□ □ □
「写影さん、ありがとうございました」
桃華はそう言って、写影に深く頭を下げた。
マサオの爆発を目の当たりにした時は動転してしまったが。
それでも何とか、マサオは自分達を許してくれた。
それも、この、大人びた少年のお陰だと、桃華は感謝してもしきれなかった。
だが、当の写影は、
マサオの爆発を目の当たりにした時は動転してしまったが。
それでも何とか、マサオは自分達を許してくれた。
それも、この、大人びた少年のお陰だと、桃華は感謝してもしきれなかった。
だが、当の写影は、
「………いや、その、色々勢いで口に出ただけだから。余り言われると、その」
何だか歯切れが悪かった。
帽子を深くかぶって、微妙に桃華達から顔を背けている。
それを見た桃華は怪訝な顔で、ハーマイオニーと顔を見合わせた。
帽子を深くかぶって、微妙に桃華達から顔を背けている。
それを見た桃華は怪訝な顔で、ハーマイオニーと顔を見合わせた。
「どうしたんでしょう?写影さん」
「多分、勢いで口に出た言葉が、今になって恥ずかしくなってるんじゃない?」
「多分、勢いで口に出た言葉が、今になって恥ずかしくなってるんじゃない?」
ぐさっ。
ハーマイオニーがその言葉を口にした時、誰かの胸に突き刺さる様な音が響いた。
もう一度写影の方に桃華が視線を移せば、帽子で隠しきれていない耳元が赤くなって、ぷるぷると震えていた。
どうやら、ハーマイオニーの見立ては正しいらしい。
年相応の少年らしいところもあるんだなと、くすりと笑みが漏れた。
ハーマイオニーがその言葉を口にした時、誰かの胸に突き刺さる様な音が響いた。
もう一度写影の方に桃華が視線を移せば、帽子で隠しきれていない耳元が赤くなって、ぷるぷると震えていた。
どうやら、ハーマイオニーの見立ては正しいらしい。
年相応の少年らしいところもあるんだなと、くすりと笑みが漏れた。
「恥ずかしがる必要なんてございませんわ。写影さん」
「桃華、うん。恥ずかしがってはいないんだけど、でもちょっと、その」
「少なくとも、マサオさんを助けたいと言った写影さんは、そう……
ヒーローみたいだって、私はそう思いました」
「…………うん、ありがと」
「桃華、うん。恥ずかしがってはいないんだけど、でもちょっと、その」
「少なくとも、マサオさんを助けたいと言った写影さんは、そう……
ヒーローみたいだって、私はそう思いました」
「…………うん、ありがと」
そう言われると、少しだけ帽子をずらして。
羞恥で赤くなった顔を少しだけ覗かせて何とか写影は言葉を返した。
羞恥で赤くなった顔を少しだけ覗かせて何とか写影は言葉を返した。
「……二人とも、もうそろそろ、その辺でいいかしら」
そんな二人に、どこか呆れた様子でハーマイオニーが声を掛ける。
一先ず脅威をやり過ごし、話は纏まったものの、まだ全く気は抜けない状況である。
今は一刻も早く、フリーレンと合流しなければならない。
各々が気持ちを切り替える。
一先ず脅威をやり過ごし、話は纏まったものの、まだ全く気は抜けない状況である。
今は一刻も早く、フリーレンと合流しなければならない。
各々が気持ちを切り替える。
「マサオは僕が背負う。桃華やハーマイオニーはいつでも能力を使えるようにしておいた方がいい」
フリーレンがいない今、自衛のための力があるのは桃華とハーマイオニーだ。
それもあのリンリンの様な怪物が相手では心もとないが……できるだけ彼女達が即時に動けるようにしておいた方がいい。
写影のその判断に、二人が頷く。
だがそこに、異論を唱える者がいた。
それもあのリンリンの様な怪物が相手では心もとないが……できるだけ彼女達が即時に動けるようにしておいた方がいい。
写影のその判断に、二人が頷く。
だがそこに、異論を唱える者がいた。
「ぼ、ぼく!自分で歩けるよ!!」
マサオは、両手で握りこぶしを作り、そう叫んだ。
確かに、マサオが自分の足で動いてくれれば写影も楽だし、即座に動けるが……
写影はじっとマサオの目を見てから尋ねた。
確かに、マサオが自分の足で動いてくれれば写影も楽だし、即座に動けるが……
写影はじっとマサオの目を見てから尋ねた。
「………マサオ、大丈夫なんだね?」
「うん、僕だって……しんちゃんと一緒に沢山冒険してきたもん!!」
「うん、僕だって……しんちゃんと一緒に沢山冒険してきたもん!!」
意気軒昂でそう告げるマサオに、ハーマイオニーは反論しようとする。
此処にいるメンバーはマサオよりも全員一回り年が上だ。
半数が女子とは言え、合わせるのは過酷だろうし、移動ペースも落ちてしまう。
そう言った旨の事を、彼女は言おうとした。
此処にいるメンバーはマサオよりも全員一回り年が上だ。
半数が女子とは言え、合わせるのは過酷だろうし、移動ペースも落ちてしまう。
そう言った旨の事を、彼女は言おうとした。
「いや、ハーマイオニー。どの道僕がマサオを担げば移動する速さはそんなに変わらないよ」
だが写影は、マサオの側に立った。
マサオを担げば体力は普通の少年でしかない写影の速度は半減するし、
それに元より、この会場にはヒトを超えた参加者が闊歩している。
マサオを背負うか背負わないかは、誤差でしかない。
そう言われれば、ハーマイオニーも否とは言えなかった。
マサオを担げば体力は普通の少年でしかない写影の速度は半減するし、
それに元より、この会場にはヒトを超えた参加者が闊歩している。
マサオを背負うか背負わないかは、誤差でしかない。
そう言われれば、ハーマイオニーも否とは言えなかった。
「……分かったわ。確かに、あの巨人の子みたいなのに出くわしたら大差ないでしょうね」
「うん、リスクはあまり変わらない。それならマサオの選択を尊重したい」
「うん、リスクはあまり変わらない。それならマサオの選択を尊重したい」
理詰めに拘るハーマイオニーもその言葉に納得の姿勢を見せ、場の意見が一つにまとまる。
フリーレンがあの隈取の少年に勝利していれば、自分達を探しているだろう。
空を飛んできているだろうから、建物の上に昇るか、スペクテッドの遠視を使ってもいい。
一先ずは身を隠しつつ、フリーレンやガッシュとの合流を目指す。
北条沙都子の作ってくれた時間のお陰で態勢は立て直すことができた。
後はスペクテッドを上手く使えば、不意の遭遇を避けられ、再合流を果たせる筈だ。
ピンポイントで、自分達の居場所を把握できるマーダーがいない限り────
フリーレンがあの隈取の少年に勝利していれば、自分達を探しているだろう。
空を飛んできているだろうから、建物の上に昇るか、スペクテッドの遠視を使ってもいい。
一先ずは身を隠しつつ、フリーレンやガッシュとの合流を目指す。
北条沙都子の作ってくれた時間のお陰で態勢は立て直すことができた。
後はスペクテッドを上手く使えば、不意の遭遇を避けられ、再合流を果たせる筈だ。
ピンポイントで、自分達の居場所を把握できるマーダーがいない限り────
そう思った、十秒後の事だった。
ずん!と地揺れの様な音と、振動が響く。
まさか、と全員が思った。
いや、だとしても、居場所がバレたわけではない筈だ。
このまま家の中で隠れていれば、やり過ごせる。焦って飛び出す方が危険だ。
ずん!と地揺れの様な音と、振動が響く。
まさか、と全員が思った。
いや、だとしても、居場所がバレたわけではない筈だ。
このまま家の中で隠れていれば、やり過ごせる。焦って飛び出す方が危険だ。
「あっ!?」
声にするでもなく、全員の意志が一つとなり、息を潜めていた中で。
マサオが、何かを思い出したように声を発する。
一同の視線が集中する中、青ざめた顔で、マサオは思い出した事を告げた。
マサオが、何かを思い出したように声を発する。
一同の視線が集中する中、青ざめた顔で、マサオは思い出した事を告げた。
「あ、あの子……あのリンリンって子………確か、他の人の居場所が分かる機械を……」
それを聞いた瞬間、全員の血の気が引く。
それならば隠れるのではなく、一刻も早くその場を離れるべきだった。
もし、マサオの言っている事が本当ならば────
それならば隠れるのではなく、一刻も早くその場を離れるべきだった。
もし、マサオの言っている事が本当ならば────
「マサオォオオオオオオオオ~~~!!!!!」
ドン!!!
