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終わりの始まり

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「……生きてるの?」

最初にクロが目を覚まし、口にしたのは自分の生存に対する疑問だった。
我ながら、相当な無茶……盛大な自殺行為をしたものだと思う。
固有結界の強制展開と、聖剣の真名の強制解放。
全魔力を注ぎ込み、文字通り命を懸けた必殺の一撃を見舞った事までは記憶にある。
だが聖光を貫く雷の弾丸が、肩を抉り痛みと共に意識を手放した。
その時に、もう二度と目が覚めることはないだろうと、クロは死を覚悟した。

「ええ、ここはまだ天国じゃないわよ」
「らしくないわね……身動きできない私で、いくらでも遊べたでしょうに」
「私だって、助けてくれた借りぐらい返すわ。失礼しちゃう」

見た所、ここは屋内で何処かの民家に連れて、ソファーの上に寝かされているようだった。
聞けば、クロは無事シュライバーを追い払うことができたという。
あそこまでやって、ようやく撃退しかできなかったことに、クロは眩暈もしてきたが。

「これからの展望は何かあるの?」
「……さあ? どうしましょうか」

グレーテルは相変わらず不敵に笑っていた。
さっきシュライバーに殺されかけ、涙を流したとは思えないほどの素振り。
策を思いつきながら、勿体ぶっているようにも聞こえたが。
でも、これがハリボテなのはクロには一目で分かった。
生き残るのに特化した厄災が、この先の生存戦略を全く見出していない。
自分が寝ているのは、短く見積もってもニ十分程だろうが、それだけの時間を与えられながらグレーテルは何も考え付いていない。

(やっぱり……あいつのせいか)

グレーテルの信仰を完膚なきまでに打ち砕き嘲笑った狂気の白騎士。
奴の中に捉えたヘンゼルの声は、グレーテルの壊れた心をより念入りに破壊した。
修復不可能になった器の破片を、さらに細かく踏み砕くように。
もうガムテープで貼り付けて、繋ぎとめる事すらできないほどに。

「…………ねえ」

ソファーから寝返りを打つと、リビングの中に一際大きな窓があった。
人が通れるような大きさでクロの家ように……正確にはイリヤの家のだが、サンダルでも用意すれば、
そのまま庭までショートカットできるような間取りだ。

「海でも、見に行かない?」

だがイリヤの家と違うのは、住宅街の真ん中にある一軒家と違い、海に近い場所に建てられ、庭から海の奇麗な景色が一望できるように設計されていた。
きらきらと水上で輝く日光と、青々とした海原を見て、クロはそれが本当に奇麗な物だと思った。

「ふーん……案外冷たくないわね」

民家を出て数分、浜辺には簡単についた。
海水に指を浸せば、そのまま海水浴でもやれそうな水温だ。
気候も穏和であり幸い辺りに自分達以外の参加者の気配もない。

「きゃっ!?」

意地悪そうにクロは掌で海水を掬うと、真横にいたグレーテルの顔へ思い切り水を浴びせた。

「急に何するの!」
「油断してる方が悪いのよ、ほら!」

バシャッ。
水面を叩きながら、クロはまた今度は両手で水を吹っかける。
腕で顔を庇いながら、グレーテルは頬を膨らます。

「……ちょッ!?」

足を持ち上げて、グレーテルは砂を蹴り上げて砂塵を巻き上げた。

「もう……ぺっぺ……! 砂は駄目でしょ!!」

顔に砂が掛かって口の中に入った小さな石粒を吐き出す。
てっきり水を掛けて、やり返すとばかり思っていたクロは嫌そうな顔をした。

「しょっぱい……ほんとに、塩みたいな味がするのね」

同じく顔に掛かった海水が口に入り、グレーテルの舌を塩辛くピリピリと刺激する。
調味料の分量をミスした料理を口にしたような味わいだ。
シンプルな魚の塩焼きにも近いだろうか。

「不思議だわ。こんなに奇麗な水なのに」

濁りのない奇麗な水にしか見えないのに、こんなにも塩の味が広がるなんて。
こんな水の中で多くの魚介類が生きていると思うと、不思議な気持ちになった。
酸素がないのを抜きにしても、こんな所で生きてると塩分過多になりそうだ。

