近代戦争において、制空権と言う概念がある。
ある空域で敵に妨害されることなく,自由な作戦行動を可能とすることを意味し。
1849年にオーストリア帝国がヴェネツィアを気球と風船爆弾で攻撃したのが近代史における史上初の航空攻撃と伝えられている。
そこから第一次世界大戦で航空機が実戦投入され、第二次世界大戦では海を隔てた遠方の制空権を確保する為に空母が発明された。
近代戦において、制空権を制した者が戦の趨勢を制すると言ってもいい。
そしてそれはこのバトルロワイアルにおいても変わらない。
ある空域で敵に妨害されることなく,自由な作戦行動を可能とすることを意味し。
1849年にオーストリア帝国がヴェネツィアを気球と風船爆弾で攻撃したのが近代史における史上初の航空攻撃と伝えられている。
そこから第一次世界大戦で航空機が実戦投入され、第二次世界大戦では海を隔てた遠方の制空権を確保する為に空母が発明された。
近代戦において、制空権を制した者が戦の趨勢を制すると言ってもいい。
そしてそれはこのバトルロワイアルにおいても変わらない。
その事は妖精騎士ランスロット…暗き沼のメリュジーヌが証明している。
竜の炉心から生み出される無尽蔵の魔力は、彼女に安定した飛行能力を担保する。
更に音速を超える飛行速度と合わせれば、この蟲毒において彼女と互角以上の空中戦を挑める者は両手の指に収まる程度の数だ。
北条沙都子を抱えた所で、パフォーマンスは何ら低下しない(尤も、余りに高速飛行を行うとGによって沙都子が死亡するため相応に速度は抑えているが)。
また、視力や聴覚などの五感の鋭さも人のそれとは天地の隔たりがある。
基本的に常にメリュジーヌが先に相手を補足し、滞空状態で発見した他の参加者の様子を伺う余裕が彼女にはあった。
竜の炉心から生み出される無尽蔵の魔力は、彼女に安定した飛行能力を担保する。
更に音速を超える飛行速度と合わせれば、この蟲毒において彼女と互角以上の空中戦を挑める者は両手の指に収まる程度の数だ。
北条沙都子を抱えた所で、パフォーマンスは何ら低下しない(尤も、余りに高速飛行を行うとGによって沙都子が死亡するため相応に速度は抑えているが)。
また、視力や聴覚などの五感の鋭さも人のそれとは天地の隔たりがある。
基本的に常にメリュジーヌが先に相手を補足し、滞空状態で発見した他の参加者の様子を伺う余裕が彼女にはあった。
その時、同盟相手の北条沙都子は知己であるという古手梨花に執心の様子だったが。
メリュジーヌが注目した相手は違っていた。
彼女が注目したのは、その場において最も戦闘力の高い者。
即ち、孫悟飯の関係者と見られる黒髪の少年だった。
一目見て違和感に気づいた。
この少年は、あの孫悟飯の関係者ではない。
メリュジーヌから見ても黒髪の少年は強い。
間違いなく強者である。だが、孫悟飯から感じた強さとは質が違う。
姿だけ似せた模倣(イミテーション)。
彼の延長線上にある存在ではない事だけは確信できた。
次に浮かぶのは、では彼は何だ?という疑問だが、流石に具体的な解までは導けない。
メリュジーヌが注目した相手は違っていた。
彼女が注目したのは、その場において最も戦闘力の高い者。
即ち、孫悟飯の関係者と見られる黒髪の少年だった。
一目見て違和感に気づいた。
この少年は、あの孫悟飯の関係者ではない。
メリュジーヌから見ても黒髪の少年は強い。
間違いなく強者である。だが、孫悟飯から感じた強さとは質が違う。
姿だけ似せた模倣(イミテーション)。
彼の延長線上にある存在ではない事だけは確信できた。
次に浮かぶのは、では彼は何だ?という疑問だが、流石に具体的な解までは導けない。
───あの少年、どうにも妙だな。
その一団を見つけた時点で、メリュジーヌの観察対象になったのはその少年一人だった。
後の顔ぶれは、メリュジーヌなら単騎で叩き潰すことができる。
電気を放つネズミとそれに指示を出す少年は、緩急をつけてネズミを抜き去り、後は一息で支持を出す少年を串刺しにする。
もう一人の金髪の少女は人間にしてはそれなりに腕が立つようだが、自分には及ぶべくもない。十秒かからず斬首できる。
後の長髪のカードを握り締めた少年は、少し前に自分を退けた龍を出した少年と同一の能力者だろうか。ならば奇襲して最初に両腕を落とす。
慢心ではなく冷然たる戦略眼を以て、鏖殺が可能だとメリュジーヌは判断した。
後の顔ぶれは、メリュジーヌなら単騎で叩き潰すことができる。
電気を放つネズミとそれに指示を出す少年は、緩急をつけてネズミを抜き去り、後は一息で支持を出す少年を串刺しにする。
もう一人の金髪の少女は人間にしてはそれなりに腕が立つようだが、自分には及ぶべくもない。十秒かからず斬首できる。
後の長髪のカードを握り締めた少年は、少し前に自分を退けた龍を出した少年と同一の能力者だろうか。ならば奇襲して最初に両腕を落とす。
慢心ではなく冷然たる戦略眼を以て、鏖殺が可能だとメリュジーヌは判断した。
───動きがまるでちぐはぐで、その上悪い。
対主催と見られる三人組は問題ないと判断した中、唯一警戒対象と見たのがその少年だったのだが。
当の彼はまるで弓兵が剣を持って戦場に出ている様な不自然さだった。
トップスピードで言えば自分にも渡り合えるほどはあるのに、それを活かせていない。
馬鹿正直にネズミと戦わずとも、頭脳である少年を潰せばそれで事足りるだろうに、それもしない。
何か狙いがあるのかと思っていたが、どうやら単純に考えが及んでいないらしい。
当の彼はまるで弓兵が剣を持って戦場に出ている様な不自然さだった。
トップスピードで言えば自分にも渡り合えるほどはあるのに、それを活かせていない。
馬鹿正直にネズミと戦わずとも、頭脳である少年を潰せばそれで事足りるだろうに、それもしない。
何か狙いがあるのかと思っていたが、どうやら単純に考えが及んでいないらしい。
───成程、あの少年の関係者の姿を装って戦っているから、本来の能力を発揮できないのか。
少しの間観察を続け、メリュジーヌはそう結論付けた。
そしてその後、一言で言って勿体ないと感じた。
あれだけの性能を有しているのに、あの程度の三人に手こずっている。
戦術眼と言う物にも乏しいのだろう。
彼(彼女?)がもっと効率的に動けば参加者もより早く減っていくのに。
その分自分が願いに近づくのに。
苛立ちにも似たもどかしさを感じる中で、観察を続ける。
そして、彼女は少年がぼそりと吐いたその言葉を聞いた。
そしてその後、一言で言って勿体ないと感じた。
あれだけの性能を有しているのに、あの程度の三人に手こずっている。
戦術眼と言う物にも乏しいのだろう。
彼(彼女?)がもっと効率的に動けば参加者もより早く減っていくのに。
その分自分が願いに近づくのに。
苛立ちにも似たもどかしさを感じる中で、観察を続ける。
そして、彼女は少年がぼそりと吐いたその言葉を聞いた。
───こうしないと、いい子になれないから。
その言葉を聞いて。
あぁ、そうかと思った。
彼も、きっと自分と同じなのだ。
自分の進んでいる道が過ちと理解していながら、それでも進むことを辞められない。
かつて得たぬくもりを諦めきれないで足掻いている。
それでもその温もりを得るまで、何も必要としない程に強くはなれず。
ただ、暗闇の道行きを惑っている事に気づいた。
あぁ、そうかと思った。
彼も、きっと自分と同じなのだ。
自分の進んでいる道が過ちと理解していながら、それでも進むことを辞められない。
かつて得たぬくもりを諦めきれないで足掻いている。
それでもその温もりを得るまで、何も必要としない程に強くはなれず。
ただ、暗闇の道行きを惑っている事に気づいた。
───救われないな。僕も、君も。
その少女を、見て。
先ず抱いたのはある種の共感と同情心だった。
そしてその後に。
使える、と思った自分に吐き気を抱く。
だが、自分の中の非情な部分が使うべきだ、と頭の中で囁く。
共犯者である少女は、巡り合った運命の相手に夢中で気づいていない。
自分が黙っていれば、少年はいずれ優しい誰かに止めて貰えるのかもしれない。
光の道を歩めるのかもしれない。
だがそれは、自分が目指す願いの障害になるという事を意味する。
孫悟飯一人とっても自分の全てを賭けて挑まなければならないというのに。
これ以上自分に対抗しうる障害が増えるのは、間違いなく望ましくなかった。
故に、脳裏で良心と自分の願いが天秤にかけられる。
その結果は、直ぐに出た。
先ず抱いたのはある種の共感と同情心だった。
そしてその後に。
使える、と思った自分に吐き気を抱く。
だが、自分の中の非情な部分が使うべきだ、と頭の中で囁く。
共犯者である少女は、巡り合った運命の相手に夢中で気づいていない。
自分が黙っていれば、少年はいずれ優しい誰かに止めて貰えるのかもしれない。
光の道を歩めるのかもしれない。
だがそれは、自分が目指す願いの障害になるという事を意味する。
孫悟飯一人とっても自分の全てを賭けて挑まなければならないというのに。
これ以上自分に対抗しうる障害が増えるのは、間違いなく望ましくなかった。
故に、脳裏で良心と自分の願いが天秤にかけられる。
その結果は、直ぐに出た。
「沙都子」
感情の一切を抹殺した声色で、共犯者の少女に話を切り出した。
■
「ん……よし、じこしゅうふく…終わった……」
路地裏で身を潜め、身を癒す小さな影が一つ。
