DEAD SPACE
(四)
三四は興奮に乱れようとする吐息を抑えながら、次のページに目を落とした。
手にしているのは一冊のノートだ。
それ自体は"アンブレラ"なる製薬企業の社員の研究メモのようなものだ。
しかし、その書かれている内容に、三四はページをめくる手を止められなかった。
本人にしか分からない箇条書きの羅列のため、書かれている内容全てに理解は及ばないが、それでも読み取れることは大いにある。
大まかに言えば、この研究員、引いては"アンブレラ"は"T-ウイルス"なるウイルスの軍事利用を目的に据えて研究してきたらしい。
このウイルスの特性は、一つに適応性の高さ、二つに感染率の高さが上げられるようだ。そして、副作用として齎させる生物の狂暴化。
それだけならさりとて珍しいものではない。
この特性はインフルエンザ・ウイルスやエボラウイルスに見られるものだし、何より副作用も含めれば狂犬病ウイルスが連想させられる。まさか植物を含む全生物に感染するなどということはあるまい。
それらと際立って違うのは、生物の遺伝子構造を恣意的に組み替え、融合させるという特性だ。インフルエンザ・ウイルスの様に、容易に突然変異を起こす場合はある。
しかし、感染した宿主の遺伝子情報に変異を起こすウイルスなど聞いたことがない。悔しいが、世紀の大発見だ。遺伝子組み換えのため、制限酵素やDNAリガーゼを用いる過程すらいらなくなるかもしれない。
ともすれば"キメラ生物"の研究を容易にし、それこそ神話の中の"キマイラ"さえ実現可能となりうる。
いや、実のところ、それは可能だったのだろう。
隣の部屋に吊るされていた、鱗の生えた大型類人猿のような生物。それこそ、哺乳類と爬虫類の"キメラ"にしか見えない。残念ながら、あの死体に対する記述はないようだが。
この研究員は"
タイラント"なる人型兵器の開発に心血を注いでいたようだ。ネグロイドを素体にした試作品を、死を司る神"タナトス"の名を授け、傑作と評している。
しかし、現代のフランケンシュタインの理念は雇用主とは相容れないものであったようだ。企業は量産化を求め、彼は"タナトス"を唯一無二の存在にしようとした。
彼にとって、量産化は考えられないほどに無粋で愚昧なことだったらしい。そこに至る筆跡の乱れから、綴られた痛罵以上に企業への失望が垣間見えた。
それから彼は、ここの大学職員を利用してウイルスの特効薬を作ろうとしたようだ。その薬を作るための材料の一つが"タナトス"の血液であるとは皮肉なことだが。
あるいは、それすら想定していたことなのか。
ポール・バーグによって初の遺伝子組み換え実験が行われて十年ばかりだというのに、この企業による技術の進展には薄ら寒ささえ感じられる。
いや、"十年"ではないのかもしれない。
今現在を、レオンは"一九九八年"と言っていた。それをそのまま信じるわけではないが、このウイルスが発見されて二十年近く経過したのだとすれば、まだあり得る未来のように思う。所詮、可能性の海の彼方の話でしかないが。
懐中電灯の光のみで読むのに少し疲れ、三四はノートから顔を上げた。
この部屋は多目的ホールか何かなのだろう。汚れすぎていて分かりづらいが、ホワイトボードのようなものが確認できる。三四の前にある机の上には壊れた複数の小型モニターに、プロジェクターもあった。
しかし、大きさの割に殺風景な内装で、居心地はあまりよくない。もう呑み込んだはずの過去を――あの児童養護施設の風景が重なる。三四は身じろぎして、マントを引き寄せて体に纏わりつけた。
机の前には初老の男性が倒れていた。おそらくは、彼がこの手帳の持ち主だろう。そうでなければ、ただの覗き趣味の男か。
