全盛期の○○伝説 人物伝3

名人伝

マグメルに住むとあるボーダーが、天下第一の狙撃の名人になろうと志を立てた。
己の師と頼むべき人物を物色するに、当今狙撃をとっては「マクミラン」に及ぶものがあろうとは思われぬ。
800メートルを隔てて狙撃をするに百発百中するという達人だそうである。
ボーダーは遥々(はるばる)マクミランを訪ねてその門に入った。

マクミランは新入の門人に、まず施設破壊を学べと命じた。
ボーダーはブロア市街に行き、崖上に立って、そこで施設破壊を続けた。
敵の射程範囲外からひたすら施設破壊をしようという工夫である。
理由を知らない他のメンバーは大いに驚いた。第一、延々と施設破壊をされるのは困るという。
厭がるメンバーをボーダーは無視して、無理に施設破壊を続けた。
来る日も来る日も彼は崖上に立ち、施設破壊の修練を重ねる。
300試合の後には敵に撃破されることが無くなった。
彼はようやく崖上から匍出(はいだ)す。
もはや、崖上でなくても施設破壊が出来るようになっていた。
敵がすぐさま修理しても、敵レーダーが奥の方にあっても決して施設が稼働することはない。
敵ベースの各施設はもはや本来の役目を忘れ果て、
戦場が城塞都市バレリオの時でも開始300秒で施設破壊は一通り完了されている。
ついに破壊工作金を毎試合量産するに及んで、彼はようやく自信を得て、師のマクミランにこれを告げた。

それを聞いてマクミランが言う。
施設破壊のみではまだ狙撃の技術を授けるには足りぬ。次には、視(み)ることを学べ。
視(み)ることに熟して、さて、ブラスト頭部を視(み)ること胴体の如く、
シュライクを視(み)ることヘヴィガードのごとくとなったならば、来(きた)って我に告げるがよいと。

ボーダーは再び戦場に戻り、その中から強襲兵装を探し出して、これにACマルチウェイとE.D.Gδ胴を渡した。
そうして、それにE.D.Gδ胴装備でACを吹かせ続け、終日狙撃銃で睨(にら)み暮(く)らすことにした。
毎試合毎試合、彼はACを吹かせるブラストを見詰める。
始め、もちろんそれらは一体のフルE.D.Gにしか見えない。
2,30試合やっても、依然としてフルE.D.Gである。
ところが100試合余り過ぎると、気のせいか、
どうやらそれがほんの少しながら大きく見えて来たように思われる。
400試合目の終わりには、明らかにシュラゴンほどの大きさに見えて来た。
戦場の風物は次第に移り変わる。
真っすぐ飛んでいた重火力の副武器はいつしか誘導型に変わり、
強襲が細長い太刀で戦場を駆け抜けていったかと思うと、
はや、支援兵装が遠距離から釘を打ち始める。
ボーダーは根気よく、戦場で強襲ブラストを見続けた。
そのブラストも何百回と再出撃されていくうちに早くも1000試合の月日が流れた。
ある日ふと気が付くと、ブラストがヘヴィガードのような大きさに見えていた。
占めたと、ボーダーは膝を打ち、戦場の他の様子を見る。彼はわが目を疑った。
レーダー施設は給水塔であった。自動砲台はワフトローダーの如く、お嬢の胸はフィオナの胸と見える。
雀躍(じゃくやく)して自ベースにとって返したボーダーは、
コア凸をしにACを吹かす敵ヤクシャに遠雷を放てば、
弾は見事にヤクシャの頭を大破させ、しかもACの勢いでさえ断たれぬ。

ボーダーは早速師の許に赴いてこれを報ずる。マクミランは胸を打ち、
初めて「ビューティフォー」と褒めた。そうして、直ちにボーダーブレイクの狙撃秘伝を剰(あま)すところなくボーダーに授け始めた。

訓練に1300試合もかけた甲斐があって、ボーダーの腕前の上昇は、驚くほど速い

奥儀伝授が始まってから、100試合の後、試みにボーダーが800メートルを隔てて狙撃をするに、既に百発百中である。
200試合の後、いっぱいにブラストが集まったプラントに対し後方から順番に狙撃させるに、
狙いに狂いの無いのはもとより、他のブラスト達は狙撃された事にも気付かず微動だにしない。
300試合の後、敵ベースの圧勝制圧を試みたところ、
狙撃により開始早々にコア凸部隊と施設が破壊され、続いて重火力と支援がコンビで誤たずプラント制圧し、
さらに間髪入れず強襲兵装がコア凸する。
四兵装相属し、四兵装相及んで、敵ベース攻略は必ず成功するが故に、
絶えて反撃をくらうことがない。
瞬く間に、十体のブラストランナーは一体の如くに相連なり、
自ベースから一直線に続いたプラント並びのその最後が両軍の最前線に見える。
傍で見ていた師のマクミランも思わず「あそこまで頑張っちゃダメやん・・・」と言った。