轟音と衝撃が、家の中の少年少女を襲った。
写影達が身を寄せていた民家の壁が、爆ぜたのだ。
桃華が咄嗟にウェザーリポートを出さなければ、瓦礫や木片が彼らを貫いていただろう。
だが、それは悪夢の始まりを告げる開幕ベルに過ぎない。
轟音と衝撃が、家の中の少年少女を襲った。
写影達が身を寄せていた民家の壁が、爆ぜたのだ。
桃華が咄嗟にウェザーリポートを出さなければ、瓦礫や木片が彼らを貫いていただろう。
だが、それは悪夢の始まりを告げる開幕ベルに過ぎない。
「マサオォオオオオオ!!!助けに来たよ!!」
四皇。
悪神。
ナチュラル・ボーン・デストロイヤー。
人間、五歳。
半壊した民家から見えた、少女───シャーロット・リンリンの巨躯が。
“絶望”の具現として、少年少女の前に立ちふさがる。
悪神。
ナチュラル・ボーン・デストロイヤー。
人間、五歳。
半壊した民家から見えた、少女───シャーロット・リンリンの巨躯が。
“絶望”の具現として、少年少女の前に立ちふさがる。
□ □ □
ピッピッと光点を映す機械をその手に持ち。
獰猛で残酷な殺意を瞳に滾らせながら、リンリンは写影達を睨みつける。
獰猛で残酷な殺意を瞳に滾らせながら、リンリンは写影達を睨みつける。
「………っ!!」
それだけで竦みあがって、腰が抜けそうになる。
それどころか緊張とストレスで嘔吐してしまいそうだった。
きっとその場にいる誰もが、そう思っていただろう。
写影達はその威容に威圧され、リンリンが口を開くまで微動だにする事ができなかった。
それどころか緊張とストレスで嘔吐してしまいそうだった。
きっとその場にいる誰もが、そう思っていただろう。
写影達はその威容に威圧され、リンリンが口を開くまで微動だにする事ができなかった。
「………エスターを殺すだけじゃなくて、マサオまで攫いやがって……」
エスターと言う少女を殺したのは全くの冤罪だが、マサオを連れ出したのは事実だ。
だから、反論できない。弁明しなければならない時であるにもかかわらず。
写影は、指先一つ動かす事ができなかった。
そんな、一秒後の生存すら保証されていない、死地の中で。
だから、反論できない。弁明しなければならない時であるにもかかわらず。
写影は、指先一つ動かす事ができなかった。
そんな、一秒後の生存すら保証されていない、死地の中で。
「それは、誤解ですわ」
櫻井桃華は、毅然とした態度で幼き暴君の前へと進み出た。
その背後に、守護霊であるスタンドを佇ませて。
近づくだけで気が遠くなる威圧感を放つ、怒り狂った悪神に、灰被りの少女は対峙する。
その背後に、守護霊であるスタンドを佇ませて。
近づくだけで気が遠くなる威圧感を放つ、怒り狂った悪神に、灰被りの少女は対峙する。
「………どうか、話を聞いてもらえないでしょうか」
あるべく刺激しない様にゆっくりと、柔らかな声で。
表情は穏やかに、ファンに向けるように。日々のレッスンの成果を発揮する。
その上で、対話を望む意志をはっきりと伝える。
身体の頭の天辺からつま先に至るまでの勇気をかき集めて、桃華はリンリンに懇願した。
きっと、何かの間違いだ。写影さんも私も、そんな事はしていない。
それとなくマサオを庇いつつ、どうか対話の糸口を掴むことを試みる。
だが、しかし。
表情は穏やかに、ファンに向けるように。日々のレッスンの成果を発揮する。
その上で、対話を望む意志をはっきりと伝える。
身体の頭の天辺からつま先に至るまでの勇気をかき集めて、桃華はリンリンに懇願した。
きっと、何かの間違いだ。写影さんも私も、そんな事はしていない。
それとなくマサオを庇いつつ、どうか対話の糸口を掴むことを試みる。
だが、しかし。
「何を……ごちゃごちゃと………!」
リンリンが話を聞き入れる筈がなかった。
当然だ。だって、話を聞き入れればリンリンにとっての真実に致命的な矛盾が生じる。
エスター殺害の犯人は櫻井桃華。
実際の事実がどうであれ、リンリンにとっての“真実”はそうでなくてはならない。
でなければ───直視してしまう。
エスター殺害の真相を、ひいてはあの日いなくなった羊の家の顛末を。
それだけは、リンリンにとって絶対に受け入れられない事だった。
当然だ。だって、話を聞き入れればリンリンにとっての真実に致命的な矛盾が生じる。
エスター殺害の犯人は櫻井桃華。
実際の事実がどうであれ、リンリンにとっての“真実”はそうでなくてはならない。
でなければ───直視してしまう。
エスター殺害の真相を、ひいてはあの日いなくなった羊の家の顛末を。
それだけは、リンリンにとって絶対に受け入れられない事だった。
「さっさと……エスターを殺した報いを受けろォ!!!!」
腕を振り上げる。
交渉は失敗した。と言うより、元々成功する筈のない試みだった。
リンリン本人が、偽りの事実を真実としようとしている限り。
だから当然の如く、彼女は桃華達にとっての災厄と化す。
交渉は失敗した。と言うより、元々成功する筈のない試みだった。
リンリン本人が、偽りの事実を真実としようとしている限り。
だから当然の如く、彼女は桃華達にとっての災厄と化す。
「マサオ!今助けるからね!!!」
怪獣の様な唸りを上げて、リンリンが拳を振り上げる。
それに真っ先に対応したのは、やはり桃華だった。
それに真っ先に対応したのは、やはり桃華だった。
「ウェザーさん!」
例え能力であっても呼び捨てにできないのは、彼女の育ちの良さ故か。
それとも、スタンドを通して持ち主の断片を垣間見たからか。
それは定かではないが、リンリンが腕を振り上げるよりも早く、桃華は行動に移していた。
スタンドの名を叫び、それに伴い『ウェザー・リポート』が始動する。
それとも、スタンドを通して持ち主の断片を垣間見たからか。
それは定かではないが、リンリンが腕を振り上げるよりも早く、桃華は行動に移していた。
スタンドの名を叫び、それに伴い『ウェザー・リポート』が始動する。
「彼女の周囲を集中豪雨!」
桃華がまず切った手は、リンリンの周囲に雨雲を作り、雨を降らせるという手だった。
当然、雨粒などで未来の四皇であるリンリンが痛痒を覚えることは無い。
当然、雨粒などで未来の四皇であるリンリンが痛痒を覚えることは無い。
「うぉッ!?な、何だこの雨、見えねえっ!!」
だが、ウェザーリポートは30キロ先のハイウェイをピンポイントで止めるだけの豪雨を降らせる事ができる。
100ミリを超える猛烈な雨。
それはリンリンを止めるには、近距離パワータイプのスタンドが殴り掛かるより余程的確な一手だった。
100ミリを超える降雨量は、常人であれば目を開いて数メートル先を視認する事すら困難だ。
猛烈な雨で視界がぼやけるか、或いは瞼を持つ生物として本能から目を瞑ってしまう。
齢6歳にして巨人族の戦士を投げ飛ばす怪物の膂力を持つリンリンであっても、雨粒はどうする事も出来ない。
100ミリを超える猛烈な雨。
それはリンリンを止めるには、近距離パワータイプのスタンドが殴り掛かるより余程的確な一手だった。
100ミリを超える降雨量は、常人であれば目を開いて数メートル先を視認する事すら困難だ。
猛烈な雨で視界がぼやけるか、或いは瞼を持つ生物として本能から目を瞑ってしまう。
齢6歳にして巨人族の戦士を投げ飛ばす怪物の膂力を持つリンリンであっても、雨粒はどうする事も出来ない。
「皆さんは……私が守ります!」
作り出した隙に、桃華が切り込む。
ウェザー・リポートが狼狽するリンリンの元へと切り込み、拳を振るう。
ウェザー・リポートが狼狽するリンリンの元へと切り込み、拳を振るう。
「うぉおおッ!?」
リンリンの脇に、ウェザー・リポートの拳が吸い込まれる。
まるで、鉄の塊をノックした様だ。桃華はその感触に戦慄した。
およそ人が持つ肌の強度ではない。下手に殴れば。此方の手が壊れてしまう。
まるで、鉄の塊をノックした様だ。桃華はその感触に戦慄した。
およそ人が持つ肌の強度ではない。下手に殴れば。此方の手が壊れてしまう。
「最大風速───!!」
一瞬の判断。桃華はウェザー・リポートのその手にハリケーンを纏わせる。
風速280メートル、人は愚か大型車両や民家ですら倒壊の恐れがある風圧で以て、リンリンを打ち据える。
風速280メートル、人は愚か大型車両や民家ですら倒壊の恐れがある風圧で以て、リンリンを打ち据える。
「ぐ、ぉッ!?」
相変わらず、ダメージはない様子だった。血の気が下がる。
だが、生み出した気流の渦はリンリンの平衡感覚を狂わせ、転倒させることに成功した。
その隙を縫うように、不可視の魔術が空間を奔る。
だが、生み出した気流の渦はリンリンの平衡感覚を狂わせ、転倒させることに成功した。
その隙を縫うように、不可視の魔術が空間を奔る。
「イモビラス(動くな)!!」
ハーマイオニーが桃華の奮戦により恐慌から復帰し、杖を構えていた。
そして、彼女の呪文は遥かに格上の魔女、リーゼロッテにすら一瞬ではあるが通用した。
逃走するなら、今しかない。全員の心が一つになる。
そして、彼女の呪文は遥かに格上の魔女、リーゼロッテにすら一瞬ではあるが通用した。
逃走するなら、今しかない。全員の心が一つになる。
「今だ!皆!!」
「うぇえええええ~ん!!」
「うぇえええええ~ん!!」
同じく恐慌から復帰した写影が叫び、マサオを火事場の馬鹿力で担ぎ上げる。
この少女は話が通じない。逃げの一手を打つほかない。
全員が半壊した民家から飛び出す。
民家に入った時から、靴を履きっぱなしだったのが幸いした。
この少女は話が通じない。逃げの一手を打つほかない。
全員が半壊した民家から飛び出す。
民家に入った時から、靴を履きっぱなしだったのが幸いした。
(どうすれば……また、映画館の時の様に私が皆さんを………!?)
逼迫した状況の中で、桃華は必死に考えを巡らせていた。
このまま闘っても勝ち目は殆ど無いだろう。
でも、相手に此方の居場所が分かる機械がある限り、隠れても無駄だ。
となると、後思いつくのは映画館の時の様にハリケーンを生み出し、飛んで逃げる事だが…
このまま闘っても勝ち目は殆ど無いだろう。
でも、相手に此方の居場所が分かる機械がある限り、隠れても無駄だ。
となると、後思いつくのは映画館の時の様にハリケーンを生み出し、飛んで逃げる事だが…
(ダメ、ですわ。あの時とは何もかも違う。フリーレンさんがいなければ…
それに、マサオさん……また映画館の時のような事になったら………)
それに、マサオさん……また映画館の時のような事になったら………)
映画館の時はその場にいた四人を飛ばし、現在の同行者も桃華を入れて四人。
人数だけならばあの時と同じだが、条件が違う。
あの時いた桃華、写影、マサオの重量は変わらない。
しかしハーマイオニーと赤ん坊ではハーマイオニーのほうがずっと体重が重いのだ。
それに、敵が桃華たちを侮り、無視してくれていたあの時とは違う。
リンリンは桃華たちを逃がすつもりは絶対にないよう注視していた。
そのプレッシャーの中、準備無しで飛翔すればまた弾きだされる者がでるかもしれない。
それに、リンリンからもし何らかの妨害を受ければ、全員の命が危ない。
人数だけならばあの時と同じだが、条件が違う。
あの時いた桃華、写影、マサオの重量は変わらない。
しかしハーマイオニーと赤ん坊ではハーマイオニーのほうがずっと体重が重いのだ。
それに、敵が桃華たちを侮り、無視してくれていたあの時とは違う。
リンリンは桃華たちを逃がすつもりは絶対にないよう注視していた。
そのプレッシャーの中、準備無しで飛翔すればまた弾きだされる者がでるかもしれない。
それに、リンリンからもし何らかの妨害を受ければ、全員の命が危ない。
(でも……今は沙都子さんもいない以上、もうこうするしか……!!)
