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MELTY BLOOD

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だれでも歓迎! 編集
深い藍色から少しづつ白み始めている空を、私は踊る様に飛ぶ。
未だ月も星も鮮明に見えるけれど、夜明けはそう遠くはない。そんな空だった。
考えてみれば、こんな風に夜空を飛ぶ機会も基本的に引きこもっていた幻想郷(あそこ)ではそうなかったかもしれない。


「ふふ……っ」


笑いがこらえきれない。
それも、こんなに楽しいと思いながら飛ぶことは、もしかしたら初めてかも。
しんちゃんを守るためにしんちゃんを殺した奴と戦った時とは違う。
今の私は自由だった。


「あぁ───楽しいわ、ネモ!」


飛び上がって、沈み始めた月を背に私は、私を止めるというネモという子に叫ぶ。
本で読んだことのある戦車(チャリオッツ)という乗り物を操る、白い服と帽子の男の子。
彼は戦車で空を駆けながら、落ち着いた様子で私の動きを観察してるみたいだった。
まず、彼を壊す。私の初めてのお友達のしんちゃんを生き返らせるために。


「嘘つきでなかったら…………」


実際にこのゲームが始まるときに私に見せて見せた乃亜と。
しんちゃんを生き返らせる方法がある。だけど何も具体的な事は話せない。
そう言ったネモ。どっちが信じられるかなんて、ハッキリしたことだった。
まるで私が機嫌を悪くして、駄駄をこねた時に丸め込もうとするお姉様みたい。
ムカついた。
だから壊す。壊されるその瞬間まで同じことが言えるか試してあげる。
どっちみち私にも勝てない子が、乃亜に勝てるはずがないもの。
これは私のそんな考えから始まった壊しあいだった。


「壊すのが惜しいくらい」


乃亜に逆らおうって言うだけあって、彼は強かった。
少なくとも、空を駆ける戦車は噂に効く天狗くらい早かった。
そしてそんな速さで突進を受けたら私だって多分おしまい。それぐらいの相手だった。
多分人間じゃない。吸血鬼の私でも勝てるか分からない相手。
───壊して見たい、そう思った。



「もう勝ったつもりかい?キロネックスでも毒を与えなければ殺せはしないよ」


何かこの子、時々良く分からない例えをするわね。私はそう思った。
思いながらその手に握った剣を、ぶぅんと振るう。
ビリリ、という手に痺れるような衝撃が走った後に、ほっぺが熱を持つ。
ネモがこれまた本で読んだことのある、人間が使うという武器、銃を撃って来たのだ。
私は流れる血をぺろりと舌で舐めながら、考えを巡らせる。
銃の攻撃は剣で守るのは難しくないけど、威力で言えば弾幕よりもずっと強い。
まともに受ければ、私だって危ないだろう。
受けるとしてもこの攻撃を決めればネモを叩き切れる、そんな時でないといけない。
問題は───


「MOOOOOOOOOOO!!!!」


凄い嘶きと共に、私の前を猛スピードで牛が駆ける。
本当に、びっくりしちゃうくらい早い。ひょっとしたら天狗よりも早いかも。
もし正面からぶつかったら、間違いなく私の負けだと思う。


(むぅ……ちょっとずるい)


物凄い速さで跳びまわっているネモには私が振り回す剣は届かない。
届く位置に入っても、一瞬で駆け抜けて行ってしまうからだ。
無理に追いすがって斬ろうとすれば、あの戦車の周りを巡る雷が襲い掛かって来る。
飛べなくなったら、いよいよ私に勝ち目が無くなってしまう。
だから、無理やり力技で捻じ伏せる事は出来ない。




「でも、私だって──剣を振り回すだけじゃないんだから」


力技でダメなら、他の方法を試せばいい。
まだまだ試したい、今迄殆ど使ったことのない“遊び方”があるんだもん。
私は興奮と一緒に、滑らかに呪文を口ずさんだ。



───禁忌『フォーオブアカインド』



選んだスペルカードはフォーオブアカインド。
陽炎の様に、私の影が四つに増える。
例え、相手の方が私より早くても、このまま囲んで押しつぶす。
剣を持ってるのは私だけだから、どれが本物かはすぐ分かっちゃう。
でも、ネモはそもそも私を殺すつもりがないから問題ない。
問題は、四人に増えた私達の手の届くところに来てくれるかだったけど──。



「あははっ!そうこなくっちゃ!」


ネモは来た。
真っすぐに、私の目を見て。
雷を瞬かせながら、こっちに突っ込んでくる。
でも、私はもう知ってるんだよ、ネモ。
貴方が、私にぶつかるぎりぎりの距離で、スピードを緩めるって事は。
だから、そこを突けば───!


「ほぉらッ!!」


これまでは躱してきた。でも今度はぎりぎりまで躱さない。
掠める位置取りをした後、迷わずに突っ込む。
怖くは無かった。むしろこれまで感じた事がない位胸がドキドキしていた。
半身になって戦車そのものをやり過ごして。
迎撃のための雷が飛んでくるが剣を盾に耐える。


「ぐ、うううううううっ!!」


痛い。吸血鬼の身体でもとっても痛い。
でも、死んでしまう程でもない。それにこれが最初で最後だ。
痛みに耐えながら、翼を降りたたんで一瞬だけ全速力を出す。
そして───目の前に剣を翳しながら、牛さんに体当たりをする。


「くっ!」
「MOO!?」


咄嗟にネモが手綱を引っ張ったおかげで、牛さんにネモにも殆ど傷は無い。
でも、一瞬動きが止められればそれで十分。
重要なのは、この後。


「「あはははははは───!!」」


動きを止めた所に、私の分身二人が突っ込む。
向こうもそれを予想していたのか、ついさっきの様に牛さんの雷が飛び出してくる。
しかも、それだけではない。
後ろから迫る私の分身に向かって、弾幕ごっこの弾の様に水の砲弾を撃って来たのだ。
咄嗟なのに、凄いなって、素直にそう思った。
でも、まだだ。私が狙いは、これからだから。



「───これで、勝ちっ!!」


水の弾幕に撃ち抜かれた私の背後から、もう一体の新たな私が飛び込む。
いける。元々雷で防がれるだろうと前の分身は一人だけだったけど。
ネモの目が届かない後ろには二人用意しておいた。
最初に突っ込む分身から少し離れた、でも重なる位置にもう一人を置いて。
本物の私が一瞬戦車の動きを止めて、最初に突っ込んだ分身たちがネモにやられてから時間差で突っ込む。
作戦は、上手くいった。もう雷も水も出すのが難しそうなくらいネモの近くに飛び込んだ。
できればレーヴァテインを出して攻撃したかったけど、このままぶん殴るのでも十分。
ネモの頭が砕けたお星さまになるか、そうでなくても数秒動きが止まれば本物の私のレーヴァテインで串刺しにできる。
そう思った次の瞬間だった。


「───うそ」


とぼけた声が上がった。分身の、私の声だった。
ネモの頭を粉々にするべく拳を振り上げた私の分身を待っていたのは、銃口だった。
それに気づいて避けようとしてももう遅い。
既にネモは引き金を絞っている途中だったから。
BANG!
大きな音が響くと同時に、分身の私の頭に大穴が空いた。
後ろの私に銃を向けたまま、ネモの目は、牛さんに取りついた私をじっと見つめていた。
分身の私には、振り向きすらしていなかった。


