Lの季節/I don't know the truth ◆7pf62HiyTE
Act 0 魔女の終焉 ~I don't know the truth~
ジュルリ――
ジュルリジュルリ――
クワレテイク――
彼女の全身に無数とも言うべき植物の蔓の様なものが絡みつく――
直にこの身体は全てその蔓――
ソレワターセによって取り込まれるのだろう――
それは同時に彼女の命が終わる事を意味している――
だが、それは仕方の無い事だ。既に彼女の肉体の半分以上が失われているのだから――
どちらにしても助からない――
ならばこの身体と記憶、情報とも言うべきか、それをソレワターセの一部となって最大限に活かせば良い――
それが世界を絶望と不幸で満たす為――
憎きプリキュア達を倒す為――
そして何より――
◇する彼の望みを――
地獄を味わうという――
彼の長年の野望を叶えさせる為――
◇する◇◇◇◇君の為に――
そして全てが飲み込まれた――
かくして魔女の物語はここで閉じられる。
だが彼女に悔いは無い――
何しろ◇する彼の為にその命を使えたのだから――
だが――彼女は知らない――
彼女自身が抱いた感情――
本来ならばまず抱く事の無い感情を抱いていた事を――
彼女自身の意志が歪に歪められていた事を――
彼女はその真実を知らず――そしてその真実を知る事も無い――
Prologue
実に唐突ではあるがある少女の話をしようか。
その少女はこの殺し合いの舞台から一番最初に退場した少女、名前は――いや、この際それはどうでも良いか。
読者諸兄ならば今更説明する必要も無いであろうが彼女がある男性に恋愛感情を抱いていた事はご存じの通りであろう。
だが、その切欠は彼女の一族の掟によるものである。
その掟とは、女戦士がよそ者に敗北した場合、相手が女だった場合は殺す、男だった場合は夫とする、というものである。
ということは、その彼女がその彼を愛したのは掟によるものという事になる。
そんな掟……とお思いの方も多いであろうが彼女の国の村の掟は基本的には絶対なのだ。別の参加者の話になるがその者もその掟の為に難儀する事により行動方針を決めた理由にもなっている――のだが、これ以上は関係無いのでここまでにしておく。
実際、彼女が唐突に恋に落ちた流れだけを見たら掟によるものとしか思えない。
何しろ、当初はある少女を殺すつもりでやって来たのだが、会えたのはその少女に似た少年。で、問題の少女を捜すべく騒ぎになったらその少年に結果的に倒されて、いきなり愛してる言い出す流れ見れば大抵の者はそう思わざるを得ないだろう。
では本題、その少女がその少年を愛しているのは本当に掟によるものだったのであろうか?
答えだけを先に述べておこう、Noである。
実はある時唐突に一転してその少女はその少年を嫌う様になってしまった事があった。
少年的には度々迫り来る少女にうんざりしている部分があった故に、少年的には万々歳――というわけにはならなかった。
流石に男のクズ扱いまでされた故にその少年の心に火がつき、意地でももう一度好きにさせてやると躍起となった。
その後の話の詳しい流れについては割愛させてもらうが、その為の手段として掟が絶対である事を利用し少年は少女に勝利した――のだが、
『たとえ私の体奪っても、魂までは奪えないあるぞ!!』
と、ハッキリと言い切ったのである。つまり、その少女が元々その少年を好きだったのは切欠こそ掟によるものではあったものの、魂レベルで好きだという事である。どんな状況に陥っても――
――のだが、実の所その時の少女は少女の一族の秘宝の1つの効果により、愛情が憎しみに変化してしまっていたのである。
思いっきり魂が変換させられているのではなかろうか? そう口に出して言いたい所である。
とはいえ、そこまでのレベルで強い憎しみを抱いているという事は逆を言えばそれだけ強い愛情を抱いていたという証明でもあるわけなのでその辺はご理解いただきたい。
長々と説明したが、実の所その一族には他にも色々な秘宝がある。見据えられただけで泣いて謝らずにいられなくなる眼鏡など使用された相手の感情をねじ曲げる道具は数多く存在するという事だ。
一族の秘宝――とは違うがそもそもその少女、少年の許嫁に対し特殊な漢方液でシャンプーしてその少年の記憶を消し去った事もある事からもその多彩さはご理解いただけるだろう。
読者諸兄も興味があるならば一度調べて見てはいかがであろうか?