桃華は、腹を括った。
リスクは大きいが、飛んで逃げるのに成功すれば、全滅は少なくとも避けられる。
どの道このままではジリ貧だ。賭けに出るほかなかった。
リスクは大きいが、飛んで逃げるのに成功すれば、全滅は少なくとも避けられる。
どの道このままではジリ貧だ。賭けに出るほかなかった。
「皆さん、私の周りに集まってください!」
集合の指示と共に、桃華はリンリンの頭上に作り出した雨雲に加え、更に雷雲を作り出す。
これから逃走を行うにあたって、妨害されないようにするためだ。
写影たちも桃華の意図を察し、脱兎のように彼女のそばへと集合する。
映画館や、我愛羅に襲撃を受けた際の経験が生きた。
これから逃走を行うにあたって、妨害されないようにするためだ。
写影たちも桃華の意図を察し、脱兎のように彼女のそばへと集合する。
映画館や、我愛羅に襲撃を受けた際の経験が生きた。
(どうか、ご無事でいてくださいまし!!)
殺してしまう事がないようスタンドパワーを調節し、リンリンが死なないように祈りつつ、
悪神を黙らせるべく、雷雲から雷を発射した。
悪神を黙らせるべく、雷雲から雷を発射した。
「待て、逃げるなあああああ!!!!ッ!?ぎゃああああああッ!!!」
リンリンは敵が逃げようとしているのを察し、桃華たちに飛び掛かって来ようとする。
だが、それよりも早く雷雲から伸びた一条の雷霆は、誘導弾のようにリンリンへと着弾した。
先ほどまで無敵の耐久力を誇ったリンリンが、初めて痛痒を感じさせる叫び声を上げて膝をつく。
今だ。チャンスは今しかない。
だが、それよりも早く雷雲から伸びた一条の雷霆は、誘導弾のようにリンリンへと着弾した。
先ほどまで無敵の耐久力を誇ったリンリンが、初めて痛痒を感じさせる叫び声を上げて膝をつく。
今だ。チャンスは今しかない。
「最大風速───」
作り出した時間を使って、再び最大風速のハリケーンを作り出す。
同じ手はもう二度と通用しないだろう。きっとこれが最初で最後のチャンス。
桃華たち四人を中心として、ハリケーンを発生させる。
いける。まだリンリンは電気ショックの痺れが抜けていないのか膝をついたままだ。
桃華は咄嗟に写影と、傍らのマサオの手を握った。ハーマイオニーも桃華の背中に抱き着く。
これで準備は整った。
全開のスタンドパワーによって生まれた暴風が四人の身体が、空へと押し上げる──!
同じ手はもう二度と通用しないだろう。きっとこれが最初で最後のチャンス。
桃華たち四人を中心として、ハリケーンを発生させる。
いける。まだリンリンは電気ショックの痺れが抜けていないのか膝をついたままだ。
桃華は咄嗟に写影と、傍らのマサオの手を握った。ハーマイオニーも桃華の背中に抱き着く。
これで準備は整った。
全開のスタンドパワーによって生まれた暴風が四人の身体が、空へと押し上げる──!
「ッ!!ダメだ!!桃華ッッ!!!」
その時、先んじて動いたのは写影だった。
半ば体当たりするように、桃華へと身体をぶつける。
それによって集中が途切れ、作り出したハリケーンが霧散してしまった。
まだそれ程高度はなかったため、着地には問題なかったものの。
何をするのかという思いは、その場の写影を除いた全員が思わずにはいられなかった。
その真意は写影に尋ねるよりも早く、雷という形で示される。
半ば体当たりするように、桃華へと身体をぶつける。
それによって集中が途切れ、作り出したハリケーンが霧散してしまった。
まだそれ程高度はなかったため、着地には問題なかったものの。
何をするのかという思いは、その場の写影を除いた全員が思わずにはいられなかった。
その真意は写影に尋ねるよりも早く、雷という形で示される。
ゴオオオオオンッ!!!
さっきリンリンに放ったものと同じ雷が、さっきまで桃華達がいた場所を貫いていた。
何故?ウェザー・リポートの操作を誤ったのか?桃華の脳裏が困惑で埋め尽くされる。
だが、状況は彼女の想像よりもなお悪く進行していたのだった。
何故?ウェザー・リポートの操作を誤ったのか?桃華の脳裏が困惑で埋め尽くされる。
だが、状況は彼女の想像よりもなお悪く進行していたのだった。
「マザーのやってた手品がおれにも出来た…………」
『ママー!!』
『ママー!!』
未だ雷撃の痺れが抜けていないのか、膝をついたままのリンリン。
彼女の傍らに浮かび上がる、先ほど桃華が作った雷雲。
その雷雲に、ファンシーな表情が浮かんでいた。
とてもポップでファンシーな絵面だったが、桃華達にとって恐怖以外の何物でもなかった。
彼女の傍らに浮かび上がる、先ほど桃華が作った雷雲。
その雷雲に、ファンシーな表情が浮かんでいた。
とてもポップでファンシーな絵面だったが、桃華達にとって恐怖以外の何物でもなかった。
「きっとマザーも、お前らを許すなって、そう言ってるんだ………」
シャーロット・リンリンの未来である四皇ビッグ・マム。
彼女はソルソルの実という悪魔の実の能力者である。
六歳の誕生日の日より得たその能力は──自身や他者の魂を用い、無機物に命を吹き込む。
魂を与えられた無機物はホーミーズと言う名の生命体となり、マムの敵に裁きを下す。
マムは海軍や海賊たちからその能力により『天候を支配する女』として恐れられた。
リンリンはまだ羽化を迎えていない幼体、練度は四皇となった彼女に遠く及ばずとも。
既に、弱冠六歳にしてその才能を開花させていた。
彼女は桃華のウェザー・リポートが生み出した雨雲に無意識のうちに魂を吹き込み、制御を完全に奪っていたのだ。
彼女はソルソルの実という悪魔の実の能力者である。
六歳の誕生日の日より得たその能力は──自身や他者の魂を用い、無機物に命を吹き込む。
魂を与えられた無機物はホーミーズと言う名の生命体となり、マムの敵に裁きを下す。
マムは海軍や海賊たちからその能力により『天候を支配する女』として恐れられた。
リンリンはまだ羽化を迎えていない幼体、練度は四皇となった彼女に遠く及ばずとも。
既に、弱冠六歳にしてその才能を開花させていた。
彼女は桃華のウェザー・リポートが生み出した雨雲に無意識のうちに魂を吹き込み、制御を完全に奪っていたのだ。
「ゼウ~~~ス!!!マサオを取り戻してから、そいつらをブッ殺せ~~~!!!!」
『は~い、ママ~!!!』
『は~い、ママ~!!!』
今だ痺れの抜けない自身の代わりに。
魂を分けた雷雲に、始動の号令をかける。
それに伴いゼウスと命名された雷雲は笑顔を浮かべて、命令の遂行にかかった。
魂を分けた雷雲に、始動の号令をかける。
それに伴いゼウスと命名された雷雲は笑顔を浮かべて、命令の遂行にかかった。
『どけ~~~!!!』
バチバチと雲のボディにスパークを瞬かせ、ゼウスは雷撃を放った。
「みんな、右によけろッ!」
攻撃に合わせ、写影の指示が飛ぶ。まるで攻撃の軌道を予見しているかの様だった。
ハーマイオニーと桃華が、彼の指示に従い身を翻す。
だが、独りだけ歩幅の関係で遅れる者がいた。
ハーマイオニーと桃華が、彼の指示に従い身を翻す。
だが、独りだけ歩幅の関係で遅れる者がいた。
「ひぃいい~~~!!!」
マサオだ。マサオだけは、ゼウスの攻撃までに十分な距離を駆ける事ができなかった。
バリバリと空間を裂く音が、周囲に響き渡る。
飛びのいた写影達と、取り残されたマサオの間に境界線の様に雷が迸る。
バリバリと空間を裂く音が、周囲に響き渡る。
飛びのいた写影達と、取り残されたマサオの間に境界線の様に雷が迸る。
「マサオさん!!」
「た、助けてぇ~~~!!!」
「た、助けてぇ~~~!!!」
桃華が手を伸ばすが、当然それが届くことは無い。
マサオは襟口をあんぐりと口を開けたゼウスに咥えられて、連れ去れていく。
マサオは襟口をあんぐりと口を開けたゼウスに咥えられて、連れ去れていく。
『連れてきたよ、ママー!!』
「あ………ぁ…………」
「あ………ぁ…………」
連れ去られた先で、マサオは再び悪夢と対面した。
取り返した自分を嬉しそうに見つめる、人食いの怪物。
リンリンはにっこりと笑って、マサオを安心させようと口を開く。
取り返した自分を嬉しそうに見つめる、人食いの怪物。
リンリンはにっこりと笑って、マサオを安心させようと口を開く。
「マサオ!怪我とかない!大丈夫!?」
その言葉を聞いた瞬間、マサオは気が遠くなりそうだった。
この子、まだ僕の親分のつもりでいる。
守るだとかなんだとか、それなら桃華さん達を襲うのを止めてくれればいいのだ。
そう言った内容の言葉を口にしようとして。
この子、まだ僕の親分のつもりでいる。
守るだとかなんだとか、それなら桃華さん達を襲うのを止めてくれればいいのだ。
そう言った内容の言葉を口にしようとして。
「あいつらは……絶対おれがぶっ殺してやるからな………!!!!」
「……ち、ちが……やめて………」
「……ち、ちが……やめて………」
蚊の鳴くような声で否定して、リンリンの凶行を止めようとする。
違うんだ。あの時咄嗟に口に出ただけで。桃華さん達は関係ないんだ。
そう言おうとしたけど、言葉が出てこない。
違うんだ。あの時咄嗟に口に出ただけで。桃華さん達は関係ないんだ。
そう言おうとしたけど、言葉が出てこない。
「違う……何が違うのマサオ?