「後ろに目でもあるの!?」


思わず、そんな言葉を漏れたけど。
そんな事を言ってる場合じゃなった。


「MOOOOOOOOO!!!!!」
「きゃあああああああッ!!!!」


驚いて抑えていた手が一瞬緩んだのを見逃さずに、牛さんは大きく啼いて。
そして、私目掛けてぶつかって来た。
私よりもずっとずっと大きな牛さんにぶつかられる。
手に握っていた剣も、取り落として飛んで行ってしまった。
凄い衝撃だった。私の身体はあっという間に宙を舞った。くるくると。
何とか翼で羽ばたいて、墜落こそしなかったけど、体中が痛む。
この痛みも、紅魔館で引きこもっていた時には経験しなかった痛みだ。


「でも……我慢できない程じゃない」


腕も翼も折れてない。
きっと、ネモは手加減したんだと思う。
全く、こんな所をお姉様に見られたら情けない、何て言われちゃうかも。
そう考えながら、ネモの方を見る。
彼は、相変わらず戦車に乗ったまま、空の上で止まって私を見ていた。
攻撃する絶好のチャンスなのに、態々私が調子を立て直すのを待っている様だった。
怒りは、沸かない。だって、多分このままいけば勝つのはネモだろうから。


「このままじゃ、ダメ……」


そう、今のままじゃ勝てない。
ネモに勝てないんじゃ、その後ろの悟空にだって勝てないだろう。
今のままじゃ、しんちゃんを生き返らせてあげられない。
力がいる。
私の、本来の力が。



「………やってみましょうか」



ふっと、笑った。
ここに来てから、ずっとできなかった。
多分乃亜って子が言っていたハンデって奴だと思う。
何時もなら力を使おうと思えば何時でも見えていたもの。
私の、『ありとあらゆるものを破壊する程度の力』
それを使うために必要な、どんなものにもある、『目』が、この島では見えない。
…ううん、本当の事を言えば、たった一つ感じることのできる『目』がある。
だけど、それを壊せば私もただじゃすまない。
その事は、試す前から分かっていた。
あぁ……でも。


「こうした方が──もっと面白いもんね」


このまま、力を使えないまま負けるよりは。
自分の力で倒れた方がいいもん。
すっと、首の近くに手を翳す。
たった一つ、今の私が見えなくても感じ取れる『目』
それは私自身の目だった。
何となくだけど、ハッキリわかっていた。
この賭けに負ければ、私は死ぬ。
でも、勝つことができれば──私は、きっと。



「……見ててね、ネモ」


訝し気に此方を見つめるネモに笑いかける。
そして、開いた掌をゆっくりと握り締めていく。
出来るかどうかは分からない。きっと失敗する可能性の方が高いと思う。
でも、私がこのゲームで勝ち残っていくには、この力が絶対に必要だ。
だから、私は迷わない。


「きゅっとして───」



掴んだ『目』を。
握り締める。



「どっかーん!」



握り締めるのと同時に。
星が瞬くみたいに、紅いしぶきが上がった。
痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い……っ!!
でも、それでも。猛烈な痛みの中で、私はそれを確信した。






────掴んだ。







僕は大した英霊ではない。
少なくとも、戦闘能力で言えば下の上、良くて中の下と言った所か。
成り立ちから言っても幻霊と神霊を掛け合わせて生まれたおかしなサーヴァントだ。
少なくとも万難を排せる英雄には程遠く、この血と戦闘が支配する世界で意志を貫ける英霊かと問われれば、それも心もとない。
少なくとも今の僕は、大時化の海原に放り出された一隻の小舟だ。
それを、強く強く痛感している。



「───ふふ、あははははははっ!すっきりしたぁ……」



首筋から夥しい量の鮮血を流しながら。
目の前に浮かぶ少女───フランドール・スカーレットは無邪気に笑った。
僕は、彼女の事を深く知っている訳ではない。
さっき会ったばかりの少女だ。
でも、今の彼女がさっきまでの彼女とは別の存在である事は一目見ただけで分かった。
月の光を浴びて、血のドレスを纏う彼女の姿は、怖気が走るほどに神秘的で。
つま先から頭に至るまで、全身の肌が泡立つ錯覚を覚えた。



(さっきの彼女のあの行動……)



フランの変貌がさっきの彼女の行動に依るものだという確信がある。
その手を自分の首輪の隣で開いた瞬間、彼女の掌に凄まじい量の魔力……
かどうか定かでないが、凄まじい密度の何某かのエネルギーが集まったのを感じられた。
彼女が開いた掌を握り締めた時、彼女ごと、彼女の周囲の空間が弾けた。
何かを破壊したのだろうと、僕は一連の光景から推察した。
僕達を縛る首輪の機能か、それとも鳥籠であるこの空間か、或いは制限という概念のものか……
それは定かではなかったが、確かなことが一つ。
彼女は、その手に何かを握り締めたのだ。
そして、つかみ取った力で今まさに僕を殺そうとしている。



───勝てないな。これは。



彼女の今しがた“取り戻した”力が推測の通りだとするなら。
それは正しく必中必殺。万物必壊の力だ。
素のキャプテン・ネモならまず間違いなく太刀打ちできない力。
例え神威の車輪があってもそれは変わらない。
そもそも僕は征服王本人ではない。
二頭の雄々しき神牛達は僕を仮の駆り手として認めてくれている様子だが。
騎兵として、単に乗る事ができるのと、乗りこなせる事には天地の隔たりがある。
真の駆り手でない僕は当然前者だ。この宝具の真名解放すら叶わないのがその証明。
土台不可能なのだ。正式に譲渡された訳でもない他人の宝具の真名解放なんて。


(──いや、それは適当な表現じゃない)


この戦車に飛び乗った瞬間から、ある種の直感が働いた。
乃亜が行った措置だろう。正確にはこの会場においては。
正式に譲渡された訳ではない、他人の宝具の真名解放という無理を押し通す事は、可能だ。
だが、無理を押し通すにはそれに見合った賭け金(チップ)がいる。
恐らく、真名解放に必要な魔力量は自身の宝具の少なく見積もっても十数倍。
僕個人の魔力量では到底足りない。故にこれは現実的な方法ではない。



(そう……本当に、僕だけの力なら──)



ある。
あるのだ。今の僕には。
その無理を押し通すだけの力が。
でもそれは、僕にとっても非常にリスクが高いのには変わりない。





「ネモ!撃たせるな!あれはまともに喰らったらオラでもやべぇ!」




考えている最中に、背後で僕達を見守ってくれている悟空の叫びが聞こえた。
彼も、いま彼女が何をしようとしているか見当がついたらしい。そしてその危険性も。
流石だと思った。彼は正しく、上の上に値する戦士だろう。
だが、その言葉は僕を制止する役割としては逆効果だったかもしれない。
何故ならその言葉で、僕は彼女に受けて立つと決めてしまった。



「大丈夫だよ悟空、勝算はある」



その言葉に嘘偽りはない。
けれど、どの程度勝算があるかと問われれば口を噤む程のものだった。
でもそれでも、僕は勝負のテーブルに自分の命をレイズすると決めていた。
冷静な部分がそんな危ない橋を渡るべきではないと制止をかける。
確かに、今の自分の思考に論理性はない。それは自覚している。
だが、降りる訳にはいかない。何故なら今の彼女に打倒乃亜を掲げさせるという事は。
必然的に、そこにある願いを叶える手段を放棄させて。
叶うかどうかも分からぬ脱出計画に、彼女にも命を賭けてもらう前提となるのだから。
脱出計画において、今の僕が彼女に提示できる物は余りにも少ない。
だからせめて単なる楽観ではなく、本気で取り組み、それを達成するためなら命を賭けられることを彼女に示すのが筋と言う物だろう。
だから、僕は降りない。



