コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

青嵐のあとで

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
          □     □     □



今は亡き佐藤マサオの遺体には、二枚のカードが握られていた。
一枚目は、彼の罪の象徴であるモンスター・リプレイスのカード。
この場にいる全員が知る由もないことであるが。
彼はこのカードを使って、写影達と自らの位置を入れ替えたのだ。

だが、モンスター・リプレイスのカードは前に使用した時からまだ三時間も経過していない。
通常であれば、再使用可能になるまでまだまだインターバルが必要なはずだった。
その無理を通したのが、彼が握るもう一枚のカード…城之内克也の墓荒らしのカードだった。
このカードは使用済みとなったカードのリサイクル効果を持つ。
墓荒らしの効果をモンスター・リプレイスに使用し、即時再使用可能な状態に戻したのだ。
そして、彼は再使用可能となったエクスチェンジの効果を使用した。
自身にとってそれがどんな結果を招くか、知った上で。
それでも、写影達には生きていてほしかったから。

だから彼は自分を生かすためではなく、誰かを生かすためにカードを切った。

写影が予知した不運を書き換わったのも、このマサオの行動に起因する。
帝具の補助なしの写影単体によって予知された未来は、三次元的な干渉では改変できない。
分かりやすく言い換えれば、通常では何を如何しようと発生する不幸は回避できない。
だが、何事にも例外がある。美山写影の能力にも抜け道があった。
それが十三次元を介して人や物体に干渉する空間転移(テレポート)能力だ。
だからこそ彼はこの島に招かれる以前、風紀委員(ジャッジメント)である白井黒子を頼り、多くの人を不幸から救った。
マサオが今しがた行った行動も、白井黒子の空間転移(テレポート)と同じ物だった。
それ故に、彼は不可避の未来を、写影と桃華の死という不運(アンラック)を書き換える事が可能だったのだ。

まぁ、尤も。
それが遺された者たちにとって救いとなるかは、別問題だけれど。




          □     □     □



何が起きたのか、おれには分からなかった。
やっとエスターの仇を取ってやれる。そう思って手を振り下ろしたのに。
手を上げたら、エスターを殺した奴らじゃなくて。
何故か、マサオが潰れていた。何で?どうして?
おれは、親分として、子分のエスターの仇を取ってやりたかっただけなのに。

なんで、マサオが潰れてるの?
エスターだけじゃなくて、マサオまで。
おれを置いていなくなっちゃった。
何で?どうしてだよ。
おれは、みんなにいなくなって欲しくないから頑張ったのに。
必死で戦ったのに。なんで誰も彼もいなくなっちゃうんだよ。
マザーも、羊の家のみんなも、エスターも、しんのすけも、マサオも!
どうしても、分からなかった。何でだよ。何で。何で。何で。なんで───


「───ア、
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」


分からないから、吼えた。
吼えてから、すぐ目の前にもうひとりのひとごろしが倒れているのに気づく。
茶色の長い髪に、黒いローブを羽織った、エスターを殺したひとごろしの仲間。
マサオの話には出てこなかったけど、こいつもエスターを殺したに違いない。
そうだ、そうに決まってる。だから、殺さなくちゃ。
こいつらがいるから、おれの仲間はみんな死んじゃうんだ。
許さない。絶対に許せない。こいつらのせいで、エスターやマサオは死んだんだ。
だから殺す。おれからおれの仲間を奪うやつは、一人でも生かしておかない。

もう、おれの傍にいてくれる子は誰もいないのに。
このひとごろし達だけ仲間がいるなんて、ずるい。
そんなの、ずるい。許せない。
ずんずんと、おれを怖がっている茶髪のひとごろしの前に歩いていく。
十歩もせずたどり着いた。
茶髪の女が杖を向けて、何かを叫ぶ。すると、持っている杖が光った。
それに当たるとゼウスがやられたみたいに、強くたたかれたみたいに体が痛んだ。
多分このひとごろしは魔法使いだったんだろう。初めて見た。
でも、下がらない。マサオやエスターはきっともっと痛かったから。
魔法使いだろうと、敗けてやらない。
我慢して我慢して我慢して──体がどれだけ痛くても、後ろに下がることだけはしない。
杖が光るたびに体が痛くなるけど、おれは嬉しかった。