Act 1 糧となる者
想定外の自体があったとはいえ、経過は順調と言えよう。ノーザはそう考えていた。
何しろ、自身の作戦が破れる事など、ラビリンス時代においてプリキュア共に度々やられていた事故に慣れている。
むしろこちら側が得たリターンに比べればそこまで気にする所でも無いだろう。
勿論、このまま放置するつもりは毛頭無いが元々そのつもりだった為、そこまで気にする事も無い。
今は身体を休めつつ情報を整理、具体的に動くのは放送後からで良いだろう。
情報の整理と言えば先の戦いでスバル・ナカジマに憑依させたソレワターセに仕留めた参加者共を取り込ませてはいるがまだ詳しい情報は引き出していない。
いや、厳密に言えばズ・ゴオマ・グから情報を引き出しているが実の所詳しい事はあまり引き出せていない。
引き出せているのはダグバ、ガドル、クウガ、それにゲゲルと言った断片的な固有名詞が中心だ。
ダグバとガドルが参加者であるン・ダグバ・ゼバ、ゴ・ガドル・バを示しているのは流石にわかる。しかしクウガやゲゲルというのは何を意味しているのか?
もう少し引き出した上で検証したかった所だが、他にもすべきことがあった故に先送りにしたというのが現状だ。
「機を見て引き出しておきたい所ね……」
とはいえ、引き出すタイミングも選んでおきたい所だ。理想を言えば筋殻アクマロが近くにいないタイミングが良い。
何故か? それは取り込んだ参加者の中にアクマロの知り合いである池波流ノ介がいたのだ。
つまり、密かにアクマロに関する情報を確保しておく事が狙いなのだ。
アクマロ自身が直接口で話す情報、ソレワターセによるダイレクトな情報、どちらが信頼に値する情報かなど考えるまでもないだろう?
何より、あの戦いの時、流ノ介の口ぶりではアクマロは既に倒されている様な口ぶりだった。アクマロは特別気にするでも無く軽く流していたがノーザとしては聞き捨てる事は出来なかった。
いや、ラビリンス時代のノーザであれば一蹴していただろうが、一度は倒されボトムによって復活し、数多のプリキュアと対峙した経験を持つ彼女だからこそ引っかかりを感じていたのだ。
先の戦いでは自身にとって未知のプリキュアであるキュアサンシャインがいた。いや、今更プリキュアが他に何人いようがそれについてはどうでもよい。
重要なのは自身の情報を知っていたという事だ。自身の情報などそれこそキュアピーチや裏切り者であるイースことキュアパッシュン等といった直接対峙した者達からしか得られない筈だ。
知っていたならばあの戦いの場に一緒にいなければおかしいだろう。あの場にはプリキュアが勢揃いしていたのだから。
つまり、あの時点ではプリキュアではなかったという事なのだろうか?
だがプリキュア共の性格を考えれば自分達の正体を無関係な者達に明かしてはいない筈、つまりあの時点でプリキュアでは無いならばプリキュアに関する事、つまりはノーザ自身の情報も知らない筈なのだ。
(実際の所、ノーザがプリキュア達と戦ったあの現場に後のキュアサンシャインこと明堂院いつきは見ている。つまり、ノーザの事を何処まで把握していたかは不明瞭だが全く未把握という事は無い)
ともかく、不可解なのだ。この殺し合いに巻き込まれていなければ確実にプリキュア共は倒している筈なので、絶対に自身の事は知り得ない。にもかかわらずそれを知っているという異常現象。
それでなくてもアインハルト・ストラトスが何故かスバルを知っていたという謎、そして本来なら19歳であった筈の高町なのはが何故か10歳前後だった件、
これらを踏まえて考えても、流ノ介のあの発言には何か重要なヒントがあるのではなかろうか? それもアクマロにとって致命的になりかねない情報が――
だからこそ、これについてはアクマロに知られるわけにはいかない、少しでも自身が有利な状況を維持し続けなければならないのだ。
とはいえ、散々長々と説明したものの実の所自身の優位が崩れるという事は絶対にない。
何しろ仮にアクマロが何か仕掛けてきてもソレワターセとの2対1ならばまず負ける事は無いし、隙あらばアクマロにソレワターセを憑依させれば済む話だ。
いっそ早々にソレワターセを憑依させれば手っ取り早いが貴重な最後の1個なのだ、使い所を選ぶ事に何の問題もなかろう。