「泳ぎましょ。
 これがあれば、グレーテルも泳げるでしょ」

紫電のような輝きがクロとグレーテルを照らす。
回路に魔力を通し、クロは浮き輪を一つ投影してみせた。

「麻薬で義足の付け根も治ってるみたいだし、大丈夫よね?」

「まあ、そうだけど……魔力の無駄遣いなんてしていいの? 私には、クロの事情があまり分からないけど」
「平気よ。このくらい」

内部に空気を溜めて、水のように受けるようにする。この構造はとても単純だ。
先のシュライバー戦の銃の投影に比べれば、まるで負担にもならない。

「やっぱり、この水温は泳げるわね。
 うーん、気持ちいい!!」

クロは自分の服を浜辺に脱ぎ捨てて素っ裸になると、海に飛び込んだ。
水面を四肢でバタつかせて水しぶきを上げながら、全身が程良く冷めた水に浸り、浮力で浮かんでいくのを楽しむ。
水着がなく、さらに周りに人がいないから良いとはいえ、こんな野外で裸になってしまうのに抵抗がないのもどうなのだろうか。
散々、そっちの方面でからかったから、免疫ができてしまったのかもしれない。
うぶだった方が可愛かったのに。
だけど、楽しそうにしているのなら、それに越したことはないか。
せっかくだし、自分も楽しもう。
そう考え、邪気のない微笑を浮かべて、グレーテルも服に手を掛けた。


『────ぅ゛ぉ゛、ぇ゛ッ………!』
『ごめ………グレー、テ………』


ああ、そうだった。
あの娘には、”私達は”隠した方が良い。

「私はやめておくわ」

体に刻まれた下卑た大人達の悪意。
劇物のようなそれを、あんなに楽しそうに遊んでるクロに見せれば、場がしらけてしまうだろう。
少なくとも二回、クロはそれを拒絶していた。
見た限り水着もなさそうであり、服を着て泳ぐのも快適とは言えない。
グレーテルは服から手を放し、寂しそうにクロを見つめていた。
普段の様子を崩さないように、必死で演じるように大人びた声色で。
私は疲れたから見ているだけでいいわと、心を悟られないように声を紡ぐ。

「……なに、遠慮してるのよ」

海から上がってきたクロがむすっとした顔でグレーテルを見つめる。

「今更、女同士で気にするような事なんかないでしょ?
 もっと凄い事しちゃったんだし」
「でも……クロは前……」
「ぐだぐだうっさいわね……投影開始(トレース・オン)」

白黒の双剣を取り出すと、狼狽するグレーテルに向けて数度振るう。

「え……」

スパスパっと間抜けな音が響く。
呆気にとられたグレーテルの服は一気に、ハギレと化してしまった。

「あ…貴女こんな強引だったの? 服なくなっちゃったわ……」

当然、着る物がなければグレーテルも裸にならざるを得ない。
下着まで、ご丁寧に布切れに変わり、素肌に刃一つ触れずに服を切り刻むのは神業といえばそうなのだろうが、呆れの方が勝る。

「さっきの家からパクればいいわ。
 そんなことより、もうそんな姿になったならやる事は一つでしょ!」

クロはグレーテルの手を取って、引きずり込むように海の中に引っ張っていく。
しかも、見られないように隠していた下半身の腕をまくるようにして。
日の光の下、そこに刻まれた世界の暗部が晒される。