言うまでも無く、第二世代エンジェロイド、カオスのものだった。
彼女は先の戦いでは幾らか電撃を浴びたものの。
それでも孫悟空や、超能力者の少年の戦い程消耗は無かった。
そのため、自己修復もつつがなく終わった。
だが、少女の…カオスの表情は芳しくない。
何故なら、戦闘が終わってからも彼女の脳裏には。
言うまでも無く、第二世代エンジェロイド、カオスのものだった。
彼女は先の戦いでは幾らか電撃を浴びたものの。
それでも孫悟空や、超能力者の少年の戦い程消耗は無かった。
そのため、自己修復もつつがなく終わった。
だが、少女の…カオスの表情は芳しくない。
何故なら、戦闘が終わってからも彼女の脳裏には。
───そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか。
ずぅっと、先ほど戦った少年の言葉が纏わりついていたから。
それは、今のカオスを否定する言葉だ。
カオスの抱いた願いを否定する言葉だ。
でも、カオスはその言葉を拒絶できなかった。
彼女自身、自分が悪事を働いているという自覚があったがために。
少年が、自分を助けようと視界に光が満ちる中で駆け寄る姿を見てしまったがために。
それは、今のカオスを否定する言葉だ。
カオスの抱いた願いを否定する言葉だ。
でも、カオスはその言葉を拒絶できなかった。
彼女自身、自分が悪事を働いているという自覚があったがために。
少年が、自分を助けようと視界に光が満ちる中で駆け寄る姿を見てしまったがために。
「痛いなぁ……本当に、これも、愛なのかな……?」
あの帽子のお兄ちゃんも殺さないと、智樹お兄ちゃんのお家に帰れない。
でも、あの帽子のお兄ちゃんを殺す所を想像しただけで、動力部が軋んだ。
本当に殺してしまったら、動けなくなるくらい痛むのではと思う程に。
もう、私は痛いのはいらないのに。
私には、愛はいらないのに。
私はただ、お兄ちゃんのお家に帰れればそれでいいのに。
なのにこうして、愛が私の邪魔をする。
でも、あの帽子のお兄ちゃんを殺す所を想像しただけで、動力部が軋んだ。
本当に殺してしまったら、動けなくなるくらい痛むのではと思う程に。
もう、私は痛いのはいらないのに。
私には、愛はいらないのに。
私はただ、お兄ちゃんのお家に帰れればそれでいいのに。
なのにこうして、愛が私の邪魔をする。
「私……どうすればいいのかなぁ……お兄ちゃん」
ごそごそとデイパックから宝物である上履きを取り出して。
それを吹雪の中で纏う防寒着の様にぎゅうと抱きしめる。
そうすれば動力部に走る痛みが和らぐ気がしたから。
実際に、ぎゅうと抱きしめて見て、予想通り動力炉の痛みは和らいだ気がしたが。
それでも、上履きはこれからどうすればいいのかまでは教えてくれなかった。
それを吹雪の中で纏う防寒着の様にぎゅうと抱きしめる。
そうすれば動力部に走る痛みが和らぐ気がしたから。
実際に、ぎゅうと抱きしめて見て、予想通り動力炉の痛みは和らいだ気がしたが。
それでも、上履きはこれからどうすればいいのかまでは教えてくれなかった。
「────!」
丁度、その時の事だった。
カオスの探知レーダーが、とても強い反応を捕える。
覚えのある反応だった。
これはさっき、自分を吹き飛ばした相手だ。
きっと、悪い子である自分を追ってきたのだろう。
カオスは少し考えて、また悟空の姿を形どった。
この姿は戦いにくいが、ついさっきの相手ならこの姿でないと自分が化けていたのがバレてしまう。
カオスの探知レーダーが、とても強い反応を捕える。
覚えのある反応だった。
これはさっき、自分を吹き飛ばした相手だ。
きっと、悪い子である自分を追ってきたのだろう。
カオスは少し考えて、また悟空の姿を形どった。
この姿は戦いにくいが、ついさっきの相手ならこの姿でないと自分が化けていたのがバレてしまう。
「───行かなきゃ。愛を、あげなきゃ」
うわ言の様にそう呟いて。
彼女は翼を広げた。
また自分が悪い子になるとしても、やめられない。
ただ一つ得た暖かな場所への帰路につくために。
それを阻む全ての者に、愛を与えるために。
蝋の翼が焼け墜ちるまで、彼女は愚直に羽撃き続ける。
それ以外の生き方を、幼い彼女は知らないから。
彼女は翼を広げた。
また自分が悪い子になるとしても、やめられない。
ただ一つ得た暖かな場所への帰路につくために。
それを阻む全ての者に、愛を与えるために。
蝋の翼が焼け墜ちるまで、彼女は愚直に羽撃き続ける。
それ以外の生き方を、幼い彼女は知らないから。
■
「あの少年の姿で来たか……」
路地裏から飛び上がって来る、小さな影。
黒髪の快活そうな少年の姿を、無感動に最後の竜は見つめた。
理屈の上では仕方ない、と思う。
自分が既に彼が姿を騙っている事実に気づいている事を知らないのだろう。
それ故に、先ほどの襲撃の辻褄を合わせるために少年の姿で迎撃を行おうとしている。
無理もない。少年の思考は間違ったものではない。その上で───
黒髪の快活そうな少年の姿を、無感動に最後の竜は見つめた。
理屈の上では仕方ない、と思う。
自分が既に彼が姿を騙っている事実に気づいている事を知らないのだろう。
それ故に、先ほどの襲撃の辻褄を合わせるために少年の姿で迎撃を行おうとしている。
無理もない。少年の思考は間違ったものではない。その上で───
「舐められたものだな、僕も」
突風が吹いた。
直後、腹の底まで響いてくる様な衝突音が響く。
それに遅れて、衝突の衝撃により生み出された突風が周囲を吹き抜ける。
もしこの場に常人がいて、この光景を見たなら。
路地裏から飛翔した少年の姿が掻き消え、まるで瞬間移動の様に鎧の少女に肉薄し拳を見舞ったとしか思えない光景だろう。
理外の速度。戦闘機でも離陸直後の数秒にも満たない時間で音速の壁を突破するのは困難だろう。
その不条理を、少年は成し遂げて見せた。成し遂げたうえで、拳を振るった。
然しその振るわれた拳は少女に届く事は無かったが。
直後、腹の底まで響いてくる様な衝突音が響く。
それに遅れて、衝突の衝撃により生み出された突風が周囲を吹き抜ける。
もしこの場に常人がいて、この光景を見たなら。
路地裏から飛翔した少年の姿が掻き消え、まるで瞬間移動の様に鎧の少女に肉薄し拳を見舞ったとしか思えない光景だろう。
理外の速度。戦闘機でも離陸直後の数秒にも満たない時間で音速の壁を突破するのは困難だろう。
その不条理を、少年は成し遂げて見せた。成し遂げたうえで、拳を振るった。
然しその振るわれた拳は少女に届く事は無かったが。
「拙い」
右からの拳を、左腕の手甲で受け止めながら。
最強の妖精騎士はその拳をそう評した。
膂力は強い。速度など上級妖精を超えるそれだ。
スペックだけで言えば人間など数秒の内に殺害して余りある。
だが、技術がない。戦闘のカンも乏しいのが見て取れた。
恐らく、この少年は見た目相応の齢か、それよりも更に幼いのかもしれない。
最強の妖精騎士はその拳をそう評した。
膂力は強い。速度など上級妖精を超えるそれだ。
スペックだけで言えば人間など数秒の内に殺害して余りある。
だが、技術がない。戦闘のカンも乏しいのが見て取れた。
恐らく、この少年は見た目相応の齢か、それよりも更に幼いのかもしれない。
「───早く元の姿に戻る事だ」
追撃の拳を、右腕の手甲で受け流す。
半身に構えつつ後退すれば、自らが生んだ慣性で相手の上体が流れてくる。
そこに、カウンターの拳を叩き込んだ。
半身に構えつつ後退すれば、自らが生んだ慣性で相手の上体が流れてくる。
そこに、カウンターの拳を叩き込んだ。
「───かっ……!?」
凄まじい衝撃に、少年は言葉を失う。
ど、と。
響いた音は一音だった。だが、衝撃は三つあった。
音が重なって聞こえる速度の拳を、叩き込まれたのだ。
人間ならば、それだけで胴体が泣き別れになっていてもおかしくない威力の拳。
その一合だけで、嫌でも敵手に自身の歴戦を知らしめす、研ぎ澄まされた一撃だった。
ど、と。
響いた音は一音だった。だが、衝撃は三つあった。
音が重なって聞こえる速度の拳を、叩き込まれたのだ。
人間ならば、それだけで胴体が泣き別れになっていてもおかしくない威力の拳。
その一合だけで、嫌でも敵手に自身の歴戦を知らしめす、研ぎ澄まされた一撃だった。
「……そう、それでいい」
能面のような無表情で見つめながら。
騎士の少女は、相対者を見つめた。
向かい合う少女の姿は既に少年ではなくなっていた。
対照的な二人だった。
透き通るような銀の髪に、氷点下の無表情を浮かべる最後の竜、メリュジーヌと。
それに相対する、輝くような金の髪に、幼い敵意を満面に浮かべる天使、カオス。
夜明けに向かう空の下で、超常の少女二人が相まみえる。
騎士の少女は、相対者を見つめた。
向かい合う少女の姿は既に少年ではなくなっていた。
対照的な二人だった。
透き通るような銀の髪に、氷点下の無表情を浮かべる最後の竜、メリュジーヌと。
それに相対する、輝くような金の髪に、幼い敵意を満面に浮かべる天使、カオス。
夜明けに向かう空の下で、超常の少女二人が相まみえる。
「───負けない!」
短くそう呟いて、天使の少女は周囲に黒炎を生み出す。
それは、壊滅状態にあったアポロンの残骸を修復して使用可能にしたものだった。
孫悟空に放った時とは見る影もなく零落しているが、それでも人間を殺す程度なら十分事足りる威力の炎だった。