何より手札に抱えていればアクマロも下手な動きは見せまい、持っていて嬉しいコレクションというわけでは無いが、アクマロの行動を抑制できるならば多少は使えるだろう。
アクマロさえ油断せずに仕留める事さえ出来れば不幸で満たす事はそう難しい事では無い、自分達以外でも悲劇が起こっているのならばそちら側の努力次第で簡単にひっくり返せるのだから――
逃してしまったキュアサンシャインなどの方は放置で良いのか? 懸念がないわけではないが、そこまで気にしなくても良いと考えている。
そもそも幾らプリキュアの悪評を伝えるといっても自身と有用な手下数人分を用意できるわけも無し、同じ手に何度も何度も引っかかる程のバカでも無いだろうと。
一方のプリキュアの方は単純に人数が多い。ノーザ1人が悪評を伝えようとしても複数を相手取る事はできないだろう。
そんな中、周辺の見回り件、道具の回収に向かっていたアクマロが戻ってきた。
「あら、それで回収できたのは全部かしら」
「仮面ライダースーパー1が乗っていたと思われる機械の馬、バイクとでもいいましょうかそれ以外は概ね」
「バイクねぇ」
バイク――単純に移動手段としては有用ではあるが、3人が固まって移動するには適さない。
とはいえ放置して他の参加者に奪われるのは面白くなく、ここで破壊するのも少々惜しいとは思う。
「それについては後々考えましょう、それよりそろそろ食事にでも致しましょうか?」
「それもそうね」
かくして2人は食事の用意を始める。思えばこの殺し合いが始まってからゆっくりと休む暇すらなかった。良い機会だ、ここで休むのも良いだろう。
「……ところで、スバルさんの分はどうします?」
「必要無いわ、それにさっきまで散々食べさせたでしょう」
「それもそうでございますな……しかし大丈夫でしょうかなぁ?」
そう言いながらアクマロはデイパックから何かのクッキーを取り出す。
「どういう意味かしら?」
「流石にあれだけの攻撃を繰り出して彼女の身体も随分とくたびれてはいないかと」
そう言いながらアクマロはデイパックからバナナパフェを出しノーザに渡す。
「あら、どうも。別に気にする事でもないわ、アレの代わりを捜せば済む話よ」
「いえいえ。それもそうではございますが……貴重な手駒を唯々消費するだけというのも少々勿体なく感じますが」
アクマロの言い分についてもわからないわけではない。幾ら捨てても構わない手駒とはいえ、貴重な戦力を無駄にする愚行を犯す必要も無かろう。
「そこまで言うからには何か考えでもあるのかしらアクマロ君」
「ええ、私の支給品に治療に使える薬があります故、それを使いましょうと」
「まぁ、貴方の支給品をどうこうしようが私の知った事じゃないから別に構わないわ……ただし」
「わかっております、下手な事は致しません」
そう言って、アクマロは立ち上がりスバルの所に向かう。
アクマロの言葉を全面的に鵜呑みにしているわけではないが、下手な事をしようものならそのままソレワターセに襲わせれば済む話だ。
流石にアクマロもそれは理解しているだろうから早まった真似はしないだろうし、この場でむやみやたらに戦力を削る真似もしないだろう。
そう言いながらノーザは共通支給品のパンをほおばる。
「紅茶でもあれば良かったわね……血の様に赤い……」
「パンを肉、紅茶を赤い血という例えですかな?」
「あら、上手い事言うわね」
「案外他の誰かに支給されているかも知れませんなぁ、そのばななぱふぇなる甘味の様に」
「こんなもの支給されて喜ぶ人がいるのかしらね」
「ごもっとも」
そう言いながらパフェを一口ずつ口に含み始めるノーザであった。
「それにしても変わった味ね」
「私めはこういったものは食べた事ないのですが」
「なんとなくわかるわ」
「確か涼村暁なるものの好物という話らしいですが……」
「涼村暁……あぁそういえば、あの場で馬鹿な発言した男がいたわね、ドッキリとかどうこう言い出した」
状況を考えず馬鹿な発言を繰り出した男の存在をノーザは覚えていたのである。不思議とかつての同僚(ノーザ視点から見れば配下とも言うべきか)ウェスターをほんの少し思い出した気がする。
「流石に彼もあそこまで馬鹿じゃないわよね」
「ああいう男が長生きするやも知れませんなぁ」
「世も末ね」
「我々はある意味それを望んでいますが」
「そういう意味じゃ無いわ」
そう言っている間にアクマロが戻りクッキーを食べ始める。
