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ダンゲロスSS上海
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ダンゲロスSS上海

それは簡単なお仕事

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dangerousss_shanghai

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「開けろ! 捕り物だ! 放火容疑で恋辻メーメーの身柄を拘束する!!」
「ちょっと!? あそこが燃えたのはただの事故であってわたしのせいじゃ……たぶん……無いはず」
(どーすんのさ。噛む? 噛んじゃう?)
「流石に表沙汰になるのはマズいから……紙とペンと、例の封筒、よし。ババっと書いて……スパイク、これを!」
(「トラブルバスターズ槌歌」ってとこに届ければいいんだね!)
「頼んだわよ……!」

_/_/_/

大放水路からの帰り道、俺は七歌からの報告を(彼女の能力越しに)聞いていた。

「ダイヤの持ち主は、劉炎嵐」
「あの""紅虎""か? 義憤が服を着て歩いてる、あの?」
「ええ。上海大賽優勝候補、筆頭の」

知らぬ名ではない。
仕事の選り好みは性格上極端なものの、暴力でどうにかなる案件をやらせれば上海でも五指、いや三指に入るだろう。

「安全じゃん」
「そうね。曲がったことが大嫌いだし、ろくでもない願いはしないでしょうね」

彼がダイヤを持っているともなれば正攻法で奪いのは相当困難になるはずである。
生半な覚悟では自分の肉体がグリルされるだけ。正気なら奪いにこない。
……無論、ダイヤに魅せられてる時点で狂気に染まっていると言えるが。

「あとは、ダイヤは彼の掌中に収納されたとか」
「ふむ……シグリが手にダイヤの欠片らしきものを渡されたという話と何らかの関係があるかもしれないな」

あれがダイヤの欠片だとすれば確かにダイヤは欠けていることになる。
切り出しと再生が何度も繰り返せるなら、願いを叶えるのとは無関係に、人工魔人を容易く生み出せることになる。
懸念点を七歌と共有する。

「どう思う?」
「マズいでしょうね……あともうひとつ」

七歌が声のトーンを落とす。能力使ってるから俺以外には聞こえないはずだが、普段の時のクセというものはなかなか抜けないものだ。

「育美ちゃんのことなんだけど、どうも家族に行き当たらないのよ」
「孤児ってことか?」

俺も声を落とす。リモートの七歌とは違い、彼女に聞こえる可能性がある。
今は蘇絲織たちが構っているので多分大丈夫だとは思うが。

「それならいいんだけど……そもそも出どころが掴めないのよね」
「孤児ってことか?」
「孤児なら孤児なりに元を辿れるでしょう? それすら見当たらないの」
「むぅ……まぁこの事は今は伏せとこう。知ってるならいつか話すかもしれんし、知らないなら不安を与えたくはない」
「了解」

_/_/_/

翌日、トラブルバスターズ槌歌に一通の封筒が届いていた。

「あら、電子メール全盛のこんな時代に封筒? 濡れてるけど濡れること前提の厚手の封筒……」
「宛先は『トラブルバスターズ槌歌』って書いてあるから間違いないようだが」
「中身は……急いで書いたみたい。かろうじて読めなくはない、けど……えーと」

助けてください
覚えのない放火容疑で捕まりました
わたしは今頃監獄です

恋辻メーメー

「恋辻メーメー?」
「差出人かしら。ちょっと調べてみるわね」

待つことしばし。七歌が頬を膨らませ、脳天にチョップを入れてきた。

「私に内緒でソープ行ってたなんて! ソープ嬢の源氏名じゃないの!」
「知らん相手だしソープ嬢が俺達の事知って依頼してきても別におかしくはないだろ!」

もう一発入れようとしてきた手を止める。反論してなかったら危なかった。

「ま、それもそうね」
「一発入れる前に気づいてくれ……」
「それで、どうするの? 強行突破する?」
「そういう事は目をキラキラさせながら言わんでくれ」

確かに昔、七歌を救うときに暴を振るったこともあったが……。

「だいたい今はちゃんと組織作ってるんだからまずは交渉だ。必要なら袖の下ねじ込んでもいいが……折り合いがつかなければプランBだ」
潜入作戦(プランB)なら私の力も必要よね」