それは、壊滅状態にあったアポロンの残骸を修復して使用可能にしたものだった。
孫悟空に放った時とは見る影もなく零落しているが、それでも人間を殺す程度なら十分事足りる威力の炎だった。
「…それじゃあダメだ、それじゃあ僕は殺せない」
ただし、それはあくまで人間相手の話。
混沌の少女が相対するのは、最強の幻想種、その中でも頂点に位置する者だ。
迫りくる黒炎を、楽観でも慢心でもなく、厳然たる事実として不足であると断じる。
そして、ただ、両手を前に。黒色の殺意へと向けて。
そのまま──迷うことなく、一直線に吶喊した。
混沌の少女が相対するのは、最強の幻想種、その中でも頂点に位置する者だ。
迫りくる黒炎を、楽観でも慢心でもなく、厳然たる事実として不足であると断じる。
そして、ただ、両手を前に。黒色の殺意へと向けて。
そのまま──迷うことなく、一直線に吶喊した。
「───突き穿つ!」
黒炎がまるで効いていない、という訳ではない。
鎧や、妖精國において最も美しいとされた美貌に俄かに火傷を刻んで。
それでも燃え尽きる事無く、一本の槍の如く突き進む。
止まりはしない、その速度を落とす事すらありえない。
自身を包む熱すら切り裂き穿つという強固な意志で、敵手の下へ。
鎧や、妖精國において最も美しいとされた美貌に俄かに火傷を刻んで。
それでも燃え尽きる事無く、一本の槍の如く突き進む。
止まりはしない、その速度を落とす事すらありえない。
自身を包む熱すら切り裂き穿つという強固な意志で、敵手の下へ。
「……っ!?うそ……!」
天使の少女が再び、言葉を失う。
竜の少女の黒炎を穿って進むその鋭さに。
自身の身を顧みない、捨て身とすらいえる戦い方に。
そして何より彼女の貌のその美しさに、息を飲む。
身を焦がす炎すら、彼女を引き立てる演出の様だった。
竜の少女の黒炎を穿って進むその鋭さに。
自身の身を顧みない、捨て身とすらいえる戦い方に。
そして何より彼女の貌のその美しさに、息を飲む。
身を焦がす炎すら、彼女を引き立てる演出の様だった。
「いーじす!」
目を奪われてなお、その判断が叶ったのは流石シナプス最高のエンジェロイドと言ってもいいだろう。
コンマ1秒後に、竜の少女は黒炎を完全に突き破り。
展開した絶対防御(イージス)に両手の剣を突き立てていたのだから。
間違いなくカオスの反応速度と思考能力でなければ串刺しにされていた。
コンマ1秒後に、竜の少女は黒炎を完全に突き破り。
展開した絶対防御(イージス)に両手の剣を突き立てていたのだから。
間違いなくカオスの反応速度と思考能力でなければ串刺しにされていた。
「カットライン──!」
だが、その距離は既に、竜の少女の間合いだ。
突撃を完璧に秒御されてなお、メリュジーヌは涼しい顔で速度を上げる。
停止した状態から物理法則を無視し、一秒かからず音速に至る彼女の特性。
それを以て、天使の少女の背後に回り込む。
突撃を完璧に秒御されてなお、メリュジーヌは涼しい顔で速度を上げる。
停止した状態から物理法則を無視し、一秒かからず音速に至る彼女の特性。
それを以て、天使の少女の背後に回り込む。
「くっ───!」
「ラーンスロット!!!」
「ラーンスロット!!!」
絶対防御(イージス)は孫悟空との戦いで半壊している。
本来のイージスと違い、全方位をカバーする事ができない。
そんな中で、戦闘用エンジェロイドであるアストレアに匹敵する速度を誇るメリュジーヌはカオスにとって難敵と言えた。
迎撃の為に漆黒の機械翼を伸ばすが、怒涛の連撃でその全てが撃墜される。
本来のイージスと違い、全方位をカバーする事ができない。
そんな中で、戦闘用エンジェロイドであるアストレアに匹敵する速度を誇るメリュジーヌはカオスにとって難敵と言えた。
迎撃の為に漆黒の機械翼を伸ばすが、怒涛の連撃でその全てが撃墜される。
「いーじ…!」
「遅い!」
「遅い!」
翼をいなされ、無防備になったカオスの右肩に。
メリュジーヌの袈裟懸けの手刀が、叩き込まれた。
数時間前の絶望王との交戦時と同じく、天使は隕石の如く地に失墜する。
メリュジーヌの袈裟懸けの手刀が、叩き込まれた。
数時間前の絶望王との交戦時と同じく、天使は隕石の如く地に失墜する。
「これで───!」
「………!!!」
「………!!!」
凄まじい衝撃。痛い。とても痛い。
どうして、こんな事になっている。私が、悪い子だから?
だから、いい子になるために頑張っているのに。痛い思いをするばかりで。
もう私は愛/痛みなんていらないのに。
私はただお兄ちゃんのお家に帰りたいだけなのに。
嫌だ。嫌だ!こんな所で壊れるのは───いやだッッ!
どうして、こんな事になっている。私が、悪い子だから?
だから、いい子になるために頑張っているのに。痛い思いをするばかりで。
もう私は愛/痛みなんていらないのに。
私はただお兄ちゃんのお家に帰りたいだけなのに。
嫌だ。嫌だ!こんな所で壊れるのは───いやだッッ!
「終わりだッ!」
「う、ぁ。ああああああああ!!!!!」
「う、ぁ。ああああああああ!!!!!」
咆哮を上げて。
迫りくる竜の少女に、地に墜ちた天使の少女は翼を振るう。
ただ、帰る事が出来なくなった暖かな場所に帰るために。
現状彼女が制限を受けてなお発揮できる最大出力で翼を振るい。そして。
迫りくる竜の少女に、地に墜ちた天使の少女は翼を振るう。
ただ、帰る事が出来なくなった暖かな場所に帰るために。
現状彼女が制限を受けてなお発揮できる最大出力で翼を振るい。そして。
「───正直、驚いた。良く間に合わせたね」
喉元に、竜の少女の刃が突き付けられていた。
だが、彼女が敗れたわけではない。
その証拠に、天使の少女の翼もまた、竜の少女に突き付けられている。
お互いが首を落とせる状態での、膠着。
その最中で、竜の少女の口から出たのは、天使の少女が予想していなかった台詞。
一触即発の状況には似つかわしくない。賛辞だった。
皮肉ではない。さっきまで殺しあっていた相手より受ける、心からの賛辞。
だが、彼女が敗れたわけではない。
その証拠に、天使の少女の翼もまた、竜の少女に突き付けられている。
お互いが首を落とせる状態での、膠着。
その最中で、竜の少女の口から出たのは、天使の少女が予想していなかった台詞。
一触即発の状況には似つかわしくない。賛辞だった。
皮肉ではない。さっきまで殺しあっていた相手より受ける、心からの賛辞。
「………?」
その意図を測りかねて、翼を動かす意志に戸惑いが生じてしまう。
無我夢中だった瞬間とは違い、これを動かせば即殺し合いだという認識が重くのしかかる。
その時の事だった。
パンパン、と。
手を叩くような音を、天使の少女が認識したのは。
無我夢中だった瞬間とは違い、これを動かせば即殺し合いだという認識が重くのしかかる。
その時の事だった。
パンパン、と。
手を叩くような音を、天使の少女が認識したのは。
「…素晴らしいですわ、天使さん」
音の出所に視線を向けると微笑みながら拍手を行う、金髪の少女が立っていた。
新たに現れた参加者を前に、天使の少女の警戒心が高まる。
だが、その拍手を行う金髪の少女が現れて。
竜の少女が行ったのは、彼女にとって予想外の行動だった。
何と、その両手の剣を、天使の少女の首元から降ろしたのだ。
新たに現れた参加者を前に、天使の少女の警戒心が高まる。
だが、その拍手を行う金髪の少女が現れて。
竜の少女が行ったのは、彼女にとって予想外の行動だった。
何と、その両手の剣を、天使の少女の首元から降ろしたのだ。
「───何、で……?」
「………………………」
「………………………」
理解の出来ぬ行動に思考が止まる。
問われた竜の少女は応えない。
代わりに応えたのは、この場において最も弱いはずの、地蟲(ダウナー)の少女だった。
問われた竜の少女は応えない。
代わりに応えたのは、この場において最も弱いはずの、地蟲(ダウナー)の少女だった。
「それは勿論、貴方と仲良くしたいからです」
そう言われて、どきりと動力部が跳ねたような気がした。
ぎゅう、と。地蟲(ダウナー)なら心臓がある部分をぎゅっと抑える。
今なら、竜の少女の首を撥ねる事ができると言うのに。
背から伸びる機翼は、まるで鉛の様に重く動かなかった。
そんな天使の少女を見て、地蟲の少女は瞼を細め、そして告げる。
ぎゅう、と。地蟲(ダウナー)なら心臓がある部分をぎゅっと抑える。
今なら、竜の少女の首を撥ねる事ができると言うのに。
背から伸びる機翼は、まるで鉛の様に重く動かなかった。
そんな天使の少女を見て、地蟲の少女は瞼を細め、そして告げる。
「……私達も貴方と同じ、優勝を狙っているマーダーでして。北条沙都子と言います」
その言葉を、天使の少女は最初理解できなかった。
だって、優勝できるのは一人だけの筈なのだから。
願いを叶えてもらえるのは一人だけ。生き残れるのも一人だけ。
今まで彼女はそう思っていた。
だが、目の前の地蟲の少女は自信に満ちた笑みで、天使の少女に言葉を重ねる。
だって、優勝できるのは一人だけの筈なのだから。
願いを叶えてもらえるのは一人だけ。生き残れるのも一人だけ。
今まで彼女はそう思っていた。
だが、目の前の地蟲の少女は自信に満ちた笑みで、天使の少女に言葉を重ねる。
「貴方と協力したい、というお話がしたくて、ここまで参りました」
殺しあうのは、話を聞いてからでも遅くはないでしょう?
