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給仕女

最終更新:2020年01月09日 22:34

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給仕女
徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頃《ころ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|枚《まい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うろ/\


 その頃《ころ》また織田《おだ》の妻《つま》の竜子《りうこ》が、一|枚《まい》の写真《しやしん》を、ふとその友達《ともだち》の家《うち》から手《て》に入《い》れて来《き》た。その前《まへ》にもちやうど、そんなやうな写真《しやしん》が一|枚《まい》手《て》に入《はい》つて、それは其《そ》の目尻《めじり》のやゝ垂《た》れ気味《ぎみ》な、高貴《かうき》の姫君《ひめぎみ》にでもありさうな型《かた》の、おつとりとしたところが、ひどく本人《ほんにん》の気《き》に入《い》つたのであつたが、こつちから話《はなし》を進《すゝ》めようとした頃《ころ》には、他《た》へ縁談《えんだん》か決《きま》つてしまつてゐた。
 今度《こんど》のは、おとなしやかな点《てん》からいへば、いくらか現代向《けんだいむ》きの型《かた》だつたが、もう二三|度《ど》も見合《みあ》ひをして女《をんな》が気《き》にいると、家庭《かてい》に不満《ふまん》な点《てん》かあつたり、女《をんな》の余《あま》り現代的《げんだいてき》なので気《き》に入《い》らなかつたりして、とかく縁《えん》の遠《とほ》いことを彼《かれ》の親達《おやたち》が嘆《なげ》いてゐたところなのでそれなどは先《ま》づ上等《じやうとう》の口《くち》として尊重《そんちよう》されなければならなかつた。
 その写真《しやしん》は、ひどく織田《おだ》の気《き》に入つてゐた。地方《ちはう》の物持《ものもち》の令嬢《れいぢやう》で、学校《がくかう》も東京《とうきやう》であつた。
「これが駄目《だめ》のやうなら、もう仕方《しかた》がないね。」織田《おだ》は竜子《りうこ》に言《い》つた。
「体《からだ》つきだつてすんなりした方《はう》だし、繊細《きやしや》な割《わり》に肉《にく》づきもいゝぢやないか。」
「え、肩《かた》から胸《むね》のあたりの様子《やうす》が、何《なん》となく意気味《いきみ》がありますね。たゞ口《くち》がちよつとね、何《ど》うかと思《おも》ふんですけれど。」
 とにかく竜子《りうこ》はその写真《しやしん》を益田《ますだ》の家《うち》へもつて行《ゆ》くことにした。嫁《よめ》をもらふとか貰《もら》はぬとかで、益田母子《ますだおやこ》の感情《かんじやう》も、妙《めう》にごぢれてゐて、織田《おだ》は益田《ますだ》の母親《はゝおや》のそれで苦労《くらう》してゐるのが、気《き》の毒《どく》でならなかつたが、何《ど》うしたか社交《しやかう》の狭《せま》い彼《かれ》の手《て》では、縁談《えんだん》の蔓《つる》を手繰《たぐ》り寄《よ》せることは容易《ようい》でなかつた。