「……あっ」

また、クロに嫌な思いをさせてしまう。
この腕を振り払って隠さないと。
そう思い力を込めた腕を、クロの手は離さなかった。

「平気よ。大丈夫……」

優しく微笑んで、きっと見えているだろうそれを直視しても、クロは力強くグレーテルを見つめていた。

「クロ……あなた……」

「油断したわね! 食らいなさい!」

「きゃぶッ!?」

空いたもう片方の手でグレーテルはまた水を顔に掛けられる。
そのまま、クロは手を離して遠くへと泳いでいってしまう。

「やり返したかったら、こっちまで追い付いてみなさい。
 えい!」

「もう……ちょっと……!!」

泳がないと追い付けないような距離まで行って、クロは両手を水面に構えて水鉄砲の要領で飛ばしていく。
風呂場で子供が親にでも悪戯するような光景だが、1mは離れていそうなそこそこの距離をあっさりと届かせるのは弓兵(アーチャー)の技能故らしい。
卓越した狙撃スキルを、よりにもよってこんなしょうもない事にフル活用するのは笑いどころなのか。
明らかな神業の無駄遣いにグレーテルも頬を緩ませてしまった。

「む、前に進めな……」

浮き輪を腰に嵌めて、いざ海の中を進むが体が硬直して上手く動けない。
やはり水中では、体の力が抜けていく。
地獄への回数券か悪魔の実か……肉体に影響を与える支給品はこの二つであり、どちらかの影響だろう。
足をばたつかせて前に進めてはいるのだが、地上と比べて肉体の操作が覚束ないようなイメージだ。

びしゃっ。

「もう、ズルいわね!」

せっせとようやくクロに追い付くと、さらにクロは距離を空けて水鉄砲を噴射。
アーチャーの技量を最大限発揮して的確にグレーテルの顔面に命中させる。

「こっちは義足まで付けてるのに……」

とんでもないハンデ戦だ。
悪魔の実の影響でカナヅチになり、足に金属を二つ嵌めて泳いでるのだ。
浮き輪があっても、泳ぎで勝てる筈がない。

……もしかして、ハメられた?

「今まで散々振り回してくれたお返しよ」
「……根に持ってたの?」
「そりゃもう、やられっぱなしは性に合わないもの」

意地悪い笑みを含ませた目つきで、クロはグレーテルに狙いを定める。
ああ、そういうことか。この娘、根っこはSなんだ。
グレーテルがそう考えた時には、既にマシンガンのように水鉄砲の連射が射出されていた。

「きゃ、も……やめ……ぶっ!」

クロは両手を器用に絡ませ、ショットガンのように水の散弾が炸裂していく。
それら全てが、グレーテルに着弾するのだから、流石は英霊を依り代にした聖杯というべきか。

「ん……もう!」

グレーテルの背から双翼が生える。
体の自由は効かなくとも、それは水中に限っての事。空中に飛び上がれば、グレーテルの身も自由だ。
操作に慣れないのか、三回ほど空ぶるように翼を撓らせたあとで、掴んだ浮き輪ごとグレーテルは飛翔した。

「な、ちょ……うぎゃ!」

そしてグレーテルは上空から腕一杯に救い上げた海水を、雨水のようにクロに浴びせる。
今までに当てた分以上の水量を一気に浴びせられ、クロの頭髪は湿ったわかめのようにぺったんこになる。

「ズルするからこうなるのよ!」

こんなこともあろうかと、ランドセルを持ったままでよかった。
万里飛翔マスティマ、回収した支給品であり実用するのは初めてだったが、なるほど悪くないとグレーテルは思った。
如何せん空中というミスをすれば、飛行高度によっては鉄の体でも落下死しかねないアイテム。
また、グレーテルは既にルビカンテとの相性が良くそちらをメインで使用する都合、禁忌である帝具の同時使用に触れる恐れもあり、使用は控えていた。
だが、想像より使い勝手は悪くなく、初見の時以上にグレーテルとの相性も悪くなかったらしい。
最悪落ちても、海ならば多少のクッションにはなるし、溺れてもクロがどうにかするだろうと試しに使ってみたが、好ましい実験結果を得られた。

「あらクロったら、どうしたの? 全然届かないじゃない」

「ぐ……ぬぬ……」

弓兵のサーヴァントの人並外れた射撃術を備えているとはいえ、素手の水鉄砲の精密狙撃には限度があり、飛距離を稼がれたグレーテルには全く届かない。

「今度はこっちの番ね!」

マスティマの羽を飛ばしていく。それらは、クロを囲うように水上を叩き、水飛沫を上げていく。
いわば羽の余波によって巻き上げられた水の爆弾は、中央に浮かぶクロへと一斉に襲い掛かる。