600試合の後、たまたま発見した施設破壊中の敵狙撃兵といさかいをしたボーダーが
これを威(おど)そうとて狙撃銃で敵狙撃兵の目を射た。
弾は敵狙撃兵のHSに成功し、再出撃をさせたが
敵兵は誰に撃たれたかも一向に気づかず、反撃もしないで施設破壊を続けた。
けだし、彼の至芸によるHSの速度と場所取りの精妙さとは、実にこの域にまで達していたのである。

もはや師から学びとるべき何物もなくなったボーダーは、ある日、ふとよからぬ考えを起こした。

彼がその時独りつくづくと考えるには、
今やボーダーブレイクをもって己に敵すべきものは、師のマクミランをおいて外にない。
天下第一の狙撃の名人になる為にはどうあってもマクミランを除かねばならぬと。
秘かにその機会をうかがっている中に、一日偶々スカービ渓谷において、
向こうからただ一人歩み寄るマクミランに出会った。
とっさに意を決したボーダーが遠雷を取って狙いをつければ
その気配を察してマクミランもまたヴェスパインを執(と)って相応ずる。
二人互いに狙撃すれば、弾はその度に狙いが僅かに外れ、ともに後方のレーダー施設に堕ちた。
マクミランの弾が尽きた時、ボーダーの方はなお一発の銃弾を余していた。
得たりと勢込んでボーダーがその弾丸を放てば、マクミランはとっさに、
装備変更し、シールドでもってハッシと叩き落とした。
ついに非望の遂げられないことを悟ったボーダーの胸に、
成功したならば決して生じなかったに違いない道義的慙愧(ざんき)の念が、このとき忽焉(こつえん)として沸き起こった。
マクミランの方ではまた、危機を脱しえた安堵と己が技量についての満足とが、
敵に対する諸々の憎しみをすっきり忘れさせた。
二人は互いに駆け寄ると、プラントBの真ん中で相屈伸して、暫し美しい師弟愛の涙にかきくれた。
(こうした事を今日の道義観をもって見るのは当らない。
ボーダー達がエアバースト稼働前にまだ味わったことのない新要素を求めた時、
牛マンは「セガの本気を感じるバージョンアップというコト」とつぶやいてこれをすすめた。
敵の続けざまなコア凸によって自軍が敗れたボーダーはその次の試合に、
前の試合で自軍にコア凸を決めた味方ボーダーを三度FFした。すべてそのような時代の話である。)

涙にくれて相屈伸しながらも、
再び弟子がかかる企みを抱くようなことがあっては甚だ危いと思ったマクミランは、
ボーダーに新たな目標を与えてその気を転ずるにしくはないと考えた。
彼はこの危険な弟子に向って言った。
最早、伝うべき程のことはことごとく伝えた。
なんじがもしこれ以上この道の蘊奥(うんのう)を極めたいと望むならば、
ゆいて東の方セガの地に渡り、牛マン牧場なるクランを訪れよ。
そこにはSSクラスのボーダーとて古今(ここん)を曠(むな)しゅうする斯道(しどう)の熱血大家がおられるはず。
熱血の技に比べれば、我々の射の如きは殆ど児戯に類する。
なんじの師と頼むべきは、今はこの熱血ボーダーの外にあるまいと。

ボーダーはすぐにセガの地に向って旅立つ。
その人の前に出ては我々の技の如き児戯に等しいと言った師の言葉が、彼の自尊心にこたえた。
もしそれが本当だとすれば、ボーダーブレイク第一を目指す彼の望も、まだまだ前途程遠いわけである。
己が技が児戯に類するかどうか、
とにもかくにも早くその人に会って腕を比べたいとあせりつつ、彼はひたすらに道を急ぐ。
BB.netを駆使し、彼はようやく目指すセガの地に辿りつく。

気負いたつボーダーを迎えたのは、メンバーが牛のような男や得体のしれぬメカを携えた女しかない、
しかも5人のみのクランであった。ランクもSSを超えていまい。
【セガ】がついてるせいもあって、ランキング外になっている。