アサルトライフルを傍らに置き、レオンはその男の死体を念入りに調べている。調べることで、どうにか現実感を取り戻そうとしているように見えた。もしくは、警察官の本分に徹することで平静を保っているのか。
大学の事務室で目にした、死んでいるはずの状態で生きている人間たち。少し前に封切られたアメリカ映画の宣伝そのままの姿で、彼らはいた。レオンも同じことを考えたようで、彼らを"
ゾンビ"と呼んだ。
言葉による制止も聞かず、熱に浮かされたような足取りで近寄ってくる彼らの前から逃げ出したのがつい二時間ほど前か。死人憑きか、はたまた新手の感染症か。
最近特定された、殺人バクテリア――ビブリオ・バルニフィカスという線もなくはない。しかし、組織が壊死しているのであれば歩けるはずがない。ということは、壊死しているのは表皮や脂肪だけなのか。
三四は小さく吐息を吐いた。自分の知識だけでは、見たものの答えを見つけようにもピースが足りなすぎる。
この大学は"ラクーンシティ"なる都市にあるものと同じ名前であるらしい。レオン自身は実際に目にしたことはないようだが、もし仮に"ラクーンシティ"と同じものだとしたら――腹立たしいことだが、好奇心が疼くのも確かだ。
常識の範囲で考えれば、知らない内に海外旅行などできるはずがない。確実な記憶に依れば、三四は入江診療所で眠りに落ちている。三四自身はそれから朝まで入江診療所から一歩も出ていないはずなのだ。
(身体は今も入江診療所にある?)
ならば、これは夢か。
現実にはありえない、悪夢のような風景。だが、夢の風景とて何処かで見たことがあるものなのだ。本当に見たことがないものを人は作り出せない。
もし、複数の夢が融合したとすれば、それはやはり悪夢のような風景を形作るに違いない。色を重ねれば、行き着く果ては澱んだ黒だ。
そうでなければ、これは本当に――祟りなのか。
三四の視線に気づいたのか、レオンは調査の手を止めて顔を上げた。いや、とうに調査自体は終わっていて、三四が読み終わるのを待っていたのかもしれない。
成果を尋ねてくる彼に情報を掻い摘んで伝える。レオンは苦笑しながら頭を抱えた。
「そいつはもう非主流科学(フリンジ・サイエンス)だよ。常軌を逸している。スカリーも真っ青だ」
「何か主流で、何が非主流なのか。その線引きをすることは不可能なのよ。何が正しくて、何が狂っているのかもね」
「……じゃあ、時速88マイルで走ればタイムスリップ出来るって考えも馬鹿にできないな」
「随分とお手軽な時間旅行ね。その突飛な発想もジャンクじゃないわ。立証さえできれば」
鼻で笑ってから、三四はノートに目を落とした。だが、レオンの呼びかけに遮られた。
「……時間っていうのは戻れないものなのか。全部
リセットして、やり直せないものかな」
随分と幼稚な問いかけをするものだと、三四は内心苦笑した。
戻れないからこそ、人は必死に生きるのではないか。他を食いつぶし、懸命に己の価値を、場所を求めていくのではないか。
加えて、やり直しはこれまで自分の時間に関わってきたもの全てを否定することにも繋がる。それはその時を生きたものに対する最大の冒涜だ。ましてや、祖父の存在を忘れることなど出来ようはずがない。
忌まわしい記憶もすべて、大切な自分の歴史の一部だ。後悔することと、否定することは全く違うものだ。やり直しの利く人生などに価値はないし、あってはならない。
答えないでいると、レオンは構わず続けた。
「俺がもっとうまく立ち回りさえすれば、あの二人を死なせずに済んだはずなんだ」
「……残酷ねえ。またその二人に死を味あわせるなんて」
軽く嘲笑してやると、レオンは苦々しく三四を見やった。
「……今度は違う結果になるかもしれないだろ。少なくとも、どちらかは助けられたかもしれない」
