第二回放送 神は慈悲深く、されど人の子は ◆LxH6hCs9JU
「――さて、放送の時間だ。早速死者の発表といこう。
以上、14名。
続いて禁止エリアを発表する。
14:00よりD-5。
16:00よりB-2。
16:00よりB-2。
以上だ。
では、また六時間後に再会しよう――」
◇ ◇ ◇
朝餉が終わり、昼餉が始まる正午の刻。
極めて事務的な〝通告〟を果たし、神崎黎人は進行役としての任に戻る。
風華学園生徒会副会長の面影を残した柔和な笑みは、不快な喜色を纏わない。
泰然自若――彼が好く四字熟語のとおり、その様は不気味なほどに穏やかだった。
極めて事務的な〝通告〟を果たし、神崎黎人は進行役としての任に戻る。
風華学園生徒会副会長の面影を残した柔和な笑みは、不快な喜色を纏わない。
泰然自若――彼が好く四字熟語のとおり、その様は不気味なほどに穏やかだった。
「さぁ――新たに訪れる周期では、いったいどんな物語が紡がれるのかな?」
一仕事終えた心持の神崎は、悠然とお茶を啜り、笑む。
言葉は少なく、一切の遊び心を排除し、必要最低限の情報を与える。
神崎の行った第二回定時放送は、言峰の趣向とはまったくの対局に位置するものだった。
言葉は少なく、一切の遊び心を排除し、必要最低限の情報を与える。
神崎の行った第二回定時放送は、言峰の趣向とはまったくの対局に位置するものだった。
「――もったいない」
神崎の放送に率直な感想を述べたのは、背後に立つ進行役補佐――言峰綺礼だ。
「せっかくの語らいの時間を、なぜ無為にするのか。
十二時間生き延びてきた彼らに、賛辞の一つでも与えてやらんのかね?」
十二時間生き延びてきた彼らに、賛辞の一つでも与えてやらんのかね?」
言峰に言わせれば、神崎の仕事ぶりは怠慢にも思えた。
言葉は魔法のメスである。聞き手の傷跡に合うよう先端を研げば、その傷は容易に開く。
許されるのならば限りなく長く、より多くの傷を抉れるように、効果的に切開という名の教えを説く。
放送とは、愉悦を得るための唯一の機会であり、楽しみなのだ。
それを神崎は、必要最低限の業務として終えた。言峰の考えに逆らうように。
故に、もったいない――ただしそれは、あくまでも言峰綺礼の心理によるものだ。
言葉は魔法のメスである。聞き手の傷跡に合うよう先端を研げば、その傷は容易に開く。
許されるのならば限りなく長く、より多くの傷を抉れるように、効果的に切開という名の教えを説く。
放送とは、愉悦を得るための唯一の機会であり、楽しみなのだ。
それを神崎は、必要最低限の業務として終えた。言峰の考えに逆らうように。
故に、もったいない――ただしそれは、あくまでも言峰綺礼の心理によるものだ。
「……与えるだけが慈悲ではないと、僕は思うんですよ。甘言にしても苦言にしても、ね。
特に言峰神父。第一回放送の際のあなたの教授は、彼らにとって実に有益なものとなったでしょうから。
救いは与えられるものではなく、模索するものだと……知ってほしいんですよ、彼らには。
それに、僕らは絶対の位置に立っている。それを慢心するわけではありませんが、自覚くらいはしてもいい。
そうは、思いませんか?」
特に言峰神父。第一回放送の際のあなたの教授は、彼らにとって実に有益なものとなったでしょうから。
救いは与えられるものではなく、模索するものだと……知ってほしいんですよ、彼らには。
それに、僕らは絶対の位置に立っている。それを慢心するわけではありませんが、自覚くらいはしてもいい。
そうは、思いませんか?」
「――それが、君なりの考えというわけか。ふむ、おもしろい。
私は神父としても、監査役としても、生と死の境に身を置く彼らに注目している。
しかし神崎黎人、私は君という人間にも興味を抱いているのだよ。
私と君は任を同じくする同僚といったところだが……互いにその本質を知り尽くしているわけではない。
私が『補佐』としての役割に留まっているのも、君の手腕を見極めたいがためだ。
神崎黎人には神崎黎人のやり方がある――そう言うのであれば、私も口出しはすまい」
私は神父としても、監査役としても、生と死の境に身を置く彼らに注目している。
しかし神崎黎人、私は君という人間にも興味を抱いているのだよ。
私と君は任を同じくする同僚といったところだが……互いにその本質を知り尽くしているわけではない。
私が『補佐』としての役割に留まっているのも、君の手腕を見極めたいがためだ。
神崎黎人には神崎黎人のやり方がある――そう言うのであれば、私も口出しはすまい」
神父と――今はただの、平凡な男子高校生。
思想も趣向も能力も違う二人が立場を同じくし、手を握る。
その発端は未だ明かされず、暗雲のかかった関係が、舞台の幕引き役として番を待つ。
また、六時間後に――。
思想も趣向も能力も違う二人が立場を同じくし、手を握る。
その発端は未だ明かされず、暗雲のかかった関係が、舞台の幕引き役として番を待つ。
また、六時間後に――。
142:生きて、生きて、どんな時でも | 投下順 | 144:瓦礫の聖堂 |
142:生きて、生きて、どんな時でも | 時系列順 | 144:瓦礫の聖堂 |
094:記憶の水底 | 神崎黎人 | 182:第三回放送-巡り続ける運命の鎖- |
133:満ちる季節の足音を(後編) | 言峰綺礼 | 171:秘密 - da capo/al fine - |