……………お前……おれにウソついた訳じゃないだろ……!?」
「………っ、ぁ………ち、違う、よ………その、話を聞いて………」
「じゃあ早く話せよ!エスターを殺したのは誰!!!」
「そ、そのぉ……それはぁ………」
……………お前……おれにウソついた訳じゃないだろ……!?」
「………っ、ぁ………ち、違う、よ………その、話を聞いて………」
「じゃあ早く話せよ!エスターを殺したのは誰!!!」
「そ、そのぉ……それはぁ………」
築かれたちっぽけな勇気の砦は、悪神の一睨みで崩壊した。
ガチガチと歯の根がかみ合わず、まともに言葉を発する事ができない。
桃華達の助命を乞えるのは自分しかいない。それは分かっているのに。
真実を言ったら殺される。間違いなく殺される。それを確信してしまったが故に。
結局の所、佐藤マサオは今までと何も変わる事無く無力だった。
自分を許してくれた。助けを求めてもいいのだと言ってくれた写影達を助けたい。
それは偽らざる本心だ。
だが実際の行動としては、涙をとめどなく流しながら、話を引き延ばす事しかできない。
その間に、自分と写影をお助けしてくれる都合のいい誰かが来ることを祈りながら。
だがリンリンは見てわかるように苛立っていて、もう二、三分もすれば再び写影達に襲い掛かるだろう。
ガチガチと歯の根がかみ合わず、まともに言葉を発する事ができない。
桃華達の助命を乞えるのは自分しかいない。それは分かっているのに。
真実を言ったら殺される。間違いなく殺される。それを確信してしまったが故に。
結局の所、佐藤マサオは今までと何も変わる事無く無力だった。
自分を許してくれた。助けを求めてもいいのだと言ってくれた写影達を助けたい。
それは偽らざる本心だ。
だが実際の行動としては、涙をとめどなく流しながら、話を引き延ばす事しかできない。
その間に、自分と写影をお助けしてくれる都合のいい誰かが来ることを祈りながら。
だがリンリンは見てわかるように苛立っていて、もう二、三分もすれば再び写影達に襲い掛かるだろう。
「エスターは……ぐすっ……えぐっ………」
想いなどでは、何も変える事はできない。
□ □ □
佐藤マサオと時を同じくして。
絶望と言う名の死病を、櫻井桃華は罹患しかけていた。
だって、もう。こんなのどうしようもない。
唯一の活路だったのだ、飛んで逃げるという方法は。
だがそれも、あの意志を持つ雷雲の出現によって封じられた。
飛んでいるところを雷で狙い撃ちされれば、間違いなく全滅だ。
もしくは、雲に乗ってあの少女は追いかけてくるかもしれない。
下手をすれば、逃走の為に作った暴風すら、彼女は支配下に置いてしまうかもしれない。
絶望と言う名の死病を、櫻井桃華は罹患しかけていた。
だって、もう。こんなのどうしようもない。
唯一の活路だったのだ、飛んで逃げるという方法は。
だがそれも、あの意志を持つ雷雲の出現によって封じられた。
飛んでいるところを雷で狙い撃ちされれば、間違いなく全滅だ。
もしくは、雲に乗ってあの少女は追いかけてくるかもしれない。
下手をすれば、逃走の為に作った暴風すら、彼女は支配下に置いてしまうかもしれない。
(…どうする。どうすれば。先ずはマサオさんを。いやそれより、あの雲の方を。
でも、今動いたらあの女の子も。フリーレンさんやガッシュさん。どうすれ、ば)
でも、今動いたらあの女の子も。フリーレンさんやガッシュさん。どうすれ、ば)
思考が纏まらない上に、悪い想像ばかりが膨らんでいく。
何をどうしようと不正解。袋小路の行き止まりに辿り着いた様な気がして。
彼女の精神の均衡(キャパシティ)は、既に限界を迎えつつあった。
傍らのハーマイオニーに視線を移して見れば、彼女も同じような状態だった。
聡明であるがゆえに、自分達が限りなく詰み(チェック)にハマっている事を理解してしまっている。
末期症状の諦観へと至るまで、もう数十秒も猶予はなかった。
そんな時だった。
何をどうしようと不正解。袋小路の行き止まりに辿り着いた様な気がして。
彼女の精神の均衡(キャパシティ)は、既に限界を迎えつつあった。
傍らのハーマイオニーに視線を移して見れば、彼女も同じような状態だった。
聡明であるがゆえに、自分達が限りなく詰み(チェック)にハマっている事を理解してしまっている。
末期症状の諦観へと至るまで、もう数十秒も猶予はなかった。
そんな時だった。
「桃華、聞いて欲しい」
桃華の耳に写影の落ち着いた声が響く。
絶望的な状況の中で、なおも彼は冷静さを失っていなかった。
その事実に桃華も雑然としていた思考が沈静化し、瞳に光が灯る。
そして、縋るような視線を写影に向けた。
絶望的な状況の中で、なおも彼は冷静さを失っていなかった。
その事実に桃華も雑然としていた思考が沈静化し、瞳に光が灯る。
そして、縋るような視線を写影に向けた。
「これから僕が指示する通りに能力を動かして欲しい、できる?」
写影の顔色も、桃華に負けず劣らず劣悪な物だ。
だがその瞳はまだ諦めていない。
絶望的な状況の中で、悪足掻きに挑む意志を感じさせる瞳だった。
だがその瞳はまだ諦めていない。
絶望的な状況の中で、悪足掻きに挑む意志を感じさせる瞳だった。
「ちょっと。私もいる事、忘れないで」
二人の背後で、ハーマイオニーが不服そうに声を上げる。
彼女もまた、写影の様子になけなしの勇気を取り戻したらしい。
そして、意を決したように尋ねてくる。何か、考えはあるのかと。
縋るような視線。しかし写影は静かに首を横に振った。
彼女もまた、写影の様子になけなしの勇気を取り戻したらしい。
そして、意を決したように尋ねてくる。何か、考えはあるのかと。
縋るような視線。しかし写影は静かに首を横に振った。
「…悪いけど、考えなんて言えるものじゃないよ。ただフリーレンが来てくれるまで……
或いは、マサオを助けて逃げ出すチャンスを見つけるまで凌ぎきる。それだけだ」
「簡単に言うけど、そんな事が可能なの?」
「それについては考えがあるけど……実際上手くいくかは、これから試すしかない
ただ────皆に迫る不幸は、全部、僕が視る!絶対に、見逃さない……!」
或いは、マサオを助けて逃げ出すチャンスを見つけるまで凌ぎきる。それだけだ」
「簡単に言うけど、そんな事が可能なの?」
「それについては考えがあるけど……実際上手くいくかは、これから試すしかない
ただ────皆に迫る不幸は、全部、僕が視る!絶対に、見逃さない……!」
勝算など度外視。これはただの悪あがきなのだから。
だが、ここで足掻かなければ待っているのは死だけだ。
写影は納得させることを隅に追いやった物言いで、断言した。
その決然とした言葉にハーマイオニーも、桃華も覚悟を決める。
出来るかどうかではない。やるしかないのだ。全員が今一度腹を括った。
だが、ここで足掻かなければ待っているのは死だけだ。
写影は納得させることを隅に追いやった物言いで、断言した。
その決然とした言葉にハーマイオニーも、桃華も覚悟を決める。
出来るかどうかではない。やるしかないのだ。全員が今一度腹を括った。
「……分かったわ。やりましょう。どうせやらなきゃ、ここで皆死んでしまうんだし」
ハーマイオニーの言葉は、気の強い普段の彼女を感じさせる声色だった。
杖を強く強く握りしめて、最後に残った戦意を結集させる。
逆に言えばこれでダメならもう、逆さに振っても何も出てこない。
絶対に、生きて父や母、ホグワーツで秘密の部屋の謎に挑んでいるであろうハリーやロンの元へ帰る。
彼女の胸にあるのは、それだけだった。
杖を強く強く握りしめて、最後に残った戦意を結集させる。
逆に言えばこれでダメならもう、逆さに振っても何も出てこない。
絶対に、生きて父や母、ホグワーツで秘密の部屋の謎に挑んでいるであろうハリーやロンの元へ帰る。
彼女の胸にあるのは、それだけだった。
「マサオ……おれ、分かった………マサオはあいつらに脅されてるんだろ………?