「───っ!……分かった。死ぬなよ、ネモ」



悟空は僕の意思を汲んでくれたらしい。
彼に向けて薄く笑みを創り向ける。
昔から、笑う事は苦手だった。



「──待っててくれてありがと」



声を掛けられ、其方の方に向き直る。
視線の先には変わらず微笑を浮かべたフランがそこにいた。
だが、彼女の手に集まるエネルギーは先ほどまでとは比べ物にならない。



「いつもと違って乃亜のハンデのせいかな…『目』が見えにくくて……
でも、もういいよ。もうこれで───貴女を壊せる。悪いけど、後がつかえてるから…
そろそろ終わりにしましょう、ネモ」



出血による消耗もある。
それに加えて、優勝を目指すならば彼女の道のりは余りにも長く険しい。
だから、此処からはそう時間を掛けず終わりにしたいと願うのも無理はない話だろう。
その言葉を受けて、僕はおもむろにデイパックに手を伸ばした。
そして、つかみ取ったそれを握り締めて。
彼女の言葉に応える。



「……いいよ。受けて立つ。でも、僕は壊されない。
優勝する為にその力を使って、誰かを一人でも殺せば…君はきっと後戻りできなくなる」



例えそれを君が望んでいても、僕はそれを受け入れる訳にはいかない。
だから、ここで君が頼りにしている能力ごと、君を止める。
僕は迷うことなく、そう宣言した。
そんな僕を、フランは不思議そうな瞳で見つめてくる。



「…分かんないわ。私と貴方はお友達と言う訳でもないのに、どうしてそこまでするの?」



成程、確かに。
もっともな問いかけだ。実際に、僕が彼女について知っている事は殆どない。
でも、じゃあ単に正義感で止めたかと言われれば、そうではない。
だから。



「……そうだね、僕が勝った後、君に教えてあげるよ」





はぐらかす様な物言いに、少しむっとした顔を彼女はするものの。
直ぐに平静を取り戻し、それじゃあ無理ね、と僕に告げた。
その後、少し俯きがちに顔を伏せ。



───だって…アンタは直ぐにコンティニューできなくなるからさ!



彼女が伏せていた顔を上げ、獰猛な笑みを見せる。
それを見て、僕も神威の車輪に魔力を籠める。
彼女が、右手を此方に向けその五指を開く。
それが合図だった。
再び神牛が勇壮な嘶きを発して、夜天を駆ける。
その速度は瞬きの間に音の速度を突破して。
きっとここから一分足らずで勝者が決する。
僕も、きっと彼女も。その確信の下駆けだした。







「ねぇ、悟空お爺ちゃん、ネモさん、大丈夫かな」


一部始終を観戦していたしおが、再び悟空にその問いかけを行った。
しおの目には、ネモもフランも夢か何かの登場人物としか思えなかった。
完全にスケールが違う。何方が勝つか何て分からない。
だから、悟空に聞いてみたのだ。


「……さぁな。オラもネモの奴が何を考えてるのかは分かんねぇ。
でも、あいつが考えがあるって言ってるのは嘘じゃねぇと思う。
それなら、ギリギリまで任せてみようと思うんだ」


勝算はあると言っていたが。
悟空にとっても、ネモが何を狙っているのかは分からない。
ただ、フランが今しがたモノにした攻撃──あれを受ければ自分でも不味い。
ネモで言えば、間違いなく即死だろう。それが分かっていないとも思えない。
故にネモが何を考えているのかは分からないが───鍛え上げた戦闘の直感が告げていた。
ここは、手を出すべきではない。
だから、彼はこうしてこの地で出会った協力者を見守る事を選んだ。
今はただ死地に立つ彼に、短い言葉を送る。


「負けんなよ」








───偽りの仮面(アクルカ)よ……!



神牛が疾走を開始すると同時に、ネモはその手にあった物を迷わず顔に装着した。
それは彼へ送られた一枚の仮面だった。
その銘をアクルカという。
彼の世界とは遠く隔てた亜種並行世界とでもいうべき世界。
そこで覇を唱えていた強国ヤマトの、帝を守護する兵たちの頂点に位置する八柱将のみ着ける事を許された賢者の結晶であり、愚者の末路。
使用者に代償と引き換えに絶大な力を齎すとされる、サーヴァントの宝具に匹敵する兵器。
ネモにとって正真正銘の隠し札ともいえるそれを彼は開帳した。
沈着な普段の彼ならまず見せぬ咆哮と共に。



───扉となりて、根源への道を解き放て!



実はこの仮面の本来の持ち主、八柱将達は仮面の力を三割ほどしか振るう事ができない。
元々仮面はヤマトの民である亜人である彼らが使用する事を想定して設計された物ではないからだ。
仮面(アクルカ)の力を十全に発揮できるのは、亜人達がオンヴィタイカヤンと伝える、人類の為に生み出された代物なのだから。
仮面に最も適合し、十全の能力を発揮できるのは人間の男。
翻ってこの殺し合いに参加するにあたって受肉させられた人の英霊であるネモはその適合者と言えた。
半分はトリトンという神を内包しているが、英霊ネモの『誰でもない者』という特性がそれをカバーする。
故に、ここに。
仮面(アクルカ)は、不撓不屈の航海者に微笑む。
英霊ネモ・トリトンは仮面の担い手、仮面の者(アクルトゥルカ)として霊基を再臨する。



───この先、我が道は修羅道。例え全てを喪おうと、この歩みは止められぬ。
何故なら、我が名は───オシュトル。右近衛大将オシュトルである───!



偽りの仮面(アクルカ)を通して、先代の仮面の担い手の断片が流れ込んでくる。
ハクという男が、友の意志を受け継ぐために仮面の者(アクルトゥルカ)となった一幕。
それを垣間見た瞬間、ネモは奇妙なシンパシーのような物を感じた。



──白(ハク)か…成程、『誰でもない者(ネームレス)』である僕の手に渡る訳だ。



皮肉めいためぐり合わせに、薄く笑みが漏れる。
だが直ぐに表情を引き締めて、ネモは密かに仮面の正当なる所有者に乞うた。
許しもなく勝手にこの仮面を使う無礼、どうか容赦してほしい。
そして、どうかこの殺し合いを止めるために力を貸して欲しい…と。
届くはずのない、願いにも似た嘆願。
しかし、ハクと言う男の代わりに、仮面(アクルカ)は応える。



「真名、解放───!」



ここまで超高速で狙いを定められぬ様に空中を飛び回っていたネモだったが。
この瞬間を以てその均衡が崩れる。
──疑似根源接続。
仮面の力を最大まで引き出し、莫大なリソースを通した局地的な魔力制限の完全解除。
神牛の車輪の威力を最大に発揮するための最後のカードを、今ここに。




「『偽・遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)───!』」




迸る雷が、ネモの魔力の影響で蒼き輝きを放つ。
蒼雷を纏った二頭の神牛が、空の彼方にまで届くような唸りを上げる。
その威容は、ここまで事態の推移を地上で冷静に見極めていた孫悟空ですら僅かに瞠目する程だった。
研ぎ澄まされていく。研磨されていく。洗練されていく。
同時に、食われていく。削ぎ落されていく。失っていく。
当然だ。こんな力、代償が無い方が不自然と言うもの。
だが、それでも今は無視できる。
立てた作戦の遂行は可能、ネモはそう判断した。