「あら、アクマロ君。そのクッキー変わっているわね」
「わかります? これはシンケンジャーの5人を象ったものらしいでして」
その5つのクッキーはシンケンジャーの5人の顔を模したものである。
「何を考えて支給したのかしらね、理解に苦しむわ」
「シンケンジャーを喰え……という意味でしょうかなぁ、ノーザさんも1枚いかがでしょうか?」
「遠慮するわ」
「何故かシンケンゴールドがおりませんのが気になりますがそれはまぁいいでしょう」
かくして食事も順調に進んでいた。その間もスバル、そしてノーザは一切アクマロから視線を外してはいない。
「ソレワターセ、アクマロ君の方は私が見ているから周囲を見張っていなさい」
そんなソレワターセの様子を察してかノーザは的確に指示を出していく。そんな中、
「それにしてもソレワターセというのは随分と便利なものでございますなぁ」
「あら、わかるかしら?」
「ええ、私の手元にもあれば容易に事を進められたと思う程に」
「でしょうね」
「しかし、それだけ便利な代物だと、かえって使うのが難しいのではないでしょうか?」
「そんな難しいものじゃないわ」
そう言いながらノーザはデイパックからソレワターセの実を取り出す。
「これを投げつけて『ソレワターセ、姿を現せ』……これだけで済む話よ」
「ちょっと貸してもらえますかな?」
「え、ええ……」
と、アクマロはノーザからソレワターセの実を借り受け立ち上がりしげしげと見つめていく。時には朝日の光に照らし入念に確かめるかの様に。
「こんな小さき物があれだけの事を成すとは……いやはや世界は広いとでもいいましょうかなぁ」
「お褒めいただき光栄ね」
そう応えるノーザを余所にアクマロは未だにソレワターセの実を見つめている。アクマロは随分と気に入っている様だ。
もう少し手元の数があるならば1つぐらいは渡しても良いと思ってはいる。とはいえ、最後の1つである以上そうするわけにもいかない。
「アクマロ君、そろそろ返してもらえるかしら?」
「すみませんなぁ、少々はしゃぎすぎてしまいまして……」
と、ノーザも立ち上がりアクマロの側へと近づいていく。
「いやはや、本当に感謝しています。これは何れお礼をしなければなりませんなぁ」
と左手でソレワターセの実をノーザに返そうとする。
「お礼ならこれから存分に――」
ノーザもそれを受け取るべく手を伸ばす。
「働いてくれれば十ぶ……」
が、腹部に違和感を覚えると共に手の動きが止まった。
「……!」
いつの間にか自身の腹部にナナシの刀が刺さっていた。
「え……?」
その瞬間、ノーザの思考が停止する。
だが、この状況で動き出す者がいた。
「ガァァァァァァ!!」
スバルに憑依したソレワターセが動いたのだ。
当然のことであろう、ほんの一瞬視線を戻した時には主であるノーザがアクマロに刺されていたのだ。
命令があろうとなかろうとソレワターセのすべき行動は決まり切っている。
ノーザを仕留めようとしたアクマロを返り討ちにする、至極シンプルな事である。
マッハキャリバーを起動し一気にアクマロまで距離を詰めていく。
無論、アクマロの強さは流ノ介を取り込んだ事で理解している。並の一撃であれば仕留めきれないであろう。
だからこそ文字通り全力全開で仕留めるのだ。戦闘機人モードによる振動破砕、そしてその後からの所持しているカートリッジを全て使った上でのディバインバスター、
至近距離からの連続攻撃ならばさすがのアクマロといえども仕留められる筈だ。
無論そこまでの攻撃を受ければソレワターセすらもただでは済まないだろう。だがそんな事など問題では無い。この身は最初から最後まで全てノーザのものなのだ、ノーザの為ならば朽ち果てる事など惜しくも何ともない。
故に、目標まで急接近する――仕留めるべき対象はすぐ近く、外したりなどしない。
一方のノーザも少し遅れてからソレワターセの接近に気付いていた。
ソレワターセを止める理由など皆無、先に仕掛けたのは◇◇◇◇なのだから――
だからこそここでノーザのすべきことはソレワターセの攻撃に巻き込まれない様に急速に待避する事である。
距離さえ取ればソレワターセが自身に攻撃が及ばない様に◇◇◇◇だけを仕留めるべく動いてくれる筈なのだ――
だが――
何故かノーザの足が動かない――
何故、攻撃から逃げようとしないのか?