「そうしたら、今度はその救えなかった方のことで悩むんでしょう? どうあっても、人は死ぬのよ。レオンくん。それにね、二人はもう生きてはいない。これはね、絶対に変わらないことよ」
「首尾一貫の法則ってやつだな。……そういう、逃れられない運命だったって納得するしかないってことかよ。俺には……小さい女の子も救えないって」
レオンは自虐的な、泣き顔とも取れる表情で嗤った。聞いたことのない法則だったが、それを訊くのは止める。
見ず知らずの男と少女のことでここまで気を病むとは、甚だしいまでのお人よしだ。引いては、彼がそれなりに幸せな人生を歩んできた証拠でもある。
苦労知らずの坊やが、初めて壁にぶちあたった。そんなところなのだろう。時がたてば、過去を彩る傷の一つでしかなくなる。
どうにもならないことなど、どこにだって溢れている。それでも、どうにか折り合いをつけていかなければ生きていけない。
三四は肩を竦めた。
「運命なんて、逃げる口実にするには少し大仰すぎるわね。どうしても逃れられないなら、それは天災と一緒よ。意味を持たない単なる事象。そういうのは運命とは言わないんじゃない? むしろ、人が逃げたくなくて、立ち向かっていくものを運命って呼ぶんじゃないかしら」
「手厳しいね。なるほど、運命はカードを混ぜるだけ……か」
「ええ。勝負するのは自分自身。私なら、逃げないわねえ」
「……勝負するだけじゃ駄目だ。勝負するからには、勝たなきゃな」
レオンは言い聞かせるように力強く頷いた。
勝手に自己完結して立ち直ってしまったらしい。男とはこうまで単純なものかと、三四は呆れた。
だが、決して不愉快ではない。レオンの、真っ直ぐで力強い瞳には見覚えがあった。
そうかと、三四は胸中で呟いた。自らの手で殺した男の幻影が一瞬映り込んだ気がした。郷愁に近いものが胸を突く。
悲願を達成したはずなのに拭えなかった、己の中の虚ろ。
富竹ジロウを失ってしまったことを己は悔いている。
認めたくはなかったが、気づいてしまった以上、それは無駄なことだった。
諦めを吐息に混ぜ、三四はノートを仕舞った。もう、読む気分ではなくなってしまった。
「レオンくん。そろそろ、地下に行ってみない?」
髪を指先で弄りつつ告げる。レオンは頷きかけて、ふと動きを止めた。その理由はすぐに分かった。
音だ。ヘリコプターのローターが回る、独特の重低音。それが段々と近づいてくる。
しかし、窓ガラスから覗く夜空にはヘリコプターの姿はどこにもない。耳を塞ぎたくなるほどの大きさになっても、それは変わらなかった。
銃声が聞こえた。そして、それを掻き消すように轟音と衝撃が建物を貫いた。
三四は机をしっかりと掴んで身体を支えた。
似たような態勢で、レオンが何事かと声を上げる。ローター音はいつの間にか前触れもなく消えていた。
そして――医療用カーテンの向こうから悲鳴が聞こえた。
この部屋で手に入れた拳銃を引き抜き、レオンが声のした方へ飛び出した。運命と立ち向かう絶好の機会とでも思ったのだろう。悲鳴を聞くと興奮する性癖だとしたら少し面白いが。
確実なのは、他にまともな人間がいたということだ。三四も拳銃を握ってから、レオンに続いてカーテンを捲った。
今度は情けない、男の裏返った悲鳴が聞こえてきた。
同時にレオンが仰け反る。バットでカーテンを掻き分けながら、少年が飛び出してきたからだ。高校生だろうか。白いワイシャツに黒い学生ズボン姿だ。顔は青ざめ、まるで死人のようだ。滂沱のような汗が額に光っている。
「人殺しめ」
少年はレオンを見るなり、目を見開いてそう呟いた。そしてレオンの制止も聞かず、そのまま脇を駆け抜けていく。アサルトライフルの持ち主が簡易ベットに横たわっているので、それで勘違いしたのかもしれない。