七歌の能力は隠密行動には大体役に立つ、人は見えて動きが聞こえるものだからそれわを否定すればいい。

「まぁしなくて済むに越したことはないが……」
「あとは育美ちゃんだけど……」
「今回も連れて行く」

俺の決断に七歌が驚いた顔をする。

「いいの?」
「今回は交渉でどうにかなるし、戦闘は起こらんだろ。傍目には家族連れと思ってくれるさ」
「それ、フラグ……」

うだうだ喋りながらも方針は固まった。家族旅行のついでに仕事を片付ける体で監獄に立ち寄る。
更生目的で有望な人材をウチの監視下で仮釈放、雇用は過去に何度かやったことがある。
わざわざ乗り込んで牢破りするまでもない。暴力は最後の手段にしておきたい。

「今日も、一緒にお出かけ?」
「あぁ。今日は七歌も一緒だ」

育美はそれ以上なにを言うでもなく、俺と手を繋ぐ。
ワガママ言っても良い年頃のはずなのに大人しいのもなにか、奇妙ではある。
空いてる方の手を彼女の頭の上に乗せる。
煙のように彼女が消え失せることは……ない。

「?」

育美が不思議そうに俺を見上げる。
ちょっと照れくさくなってくしくしと頭を撫でた。

「さ、行くぞ。全快ほどの危険はないはずだ」

調べによるとメーメーはもう収容されているらしい。善は急げだ。

_/_/_/

件の監獄の前には特に妨害もなく着いた。
その前で悪態を吐く男が一人。
あいつはいつもは共連れのはずだが……逆にチャンスと言える。

「あぁ、もうクソッタレ!」
「どうしました? その悩みトラブルバスターズ槌歌が解決できるかもしれませんよ」

商売用の振る舞い。客商売するときの初対面の人とはお行儀良くね、とは七歌には耳にタコが出来るくらい言われている。

「何だお前は……いやテメェは槌唄か。妻子連れとは珍しいな」
「ご存知でしたか」

振り向くは『魔幇』の電子部門幹部、落雷磊落。
別に七歌と結婚はしてないのだが、訂正するのも面倒なのでそのまま通す。

「まずそのキッショい喋り方やめろ」
「商売上の儀礼ってやつだ。んで魔幇幹部がこんなところで何してんだ」

その言葉に彼は顔を顰め、自分のこめかみをギリギリと親指で押す。
そして意を決したように口を開いた。

「この監獄にメカ妊娠願望マン1号が忍び込んだ」
「なんて?」
「本名で言うより危機がわかり易かろうと思ってな」
「そんな配慮はしてほしくはなかった」

妊娠願望マン。上海裏社会に現れるという一種の都市伝説。
ツワモノと戦ったときに想像妊娠をして出産と同時に絶命するとかなんとか、そんな感じの話だった気がする。

「なんでそんなもんがメカになって魔幇管理下にいるんだ」
「首領が使えそうだと言うことでサイボーグとして復活させた男がそういう能力を持ってたんだ」

二人して頭を抱える。現実って、嫌すぎるな!

「それはわかった。で、なんでこんなところにそんな奴が」
「発作だよ」
「発作」
「首領がなんでわざわざサイボーグ化して復活させたと思ってる。制御下で強者を手元に置いときたいんだよ」

首領は自分に挑みかかった強者を面白半分に活かしてもう一度寝首を掻きに来るかどうか試す趣味があると聞く。
まるで村焼きをしたときに少年一人だけ生かして残すように。
そういうのを踏みつけにするのが、心底楽しいのかもしれない。

「能力は百も承知だったから俺がお目付け役として配されてたわけだが……テメェのことだ。俺の能力は知ってるな?」
「まぁな。電子機器操作能力。サイボーグも例外ではあるまい」

魔人の雇用事務所として、有名どころの魔人能力を知るのは半ば必須のようなものである。
情報を持っているかどうかで仕事の難易度は天地ほどに差がつく。

「ちょっとポカをやらかしてな。冷や飯食わされてたらアイツがな……」
「つまり、左遷のゴタゴタ中に脱走した、と」
「あぁクソッタレ、そういうことだよ」
「悩む点はどこにもないように見えるが。助けは必要あるまい?」
「どころがどっこい、闖入者がもう一人現れやがった」

そう言って落雷は部屋の隅の椅子に座ってる一人の少年に目を向ける。

「彼がか?」
「いや、彼のツレが、だ」

落雷が向いた先には恐縮して怯えているようにも見える少年。
何の変哲もない少年に見える。

「あの……斎藤和夫って言います」
「ツレがヤバいと言う話だが……どんな?」
「それは……」

話は想像を絶し……てはいないが具体的なことを言いたくなくなるモノだった。
排泄物で攻撃する魔法少女? 何だそれ。そんな奴が暴れたら監獄の連中が泣くぞ。
収容される人物の性質のことを差し引いてもダメだろ。
ともかく、その魔法少女はとんでもなくヤバいヤツが監獄に入ったと聞いて一も二もなく後を追ってしまったらしい。
和夫は普通に所員に止められ、今に至る。