「……!」
口が何かを言葉を発しようとも声にならない。ほんの一言発すればソレワターセに命令が届く筈なのだ。
何が阻害しているのだろうか? それはノーザ自身にすら理解できない――
故に――
理屈も思考も関係無しに――
気が付けば身体が動いていた――
丁度アクマロとソレワターセの間に割り込む形で――
それは誰にとっても予想外の出来事――
あまりにも突然の事にソレワターセも判断が追いつかず――
その時には既にソレワターセの攻撃は始まっていた――
「いやはや……これは随分と……」
轟音と衝撃が止み土煙が晴れる頃、アクマロが静かにそう呟いた。
アクマロの身体には外傷が全く無い、だがその代わり、1つのクレーターが生成されていた。
その中央にはソレワターセが身体を震わせながら立ち尽くしていて――
身体の大半が失われた魔女――ノーザが静かに倒れていた。
「アク……マロ……君……無事だったのね……」
「ええ、あんさんが身体を張ったお陰で」
「そう……」
ノーザはその瞬間の記憶を辿る――何故自身はソレワターセの攻撃から――
だが、すぐに考える事を止めた。何故ならそれは別段おかしな事でもなんでもないのだから。
「しかし、この有様ではもう助かりませんなぁ。我々外道衆であればそうでもありませんが」
そんな事など言われなくてもわかっている。この状態でもノーザが即死していないのはノーザが人間では無いからだ。
元々ノーザはラビリンス総統メビウスの護衛として植物のDNAから作り出された人工生命体なのだ。
更に言えばこの身体すらボトムによって蘇生されたラビリンス時代とも違う特殊な状態だ。
だからこそ身体の大半が消し飛んでも存命してはいるがそれももう限界、あと1,2分でこの命も尽きるだろう。
「こんな所で終わるのは悔しい……そう言いたそうでございますかな?」
アクマロがどことなく嬉しそうにそう口にしている。
そうだ、彼はこういう男なのだ、他者の嘆きや悲しみを至極の悦びとする。
いや、それは自身が言えた事ではないだろうし、不思議と悪い気はしていない。
勿論、アクマロの指摘通りこんな所で終わりたくないとは思っている。
「ふむ……あんさんの野望、私の野望のついでという形になりますが、私めが叶えないこともありませんが?」
「え……?」
「プリキュア共や世界に絶望を与える……それを私が叶えても構わないという意味ですが?」
ある意味ではノーザにとって願ったり叶ったりの提案だ。
どのみちこの身体は朽ちてしまうがこのままプリキュア共を放置したまま終わりたくは無い。
ならば、アクマロの提案を受け入れ、彼にプリキュアを倒して貰おうではないか。
その為に自身がすべきことは――
「ソレワターセ……命令よ……最後の……私を取り込みなさい……」
自身をソレワターセの糧としてその知識をアクマロに最大限に利用して貰うのだ。
ソレワターセは一瞬躊躇する様な仕草をみせるが、
「命令に……従いな……」
ダメージが酷くこれ以上言葉を紡ぐ事が出来ないでいる。
だが、命令は届いた――
ソレワターセから放たれる無数の蔓が残されたノーザの身体に絡みつく。
そしてその身体を分解していきソレワターセの一部と化していくのだ――
もうすぐノーザという存在はこの世界から消滅する。
だが、全てなくなるという事では無い――
その記憶はソレワターセの一部となって存在し続けるのだ――
そして――ある人物の為に使われるだろう――
だからこそ悔しくはあっても悔いは無い――◇するあの方の為に使われるのならば――
その人物とは――
メビウス――否、
ボトム――否、
「後は……任せたわ……アクマロ……君……」
【ノーザ@フレッシュプリキュア! 死亡確認】
【残り49人】
interlude
さて――
かくしてノーザの物語はここで幕を閉じた事になる。
だが、恐らく読者諸兄の皆はこの展開に疑問を感じている事だろう。
おわかりだろうか? ノーザの言動にどことなく違和感を覚えなかっただろうか?