「きゃあッ……! 待っ……飛ぶなんて、ズルじゃない!!」

「あはははっ! 泳げない私を的にするクロに言われたくないわ!!」

孤立無援の海上で狙い撃ちにされている船のようだった。
水飛沫の散弾に包囲され、顔を覆ってクロは防御に徹するしか手段がない。
グレーテルは遥か空、制空権を握られこちらの攻撃は全てが無力化されているのだから。

「投影開始(トレース・オン)!!」

─────いいわ。そっちがその気なら、私も本気だから。

クロは水浸しになりながら闘志の炎を瞳に宿し、翳した腕の下で口の端を吊り上げる。
何処かで見た……あるいは、クロの中の英霊が見たかもしれない、黄色のマガジンを装填した透明な水鉄砲を投影する。
銃口を空に向け、トリガーを引く。銃弾もかくやの速さでグレーテルのマスティマへ着弾し、飛行のバランスを崩す。

「きゃあッ! こ、の……!!」

「まだまだよ!!」

墜落しかけて踏ん張るグレーテルに対し、銃身の下に新たに投影した剣をセッティング。
グレーテルも水鉄砲に集約する聖剣の輝きに瞠目した。

「いっくわよ!
 陽光煌めく、偽・勝利の剣(エクスカリバー・ヴィヴィアン)!!」

水流というよりは最早ビーム呼ぶのがふさわしい水鉄砲の水弾。
聖剣の偽物(できそこない)の偽物(ハリボテ)にさらに偽物(かげん)を加えた凄まじい劣化版として投影したが、水鉄砲の水圧をブーストするのであれば十分な代物だった。
実戦では話にならないが、子供の競り合いであればオーバキルかつ、魔力消費も抑えられる。

「使いましょうか……奥の手を」

避けるのは無理、ブレードランナーで引き裂こうとも相手は水、結局飛散した飛沫でずぶ濡れになる。
背の円盤状のパーツが駆動し、グレーテルの背の翼が交差する。
バツ字になった翼は輝きを増し、触れた水弾の勢いを殺さぬまま跳ね返していく。
マスティマの奥の手「神の羽」。
クロの浮いていた水面が柱状に波が上がって、まるでミサイルが投下されたかのようだった。

「……く、げほっ……やり過ぎでしょあんた!!」

爆心地の中央にいたクロは海水を飲んだのか咳き込む。

「だって……クロが変な魔法使うから」

波が空で分散し飛沫となり雨となって降り注ぐ。
グレーテルの翼に水が打ち付けられ、雨音となって響く。
あまりの威力に、跳ね返したグレーテルも水浸しだ。防御を展開した意味がなかった。

「はあ……もう、魔力が減っちゃたわ……グレーテル……あんたのせいよ」
「あら、先に始めたのはあなたじゃない」

二人は海から上がって、海水塗れのまま唇を重ねる。
本気でないとはいえ、我ながらしょうもないことで、体力を使ったものだ。
ことを終えて砂浜に腰を下ろすと、やたらと体が重く感じる。

「海って楽しい所ね」

疲れこそしたが、その疲労感に不快さは感じない。
楽しく遊んで満足してぐったりした時のような、そんな心地よい感触だ。
グレーテルにとって一つ違うのは、今全身に浴びているのが血か海水かの違いだけだった。

「……私もよ。
 海で遊ぶの、私は初めてだったから」

「友達がいなかったの?」

「私は知ってても、相手は知らない一方通行って言えばいいかしら」

イリヤは何度か海に遊びに来たこともあるようだった。
家族とも訪れた事があるだろうし、クロと分離する前にはイリヤの誕生日を祝うのも兼ねて、友達と行く計画も立てていた。当の本人が覚えているか知らないが。