少年が出てきた方向から、女性の悲鳴が聞こえた。困惑の色を消し、レオンは駆け寄ってドアを開けた。彼の懐中電灯が部屋の中を照らす。
映し出されたのは、天井に大穴を空けて、他にも大幅に見た目を変えた実験室だ。
粉塵の舞う室内には二つの人影があった。一つは、赤いハーフコートにロングヘアーの少女。歳は、
園崎魅音とそう変わらないだろう。ゲルマン系だろうか。身震いするほどに整った容姿だった。
そして、もう一つは――。
銃声の響く中、レオンが息を呑んだのが分かる。
二メートルを優に超す禿頭の大男がそこにはいた。巨体を踝まですっぽりと覆い隠すトレンチコートを纏い、肌は岸壁のような灰色だ。それだけならまだ奇妙の一言で済むかもしれない。
しかし、目を見た瞬間に違うと知れた。水銀を流し込んだように底光りする双眸は何の感情も込められてなかった。
人間にそっくりで、人間ではない――それは、怪物だ。
「君! こっちだ!」
レオンが少女に向かって叫んだ。少女はレオンの声に素早く反応すると、こちらへと走ってくる。
大男は黙して、少女の逃走を見送った。視線を動かし、レオンと三四に向き直った。大男は、ゆっくりと足を踏み出した。
「おい、止まれ! 警察だ。両手を頭の上で組んで、ゆっくり後ろを向け!」
少女を背中に庇い、レオンが銃を構える。しかし、大男は逡巡する様子も見せずにこちらへと接近する。
レオンが舌打ちし、コートに覆われた膝のあたりに向けて発砲した。一瞬の閃光が、舞い散る塵に煌めいた。
しかし、銃弾はコートの表面にめり込んだだけだ。続けて三発銃声が上がるが、大男を抑止する役には立たなかった。胸への発砲も同様だ。潰れた弾丸が床に落ち、虚しい響きを残す。
「……ターミネーターかよ、くそ」
「レオンくん、一旦引きましょう。向こうからでも降りられるわ」
「……そうだな。君、走れるか?」
少女が頷く。顔は恐怖で強張っているが、見た目に反して胆力は中々のものらしい。
少しでも時間稼ぎをしようというのだろう。レオンが扉を閉めるのを音で確認した。
三四は多目的ホールに戻り、奥の扉に手を掛けた。背後で、付いてきた少女が小さく悲鳴を上げた。死体に驚いたようだ。
気にせず、三四は進んだ。壁の反対側から、実験室の扉が砕かれた音が聞こえた。
三つの足音がグレーチングの上を転がっていく。梯子を下り、開けっ放しの扉を潜る。学長室だろうか。厚みのある絨毯と大ぶりの調度品、壁には肖像画らしき額縁が複数並んでいた。
一階からは、壁を穿つような音と振動が床を震わせていた。
「この先の安全を確かめてくる。少し待っててくれ」
告げて、レオンが部屋を出て行った。予想が正しければ、この先はゾンビがいた通路に繋がるはずだ。
「――マコトは……アジア系の男性が、そっちに、来ません、でしたか?」
肩を激しく上下させながら、初めて少女が言葉を発した。マコトとは、先ほどの少年のことだろう。
三四は彼女に微笑んで見せた。
「その子なら、さっさと逃げて行ったわよ。ご愁傷様。ババを押し付けられちゃったみたいねえ」
少女は、そうですかと呟いた。傷ついたようだが、歳に似合わない諦観めいた覚悟が顔に浮かんでいる。
ババを押し付けられたのは、むしろこちらかもしれないと胸中で付け足した。
これでは、この大学を調査するというわけにも行かなくなってしまった。
"ゾンビ"だけでなく、あんな怪物までいることも判明してしまったし、何よりこの女の子を放ってまでレオンが調査を続行するようにも思えない。
かといって、彼と別れて拳銃一挺で動く気にもならない。己は絶対に脱出しなくてはならないのだから。
三四は小さく溜息を漏らした。