無論、ノーザ自身はそのたった1つの真実に気付く事無く舞台から退場している。
果たして、ノーザの身に何が起こったのか――ここからはアクマロ視点で物語を振り返っていこう。
Act 2 外道の策謀
「しかし正直困りましたなぁ……」
実の所、アクマロは今後について頭を悩ませていた。
確かに都合良くノーザと組む事が出来た事については良い。
厄介な相手とも言うべき仮面ライダー1号やシンケンブルー等といった者達をこの早い段階で退場させる事が出来たのは行幸と言っても良いだろう。
最終的には仮面ライダースーパー1の妨害にはあったがそれを抜きにしても大きな成果を上げたと考えて良いだろう。
だが、それはアクマロにとっては通過点に過ぎない。
アクマロの最終目的は裏見がんどう返しの術でこの世に地獄を顕現させる事、それ故それ以外の事など俗事といっても過言では無い。
確かに外道故に嘆きや悲しみは大きな糧であり悦びだ。それでも地獄をこの身で堪能する事に比べれば些細な事でしか無い。
第一、その目的の為に二百年も前から準備してきたのだ、今更こんな些細な事で躓くつもりなどない。
そう、その大きな障害が目の前にあったのだ。
それはノーザである。
前述の通りノーザは自身の目的に興味を示し、一時的とはいえ共闘する事が出来たし、結果的に彼女のお陰で目の上のたんこぶとも言うべきシンケンブルーや障害になるであろう仮面ライダー1号を排除出来ている。
だが、だからといって今後も彼女と共闘を続けて良いという理屈にはなりえない。
わかりきった事ではあるが、彼女は自身を完全に信用しているわけではない。
確かに裏切り等は外道衆の糧故にそれを咎めるつもりは毛頭無い。だが、それでは困るのだ。
そう、彼女自身が自身の障害になるとしか考えられないのだ。
まず、第一の理由として、彼女はアクマロの話を最初から全面的に信用しているわけではないという事。
勿論、そもそもああいうタイプの人物が全面的に信用するとは欠片も思っていないからそれは別段構わない。
だが、全面的に信用していないという事は裏を返せば、その目的を果たす事に全面的に協力する気はないという事に他ならない。
言い方を変えれば、その目的を最優先にする気は無いという事だ。
とはいえ、これは別段驚くべき事では無い。なにしろこの目的自体外道衆においても異端扱いなのだから、自身以外に乗り気な人物がいないほうがむしろ当然なのだ。
勿論、ノーザが気に入ったとしてもそこまで執着する確証も保証も無いだろう。状況次第ではすぐさま切り捨てると考えて良い。
だが、アクマロにしてみれはそれでは困るというわけだ。その目的が果たせなくては意味が無いという事だ。
もう少しわかりやすく説明しておこう。
アクマロにとっては腑破十臓が最重要人物で、是が非でも確保せねばならない人物ではあるが、ノーザは恐らく場合によっては彼を排除しても構わず、執着するつもりはないという事だ。
アクマロの話がいくら魅力的に聞こえても全面的に信用していないならば当然固着する義理も無いだろう。何しろノーザ視点では絵空事にしか聞こえなくても不思議はないのだから。
仮に信用したとしよう。それでも他にも理由がある。ノーザ視点では別にアクマロがどうなろうとも構わないという問題がある。
繰り返す事になるがアクマロがこの世に地獄を顕現させるのは、あくまでもこの身で地獄を堪能する事に他ならない。
つまり、地獄を顕現させてもそのアクマロ自身がいなければ何の意味もないという事だ。
だが、ノーザから見ればそんなアクマロの事情など知った事では無い。地獄を顕現させる為にアクマロすらも犠牲にしかねないだろう。
繰り返すが外道衆にとっては望む事であり悦びであるが、それとこれとは話は別、アクマロが犠牲になっては困るのだ。
アクマロ自身簡単な説明しかしていないから大丈夫だ――などと楽観視するつもりは毛頭無い。
先程も述べた通り、ノーザにとっては別に潰れても構わないのだ。
それ以上に――いざとなればアクマロをソレワターセに取り込ませればアクマロが意図的に伏せている情報すら簡単に割れてしまう。