「行くよ、フラン」



アイスブルーの蒼雷を身に纏い。
血潮を滾らせ、言葉と共に。
誰でもない航海者は真実一条の雷となり、幼き吸血鬼に相対する。



「ふふふふふ……あははっ!本当に凄いね、貴方
……次で終わりにするつもりだったけど、全部試したくなっちゃった」



しかしてフランもまた、常人では及びもつかない超常の存在。
蒼き雷霆を前にしても、気圧される様子は全くない。
彼女は舌をちろりと出して、悪戯っぽく微笑み。



「それじゃあ私がこうしたら……今の貴女はどうするのかしら?」



───秘弾「そして誰もいなくなるか?」



フランの姿が掻き消える。
姿を透過し、完全に不可視になるという、弾幕ごっこにおいては圧倒的とも呼べる防御法。
それを前にして、ネモは無言だった。
瞼を細め、唇を横一文字に引き絞り───疾走を開始する。



────MOOOOOOOOOOO!!!!!



早く、早く、疾く───!
これまでとは次元の違う速度で、縦横無尽に戦車が白み始めた夜の空を蹂躙する。
音速のさらに先へ。雷速にまで届けと言わんばかりに。
深夜の漆黒から黎明の紺へとグラデーションされつつある空を、蒼き雷霆で塗りつぶす。
雷の魔力を完全開放し、周囲の空間全てを埋め尽くすように蒼雷を迸らせる。



「───きゃああああああ!!」



ここまで超高速で範囲攻撃を為されれば、不可視のスペルカードも意味をなさない。
雷が触れたのだろう、痛苦を表情に露わにして、フランの姿が再び現れる。
ここまでで彼女の劣勢は明らか。だが、戦意は全く陰りを見せていない。
当然だ、彼女にはこの劣勢を一手でひっくり返すことのできる切り札を有しているのだから。


「いたたた……はぁ…やっぱりこれでもダメね、やっぱりあれしかないか」


パンパンと焦げたスカートの裾を払い。
未だ流れる鮮血を拭って、彼女は意を決したようにネモに告げる。


「これ以上長引くと私も本気でバテちゃいそうだし…次で終わりにしましょうか」


何方が勝つにしても、次が最後になる。
フランは、己の言葉とは余りにも不釣り合いな、穏やかな笑みを浮かべて。
今一度、その開いた掌をネモへと向けた。
それに対し、ネモも真っすぐにただ彼女を見つめて頷く。
彼と彼女の間に、憎しみや怒りの感情はなく。
ただ雌雄を決するというシンプルな意志だけがそこにあった。
そして一秒後、二者の最後の交錯が幕を開ける。



「壊すわ、ネモ」
「壊させないよ、フラン」





それが鬨の声となり。
ネモは神威の車輪に魔力を送り込み。
フランは、この戦いにおいて最後となるスペルカードを切る。
放たれた弓の如く空を走破し、命を賭けて、ネモはフランの万象を破壊する力に挑む。
──早い。間違いなく今のネモは天狗よりも早い。
フランの永い吸血鬼生の中でも、ネモの操る戦車は信じられない程の早さだった。
あの速さがある限り、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力は意味をなさない。
物質の存在限界とでもいうべき『目』を認識し、それを握りこむ事で破壊するのが彼女の能力だ。
あの凄まじいスピードで駆けまわられれば、ネモは目視から一瞬で消えてしまう。
『目』を目視せずに能力を使った事がフランには無かった。
実際視界になくても目を認識していれば能力は使えるかと問われれば、
ハンデにより、“少なくともこの島では“無理だろうとフランは直感していた。
故に、仕留めるために十全の状態で能力を使用しようとすれば、ネモの動きを一瞬でも止める必要があった。



───禁忌「カゴメカゴメ」



そして、それを可能とする一手が彼女にはあった。
空中を駆けまわり、フランに突進せんと迫っていたネモと戦車の前に、網の様な力場が現れる。


「………!」


ネモの表情が驚愕に彩られる。
タッチの差だった。恐らく後コンマ一秒でも遅れていれば、彼の姿はフランの視界から掻き消えていただろう。
だがこれで、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力の行使を阻む障害は何もない。



「きゅっとして───」



これで決める。これで決まる。
ネモの『目』は視界に捉えた。もう、彼の最期まで目を離すことは無い。
勝った、フランはその瞬間自分の勝利を疑わなかった。
しかし。


(なんで───) 


ネモの瞳の光が、消えていない。
彼は今ここに詰んだ。それは彼だって分かっている筈だ。
既にこの能力を一度見ているのだから。
フランが見つめている限りこの力は必中必殺。万象必砕。決まれば防ぐ術など無い。
能力を理解していない?彼の程の存在がそれはありえない。
となれば、能力を理解した上で彼は、彼の蒼の瞳は───
死地において揺らぐことなく、力強くフランを見ているという事になる。



───いいわ、ネモ。最後の勝負よ。
───何が来ようと、私は貴方の全部を壊して見せる……!



この瞬間に限っては、しんのすけの事すら頭の中から吹き飛んでいた。
ただ目の前の相手を捻じ伏せてみたい。
一切合切を壊してみたい、フランドール・スカーレットは強く強くそう願った。
その願いに付き動かされる様に、その手を握り締めようとした瞬間の事だった。



「AAAALaLaLaLaLaLaie!!!!!」



びりびりと、フランですら気圧されそうになる程の気迫と声量で、ネモが叫ぶ。
何時もの沈着な彼の声とは思えぬその咆哮は、正しく猿声だった。
そして、そんな彼の声に連動するように、二頭の神牛も猛り狂う。
それと共に、先ほどと比べてもなお凄まじい轟雷がフランのスペルカードへ迸った。


「眩しっ!まさか、突き破るつもり───!」


視界が白一色に染まる。
成程これならば攻防一体。フランの視界を潰しつつ周囲に張り巡らされた縛めも突き破る事ができるだろう。
凄まじい光量だった、常人であれば暫しの間視力を喪失してもおかしくない。



───フ、ランちゃん……





だが、それでもフランは顔を背けようとしなかった。
ここで視線を逸らしてしまえば、カゴメカゴメを破られる。
そうなれば同じ手は二度通用しないだろう。
機動力で圧倒的に負けている以上、これが現時点のフランの唯一の勝ち筋と言っても良かった。
故に、通す。絶対に通して見せる。初めてできたお友達の為に。
譲れない思いと共に、視線だけで射殺すと言わんばかりに敵手を睨みつける。
いける。『目』は見えている。まだ相手はカゴメカゴメの包囲から抜け出せていない。
私の、勝ちだ。


「どっ」


掌を握り締めていく。
数百倍に圧縮された時間。眩い光の中、それでも『目』は目視下のままだ。
カゴメカゴメの一部は雷によって突き破られていたようだが、戦車は未だ包囲の中だ。
戦車のサイズ故に、一手及ばなかったらしい。
眩んだ視界の中で、それでもネモの姿は克明だった。


「かー…」


未だ戦車の座席に腰掛けたネモと、目が合う。
その相貌に、絶望はなかった。揺るがない信念と覚悟だけがそこにあった。
そして、何より。
彼の首には、首輪が無かった。


(───え?)