 誰《だれ》でも気《き》づいてゐるやうに、見合《みあ》ひといふことは、外《ほか》の不合理《ふがふり》は左《と》に右《かく》として、若《わか》い女《をんな》を売《う》りものか何《なに》かのやうに取扱《とりあつか》はなければならないことが、織田《おだ》には見合《みあひ》をする度《たび》に、その女《をんな》や女《をんな》の母《はゝ》とか叔母《をば》さんとか云《い》ふ人《ひと》に、ひどく済《す》まないことのやうに感《かん》ぜられた。そんな事《こと》には可也《かなり》摺《す》れてゐた彼《かれ》ではあつたけれど、代物《しろもの》を見《み》てから、期待《きたい》を裏切《うらぎ》られた場合《ばあひ》、何《なん》とか口実《こうじつ》を設《まう》けて断《こと》はることが、善良《ぜんりやう》な家庭《かてい》に育《そだ》つた女《をんな》の頭脳《あたま》をどれだけ刺戟《しげき》するかわからないと思《おも》はれた。今《いま》まで益田《ますだ》のために撰《えら》ばうとして、見合《みあひ》をしたのは後《あと》にも先《さき》にも一人《ひとり》きりであつたが、不運《ふうん》なことには、その令嬢《れいぢやう》や叔母《をば》さんたちが、ひどく乗気《のりき》になつて、二|度目《どめ》の見合《みあひ》を余儀《よぎ》なくされて、その結果《けつくわ》先《ま》づ好《い》いと云《い》ふことになつたのであつたが、その祖父《そふ》に精神病者《せいしんびやうしや》があつたと云《い》ふことが、益田《ますだ》の父親《ちゝおや》には不満《ふまん》であつた。そして話《はなし》が切《き》れてからも、令嬢《れいぢやう》が織田《おだ》のところへ、子供《こども》の死《し》んだ弔《くや》みをくれたり、門《もん》まで来《き》て、その辺《へん》をうろ/\したりしたのであつた。
「お糸《いと》さん益田《ますだ》さんのところへお嫁《よめ》にこられなくて、泣《な》いてるさうですよ。」
 そんなことを織田夫婦《おだふうふ》は、その縁談《えんだん》の橋渡《はしわた》しをした夫人《ふじん》から聞《き》いたりした。織田《おだ》はその娘《むすめ》の心《こゝろ》をいぢらしく思《おも》つた。
 今度《こんど》の令嬢《れいぢやう》は、写真《しやしん》によつてみると、そんな点《てん》では感情《かんじやう》の教養《けうやう》も発達《はつたつ》もなささうに思《おも》へた。表情《へうじやう》も矯艶的《けうえんてき》なところは見《み》つからなかつた。
「私《わたし》の方《はう》が今度《こんど》はやられさうです。」益田《ますだ》はさう言《い》つて笑《わら》つてゐた。
 彼《かれ》も最近《さいきん》は酒《さけ》など飲《の》んで、顔《かほ》もいくらか荒《すさ》んでゐた。
 益田《ますだ》に写真《しやしん》を見《み》せたのは、勿論《もちろん》一|旦《たん》親達《おやたち》に見《み》せてからであつた。竜子《りうこ》かその写真《しやしん》をもつて、本人《ほんにん》の気質《きしつ》だとか、家庭《かてい》の状態《じやうたい》などを説明《せつめい》したとき、これなら結構《けつこう》だといふことであつた。
「耶蘇《ヤソ》ぢやごわへんか。」
 父親《ちゝおや》は余《あま》り現代式《げんだいしき》な女《をんな》の写真《しやしん》などを見《み》せられると、耶蘇《ヤソ》くさいのがふる/\厭《いや》だといふやうに、さう言《い》つて訊《たづ》ねるのであつたが、今度《こんど》はそれも何《なん》のこともなかつた。
 益田《ますだ》はその翌日《よくじつ》、母《はゝ》から言《い》はれて、写真《しやしん》を見《み》に来《き》たのであつた。母親《はゝおや》から話《はなし》をしかけると、写真《しやしん》が気《き》に入《い》つてゐても、何《ど》うかするとこぢれて出《で》たり何《なに》かするので、やつぱり織田夫婦《おだふうふ》から話《はな》した方《はう》がいゝといふのであつた。織田《おだ》は益田《ますだ》の父親《ちゝおや》たちと、郷里《きやうり》でいくらか縁戚《えんせき》つゞきになつてゐた。