「ま、他人……かな」

美々も龍子も雀花も那奈亀も。
他ならぬ、あの美遊も……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの友達であって、クロエ・フォン・アインツベルンの友人ではない。
彼女らも、クロを友としてカウントする事はないだろう。
血塗られた魔術とは縁遠い彼女達にとって、間違いなく自分は異物であり、イリヤの過剰な拒絶も今にして思えば強ち間違いでもない。
平穏な日常に対して、クロという存在はいてはならない。

(もう……私の手は血塗れだもの)

沢山の人が死んだ。

『イリヤは、生き……』
『クソォ!!』
『聞いて───』

直接手を下したにせよ、間接的にせよ。

『かじゅ……ま……! た、す……』
『だから、泣かないで』

とにかく大勢が死んだのだ。

『悟飯くん。僕は...なにがあっても、絶対にきみの味方だよ』
『さっきから邪魔だって言ってるだろ!なんでわからないんだ!!』

もしかしたら、クロが少しでも行動を変えれば変わった結末もあり得たのかもしれない。

『わたし、たち………どうすればよかったのかな………?』

誤った道を進まずにすんだ人達がいたのかもしれない。
後悔しても足りない。情状酌量の余地があっても、それを帳消しにするだけの悪行に手を染めた。
あの世があるなら確実に地獄行きだ。

(あそこに……私の居場所なんてないし、あっちゃいけないわ……)

普通の生はイリヤが歩めばいい。
両親に愛されて、優しい姉と兄に囲まれて、恵まれた友人達と共に、当たり前のように孫に囲まれて死ねばいい。

(居場所もなく、誰からも求められない私なんかでも……最後に友達でもできれば上等よね……向こうがどう思ってるか知らないけど)

その片割れとして、存在するべきでなかったクロにとって残された生は、魔術師として歩む道か……。
友達のために、短い余生を燃やすか。

(多分……アインツベルンはもう……ない)

イリヤの家庭の状況を鑑みるに、完全に無縁ではないにしても、殆ど魔術とは切り離された生活をしていた。
少なくとも士郎とイリヤはそうだ。
アインツベルンが健在であれば、あの二人があんな平和な生活を享受するなどありえない。
それに士郎の正体……シュライバーとの戦いで垣間見た弓兵(えいれい)の記憶を見るに、アインツベルンにあんな例外(インチキ)を置いたとして、普通に暮らせるわけがない。
世界線の違いと、そこに至る過程が異なる実質的な別人であり、あの素質は備わっていないか。
または、単に気付かれていないという可能性もあるが……。
だが、士郎やイリヤ以外の差異も大きく異なる。
クロの核となっている英霊■■■の世界線では、遠坂凛のあり方も違う。
あちらの世界線を知った後から考え直すと、アインツベルンの名を凛が知らなかったのは大きな違いだ。
イリヤの両親である衛宮切嗣とアイリスフィールの存命も同じく。
そして、それらの差異を総合的に考えれば、少なくともイリヤの世界では聖杯戦争に携わる“御三家”としてのアインツベルンは存在しないと考えるのが妥当だった。
正確には、あちらの世界では御三家として存在する遠坂、間桐(マキリ)、アインツベルンがイリヤの世界では現代まで存続していないというのが正しいか。
特に遠坂は、凛の代では聖杯戦争を全く認知していない。

(私に……生まれた意味はないわ)

一つ結論として言えるのは、あのイリヤの世界では聖杯戦争は二度と起こらないだろうということ。
父親(ヒーロー)になれた切嗣が、今も何処かでその正体を家族に隠しながら、争いの火種を消して回っているのだろう。
家族を守り抜くために。
聖杯戦争がなければ、聖杯(クロ)に生まれた意味はない。

(……私はパパからしたら、排除すべき悪者かもしれないわね)

魔力が切れれば消失する生物として重大な欠陥を抱え。
運命の気まぐれか、奇跡によって誕生した生命だが所詮は仮初の命だ。
しかもクロの存在は、イリヤの日常を脅かすヴィランといっても過言ではない。