おかしい。
何故、と思う。
だが、その疑問は既に握り締められようとしていた掌を抑えるには遅すぎた。



「───ん……!?」



ありとあらゆる物を破壊する程度の能力が発動するまでのコンマ一秒の間に。
戦車上にあったネモの姿が、光の粒子となって消え失せる。
能力によって破壊されたのではない。その前に霞の様に消え失せてしまっていた。
その現象を前にして。
首輪のなかったネモ船長の姿と、自分も使えるスペルカードの存在を想起する。



(まさか───!?)



直前のあの凄まじい雷も、カゴメカゴメにこじ開けられた風穴もそうだ。
それが狙いだったとするならば、合点がいく。
その能力はフランにも馴染み深いものだった事も相まって、僅か数秒に満たない時間で、フランはネモが何をしたかを看破した。
尤も、その時既に彼女は二手遅れていたが。



「───僕の勝ちだ、フラン」
「────ッッッ!!!!!」



背後で、ネモの声が響く。
振り返りながらスペルカードを切ろうとするが、その前に銃声が大気に轟く。
銃弾は、フランの翼を正確に撃ち抜いていた。
バランスを崩し、高度を下げながらもネモの方を見るフラン。
彼は、戦車から飛び出し、上空から落下しながらもフランにピタリと狙いをつけていた。
それを確認する事だけが、フランにできた最後の一手となった。
次の瞬間、吸血鬼を駆るための聖別済み13mm爆裂徹甲弾七発が、フランの全身を食いちぎった。








「………はー、また私の負けね」



全身から鮮血を流して、フランドール・スカーレットは天を仰いでいた。
両翼や関節を撃ち抜かれて、戦うどころか暫く立ち上がる事すら困難だろう。
何しろ重機関銃を超える口径の、化け物対峙専門の拳銃で撃ち抜かれたのだ。
再生も遅く、右手など骨が見えて皮一枚で繋がっている有様である。


「……あれ、分身だったのね」


そんな中で首だけ動かして、フランは問いかける。
紅い瞳の先に立つ、勝者はその問いかけにゆっくりと頷いた。
それに伴い、彼の背後に彼と瓜二つな少し色黒の少年が現れる。


「ど、どうも~…ネモ・マリーンでーす…」
「マリーンの霊基の構成情報は僕と殆ど同一だ。背格好も勿論同じ。
本体と端末の魔力量の差は勿論大きいけど…それを誤魔化す手段もあったからね」


そう言いながら、手に持った仮面をくるくると手の中で弄ぶ。
仮面から供給される余剰魔力を分身体であるマリーンに供給する事で、本体との差異を誤魔化したのだ。
通常司令塔であるキャプテン・ネモを除くネモシリーズに戦闘能力はほぼないモノの。
それでも元は同じネモであるため、ごく僅かな時間神威の車輪を操る事位は可能だった。


「…入れ替わったのは、あの雷を出した時?」
「あぁ、あの雷を出したのは君の包囲魔術を破るのと、単なる目くらましだけじゃない。
周りに魔力をばら撒く事で、魔力の探知も狂わせるチャフの役目でもあったんだ」


フランに魔力からネモが本体であるかどうか見破る手段があるか、彼は知らなかったが。
万が一見破られた場合は、ネモの方が後がなかった。
欺き切るか、見破るかで勝敗はまるで逆になっていただろう。
ネモはフランにそう語った。


「…あと、ついでに言えば君の分身が襲ってきたとき、迎撃できたのも単純なトリックだ」
「はい~…私が遠くから見ていましたから~。あ、ネモ・プロフェッサーと言います~」


気の抜けた声で、ネモの背後から更にもう一人、彼に似た少女がぺこりと頭を下げる。
彼女の名はネモ・プロフェッサー。主にネモ達の中でもエンジニアの役割を担っているが、戦闘時には弾道計算なども行う個体だった。
彼女もまた戦闘能力はないものの、本体と視覚共有は行える。
離れた場所で戦闘を見守り、ネモがフランに不意を撃たれそうになった時は弾道計算を済ませた上で視覚共有を行いネモの迎撃の補助を行ったのだった。


「なにそれ、ずるい……」


唇を尖らせ、へそを曲げたようにぷいとフランはそっぽを向いた。
しんのすけが殺された後、不意を撃たれた時とは違う。
正面から戦って、完膚なきまでの敗北を喫したのだ。
二度目の敗北の苦渋は、一度目の時と変わらぬ苦さだった。


「もういい…さっさと壊すなり何なりすれば、でないと私は止められないから」


不貞腐れた様に大地に大の字で寝転がり。
やけっぱちと言う様相で、ぶっきらぼうにフランはネモにそう告げた。
酷く疲れた。勝てない勝負なんて全然楽しくない。もういい。
不貞腐れきったフランの言葉。
当然ネモがそれを受け入れる筈もない、というのは彼女も薄々分かっていたけれど。


「ヤケになるより先に、君には知って置いてもらいたいことがあるんだ。フラン」


投げやりなフランの様子をじっと見つめて。
何かを決心した様子で、ネモは彼女に語り掛ける。
あぁ、そう言えば何故私の為にそこまでするのか、という疑問の。
その答えをまだ聞いていなかったっけ。
フランはこれからネモが語るのはその事だろうと思っていた。
だが、彼の様子は勝利のあとのピロートークとは思えぬほど緊張に満ちたもので。
一度瞼を閉じた後、意を決したように、彼は口を開いた。



「フラン、僕たちはドランゴンボ───」
『───禁止事項に接触しています。即刻行為を停止しなければ、三十秒以内に首輪を爆破します』





彼がその話を口にするのと、首輪が無機質な電子音で応えるのは殆ど同時だった。
フランにも分かった。
ネモは今自分に話しかけただけで、禁止されるような事は何もしていない。
フランは読書家だ。対人経験が乏しい為に幼児の様に他者と接するが、頭の回転や知識量まで幼児のそれかと問われればそんな事は断じてない。
ネモが何かおかしい事をした様には、フランには見えなかった。
となると行きつくのはネモの話した事だ。
ただ話す事すら乃亜にとって不都合な何かを、彼等は知っている。
フランはそう結論を下した。


「……え、ちょ………」


その考えに行きついた直後に、フランの上体がネモの手によって起こされる。
そして、後頭部を片手で支えられながら、顎にクイ、ともう片方の手が添えられる。
そのままゆっくりと、ネモの整った顔立ちが近づいてくる。
フランは何をしようとしているのか尋ねても、静かに、と一言返されただけで。
跳ねのけようとしても手足は撃ち抜かれているため動けず、首から上も彼の腕で固定されている。


(あ……血の匂い……)


直前に、ネモの口の端から血が垂れている事に気づいた。
戦闘で口の中を切ったのか、それともこれから行う事の為に自分から切ったのか。
それは分からなかったが、その一筋の血に目を奪われている間に。


「ん…っ」


二人の唇が重なる。
くぷ。くちゅ、ぷはと粘膜が重なり合い、短い水音が響く。
始めて経験する口づけは、温かい血の…生命の味だった。


(やっぱり、美味しい……もっと……)


ネモの血の味は、いつも飲んでいる人間の味とは殆ど別物に等しい味わいだった。
比べ物にならない程豊潤で、味も良く、飲んでいると軽い酩酊状態(と言っても、彼女に酔った経験など殆ど無いが)になった様な錯覚を覚える。
ちゅうぅ…ちゅく、ちゅるる…こく、こく……。
気づけばいつの間にか舌を絡めて血を啜っていた。