 益田《ますだ》も気《き》に入《い》つたらしかつた。そして其《そ》の晩《ばん》は見合《みあひ》の場所《ばしよ》とか、結婚式《けつこんしき》の規模《きぼ》だとか、結婚後《けつこんご》の別居問題《べつきよもんだい》だとか、益田自身《ますだじしん》の収入《しうにふ》とか、父親《ちゝおや》からの補助問題《ほじよもんだい》だとか、そんな常套的《じやうたうてき》な話《はなし》に時《とき》を移《うつ》した。
 間《ま》もなく見合《みあひ》のことが、其写真《そのしやしん》を見《み》せてくれた友達《ともだち》の夫人《ふじん》と、竜子《りうこ》とのあひだに協議《けふぎ》された。そして其《それ》は織田夫婦《おだふうふ》が懇意《こんい》にしてゐる安岡弘子《やすをかひろこ》と云《い》ふ未亡人《みばうじん》が事務員《じむゐん》をしてゐる亜米利加式《アメリカしき》の或《あ》る大《おほ》きなデパートメントストアと極《き》まつた。
 それは初秋《はつあき》らしい風《かぜ》のそよ吹《ふ》くすが/\しい朝《あさ》であつた。織田《おだ》が先《ま》づ行《い》つて、安岡未亡人《やすをかみばうじん》に、何《なに》かさう云《い》ふことに二三十|分《ぷん》ばかり貸《か》してもらへるやうな部屋《へや》があるならば……と、相談《さうだん》してみると、いつもにこ/\してゐる善良《ぜんりやう》な未亡人《みばうじん》は、
「さよでございますね、お幾人《いくたり》くらゐ」と訊《き》いた。
「六|人《にん》ですが……。」
「訊《き》いてみませうか。」彼女《かのぢよ》は言《い》つてくれた。
 そこへ竜子《りうこ》の友達《ともだち》の足立夫人《あだちふじん》がじみな身装《みなり》をして遣《や》つて来《き》た。
「あの人《ひと》たちを、今《いま》下《した》に待《ま》たしておきましたの。」彼女《かのぢよ》は小肥《こぶと》りに肥《ふと》つた体《からだ》をして、扇子《せんす》で衿元《えりもと》へ風《かぜ》をいれながら、
「今日《こんち》はまた蒸々《むし/\》いたしますね」とそんなことを言《い》ひながら、顔《かほ》を背向《そむ》けてゐた。いくらか不安《ふあん》の色《いろ》が其《そ》の時《とき》夫人《ふじん》の目《め》のうちに見《み》られたのを、織田《おだ》は後《あと》で気《き》づいたのであつた。
 そこへ益田《ますだ》がやつて来《き》た。そして帽子《ばうし》を取《と》りながら傍《そば》へ寄《よ》つて来《き》た。彼《かれ》は以前《いぜん》糸子《いとこ》を見《み》に行《い》つた時分《じぶん》から見《み》ると、好《い》い意味《いみ》での見合度胸《みあひどきよう》とか云《い》ふやうなものがいくらか出《で》て来《き》てゐるやうに思《おも》へたが、同時《どうじ》に女《をんな》に対《たい》する批判《ひはん》や趣味性《しゆみせい》も発達《はつたつ》してゐた。
 織田《おだ》は早速《さつそく》足立夫人《あだちふじん》に紹介《せうかい》した。
「どうも飛《と》んだ御世話《おせわ》になりまして。」益田《ますだ》は毛《け》を掻揚《かきあ》げながら挨拶《あいさつ》した。
「いゝえ、誠《まこと》に不束《ふつつか》でございまして……。」足立夫人《あだちふじん》も腰《こし》を屈《かぶ》めた。
 暫《しばら》くしてから、「では私《わたし》はちよつと下《した》へ」と言《い》つて、足立夫人《あだちふじん》は部屋《へや》を出《で》て行《い》つた。
「お父《とう》さんは。」織田《おだ》は益田《ますだ》にたづねた。
「さあ、もう来《き》てゐる筈《はず》ですがね。会社《くわいしや》から来《く》るやうに言《い》つてゐましたが……。」
「見当《みあた》らんやうだね。どこか我々《われ/\》を捜《さが》してあるいてるんぢやないだらうか。」
 すると其処《そこ》へ安岡未亡人《やすをかみばうじん》が、にこ/\してやつて来《き》てくれて、
「では宜《よろ》しいさうです。貴賓室《きひんしつ》をお貸《か》しすることができますから。」