相手がサブクランかも知れぬと、大声に遽だしくボーダーは来意を告げる。
己が技の程を見て貰いたい旨を述べると、
あせり立った彼は相手の返辞をも待たず、いきなり背に負うた遠雷を手に執った。
そうして、高台の上に立つと、
折から自ベースの壁を高く飛び過ぎていくシュライクの群に向かって狙い定める。
引き金に応じて、たちまちシュライク5体のコア凸部隊が鮮やかに碧空(へきくう)を切って大破された。
「一通り出来るようじゃな」と、クランに属する一人の熱血―――アレックスと名乗った―――が穏かな微笑を含んで言う。
「だが、それは所詮、射之射(しゃのしゃ)というもの、好漢未だ不射之射(ふしゃのしゃ)を知らぬと見える」。

ムッとしたボーダーを導いて、アレックスは、其処から離れた敵側プラントまで連れて来る。
敵側プラント・ベースを守るは文字通りの戦闘厨、
遥か遠方に豆のような小ささに見えるブラストの兵器を覗いただけで
忽ち眩暈を感ずる程の戦力である。
その敵側プラントから僅か向こう側、突出した屋根の上につかつかとアレックスは駈上り、振返ってボーダーに言う。
「どうじゃ。この丘の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか」今更引込(ひっこみ)もならぬ。
アレックスと入代りにボーダーがその屋根を履(ふん)んだ時、戦闘厨のコングが微かにこちらを向いた。
強いて気を励まして戦闘厨の頭部に向けてヘッドショットしようとすると、
ちょうど逆のプラントで、味方のコア凸部隊に対し戦闘厨3体がコングとワイスマとリムペットボムで攻め入って行った。
その威力と大破された味方部隊を目で追うた時、覚えずボーダーは屋根から降りて伏した。
脚はワナワナと顫え、汗は流れて踵にまで至った。
アレックスが笑いながら手を差し伸べて彼を立ち上がらせ、自ら代って屋根に乗ると、
「では戦というものを御目にかけようかな」と言った。
まだ動悸がおさまらず蒼ざめた顔をしてはいたが、ボーダーは直ぐに気が付いて言った。
「しかし、狙撃銃はどうなさる? 狙撃銃は?」アレックスは狙撃銃を装備していなかったのである。
「狙撃銃?」とアレックスは笑う。
「狙撃銃を撃つ中はまだ射之射じゃ。不射之射には、狙撃銃はいらぬ」。

ちょうど彼等の真横、中立プラントの中に3機のガチムチ戦闘厨が悠々(ゆうゆう)と占拠しようとしていた。
その胡麻粒ほどに小さく見える姿を暫く見ていたアレックスが、
やがて、簡易チャットで「プラント防衛は任せろ」と言えば、
見よ、戦闘厨達は兵器を撃つ事も出来ず、「ピピッ!」という音とともに撃破されていくではないか。

ボーダーは慄然とした。今にして始めてボーダーブレイクの深淵を覗き得た心地であった。

1500試合の間、ボーダーはこのアレックスの許に留まった。
その問如何なる修業を積んだものやらそれは誰にも判らぬ。

1500試合たってセガクランを脱退し戻って来た時、人々はボーダーの顔付の変ったのに驚いた。
以前の負けず嫌いな精悍(せいかん)な面魂(つらだましい)は何処かに影をひそめ、何の表情も無い、
木偶の如く愚者の如き容貌に変っている。
久しぶりに旧師のマクミランを訪ねた時、しかし、マクミランはこの顔付を一見すると感嘆して叫んだ。
「これでこそ初めてボーダーブレイクの覇者だ。我儕(われら)の如き、足下にも及ぶものでない」と。

マグメルは、ボーダーブレイク一の狙撃名人となって戻って来たボーダーを迎えて、
やがて眼前に示されるに違いないその妙技への期待に湧返った。

ところがボーダーは一向にその要望に応えようとしない。
いや、狙撃銃さえ絶えて手に取ろうとしない。
海を渡る時に携えて行った遠雷も何処かへ棄てて来た様子である。
そのわけを訊ねた一人に答えて、ボーダーは懶(ものう)げに言った。
「至為は為す無く、至言は言を去り、至射は射することなし」と。
成程と、至極物分りのいいマグメルの住人は直ぐに合点した。
狙撃銃を執らざる狙撃の名人は彼等の誇となった。
ボーダーが狙撃銃に触れなければ触れないほど、彼の無敵の評判はいよいよ喧伝(けんでん)された。

様々な噂が人々の口から口へと伝わる。
毎夜三更(さんこう)を過ぎる頃、
ボーダーの守るベースのコア上で何者の立てるとも知れぬ狙撃銃の音がする。
名人の内に宿る射道の神が主人公の睡(ねむ)っている間に体内を脱け出し、
コア凸部隊を払うべく徹宵(てっしょう)守護(しゅご)に当っているのだという。