だっておれに痛いことしたということは、やっぱりこいつは悪い奴なんだ。
殺したっていい奴なんだ。それが分かって、嬉しかった。
おれは間違ってないんだ。


ぶぅん、
ボグッ、
ぐちゃっ


うれしくてうれしくてうれしくて───ひとごろしをたたきつぶすそのとき。
にくをたたきつぶしたときのおれは、きっとわらっていた。




          □     □     □



ハーマイオニー・グレンジャーがどれだけ魔法を放っても。
シャーロット・リンリンは耐え抜いた。
彼女は幼いながら聡明で、勇敢な魔法使いだった。
正に、勇猛さで知られるグリフィンドールの模範生の様な少女だった。
不運にも一人で立っていられるだけの精神的な強さが、彼女にはあった。
本当は、彼女も怖くて、写影か桃華の手を握りたかったけれど。
桃華のサポートとして状況に応じて魔法を放たなければならないと考えた理性と。
不意にロン・ウィーズリーの顔が浮かんだ感傷。
その二つが彼女に手を繋ぐという選択肢を奪い去った。だから、
手を繋いでいたため座標が同じで、マサオが発動したカードの恩恵を受けられた二人と違い。
彼女は、荒ぶる神の前に一人取り残される結果と相成った。

彼女は聡明な少女だ。
だから、思いつく呪文を手当たり次第に唱えて。
そのどれもが、悪神の前には無意味であることを突き付けられた時。
自身の命運が尽きたことを悟った。
もう、父や母の元へは帰れない。
もう、ホグワーツには帰れない。
主席となり、噂で伝え聞く逆転時計で全教科の授業を受けたり。
ホグワーツを含めた三校で行われる魔法対校戦を見ることもできない。
ハリーが出るクディッチの試合をロンと応援したり、寮の皆と旅行に行ったり。
そんな、過ごしてみたかった青春も。
マグル生まれからひとかどの魔法使いになるという目標も。
全てがここで終わるのだ。


「二人とも………」


死が目前に迫った中で視界の端に移る、この島に来てから出会った仲間。
目前に聳え立つ死神を隔てた、彼女にとって永遠とも言うべき距離の先にいる二人。
その二人に向けて、口を開く。
彼女の理性が、それをいうのはダメだと制止をかける。
桃華達は、優しい子だ。マサオのことでもずっとずっと苦しんでいた。
その彼女たちにとって、今から自分が言う言葉は彼女達を苦しめる呪詛となる。
だから、言うべきではない。今自分が言うべきなのは、この一言だ。

逃げて。
そう言うべきなのだ。

だがその時、彼女の聡明な頭脳はある事に思い至る。
今、自分はよく音が聞こえない。きっと、写影達も同じだろう。
だったらこれから自分が何を言っても、彼らには聞こえない。それに気づいた。
だから、ハーマイオニー・グレンジャーは泣き笑いの表情を作って、言葉を紡ぐ。
彼女は最後まで理性の人だった。



────■■て。



彼女が、最後に何と言ったのかは写影達には聞こえなかった。
リンリンも聞いていなかった。
だから、彼女が最後に何の言葉を発したかは彼女自身しか分からないだろう。

…そして、
ぶぅん、
ボグッ、
ぐちゃっ。

一つの命が終わりを迎える調べが響いた。


【ハーマイオニー・グレンジャー@ハリーポッターシリーズ 死亡】




          □     □     □



────僕、英雄(ヒーロー)に憧れてるんだ。


あの時美山写影は確かにそう言った。
それなのに、なぜこんな事になっている。
マサオと、ハーマイオニーが立て続けに死んだ。
それなのに、自分には何もできなかった。
いや、何かしていたところで、自分の力ではきっと無意味だっただろう。
それでも何かできたはずなのに。
こうして自分は立ち上がることもできず、地面に蹲っている。


「………何が……何がヒーローだ……ッ!!」


がりがりと頭を掻きながら、項垂れる。
もう、立ち上がることすらできなかった。
一時的に狂った聴覚や三半規管は回復の兆しを見せていたけれど。
それでも立ち上がって逃げるなんて無理だ。
いや、可能だとしてももう、やりたくなかった。
とにかく、酷く疲れていた。
もう、立ち上がりたくなかった。それが今の彼の結論だった。