 織田《おだ》はその礼《れい》を言《い》つて、又《また》益田《ますだ》を紹介《せうかい》した。
「ぢや、もう皆《みな》さんお揃《そろ》ひなんですか。」
「お父《とう》さんがまだ見《み》えないんですよ。」
 すると「僕見《ぼくみ》てきませう」と言《い》つて、益田《ますだ》は一時《ひとしきり》その辺《へん》を捜《さが》してあるいた。そして終《しま》ひに会社《くわいしや》へ電話《でんわ》をかけてゐる間《あひだ》に、その姿《すがた》が織田《おだ》の目《め》についた。
 貴賓室《きひんしつ》では、緞子張《どんすばり》の椅子《いす》などが配置《はいち》されてあつた。そして織田《おだ》たち三|人《にん》が、椅子《いす》にかけて待《ま》つてゐると、やがて安岡夫人《やすをかふじん》が其《そ》の人達《ひとたち》をつれて来《き》た。目《め》の愛《あい》くるしい、気象《きしやう》の快活《くわいくわつ》らしい叔母《をば》さんが先《ま》づ姿《すがた》を現《あら》はすと、次《つぎ》に桔梗色《ききよういろ》の地《ぢ》に、派手《はで》な裾模様《すそもやう》などのある錦紗《きんしや》の単衣《ひとへ》を着《き》て、手《て》にバツクをもつた令嬢《れいぢやう》が、写真《しやしん》そのまゝの髪容《かみかたち》で、臆病《おくびやう》らしく、しかしどこか叔母《をば》さんやお母《かあ》さんなどに甘《あま》えるやうな風《ふう》で、入《はい》つて来《き》た。脊《せ》は思《おも》つたほど高《たか》くはなかつたが、体《からだ》つきは繊細《きやしや》であつた。むしろ痩《や》せた方《はう》であつた。写真《しやしん》で手《て》や何《なに》かに凝脂珠のやうに見《み》えた豊麗《ほうれい》な肉《にく》づきではないことが、ちよつと見《み》たときの印象《いんしやう》でも感《かん》ぜられたが、顔《かほ》にも病気《びやうき》あがりか何《なに》かのやうな窶《やつ》れが見《み》えた。
 勿論《もちろん》足立夫人《あだちふじん》も、叔母《をば》さんがそんなことを言《い》つてゐたといふことを、前《まへ》から話《はな》してゐた。
「あの写真《しやしん》は、大変《たいへん》に好《よ》くとれてゐるんださうです。」
 織田《おだ》はその写真《しやしん》を見《み》たゞけでは、足立夫人《あだちふじん》の言葉《ことば》を、現実《げんじつ》に
想像《さうざう》することができなかつた。しかし今《いま》、お母《かあ》さんや叔母《をば》さんと、挨拶《あいさつ》を取交《とりかは》してから、椅子《いす》にかけてゐる令嬢《れいぢやう》を見《み》ると、その言葉《ことば》の意味《いみ》を、如実《によじつ》に知《し》ることができた。勿論《もちろん》夏痩《なつやせ》か何《なに》かが主《おも》なる原因《げんいん》かも知《し》れないのであつた。健康《けんかう》の恢復《くわいふく》されたときなら、きつと写真《しやしん》の化俤《おもかげ》が出《で》るにきまつてゐると思《おも》はれた。目《め》や何《なに》かの感《かん》じも、写真《しやしん》のそれとは大分《だいぶ》異《ちが》つてゐるやうに受取《うけと》れた。して五十|近《ちか》いお母《かあ》さんは、渋《しぶ》い扮装《つくり》をして上品《じやうひん》と平易《へいい》さとを同時《どうじ》に示《しめ》してゐた。体《からだ》も大《おほ》きくなかつた。口《くち》の利《き》き方《かた》も大家《たいけ》の老夫人《らうふじん》らしかつた。そしてこのお母《かあ》さんや叔母《をば》さんたちに比《くら》べると、令嬢《れいぢやう》はどこか貧弱《ひんじやく》にも見《み》えるのであつた。
 織田《おだ》たちは当《あた》りさはりのない色々《いろ/\》の話《はなし》を取交《とりかは》した。令嬢《れいぢやう》の家《うち》が、生糸屋《きいとや》であるところから、生糸《きいと》の話《はなし》も出《で》た。その土地《とち》の気候《きこう》だとか、景勝《けいしよう》だとか、町《まち》の景気《けいき》だとか……