子分のお前が……おれに嘘つくはずないもんなァ…………」
子分のお前が……おれに嘘つくはずないもんなァ…………」
前方では、また話の数向きが悪い方向へと向かっていた。
マサオが時間を稼いでくれているが、あれではもう一分も猶予はないだろう。
桃華はそれを見て、静かに傍らの写影に語り掛けた。
マサオが時間を稼いでくれているが、あれではもう一分も猶予はないだろう。
桃華はそれを見て、静かに傍らの写影に語り掛けた。
「………写影さん」
顔は真っすぐ前方のリンリンの方を向いたまま。
お願いがあります、と。桃華は写影に願いを紡ぐ。
お願いがあります、と。桃華は写影に願いを紡ぐ。
「あの時のように、手を、握っては下さいませんか」
その言葉に、浮ついた雰囲気は微塵もなかった。
彼女の願いを一言で形容するならば、それはきっと。
彼女の願いを一言で形容するならば、それはきっと。
「……うん、分かった。それが桃華の頼みなら」
それはきっと、戒めだ。
ただのアイドルの少女が、命の賭かった戦場に立つには、その戒めこそが必要だった。
写影の手が、隣に立つ桃華の手を取る。
そこから感じる温もりは、桃華の内から恐れを遠ざける。
ただのアイドルの少女が、命の賭かった戦場に立つには、その戒めこそが必要だった。
写影の手が、隣に立つ桃華の手を取る。
そこから感じる温もりは、桃華の内から恐れを遠ざける。
本当は、怖くて怖くて仕方ない。
例え守るためでも、誰かを傷つけたりしたくない。
出来る事なら、誰かに助けてもらいたい。
ただ助けてと言って、その場に蹲ってしまいたい。
例え守るためでも、誰かを傷つけたりしたくない。
出来る事なら、誰かに助けてもらいたい。
ただ助けてと言って、その場に蹲ってしまいたい。
(でも、私(わたくし)の手に伝わる温もりは────)
少女が、無力である事を許してはくれない。
「ウェザー・リポート………」
握った手は、とても暖かくて。
けれど、震えていた。美山写影もまた、限界ギリギリなのだと、桃華は悟った。
それでも、彼は自分を奮い立たせてくれた。この温もりを無くしたくない。
残酷な現実は、この温もりを失いたくないのなら戦えと、少女を駆り立ててくる。
そんな中で、桃華は強く祈った。
思い浮かぶのは、垣間見たウェザー・リポートに纏わる人々の記憶。
記憶のDISCではないため、見ることのできた記憶はごく限られた物だけれど。
それでも石の海(ストーン・オーシャン)から自由になるべく戦った、つよい人たちの姿は、桃華の脳裏に強く焼き付いていた。
けれど、震えていた。美山写影もまた、限界ギリギリなのだと、桃華は悟った。
それでも、彼は自分を奮い立たせてくれた。この温もりを無くしたくない。
残酷な現実は、この温もりを失いたくないのなら戦えと、少女を駆り立ててくる。
そんな中で、桃華は強く祈った。
思い浮かぶのは、垣間見たウェザー・リポートに纏わる人々の記憶。
記憶のDISCではないため、見ることのできた記憶はごく限られた物だけれど。
それでも石の海(ストーン・オーシャン)から自由になるべく戦った、つよい人たちの姿は、桃華の脳裏に強く焼き付いていた。
「力を桃華に貸してください、皆さん」
それは誰に向けての言葉なのだろうと桃華は口に出してから考えた。
父や母、プロデューサーかもしれない。
第三芸能課の仲間かもしれないし、写影たちかもしれない。
或いは、ウェザー・リポートか、記憶で見た、彼の仲間たちなのかもしれない。
そこまで考えて多分、全員だろうと桃華は結論付けた。
無力な桃華は独りでは立つことすら危ういから、皆の力が必要だ。
夢を夢で終わらせないために。この悪夢に負けないように。
父や母、プロデューサーかもしれない。
第三芸能課の仲間かもしれないし、写影たちかもしれない。
或いは、ウェザー・リポートか、記憶で見た、彼の仲間たちなのかもしれない。
そこまで考えて多分、全員だろうと桃華は結論付けた。
無力な桃華は独りでは立つことすら危ういから、皆の力が必要だ。
夢を夢で終わらせないために。この悪夢に負けないように。
どうか。
私たちが、この冷たく閉ざされた石の海から自由になれるように。
私たちが、この冷たく閉ざされた石の海から自由になれるように。
□ □ □
「もういい!意気地なしで薄汚くて貧乏臭いマサオのもごもごした話は、おれ後で聞く!」
「ま、待ってよ……エスターは、だから………」
「ま、待ってよ……エスターは、だから………」
リンリンはこれ以上、マサオのじれったい態度に付き合う気は失せていた。
既に彼女の中では桃華達が犯人という図式が完成されていた。
エスターを殺したのは桃華と写影というガキ、そうでなくてはいけない。
それ以外の真実など、あってはいけない。
それなのに、マサオはもごもごと食い下がってくる。
これまでは親分として子分の話を聞いてやっていたが、もう業を煮やした。
もし他にエスターを殺した奴がいるなら、桃華達を殺してからゆっくりマサオに聞く。
だから、この期に及んでもまだ蚊の鳴くような声で何かを喋っているおにぎりは無視。
既に彼女の中では桃華達が犯人という図式が完成されていた。
エスターを殺したのは桃華と写影というガキ、そうでなくてはいけない。
それ以外の真実など、あってはいけない。
それなのに、マサオはもごもごと食い下がってくる。
これまでは親分として子分の話を聞いてやっていたが、もう業を煮やした。
もし他にエスターを殺した奴がいるなら、桃華達を殺してからゆっくりマサオに聞く。
だから、この期に及んでもまだ蚊の鳴くような声で何かを喋っているおにぎりは無視。
「ゼウス!あいつらみーんな殺せ~~~!!!」
『は~~い、ママ~!!』
『は~~い、ママ~!!』
再びゼウスを、エスターを殺した奴らに突撃させる。
自分がマザーと同じ手品で作った雷雲であれば、あんな人形には負けない。
だって、マザーの手品はいつも凄かったのだから。おれの手品だってきっと凄い!
無邪気な全能感に突き動かされるように、リンリンは生み出した雷雲がひとごろし達を全滅させるのを見届ける。
自分がマザーと同じ手品で作った雷雲であれば、あんな人形には負けない。
だって、マザーの手品はいつも凄かったのだから。おれの手品だってきっと凄い!
無邪気な全能感に突き動かされるように、リンリンは生み出した雷雲がひとごろし達を全滅させるのを見届ける。
『逃がさないぞ~~~!!!』
生み出したゼウスは、素早かった。
未来の女帝の魂を使い、雷雲として生まれたその速度は常人が及ぶ速度ではない。
少なくとも、美山写影にも、桜井桃華にも、ハーマイオニー・グレンジャーにも。
その場にいる少年少女全員がどうにかできる速さではなかった。
ゼウスは猛獣のような速度で迫りながら、同時に体内で雷を作り出す。
未来の女帝の魂を使い、雷雲として生まれたその速度は常人が及ぶ速度ではない。
少なくとも、美山写影にも、桜井桃華にも、ハーマイオニー・グレンジャーにも。
その場にいる少年少女全員がどうにかできる速さではなかった。
ゼウスは猛獣のような速度で迫りながら、同時に体内で雷を作り出す。
『黒こげになれ~~~!!』
ゼウスの響きだけならば愛らしい声と共に、彼の身体から雷が放たれる。
どんなに姿が愛らしくともその雷を受ければ写影達は焦げたの肉片へと変わる。
雷は広範囲に拡散し、アスファルトや街路樹、看板などを容赦なく灼く。
少なくとも一人か二人は殺した。ゼウスはその事を確信する。
仮に先ほどの様に飛びのいて躱したとしても、追撃の雷で確実に仕留められる。
敵の足は遅いのだから。
ゼウスはほくそ笑みながら追撃のための電気を体内で作り出す。
そして、何体の肉片が出来上がったが確認しようとして──思考が空白に染まった。
一つたりとも、死体が無かったのだ。
どんなに姿が愛らしくともその雷を受ければ写影達は焦げたの肉片へと変わる。
雷は広範囲に拡散し、アスファルトや街路樹、看板などを容赦なく灼く。
少なくとも一人か二人は殺した。ゼウスはその事を確信する。
仮に先ほどの様に飛びのいて躱したとしても、追撃の雷で確実に仕留められる。
敵の足は遅いのだから。
ゼウスはほくそ笑みながら追撃のための電気を体内で作り出す。
そして、何体の肉片が出来上がったが確認しようとして──思考が空白に染まった。
一つたりとも、死体が無かったのだ。
『……っ!?上かあっ!!』
前後左右何処にも敵の姿はない。
となれば、後残るのは上だけだ。
上等だ、逃げ場も障害物も無い空中に飛び上がった所を灼いてやる。
元々自分はその為に生み出されたのだから。
一瞬の内にそこまで考えて、体内で新しい雷を用意しながら上を向く。
それとほとんど同時だった。
となれば、後残るのは上だけだ。
上等だ、逃げ場も障害物も無い空中に飛び上がった所を灼いてやる。
元々自分はその為に生み出されたのだから。
一瞬の内にそこまで考えて、体内で新しい雷を用意しながら上を向く。
それとほとんど同時だった。
「スティーピファイ(麻痺せよ)!!」
「っ!?ぎゃああああああ!?」
「っ!?ぎゃああああああ!?」
少女の声と共に、赤い閃光がゼウスのボディに吸い込まれた。
ゼウスのボディは無形の雲である。その上、未来の四皇の魂によって生まれた存在だ。
故に物理攻撃は強力な“覇気”を纏った一撃でしか通用しない。
にも拘らず、ゼウスは少女の放った閃光によってダメージを受け、動けなくなる。
少女──ハーマイオニーの麻痺魔法は、例えホーミーズであっても逃れられなかったのだ。
ゼウスのボディは無形の雲である。その上、未来の四皇の魂によって生まれた存在だ。
故に物理攻撃は強力な“覇気”を纏った一撃でしか通用しない。
にも拘らず、ゼウスは少女の放った閃光によってダメージを受け、動けなくなる。
少女──ハーマイオニーの麻痺魔法は、例えホーミーズであっても逃れられなかったのだ。
(闇の魔術に対する防衛術の教科書……上の学年の分まで読んでて良かった!!)
本来、ハーマイオニーがこの魔法を本格的に多用するようになるのは三年後。
不死鳥の騎士団が結成されてからであるものの、学年一の秀才であり勉強熱心な彼女は既にこの呪文を知っていた。
この危機的状況に、殆どぶっつけ本番で唱えた呪文だが……見事に彼女は才覚を発揮したと言えるだろう。
この機を逃すべきではない。瞬時に彼女は傍らの桃華へとアイコンタクトを送る。
不死鳥の騎士団が結成されてからであるものの、学年一の秀才であり勉強熱心な彼女は既にこの呪文を知っていた。
この危機的状況に、殆どぶっつけ本番で唱えた呪文だが……見事に彼女は才覚を発揮したと言えるだろう。
この機を逃すべきではない。瞬時に彼女は傍らの桃華へとアイコンタクトを送る。
「ウェザーさん!!」
ゼウスが硬直した一瞬の隙を突いて、桃華が切り込む。
雷を回避する為に使用していた上昇気流のベクトルを操作し、推進力とする。
失意の庭によってウェザー・リポートの能力の理解度が向上していたのが幸いした。
指向性を得た風圧は、桃華達をゼウスの眼前へと疾風の様に運ぶ。
雷を回避する為に使用していた上昇気流のベクトルを操作し、推進力とする。
失意の庭によってウェザー・リポートの能力の理解度が向上していたのが幸いした。
指向性を得た風圧は、桃華達をゼウスの眼前へと疾風の様に運ぶ。
『な、殴ろうと蹴ろうと、ママから貰った雲の身体は……』
一息の内に距離を詰めてきた桃華達に、僅かに狼狽した様子を見せるゼウス。
だが、大丈夫だ。この雲のボディは物理的な干渉の一切を拒絶する。
だから、殴られようと蹴られようと、問題はない。
風で吹き飛ばされるとしても、即座に戻って雷をお見舞いしてやる。
だが、直後にゼウスは計算違いを思い知らされる事となった。
だが、大丈夫だ。この雲のボディは物理的な干渉の一切を拒絶する。
だから、殴られようと蹴られようと、問題はない。
風で吹き飛ばされるとしても、即座に戻って雷をお見舞いしてやる。
だが、直後にゼウスは計算違いを思い知らされる事となった。
「曇って言うのは湿度が上空で冷えて固まったものだ。小学生でも知ってる。
なら───その中に乾燥した熱い空気を大量に送り込めばどうなると思う?」
なら───その中に乾燥した熱い空気を大量に送り込めばどうなると思う?」
ウェザー・リポートの拳が突き入れられ。
写影の冷淡なその言葉を聞いた瞬間、ゼウスは不吉な物を感じ取った。
写影の冷淡なその言葉を聞いた瞬間、ゼウスは不吉な物を感じ取った。
『ま、待て───やめろ~~~ッ!!!』
ゼウスの制止の声が聞き入れられる事は無かった。
桃華は下唇を噛んで、為すべきことをを成し遂げる。
こうしなければ手の中の温もりを守れない。
桃華は下唇を噛んで、為すべきことをを成し遂げる。
こうしなければ手の中の温もりを守れない。
ゴオオオオオオオオッッッ!!!