レオンが戻ってきた。安全だという彼の言葉を否定するように、銃声が響く。上から鉄が拉げる音が聞こえた。ついで、重い物をコンクリートの床が受け止めた響きが足元に伝わる。
あの大男だ。グレーチングを叩き壊したのだろう。しつこいものだ。少女の美貌に魅せられでもしたか。
理由はどうあれ、それを考える時間はない。
三四たちは応接間らしき部屋を抜け、通路に出た。あの少年の仕業だろうか。通路に居たゾンビは、頭を砕かれて床に倒れていた。
それを踏み越え、角を曲がる。大きな破砕音が、エントランスホールへ続く扉の先から響いた。
ホールに出た。先の衝撃で砕けたのだろうか。廻廊の窓ガラスの穴から、正門の方へと動く懐中電灯の光が見えた。同時に、大きな吼え声も聞こえる。光がふっと掻き消えた。
ひとつ溜息を吐いて、三四はレオンと少女の後を追った。
「外は危険みたいよ。一旦地下に行きましょう。あの大きな彼、エレベーターが使えるほど頭がいいようには見えないわ」
特に同意は返ってこなかったが、異論があったわけでもないらしい。
正面階段を下りて、レオンの足取りはエレベーターに続く管理部屋へと向かった。
微かな呻き声と、ずりずりと何かが這いずっている音を耳が拾った。
三四はそちらへと懐中電灯を向けた。受付カウンターの前に、高校生ぐらいの女の子が腹這いになっていた。日本人のようだ。女の子はライトの中で虚ろな表情を浮かべ、呆けたように口を開けている。
血だらけだった床は、真新しい真紅で塗り直されていた。左腕は付け根から深く大きく抉れ、皮と腱だけでぶら下がっている状態だ。重度の傷を負っているのは明らかだ。まともに動くこともできないはずだ。
しかし、女の子は残った右腕を使って、能面のような表情のまま三四たちの方へとにじり寄ってくる。割けた腹腔から飛び出した腸を気に留める様子もない。
「ミク……――」
少女が息を詰まらせた。
二階の壁が打ち破られる音が響いた。女の子の背後で、重々しい響きを立てて大男が降り立つ。纏ったコートの裾が、ばさりと音を立てて翼の様に翻った。
立ち尽くす少女の手を引くレオンと共に、三四は先を急いだ。
エレベーターの前に辿り着き、ボタンを押す。苛々するほどゆっくりと、箱が上がってくる。背後の壁が殴り壊され、通路の奥にあの大男が姿を見せた。
扉が開くと同時に入り込み、地下一階へのボタンを押す。大男は、もう扉の前まで迫ってきていた。
扉が閉まり、軋みを上げながらエレベーターは降下を始めた。
少女は耐えるように歯を食いしばっていた。彼女の鼻を啜る音が場を占めた。
レオンが何か励まそうと手を上げた。が、結局諦めたようだ。指が力なく宙を泳いだ。
降下が停まった。ちんという音を立てて、扉が開く。
レオンが三四を見やってから、少女にも目を馳せた。静かに、しかし力を込めて呟いた。
「俺が君たちを守るよ。絶対にだ。今度は、間違えない」
外に出ると、そこは壁に剥き出しのパイプが血管の様に複雑に入り組んだ空間であった。無機質な光が辺りを照らしている。地下は照明が生きているらしい。
辺りに反響する低い唸りは、あたかも獣の息遣いのようだ。
学び舎の施設には似つわしくない光景だった。
背後でエレベーターの扉が閉まろうとする。と、その向こうで金属の甲高い悲鳴が上がった。閉まりかけた扉の隙間から太い指が覗いていた。大きな軋みを上げながら、エレベーターの扉がこじ開けられていく。
三四たちは奥へと一直線に続く長い道を走り出した。
やがて――大きな足音が響いた。
(五)
大きな物音に、比沙子は顔を上げた。
物思いにふける内に微睡んでしまったらしい。電車の椅子から腰を浮かす。
結局、この数時間は無駄に過ぎて行った。
この電車の傍にある機械で何かを操作するらしいことまでは分かった。機械には鍵穴があった。この機械を使うには、車の様に鍵を差し込む必要があるのだ。