「で、だ。こちらとしてはクソメカ妊娠野郎が出来るのを防ぎたい……おっと」

落雷がタブレットをちょちょいと操作する。

「この監獄は最新設備を導入していてな、扉の開閉に至るまでリモート操作が可能。侵入者たちは俺の電気人形(エレディスコ)でなんとか誘導している」
「ふむ」
「それで、細工してることがバレる前に、なんとかしたい」

本当に二の足を踏むような話だ。今回の依頼が無ければ回れ右してるところだ。

「話を総合すると、排泄物を撒き散らす魔人と、その子が出来上……これ以上考えたくないんだが?」
「こっちも考えたくないからこうやって頭悩ませてるんだろうが」

こめかみに指を当て、考える。
七歌の能力なら二人の能力を止めることもできよう。だが、それは彼女をあの二人に近づけるのと同義である。なんせ半径10m……。

「落雷、ほどほどの広さの部屋はあるか? 通路でもいいが」
「まぁいくつかあるが……なんか手立てがあるのか?」
「一つ思いついてな。隣に部屋かなんかある場所がいい。壁が薄いならなおいい」

俺の言葉に半信半疑の眼差しを向けながら落雷はポチポチとタブレットを叩く。

「こことかいいが……それで、どうするつもりだ」

そう言いながらタブレットに表示されたマップの一地点を指し示す。
その上のフロアの部屋を俺は指さした。

「俺達がここに陣取ったら二人を下の部屋に誘導してくれ」
「エンカウントさせたら破滅的結末になると思うが」
「ならないよう細工する。おそらく二人とも何も起こせずまごつくはずだ」
「なるほど、まごついてる間に俺が晴巳の野郎をとっちめればいいわけだ」

うまく行けばなんとかなる。そうであって欲しい。

「ところでこの部屋は囚人入りの牢屋なわけだが」
「そこは俺達で説得する」
「細工が出来たら、手近な監視カメラに合図してくれ。あとは、閉じ込めた部屋に入るときはお前も一緒に踏み込んでくれ」
「なんでだ?」
「俺はメカ妊娠願望マンを即座に停止させるが、魔法少女に関しては全くの無防備だ。万一に備え、止める役を担って欲しい」
「まぁそれもそうだな。あとは報酬だが……」

その言葉に落雷が訳知り顔でニヤつく。

「どうせヘッドハントだろ。うまく行った暁には一人ぐらいなら話を通してやるよ」
「話が早くて恩に着るぜ」

うまい話過ぎるがそれはそれ。なんか企みがあったらそれごとすりつぶすまで。

_/_/_/

話はまとまったので七歌にあらましを伝え、作戦開始。
目的の牢に着き、カードキーを通す。落雷は侵入者二人の誘導に集中しているため、こちらまで手を回せないという。

「まぁ失敗したらコトだからな。邪魔するぞー」

牢の中には童顔と豊満が同居した、獄にいるには似つかわしくない少女が簡易寝台に腰掛けていた。

「貴女が、恋辻メーメーさん、ね?」

俺が口を開くより早く、七歌が一歩前に出て声をかけた。めっちゃ警戒してるな……。

「ええ。看守でないってことは、あなた達がトラブルバスターズ槌歌の人たちね」

話を聞くに曰く、上海蟹ランドにいて一悶着あったのは確かだが、火事とは無関係だという。

「ということは、放火は建前で何かしら別の目的があるんだろうな……」
「それで、あなた達が何の問題もなく入ってきたってことは私は釈放されるのかしら?」
「いや、一仕事終えてからだな。ここでの依頼達成と引き換えに、うちの監視で働くって名目で保釈の予定だ」