「写影、さん………」


そんな写影の傍らで。
桜井桃華も力のない声で、少年の名を呼んだ。
彼女にとっても、もう立ち上がって欲しいとは、一緒に逃げようとは言えなかった。
彼女の精神状態も、写影と同じ。
絶望という名の死病の、末期症状に罹患していたからだ。
だから彼女は、繋いだ方とは逆の手で、そっと項垂れる写影の体を抱き寄せた。
寄り添うように、彼の頑張りを労う様に。


「……大丈夫」


その言葉が聞こえていないのか。それとも聞こえていても返事を返す気力が無いのか。
返事は帰ってこなかったけれど。
それでも、桃華はぎゅっと写影の体を抱きしめた。
最後の瞬間まで、共に在れるように。
ずしんずしんと地響きとともに迫りくる暴君も、もうどうでも良かった。
何故彼女がこんな凶行に及んだのかは分からないけれど、今更それを問いかけた所で。
もう佐藤マサオが死んだ時点で、行きつく所まで行くしかない。その確信があった。



「一緒ですから」



殉教者の表情で、少女はそう伝えた。
アイドルとして、多くの人に自分の愛を届けるのが目標だった。
その目標は最早叶うことは無い。
だからせめて、傍らの少年が孤独に逝く事が無いように寄り添って、
この地に同じく呼ばれている友人であり、仲間である的場理沙。
彼女が生きてこの地を去れる様に願う事だけが、今の彼女に可能な最後の行いだった。


「エスターの仇……やっと…………!!!」



そんな二人の前に、仁王立ちで聳える影が一つ。
リンリンは涙で腫らした瞼で、遂に追い詰めたひとごろし達を睨んでいた。
エスターを殺しやがった癖に、一丁前に仲間の死に悲しんでいるのか。
そんな、仲間の死を悲しめる心があるのなら。
どうして、どうして…その優しさをエスターに分けてやらなかったんだ……!
挙句の果てに、当てつけの様に寄り添って、仲がいい所を見せつけて。
もうおれの傍には、誰もいないのに。
仲良しができても、何かあるごとにいなくなってしまうのに。
それなのに、どうしてひとごろしのお前等が温もりを得ているのか。

そんな、狂った……否、壊れた衝動に従って。
生まれながらの破壊者は、目の前の“絆”を粉砕するべく拳を振り上げる。
標的は抵抗する素振りを見せない。ただの一発で、全てを終わらせよう。
そして、こいつらを殺した後は、また新しい仲間を作って。今度こそ守り抜くんだ。
いや……仲間じゃなくて家族がいい。家族は裏切らない。勝手に何処かにもいかない。
何処かに行く奴は家族じゃない。そんな裏切者は殺してやる。
そんな纏まりのないドス黒い感情が脳と胸の中に渦巻き、ただ破壊の衝動に従って。
悪神は、神に歯向かった愚者に向けて鉄槌を振り下ろした。



悪夢が終わりを告げたのは、その直後の事だった。



          □     □     □



まず感じたのは焼けた鉄を押し当てられた様な熱だった。
それに続いて、猛烈な痛みがリンリンの振り上げた腕を襲った。


「は………?」


素っ頓狂な声を上げる。
それも当然だ、だって六歳の少女が。
突然利き腕を吹っ飛ばされれば、何が起きたか直ぐに理解するのは難しいだろう。


「お、おれの腕がああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?!?!?!?」


ぶしゅうううううッ!と噴水のような勢いで。
手首から先を喪失したリンリンの腕から鮮血が噴き出る。
こんな痛み、彼女はこれまでの短い人生で感じた事が無かった。
彼女の肉体は、生まれた時から強靭だったのだから。
熊だろうと一撃で殺す膂力、鉄の風船と称される不落の肉体。
その彼女を傷つけられる者など、ただ一人として存在しなかった。
痛みに涙と嗚咽を漏らしながら、この不条理が起きた原因を探る。


「フリーレンさん………」


その原因は、足元のひとごろしの少女の言葉で漸く掴むことができた。
彼女がリンリンの後ろに向けている視線に導かれる様に、振り向く。
すると、今立っている場所から五十メートル程先に、一人の少女が立っていた。
白銀の髪を二つに纏め、氷の様な美貌を備えた、尖った耳の少女が、杖を向けて立っていた。


「お前か………!」


また、このひとごろし共の仲間か。
断定と共に、リンリンは見る者を凍りつかせる殺気を放ちながら、少女を睨む。
どうしてだ。どうしてこの人殺し達ばかり仲間がいる。
おれに仲間は出来た端からいなくなってしまうのに………!
仲間だけじゃなくて、手までおれから奪うのか!