しかしながら、それはどこにも見当たらなかった。
手詰まりとなり、比沙子は唯一外気に晒されているこの場所に戻ってきてしまっていた。
先ほど響いたのは、ぐちゃりと、水の入った風船が潰れるような音だ。
電車の外に出てみようか。漸く訪れた変化に、比沙子は自問する。
がん、がんと、間を置いた音が段々と近づいてくる。金属を刃物で切り付けるような、甲走った音も混じる。音は――上から降ってくる。
そう気づいたとき、大きな響きがすぐ外で上がり、比沙子の心臓は跳ね上がった。壁一枚を隔てて、人の様な、獣の様な、そんな吼え声が上がる。
足音が遠ざかっていくのを待って、比沙子は電車の外に出た。
ぱさと、髪に何かが落ちた。摘まみ上げて目の前に持ってくると、背面に気味の悪いイラストの描かれたトランプだった。
それを捨て、足を踏み出した。底の薄い靴越しに、柔らかい感触が這い上がってくる。
金属の床に、朱色が加わっていた。激しく潰れた肉片が辺りに散乱し、床へと張り付いている。今足の下にあるのも同じものだろう。確認したくないので無視したが。
比沙子は一番大きな肉片に近づいた。それは血みどろの、人間の胴体だった。顔は完全に潰れている。背中には大きな足跡がくっきりと残っていた。押し出された内臓が、床の上で生々しく艶を帯びていた。
それらは夏の朝に目にする、車に轢かれた蟇蛙を連想させた。
体つきから男だと判別出来るが、歳などは分かりそうにない。少し離れた所に、へし折れたバットと粉々になった懐中電灯が転がっていた。
惨状は一つの事実を比沙子に伝えた。
ここには羽生蛇村とは違う、しかし同質かそれ以上の脅威が存在する。
そして、恭也や村の人々が、この男と同じ末路を辿るかもしれないということも。
比沙子は人の残骸から目を背け、出口に足を運んだ。足音は聞こえないが、代わりに何かを壊す音が流れてきていた。
比沙子は大きく息を吸ってから、その音の正体を確かめるために目を閉じた。
【雛咲深紅@零~zero~ 死亡】※
【新堂誠@学校であった怖い話 死亡】
※厳密には死亡ではありませんが、深紅としての再起が不能であることから死亡扱いとしました。
【Dー3/地下研究所・地下1階・エレベーター前通路付近/一日目真夜中】
【
鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康、自分を呼んだ者に対する強い怒りと憎悪、雛見沢症候群発症?
[装備]:9mm拳銃(9/9)、懐中電灯
[道具]:手提げバッグ(中身不明)、
プラーガに関する資料、
サイレントヒルから来た手紙、グレッグのノート
[思考・状況]
基本行動方針:野望の成就の為に、一刻も早くサイレントヒルから脱出する。手段は選ばない。
0:T-103型から逃げる。
1:プラーガの被験体(北条悟史)も探しておく。
2:『あるもの』の効力とは……?
※手提げバッグにはまだ何か入っているようです。
※鷹野がレオンに伝えた情報がどの程度のものなのかは後続の書き手さんに一任します。
※グレッグのノートにはまだ情報が書かれているかもしれません。
【レオン・S・ケネディ@バイオハザード2】
[状態]:打ち身、頭部に擦過傷、決意
[装備]:
ベレッタM92(10/15)、懐中電灯
[道具]:
ブローニングHP(装弾数5/13)、コルトM4A1(30/30)、
コンバットナイフ、ライター、ポリスバッジ、
シェリーのペンダント@バイオハザードシリーズ
[思考・状況]
基本行動方針:鷹野とジェニファーを守る
1:T-103型から逃げる。
2:人のいる場所を探して情報を集める。
3:弱者は保護する。
4:ラクーン市警に連絡をとって応援を要請する?