(もっと……もっと欲しぃ……)


それは深手を負った傷を癒そうとする吸血鬼の本能だったのかもしれない。
不躾に唇を重ね合わされた拒否感は当に何処かに消え失せ。
自分から唇を押し付けて、血を舌で出迎える。
下腹が茹だる様に熱を持ち、蕩ける様な心地だった。
そのまま溶け合って一つに成ろうとするように、血と唾液を交換し合う。
そんな風に、夢中で口づけを交わしていた時だった。
頭の中に、ネモの声が響いてきたのは。


『フラン……フラン……聞こえるかい?』
『……?ネモの声、聞こえるけど……何で、私達、今──』


未だ口は塞がったままだ。
それなのに、ネモの声が頭に響いている。
奇妙な感覚だった。


『…まず、いきなり礼節を欠いた真似をしてすまない。謝罪するよ。
でも、必要な措置だったと思ってほしい、これから君に知っていて欲しい事を話すための』
『話って…もしかしてさっきの?』
『そうだ、さっき僕が首輪の警告で止められた…君に直接は話せない事を伝えるために、
君が気絶している間に仮契約をしようとしたけど、上手く行かなかったから…
こうして粘膜の接触で整えたうえで、一時的にパスを繋げたんだ』


申し訳なさそうなネモの声が何だかおかしくフランは思えた。
確かに急に口づけをされたのは驚いたし、多少は拒否感も覚えたけれど。
ちゃんと理由があったのならチャラにできる程度の拒否感ではあった。
……決して、血の味が美味しかったからではない。


『これは念話と言ってね、この方法なら首輪に盗聴機能や盗撮機能があっても問題無い。
ただ、何時乃亜に気取られるか分からないから、手短に話すよ』


ここでフランにもネモが口づけを行った意味が見えてきた。
乃亜に悟られぬ様に、テレパシー…念話で密談をするために必要な手段だったのだろう。
ついでに言えば、傷ついたフランに血を与えて癒す事も目的の一つだったのかもしれない。


「これは僕も悟空から聞いた話なんだけど、乃亜が口封じに躍起な事と、
僕自身酷似した願いを叶える為の儀式を知っているから、一定の信憑性はあると思う』



ネモはそのまま淀みなく、語るべきことを語った。
とは言っても、ドラゴンボールについては彼も聞かされた知識のため、そう多くを語る事は叶わなかったが。
フランはその間じっと異論を挟むことなく彼の言葉に耳を傾けて。
話が終わると、少しの沈黙を挟み、少年に問いかけた。


『話は分かったわ…でも、何で?どうして私なの?
貴方が勝ったら、教えてくれるんでしょ?教えてよ』


フランは、不思議だった。
フランもネモも、接した時間は余りにも短い。
お互いを知っている事は殆どない。
でも、そんなフランの為にネモは相当危ない橋を渡った。
乃亜から直接首輪を爆破すると脅されるほどに。
恐らくだが、最初話すことに逡巡があったのを見るに、警告を受けたのは今回が初めてでは無いだろう。
猶更話そうとした時点で首輪を爆破されてもおかしくはなかったのに。
それでも彼はフランに伝える事を辞めようとはしなかった。
そこまで来ると何故自分にそこまでするのかと、違和感の方が勝ると言う物だ。


『───そう、だね。実を言うと、そこまで論理的な答えは無いんだ』


その声色からは俄かに迷いが感じられたものの。
続く言葉は、確かな意志が籠められていた。


『ただ、君…出会った時に言ってたじゃないか。ここに来て、友達ができたって』


その言葉を聞いて、こうなる前に行ったやりとりがフランの脳裏に蘇る。



───しんちゃん、私に傘をくれたんだ。太陽に当たったらいけないからって。
───それでね…いい子まで殺すのは正義じゃないからって……ボーちゃんもきっとそれは望んでないからって……


今思えば、なぜあんなに一切合切全てを話したのか、フランには分からなかったが。
それでもあの時フランが語った余りにも短い初めてのお友達の交流が。
ネモの方針に影響を及ぼしていたのだった。
キャプテン・ネモは船長だ。
そして船長と言う物は、常に船全体の秩序と規律、そして何より安全を考慮して決定を下さなければならない。
それが例え時に非情な決定であったとしても。
きっと、彼女が人を殺すことを何とも思わない正真正銘の吸血鬼であったなら。
ネモもこうして説得を行おうとはしなかっただろう。



『危険だとしても、君の様な友を想える子が乃亜の手で踊らされるのを見たくなかった。
それなりに迷いはしたけど、結局は我儘な感情論』



己の感情をそうラベリングして。
少年はその後に、でもそれでいいんだと続けた。


『自分の感情に従うからこそ……実際に危ない橋を躊躇いなく渡れた。
…命も張らずに口先だけで信用してくれと言う相手なんて、君も信用したくないだろう?』


自分達について来れば確実にしんのすけを救えるとは限らない。
でも、僕達が口先だけで君を丸め来ようとしている訳ではないのは分かって欲しい。
その事を伝える為の賭けでもあった。
ネモは、そう語った。


『……もう一つは?二つあるって言ってたわよね?』


話を聞いて、八割ほど合点がいった様子のフランだったが。
まだ彼が語っていない、もう一つの理由を尋ねた。
フランの問いかけに、ネモはまた僅かな間沈黙して。
ここにはいない誰かに思いを馳せる様な声で、もう一つの理由を語った。



『これはさっき話した訳よりももっと個人的な理由なんだけど…
僕に大切なことを伝えてくれた人も……君と同じ吸血種だったんだ』
『ふーん、それってネモの好きな人?』



ぶっと噴き出す音が聞こえた。



『違うよ』
『ホントに?』
『本当だよ……まぁ……その人がいなければ、僕は僕としてここにはいなかっただろうね』
『よく分かんない』




歯切れの悪い言葉に、釈然としないフラン。
そんな彼女の様子に、口づけを続けていなければ苦笑を漏らしていただろう。
そう思いながら、ネモは数秒ほど、その女性の事を想起した。



───断る。人類が滅んだとしても、それは人類の自業自得だ。僕が力を貸す義理は無い。
───それに、人類を助けた所で、また新たな悲劇を生むだけだ。徒労だよ。



キャプテン・ネモの苦渋と後悔に満ちた人生。
その記憶で一杯のトリトンに、彼女はそれでも飽きることなく話し続けた。



───人類は、悲劇ばかりを生み出すものではありません。
───貴方が首を縦に振ってくれるまで、私は貴方にそう伝え続けましょう。



自身がその恩恵を受けた事はないのに、それでも彼女はそう唱え続けた。
やがて自分がその説得に心を動かされて、消失した世界を取り戻そうとする若者達に協力する事を決めるまで。
きっと、彼女と自分。フランとしんのすけを重ねてしまったのだろう。



『まぁ兎に角…なおさら君を切り捨てたくはなかった。
僕の大切な人(マスター)と同じ、人と歩もうとした君を』



これが、僕が話せる全部だ。
そう言って、ネモは話を締めくくった。
その声は、最初に出会った時と変わらない、意志が籠っていた。



『…………』



話が語り終えられてから、フランは暫しの間無言だった。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
ぐるぐると、目まぐるしく考えを巡らせる。
しんちゃんが一番喜ぶ選択は何なのだろうと考えて。
その答えは、そう時間を置かずに既に出た。


