン…?
あ、あれ?あれ?私さっき何したんだっけ?
おかしい、おかしいよ。だって私は皆を守ろうと……
…えっ?あの燃えてるのって、ロビン…?
あ、あれ?あれ?私さっき何したんだっけ?
おかしい、おかしいよ。だって私は皆を守ろうと……
………………うそ、嘘だよ…。
こんな、こんなの……。
こんな、こんなの……。
誰か、嘘だって言ってよ。
○
「っあああああああああ!!!」
「うおっ!?」
「うおっ!?」
微睡の中にいたゲンガーの意識は急速に引き上げられた。
何時の間にか眠っていたらしい。
思い返せばバトルロワイアルが始まってから一睡もしていないのだ。
知らず知らずの内に疲れが溜まっていたのだろう。
何時の間にか眠っていたらしい。
思い返せばバトルロワイアルが始まってから一睡もしていないのだ。
知らず知らずの内に疲れが溜まっていたのだろう。
何かの夢を見ていた気がするが、どんな内容だったかは忘却の彼方だ。
良い夢か悪い夢だったかも定かではない。
だが曖昧な夢など現実の光景の前にはどうだっていいこと。
目を見開き上体を撥ね起こした青年が、荒い呼吸を繰り返している。
良い夢か悪い夢だったかも定かではない。
だが曖昧な夢など現実の光景の前にはどうだっていいこと。
目を見開き上体を撥ね起こした青年が、荒い呼吸を繰り返している。
「ハ、ハルトマン…?起きたのか?」
自分で聞いておきながら、当たり前だろと内心で呆れる。
彼女はあくまで気を失っていただけだ。死んでないのだから、いずれは目を覚ますに決まっている。
その瞬間が今やって来ただけであり、しかし手放しには喜べない事情がゲンガーにはあった。
彼女はあくまで気を失っていただけだ。死んでないのだから、いずれは目を覚ますに決まっている。
その瞬間が今やって来ただけであり、しかし手放しには喜べない事情がゲンガーにはあった。
「ケケッ!目を覚まさねぇからよ、ちょいと不安になっちまったんだぜ?
おっ、そうだそうだ。今俺らがいるのは確か…食酒亭だか何だかって場所で…」
おっ、そうだそうだ。今俺らがいるのは確か…食酒亭だか何だかって場所で…」
我ながらあからさま過ぎるとは思う。
触れて欲しくない話を露骨に避けているのだから。
触れて欲しくない話を露骨に避けているのだから。
「ゲンガー」
だからそう、こうして重苦しく呼ばれれば話を止めるしかない。
無理矢理明るく振舞っていた自分が馬鹿に思えるくらい、真剣な瞳をぶつけられる。
その目を見ただけで、彼女が何を聞く気なのかはすぐに分かってしまう。
無理矢理明るく振舞っていた自分が馬鹿に思えるくらい、真剣な瞳をぶつけられる。
その目を見ただけで、彼女が何を聞く気なのかはすぐに分かってしまう。
「ロビンと伊藤は、どこ?」
そら来た、どう誤魔化した所でこの質問をされないはずが無いのだ。
だが質問が来ると分かっているのと、それに答えられるかは別。
口を開きかけ、何と言うべきか分からずゲンガーは目を泳がせる。
自分自身の反応に、馬鹿かよと内心で悪態を吐く。
これではカイジとロビンがどうなったのか、言葉にせずとも態度で丸分かりだろうと。
案の定、ハルトマンにもカイジ達がどうなったか分かったらしく俯いてしまった。
だが質問が来ると分かっているのと、それに答えられるかは別。
口を開きかけ、何と言うべきか分からずゲンガーは目を泳がせる。
自分自身の反応に、馬鹿かよと内心で悪態を吐く。
これではカイジとロビンがどうなったのか、言葉にせずとも態度で丸分かりだろうと。
案の定、ハルトマンにもカイジ達がどうなったか分かったらしく俯いてしまった。
「あのさ…」
ゲンガーの顔を見ずに、というより見れずにハルトマンは言葉を紡ぐ。
もう一つ、どうしても確認しておかねばならない事がある。
もう一つ、どうしても確認しておかねばならない事がある。
「私が、殺したの?」
「っ!!ちが――」
「っ!!ちが――」
う、そのたった一文字を口に出来たら。
ハルトマンの言葉を否定してやれたらどんなに良かったことか。
ここで嘘を伝えたとしてもハルトマンがカイジを殺している以上、次の定時放送後に精神と身体の組み合わせを記載した名簿が配られる。
名簿を手に入れる資格があるのは参加者を殺した者のみ。
今真実を伝えなくとも名簿が手元に来れば、ハルトマンが殺人を犯したという証明になってしまう。
先にゲンガーの口から伝えるか、定時放送後に名簿を寄越され事実を知るか。
しかし明確に何があったかを説明する手間は省けたらしい。
ゲンガーの様子だけで、自分が何をしたのかを理解してしまったのだから。
ハルトマンの言葉を否定してやれたらどんなに良かったことか。
ここで嘘を伝えたとしてもハルトマンがカイジを殺している以上、次の定時放送後に精神と身体の組み合わせを記載した名簿が配られる。
名簿を手に入れる資格があるのは参加者を殺した者のみ。
今真実を伝えなくとも名簿が手元に来れば、ハルトマンが殺人を犯したという証明になってしまう。
先にゲンガーの口から伝えるか、定時放送後に名簿を寄越され事実を知るか。
しかし明確に何があったかを説明する手間は省けたらしい。
ゲンガーの様子だけで、自分が何をしたのかを理解してしまったのだから。
「――っ!!!」
ベッドから立ち上がると乱暴にドアを開け出て行く。
背中にぶつけられる静止の声も、足を止める効果は無い。
衝動のままに食酒亭を飛び出した。
行き先など決めていない。じっとしていては罪悪感に圧し潰されそうだ。
背中にぶつけられる静止の声も、足を止める効果は無い。
衝動のままに食酒亭を飛び出した。
行き先など決めていない。じっとしていては罪悪感に圧し潰されそうだ。
(私が、殺した…。殺したんだ…!)