七歌に目を向けると既に詠唱を開始していた。

「……っと、これでよし。じゃ、育美は私がみてるから、合図と突入よろしくね」
「おう、行ってくる」
「え、え、え……?」

戸惑う依頼人を尻目に、俺は部屋を出た。

「一体どんな依頼を受けたの?」
「この監獄に入り込んだ、闖入者二名の排除」

_/_/_/

一方その頃、件の部屋で標的二人がエンカウントしていた。

「ほぉ、長い長い通路だったが、ようやく遭遇したか……」

色々な意味でただならぬ少女を右手のハサミを鳴らすメカ妊娠願望マン1号こと己我晴巳。
それを見たキュアアースホールこと茶山明日歩は持っている杖を晴巳に突きつける。

「先手必勝、必殺、プープダイナマイトォォ!!」

しかし、杖から何かが出ることはなかった。理由は不明だが、おそらくはこの男の仕業。

「ふむ、拍子抜けだなぁ……だが、それだけではないだろ。掛かってこい。オラを満足させろ」

己我晴巳がくいくい、と手招きする。

「飛び道具が撃てないなら、直接行くまでよ!」

そこからの組み合いは恐るべきモノだった。

全身の大半を機械に置き換えたサイボーグと、密度調整により質量を上乗せして殴れる魔法少女(せんとうまじん)
ぶつかり合う一撃一撃の重みが、上の部屋まで響いてくる。
攻撃が天井に届いたらヤバい。その前に、能力……の一部を封じられた二人を制圧する。
彼ら二人が正常に能力を使えないタネは簡単だ。深く昏き森(ダーケストフォレスト)の効果範囲は半径10m。上階から直下の部屋を包むくらいには広い。
そしてその内容は、

はらからのもの ここではだせず
ひとのあしおと しずかにきゆる

腹からのもの、つまり排泄物や胎児。
ついでに気取られぬように上からの足音を消す。

「フヘ、フヘヘ……これはいい。良い子を孕めそうだ……」

そう言いつつ、晴巳はズボンを下ろす。
内練武功、それは産んだ子に殺されるという呪いと引き換えに想像のみで相手の子を妊娠し出産する能力。
だが、産まれなければ?
その呪いは果たされることはない。例えその子がタイムトラベルでその時間に現れ即座に殺しに来るとしても、存在しないものが来ることは、決して、無い。

「おかしい……出ないぞ」
「奇遇ね、私もよ」

下履きをおろした男と、茶色に染まった魔法少女。出すものは違えど、本来出るものが出ない事は一致。

「出たら困るからだよ!!」

尻を見せたサイボーグに電気人形(エレディスコ)を浴びせながら落雷が部屋に乱入する。
俺もハンマー片手に部屋に突入。魔法少女(茶山明日歩というらしい)の説得のために和夫も付いてきている。

「グェァッ」

蛙が潰れたようなうめき声とともにメカ妊娠願望マンが倒れる。

「何者っ!?」

反射的に落雷に飛び蹴りをかましてきた明日歩。それを止めるために俺は素早く前に出てハンマーで受け止める。

「っぐ、重てぇ!!」

戦闘特化魔人でも早々ない一撃。きっちり踏みしめてなかったら確実に吹き飛ばされていた。

「茶やm……魔法少女さん! この人たちは敵じゃないです!」

和夫が横から飛び出し、説得に入った。
なんか姉さんのうんこはここにはないとかなんとか胡乱な話が聞こえてくるが聞こえないふりをする。
上にいる女性陣には聞かせられないな……。

_/_/_/

「落雷さん、槌歌さん、ありがとうございました!」
「いいってことよ」

なんとか説得が奏を功し、外に出ることになった。
和夫と明日歩が連れ立って部屋から出ていき、機能停止したメカ妊娠願望マンを引きずって落雷が出ていき、

バタン、ガチャリ。

俺の目の前で扉が閉まり、施錠された。

「……おい、落雷?」
「まさか、ただで出られると思ってたのか魔幇要注意団体の長がよぉ!! お前のクビを持ってくればまぁこないだのポカも帳消しよ!」
「そういうこったろうと思ったよ!」

ハンマーを握りしめ、勢いよく扉に打ち付けるが、傷一つつかない。

「馬鹿め、馬鹿力の魔人を収容するために監獄全体が特殊な合金製よ! お前の能力ではここから出られまい!」

落雷の言葉とともに壁が開き、そこからモニタが出現する。映し出されたものは……上階のメーメーを収容している牢。

「その前に、お前らの妻子が無惨な最期を遂げる所を見せてやろう。もう一人も反逆のケがあるから始末して良いと指示が出てるからな」
「テメェッ!」

ヤツの能力を警戒して物理インカムを持ってこなかったのが裏目に出た。いや、持ってたところで電波が通らなくなるから一緒か。
ともかく牢に武装集団がなだれ込んできて……。