熱風が、ゼウスの体内で爆発した。
彼の身体を構成する水分が、あっという間に気化していく。
リンリンに制御を奪われたが、元はウェザー・リポートによって生み出された雷雲だ。
メラメラの実が炎を焼き尽くすマグマグの実と上下関係があるように。
如何にリンリンの魂を得ていると言っても、こと天候その物を操るウェザー・リポートの能力の前には明確な上下関係が存在していた。
故に、ゼウスの命運は此処に決する。
彼の身体を構成する水分が、あっという間に気化していく。
リンリンに制御を奪われたが、元はウェザー・リポートによって生み出された雷雲だ。
メラメラの実が炎を焼き尽くすマグマグの実と上下関係があるように。
如何にリンリンの魂を得ていると言っても、こと天候その物を操るウェザー・リポートの能力の前には明確な上下関係が存在していた。
故に、ゼウスの命運は此処に決する。
『ぎゃあああああああああ~~ッ!!!』
「ゼ、ゼウス~~~!?」
「ゼ、ゼウス~~~!?」
一陣の風が吹き荒れた後に、雷雲の姿は消失していた。
一撃で消え去ったゼウスに、あんぐりと口を開けてリンリンは驚愕を隠せない。
敬愛するマザーが行っていた奇跡の御業が、戦闘開始から数秒で消え去った。
その事実はリンリンを動揺させた。だが、すぐさま動揺は怒りへと変わる。
エスターだけじゃなくて、ゼウスまでこいつらは殺しやがった!!
一撃で消え去ったゼウスに、あんぐりと口を開けてリンリンは驚愕を隠せない。
敬愛するマザーが行っていた奇跡の御業が、戦闘開始から数秒で消え去った。
その事実はリンリンを動揺させた。だが、すぐさま動揺は怒りへと変わる。
エスターだけじゃなくて、ゼウスまでこいつらは殺しやがった!!
「許さねェエエエエエエエ!!!!」
拳を振り上げて、リンリンは桃華に向かい突撃する。
マザーと同じ手品はダメだ。またやられてしまう恐れがある。
おれの手で、確実にこいつらを殺す!
憤怒と憎悪、使命感が入り混じった殺意を以て、敵手に迫る。
だが、桃華たちのもとへとたどり着くその前に、ゼウスを殺した人形(ウェザー・リポート)がリンリンの前へと立ち塞がる。
マザーと同じ手品はダメだ。またやられてしまう恐れがある。
おれの手で、確実にこいつらを殺す!
憤怒と憎悪、使命感が入り混じった殺意を以て、敵手に迫る。
だが、桃華たちのもとへとたどり着くその前に、ゼウスを殺した人形(ウェザー・リポート)がリンリンの前へと立ち塞がる。
「桃華───左後ろに三歩。その後ジャンプだ」
だが、振り下ろされたリンリンの拳は空を切った。
その直後に踏みつぶそうと足を振るうが、人形は風圧で飛び上がった。
その直後に踏みつぶそうと足を振るうが、人形は風圧で飛び上がった。
「風を出して、五歩後ろに!」
声に合わせて、ウェザー・リポートが暴風をリンリンにぶつける。
リンリンはその中で何とかウェザーリポートを捕まえようと藻掻くものの、彼女の五指は虚しく空を切った。
リンリンはその中で何とかウェザーリポートを捕まえようと藻掻くものの、彼女の五指は虚しく空を切った。
「ずるばっかり……してんじゃねぇええええええ!!!」
大型車両でも横転するであろう局地的なハリケーンの中、
それでもリンリンは膝を着くことなく前進する。
人が気象現象に逆らうことはまず不可能だ。
だが、リンリンは巨人族の戦士すら震え上がらせた“悪神”である。
強引に風の戒めを突き破り、桃華たちの元へと突撃した。
突破されると思っていなかったのか、邪魔な人形はまだ宙に浮いたままだ。
例え雷を落とされようと我慢して、このまま潰してやる。
殺意に突き動かされるままに、リンリンはその巨躯を砲弾に変える。
それでもリンリンは膝を着くことなく前進する。
人が気象現象に逆らうことはまず不可能だ。
だが、リンリンは巨人族の戦士すら震え上がらせた“悪神”である。
強引に風の戒めを突き破り、桃華たちの元へと突撃した。
突破されると思っていなかったのか、邪魔な人形はまだ宙に浮いたままだ。
例え雷を落とされようと我慢して、このまま潰してやる。
殺意に突き動かされるままに、リンリンはその巨躯を砲弾に変える。
「────え?」
だが、その先には何もなかった。
桃華たちの元に達した瞬間、靄のように姿が空気に溶けて消える。
リンリンはまだ知らないその現象を蜃気楼といった。
ウェザー・リポートの能力で蜃気楼を作り出し、位置を誤認させたのだ。
例え彼女がこの瞬間、見聞色の覇気を発動させていたとしても。
情報を処理する脳が騙されていては何の意味も無かっただろう。
桃華たちの元に達した瞬間、靄のように姿が空気に溶けて消える。
リンリンはまだ知らないその現象を蜃気楼といった。
ウェザー・リポートの能力で蜃気楼を作り出し、位置を誤認させたのだ。
例え彼女がこの瞬間、見聞色の覇気を発動させていたとしても。
情報を処理する脳が騙されていては何の意味も無かっただろう。
「ステューピファイ(麻痺せよ)!」
呪文が紡がれ、白光が空間を走る。
標的のロストを受けて、思考が空白化したリンリンに、それが避けられる筈もなかった。
麻痺呪文に貫かれ、電気ショックを受けたような痺れと痛みがリンリンを襲う。
標的のロストを受けて、思考が空白化したリンリンに、それが避けられる筈もなかった。
麻痺呪文に貫かれ、電気ショックを受けたような痺れと痛みがリンリンを襲う。
「やめろォっ!」
痛みに膝を着きながらも、リンリンの戦意は衰えない。
咄嗟に地面を砕き、その瓦礫を握りしめる。
両手いっぱい握りしめたその砲弾に、ありったけの憎しみを乗せて撃ち放つ。
ちょこまかと躱されないよう、視界一面に拡散することを意識した投擲だった。
咄嗟に地面を砕き、その瓦礫を握りしめる。
両手いっぱい握りしめたその砲弾に、ありったけの憎しみを乗せて撃ち放つ。
ちょこまかと躱されないよう、視界一面に拡散することを意識した投擲だった。
「前方四歩。それと風を」
だが、敵手はリンリンが瓦礫を握りしめた時すでに、行動に移っていた。
彼らに後退はなかった。ゆらりと前へと進み出て、突風を発生させる。
いかなウェザー・リポートの発生させた突風であっても、正面からリンリンが投げた投擲物に抗うのは難しい。
だが、逸らすことなら十分可能だ。
生み出された乱気流は、絶死の砲弾から生存可能領域を作り上げる。
彼らに後退はなかった。ゆらりと前へと進み出て、突風を発生させる。
いかなウェザー・リポートの発生させた突風であっても、正面からリンリンが投げた投擲物に抗うのは難しい。
だが、逸らすことなら十分可能だ。
生み出された乱気流は、絶死の砲弾から生存可能領域を作り上げる。
(こいつら、もしかして────)
放送の前に眼帯の少年と戦った自分のように。
先の動きを読んでいるのか。リンリンはその可能性に行き着いた。
そうでなければ、あの早い男の子でもないのにここまで触れないのはおかしい。
彼女のその推理は正しかった。だが、僅かに遅い。
先の動きを読んでいるのか。リンリンはその可能性に行き着いた。
そうでなければ、あの早い男の子でもないのにここまで触れないのはおかしい。
彼女のその推理は正しかった。だが、僅かに遅い。
「今だ、桃華!」
少年の叫び声が、リンリンの耳朶を打つ。
それを聞いた時、不味いと思った。
即座に攻撃に備えて身構えるものの、眼前の桃華達は動かない。
彼らの前に立つ人形(ウェザー・リポート)も沈黙したままだ。
彼らの攻撃は、既に完了している。
それを聞いた時、不味いと思った。
即座に攻撃に備えて身構えるものの、眼前の桃華達は動かない。
彼らの前に立つ人形(ウェザー・リポート)も沈黙したままだ。
彼らの攻撃は、既に完了している。
「ッ!?ぎゃあああああああああああッ!!!!!」
轟音が、響く。
先ほどよりも遥かに上空。リンリンの巨体でも遠く届かない高さに。
そこに作った雷雲の雷が、リンリンを貫いていた。
先ほどよりも遥かに上空。リンリンの巨体でも遠く届かない高さに。
そこに作った雷雲の雷が、リンリンを貫いていた。
(いでぇ………負ける………おれ、負けるのか…………)
皮膚の表面を黒く染めながら、リンリンがよろめく。
掠れた視界と意識の中で、過るのは敗北の二文字だった。
負ける?自分は負けるのか?
また守れないのか?エスターのように。
居なくなってしまうのか?羊の家のみんなのように。
マザーのように。
掠れた視界と意識の中で、過るのは敗北の二文字だった。
負ける?自分は負けるのか?
また守れないのか?エスターのように。
居なくなってしまうのか?羊の家のみんなのように。
マザーのように。
いやだ。
いやだ。
いやだ─────!!!
いやだ。
いやだ─────!!!