人の死に慣れていないという訳ではない。
ウィッチとネウロイとの間で行われるのは戦争だ。
守るべき民間人への被害を防げなかった事例もあるし、祖国の大地を二度と踏めずに空で果てるウィッチだって珍しくない。
だがハルトマンが手に掛けたのはネウロイでもなければ、ファントムでもなく、救い難い悪党ですらない。
仲間だ。共有した時間は僅かでも、共に生きて殺し合いの阻止を誓った同志である。
ロビンを殺したのはチェンソーの悪魔だが、彼女が死ぬ原因を作ったのは紛れも無くハルトマンだ。
確かロビンには同じ船に乗って冒険する仲間がいたと聞く。
彼らと一緒に冒険する未来を、自分が奪ってしまった。
カイジだってそう。あの絶叫がこびりついたように耳から離れてくれない。
ウィッチとネウロイとの間で行われるのは戦争だ。
守るべき民間人への被害を防げなかった事例もあるし、祖国の大地を二度と踏めずに空で果てるウィッチだって珍しくない。
だがハルトマンが手に掛けたのはネウロイでもなければ、ファントムでもなく、救い難い悪党ですらない。
仲間だ。共有した時間は僅かでも、共に生きて殺し合いの阻止を誓った同志である。
ロビンを殺したのはチェンソーの悪魔だが、彼女が死ぬ原因を作ったのは紛れも無くハルトマンだ。
確かロビンには同じ船に乗って冒険する仲間がいたと聞く。
彼らと一緒に冒険する未来を、自分が奪ってしまった。
カイジだってそう。あの絶叫がこびりついたように耳から離れてくれない。
「あっ…」
足元が不注意になっていたのか、もつれさせて転倒する。
じんじんとした痛みなど気にもならない。
こんな痛みなど、カイジとロビンが受けた苦痛に比べたら鼻で笑われるレベルだ。
じんじんとした痛みなど気にもならない。
こんな痛みなど、カイジとロビンが受けた苦痛に比べたら鼻で笑われるレベルだ。
「何してんだろ…私……」
仲間を殺した挙句に逃亡とは。軍法会議物の大失態ではないか。
自嘲しようにも口元がちゃんと動いてくれない。
一度止まってしまえば、墨をぶちまけたように心が黒く染まり出す。
ああ、ああ、自分は一体……。
自嘲しようにも口元がちゃんと動いてくれない。
一度止まってしまえば、墨をぶちまけたように心が黒く染まり出す。
ああ、ああ、自分は一体……。
だが忘れるなかれ。ここは殺し合いの会場。
ハルトマン一人ぼっちの空間などでは無い故に、事態は彼女の胸中を無視してでも進んで行く。
ハルトマン一人ぼっちの空間などでは無い故に、事態は彼女の胸中を無視してでも進んで行く。
「ねぇ」
力無く顔を上げた視線の先、一人の少女が立っていた。
髪色は黒ではないけれど、顔立ちから扶桑の出身に見える。
じっとこちらを見つめる姿に、警戒させてしまったかもしれないと思う。
当たり前だ。殺し合いという状況で錯乱したように走り回っていれば、何かあったと考えるのは普通のこと。
やらかしたなぁとぼんやり考えるハルトマンへ、少女は小首を傾げて尋ねる。
髪色は黒ではないけれど、顔立ちから扶桑の出身に見える。
じっとこちらを見つめる姿に、警戒させてしまったかもしれないと思う。
当たり前だ。殺し合いという状況で錯乱したように走り回っていれば、何かあったと考えるのは普通のこと。
やらかしたなぁとぼんやり考えるハルトマンへ、少女は小首を傾げて尋ねる。
「君が、僕を笑顔にしてくれるの?」
「…え?」
「…え?」
言っている意味が分からず、つい聞き返す。
笑顔、笑顔と言ったかこの少女は。
どうしてこの状況で笑いを求めて来るのか、全く理解が及ばない。
まさか自分をコメディアンとでも思っているのだろうか。
笑顔、笑顔と言ったかこの少女は。
どうしてこの状況で笑いを求めて来るのか、全く理解が及ばない。
まさか自分をコメディアンとでも思っているのだろうか。
困惑するハルトマンを尻目に、少女は「まぁいいや」と勝手に納得する。
何が良いのかも少女が何をしたいのかもさっぱりだが、相手が取り出した物を見た瞬間に些細な疑問は吹き飛んだ。
何が良いのかも少女が何をしたいのかもさっぱりだが、相手が取り出した物を見た瞬間に些細な疑問は吹き飛んだ。
『メロンエナジー!』
「なっ!?」
奇妙な音声を発する錠前。
何時の間にか腹部に巻き付けられた、赤いベルトらしき物。
ハルトマンの驚愕を余所に、少女は慣れた手付きで錠前を填め込んだ。
何時の間にか腹部に巻き付けられた、赤いベルトらしき物。
ハルトマンの驚愕を余所に、少女は慣れた手付きで錠前を填め込んだ。
「変身」
『ロックオン!ソーダ!』
『メロンエナジーアームズ!』
左右のレバーを引くと、バックル中央部に液体が充填される。
ロックシードのエネルギーをゲネシスドライバーが解放した合図だ。
白い下地のライドウェアが全身を覆い、メロンを模した胸部装甲を装着。
新世代ライダー専用ウェポン、ソニックアローを右手に持つその武者の名はアーマードライダー斬月・真。
呉島兄弟が変身し混乱を引き起こした姿である。
ロックシードのエネルギーをゲネシスドライバーが解放した合図だ。
白い下地のライドウェアが全身を覆い、メロンを模した胸部装甲を装着。
新世代ライダー専用ウェポン、ソニックアローを右手に持つその武者の名はアーマードライダー斬月・真。
呉島兄弟が変身し混乱を引き起こした姿である。
「仮面ライダー…!?」
変身した姿の名称をハルトマンは知らない。
だからそう呼ぶも、少女が使ったのは錠前。ウィザードの指輪とは別物だ。
加えてベルトの形状も全く似ていない。
違う思い出せ。確か仮面ライダーとは晴人のみでは無かったはず。
詳細な情報こそ不明だが他にも多くの仮面ライダーと共闘したと、プロフィールにあったではないか。
それに康一が持っていたベルトだって晴人のと違っていたが、仮面ライダーに変身する為の物だった。
だからそう呼ぶも、少女が使ったのは錠前。ウィザードの指輪とは別物だ。
加えてベルトの形状も全く似ていない。