ズズズッ。

「やっぱ海で遊んだ後は、焼きそばよね。
 ……カップ焼きそばだけど」

四角の発泡スチロールから、ソースで黒く染まった麺を啜ってクロは舌鼓を打つ。
さっきの民家からケトルとカップ麺を拝借したのは大正解だった。

「日本のご飯は美味しいと聞いていたけど、お湯を入れて3分でこれは中々だわ」

グレーテルも同じくフォークで麺を口に運ぶ。
スルッと口に滑り込む麺と、重厚で濃厚なソースの風味とパンチが病み付きになりそうだ。
海で遊んで汗をかいたお陰か、塩味のあるソースがまた格段に美味い。
これが日本では子供の小遣いでもあれば、いつでも買えるらしいのも驚きだった。

「ふぅ……さて、お腹も膨れたし次はどこ行きましょうか」

クロは空になった容器をビニール袋に入れて、ランドセルにしまい込んだ。
海に捨てようとも思ったが、環境破壊を考慮して丁寧に処分してるのは性分なのかもしれない。
どうせ、自分は地球にそう永くはいないだろうにと、自嘲して頬を緩ませる。

「正直に言うわ。……私、次に何をしようか……何も浮かばないの」

グレーテルはフォークを運ぶ手を止めて、まだ半分ほど麺が残っている容器を見つめる。

「多分……貴女からすれば、私にはもうあまり利用価値がない」

グレーテルは失敗した。
今、この二人が組んでいるのはお互いが優勝を果たすための駒だからだ。
クロはグレーテルの知らない未知の魔術の知識と対抗策の提供、そしてグレーテルはその狂気で戦場を掻き回す戦略を。
しかし、シュライバーとの戦闘でグレーテルは完膚なきまでに敗北した。
これまでは、対主催が善良であったが故に悟飯を相手にしてもペースを崩さず、グレーテルは立ち回れたが、あの狂人だけはどうやっても勝ち目がない。

「シュライバーには、私と貴女が組み続けても……きっと勝てない」

シャルティアのような慢心もなければ、悟飯のように付け入る隙もない。
最悪にして最強の天敵だ。

「もしクロが優勝したいなら……他の相手を探した方がいいわ」

グレーテルがマーダーであることは大勢に知られているだろう。
おじゃる丸の解体に関しても自分から開示してしまった。
イリヤ達が生きていれば、悪評を撒かれているに違いない。
そうなれば他の対主催どころか、同じマーダーにすら拒絶されかねない。
自分達の遊びが、他者からは嫌悪され唾棄すべき所業なのも本当は知っていた。
例えそれがロアナプラを根城にするような、人殺しなど物の数とも思っていない連中であっても。
この先、グレーテルが他の参加者を味方に引き入れられる可能性は高くない。

「いるわよ。一緒に」

クロだけならば、まだイリヤ達と和解することもできるかもしれない。

「私は……あなただけの味方をやめないわ」

現実的に考えれば、グレーテルと手を組むのはメリットにならない。
厄種を自ら抱え込んで、得をすることなんかない。
ロアナプラでグレーテル達を雇った親(マフィア)が、手を焼いて始末しようとした時のように、クロはグレーテルを見限るべきだ。

「どうして……あなたが、私に肩入れする理由はないでしょう」

今のグレーテルならば、いくらでも殺し方が浮かぶ筈だ。
海が近くにあり、マスティマがあるとはいえ本気を出せば、いくらでも叩き落とす方法はある。
クロが殺しに慣れていなかったのも最初の頃、少なくとも今は割り切れる。
グレーテルがいなくとも殺人を行うのに問題はない。
戦力面でもグレーテルがいなくとも、クロならば何とかなるだろう。
グレーテルを殺しドミノに換金すれば、報酬システムの恩恵に与れる可能性もあがる。
帝具も二つ入手できる。
この先、他参加者との接触の際に交渉で、邪魔になりかねないグレーテルと同行する理由はない。