「よぐもおれの手をオォオオォオオオォオオオオ!!!!」


鬼女の形相で、リンリンは疾走を開始する。
奪った手の代償は、命で支払ってもらう。
血がドボドボと流れていくのも激昂している彼女は意に介さない。
彼女は未来の四皇だ。だから手を失った程度では止まらない。止められない。
それを見た魔法使いの少女は、冷淡な顔で、新たな魔法を放った。


「もう、当たらねぇ………!」


ぼそりと呪詛の様に呟いて。
リンリンは迫る白き光の動きを先読みし、ひらりと躱す。
既に見聞色の覇気を習得しつつある才覚。
シャーロット・リンリンはどこまでも天才であり、天災だった。


彼我の距離が二十メートルを切った。
いける。リンリンは勝利の匂いを敏感に嗅ぎ付けた。
また魔法が飛んできても、絶対に躱す。
そして、次の魔法を躱せばそれで自身から右手を奪ったこの女を叩き潰せる。
さぁ、来るなら来い。その魔法を撃った時がお前の最期だ。
血走った眼を見開き、最後の十五メートルの距離を詰めにかかる。


「がああああああ!!!」


巨大な掌を広げ、未来で四皇と恐れられる少女は、これまでと同じく暴虐を振るわんとした。
死んでしまえと、殺意と暴威を叩きつけるべく突き進む。
だが、しかし。常人なら失神してもおかしくない殺気を向けられながら。
今回の彼女の相手は、全く動じなかった。
淡々と、鈴の音の様な声を響かせて、彼女はリンリンにとっての不条理を紡ぐ。


「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」


声と共に、少女の杖の先から光線が発射される。
だが、見聞色の覇気のお陰でその軌道は見えている。躱すのは難しくない。
突撃の最中、太った身体から想像もつかぬ俊敏さで半身となり光線を躱す。
勝った。これで───



「おれの勝ちだ………!」



そう呟くのとほぼ同時に。
彼女の左ひざから下の感覚が消え去った。




          □     □     □



できることなら、手を吹き飛ばした段階で退いて欲しかった。
駆けつけた時には既に、二つの遺体が横たわっていて。
次に目に入るのは追い詰められた写影と桃華の姿。
即座に判断が求められる状況である事を、フリーレンは瞬時に認識した。
だから彼女は、躊躇なく呪文を唱え、巨人の少女の手を吹き飛ばした。
その痛みで敵が臆し、追い払える事がフリーレンにとっての理想だった。


「よぐもおれの手をオォオオォオオオォオオオオ!!!!」


何故なら巨人の少女は、手加減をして、殺さない様に立ち回るには強すぎる。
写影達は愚か、下手をすれば自分でも命を落としかねない相手である。
そうフリーレンは激高しつつ迫る巨人の少女を評価していた。
非殺傷の一般攻撃魔法では止めるのは不可能。少女の肌が堅牢すぎるためだ。
恐らくは、膂力も相当なものだろう。先読みの能力も非常に高い。
一瞥した瞬間、フリーレンの知る最強の戦士アイゼンを想起した。
殺意を漲らせたアイゼンを非殺傷の一般攻撃魔法でどうにかするなど、フリーレンにとっては悪い冗談としか言えなかった。
必然的に、残る選択肢は一つしかない。

迷いはあった。
少女は魔族ではない。魔族であれば当然感じる筈の魔力が感じられなかった。
それとは別の異質な力を感じたが……どちらにせよ魔族では無いだろう。
できることなら、殺したくはなかった。
だが、既に此方には犠牲者が出ていて、相手は心の機微に疎いフリーレンでも対話は不可能だと分かる状態だった。