『ネモ』


短く、名前を呼ぶ。
しんのすけの様に、お友達になってくれるかは分からないけれど。
それでも、彼の言葉を信じてもいい。
そう思ったから。



『───いいよ、貴方が生きてるうちは、殺し合いに乗るのはやめておくわ』



それが、彼女の出した答えだった。
それを伝えると、ぷは、と。重ね合わせられていた唇が離れる。
離して早々、自分の手足を動かして見た。
ネモの血の影響か、既に傷は癒えつつあり、動かす事は問題なくできた。
だが、その代わりに強烈な渇きに襲われる。栄養をつけなきゃ、フランは考えた。


「フラン……その、僕を信じてくれて、え、ちょっ───!」
「ごちゃごちゃいう前に、もっと血をちょうだいっ」


何か宣おうとする口を、先手を取って封じて。
有無を言わさず、押し倒した。
その後、肌がツヤツヤと光沢を放つまで栄養補給に勤しんだのは言うまでもない。







「おめぇら、口と口くっつけて何やってんだ。気持ち悪ぃな」
「君、確か妻帯者だったよね」



少し経った後、どこかげっそりとやつれた様子のネモと、それを呆れた様子で見つめる悟空としおの姿があった。
悟空からしてもネモの無茶は明らかだったためひやひや物だったが、上手く話しは纏まった様だった。
それについては間違いなく朗報だったのだが……


「けどよ、乃亜の奴もやるもんだなぁ。もうおめぇの念話っちゅうのを封じてくるなんてよぉ。話してる内容もバレたんかな?」
「どうだろうね。まだ僕の首輪が爆破されていない辺り、限りなく黒に近い灰色って判断したのかもしれない。まぁ、バレて居なくても会話の内容なんて凡そ察しがつくだろうし」


あの後すぐに、首輪からの警告が鳴った。
『禁止事項に接触しました。再度禁止事項に接触した場合警告なしで首輪の爆破を行われます』、と。
予期していた事ではあった。例え会話の内容が乃亜側に漏れずとも。
ついさっきまでゲームに乗る事を公言していたフランが穏やかな様子で自分達と接して知れば何某かの密談があったのは明らかだ。
疑わしきは罰せよ、で首輪の警告を行うだけで十分な牽制になる。

「何にせよ、同じ手はもう使えないだろうね」


それが意味する所は、つまり。
ネモは一枚限りのカードを使ってしまったという事を意味する。
と、そこでフランの視線に気が付いた。
バツの悪そうな、本当に自分に使ってよかったのか、そう問う様な眼差し。
それを見て、肩を竦めながらネモは口を開く。


「心配ないよ。乃亜にも脇が甘い所があるのが分かっただけで収穫だ。
それに、これは結果論だけど、フランの能力を考えれば決して悪いトレードじゃない」


フランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』
この島に来た当初は使えなかったが、現在は使えるようになったという。
ネモ相手には生憎不発ではあったが、後天的に能力が使えるようになったという事は。
彼女の力は、乃亜の科したハンデにも手が届く可能性があるという事に他ならない。
ともすれば、ハンデさえどうにかすれば、首輪の破壊さえ視野に入って来る。



「あんまり期待されても困るけどね。今はまたネモ達の『目』も見えなくなってるし、
多分、ハンデってのをちゃんと壊せたわけじゃないと思う」
「それでも…僕はこの選択に後悔はしていないよ。少なくとも前進だ」


生まれて初めてプレッシャーというものを感じたのか、彼女にしては本当に珍しい事に謙遜を行うフラン。
だが、それを加味しても意味のない選択では無かったと、ネモは断言した。
後はこれで、彼女がこのまま自分達に同行してくれれば言うことは無いのだが───



「それで、フラン。
君はまだ、しんのすけという男の子の仇を追う。それでいいんだね」
「うん。ネモ達には悪いけど……私はやっぱりしんちゃんを殺した奴を許せない。
そいつ…ジャックって奴?と決着をつけないと、貴方達とは一緒にはいけない」



彼女は、それを否定した。
しんのすけを殺した相手を許せない。
そいつと決着をつけるまでは、ネモ達と一緒に行くことはできない。
殺伐とした復讐の道行きだ。
殺す事を躊躇しない彼女と一緒に行けば、ネモ達の信用にも関わる。


「貴女達は、貴方達の戦いをしなくちゃ」


同行を提案したら何故か諭される始末。
彼女の決定は揺らぎそうもなかった。
それからそれに、と前置きをして、フランは爆弾発言を繰り出す。



「それに…私はまだずっと対主催ってのをやるのを決めたわけじゃないもん。
と言うか多分、ネモ。貴方が死んだらまた優勝しようとすると思う」
「お、おいおい。おめぇなぁ……」


誰でもいい訳じゃない。
貴方だから話に乗るの。貴女以外の人間が誘っても、多分聞かないわ。
彼女はそんな旨のセリフを続けた。
それを聞いた悟空が指さしながら、大丈夫かこいつ、とネモに視線を送る。
視線を送られたネモは、悟空とフランをそれぞれ一瞥した後、ゆっくりと一度頷いて。



「問題ないよ、僕が生きていれば何も問題ない」



そう言ったのだった。
彼は分かっていたのだ。もし自分が死んだら、という条件の裏に込められた思いを。
これで自分は死ぬ訳にはいかなくなった。
死ななければ、彼女が再び凶行に及ぶ危険性は下がったと言えるのだから。
だが、その後「ただし」と言葉を重ねる。



「フラン、生憎僕らは殺し合いに乗った君をずっと見張って置く余裕がない。
もし君が、今後も殺し合いに乗ったと耳に入ったら……僕が責任を以て君と決着をつける」



殺し合いに乗ったままのフランを連れまわすわけにはいかない。
拘束したとしても、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力を有する彼女にはそれほど効果が見込めるかは分からない。
もし連れまわせたとしても、その後の自分達の行動が著しく制限されてしまう。
フランの見張りにリソースを割かれ、首輪の解除も進まなくなるだろう。
武装解除すれば限りなく危険性の下がるしおとは訳が違う。
彼は船長として最悪の想定もしておかなければならなかった。


「うん、いいわ。その時はまた壊しあいましょう」


もしもう一度殺し合いに乗れば、お前には容赦しない。
その旨の発言を聞かされても、特段フランは気分を害した様子は無かった。
彼女の視点から言っても、それは当然の措置だと思ったからだ。


「でも…そうね。今はそんな気分になれないし、もし心配なら───指切りしましょ」



そう言って彼女はメイドに教えてもらったというまじないをしようと、小指を差し出してくる。
約束を行う時にするらしいそのお呪いは、ネモにとっては馴染みの薄いものだった。
だが、やがて決心したように彼も小指を差し出し、ピンと立った小指に自分の小指を絡める。



「指切げんまん、嘘ついたらハリセンボン飲―ます!。指切った」



見た目相応の元気な声で。
フランドールとネモは約束と言う名の契約を交わす。
それが終わると、これで大丈夫だと、少女は朗らかに笑った。
その時は、見た目相応の少女の様だとネモは思った。
指切が終わると共に、くるりと吸血鬼の少女は身を翻し、その矮躯が浮かび上がる。