「あなたが……一番最初に、私に生きていいと言ってくれたからよ」

クロも彼女の異常性には、前々から気付いていた。
この娘は理由のない殺しをやめられない。

「だから私もあなたには生きていて欲しいの」

殺す理由は百は浮かんでも、生かす理由は一つもない。
世界中から厄介払いされ続け、行き着くとこまで行き着いた厄災。

「グレーテルだって……生きたいんでしょ?」

もしも、この先も大勢の血を流して屍を積み上げたのだとしても。

「生きられる体があるなら、生きないと……それに、あなたが生きてくれるのなら」

最後まで寄り添えないだろうけど、それでもほんの一瞬でも、クロエ・フォン・アインツベルンという少女がいたことを思い出してくれるのなら。

「偽物(わたし)にも、生まれた意味があったと思えるから」

にっこりとクロは微笑む。
グレーテルにとってそれは血を分けた双子(ヘンゼル)以外からは、決して向けられなかった感情だった。

「そう……なら、回しましょうか」

他人と長く居て、拒絶されなかった事も。

「でも、二人でよ? 二人でリングを沢山回しましょう」

自分の生を心から望んでくれたのも。

「私達は生き続けるの……ずっと、ずっとよ……」
『君らのそれは、根も葉もない妄想だってね』

きしりと、心の中に深く刻まれた亀裂が軋んでいくのを、グレーテルはあえて無視して。
自分を偽り演じるように、グレーテルは声色を作った。
バレていないか、胸の鼓動がバクバクと脈打つのを感じながら。

「ねえ? 次の目的地は海馬ランドにしてみない」
「海馬ランド?」
「あのモクバって子が言ってたでしょう? 自分達が作った場所だって。
 美味しいご飯もあるって言ってたし、あの子も来てたら丁度いいじゃない」

『俺と兄サマの作った海馬ランドで────』

グレーテルの記憶に間違いなければ、以前対峙したモクバの言動から、建設に関わる施設なのだろう。
海馬の苗字を取って海馬ランドと名付けたのなら納得する話だ。

「そうね。あの二人なら簡単に狩れそうだし……試しに行ってみましょうか?」

クロも少し思案してから快諾する。
弱い奴から狙うのは悪くない手だ。その居場所にある程度見当がつくのなら尚更。

(案外悪くない行先かもね。乃亜の名前が付いた施設だし……乃亜の情報欲しさに、対主催が集まってるかも。
 海馬コーポレーションの方は悟飯(あのこ)もいそうだから、近づかない方が良さそうだし。
 それに……)

遊園地なんてグレーテルは行った事もないだろうから。
少しでも、良い思い出もできれば。
そんな思惑もないといえば嘘になる。

(自分の事より、他の事の為に戦う方が……なんだかやる気がでるのも皮肉ね)

この先、クロにとって未来は何もない戦いになる。
彼女が勝とうと負けようと、最終的には消滅しか残らないだろう。

クロにとって終わりの始まりを示唆するように、日も傾き出している。
偽りの空は、もうじき夕方になろうとしていた。



【一日目/午後/B-5】

【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大 地獄の回数券により治癒中)、クロに対する困惑(極大)、シュライバーに対するショック
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック、透明マント@ハリーポッターシリーズ
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道、タイムテレビ@ドラえもん、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、
エネルギー吸引器@ドラゴンボールZ、媚薬@無職転生~異世界行ったら本気出す~、ヤクルト@現実、
首輪×9(海兵、アーカード、ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天、美柑)、スマホ@現実
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:海馬ランドへ行く
1:私たちは永遠に死なない……?
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。三人殺せたけど、まだまだ遊びたいわ!
7:水に弱くなってる……?
8:金髪の少女(闇)は、私たちと同じ匂いがしたのに残念だわ。
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血まみれでしたが着替えたので血は落ちました。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。


【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:疲労(大)魔力消費(大)、 グレーテルに対する共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化、覚悟完了
[装備]:ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、
グレードアップえき(残り2回)@ドラえもん、サンダーボルト@遊戯王デュエルモンスターズ、
[思考・状況]
基本方針:グレーテルと一緒に優勝狙い。
0:海馬ランドへ行く。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
※無限の剣製は二度と使えません。


138:ラフ・メイカー 投下順に読む 140:この儚くも美しい絶望の世界で(前編)
時系列順に読む
135:Someday I want to run away クロエ・フォン・アインツベルン 000:[[]]
グレーテル 000:[[]]

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