「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」


だから彼女は、少女の膝を狙った。
機動力を奪えば、流石に戦闘の続行は不可能だと、そう判断した。
人を殺す魔法(ゾルトラーク)。彼女の世界で考案された史上初の貫通魔法。
人体や物質の耐久値を無視し、命中した個所を消し飛ばすその魔法は。
人外の堅牢さを備えた、巨人の少女の肉体に対しても例外では無かった。
後は、躱したと思い込んでいるゾルトラークの軌道を操作し、少女に命中させる。
それはフリーレンにとっては、非常に簡単なミッションで。
事実彼女は全て命中まで思惑通りの結果を引き出した。
これで止まってくれ。もう一度心中で祈るように呟いた。
だがそんな彼女の思いは、残酷な形で裏切られる事となる。


「……ぎ、ィ……ッ!?……っ!!まだだぁああああっ!!」


フリーレンは、彼女にしては非常に珍しいことに、目の前の少女の怪物性を見誤っていた。
魔族でもない人間が、手だけでなく足まで失ってなお止まらない事があろうとは。
執念。その二文字が、フリーレンを追い詰める。
最早、時間は無かった。今この瞬間に決断せねば、自分は死ぬ。
そして自分死ねば、写影達も後を追う事となるだろう。
だから、だから彼女は、少女の完全な沈黙を遂行する事を決めた。
ほんの一瞬、コンマ数秒の時間。祈るように瞼を閉じ、フリーレンは決断を下した。



「───人を殺す魔法(ゾルトラーク)」



人間が、杖を構えたフリーレンに向けて正面から突撃する。
それは、常人が戦車砲の前に突撃するのとほぼ同義だった。
老練されたビッグ・マムであれば、その危険性に気づいただろう。
ホーミーズによる攻撃か、威国など強力な覇気の攻撃で挑んだだろう。
そうなればフリーレンは更なる苦戦か、敗北すらありえた。
だが、それは子供の時代に呼ばれた彼女にとって何の意味も無い話。
あり得ぬIFの話でしかない。
故に、この瞬間。二つの伝説が交錯し、そして、




「くそぉ………!」



伝説は、二つも不要(い)らない。
そう告げるかのように。
ガオンッ!
非常に硬い何かが削れる音と共に。あっさりと。
シャーロット・リンリンの心臓を、無慈悲に人を殺す魔法が穿った。
一撃、一瞬で勝負は決まった。
例え彼女の肉体性能が人類と言う枠組みの頂点に立とうとも。
人類を殺す為に創り上げられた魔法の前に、その防御力は意味を成さなかった。
暴虐を振るってきた神が、積み重ねられてきた叡智によって、その座を引きずり降ろされる。


「ちぐ、しょ………エス……マサ…………」


どうっ!と音を立てて、巨体が大地に倒れ伏せる。
その音色が、惨劇の終わりを告げるカーテンコール。
一つの伝説の終わり。
巨人族から悪神と畏れられ、ひとつなぎの大秘宝を巡る海を荒らしまわった大海賊は。
その未来に至る前に、伝説の魔法使いに討たれた。
まるで御伽の話の様な文句と共に、物語は一つの結びを迎えた。



          □     □     □


───間に合わなかった
ここまで立て続けに状況が悪化する事は、フリーレンにとっても想定外の事態だった。
だが、今更悔やんだところで、死者は生き返らない。
自分を信じていたハーマイオニー・グレンジャーは帰ってこない。
写影達が言っていた、佐藤マサオもだ。


「いえ……っ………ぅ……フリー……レン……っ……さん、は…………悪く……
よく………来て、下さい…………まし、た…………ありが、とう……ございます………」


全てが終わった後、フリーレンが短い、業務連絡染みた謝罪の言葉を述べると。
嗚咽を漏らしながら、桃華はそれでもフリーレンに感謝の言葉を述べた。
写影も言葉こそ出さなかったものの、無言でその言葉に頷いていた。
本当に聡明な子供達だとフリーレンは感じた。
今しがた本当に辛くて、多分一生残る恐怖を味わったのに。
フリーレンに怒りをぶつけても何ら不思議ではない立場で、必死に感情を抑え込んで。


「……そう」


フリーレンは人間の心の機微に疎い。少なくとも彼女自身はそう思っている。
事実今も、救いきれなかった自分に対し感謝の言葉を述べる彼女達に向ける感情は少ない。
フェルンやシュタルクよりも小さい年齢で立派だとか。
当たり散らして当然の立場で、それでも不条理に対する怒りを抑え込めてしまう。
子供らしい感情を捨てないといけないと考えている様子の彼らが哀れだとか。
そう言う事を考えたりはしない。だから、彼女はただ目の前の事実だけを咀嚼して。