□ □ □
もしかしたら、フリーレンが到着するまで本当に何とかなるかもしれない。
その瞬間まで、美山写影はそう感じ始めていた。
写影も、桃華も、ハーマイオニーも、ここまで傷一つ負っていない。
まともなダメージは与えられてはいないが、それでもあの大きな少女と渡り合えている。
その瞬間まで、美山写影はそう感じ始めていた。
写影も、桃華も、ハーマイオニーも、ここまで傷一つ負っていない。
まともなダメージは与えられてはいないが、それでもあの大きな少女と渡り合えている。
写影が開発により得た能力。人の不幸を予知し、映像として投影する能力。
それにより桃華達が損傷を負う未来を先読みして、回避していたのだった。
本来、彼の能力はもっと予知に時間も手間もかかり、予知した未来を変える事はできない。
その工程を一気に短縮し、また彼の能力に用いる演算の莫大な補助を行っているのが…
彼の頭部に装着されたヘッドギア、帝具『五視万能スペクテッド』であった。
能力者が外付けの機構で能力を大幅に向上させる例は、学園都市でも幾つか確認されている。
例えば木山春美という科学者が用い、史上初の多元能力者(マルチスキル)すら生み出した、
音楽プログラム、幻想御手(レベルアッパー)。
一時的に能力を暴走させ、限界以上の出力を引き出す能力体結晶。
暗部間で凄惨な争奪戦を引き起こし、学園都市第二位の能力使用を補助した超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター、通称ピンセット。
それにより桃華達が損傷を負う未来を先読みして、回避していたのだった。
本来、彼の能力はもっと予知に時間も手間もかかり、予知した未来を変える事はできない。
その工程を一気に短縮し、また彼の能力に用いる演算の莫大な補助を行っているのが…
彼の頭部に装着されたヘッドギア、帝具『五視万能スペクテッド』であった。
能力者が外付けの機構で能力を大幅に向上させる例は、学園都市でも幾つか確認されている。
例えば木山春美という科学者が用い、史上初の多元能力者(マルチスキル)すら生み出した、
音楽プログラム、幻想御手(レベルアッパー)。
一時的に能力を暴走させ、限界以上の出力を引き出す能力体結晶。
暗部間で凄惨な争奪戦を引き起こし、学園都市第二位の能力使用を補助した超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター、通称ピンセット。
それらのアイテムと同じ作用を、帝具スペクテッドは写影にもたらしていた。
また、写影自身は知る由もないことだが。
彼にとって幸運だったのは彼の世界に存在する魔術とは別の異能として、帝具がその効果を発揮したことだろう。
そうでなければ、能力開発を受けている彼は血を噴き出して横たわっていてもおかしくなかった。
また、写影自身は知る由もないことだが。
彼にとって幸運だったのは彼の世界に存在する魔術とは別の異能として、帝具がその効果を発揮したことだろう。
そうでなければ、能力開発を受けている彼は血を噴き出して横たわっていてもおかしくなかった。
(フリーレンと別れた場所からはそう離れていない。
大きな音や風が吹いているのに気づいてくれれば、きっと駆けつけてくれるはず…)
大きな音や風が吹いているのに気づいてくれれば、きっと駆けつけてくれるはず…)
問題は、それまでの自分の体力が持つかどうか。
写影の能力は消耗が大きい。
無茶な運用をすれば、赤血球が破壊され非常に危険な状態に陥る。
実際、戦闘開始からまだ五分も経過していないが、既に写影の息は上がり始めている。
スペクテッドの力で演算効果は大幅に向上しているが、消耗はむしろ更に激しい物だ。
頭の中がずきずきと痛む。経験から言えば、そろそろ鼻血が流れてもおかしくはない。
写影の能力は消耗が大きい。
無茶な運用をすれば、赤血球が破壊され非常に危険な状態に陥る。
実際、戦闘開始からまだ五分も経過していないが、既に写影の息は上がり始めている。
スペクテッドの力で演算効果は大幅に向上しているが、消耗はむしろ更に激しい物だ。
頭の中がずきずきと痛む。経験から言えば、そろそろ鼻血が流れてもおかしくはない。
(持ち堪えるんだ………僕さえちゃんと役目を全うすれば、桃華達は助かる)
写影単独での能力使用と、スペクテッドを使用した際の能力には大きな差異が二つある。
一つは、カメラや特殊なペンライト等の媒体を用いない、単独での未来予知。
そしてもう一つ、スペクテッドを使用して垣間見た未来は改変可能なのだ。
写影単独の能力では予知した未来は“基本的に“変えられない。
しかしスペクテッドの力の恩恵か、使用中に見た不幸の未来は回避可能なのだ。
恐らく、現時点の彼がレベル判定を受ければ大能力者(レベル4)の判定を受けるだろう。
一つは、カメラや特殊なペンライト等の媒体を用いない、単独での未来予知。
そしてもう一つ、スペクテッドを使用して垣間見た未来は改変可能なのだ。
写影単独の能力では予知した未来は“基本的に“変えられない。
しかしスペクテッドの力の恩恵か、使用中に見た不幸の未来は回避可能なのだ。
恐らく、現時点の彼がレベル判定を受ければ大能力者(レベル4)の判定を受けるだろう。
(どんなにこの子(リンリン)が強くても……僕が視る限り、誰にも不運は届かせない)
ごし、といよいよ垂れてきた鼻血を拭いながら、写影はリンリンを見据える。
彼女を通して、これから起こり得る不運(アンラック)を見通そうとする。
リンリンの拳や蹴り、瓦礫などで死者が出る未来を予知し、彼は対処を行ってきた。
ドロテアや映画館での一件を通して能力に対する理解度が向上していたのも彼にとっては追い風だっただろう。
彼女を通して、これから起こり得る不運(アンラック)を見通そうとする。
リンリンの拳や蹴り、瓦礫などで死者が出る未来を予知し、彼は対処を行ってきた。
ドロテアや映画館での一件を通して能力に対する理解度が向上していたのも彼にとっては追い風だっただろう。
(─────は?)
だが、しかし。
人間の抵抗など、神がその気になればあっさりと崩壊する。
それを、彼らは突き付けられることとなる。
人間の抵抗など、神がその気になればあっさりと崩壊する。
それを、彼らは突き付けられることとなる。
(この、未来、は………)
写影が未来視により見た、すぐそこの未来。
三人全員が、吹き飛ばされている姿だった。
リンリンの拳によってではない。何か瓦礫を投げつけられた訳ではない。
それでもその一手で、写影達は壊滅していた。
何が、一体何が起きた?それを疑問に思うモノの、すぐさま分かる筈もない。
三人全員が、吹き飛ばされている姿だった。
リンリンの拳によってではない。何か瓦礫を投げつけられた訳ではない。
それでもその一手で、写影達は壊滅していた。
何が、一体何が起きた?それを疑問に思うモノの、すぐさま分かる筈もない。
(い、やそれよりも、もっと重要なのは………)
そう、それよりも重要な事があった。
今しがた見た予知は、これまでスペクテッドの補助を受けて視た物とは違う。
直感的に確信する。この予知は、普段の写影が行使するものと同じ────
今しがた見た予知は、これまでスペクテッドの補助を受けて視た物とは違う。
直感的に確信する。この予知は、普段の写影が行使するものと同じ────
────■■■■■■■!!!!!!
その瞬間。
予知で見た未来が現実のものとなる。
時間にして一秒足らず。その振動は破滅の二文字を乗せて。
予知で見た未来が現実のものとなる。
時間にして一秒足らず。その振動は破滅の二文字を乗せて。
(そう、か予知で見た僕たちの姿は────!!!)
写影達に破滅の未来を届ける正体。
その正体は、音だった。
巨人族の戦士達すら悪神として恐れるシャーロット・リンリンの咆哮は。
音響兵器の如く、写影達の抵抗の一切を吹き飛ばした。
成程、攻撃の正体が音では、どれだけ未来を予見したところで意味はない。
恐るべきは、ただの絶叫を攻撃へと変えるリンリンの暴力的なまでの声量。
まだ未成熟な上に、ハンデにより覇王色の覇気を抑えられているにもかかわらず。
純粋な声という身体機能で子供三人を蹴散らす。
まさしく、神か悪魔の領域の業(わざ)に他ならなかった。
もしこの咆哮に覇気が込められていればそれだけで写影達は全滅していただろう。
その正体は、音だった。
巨人族の戦士達すら悪神として恐れるシャーロット・リンリンの咆哮は。
音響兵器の如く、写影達の抵抗の一切を吹き飛ばした。
成程、攻撃の正体が音では、どれだけ未来を予見したところで意味はない。
恐るべきは、ただの絶叫を攻撃へと変えるリンリンの暴力的なまでの声量。
まだ未成熟な上に、ハンデにより覇王色の覇気を抑えられているにもかかわらず。
純粋な声という身体機能で子供三人を蹴散らす。
まさしく、神か悪魔の領域の業(わざ)に他ならなかった。
もしこの咆哮に覇気が込められていればそれだけで写影達は全滅していただろう。
「───!!───!!」
不意に全身を叩かれた衝撃により、桃華と共に吹き飛ばされる。
手をつないだまま、二人一緒に地面に倒れ伏す。
少し離れた位置には、ハーマイオニーも転がっていた。
幸いにして……否、不幸にも意識は失わなかった。
恐る恐る耳を確認すると、血は流れてはいない。鼓膜も破れてはいないだろう。
だが、聴覚はダメージを受けていた。桃華もきっと同じハズだ。
その事実は、未来を予知しても指示を出せなくなったことを意味する。
だが、それよりもなお最悪なのが────
手をつないだまま、二人一緒に地面に倒れ伏す。
少し離れた位置には、ハーマイオニーも転がっていた。
幸いにして……否、不幸にも意識は失わなかった。
恐る恐る耳を確認すると、血は流れてはいない。鼓膜も破れてはいないだろう。
だが、聴覚はダメージを受けていた。桃華もきっと同じハズだ。
その事実は、未来を予知しても指示を出せなくなったことを意味する。
だが、それよりもなお最悪なのが────
「エスターの………仇………」
リンリンが、殺意を総身に漲らせてやって来るこの時に。
「う………ぁ………」
立ち上がることが、できない。
地面に手をついて立ち上がろうとするが、ぐらりと視界がねじ曲がる。
それに伴い、膝から力が抜けてどさりと倒れてしまう。
リンリンの咆哮により、三半規管に異常を来したのだ。
これでは、逃げることすら叶わない。
地面に手をついて立ち上がろうとするが、ぐらりと視界がねじ曲がる。
それに伴い、膝から力が抜けてどさりと倒れてしまう。
リンリンの咆哮により、三半規管に異常を来したのだ。
これでは、逃げることすら叶わない。
「ぁ……………」
ゆっくりと、神に逆らった愚者に絶望を突き付けるように。