違う思い出せ。確か仮面ライダーとは晴人のみでは無かったはず。
詳細な情報こそ不明だが他にも多くの仮面ライダーと共闘したと、プロフィールにあったではないか。
それに康一が持っていたベルトだって晴人のと違っていたが、仮面ライダーに変身する為の物だった。
他の仮面ライダーはこういう見た目なんだ、と呑気に眺めている場合ではない。
少女は自己紹介すら無しに変身し、あからさまに殺気をぶつけて来ている。
今分かっているのは、仮面ライダーの力を持った危険人物に目を付けられてしまったという事。
ならばこちらも相応の対処をしなくては。
少女は自己紹介すら無しに変身し、あからさまに殺気をぶつけて来ている。
今分かっているのは、仮面ライダーの力を持った危険人物に目を付けられてしまったという事。
ならばこちらも相応の対処をしなくては。
『ドライバーオン』
指輪を填めた手を腹部に当て、ウィザードライバーを出現させる。
向こうがライダーの力を振るうのなら、こっちも変身するまで。
向こうがライダーの力を振るうのなら、こっちも変身するまで。
「へぇ…」
ハルトマンが何をする気なのか分かったらしく、楽し気な声を出す少女。
生憎ハルトマンからしたら何も楽しくない。
喧しいくらいに待機音声が鳴り続ける中、この地で二度目の変身を
生憎ハルトマンからしたら何も楽しくない。
喧しいくらいに待機音声が鳴り続ける中、この地で二度目の変身を
「――ッ」
果たそうとした寸前で、動きが止まった。
もう一度ハンドオーサーに指輪を翳す。
たったそれだけの動作が行えない。
脳裏にへばりつく仲間の最期が、耳にこびりつく絶叫が、ハルトマンから戦意を奪い去る。
もう一度ハンドオーサーに指輪を翳す。
たったそれだけの動作が行えない。
脳裏にへばりつく仲間の最期が、耳にこびりつく絶叫が、ハルトマンから戦意を奪い去る。
「どうしたの?早くしてよ」
こちらの事情を知らずに少女が急かす。
言われなくとも変身するつもりだ。その筈なのに、身体は動いてくれない。
言われなくとも変身するつもりだ。その筈なのに、身体は動いてくれない。
「私、は……」
キン、と音がした。
金属同士がぶつかったような音だ。
少女が纏う装甲に、何者かが斬り掛かったのが原因。
金属同士がぶつかったような音だ。
少女が纏う装甲に、何者かが斬り掛かったのが原因。
「ケケッ!俺が相手してやらぁ!」
刀を手にした少年が威勢よく吼える。
霧のように全身を揺らめかせる様は、まるでこの世に留まる悪霊のよう。
ハルトマンに追いついた先で、変身もせずに立ち尽くしている姿からただ事で無いと察したゲンガーだ。
近くの物陰に身体を隠して能力を発動、幽体となり刀を振るった。
緑の装甲に傷は無し。数時間前に相手したロボットに負けず劣らずの硬さ。
生身で刀を握っていれば痺れが来たかもしれないが、幽体故に無問題。
霧のように全身を揺らめかせる様は、まるでこの世に留まる悪霊のよう。
ハルトマンに追いついた先で、変身もせずに立ち尽くしている姿からただ事で無いと察したゲンガーだ。
近くの物陰に身体を隠して能力を発動、幽体となり刀を振るった。
緑の装甲に傷は無し。数時間前に相手したロボットに負けず劣らずの硬さ。
生身で刀を握っていれば痺れが来たかもしれないが、幽体故に無問題。
(クソッ!こんな時に襲って来るんじゃねぇよ!)
内心で悪態を吐くも、表面では不敵な笑みを崩さない。
ハルトマンが戦えるような精神状態でないなら、自分がどうにかする他ないのだ。
しんのすけとミチルが戻って来るのを悠長に待っていられない。
勝算などロクに無いが、今はとにかくこいつをハルトマン引き離す。
それしかないだろう。
ハルトマンが戦えるような精神状態でないなら、自分がどうにかする他ないのだ。
しんのすけとミチルが戻って来るのを悠長に待っていられない。
勝算などロクに無いが、今はとにかくこいつをハルトマン引き離す。
それしかないだろう。
「ふぅん…」
幽体という珍しい存在が現れたからか、相手の興味も一旦はハルトマンからゲンガーに移ったようだ。
ならばゲンガーにとっては好都合。
挑発するように手招きのポーズを取った。
ならばゲンガーにとっては好都合。
挑発するように手招きのポーズを取った。
「ケケッ!かかって来やがれ!」
○
幽体化したゲンガーを相手取り、どれくらい経過しただろうか。
ダグバの内心はとうに冷え切っていた。
単純につまらないのだ。
向こうが必死に攻撃してもアーマードライダーの装甲には効果が無く、こちらの攻撃も全てすり抜ける。
ハッキリ言って宿儺を相手にした時とどっこいどっこいである。
宿儺の時程苛立ちはしないのが唯一の救い(と言うのもおかしな表現だが)だろうか。
ダグバの内心はとうに冷え切っていた。
単純につまらないのだ。
向こうが必死に攻撃してもアーマードライダーの装甲には効果が無く、こちらの攻撃も全てすり抜ける。
ハッキリ言って宿儺を相手にした時とどっこいどっこいである。
宿儺の時程苛立ちはしないのが唯一の救い(と言うのもおかしな表現だが)だろうか。
ハルトマンがベルトを出現させた時は、ようやく自分を笑顔にしてくれるらしい人物と出会え期待が高まった。
或いは宿儺が言っていたのとは別の人物の可能性もあるが、この際どちらでもいい。
だがどうした事か相手は一向に変身せず、代わりに現れたのは幽霊のような少年、ゲンガー。
少々肩透かしを食らった感はあったがこれはこれで興味があった為、標的をゲンガーへと変更。
尤もその興味は早々に薄れてしまったが。
或いは宿儺が言っていたのとは別の人物の可能性もあるが、この際どちらでもいい。
だがどうした事か相手は一向に変身せず、代わりに現れたのは幽霊のような少年、ゲンガー。
少々肩透かしを食らった感はあったがこれはこれで興味があった為、標的をゲンガーへと変更。
尤もその興味は早々に薄れてしまったが。
銃弾が幾つも装甲へ命中し、その度に甲高い音が鳴る。