そう言って、彼女は不敵に笑う。
どうしよう、と考える隣で。
仲良くしたい、その言葉が何度も中枢システムでリフレインされる。
硬直状態のまま数十秒の時間が経過してから、ゆっくりと口を開いた。
そして、返答を述べる。
そう言って、彼女は不敵に笑う。
どうしよう、と考える隣で。
仲良くしたい、その言葉が何度も中枢システムでリフレインされる。
硬直状態のまま数十秒の時間が経過してから、ゆっくりと口を開いた。
そして、返答を述べる。
「うん……分かった」
■
「成程、カオスさんはお家に帰るために、優勝したいのですわね」
十分ほどあと。
三人の少女はモチノキデパートの屋上に河岸を移し、三人並んでベンチに腰かけていた。
中央に沙都子、その両隣にカオスとメリュジーヌが位置している。
先ずはお互いの名を名乗り、その後何故この殺し合いに乗っているのかを沙都子は尋ねた。
問われたカオスはたどたどしく、しかし途中から堰を切った様に語った。
エンジェロイドの事。マスターに廃棄処分という決定を下されたこと。
そして、智樹お兄ちゃんの家へと赴こうとした所で、エンジェロイドは帰って来るなと断じられたこと。
それらの事を夢中でカオスは語った。まるで、人との交流に飢えていたようだった。
三人の少女はモチノキデパートの屋上に河岸を移し、三人並んでベンチに腰かけていた。
中央に沙都子、その両隣にカオスとメリュジーヌが位置している。
先ずはお互いの名を名乗り、その後何故この殺し合いに乗っているのかを沙都子は尋ねた。
問われたカオスはたどたどしく、しかし途中から堰を切った様に語った。
エンジェロイドの事。マスターに廃棄処分という決定を下されたこと。
そして、智樹お兄ちゃんの家へと赴こうとした所で、エンジェロイドは帰って来るなと断じられたこと。
それらの事を夢中でカオスは語った。まるで、人との交流に飢えていたようだった。
「カオスさん」
ハッキリ言って初めて聞く単語が多く、カオスの説明も拙かったため、何度も何度も少しずつ確認しながら話は進められた。
根気よく確認を繰り返した甲斐あってか、沙都子にもこのカオスと言う少女に何があったのか察しがついた。
そして、その上で判断する。
この少女は、利用できる、と。
根気よく確認を繰り返した甲斐あってか、沙都子にもこのカオスと言う少女に何があったのか察しがついた。
そして、その上で判断する。
この少女は、利用できる、と。
「今までよく一人で頑張りましたわね、大変だったでしょう」
「………!」
「………!」
カオスの話を一通り聞いたうえで、沙都子は優し気な表情と声で問いかけた。
この島に来て初めてだった。
孫悟空やサトシは、彼女の行いを否定した。
絶望王は否定こそしなかったけど、同時に軽口の様な物である事は何となく分かった。
それが今、自分のやって来た事が、直接的に肯定されて、気遣われた。
カオスにとって、直ぐに言葉が出てこない程の衝撃だった。
この島に来て初めてだった。
孫悟空やサトシは、彼女の行いを否定した。
絶望王は否定こそしなかったけど、同時に軽口の様な物である事は何となく分かった。
それが今、自分のやって来た事が、直接的に肯定されて、気遣われた。
カオスにとって、直ぐに言葉が出てこない程の衝撃だった。
「貴方は間違っていませんわ、カオスさん。
誰かを想い戦う貴方がどうして間違っていましょう」
誰かを想い戦う貴方がどうして間違っていましょう」
沙都子は、優しかった。
カオス自身すら疑念を抱きつつあった彼女の願いを、間違っていないと断言する。
その上で今度は声のトーンを落とし、今度は詰問するように言葉を紡ぐ。
カオス自身すら疑念を抱きつつあった彼女の願いを、間違っていないと断言する。
その上で今度は声のトーンを落とし、今度は詰問するように言葉を紡ぐ。
「むしろ、この島に来て始めて顔を合わせた様な方の言葉に従って、
願いを投げ捨ててしまえるのなら、私は其方の方が蔑如しますわ。だって───」
願いを投げ捨ててしまえるのなら、私は其方の方が蔑如しますわ。だって───」
その程度で捨てられる願いだったという事でしょう?
さっきとは打って変わって、冷たい声。
カオスの動力炉がずきりと痛んだ。
ぎゅっと修道服の様な黒衣の裾を握り締めて、違う、と反論する。
さっきとは打って変わって、冷たい声。
カオスの動力炉がずきりと痛んだ。
ぎゅっと修道服の様な黒衣の裾を握り締めて、違う、と反論する。
「違う…!違う…!私の願いは、そんなのじゃ───!」
でも、今のままじゃどうしてもお兄ちゃんが褒めてくれる姿が浮かばない。
どうしても、悪い事をするたびに動力の所が軋む。
もう“痛い”愛は、私はいらないのに、痛い事ばかり増えていく。
どうすればいいのか分からない。
カオスは迷子の子供の様に憤り、悲しみ、訴えた。
その訴えに対して、沙都子は尚も薄い微笑を浮かべて。
どうすればよいのかを少女に刷り込む。
どうしても、悪い事をするたびに動力の所が軋む。
もう“痛い”愛は、私はいらないのに、痛い事ばかり増えていく。
どうすればいいのか分からない。
カオスは迷子の子供の様に憤り、悲しみ、訴えた。
その訴えに対して、沙都子は尚も薄い微笑を浮かべて。
どうすればよいのかを少女に刷り込む。
「……カオスさん、先ず貴方に知って置いて欲しいことがありますわ」
優しい眼差しのまま、少し屈んで。
沙都子はカオスに視線を合わせる。
髪色が同じ少女二人が見つめ合うその様は、まるで姉妹のよう。
沙都子はカオスに視線を合わせる。
髪色が同じ少女二人が見つめ合うその様は、まるで姉妹のよう。
「───愛にも、色々な種類があるということを」
「しゅ…るい……?」
「しゅ…るい……?」
双眸に涙を浮かべて。
じっと、カオスは沙都子の言葉に聞き入る。
翼を持つ美しい少女がじっと聞き入るその様は、神の啓示を待つ天使のよう。
じっと、カオスは沙都子の言葉に聞き入る。
翼を持つ美しい少女がじっと聞き入るその様は、神の啓示を待つ天使のよう。
「貴女の言う通り、愛は時に痛みを伴う時もあるという事です
……私も、親友に分かってもらうために、痛い愛を与えた事がありますわ」
……私も、親友に分かってもらうために、痛い愛を与えた事がありますわ」
でも、それだけじゃない。
沙都子はそう告げると、ぎゅっと。
優しく包みこむ様に、カオスの小さな機体を抱きしめた。
そして、小さな子供をあやす様な仕草で、話を続ける。
沙都子はそう告げると、ぎゅっと。
優しく包みこむ様に、カオスの小さな機体を抱きしめた。
そして、小さな子供をあやす様な仕草で、話を続ける。
「貴方の感じている痛みを、癒せる愛もありますわ」
そして、私は貴方にこの愛を与えてあげられます。
貴方の願いを、何があっても肯定してあげます。
何故なら貴方は、私と近しい願いを持つ人だから。
貴方の願いを、何があっても肯定してあげます。
何故なら貴方は、私と近しい願いを持つ人だから。
「───お、ねぇちゃんも……?」
抱きしめられて。伝わる35度の体温を感じながら。
ゆっくりと、カオスは尋ねた。
後ろに上体を退げ、再び目を合わせてから沙都子は頷く。
やはりその表情は微笑みを浮かべた優しいものだった。
ゆっくりと、カオスは尋ねた。
後ろに上体を退げ、再び目を合わせてから沙都子は頷く。
やはりその表情は微笑みを浮かべた優しいものだった。
「えぇ、この愛を伝えるためなら、どれだけ心が痛んでも我慢できます。
どれだけ悪い子になったとしても、私は諦めず、前に進むことができますわ」
どれだけ悪い子になったとしても、私は諦めず、前に進むことができますわ」
他の何を犠牲にしても。
力強い声だった。
迷いなど欠片も感じない、自分は間違っていない自信があると、伝わってくる声だった。
今のカオスには無くて、なおかつ欲している物をこの人は持っている。
そう信じさせるだけの力が、いま彼女が発した言葉には籠められていた。
力強い声だった。
迷いなど欠片も感じない、自分は間違っていない自信があると、伝わってくる声だった。
今のカオスには無くて、なおかつ欲している物をこの人は持っている。
そう信じさせるだけの力が、いま彼女が発した言葉には籠められていた。
「………おねぇちゃんは、凄いね」
直感的に感じた。
今の自分に必要なのは、賢さでも強さでも無くて。
きっと目の前の少女のような、揺るぎのなさなのだと。
ただの地蟲に、最新鋭エンジェロイドがそう思わされてしまった。
迷い惑っていたカオスにとって。
目的に向かう事に迷いがない強固な沙都子の精神は、輝いて見えてしまった。
でも、それでも。
今の自分に必要なのは、賢さでも強さでも無くて。
きっと目の前の少女のような、揺るぎのなさなのだと。
ただの地蟲に、最新鋭エンジェロイドがそう思わされてしまった。
迷い惑っていたカオスにとって。
目的に向かう事に迷いがない強固な沙都子の精神は、輝いて見えてしまった。
でも、それでも。
「……まだ、迷いがあるようですわね。それが何なのか教えていただけます?」
天秤は確実に傾きつつある。