「でも………すまなかった。怖くて、辛い思いをさせたね」


そう、謝罪の言葉を二人に告げたのだった。
人は死ぬもの。自分より早く先立って当然の種族。そこに感慨はない。
昔の自分であれば、こんな事は言わなかっただろうなと考えながら。
フリーレンは真っすぐに二人の目を見て、守れたかもしれない犠牲を悼んだ。



「ぐ…………」


そんな時だった。
フリーレン達三人の背後で、桃色の小山が動いた。
倒れたはずの、死んだはずの、朽ちていくだけのはずの小山が、鳴動した。
シャーロット・リンリンが、息を吹き返したのだ。


「ひっ……」


桃華が怯えた声を上げて、後ろに後ずさる。
写影も、顔を強張らせて、桃華を庇う様に進み出る。
心臓を吹き飛ばされたのに、まだ生きているのか。
そう信じるほど二人にとってのリンリンは、怪物を超えた怪物だった。


「………大丈夫」


そんな二人を安心させようとしたのか、それともただの現状確認か。
フリーレンは、短く心配しなくていいという旨の言葉を吐いた。
事実、リンリンは今も動いているが、本当に動けているだけだ。
片手片足を失った肉体では、立ち上がる事すらできない。
ただもぞもぞと地を這いながら、惨めに蠢くのみ。


「もう、永くない」


冷たい声で、フリーレンは断言した。
ここからの復活はありえない。彼女は致命傷を負っている。
もう、暴れる事もできない。即死ではないだけで、このまま死に行くだけだ。
万が一動けたとしても、今の彼女にフリーレンの防御を打ち破る事は出来ない。
だが念のため近寄らない様に言おうとすると、それよりも早く写影が前に進み出た。


「…………」


当然だ、当然の報いだ。
もぞもぞと地面を這いずるリンリンを見て写影はそう思った。
訳の分からない理由で自分達に襲い掛かって、マサオとハーマイオニーを殺して。
その罪と比べれば、あっさりと死ねるだけ神は有情だと思う。
やりたい放題やった災厄の最期に、そんな言葉を送り付けてやろう。
歩みだした時は、確かにそのつもりだった。


「独りは………いや、だ………マザー…………」


その筈だったのに。
地面を這いずり、誰かに救いを求める怪物の姿。
もう、その瞳は写影達を映していない。ここでは無い何処かにいた誰かを映している。
その誰かに助けを求めている。
さっきまで怪物そのものだった少女は、何だかさっきよりも、とてもとても小さく見えた。
倒れていてなお、自分よりずっと大きな体であるにも関わらず。
涙と血の水たまりで溺れ、藻掻くその姿はまるで年相応の子供の様だった。

怪物のくせに。
マサオと、ハーマイオニーを殺したくせに。
哀れみと、怒りがない交ぜになった表情で、写影は悪神の少女を見つめて。
それを見て、彼の真意を測りかねた背後の桃華が、彼に向けて駆け寄ろうとする。
だが、傍らのフリーレンがそれを引き留め、無言で首を横に振った。
今から彼のやろうとしている事に、口を挟むべきではない。たとえそれが何であっても。
視線だけで彼女は告げていた。


「くそ………」


二人の少女を尻目に。
写影は、何処か悔しさを孕んだ呟きを漏らし、能力を使用した。




          □     □     □



なんで。どうしてだよ。
おれはただ、みんなとお友達に……家族(ファミリー)になりたかっただけなのに。
そのために、一生懸命頑張ったのに。
皆おれから離れていく。おれの前からいなくなってしまう。
嫌だよ。おれ、頑張るから。一人にしないで。
どれだけそう言っても、皆はおれを置いて行っちゃって。
おれは一体、何処で何を間違えたんだ?
いくら考えても分からない。誰も教えてくれない。分からないまま、