カイジの遺品である拳銃を連射するゲンガーへ、斬月・真は避ける素振りすら見せない。
同じく戦極凌馬が開発した兵器ならまだしも、ただの拳銃程度ではアーマードライダーに傷一つ付けられなかった。
やがて弾を全て撃ち尽くしたのか、トリガーを引いてもカチカチと乾いた音のみが出るだけ。
カイジの遺品である拳銃を連射するゲンガーへ、斬月・真は避ける素振りすら見せない。
同じく戦極凌馬が開発した兵器ならまだしも、ただの拳銃程度ではアーマードライダーに傷一つ付けられなかった。
やがて弾を全て撃ち尽くしたのか、トリガーを引いてもカチカチと乾いた音のみが出るだけ。
「クソッ!」
銃は使い物にならなくなっても、武器はまだ他にある。
ミチルから譲渡された支給品の一つ、月に触れるを取り出し操作。
元はボンドルドの武装であったが、此度は誰でも使いこなせるよう調整が施されている。
筒から粘液のような黒い触手が飛び出し、標的を絡め取らんと襲い掛かった。
ミチルから譲渡された支給品の一つ、月に触れるを取り出し操作。
元はボンドルドの武装であったが、此度は誰でも使いこなせるよう調整が施されている。
筒から粘液のような黒い触手が飛び出し、標的を絡め取らんと襲い掛かった。
『メロンエナジースカッシュ!』
斬月・真は慌てずにロックシードをソニックアローへ装填。
シャフト部に備わった刃へエネルギーが流れ込む。
剣のように振り回せば、緑色のエネルギーが刃状へ変化し黒い触手を切り裂く。
それだけでは終わらない。
月に触れるを操作した幽体のゲンガーをすり抜け、背後の建物を破壊する。
シャフト部に備わった刃へエネルギーが流れ込む。
剣のように振り回せば、緑色のエネルギーが刃状へ変化し黒い触手を切り裂く。
それだけでは終わらない。
月に触れるを操作した幽体のゲンガーをすり抜け、背後の建物を破壊する。
「げっ!?」
焦りを隠さずに振り返るゲンガー。
自分へのダメージは皆無だというのに、何故そんな反応をするのか。
訝し気に思った斬月・真がゲンガーと同じ方へ視線をやれば、その理由が分かった。
建物が破壊された事で物陰に座り込んだ人物、鶴見川レンタロウの肉体がここから丸見えとなっていたのだ。
自分へのダメージは皆無だというのに、何故そんな反応をするのか。
訝し気に思った斬月・真がゲンガーと同じ方へ視線をやれば、その理由が分かった。
建物が破壊された事で物陰に座り込んだ人物、鶴見川レンタロウの肉体がここから丸見えとなっていたのだ。
これまでの戦いでゲンガーは幽体離脱を行う際、肉体は戦場から出来るだけ離れた位置へ置いて来た。
しかし今回はハルトマンを追いかけていた為、わざわざ安全そうな場所まで移動し幽体離脱をする暇が無かった。
だから近くの物陰で行うしかなかったのだ。
しかし今回はハルトマンを追いかけていた為、わざわざ安全そうな場所まで移動し幽体離脱をする暇が無かった。
だから近くの物陰で行うしかなかったのだ。
「……」
相手の慌てようからして、あの身動ぎもしない肉体を発見されるのは相当マズいらしい。
ならアレを攻撃すれば、この幽霊のような少年へ攻撃が通るのではないか。
そう推測した斬月・真は、次いでチラリとハルトマンを見やる。
ベルトこそ出現しているが、相変わらず変身を行う気配は無し。
このままでは自分は笑顔になんてなれない、どうしようかと考え、
ならアレを攻撃すれば、この幽霊のような少年へ攻撃が通るのではないか。
そう推測した斬月・真は、次いでチラリとハルトマンを見やる。
ベルトこそ出現しているが、相変わらず変身を行う気配は無し。
このままでは自分は笑顔になんてなれない、どうしようかと考え、
(……あ)
一つ思い浮かんだ。
と言ってもそう複雑なものではなく、シンプル極まりない方法。
ダグバの案は実に単純、先にゲンガーを殺せばハルトマンも怒りで戦う気になるかもしれない、というもの。
以前、ジャラジのゲゲルに激怒したクウガは、彼へ凄惨極まりない攻撃を与え殺したのだと言う。
ならそれと同じように相手の怒りを引き出してやれば、こちらを殺しに向かってくるかもしれない。
そうと決まれば早速行動に移す。レンタロウの身体の元へ近づいて行った。
と言ってもそう複雑なものではなく、シンプル極まりない方法。
ダグバの案は実に単純、先にゲンガーを殺せばハルトマンも怒りで戦う気になるかもしれない、というもの。
以前、ジャラジのゲゲルに激怒したクウガは、彼へ凄惨極まりない攻撃を与え殺したのだと言う。
ならそれと同じように相手の怒りを引き出してやれば、こちらを殺しに向かってくるかもしれない。
そうと決まれば早速行動に移す。レンタロウの身体の元へ近づいて行った。
「止まれ!止まれってんだよ!」
させじと斬月・真へゲンガーは刀を振るう。
幽体離脱の弱点は元の肉体が完全に無防備となってしまう事。
近寄らせまいとするゲンガーの猛攻は、斬月・真を止めるに至らない。
実体が無い故に無敵とも言える防御性を持つが、攻撃面では常人の域を出なかった。
幽体離脱の弱点は元の肉体が完全に無防備となってしまう事。
近寄らせまいとするゲンガーの猛攻は、斬月・真を止めるに至らない。
実体が無い故に無敵とも言える防御性を持つが、攻撃面では常人の域を出なかった。
「ゲンガー……!」
仲間が絶体絶命の危機を迎えている。
それが分かってもハルトマンは動けない。
何とかしたいのは山々なのに、斬月・真を止めようとすると身体が震え出すのだ。
今も心を蝕み続ける、カイジとロビンの最期。
自分の犯した罪が足枷となり、ハルトマンの動きを封じている。
それが分かってもハルトマンは動けない。
何とかしたいのは山々なのに、斬月・真を止めようとすると身体が震え出すのだ。
今も心を蝕み続ける、カイジとロビンの最期。
自分の犯した罪が足枷となり、ハルトマンの動きを封じている。
「くっ…!」
確かに自分は許されない事をしでかした。
でも今はゲンガーを助けに行くべきだろう。
罪に圧し潰されている場合か?