 安岡未亡人《やすおかみばうじん》の外《ほか》に、貴賓室《きひんしつ》づきの女《をんな》が一人《ひとり》入《はい》つて来《き》て、お茶《ちや》の世話《せわ》などしてくれたのであつたが、未亡人《みばうじん》は織田《おだ》を入口《いりぐち》の方《はう》へ呼《よ》んで、
「お菓子《くわし》は何《なに》にしませうか。」などと相談《さうだん》した。
「何《なん》でもいゝでせう。」
「御名々《ごめい/\》に取《と》らなくてもいゝでせうね。」
「えゝ。」織田《おだ》は応《こた》へた。
「では××さん何《ど》うそ。」と未亡人《みばうじん》が給仕《きふじ》の女《をんな》に頼《たの》んで、部屋《へや》を出《で》て行《い》つた。
 二十二三かと思《おも》はれる、其《そ》の給仕女《きふじをんな》がやがてお菓子《くわし》をもつて来《き》てくれたり、お茶《ちや》をかへてくれたりした。彼女《かのぢよ》はどこか懐《なつ》かしみのある美《うつく》しい顔《かほ》の持主《もちぬし》であつた。顔《かほ》や何《なに》かもふつくらして、血色《けつしよく》もうつすらと桜色《さくらいろ》を帯《お》びてゐた。温雅《をんが》で挑発的《てきはつてき》なところは微塵《みぢん》もないながらに、どこか素人《しろうと》ばなれのしたやうな意気味《いきみ》をもつてゐた。
 其《それ》が益田《ますだ》や織田《おだ》の目《め》を惹《ひ》かずにはおかなかつた。
 とにかく双方《さうはう》の会話《くわいわ》は、何等《なんら》深入《ふかい》りすることなしに、好《い》い感《かん》じをもつて、静《しづ》かに取交《とりかは》された。勿論《もちろん》偶《たま》には照《て》れるやうなことのあるのは為方《しかた》がなかつた。
「いかゞです。おつまみ下《くだ》さいませんか。」織田《おだ》が言《い》つた。
 みんなは遠慮《ゑんりよ》してゐた。
「ではお先《さ》きヘ一《ひと》つ。」などゝ織田《おだ》はお菓子仕立《くわししたて》の団子《だんご》を摘《つま》んだ。
「美《うま》さうですね。」益田《ますだ》もにゆつと手《て》を出《だ》した。
「これあ旨《うま》い。」織田《おだ》は言《い》つた。
「大分《だいぶ》上等《じやうとう》ですね。こんな団子《だんご》のあることは、ちつとも知《し》らなかつた。」
「さうだね、つひ気《き》がつかなかつた。皆《みな》さん如何《いかゞ》です。」
 女《をんな》の人《ひと》たちも紙《かみ》に受《う》けて、一《ひと》つづゝ摘《つま》んだ。
 それから又《また》お菓子《くわし》の話《はなし》が少《すこ》し話《はな》された。
「それではそろ/\開散《かいさん》しませうか。」織田《おだ》が汐《しほ》を見《み》て言出《いひだ》した。
「さよですね。余《あま》り長《なが》くなりましても……。」足立夫人《あだちふじん》も言《い》つた。
 三人《にん》づゝ二組《ふたくみ》に分《わか》れて、女《をんな》たちの方《はう》が先《ま》づ部屋《へや》を出《で》た。足立《あだち》夫人《ふじん》もついて出た。
 織田《おだ》と益田親子《ますだおやこ》は、しばらく後《あと》に残《のこ》つた。
「どうも写真《しやしん》と少《すこ》し違《ちが》ふやうだね。」織田《おだ》は少《すご》しいらついたやうな様子《やうす》で言《い》つた。
「え、ちよつとね。」と益田《ますだ》はにやつと笑《わら》つてゐた。
「しかし然《さ》うむつかしいことばかり言《い》つてをつては……。」と、父親《ちゞおや》は真面目《まじめ》な顔《かほ》で子息《しそく》を窘《たしな》めるやうに言《い》つた。
「それあ然《さ》うですけれど、ちよつとね。」