おれはこうして、ひとりぼっちで死のうとしている。


いやだよ。
死にたくないよ。
まだやりたい事いっぱいある。
世界中の人や珍しい動物さんとお友達になりたい。
海賊になって、仲間と一緒にお宝を探したい。
マザーの言ってた、誰でも同じ目線でテーブルが囲める夢の国を創りたい。
おれ、まだ何一つ叶えてないよ。


「助けて……誰か………マザー………」


真っ赤な血を吐き出しながら、おれはマザーの名前を呼んだ。
でも、マザーは来てくれない。羊の家の皆も。
エスターも、マサオも、通りすがりのヒーローも。
おれがどれだけ願っても、誰一人来てくれない。
意識がどんどん暗く……闇の中に落ちていくのが分かる。
怖いよ。寒いよ。苦しいよ。おなか減ったよ。
みんな、おれを独りにしないで……………


「独りは………いや、だ………マザー…………」


最後の力を振り絞って。
おれは、残った方の手を伸ばしながら、もう一度マザーが来てくれるように願った。
一人ぼっちで死ぬのは、とてもとても怖いから。
きっとおれは何か大切なことを間違えて。
だから、マザーは来てくれないだろうなって言うのは、もうおれも気づいていたけど。
でも、それでも願わずにはいられなかった。
そして、




────マ、ザー………!




これはきっと、奇跡だ。おれはそう思った。
涙でぼやけて掠れた世界の中に、マザーがいた。
見間違いじゃない。目を見開いて、もう一度よく見る。
確かにマザーだった。マザーが、俺に優しく笑いかけてくれていた。
普段通りの笑顔で、両手を広げて。
言葉は話してくれなかったけど、それでも。
誕生日からいなくなってしまったマザーそのものだった。


「お、れ……ずっと……ずっと………」



この島に来てからずっと、マザーに会いたかった。
この島に来てからできた仲間に、マザーを紹介してやりたかった。
よく頑張ったわね、リンリンって、マザーに褒めてもらいたかった。
それは叶わなかったけど、でも、良かった。マザーが来てくれて………
これでもう、独りで死ななくていいんだって、そう思えたから。
最後に、笑うマザーの優しい笑顔をしっかりと目に焼き付けて。




「あり、がと…………マザー………」




おれも笑って、そう言った。



【シャーロット・リンリン@ONEPIECE 死亡】


          □     □     □



自分は一体、何をやっているのか。
スペクテッドの能力『幻視』を使用しながら、写影はそう思わずにはいられなかった。


「あり、がと…………マザー………」


孤独に死んでいく絶望から一転。
写影達を恐怖と絶望の底に突き落とした張本人は、満ち足りた表情でこの世を去った。
彼の作った幻覚によって。
何故この怪物の為に自分はこんな事をしたのか。
怪物を更なる絶望に突き落とそうとしたのか。
それとも、独りぼっちで死んでいく少女に、せめてもの救いを用意しようとしたのか。


「分からない。そんなの、分からないよ………」


写影自身にもそれがどちらなのかは分からなかった。
ただ、どんな幻覚を見たのかは知らないが、リンリンは安心した表情でこの世を後にした。
ただその事実を受け止めて。ぼろぼろと、大粒の涙を流しながら。
満ち足りた表情で逝ったリンリンを前に項垂れる。
ハーマイオニー達は何の救いも無かったのに。
その下手人だけこんな真似をしてよかったのか。
それすらも分からない。


「……写影」


そんな彼の頭の上に、手が乗せられる。
フリーレンが写影の隣に並び立つように立ち、片手で写影の頭を撫でていた。


「君は間違った事はしてないよ」


写影達を守るために、必要な措置だったとは思っている。
相手に会話の余地はなく、手加減をして勝てる相手でも無かった。
また、人を殺した事にショックを受けるには、彼女は余りにも多くの知己を見送りすぎた。
自分の手を汚すことを厭い、目の前の二人を死なせる訳にはいかなかった。
人は死ぬものだ。エルフの彼女には、割り切って受け止められる。
だが、それでも………



「君のした行いや気持ちは、生きていくうえで必要な物だ。大切にするといい」



人が死ぬのは、哀しいことだ。
勇者が没したその日から、彼女はその事を知っていた。
だから、彼女は写影の哀しみと怒り、死者を悼む想いに少しだけ寄り添う。
葬送のフリーレンという魔法使いは、氷の様に冷たく、雪の様に慈しかった。