自分自身へ喝を入れてみても、身体は一向に言う事を聞いてくれない。
でも今はゲンガーを助けに行くべきだろう。
罪に圧し潰されている場合か?
自分自身へ喝を入れてみても、身体は一向に言う事を聞いてくれない。
「くぅ……!」
そうこうしている間にも、ゲンガーが危ないと言うのに。
仲間の命が奪われそうになっているのにこの体たらく。
情けないにも程がある。
己への怒りと悔しさで、何時の間にやら視界が滲み出した。
仲間の命が奪われそうになっているのにこの体たらく。
情けないにも程がある。
己への怒りと悔しさで、何時の間にやら視界が滲み出した。
「ッ、ハッ、グゥ…!?」
変化はそれだけでない。
胸が苦しく、呼吸もままならなくなる。
彼女は気付いているだろうか。自分の身体が、徐々にひび割れている事に。
胸が苦しく、呼吸もままならなくなる。
彼女は気付いているだろうか。自分の身体が、徐々にひび割れている事に。
「ハァ、ハァ、ま、さか……」
唐突な苦痛に思い当たる理由は一つ。
操真晴人の肉体だからこそ起こりえる、最悪の事態。
ゲートである人間の絶望がトリガーとなる、ファントムの誕生。
晴人はゲートでありながら己の意思でファントムを自らの精神、アンダーワールドへ閉じ込めた為魔法使いの資格を得た。
だがそれは、晴人が二度とファントムにはならないという事では無い。
もし晴人が完全な絶望に堕ちた場合、今度こそ本当にファントムを生み出してしまう。
操真晴人の肉体だからこそ起こりえる、最悪の事態。
ゲートである人間の絶望がトリガーとなる、ファントムの誕生。
晴人はゲートでありながら己の意思でファントムを自らの精神、アンダーワールドへ閉じ込めた為魔法使いの資格を得た。
だがそれは、晴人が二度とファントムにはならないという事では無い。
もし晴人が完全な絶望に堕ちた場合、今度こそ本当にファントムを生み出してしまう。
「そ、んな……」
肉体がゲートならば、精神が別人であってもファントムが生まれてしまうのか。
愕然とするハルトマンの身体から力が抜けて行く。
仲間を殺しただけでは飽き足らず、危険な怪物となりもっと大勢を手に掛ける。
ハルトマンが望まずとも、現実にファントムが今か今かと姿を現わそうとしていた。
愕然とするハルトマンの身体から力が抜けて行く。
仲間を殺しただけでは飽き足らず、危険な怪物となりもっと大勢を手に掛ける。
ハルトマンが望まずとも、現実にファントムが今か今かと姿を現わそうとしていた。
「わ…た…し……」
魔女から最悪の怪物へ。
それが、そんなものが自分の末路――
それが、そんなものが自分の末路――
「…………違う」
否定する。
か細い声で、されどれっきとした己の意思で以て、
絶望に堕ちる最期になどしてたまるかと、言ってのける。
か細い声で、されどれっきとした己の意思で以て、
絶望に堕ちる最期になどしてたまるかと、言ってのける。
「私がやったのは…許されるものじゃないけどさ……」
ロビンを痛めつけた、カイジを殺した。
紛れも無い事実だ。言い訳なんてしないし、する気も無い。
紛れも無い事実だ。言い訳なんてしないし、する気も無い。
「操真を巻き込んで、絶望しちゃうのは違うよね」
だがそれらは全てハルトマンの罪だ。
肉体の持ち主である、操真晴人の罪ではない。
ハルトマンの絶望に晴人を巻き込んで良い理由など一つも無い。
肉体の持ち主である、操真晴人の罪ではない。
ハルトマンの絶望に晴人を巻き込んで良い理由など一つも無い。
「ごめん操真、アンタはまだ生きなきゃならないもんね」
彼の命を、自分のせいで失わせる訳にはいかない。
彼の旅を、殺し合いなんかで終わらせて良い筈がない。
彼の旅を、殺し合いなんかで終わらせて良い筈がない。
仲間を殺した罪悪感は健在だ。
だが後悔に沈むのも、責め苦を受けるのも後で纏めて背負ってやる。
今はどうしてもやらねばならない事がある。
お人好しの魔法使いへ身体を無事に返してやる、仲間を殺した自分を見捨てなかった少年を守る。
その為には、絶望なんかしている暇は無い。
だが後悔に沈むのも、責め苦を受けるのも後で纏めて背負ってやる。
今はどうしてもやらねばならない事がある。
お人好しの魔法使いへ身体を無事に返してやる、仲間を殺した自分を見捨てなかった少年を守る。
その為には、絶望なんかしている暇は無い。
気が付けば息苦しさも体中を駆け巡ったひび割れも、最初から無かったかのように消えていた。
今度はいける。ちゃんと戦える。
根拠は無いけど確信はあって、仲間を傷付ける敵の元へ力強く踏み出せた。
今度はいける。ちゃんと戦える。
根拠は無いけど確信はあって、仲間を傷付ける敵の元へ力強く踏み出せた。
「おーっと、それ以上は行かせないよ!」
快活な声にゆっくりと斬月・真が振り返る。
どうにか止めようとしていたゲンガーも同様だ。
今にも死にそうな顔をしていた青年が、不敵な笑みを浮かべる姿に恐る恐る問い掛けた。
どうにか止めようとしていたゲンガーも同様だ。
今にも死にそうな顔をしていた青年が、不敵な笑みを浮かべる姿に恐る恐る問い掛けた。
「ハルトマン、お前……」
「面倒かけてごめんね、ゲンガー。こっからは私に任せて」
「面倒かけてごめんね、ゲンガー。こっからは私に任せて」
さっきまでとは別人のような佇まいに、思わず肩の力を落とす。