「それじゃあね、ネモ、悟空」
「あぁ、ちょっと待ってくれ、フラン」


飛び去ろうとする少女にネモがあるものを放りなげる。
それはくるくると弧をかいて、受け止めようと突き出したフランの両手に収まった。
投げ渡されたそれは、フランにはなじみの深くない、ネモが扱っていた銃の様な太い筒状の何かだった。


「それはテキオー灯と言う道具らしい。君が太陽が苦手な体質かは分からないけど……
紫外線にも効果があるらしいから、念のため持っていくと言い」


引き金部分に取り付けられたスイッチを押すと、鈍い光がフランを包んだ。
この光を浴びていれば、一回で三時間程効果があるという。
日光が弱点であるフランにとって、嬉しい餞別であった。


「…代わりと言っては何だけど、二つ頼みがある」
「ん、なーに?」
「もし、道中君が争いに巻き込まれている対主催の子がいたら───」


助けになってやって欲しい。
その言葉が最後まで紡がれることは無かった。
それよりも早く、それは無理よ、と。
フランは否定の言葉を放っていたから。


「弱くて壊れやすい人間を守って戦うなんて、もう再度と御免だもの。
それに……本当はね、妖怪は人間を食べるものなのよ。今はそんな気分じゃないけど」
「…………」


要請に対する答えは、拒絶。
だが、ネモはそんなフランの拒絶の言葉を否定できなかった。
彼女がどんな体験をして、何を思って言っているのか理解できていたから。



「…………分かった。でも此方の方は聞いて欲しい。
もし、君が一緒にいてもいい、そう思う人と出会ったら──その時は一緒に行ってくれ」



そう頼みを口にして幼き航海者は、破壊の吸血姫の赤い瞳をじっと見つめた。
アイスブルーと、ルビーの瞳が幾度目かの交わりを迎えて。
そして、しばらく見つめ合った後──根負けしたように吸血姫が一度頷いた。
その後ぼそりと「そんな子、いるかしら」と漏らしていたけど。
ともあれ分かったと、了承の意志を示した。


「それじゃあね、ネモ。私、もう行くわ」
「……あぁ、僕達のこれからの進路はさっき伝えた通りだ。少なくとも正午から午後にかけては西のエリア…海馬コーポレーションの辺りにいると思う」


ネモも悟空も、乃亜の言葉に従い殺戮を行うというのであれば制止したが。
友の弔い合戦と言われれば、無理に引き留めることもできなかった。
しかしもし彼女が復讐よりも自分達との同行を優先するのなら。
合流できるように、これから差し当たっての行先は伝えておく。


「うん、分かった。色々ありがと。ネモ、悟空」


差し当たっての目的地は映画館。そこで下手人の手がかりを探す事とする。
そう決めた吸血鬼の少女は、背中を向けて、白み始めた空を昇っていく。
舞空術を制限されている悟空も、神威の車輪を仕舞ったネモも、それを見送る事しかできない。
だが彼女はその中途で何かを思い出したように止まり、ネモに最後の問いかけを行った。


「ねぇ……ネモ」
「……何だい、フラン」
「もし、しんちゃんの仇を討って貴女達とまた会ったら、その時は───」



────私を、船に乗せてくれる?
少女はそう尋ねた。
尋ねられた少年は、薄く笑みをこぼして。



「あぁ、待ってる」



振り返っていなかったため、フランの表情は伺えなかった。
ただ、その後暫く言葉に詰まった様に彼女は固まって。
その後に最後に一言残して、ネモ達の前から去っていった。




───絶対、また逢いましょう、と。









「行っちゃったね。良かったのかなぁ」


そう零したのは、この場において最もフランの眼中になかった少女だった。
そんなしおの疑問に答えたのは悟空だった。


「そうだな。まぁ無理やり連れて行ってもどっかで逃げちまっただろうし……
オラたちがさっさと首輪を外して、助けにいってやらねぇとな。そうだろネモ」


悟空にとってもフランを一人で行かせるのは不安があったが。
本人が仇を討つのだと言ってきかない以上は、行かせるほかは無いだろう。
無理やり力で押さえつけて連れて行ったところで、少し目を離したら逃げ出してしまうのは想像に難くない。
普段なら気の探知でそう言ったアクシデントも防げるが、この島ではそれも望めない。
故に、彼女の意志を尊重する事とした。
……合理的な視点でいうのであれば、マーダーに転びかねない彼女が返り討ちにあっても対主催としてはそこまで影響がない事もある。


「……そう、だね。直ぐにでも出発───」


悟空の言葉に肯首し、直ぐに出発しようとした、その時だった。
ふらりと、ネモの身体がブレて、立ち眩みの様に倒れかける。



「おっと!ん~……ちょっと休んでから行った方がいいな、おめぇ。
フランと戦った疲れ、まだ抜けてねぇだろ?」


倒れかけたネモの身体を、力強く悟空が支える。
そして頭の天辺からつま先まで何度か確認した後、休憩してからいく事を提案した。
当然だ、直ぐに吸血行為で回復できる吸血鬼のフランとネモは違う。
その上、戦闘後に大量の血液を彼女に提供している以上、消耗しない筈がない。
それに加えてもう一つ、消耗を強いられた要因を悟空は見抜いていた。
ネモの耳元に顔を近づけて、低い声でぼそりと囁く。



「……おめぇ、もうあの仮面は使うんじゃねぇ。死んじまうぞ」
「そう、だね……善処するよ」


霊体化できないほぼ受肉体とは言え、サーヴァントであるネモを最も消耗させた要因。
それは彼が使った仮面(アクルカ)にあった。
ヤマトに伝わる仮面は全て帝が本来とは違う目的で作った言わばコピー品だ。
それでも絶大な力を使用者に授けるモノの、そんな代物がリスクが無いはずがない。
仮面は、魂を喰らうのだ。そして、喰らわれ切った者は塩の柱となり消滅する。
つまり、これをつけた時点で穏やかな最期はまず望めない。
戦いに生き。戦いに死ぬこととなる。
だがそれでもネモはそれをつける事を躊躇わなかった。


「…………」


今回仮面は外れ、ネモの手の中にある。
だが、次付けた時は脳と癒着し、外れなくなる。そんな確信めいた予感があった。
そうなれば、時限爆弾のスイッチが入ったも同然だ。
生に執着はない。しかし死にたいわけでは無かった。
でも、きっと。また時が来れば、彼は仮面を付ける事を厭わないだろう。
キャプテン・ネモと言う英霊は。偏屈で、人間不信で。それでいて寂しがり屋で。
そして何より、支配と蹂躙に抗う信念の英雄なのだから。


【B-6 教会内/1日目/早朝】

【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、精神疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2: もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3: しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。


【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:満腹、腕に裂傷(処置済み)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:ネモの奴無茶するなぁ。オラ冷や冷やしたぞぉ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。


【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:一先ず彼女を止められたみたいで良かった…かな。
2:教会→図書館の順で調べた後、学校に向かう。
3:首輪の解析のためのサンプルが欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおを警戒しつつも保護はする。今後の扱いも考えていく。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(中)全身羽と血だらけ
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:天使さんに、やられちゃった怪我の治療もした方がいいよね。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。



061:夜明け後 投下順に読む 063:愛ほど歪んだ呪いは無い
時系列順に読む
052:きみにできるあらゆること キャプテン・ネモ 077:不平等な現実だけが、平等に与えられる
孫悟空
神戸しお
フランドール・スカーレット 075:緋色の研究

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