しかし、カオスの表情の迷いは未だ払拭されていない。
百年以上に渡って惨劇を引き起こしてきた魔女はその事を見逃さない。
此処で彼女の内にある迷いを看過し強引に迫れば、後々必ず計算違いが起きる。
そんな可能性は、今のうちに摘んでおきたかった。
問われたカオスは、僅かに逡巡を見せたが、やがてぽつりと。
しかし、カオスの表情の迷いは未だ払拭されていない。
百年以上に渡って惨劇を引き起こしてきた魔女はその事を見逃さない。
此処で彼女の内にある迷いを看過し強引に迫れば、後々必ず計算違いが起きる。
そんな可能性は、今のうちに摘んでおきたかった。
問われたカオスは、僅かに逡巡を見せたが、やがてぽつりと。
「……悪い子にならなくても、願いを叶える方法はないのかなって……」
そう思ったの。
俯きながら、少女は己の中の迷いを吐露する。
修道服に包まれた小さな肩は、震えていた。
こんなことを言えば今、優しい目の前のお姉ちゃんが変わってしまうのではないか。
空(シナプス)の、マスターの様に。
そんな怯えが見て取れた。
俯きながら、少女は己の中の迷いを吐露する。
修道服に包まれた小さな肩は、震えていた。
こんなことを言えば今、優しい目の前のお姉ちゃんが変わってしまうのではないか。
空(シナプス)の、マスターの様に。
そんな怯えが見て取れた。
「……カオスさん、私が思うに───
貴方にとって本当に重要な事はその事ではありませんわね」
「え……?」
貴方にとって本当に重要な事はその事ではありませんわね」
「え……?」
だから、論点をすり替える。
「貴方が本当に恐れているのは悪い子になる事ではなく。
悪い子になった時に痛い“愛”を与えられること。
つまり、智樹さんに拒絶される事ですわ」
悪い子になった時に痛い“愛”を与えられること。
つまり、智樹さんに拒絶される事ですわ」
どれだけあなたの愛は間違っていないと正当性を説いた所で。
彼女の認識が、今の自分の行いは悪い事である、という認識そのものを変えるのは難しい。
今言いくるめたとしても、結局手を汚すのは彼女だ。
自分の行っている事は悪い事なのではないか、という疑念の発露は避けようがない。
それを認めたうえで、大事なことは────
彼女の認識が、今の自分の行いは悪い事である、という認識そのものを変えるのは難しい。
今言いくるめたとしても、結局手を汚すのは彼女だ。
自分の行っている事は悪い事なのではないか、という疑念の発露は避けようがない。
それを認めたうえで、大事なことは────
「なら、貴方は猶更私達と共に征くべきなのです」
彼女に『仕方ない』と言い訳を作ってあげること。
悪い事をしているというストレスに対する、よすがになってやること。
悪い子になっても、“お姉ちゃんたちが味方になってくれるから大丈夫だ“。
そう思わせること。
悪い事をしているというストレスに対する、よすがになってやること。
悪い子になっても、“お姉ちゃんたちが味方になってくれるから大丈夫だ“。
そう思わせること。
「私達は、貴方が悪い子であったとしても一向に構いません。
貴方が私達と一緒に来てくれるというのなら、私は貴女をいらない。なんて言いませんわ」
貴方が私達と一緒に来てくれるというのなら、私は貴女をいらない。なんて言いませんわ」
目の前の少女は、迷子の子供だ。
もしくは親鳥を探す雛鳥と言ってもいい。
誰からも指針を得られず、幼い躊躇いを解消する方法も知らない。
だから、沙都子の自己の絶対の自信に満ちた態度と言葉は、刷り込みに実に効果的だった。
もしくは親鳥を探す雛鳥と言ってもいい。
誰からも指針を得られず、幼い躊躇いを解消する方法も知らない。
だから、沙都子の自己の絶対の自信に満ちた態度と言葉は、刷り込みに実に効果的だった。
「………でも、願いを叶えられるのは一人だけって言ってた……」
沙都子の言葉を聞くたびに、どんどんカオスの中の天秤は傾いていく。
それほどまでに、沙都子の言葉はカオスにとって心地よかった。
甘い甘い、ジュースの様に毒は広がり、幼い心を犯していく。
それほどまでに、沙都子の言葉はカオスにとって心地よかった。
甘い甘い、ジュースの様に毒は広がり、幼い心を犯していく。
「……そうですわね。願いを叶えられるのは一人だけ。
でもね、覚えていますか?乃亜が二人の男の子を生き返らせたのを」
でもね、覚えていますか?乃亜が二人の男の子を生き返らせたのを」
その言葉に、カオスの記憶からオープニングセレモニーの様子が想起される。
この惨劇の始まりとなった二人の少年の再生と死の一幕。
カオスの認識で言ってもあの二人の少年は確かに死亡しており、その後生き返った。
トリックではない。正真正銘の死者蘇生。
乃亜が願いを叶える力を持っているという、証拠。
この惨劇の始まりとなった二人の少年の再生と死の一幕。
カオスの認識で言ってもあの二人の少年は確かに死亡しており、その後生き返った。
トリックではない。正真正銘の死者蘇生。
乃亜が願いを叶える力を持っているという、証拠。
「乃亜さんにとっては何でもない様に生き返らせていたでしょう?
私はね、あの死者を生き返らせる力と、願いを叶える力は別口なのではないかと思っておりますの」
私はね、あの死者を生き返らせる力と、願いを叶える力は別口なのではないかと思っておりますの」
あれだけあっさりと見せたのだ、乃亜にとっては、死者蘇生は何でもないことなのだろう。
もし願いを叶える力によって蘇生させたのだとしても、死者蘇生は副産物として叶えられる可能性がある、と沙都子は持論を述べた。
ジュースを買って、当たりが出たらもう一本とでも言うかのように。
言うまでも無く、詭弁だった。
もし願いを叶える力によって蘇生させたのだとしても、死者蘇生は副産物として叶えられる可能性がある、と沙都子は持論を述べた。
ジュースを買って、当たりが出たらもう一本とでも言うかのように。
言うまでも無く、詭弁だった。
「私としては最終的に雛見沢に帰る事ができれば目的の半分は達成できます。
もし私がお二人に敗れた場合は、その場合はお二人に願いを叶える権利は御譲りしても宜しいですわ」
「……いいの?」
「えぇ、少なくとも、私にとっては」
もし私がお二人に敗れた場合は、その場合はお二人に願いを叶える権利は御譲りしても宜しいですわ」
「……いいの?」
「えぇ、少なくとも、私にとっては」
本心と虚構を織り交ぜる。
無論沙都子に勝利を、梨花と永遠に雛見沢で暮らすという願いを譲るつもりは無いが。
敢えて、自分が敗れた場合は願いを叶える権利を譲ると宣言した。
それでカオスさんは願いを叶えられるし、私達も死なずに済む。
死なずに生きて帰られれば目的の半分は達成できるというのも、嘘では無かった。
梨花と共に生きて帰れば、自分の力だけで彼女を屈服させられる自負があったからだ。
無論沙都子に勝利を、梨花と永遠に雛見沢で暮らすという願いを譲るつもりは無いが。
敢えて、自分が敗れた場合は願いを叶える権利を譲ると宣言した。
それでカオスさんは願いを叶えられるし、私達も死なずに済む。
死なずに生きて帰られれば目的の半分は達成できるというのも、嘘では無かった。
梨花と共に生きて帰れば、自分の力だけで彼女を屈服させられる自負があったからだ。
「とは言えこれは私達に大分都合のいい考えなのは否めません。
もし願いで叶えられるのが、本当に一つきりなら───
その場合は、カオスさんに選んでいただくほかはありませんわね」
もし願いで叶えられるのが、本当に一つきりなら───
その場合は、カオスさんに選んでいただくほかはありませんわね」
私達を生き返らせるか、それともそのまま願いを叶えてお兄ちゃんのお家に戻るか。
ともすれば沙都子にとっても都合の悪い想定だったが、彼女はそれを口にした。
当然、カオスの表情は曇り、押し黙ってしまう。
だが沙都子に焦りはない。このカオスの反応も想定通り。予定調和でしかないからだ。
ともすれば沙都子にとっても都合の悪い想定だったが、彼女はそれを口にした。
当然、カオスの表情は曇り、押し黙ってしまう。
だが沙都子に焦りはない。このカオスの反応も想定通り。予定調和でしかないからだ。
「……もし仮に、いい子になるための願いではなく、私達を生き返らせてくれるのなら。
カオスさんの大切なお兄ちゃんに私も一緒に謝ってあげますわ」
カオスさんの大切なお兄ちゃんに私も一緒に謝ってあげますわ」
カオスさんは私たちの言葉に従って動いていただけのこと。
カオスさんのやったことが貴方には悪い事に映るかもしれませんが。
彼女に罪は何もない。ただ貴方の為に必死なだけだった。
そう弁護する事を、約束したします。
どこまでも優しい声で、その口約束を、魔女は述べた。
カオスさんのやったことが貴方には悪い事に映るかもしれませんが。
彼女に罪は何もない。ただ貴方の為に必死なだけだった。
そう弁護する事を、約束したします。
どこまでも優しい声で、その口約束を、魔女は述べた。
「……お兄ちゃん、許してくれるかな……?」
縋るような声で、天使は魔女に尋ねる。