彼と同じクランに所属する者はある夜、ウーハイの上空で、ワフトローダーに乗った彼が珍(めずら)しくも狙撃銃を手にして、
古(いにしえ)の名人・デューク東郷とシモ・ヘイヘの二人を相手に腕比べをしているのを確かに見たと言い出した。
その時三名人の放った弾丸はそれぞれ夜空に緑色のニュード光を曳きつつ
エイオースの中へと消去ったと。

ボーダーの守るベースに忍び入ろうとしたところ、
壁に足を掛けた途端に、一道の殺気が森閑(しんかん)としたベースの中から奔(はし)り出てまともに額(ひたい)を打ったので
覚えずマップ外に顛落(てんらく)したと白状したスネークもある。
爾来(じらい)、邪心を抱く者共は彼の周辺300メートル四方は避けて廻り道をし、
賢いコア凸部隊共は彼の射程内を通らなくなった。

名人ボーダーは次第に老いて行く。
既に早く狙撃銃を離れた彼の心は、益々枯淡虚静(こたんきょせい)の域にはいって行ったようである。
木偶の如き顔は更に表情を失い、GPを追加することも稀となり、
ついにクラン仲間ではプレイの有無さえ疑われるに至った。
「既に、EUSTとGRFとの別、強襲兵装と重火力兵装との分を知らぬ。
ムーブスティックはアクションボタンの如く、アクションボタンはダッシュボタンの如く、ダッシュボタンはRグリップの如く思われる。」
というのが、老名人晩年の述懐である。

アレックスの許を辞してから1600試合の後、ボーダーは静かに、誠に煙の如く静かに口座がブレイクした。
その1600試合の間、彼は絶えて射を口にすることが無かった。
口にさえしなかった位だから、狙撃銃を執っての活動などあろう筈が無い。
勿論、寓話作者としてはここで老名人に掉尾(ちょうび)の大活躍をさせて、
名人の真に名人たる所以を明らかにしたいのは山々ながら、
一方、また、何としても事実を曲げる訳には行かぬ。
実際、彼についてはただ無為にして化したとばかりで、
次のような妙な話の外には何一つ伝わっていないのだから。

その話というのは、彼の口座がブレイクする120試合前のことらしい。
或日老いたるボーダーがグラントの許に招かれて武器庫に行ったところ、そこで1つの器具を見た。
確かに見憶えのある道具だが、どうしてもその名前が思出せぬし、その用途も思い当らない。
老人はグラントに尋ねた。
それは何と呼ぶ品物で、又、何に用いるのかと。
グラントは、客が冗談を言っているとのみ思って、ニヤリととぼけた笑い方をした。
老ボーダーは真剣になって再び尋ねる。
それでも相手は曖昧な笑を浮べて、客の心をはかりかねた様子である。
三度ボーダーが真面目な顔をして同じ問を繰返した時、始めてグラントの顔に驚愕の色が現れた。
彼は客の眼を凝乎(じっ)と見詰める。
相手が冗談を言っているのでもなく、気が狂っているのでもなく、
又自分が聞き違えをしているのでもないことを確かめると、
彼は殆ど恐怖に近い狼狽を示して、吃(ども)りながら叫んだ。
「ああ、夫子が、――古今無双の射の名人たる夫子が、
38式狙撃銃を忘れ果てられたとや? ああ、狙撃銃という名も、その使い途も!」

その後当分の間、ボーダー達の間では、強襲兵装はサブマシンガンを隠し、
重火力兵装はウィーゼル機関銃を断ち、支援兵装はスマック銃を手にするのを恥じたということである。

がくしゅうのてびき

  • ボーダーがマクミランから学んだことと、セガクランで学んだことを、対比させながら、まとめてみましょう。

  • 作者の示す「名人」とは、どんな人のことでしょう。
 また、あなたは、その名人像を、どう思うか、まとめてみましょう。

  • 元ネタの元ネタの作者である中島敦は、33歳で喘息に倒れました。
 他の代表作に『山月記』『李陵』があります。

 『山月記』は

 俺、SS1楽勝。お前ら雑魚ワロス
 → 雑魚と付き合ってられないので、個人演習で技を磨く
 → 素材が入手できないので、仕方なく全国対戦に戻る
 → 今まで馬鹿にしてた人達とチームを組むのが耐えられない
 → 発狂して失踪
 → いつしか心身ともに牛と化したが、時々、人の意識が戻る
 → ボダブレがしたいという未練と、以前の傲慢の反省を友に語る

 というものです。

 誰か、『李陵』(漢の李陵・司馬遷・蘇武の物語)をネタにしなさい。

最終更新:2011年04月15日 08:20