どうやら彼女は自力で立ち直ったらしい。
結局自分は気の利いた言葉一つ掛けてやれず、役に立たなかった。
何ともまぁ情けなくて、乾いた笑いが浮かんだ。
ただハルトマンが戦意を取り戻したのなら、一つだけやれる事がある。
どうやら彼女は自力で立ち直ったらしい。
結局自分は気の利いた言葉一つ掛けてやれず、役に立たなかった。
何ともまぁ情けなくて、乾いた笑いが浮かんだ。
ただハルトマンが戦意を取り戻したのなら、一つだけやれる事がある。
「使えハルトマン!」
ミチルから譲渡された、吉良吉影の支給品。
内の一つにあった、ハルトマンの手元にあってこそ真価を発揮する道具。
投げ渡されたソレをキャッチし、頷き返す。
これなら負ける気はしない。
内の一つにあった、ハルトマンの手元にあってこそ真価を発揮する道具。
投げ渡されたソレをキャッチし、頷き返す。
これなら負ける気はしない。
『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』
「変身!」
『ハリケーン!ドラゴン!ビュービュー!ビュービュービュビュー!!』
緑色の魔法陣を潜り抜けたハルトマンは、指輪の魔法使いへ姿を変える。
チェンソーの悪魔の時のも見せたハリケーンスタイルのウィザード。
此度は前回とは一味違った。
装甲はより豪奢で堅牢と化し、額や両耳にあしらわれるのは眩い輝きの魔法石。
宝石のような頭部には竜のヒゲをモチーフとした装飾、エクスドラゴロッドが盛り込まれている。
チェンソーの悪魔の時のも見せたハリケーンスタイルのウィザード。
此度は前回とは一味違った。
装甲はより豪奢で堅牢と化し、額や両耳にあしらわれるのは眩い輝きの魔法石。
宝石のような頭部には竜のヒゲをモチーフとした装飾、エクスドラゴロッドが盛り込まれている。
仮面ライダーウィザード・ハリケーンドラゴン。
輪島繁が新しく加工した指輪により変身する、ウィザードの強化形態の一つ。
通常形態よりも派手な外見だが、見掛け倒しでは無い。
証明するべくウィザーソードガンを構える。
輪島繁が新しく加工した指輪により変身する、ウィザードの強化形態の一つ。
通常形態よりも派手な外見だが、見掛け倒しでは無い。
証明するべくウィザーソードガンを構える。
「やっとその気になったんだね」
長々と待たされたが、ようやく楽しめそうな相手が現れた。
期待を込めてソニックアローを引き絞り矢を放つ。
一直線に向かって行く鋭利なエネルギーは、一般的な矢と比べ威力も速度も段違い。
戦極ドライバーを用いたアーマードライダー達ですら、対処に手を焼いた程だ。
期待を込めてソニックアローを引き絞り矢を放つ。
一直線に向かって行く鋭利なエネルギーは、一般的な矢と比べ威力も速度も段違い。
戦極ドライバーを用いたアーマードライダー達ですら、対処に手を焼いた程だ。
「せやっ!」
強化形態のウィザードにとっては、何ら問題ない。
迫り来る矢を真っ向から斬り落とす。
たった一度の攻撃のみで終わらせる斬月・真ではない。
間髪入れずに引き絞り、次々に矢を発射する。
狙うは急所、装甲に守られているとはいえ当たればダメージゼロとはいかないだろう。
当たらなければ意味のない話だ。
最初の一発と同じように斬り落とすか、或いは僅かに体を逸らして回避。
迫り来る矢を真っ向から斬り落とす。
たった一度の攻撃のみで終わらせる斬月・真ではない。
間髪入れずに引き絞り、次々に矢を発射する。
狙うは急所、装甲に守られているとはいえ当たればダメージゼロとはいかないだろう。
当たらなければ意味のない話だ。
最初の一発と同じように斬り落とすか、或いは僅かに体を逸らして回避。
「こっちの番だよ!」
何度目かの矢を斬り落とし、ウィザードが攻めに転ずる。
ウィザーソードガンをガンモードへ変形、引き金を連続して引く。
対ファントム用の銀の銃弾は、アーマードライダーにも効果的なダメージを与えられる。
加えて全ての弾には追尾機能が搭載済み。
回避行動に移ったとしても、ウィザードの銃撃からは逃げられない。
ウィザーソードガンをガンモードへ変形、引き金を連続して引く。
対ファントム用の銀の銃弾は、アーマードライダーにも効果的なダメージを与えられる。
加えて全ての弾には追尾機能が搭載済み。
回避行動に移ったとしても、ウィザードの銃撃からは逃げられない。
「おっとっと」
避けた筈の弾が胸部に命中し、火花が散る。
その一発のみで回避行動は無意味と斬月・真は理解。
ソニックアローを振り回し、シャフト部の刃で弾き落とす。
ウィザードにやれるのならば、同じく超人的な身体能力のアーマードライダーにだって可能である。
その一発のみで回避行動は無意味と斬月・真は理解。
ソニックアローを振り回し、シャフト部の刃で弾き落とす。
ウィザードにやれるのならば、同じく超人的な身体能力のアーマードライダーにだって可能である。
弾を斬り落としながら斬月・真はウィザードへ接近。
ソニックアローは遠距離のみならず近距離でも効果的な武器だ。
あらぬ方向へ銃口を向けたウィザーソードガンが火を吹き、四方八方から銀の弾が飛来する。
豪快に振り回されたソニックアローが一つ残らず防ぎ、刃は眼前のウィザードへ振り下ろされた。
ソニックアローは遠距離のみならず近距離でも効果的な武器だ。