かかった、と沙都子は心中でほくそ笑んだ。
全ては計画通り。
誘ってみれば当初描いた絵図の通り、彼女は自分を頼みにしようとしている。
このまま、自分が舗装したレールの上に誘導していく。
かかった、と沙都子は心中でほくそ笑んだ。
全ては計画通り。
誘ってみれば当初描いた絵図の通り、彼女は自分を頼みにしようとしている。
このまま、自分が舗装したレールの上に誘導していく。
「もしかしたら、許してはくれないかもしれませんわね」
その言葉に、びくりとカオスの小さな肩が震える。
落胆と失望がない交ぜになった彩で、二つの瞳が沙都子を見つめてくる。
ここだ、と思った。
百年の惨劇の中で鍛えた、苦楽を共にした仲間すら欺く演技力。
その演技力で作った真摯な態度で、救いの糸を垂らした。
この子は、最初から智樹という方のお家を求めていた訳ではない。
その前に、マスターという方に拒絶されたから、代替として縋ったのだ。
という事はつまり。今の彼女が最も欲している言葉は───
落胆と失望がない交ぜになった彩で、二つの瞳が沙都子を見つめてくる。
ここだ、と思った。
百年の惨劇の中で鍛えた、苦楽を共にした仲間すら欺く演技力。
その演技力で作った真摯な態度で、救いの糸を垂らした。
この子は、最初から智樹という方のお家を求めていた訳ではない。
その前に、マスターという方に拒絶されたから、代替として縋ったのだ。
という事はつまり。今の彼女が最も欲している言葉は───
「───でも、その時は、私がカオスさんのお家になってあげます」
カオスの両眼が見開かれる。
信じられない物を見る目で、沙都子を見つめる。
数十秒の時を置いてやっと、彼女は確認の言葉を発する事が出来た。
信じられない物を見る目で、沙都子を見つめる。
数十秒の時を置いてやっと、彼女は確認の言葉を発する事が出来た。
「……え…と………?おねぇちゃん、が……?」
「えぇ、帰るお家が無いと泣くなら、私と一緒に雛見沢に行きましょう。
そこで梨花と、私と、三人で暮らしましょう。豊かな自然と、気心の知れた私の仲間に。
部活メンバーに、カオスさんを紹介して差し上げます」
「えぇ、帰るお家が無いと泣くなら、私と一緒に雛見沢に行きましょう。
そこで梨花と、私と、三人で暮らしましょう。豊かな自然と、気心の知れた私の仲間に。
部活メンバーに、カオスさんを紹介して差し上げます」
少なくとも私の仲間に、悪い子だからと爪はじきにする様な方はいません。
皆さんそれぞれ手強い精鋭たちですから。
そんな仲間達と、カオスさんも永遠に、ずっとずっと雛見沢で遊んで暮らしましょう。
本当に輝くような笑顔で、そう言った。
その笑顔に嘘は無かった。
最早信仰と言ってもいい、病的なまでの自らの故郷に対する絶対の憧憬がそこにはあった。
完全にネジが外れている。
その語り口や笑顔を見る者が見ればそう評したかもしれない。
だけど。
皆さんそれぞれ手強い精鋭たちですから。
そんな仲間達と、カオスさんも永遠に、ずっとずっと雛見沢で遊んで暮らしましょう。
本当に輝くような笑顔で、そう言った。
その笑顔に嘘は無かった。
最早信仰と言ってもいい、病的なまでの自らの故郷に対する絶対の憧憬がそこにはあった。
完全にネジが外れている。
その語り口や笑顔を見る者が見ればそう評したかもしれない。
だけど。
「───いいの?私、悪い子でも沙都子…おねぇちゃんと一緒にいていいの?」
生みの親にすら『廃棄処分』だと断じられ。
心を許した相手に帰って来るなと拒絶され。
独りきりだと思っているカオスには、沙都子のその笑顔は。
どうしようもなく、輝いて見えてしまった。
心を許した相手に帰って来るなと拒絶され。
独りきりだと思っているカオスには、沙都子のその笑顔は。
どうしようもなく、輝いて見えてしまった。
「えぇ、勿論……あぁ、そうですわ。メリュジーヌさんも、
願いと死者蘇生が別口の力だった場合は……私達を生き返らせて頂けます?」
願いと死者蘇生が別口の力だった場合は……私達を生き返らせて頂けます?」
と、そこでここまで沈黙を保っていたメリュジーヌに、沙都子は話を振る。
カオスから見えない様に、分かっているな?という目配せをして。
彼女から、言葉を促す。
カオスから見えない様に、分かっているな?という目配せをして。
彼女から、言葉を促す。
「……あぁ、君はどうなろうと知った事じゃないけど……
少なくとも、カオス。君は蘇生するように持ち掛けてもいいと思ってる」
少なくとも、カオス。君は蘇生するように持ち掛けてもいいと思ってる」
その言葉に嘘は無かった。
カオスを懐柔するため、という打算もあったが。
彼女にとってもオーロラのための願いは譲れないけれど、それさえ叶えば後はどうなろうとどうでも良かった。
殺し合いが終わった後に、自分が生きていくつもりすら、彼女にはなかった。
オーロラの最期をもっと穏やかになものにする願いが叶うのなら、後はどうでもいい。
何なら全員を生き返らせることができるなら、そう持ち掛けても良かった。
そう思っていたから、彼女は沙都子の望む台詞を吐いた。
カオスを懐柔するため、という打算もあったが。
彼女にとってもオーロラのための願いは譲れないけれど、それさえ叶えば後はどうなろうとどうでも良かった。
殺し合いが終わった後に、自分が生きていくつもりすら、彼女にはなかった。
オーロラの最期をもっと穏やかになものにする願いが叶うのなら、後はどうでもいい。
何なら全員を生き返らせることができるなら、そう持ち掛けても良かった。
そう思っていたから、彼女は沙都子の望む台詞を吐いた。
「私が入っていないのは良しとしましょう。メリュジーヌさんは素直ではありませんから。
という訳です、カオスさん。貴女さえよければ…私達と一緒に来てください」
「あ……」
という訳です、カオスさん。貴女さえよければ…私達と一緒に来てください」
「あ……」
メリュジーヌの意志を確認した後、沙都子は改めて協力を持ちかけた。
そっと、隣に座るカオスの小さな体を、優しく抱きしめて。
そして、耳元で甘く、蕩ける様な声と共に。
そっと、隣に座るカオスの小さな体を、優しく抱きしめて。
そして、耳元で甘く、蕩ける様な声と共に。
「私達が勝つためには、貴方の力が必要なんです」
その言葉を聞いた時、カオスの身体に電気が走った様な錯覚を覚えた。
ここまで誰かに必要とされた事なんて、今迄なかった。
ここまで誰かに必要とされた事なんて、今迄なかった。
───カオス、お前は廃棄処分だ。
───エンジェロイドは帰ってくんなーッ!!
脳内のデータから、これまでで最も痛かった記憶が蘇ってくる。
でも、抱きしめられて伝わってくる沙都子の体温が、彼女の肢体の柔らかさが。
その痛みを、癒していく。
でも、抱きしめられて伝わってくる沙都子の体温が、彼女の肢体の柔らかさが。
その痛みを、癒していく。
───あぁ、そっか。これも…愛なのね。
沙都子の言った通りだった。
痛みを与える愛もあれば、痛みを癒す愛もある。
彼女は、それを自分に教えて、与えてくれたのだ。
それを認識した時、同時に、ついさっきの記憶が浮かび上がってくる。
自分と戦った、帽子の少年の言葉。
自分を惑わせていた、原因が今一度蘇る。
痛みを与える愛もあれば、痛みを癒す愛もある。
彼女は、それを自分に教えて、与えてくれたのだ。
それを認識した時、同時に、ついさっきの記憶が浮かび上がってくる。
自分と戦った、帽子の少年の言葉。
自分を惑わせていた、原因が今一度蘇る。
───そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか。
その言葉を思い出した時。
じくりと、動力部がまた痛んだ。
だから。
じくりと、動力部がまた痛んだ。
だから。
「───うん、私…沙都子おねぇちゃんたちと一緒に行く」
もう私は、痛い愛はいらないの。
帽子のお兄ちゃんの愛よりも、沙都子お姉ちゃんの愛の方がいい。
私は沙都子お姉ちゃんと一緒に行く。
だって、お姉ちゃんは。
私が、悪い事をしても一緒にいてくれるって、そう言ったから。
私が悪い子でも良いって、言ってくれたから。
だから沙都子お姉ちゃんの為に。沙都子お姉ちゃんの言う通り。
一緒に、皆に“痛い“愛を与えてあげるんだ。
もう、そう決めた。
私を助けようと走って来る帽子のお兄ちゃんの姿が何故か頭に浮かんだけど。
今は遠く色褪せていて、直ぐに消えてしまった。
でも、いいよね?
もう私に“痛い“愛はいらないんだから。
帽子のお兄ちゃんの愛よりも、沙都子お姉ちゃんの愛の方がいい。
私は沙都子お姉ちゃんと一緒に行く。
だって、お姉ちゃんは。
私が、悪い事をしても一緒にいてくれるって、そう言ったから。
私が悪い子でも良いって、言ってくれたから。
だから沙都子お姉ちゃんの為に。沙都子お姉ちゃんの言う通り。
一緒に、皆に“痛い“愛を与えてあげるんだ。
もう、そう決めた。
私を助けようと走って来る帽子のお兄ちゃんの姿が何故か頭に浮かんだけど。
今は遠く色褪せていて、直ぐに消えてしまった。
でも、いいよね?