「私《わたし》は大変《たいへん》結構《けつこう》のやうに思《おも》ひますが……。」
「さうですか。まあ悪《わる》くもないですが、益田君自身《ますだくんじしん》の判断《はんだん》が大切《たいせつ》ですから。」織田《おだ》は言《い》ふのであつた。
 そこへ足立夫人《あだちふじん》が、少《すこ》し失望《しつばう》したやうな表情《へうじやう》で、再《ふたゝ》び姿《すがた》を現《あらは》した。そして織田《おだ》を隅《すみ》の方《はう》へ呼《よ》んで、
「どうも少《すこ》し所思《おもわく》がはつれたやうに思《おも》ひますが……。」
「私《わたし》も今《いま》さう言《い》つてゐるのですが……。」
「御覧《ごらん》のとほりほんとに初々《うひ/\》しいお子《こ》さんでございますがね。何《なに》しろお祖母《ばあ》さんに可愛《かあい》がられて我儘《わがまゝ》に育《そだ》つた方《はう》ですから、それだけは大目《おほめ》に見《み》ていたゞきたいといふお話《はなし》なんでございますの。それは宜《よろ》しいとしましても、何《なん》となく顔《かほ》が淋《さび》しうございますね。」
「え何《なに》ですかね。」
 暫《しばら》くしてから、足立夫人《あだちふじん》は三|人《にん》に会釈《ゑしやく》して出《で》て行《い》つた。
 織田《おだ》たちも、やがて給仕《きふじ》の女《をんな》に挨拶《あいさつ》してそこを出《で》た。
 安岡夫人《やすをかふじん》がまた遣《や》つて来《き》てくれた。
「いかゞで御座《ござ》いました。」
「有難《ありがた》うございました。実《じつ》は少《すこ》し失望《しつばう》してゐるんです。」
 未亡人《みばうじん》はにや/\してゐた。
「さうですか、お気《き》にいらないんですか。」
「貴女《あなた》は何《ど》うお思《おも》ひです。」
「さあ、何《なん》ですか痩《や》せすぎるやうぢやございませんか。血色《けつしよく》がね、何《なん》となし冴《さ》えませんね。」
 益田《ますだ》のお父《とう》さんはやがて別《わか》れを告《つ》げた。
 織田《おだ》と益田《ますだ》は、食堂《しよくだう》へ入《はい》つて行《い》つた。
「どうも可《い》けないものだね。」織田《おだ》は円卓子《まるテーブル》に肘《ひぢ》をつきながら言《い》つた。
「どうも飛《と》んだお暇潰《ひまつぶ》しで……。」
 二人《ふたり》はサンドヰツチなど取《と》つて、紅茶《こうちや》を啜《すゝ》りながら、四辺《あたり》を見《み》まはした。すると直《す》ぐ向《むか》ふの食卓《しよくたく》に、会社員《くわいしやゐん》らしいハイカラな背広服《せびろふく》を着《き》た男《をとこ》と、その細君《さいくん》らしい束髪《そくはつ》の女《をんな》が、連《しき》りに睦《むつま》じさうな表情《へうじやう》で話《はなし》をしながら、何《なに》か食《た》べてゐた。目鼻立《めはなだち》のぱらりとした、中肉中脊《ちうにくちうぜい》の美人《びじん》であるのが、先《ま》づ目《め》についた。
 それから斜向《すじむか》ひの方《はう》に、日本服《にほんふく》を着《き》たでぶ/\した男《をとこ》や、その男《をとこ》の妹《いもうと》かと思《おも》はれる十四五の、長《なが》い袂《たもと》の着《つ》いた少女《せうぢよ》と、三|人《にん》でおしるこなど食《た》べてゐる、下町風《したまちふう》の、これも二十三四の愛《あい》らしい丸髷《まるまげ》の女《をんな》が目《め》についた。その女《をんな》は、亭主《ていしゆ》に比《くら》べると、ぐつと縹緻《きりよう》がよかつた。
 彼等《かれら》は幸福《かうふく》さうに飲食《のみくひ》をしながら、話《はな》してゐた。
「世間《せけん》には随分《ずゐぶん》好《い》いお嫁《よめ》さんがあるんだね。」織田《おだ》は笑《わら》ひながら言ふのであつた。