【
ジェニファー・シンプソン@クロックタワー2】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:私服
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ここが何処なのか知りたい
1:レオンたちについていく
2:安全な場所で二人から情報を得る
3:ここは普通の街ではないみたい……
4:ヘレン、心配してるかしら
【Dー3/地下研究所・???/一日目真夜中】
【
ハンク@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:健康
[装備]:
USS制式特殊戦用ガスマスク、H&K MP5(0/30)、
H&K VP70(残弾10/18)、コンバットナイフ
[道具]:MP5の弾倉(30/30)×3、
コルトSAA(6/6)×2、無線機、
G-ウィルスのサンプル、懐中電灯、地図
[思考・状況]
基本行動方針:この街を脱出し、サンプルを持ち帰る。
1:地下研究所で通信機器を探す。
2:現状では出来るだけ戦闘は回避する。
3:アンブレラ社と連絡を取る。
※足跡の人物(ヘザー)を危険人物と認識しました。
※具体的にどこにいるかはお任せします。
【Dー3/研究所・地下4階・ターンテーブル付近/一日目真夜中】
【
八尾比沙子@SIREN】
[状態]:半不死身、健康、人格が変わったことによる混乱
[装備]:無し
[道具]:
ルールのチラシ、
サイレンサー
[思考・状況]
基本行動方針:
須田恭也と前田知子の捜索。
0:幻視を駆使して状況を把握する。
1:須田恭也と前田知子がいるならば、探し出して保護する。
2:建物(研究所地下)の調査、及び脱出。
※主人格での基本行動方針は「神が提示した『殺し合い』という『試練』を乗り越える」です。
※大学のエントランスホールに這いずりゾンビ化した深紅がいます。ラクーン大学裏口付近には寸断された圭一の残骸が、地下研究所のターンテーブルの床には転落死した誠の残骸が散らばっています。
※深紅はゾンビ化した状態であるため、現段階で浮遊霊等にはなれません。
※大学一階の裏口からエントランスホール、二階の学長室からバルコニーまでの壁がそれぞれ壊されています。また、実験室とエレベーターの天井には大きな穴があいています。
※上記の破壊痕は
サイレン後の世界には影響がないかもしれません。
※大学の3階実験室に、丈夫な手提げ鞄(分厚い参考書と辞書、筆記用具入り)、ヨーコのリュックサック(
ハンドガンの弾×20発、試薬生成メモ、
ハリー・メイソンの日記@サイレントヒル3)が置かれています。また生成機には
V-ポイズン、
P-ベースが設置されています。
※研究所地下は、ラクーンシティの地下研究所にエレベーターで直結しています。エレベーター前の通路は原作よりも長くなっているようです。
※ターンテーブルには、新堂の持ち物(学生証、
ギャンブル・トランプ(男)、地図(ルールと名簿付き))が散乱しています。
※今回登場したT-103型はバイオハザード2に登場した個体です。G-ウイルスの回収を目的とし、その障害となるものは排除しようとします。
※ヨーコが今後どういう行動を取るのか。どうなったのかは後続の方にお任せします。
※ターンテーブルを動かすには専用の鍵が必要です。
※地上の穴の縁、及びターンテーブルそのものにコンソールが設置されています。
形態:複数存在
外見:モスグリーンの防護コートを纏った大男。禿頭で、表皮は灰色。
武器:全身
能力:両腕を活かした肉弾戦、優れた自己再生能力。防弾・耐爆性能と暴走抑制のための防護コート。
攻撃力★★★★☆
生命力★★★★☆
敏捷性★★☆☆☆
行動パターン:受けた命令を実行するため、その障害となるものも徹底的に排除する。
備考:
"T-002型"のデータを元に作られたタイラントの発展型。
武器を扱えるほどではないが、命令に従えるだけの知性は有している。
コートを破壊されたり、生命の危機に瀕すると攻撃性の高いスーパータイラントへと移行する場合がある。
形態:唯一存在
外見:右腕が欠損し、左腕が巨大化し、手には鋭い爪が生えている。胸部の右側に心臓が露出している。黒い表皮はところどころケロイド状になっている。黒のアンダーパンツを着用。
武器:全身
能力:左腕を使った振り回しや突進、跳躍してからの踏み潰し。高い自己再生能力。
攻撃力★★★★★
生命力★★★★☆
敏捷性★★★★☆
行動パターン:視界に入る生物を執拗に追い、殺戮する。
備考:
アンブレラ研究員グレッグ・ミューラーが黒人を素体に作り上げたタイラントの亜種。
既にリミッターの外れた状態であるため、防御力・再生能力は落ちているものの、身体能力・攻撃力は向上している。
T-ウイルスの特効薬"
デイライト"の作成のために必要な"
T-ブラッド"が体内に流れている。
弱点は剥き出しの心臓のほかに、"デイライト"を撃ち込まれると肉体を維持できなくなる模様。
最終更新:2013年06月26日 20:51