もう私に“痛い“愛はいらないんだから。
■
「ありがとうございました。メリュジーヌさん。
私ひとりでは梨花に夢中で、見落としていたでしょうから」
私ひとりでは梨花に夢中で、見落としていたでしょうから」
けど、まさか貴方の方から持ち掛けてくるとは思いませんでしたわ。
流石私の右腕ですわね。
そう言って、沙都子は共犯者に笑いかけた。
流石私の右腕ですわね。
そう言って、沙都子は共犯者に笑いかけた。
「礼なんていい。今、君の顔を見ると反吐が出そうだ」
「辛辣ですわね。言っておきますが私、あの子に言った言葉は大体本心ですのよ?」
「辛辣ですわね。言っておきますが私、あの子に言った言葉は大体本心ですのよ?」
だから性質が悪いんだ。メリュジーヌは心中で吐き捨てた。
沙都子がカオスを利用する為に近づいたのは間違いないのに。
愛の為に戦うという思想に共感を抱いたのも。
もし彼女が大切な人に拒絶されれば、一緒に故郷に行こうと誘ったのも。
生還さえ叶うのなら、自分が敗北した時は願いの権利を譲ってもいいという言葉すら。
カオスにとって重要な部分は全て本心なのだろう。
最後の三人になるまでずっと一緒にいる、というのも嘘ではないはずだ。
だって、この三人の中で一番弱い彼女が勝とうと思えば。
自分とカオスを潰し合わせるのが、最も達成に近づくのだから。
メリュジーヌも舌を巻くマインドコントロールの手腕だった。
沙都子がカオスを利用する為に近づいたのは間違いないのに。
愛の為に戦うという思想に共感を抱いたのも。
もし彼女が大切な人に拒絶されれば、一緒に故郷に行こうと誘ったのも。
生還さえ叶うのなら、自分が敗北した時は願いの権利を譲ってもいいという言葉すら。
カオスにとって重要な部分は全て本心なのだろう。
最後の三人になるまでずっと一緒にいる、というのも嘘ではないはずだ。
だって、この三人の中で一番弱い彼女が勝とうと思えば。
自分とカオスを潰し合わせるのが、最も達成に近づくのだから。
メリュジーヌも舌を巻くマインドコントロールの手腕だった。
「あの子には私の左腕を担ってもらうために、うんと優しくしてあげようと思います。
あの強さに変身能力。効率的な使い方を教えてあげれば鬼に金棒ですわ」
あの強さに変身能力。効率的な使い方を教えてあげれば鬼に金棒ですわ」
古物商で掘り出し物を見つけた様に、沙都子は上機嫌だった。
カオスの非常に高い戦闘能力に変身能力にこの性悪の入れ知恵が合わさればどんな惨劇が起こるかは想像に難くない。
それを承知の上で、メリュジーヌはカオスの話を持ち掛けた。
優勝に近づくために。
カオスの非常に高い戦闘能力に変身能力にこの性悪の入れ知恵が合わさればどんな惨劇が起こるかは想像に難くない。
それを承知の上で、メリュジーヌはカオスの話を持ち掛けた。
優勝に近づくために。
「…僕はこれから遊撃に出る。それでいいんだね?」
「えぇ、折角これからはカオスさんが私の護衛をして下さるんですもの。
それならメリュジーヌさんには鉾として動いてもらった方が効率的ですわ」
「えぇ、折角これからはカオスさんが私の護衛をして下さるんですもの。
それならメリュジーヌさんには鉾として動いてもらった方が効率的ですわ」
遊撃はメリュジーヌに割り振り、カオスはこれから暫く自分と行動を共にしてもらう。
それが沙都子の決定だった。
下手に別行動を取らせて、また誰かに懐柔されても困るからだ。
それならば、自分の手元に置いておいて更に自分に依存させておきたい。
そんな目論見の下、沙都子は支給されていたイヤリング型の機器をメリュジーヌに渡した。
それが沙都子の決定だった。
下手に別行動を取らせて、また誰かに懐柔されても困るからだ。
それならば、自分の手元に置いておいて更に自分に依存させておきたい。
そんな目論見の下、沙都子は支給されていたイヤリング型の機器をメリュジーヌに渡した。
「通信機ですわ。これで離れていても貴方とお話しできます
説明書を挟んでおきましたから後で確認しておいてください」
説明書を挟んでおきましたから後で確認しておいてください」
両耳につけるイヤリングと同じく、二つで対になっている通信機。
これで単独行動を取っても、直ぐに合流する事ができる。
これで単独行動を取っても、直ぐに合流する事ができる。
「…他の参加者を減らすことに異論は無いけど、考え合っての方針なんだよね」
「勿論、いずれ優勝するのなら……悟飯さんや、
カオスさんも言ってらっしゃった悟空さんとも勝負する事を考えなくてはいけません。
そうなれば、殺害数を稼いでおくことに越したことはありませんわ。何故なら…」
「勿論、いずれ優勝するのなら……悟飯さんや、
カオスさんも言ってらっしゃった悟空さんとも勝負する事を考えなくてはいけません。
そうなれば、殺害数を稼いでおくことに越したことはありませんわ。何故なら…」
恐らく、私の見立てでは早ければ朝の放送。遅くとも次の放送には……
殺し合いを加速させるための特典が発表されると思います。
そんな根拠のない推論を、しかし自信満々に彼女は口にした。
殺し合いを加速させるための特典が発表されると思います。
そんな根拠のない推論を、しかし自信満々に彼女は口にした。
「乃亜さんも言っていたでしょう?忠実で優秀な参加者には見合った評価を与えると。
殺害数上位の参加者には追加で支給品を用意したり、或いは傷の治療を行ったり……」
殺害数上位の参加者には追加で支給品を用意したり、或いは傷の治療を行ったり……」
そう言った特典を経て得られる支給品は、強力な物の可能性も高い。
自分が主催者でも、そう言った殺し合いをした方が得だと言うルールを追加する。
殺し合いの加速と、反乱分子への牽制にもなり、一石二鳥だ。
そして、そんな支給品の中にはメリュジーヌをして全てを賭けて挑まなければ勝てるか分からぬ孫悟飯達にも通じる支給品があるかもしれない。
自分が主催者でも、そう言った殺し合いをした方が得だと言うルールを追加する。
殺し合いの加速と、反乱分子への牽制にもなり、一石二鳥だ。
そして、そんな支給品の中にはメリュジーヌをして全てを賭けて挑まなければ勝てるか分からぬ孫悟飯達にも通じる支給品があるかもしれない。
「ま、この話についてはまだ決まった訳ではないので、話半分でいいですが…
変身能力のあるカオスさんが仲間になってくれたんです。先ずは身近な方で試運転しましょう」
変身能力のあるカオスさんが仲間になってくれたんです。先ずは身近な方で試運転しましょう」
得意げな沙都子の様子に、メリュジーヌは面白くないと言った様子で鼻を鳴らした。
確かに、参加者を減らすことに異論はない。ないが───
確かに、参加者を減らすことに異論はない。ないが───
「沙都子おねぇちゃーん!メリュ子おねぇちゃーん!」
何故真っ先に変身させるのが自分なのか。
憤懣やるかたない思いを抱かずにはいられなかった。
そう、カオスの現在の姿は、メリュジーヌと瓜二つのものになっていた。
憤懣やるかたない思いを抱かずにはいられなかった。
そう、カオスの現在の姿は、メリュジーヌと瓜二つのものになっていた。
「見つけたよ!さっきの子達、みなとの方に行ってた」
「そう、ありがとうございます。カオスさん。
……だ、そうです。メリュジーヌさん。後はよろしくお願いしますわ」
「そう、ありがとうございます。カオスさん。
……だ、そうです。メリュジーヌさん。後はよろしくお願いしますわ」
沙都子に頭を撫でられて嬉しそうに笑顔を浮かべる自分の顔と言うのはメリュジーヌにとってどうにも不快なものだった。
だが当然口には出さず、粛々と出発準備を進める。
カオスは既に沙都子に懐いている。演技では無いだろう。
これなら自分が離れても彼女が沙都子を守る筈だ。
だが当然口には出さず、粛々と出発準備を進める。
カオスは既に沙都子に懐いている。演技では無いだろう。
これなら自分が離れても彼女が沙都子を守る筈だ。
「カオスさんの話では、黒の長髪の男の子は、龍亞さんと同じカードを使う様ですから、
気を付けて。可能なら奪って来てください」
「…君がいずれ僕達を殺すため、かい?」
「まさか、戦力は多いに越したことはないでしょう」
気を付けて。可能なら奪って来てください」
「…君がいずれ僕達を殺すため、かい?」
「まさか、戦力は多いに越したことはないでしょう」
白々しい言葉を吐く同盟者に冷ややかな視線を送りながら、これから向かう方向を見る。
その方角には、先ほど逃げられた対主催達が目指していると見られる港があった。
その方角には、先ほど逃げられた対主催達が目指していると見られる港があった。
「我々は適当な参加者と接触して、貴方のアリバイ作りをさせて頂きますわ。
朝食を用意して待っていますから、放送前にもう一人か二人、お願いします」
朝食を用意して待っていますから、放送前にもう一人か二人、お願いします」
沙都子の立てた計画はこうだ。
本物のメリュジーヌにはこれから既に沙都子の悪評を知っている参加者……
港に集っている者達を襲撃してもらう。
本物のメリュジーヌが暴れている間に、メリュジーヌの姿となったカオスと共に他の参加者に接触する。
メリュジーヌから仕事を果した連絡が入れば、頃合いを見てカオスと入れ替わってもらう。
そして、カオスにはシカマルや一姫、悟空などの邪魔な参加者に再度変身してもらい、本物のメリュジーヌと八百長の勝負をしてもらう。
その後、また頃合いをみてメリュジーヌに変身したカオスに入れ替わってもらい、本物のメリュジーヌは遊撃に徹してもらう。
こうすることによって、メリュジーヌはアリバイがあるまま殺戮に及ぶことができ。
入れ替わりの際に邪魔な参加者の姿で襲わせる事によって参加者間で不和が見込める。
本物のメリュジーヌにはこれから既に沙都子の悪評を知っている参加者……
港に集っている者達を襲撃してもらう。
本物のメリュジーヌが暴れている間に、メリュジーヌの姿となったカオスと共に他の参加者に接触する。
メリュジーヌから仕事を果した連絡が入れば、頃合いを見てカオスと入れ替わってもらう。
そして、カオスにはシカマルや一姫、悟空などの邪魔な参加者に再度変身してもらい、本物のメリュジーヌと八百長の勝負をしてもらう。
その後、また頃合いをみてメリュジーヌに変身したカオスに入れ替わってもらい、本物のメリュジーヌは遊撃に徹してもらう。
こうすることによって、メリュジーヌはアリバイがあるまま殺戮に及ぶことができ。
入れ替わりの際に邪魔な参加者の姿で襲わせる事によって参加者間で不和が見込める。
「人は一度信じたものを疑いなおすというのは難しい生き物ですもの。
まさか、姿を騙られた側と騙った側がグルなんて真相、なおさらですわ」
まさか、姿を騙られた側と騙った側がグルなんて真相、なおさらですわ」
シカマルや一姫の様な勘のいい参加者にバレた場合は、メリュジーヌを呼び戻し、カオスの二人で押しつぶしてしまえばよい。
それだけの戦力がこの二人にはあるのだから。
そして、殺害した参加者はカオスに食べさせて戦力の強化を図る。