「有《あ》りますね。」益田《ますだ》も目《め》を光《ひから》せてゐた。
「あれ好《い》いぢやないか。」
「こゝで目立《めだ》つくらゐですから……。」益田《ますだ》は言《い》ひながら、その時《とき》その辺《へん》を通《とほ》つてゐる若《わか》い給仕女《きふじをんな》に目《め》をつけて、
「僕《ぼく》はあんなやうな女《をんな》が好《す》きですが。」
 その女《をんな》はちよいと江戸前《えどまへ》の顔《かほ》をしてゐた。目《め》の切《きれ》が長《なが》くて、口元《くちもと》か苦味《にがみ》ばしつてゐた。色《いろ》が浅黒《あさぐろ》い方《はう》であつた。
「あんなのがね。」
「安岡未亡人《やすをかみばうじん》も素直《すなほ》さうな人《ひと》ですね。」
「あゝ、あれはもう何時《いつ》でもにこ/\してゐるね。あんな善良《ぜんりやう》な人《ひと》も鮮《すくな》いだらうね。」
「細君《さいくん》にするには、あんな人《ひと》が好《い》いんですね。それに先刻《さつき》お茶《ちや》の世話《せわ》をしてくれた女《をんな》が好《い》いぢやありませんか。」益田《ますだ》は本音《ほんね》を吐出《はきだ》すやうに言《い》ふのであつた。
「君《きみ》も……? 僕《ぼく》もさう思《おも》つた。」
「あれはちよつと好《い》いですよ。あんな人《ひと》がちら/\するものだから……。」益田《ますだ》は顔《かほ》を顰《しか》めて笑《わら》つた。
「こゝにゐる女《をんな》だつて択《えら》ばれて好《い》い運《うん》に有《あ》りつく女《をんな》もあるんだからね。」
「えゝ、私《わたし》なんか駄目《だめ》ですけれど……。」
 二人《ふたり》は好《い》い加減《かげん》にそこを出《で》た。
 帰《かへ》りがけに又《また》安岡未亡人《やすをかみばうじん》に、ふと出逢《であ》つた。
「貴女《あなた》のお知合《しりあ》ひに好《い》いお嫁《よめ》さんありませんかね。」織田《おだ》は笑《わら》ひながら話《はな》しかけた。
「さうですね、無《な》いこともないんですがね。縹緻望《きりやうのぞ》みでいらつしやるんですか。」未亡人《みばうじん》は応《こた》へた。
「いや、さうでもないんですが……。」と、織田《おだ》は気《き》をかへて、
「先刻《さつき》お茶《ちや》をもつて来《き》てくれた人《ひと》が、ひどく気《き》に入《い》つてしまつたんです。」
「は、あの方《かた》!」未亡人《みばうじん》はしほ/\した目《め》に微笑《びせう》をたゝへて、
「あの方《かた》××学士《がくし》の未亡人《みばうじん》なんですよ。こゝでも評判《ひやうばん》の美《うつく》しい方《かた》なんです。」未亡人《みばうじん》は応《こた》へたが、
「ほんとうに人好《ひとず》きがするでせう。年《とし》は相当《さうたう》取《と》つていらつしやるんですけれど。」
 未亡人《みばうじん》が忙《いそが》しさうだつたので、話《はなし》はそれきりになつた。
 その日《ひ》はまた織田《おだ》が、益田《ますだ》も知《し》つてゐる或《あ》る人《ひと》の婚礼《こんれい》の披露《ひろう》に呼《よ》ばれてゐる日《ひ》であつたので、やがて二人《ふたり》もその建物《たてもの》の前《まへ》で左右《さいう》に別《わか》れた。[#地付き](大正10[#「10」は縦中横]年9月「婦人公論」)



底本:「徳田秋聲全集第14巻」八木書店
   2000(平成12)年7月18日初版発行
底本の親本:「婦人公論」
   1921(大正10)年9月
初出:「婦人公論」
   1921(大正10)年9月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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