「わたくしも……そう思います」


フリーレンとは反対側に位置し、桃華もまた、写影の隣に並んで写影に言葉を贈る。
写影と同じで涙を流している、それでももう、嗚咽を漏らしてはいない。
背筋を伸ばしてリンリンの前へと立ち、その亡骸をじっと見つめていた。
言葉を尽くす余裕はない。アイドルとして、歌や踊りで励ます事も出来ない。
だから彼女はただの櫻井桃華として、そっと少年の隣にいる事を選んだ。
貴方は独りではない。みんなで一歩ずつ前へと進んでいきましょう。
言葉にせずとも、その想いが伝わる事を信じて。




「…………二人とも………ありがとう…………」



そんな二人の想いを受け取り。
写影はただただ、感謝の言葉を返した。
二人の言葉は、存在は。写影にとって無明の闇の底で見た、鈍く輝く星の様だった。
ヒーローになる資格は、きっともう失ってしまったけれど。
それでも、そんな自分でもまだ何かできる事がある、そう思えた。



           □     □     □



数分後。
フリーレンは三人の死者の支給品と首輪を回収した。
首を切断した死体を見せぬよう、簡素な墓を作り、そこに安置。
ハーマイオニーが使っていた杖だけは、彼女の遺体に添えて、埋め立てる。
弔える時間は殆ど無い。此処は戦場だ。
死体を弔っていた人間が死体になりかねない環境なのだ。
だが、フリーレン自身の魔力感知と、巨人の少女が持っていた首輪探知機のお陰で近場の安全は確認できた。


「準備できたよ」


フリーレンの言葉を受け、陰で休んでいた桃華と写影が頷き、墓前の前に出てくる。
墓石のような物はないため、知らなければそこに人が眠っているなど分からない。
そうそう掘り返される事も無いだろう。
その事実に少し安堵を覚えながら、写影と桃華は静かに瞼を閉じ、手を合わせた。
ただ、眠りについた者達の安息を願う。

殺しておいて、この行いは傲慢なのかもしれない。
無意味な行いなのかもしれない。
けれどその場にいる全員が、きっと間違いではないと考えていた。
仲間だった者にも、敵にしかなれなかった者にも。



今はただ、亡き人に祈りを───────、



【F-5/一日目/午前】

【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(大)、疲労(大)、能力の副作用(小)、あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:─────
1:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
2:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
3:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
4:桃華には助けられてばかりだ…。
5:沙都子とメリュジーヌを強く警戒。リンリンも何とかしないと。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。

【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ハーマイオニーさん、マサオさん………
1:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
2:写影さんを守る。
3:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。

※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。


【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品×5、モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)&墓荒らし&魔法解除&不明カード×6枚(マサオの分も含む)@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、
ランダム支給品1~4(フリーレン、ハンディ、ハーマイオニー、エスターの分)、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)、戦士の1kgハンバーグ、封魔鉱@葬送のフリーレン、
レナの鉈@ひぐらしのなく頃に業、首輪探知機@オリジナル、スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、ハーマイオニー、リンリン、マサオの首輪。
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:写影達を追う。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティア、我愛羅は次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:流石に一度ガッシュと合流して態勢を立て直したい。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
6:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。


ニンフの羽やエリスの置手紙、ハーマイオニーのロウソクなどは確認後破棄しました。


【城之内君の墓あらし@遊戯王DM】
佐藤マサオに支給。
城之内克也が使用するカード。戦闘によって破壊されたモンスターや使用済みのトラップ、魔法カードのリサイクル効果を持つ。
このカードを他のカードに使用する事によって、再使用可能までのインターバルを無視する事が可能となる。
城之内の墓あらしはOCG版と違いモンスター、罠、魔法カード問わず使用可能。
一度使用すると12時間使用不可となる。






087:ドロップアイテム 投下順に読む 089:その涙の理由を変える者
086:救われぬ者に救いの手を 時系列順に読む
080:暴発 北条沙都子 097:Ave Maria
カオス
美山写影 105:おくれてきた名探偵
櫻井桃華
ハーマイオニー・グレンジャー GAME OVER
シャーロット・リンリン GAME OVER
佐藤マサオ GAME OVER
085:Frieren the Slayer フリーレン 105:おくれてきた名探偵

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