つくづくいい拾い物をしたものだと、沙都子は己の天運に身震いする思いだった。
それだけの戦力がこの二人にはあるのだから。
そして、殺害した参加者はカオスに食べさせて戦力の強化を図る。
つくづくいい拾い物をしたものだと、沙都子は己の天運に身震いする思いだった。
「……仕事が終われば連絡する。それじゃあね」
対するメリュジーヌは何処までも冷淡な態度で。
愛想も愛嬌もない事務的なセリフと共に、飛び立とうとする。
だが、先ほどまでと違い、そんな彼女の背に「待って!」と呼びかける声があった。
愛想も愛嬌もない事務的なセリフと共に、飛び立とうとする。
だが、先ほどまでと違い、そんな彼女の背に「待って!」と呼びかける声があった。
「メリュジーヌおねぇちゃん……」
振り返れば、カオスが沙都子の隣で自分を見上げていた。
その瞳は無垢で、無邪気で、メリュジーヌへの信頼があった。
ああ、その様はまるで。
自分が育てた、“彼”のようで───
その瞳は無垢で、無邪気で、メリュジーヌへの信頼があった。
ああ、その様はまるで。
自分が育てた、“彼”のようで───
「あの…沙都子おねぇちゃんは…私が守るから、頑張って」
やめろ。
やめてくれ。そう願わずにはいられなかった。
僕は、君に感謝されるような者ではないのだと。
私は、自分の願いを叶えるが為に。
未だ引き返せたかもしれない君を、魔女に売ったのだから。
僕が沙都子に言わなければ、君の未来はきっと違ったモノになったのだから。
私は君を、地獄の道ずれにしてしまったのだから。
そう言った言葉の数々が、喉元まで昇りつめてくる。
だが、耐えた。耐える事ができてしまった。
オーロラの為なら、彼女の無垢な視線も耐えられた。
やめてくれ。そう願わずにはいられなかった。
僕は、君に感謝されるような者ではないのだと。
私は、自分の願いを叶えるが為に。
未だ引き返せたかもしれない君を、魔女に売ったのだから。
僕が沙都子に言わなければ、君の未来はきっと違ったモノになったのだから。
私は君を、地獄の道ずれにしてしまったのだから。
そう言った言葉の数々が、喉元まで昇りつめてくる。
だが、耐えた。耐える事ができてしまった。
オーロラの為なら、彼女の無垢な視線も耐えられた。
「……あぁ、沙都子の事はよろしくね。カオス」
高度を落として、カオスの頭を撫でる。
それだけで彼女は嬉しそうに頬を染めて、心地よさそうに瞼を細めて。
力強く、頑張ると言ったのだった。
ぎこちない笑みだったが、どうやら彼女に疑念は抱かせなかったらしい。
それだけで彼女は嬉しそうに頬を染めて、心地よさそうに瞼を細めて。
力強く、頑張ると言ったのだった。
ぎこちない笑みだったが、どうやら彼女に疑念は抱かせなかったらしい。
「それじゃ、発艦(で)るよ」
ボッ、と炎の様に、魔力を噴出する。
もう、振り返ることは無い。
もう、振り返ることは無い。
「行く前に念押ししておきますが、できる限り他のマーダーの方は───」
「交戦を避けるんだろう。僕も勝手に他の参加者を減らしてくれる相手を削りたくはない」
「よろしい。気を付けていってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしていますわ」
「交戦を避けるんだろう。僕も勝手に他の参加者を減らしてくれる相手を削りたくはない」
「よろしい。気を付けていってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしていますわ」
沙都子の言葉を無視して。
一瞥もしないまま、飛翔を開始する。
暁の空を切り裂き、沙都子からはあっという間に見えなくなる。
一瞥もしないまま、飛翔を開始する。
暁の空を切り裂き、沙都子からはあっという間に見えなくなる。
「さて、では私達も行きましょうか、カオスさん。
梨花達が私の悪評を広める前に、できる限り他の参加者に会っておきたいですし」
「うんっ!でも、その前に───」
「その前に?」
「もう一回、なでなでして…沙都子おねぇちゃんの愛が欲しいの……」
梨花達が私の悪評を広める前に、できる限り他の参加者に会っておきたいですし」
「うんっ!でも、その前に───」
「その前に?」
「もう一回、なでなでして…沙都子おねぇちゃんの愛が欲しいの……」
何だそんな事かと苦笑して。
メリュジーヌの姿のカオスを、沙都子は優しく撫でた。
本当に、いい拾い物をしたものだ。
カオスは勿論、メリュジーヌもだ。
自分一人では梨花に集中するあまり、カオスの様な他の重要な事を見逃していた。
例え気づいていたとしても、メリュジーヌの飛行速度がなければ追いつけなかった。
仮に追いついていたとしても、彼女の戦闘能力がなければ死んでいただろう。
あぁ本当に、つくづく以て。
メリュジーヌの姿のカオスを、沙都子は優しく撫でた。
本当に、いい拾い物をしたものだ。
カオスは勿論、メリュジーヌもだ。
自分一人では梨花に集中するあまり、カオスの様な他の重要な事を見逃していた。
例え気づいていたとしても、メリュジーヌの飛行速度がなければ追いつけなかった。
仮に追いついていたとしても、彼女の戦闘能力がなければ死んでいただろう。
あぁ本当に、つくづく以て。
「やっぱり貴方は優秀なる私の右腕(きょうはんしゃ)ですわ。メリュジーヌさん?」
一体だれが信じるだろうか。
異聞の空において、最も強く美しいとされた、最古の竜と。
シナプスの最新鋭エンジェロイドを従えているのが、ただの人間の少女など。
異聞の空において、最も強く美しいとされた、最古の竜と。
シナプスの最新鋭エンジェロイドを従えているのが、ただの人間の少女など。
■
身体の奥から、黒い物が溢れそうになる。
気を抜けば、自分が厄災に変わってしまいそうなそんな予感があった。
だが、まだだ。まだ自分は厄災となる訳にはいかない。
まだ、オーロラへの愛がこの身を燃やし尽くすには早すぎるのだから。
気を抜けば、自分が厄災に変わってしまいそうなそんな予感があった。
だが、まだだ。まだ自分は厄災となる訳にはいかない。
まだ、オーロラへの愛がこの身を燃やし尽くすには早すぎるのだから。
───そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか。
竜の五感は、人のそれを遥かに凌駕する。
サトシと言う少年のその発言は、メリュジーヌの耳にも届いていた。
サトシと言う少年のその発言は、メリュジーヌの耳にも届いていた。
「くだらない」
しかし、心にまでは届かない。
彼女は理解しているからだ。
少年の言葉は正しい。正しさは周囲を惹きつける。だけど。
その正しさは決して、オーロラへの救いにはなりえない。
彼等の様な、周囲を惹きつける輝きを持つ者達がいる限り。
オーロラは、決して一番になりえない。
故に彼等ではオーロラは救えない。
オーロラの救いにならないのなら、自分にとってどんな言葉も救いも意味がない。
彼女は理解しているからだ。
少年の言葉は正しい。正しさは周囲を惹きつける。だけど。
その正しさは決して、オーロラへの救いにはなりえない。
彼等の様な、周囲を惹きつける輝きを持つ者達がいる限り。
オーロラは、決して一番になりえない。
故に彼等ではオーロラは救えない。
オーロラの救いにならないのなら、自分にとってどんな言葉も救いも意味がない。
「あぁ、殺してやるとも───」
元より彼女の身は既に未来がない。
生還したとしてもオーロラを喪った今、そう遠くないうちに彼女の身体は厄災と化すか。
それともオーロラと出会う前の腐肉に戻るか、その二択なのだから。
だから命の燃やしどころはここだと既に彼女は定めた。
未だその身は厄災にあらじ、しかし対主催達への暴威として振舞う事に微塵の躊躇もない。
ただ彼女は機械の様に、戦いに身を委ねる。
生還したとしてもオーロラを喪った今、そう遠くないうちに彼女の身体は厄災と化すか。
それともオーロラと出会う前の腐肉に戻るか、その二択なのだから。
だから命の燃やしどころはここだと既に彼女は定めた。
未だその身は厄災にあらじ、しかし対主催達への暴威として振舞う事に微塵の躊躇もない。
ただ彼女は機械の様に、戦いに身を委ねる。
「───全員、暗い沼の底に連れて行こう」
【E-3 モチノキデパート屋上 /1日目/早朝】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:カツオを経由で、悟飯を扇動してもらう。今の不利な私の立場は使えますわ。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:カツオを経由で、悟飯を扇動してもらう。今の不利な私の立場は使えますわ。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
【F-2 /1日目/早朝】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、鎧に罅、自暴自棄(極大)、イライラ
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:港にカチ込み、集まった対主催達を削る。
4:カオス…すまない。
5:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、鎧に罅、自暴自棄(極大)、イライラ
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:港にカチ込み、集まった対主催達を削る。
4:カオス…すまない。
5:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【イヤリング型携帯電話@名探偵コナン】
メリュジーヌに支給。
4~5cm程のイヤリングの形をした携帯電話。
見た目は片方のみの有線イヤホンとキーパッドが付いたイヤリング。
携帯電話の技術進歩に置いて行かれた博士の発明品である。
親機と子機として二対支給されており、通話ボタンを押すだけでお互い話ができるように乃亜に改造されている。
また、番号さえ知っていれば当然通常の電話やスマートフォンとも通話できる。
メリュジーヌに支給。
4~5cm程のイヤリングの形をした携帯電話。
見た目は片方のみの有線イヤホンとキーパッドが付いたイヤリング。
携帯電話の技術進歩に置いて行かれた博士の発明品である。
親機と子機として二対支給されており、通話ボタンを押すだけでお互い話ができるように乃亜に改造されている。
また、番号さえ知っていれば当然通常の電話やスマートフォンとも通話できる。
062:MELTY BLOOD | 投下順に読む | 064:まもるべきもの |
時系列順に読む | ||
058:無情の世界 | 北条沙都子 | 065:館越え |
カオス | ||
メリュジーヌ | 067:暗い水底の精霊達 |