「あ?」
「何だぁ!?」

突如、部屋の隅から巨大なワニが現れ、滅茶苦茶に暴れまわり始めた。
それも、メーメーや七歌、育美を護るように。
メーメーもワニの視覚をカバーするように徒手空拳で戦っている。

「何だあれは!?」
「フカ映画を見せる予定だったのかな?」

そうこうしてるうちに牢の中を映していたカメラが破壊され、モニタに映像を送らなくなった。

「まぁいい、いずれにせよ牢を閉じてしまえば、脱出不可能よ。監獄の中で囚人ともども衰弱死するがい……い!?」

俺の体がずぶり、と床の中に沈む。なるほど、と理解した俺はそのまま倒れ込み、床の中に消えた。
床の中には、七歌、メーメー、そしてワニにしがみついてる育美がいた。
誘導されるとそこは先程のメーメーがいた牢屋。監視カメラが壊されてるので却って安全という判断らしい。

おりのさかいは じゆうにおよげ
およげるところ われらにみえる

「……とこんな感じで私の周りの床や壁は泳げるわけ」
「さっき乱入してきた所員がいないのは……」
「煽りを食らって沈んじゃったみたいね。2フロアほど下に落ちてると思うわ」

七歌、たまに容赦ないからな……

「こんなこと出来るんだったら七面倒臭い交渉とか要らなかったんじゃない?」

メーメーからのもっともな疑問。

「こういう手段は最終手段にしたかったが……まぁ致し方なし。それよりそのワニは一体」
「この子は私の相棒のスパイク。こっちも追い詰められるまでは出したくなかったんだけどね……」
「つまり、互いに隠し玉握ってたってことか」

互いにひとしきり笑う。まぁ魔人たるもの秘策は隠しておくものだ。

「それで、とっととみんなで抜け出しちゃう?」
「最後に一つやっておくことがある。七歌がいなきゃいかん以上、付いてきてもらうがいいな?」
「それって……」
「落雷の野郎に一泡吹かす」

_/_/_/

「畜生、どこに逃げやがった? もう逃げたか……? ヤバいぞ今度は本当にクビがなくなっちまう」

奴は管制室の機器の前で呟いていた。床を潜行し、後ろを取る。

「その心配はしなくて良いぞ」

痛みの塔(ペイン・タワー)。ブロックを対象の足元に高く高く生やせる能力。これを室内で使えば?

「グェッ!?」

当然天井に挟まれ、押しつぶされる。

「報酬の支払いがまだなんだよなぁ。お前の命と、諸々の取引とどっちが良い?」

俺もブロックに乗ってあくまでやさしく尋ねる。ブロックは床などとは別なので七歌の能力から抜け出せる。

「な、なにが望みだ……」
「そりゃ簡単だ。それはな……」

_/_/_/

「やれやれ、これにて依頼完了」
「そういえば、貴方のところで働くって話は」
「あぁ、それな。普通に釈放要求して、平穏無事に不埒者捕らえましたってことで話を通すように言ったからな」
「よく飲ませられたね?」

簡単なことさ、と肩を竦める。

「自分のの命がかかってたし、これで魔幇に報告したらカウンターとして""話し合い""のレコードを出すつもりだからな。向こうとしちゃ黙ってるしか無い」
「ともかく、今回は助かったわ。報酬は後で振り込んでおくわね。それとも……」

言葉を濁すメーメー。言わんとすることは

「やめろやめろ、七歌はあぁ見えて独占力が強いんだよ」
「余計なこと言わない」
「ぐぇっ」

七歌に襟首を引っ張られる。彼女にはどうにも頭が上がらない。

「夫婦仲のよろしいこと」
「まぁまだ結婚してないんだけどね」

あっけらかんと七歌が言う。

「えっ、子供までいるのに……?!」
「俺達まだ20代だぞ。こんな10歳ぐらいの子供を持つには早すぎるぜ」

その子供、育美は俺の背中でぐっすり眠っている。

「それでこれからどうするか。魔幇の電子部門すら出し抜いて、何者かが盗んだ……。なにかとてつもない裏がある気がする」
「私とスパイクは手伝えそう?」
「頼むかもしれんが……いいのか?」
「魔幇に一泡吹かせられるかもしれないし、ね?」

混沌渦巻く魔都上海、ここからどう転ぶかわからない。果たしてこの乱痴気騒ぎの裏を手繰るものは何者か。魔幇すら預かり知らぬ真の黒幕とは。

To be continued...
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