あらぬ方向へ銃口を向けたウィザーソードガンが火を吹き、四方八方から銀の弾が飛来する。
豪快に振り回されたソニックアローが一つ残らず防ぎ、刃は眼前のウィザードへ振り下ろされた。
「あれ?」
しかし当たらない。
ヒラリと華麗な足運びで移動したウィザードの回避。
攻撃の空振りにより僅かに前のめりとなった斬月・真へ、回し蹴りが命中。
胸部装甲への衝撃に、倒れはせずとも後退る。
ヒラリと華麗な足運びで移動したウィザードの回避。
攻撃の空振りにより僅かに前のめりとなった斬月・真へ、回し蹴りが命中。
胸部装甲への衝撃に、倒れはせずとも後退る。
「やぁっ!」
すかさず追撃に移るウィザード。
手には再度ソードモードへ変形させた専用の武器。
魔力を帯びた刀身はファントムの外殻すらも切り裂く、折り紙付きの威力を持つ。
真っ直ぐ突き出した切っ先が狙うは、装甲に覆われていない腹部。
ライドウェアもまた対衝撃性があると言っても、装甲箇所に比べれば耐久力は低い。
手には再度ソードモードへ変形させた専用の武器。
魔力を帯びた刀身はファントムの外殻すらも切り裂く、折り紙付きの威力を持つ。
真っ直ぐ突き出した切っ先が狙うは、装甲に覆われていない腹部。
ライドウェアもまた対衝撃性があると言っても、装甲箇所に比べれば耐久力は低い。
「っと…」
一方的な攻撃を甘んじて受ける斬月・真ではない。
ソニックアローを振り上げるようにして刃を弾き返す。
今度はこちらの番とばかりにウィザードを直接斬ろうとするも、すでに標的の姿は消えているではないか。
今の今まで眼前にいた筈のウィザードは、何時の間に移動したのか斬月・真の背後にいた。
背中に衝撃、少し遅れて痛みが襲う。
ソニックアローを振り上げるようにして刃を弾き返す。
今度はこちらの番とばかりにウィザードを直接斬ろうとするも、すでに標的の姿は消えているではないか。
今の今まで眼前にいた筈のウィザードは、何時の間に移動したのか斬月・真の背後にいた。
背中に衝撃、少し遅れて痛みが襲う。
振り向き様にソニックアローで斬り付けるも、手応えは無い。
(どこに…)
またしても一瞬で姿を消したウィザードに、斬月・真は周囲を見回す。
姿は見つけられず、だが敵意が叩きつけられる。
視線を向けるよりも先にソニックアローで防御、直後に頭上から刀身が振り下ろされた。
跳躍してからの攻撃を防がれたウィザードは、敵の反撃を待たずに動く。
姿は見つけられず、だが敵意が叩きつけられる。
視線を向けるよりも先にソニックアローで防御、直後に頭上から刀身が振り下ろされた。
跳躍してからの攻撃を防がれたウィザードは、敵の反撃を待たずに動く。
「そりゃぁっ!」
斬月・真の背後へ着地、と同時にウィザーソードガンによる斬撃。
再び背中への痛みに斬月・真が反応すれば、次の瞬間ウィザードは別方向から攻撃を行う。
瞬間移動もかくやといったスピードだ。
元々ハリケーンスタイルはウィザードが変身する四形態の中で、最も速度に優れている。
そこへ加えて魔法により風を体に纏わせる事で、更に速度を上昇。
トドメとばかりに現在のウィザードはハリケーンスタイルの強化形態だ。
当然魔法の出力も通常形態時以上へとなっている。
再び背中への痛みに斬月・真が反応すれば、次の瞬間ウィザードは別方向から攻撃を行う。
瞬間移動もかくやといったスピードだ。
元々ハリケーンスタイルはウィザードが変身する四形態の中で、最も速度に優れている。
そこへ加えて魔法により風を体に纏わせる事で、更に速度を上昇。
トドメとばかりに現在のウィザードはハリケーンスタイルの強化形態だ。
当然魔法の出力も通常形態時以上へとなっている。
「そこっ!」
「っぅ……」
「っぅ……」
正面からの突きを間一髪防ぎ、斬月・真は後方へ大きく跳ぶ。
『ロックオン!メロンエナジー!』
地面への着地を待たずに、ロックシードをソニックアローへ装填。
ロックシードのエネルギーが矢の威力を激的に強化する。
宙へ浮いた態勢のまま弦を引き絞り、解放。
地上のウィザードを射殺さんと、緑の矢が迫る。
ロックシードのエネルギーが矢の威力を激的に強化する。
宙へ浮いた態勢のまま弦を引き絞り、解放。
地上のウィザードを射殺さんと、緑の矢が迫る。
『キャモナスラッシュシェイクハンズ!キャモナスラッシュシェイクハンズ!』
『シューティングストライク!フー!フー!フー!』
矢はウィザードの華麗に舞うかの如き動作により当たらない。
回避ついでにウィザーソードガンのハンドオーサーへリングを翳す。
銀の弾丸へハリケーンスタイルの魔力が付与されたのだ。
銃口から発射されたのは、緑色の塊。
暴風を弾の形へ変化させたようなソレは、数発連続で斬月・真に命中。
着地は叶わず地面に叩きつけられ転がって行った。
回避ついでにウィザーソードガンのハンドオーサーへリングを翳す。
銀の弾丸へハリケーンスタイルの魔力が付与されたのだ。
銃口から発射されたのは、緑色の塊。
暴風を弾の形へ変化させたようなソレは、数発連続で斬月・真に命中。
着地は叶わず地面に叩きつけられ転がって行った。
「フィナーレだよ!」
『ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!』
『チョーイイネ!サイコー!』
決着を付けるならこのタイミングと確信。
ハンドオーサーにリングを翳し、足先に魔力を集中させる。