シャーロット・リンリンは、数分の時間をかけて。
憎い憎い。仲間の仇。エスターを殺した人殺したちの前へと聳え立った。
シャーロット・リンリンは、数分の時間をかけて。
憎い憎い。仲間の仇。エスターを殺した人殺したちの前へと聳え立った。
「覚悟しろ………エスターを、よくも殺しやがって……!」
狂った論理を口にしながら、リンリンは狙いを定めるように腕を振り上げた。
その威容、その巨大さを見て、写影は意識を失えなかった自身の不幸に絶望する。
どうして自分は、何とかなるかも、何て思ってしまったのだろうか。
こんなの、小学生どころか園児だってわかることだ。
こんな大きな相手には、勝てないってことくらいは…………
その威容、その巨大さを見て、写影は意識を失えなかった自身の不幸に絶望する。
どうして自分は、何とかなるかも、何て思ってしまったのだろうか。
こんなの、小学生どころか園児だってわかることだ。
こんな大きな相手には、勝てないってことくらいは…………
「死ねェエエエエエエエエエエッッッ!!!!!!」
振り下ろされる神の裁きを前に。
スペクテッドの能力が作用したのか、それとも今際の際で能力のタガが外れたのか。
それは定かではないが、写影の瞳に新たな不幸の未来が投影される。
引き切れた体で横たわる、自分と桃華の姿。
それは、スペクテッドの能力ではなく、写影本人が予知した未来だと悟った。
間違いなく確定した、決して覆るこのない未来だ。
それを見た瞬間写影は、全てを諦めたように瞼を閉じた。
スペクテッドの能力が作用したのか、それとも今際の際で能力のタガが外れたのか。
それは定かではないが、写影の瞳に新たな不幸の未来が投影される。
引き切れた体で横たわる、自分と桃華の姿。
それは、スペクテッドの能力ではなく、写影本人が予知した未来だと悟った。
間違いなく確定した、決して覆るこのない未来だ。
それを見た瞬間写影は、全てを諦めたように瞼を閉じた。
□ □ □
やめて。
やめてよ。
お願いだから。
僕は、何度もリンリンって子に頼んだ。
あの子が、写影さん達に襲い掛かった時からずっと。
でも、それがリンリンの耳に届くことは無かった。
あの怪物は、写影さんたちを殺すことしか頭にないみたいだった。
僕のせいだ。僕のせいなのに。
僕は今も見ているだけしかできない。
僕は、役立たずだ。
やめてよ。
お願いだから。
僕は、何度もリンリンって子に頼んだ。
あの子が、写影さん達に襲い掛かった時からずっと。
でも、それがリンリンの耳に届くことは無かった。
あの怪物は、写影さんたちを殺すことしか頭にないみたいだった。
僕のせいだ。僕のせいなのに。
僕は今も見ているだけしかできない。
僕は、役立たずだ。
────マサオ君。
そんな僕の頭の中に、しんちゃんの顔が浮かんだ。
しんちゃんだったら、どうするだろう。
みんなのヒーロー。僕のお友達なら。
アンカーになりたくないって、蹲っていた僕の手を取ってくれたしんちゃんなら。
しんちゃんなら、多分………きっとこうするハズだ。
そう思って、何とかしなきゃってランドセルの中を漁って取り出した手の中のカードを見る。
しんちゃんだったら、どうするだろう。
みんなのヒーロー。僕のお友達なら。
アンカーになりたくないって、蹲っていた僕の手を取ってくれたしんちゃんなら。
しんちゃんなら、多分………きっとこうするハズだ。
そう思って、何とかしなきゃってランドセルの中を漁って取り出した手の中のカードを見る。
頭の中の裏切りおにぎりが、必死に僕を止める。
赤ちゃんや、エスターも一緒になって止めていた。
おかしいことをしてるぞって、それをやったら取り返しがつかないぞって。
何とか僕を生かそうと、僕はしんちゃんじゃないだからと、そういい続ける。
でも、僕は。
赤ちゃんや、エスターも一緒になって止めていた。
おかしいことをしてるぞって、それをやったら取り返しがつかないぞって。
何とか僕を生かそうと、僕はしんちゃんじゃないだからと、そういい続ける。
でも、僕は。
────マサオ、君は悪くない。君は助けてって、言っていいんだ。
これ以上僕を嫌いになりたくなかった。
しんちゃんが放送で呼ばれてからずっと暗い場所にいた僕を。
もう一度、明るい場所に連れ出してくれた人たち。
怖がりで、情けなくて、何もできない僕の弱さを許して寄り添ってくれた人たち。
写影さんや桃華さんがいなくなったら、もうきっとそんな人たちには出会えないだろう。
その人たちに、死んでほしくない。だから。
しんちゃんが放送で呼ばれてからずっと暗い場所にいた僕を。
もう一度、明るい場所に連れ出してくれた人たち。
怖がりで、情けなくて、何もできない僕の弱さを許して寄り添ってくれた人たち。
写影さんや桃華さんがいなくなったら、もうきっとそんな人たちには出会えないだろう。
その人たちに、死んでほしくない。だから。
どうかしんちゃん、君の勇気を、少しだけ僕にください。
僕は手の中の二枚のカードを、強く強く握りしめて、そして掲げた。
涙は止まらない。お股が湿って気持ち悪い。
この島に来て始めて、誰かの為になる事をするのに。
あぁ、やっぱり僕はしんちゃんみたいに格好よくはなれないんだなぁ。
しんちゃんなら、きっと全部が上手くいく方法が思いついたんだろうなぁ。
僕はやっぱり、しんちゃんとは違うし、しんちゃんにはなれない。だけど。
涙は止まらない。お股が湿って気持ち悪い。
この島に来て始めて、誰かの為になる事をするのに。
あぁ、やっぱり僕はしんちゃんみたいに格好よくはなれないんだなぁ。
しんちゃんなら、きっと全部が上手くいく方法が思いついたんだろうなぁ。
僕はやっぱり、しんちゃんとは違うし、しんちゃんにはなれない。だけど。
「最後くらい、しんちゃんみたいになりたかったんだ………」
────うん、マサオ君にしては頑張ったと思うゾ。
その時、しんちゃんの声が聞こえた気がした。
まったく、最後までマサオ君にしてはって………もう、本当に。
まったく、最後までマサオ君にしてはって………もう、本当に。
「ひどいよ、しんちゃん………」
でも、ありがとう。
【佐藤マサオ@クレヨンしんちゃん 死亡】
□ □ □
命を刈り取る衝撃は、やって来なかった。
まず最初に、微かにぱぁんと柘榴が弾ける様な音がして。
その後に香ったのは、鉄さびの匂い。
むせ返るような、血の匂いだった。
まず最初に、微かにぱぁんと柘榴が弾ける様な音がして。
その後に香ったのは、鉄さびの匂い。
むせ返るような、血の匂いだった。
───ア、
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!
その後に響き渡る、再び大気を震わせる咆哮。
そのショックで期せずして写影は意識を覚醒させる。
朧げな意識。聴覚と三半規管は未だ不調を訴えてくる。
その不快感によって自分がまだ生きているのだと認識し、周囲を確認する。
結果、彼は何処までも無慈悲かつ残酷な“現実”に直面する事となった。
そのショックで期せずして写影は意識を覚醒させる。
朧げな意識。聴覚と三半規管は未だ不調を訴えてくる。
その不快感によって自分がまだ生きているのだと認識し、周囲を確認する。
結果、彼は何処までも無慈悲かつ残酷な“現実”に直面する事となった。
「マ………サ………オ………?」
写影には当初、何が起きたのか分からなかった。
ただ、桃華の手を繋いだまま、リンリンに拳を振り下ろされた態勢で座り込んでいた。
だが、目の前にリンリンはいない。
いつの間にか、二十メートル程前方に、彼女は移動していた。
そして、リンリンの足元には。
頭部を潰された、誰かの死体があった。
背格好や来ていた衣服。そして潰された顔にわずかに残った生前の面影。
それは紛れもなく。
ただ、桃華の手を繋いだまま、リンリンに拳を振り下ろされた態勢で座り込んでいた。
だが、目の前にリンリンはいない。
いつの間にか、二十メートル程前方に、彼女は移動していた。
そして、リンリンの足元には。
頭部を潰された、誰かの死体があった。
背格好や来ていた衣服。そして潰された顔にわずかに残った生前の面影。
それは紛れもなく。
「───な、んで……」
佐藤マサオが死んでいた。
美山写影と櫻井桃華の代わりに、死んでいた。
呆然とした思考の中では、現状をそう形容する他なかった。
でも、何故?
確かに自分の能力が指し示したのは、自分と桃華の死だった筈だ。
それが、何故書き換わった?
これまで自分が能力を使った時、直近の不幸は予知した順番通りに発生していた筈だ。
マサオが死んでしまうとしても、写影達が先になる筈なのに。
それなのに、どうして。
美山写影と櫻井桃華の代わりに、死んでいた。
呆然とした思考の中では、現状をそう形容する他なかった。
でも、何故?
確かに自分の能力が指し示したのは、自分と桃華の死だった筈だ。
それが、何故書き換わった?
これまで自分が能力を使った時、直近の不幸は予知した順番通りに発生していた筈だ。
マサオが死んでしまうとしても、写影達が先になる筈なのに。
それなのに、どうして。
「何で、何で、何で、なんでぇ゛ッ!?何でだッッッ!!!!!」
マサオが何をしたのかは分からない。
でも、直感的に聡明な写影は悟ってしまった。
自分と桃華は、マサオに庇われたのだと。
その結果が、今の状況だ。
涙を浮かべながら自分に礼を言っていた少年は、血だまりの中に沈んでいる。
助かって欲しかった少年は。助け合いたかった少年は。たった今肉塊に変わってしまった。
でも、直感的に聡明な写影は悟ってしまった。
自分と桃華は、マサオに庇われたのだと。
その結果が、今の状況だ。
涙を浮かべながら自分に礼を言っていた少年は、血だまりの中に沈んでいる。
助かって欲しかった少年は。助け合いたかった少年は。たった今肉塊に変わってしまった。
「────!────!!─────!!!」
だが、状況は写影の事など置き去りにして容赦なく深刻化していく。
ばしっと右頬に衝撃が走ったのが、その合図だった。
衝撃が来た方向に顔を向けてみれば、涙を流しながら桃華が何かを必死に訴えている。
彼女の視線の先には人の形をした怪物が一体と、仲間の女の子が一人。
ハーマイオニー・グレンジャーに、荒神の狂った正義が執行されようとしていた。
それを目にした瞬間、少年は嫌でも思い知らされる。
悪夢は今も続いている、終わってなどいない。
ばしっと右頬に衝撃が走ったのが、その合図だった。
衝撃が来た方向に顔を向けてみれば、涙を流しながら桃華が何かを必死に訴えている。
彼女の視線の先には人の形をした怪物が一体と、仲間の女の子が一人。
ハーマイオニー・グレンジャーに、荒神の狂った正義が執行されようとしていた。
それを目にした瞬間、少年は嫌でも思い知らされる。
悪夢は今も続いている、終わってなどいない。