軽やかに跳躍すると、斬月・真目掛けて右足を突き出した。
纏わせた竜巻が轟々と唸りを上げる。
ハンドオーサーにリングを翳し、足先に魔力を集中させる。
軽やかに跳躍すると、斬月・真目掛けて右足を突き出した。
纏わせた竜巻が轟々と唸りを上げる。
「あの女の子とは違うけど、楽しいよ」
喜びを言葉に乗せ、斬月・真も迎え撃つ。
金髪の剣士…キャメロットと戦った時以来の楽しさだ。
山間部での戦闘時にも使ったマジックアイテム、ミニ八卦炉を取り出し構える。
ロックシードのエネルギーが充填され、上空のウィザードへ極太の光線が発射された。
金髪の剣士…キャメロットと戦った時以来の楽しさだ。
山間部での戦闘時にも使ったマジックアイテム、ミニ八卦炉を取り出し構える。
ロックシードのエネルギーが充填され、上空のウィザードへ極太の光線が発射された。
真っ向から激突する二者の力。
互いの能力差、コンディションの差を比べても互角と言った所か。
勝利を左右したのは、ハルトマンにあってダグバには無いもの。
即ち、仲間の有無。
互いの能力差、コンディションの差を比べても互角と言った所か。
勝利を左右したのは、ハルトマンにあってダグバには無いもの。
即ち、仲間の有無。
「ケケッ!俺を忘れんなよ!」
突如斬月・真の視界が塞がれる。
投げ付けられた物体がカメラアイを遮ったのだ。
振り払ってみれば何のことは無い、ただの枕ではないか。
やったのはつまらない相手と捨て置かれた幽体の少年、ゲンガー。
これと言った使い道も見つからず、デイパックの奥底に眠っていた支給品を投げ付けた。
無論、銃弾ですら傷付かなかった相手に投げてもダメージは期待できない。
そんな事は分かり切っている。
投げ付けられた物体がカメラアイを遮ったのだ。
振り払ってみれば何のことは無い、ただの枕ではないか。
やったのはつまらない相手と捨て置かれた幽体の少年、ゲンガー。
これと言った使い道も見つからず、デイパックの奥底に眠っていた支給品を投げ付けた。
無論、銃弾ですら傷付かなかった相手に投げてもダメージは期待できない。
そんな事は分かり切っている。
「イジワルズ改めジャマモノズとして、邪魔してやったぜ!」
その通りだ。
ウィザードへ集中せねばならない状況で邪魔をされた。
ほんの僅かとはいえ気を逸らしてしまった。
こうなれば、結果はもう一つしかない。
ウィザードへ集中せねばならない状況で邪魔をされた。
ほんの僅かとはいえ気を逸らしてしまった。
こうなれば、結果はもう一つしかない。
「でやぁああああああああああああああああっ!!!」
光線をど真ん中で切り裂くようにして、ウィザードが斬月・真へ到達する。
胸部へ叩き込まれる衝撃、暴風にもみくちゃにされるかのように白の弓兵が吹き飛んで行く。
風に呑まれて悲鳴も聞こえない。
後方にあった商店へ頭から突っ込むと、何かが宙へ投げ出された。
地面へガチャリと転がったのは、赤いバックルとメロンの錠前。
勢いが強過ぎて外れたらしい。
胸部へ叩き込まれる衝撃、暴風にもみくちゃにされるかのように白の弓兵が吹き飛んで行く。
風に呑まれて悲鳴も聞こえない。
後方にあった商店へ頭から突っ込むと、何かが宙へ投げ出された。
地面へガチャリと転がったのは、赤いバックルとメロンの錠前。
勢いが強過ぎて外れたらしい。
「ふぃ~…」
一仕事終えたように、額の汗を拭う仕草をする。
完全に安心するには早いけど、どうに勝てたのだ。
されど気は完全に緩めずバックルと錠前を回収する。
取り敢えず、仮面ライダーへの変身する道具は奪っておくべきだろう。
完全に安心するには早いけど、どうに勝てたのだ。
されど気は完全に緩めずバックルと錠前を回収する。
取り敢えず、仮面ライダーへの変身する道具は奪っておくべきだろう。
「ありがとね、ゲンガー」
「あ?あー…おう」
「あ?あー…おう」
援護してくれて、そして自分を見捨てず守ってくれて。
二つの想いが込められた礼を受け、どこかむず痒そうな表情となる。
純粋に感謝を述べられるのは慣れていなかった。
仲間の反応にカラカラと笑えば、相手も釣られて笑ってくれた。
二つの想いが込められた礼を受け、どこかむず痒そうな表情となる。
純粋に感謝を述べられるのは慣れていなかった。
仲間の反応にカラカラと笑えば、相手も釣られて笑ってくれた。
◆
仲間を殺したという絶望に一度は呑まれかけた魔女は、希望の魔法使いとして再起を果たした。
希望とは、絶望を掻き消す光のようなものだ。
今回もまた、絶望の後には希望が訪れた。
今回もまた、絶望の後には希望が訪れた。
しかし忘れてはならない。
勘違いをしてはならない。
勘違いをしてはならない。
希望があれば絶望があり、絶望があれば希望がある。
どちらか一方のみで世界は回らない。
希望があるからこそ、絶望はより一層色濃くなり、
絶望があるからこそ、希望はより一層輝きを増す。
絶望があるからこそ、希望はより一層輝きを増す。
絶望の後には希望が来る。
だが永遠に続くものではない。
だが永遠に続くものではない。
希望の後にまた絶望が来る筈が無いと、どうして言い切れようか。
世界は希望一色には決してならない。
だから、そう
『ARK ONE』
「変身」
『SINGURISE』
新しい絶望が始まった。
これはただそれだけの話。