言うまでも無いがそんな事をされればアクマロは死んだと同じ、そんな事などさせるつもりはない。
だが、少しでもノーザにとって都合の悪い自体が起こったならノーザは嬉々として寝返るだろう。
アクマロにしてみれば十臓が犠牲に、あるいは自身が犠牲になっては駄目なのだ。そういう条件でみればあまりにも分が悪い話ではある。
そもそもの前提として、この共闘が純粋に対等な同盟であれば何ら問題は無かった。対等であれば駆け引きも成立し十分に共闘を続ける事が出来たであろう。
勿論、アクマロは下手に出ていたであろうがそれはあくまでもアクマロの性格上の話、それでも同盟自体はほぼ対等レベルになっていた筈だ、どちらが上という事もどちらが下という事も無いまともな同盟だ。
だが、この同盟は全くもって対等でも何でも無い。どう見てもノーザがアクマロを下に見ているとしか思えない。
その最大の理由はソレワターセの存在である。ソレワターセ自体がノーザの最重要戦力であり、倒した相手や周囲の物体を吸収する事でさらなる力を得る厄介な存在だ。
勿論、どこまで強化されるかは未知数だが確実の取り込んだ物の情報は得られる。それをノーザが独占できる事を考えれば大きなアドバンテージとなってしまうだろう。
先に触れた通り、ノーザにしてみればソレワターセでアクマロを取り込めば済む話なのだ。それ自体はそこまで難しい事では無い。
何しろ四六時中警戒し続けるには限界がある。幾らアクマロとて隙が出来る時は必ずある。その隙を逃さなければ容易な事であろう。
わかりやすく言えば、逆らったてもソレワターセに取り込まれ、少し疲弊してもソレワターセに取り込まれる状況と考えて良い。こんな状態の何処が対等だ、まともに付き合っていられる道理もないだろう。
また、むやみやたらと別行動を提案するわけにもいかない。何しろ、ノーザが十臓を仕留める可能性すらあるのだ、それをさせるわけにはいかないだろう。
そもそも、別にアクマロは優勝するつもりなど全く無い。幾らこの地で裏見がんどう返しの術が出来るかもしれないと言ってもそれは余程上手く事が運ばなければまず不可能レベルの話だ。それぐらいアクマロにだって理解している。
第一、そんなわけのわからない場所で事に及ぶより、元の世界に戻って事に及んだ方が確実だろう。
つまりあくまでも最優先事項は十臓と共にこの殺し合いの場から脱出する事なのだ。
その為に必要なのはこの殺し合いを脱出する為に利用できる存在でしかない。勿論、仮面ライダーやシンケンジャー等といった障害は排除するがそれは脱出の為でしかないのだ。
一方のノーザはそういうわけではない。アクマロの策に乗ったのはアクマロの策がノーザの性格に合ったからでしかなく、それがなければ十中八九、優勝目的で行動していただろう。
つまり、それを踏まえて考えてもノーザは障害以外の何者でもないのだ。
その証拠にノーザは脱出を見据えた行動を全く取っていない。アクマロが考えている事を全く実行に移そうともしていないのだ。恐らくは考えもついていないだろう。
と、長々と説明したが要するにノーザもアクマロの障害となるという事だ。
少々短絡的かもしれないが先の戦いで確信した。ノーザはあの戦いで散った者達をソレワターセに吸収させたのだ。
その力はソレワターセの力となる、それは同時にノーザの力になると考えて良い。
それを踏まえて考えて今後遭遇する参加者も倒せばそのままノーザの力になると考えて良いだろう。
確かに場合によっては血祭ドウコクを倒す切り札になり得るかもしれない。だが同時にそれは自身にとっての最大の障害となり得る。
無尽蔵に強化される危険性のあるソレワターセとまともにやりあうつもりなどアクマロには無い。
だからこそできうる限り早いタイミングでノーザに対処しなければならないという事だ。
先の戦闘で放置された物資の回収と称して自然に別行動を取っているこのタイミングである程度方針を固めねばならないだろう。
だが、直接戦闘をするわけにはいかない。流石にソレワターセとノーザの2対1でやりあうのは少々分が悪いし、いつソレワターセに吸収されるか分からない戦闘を行うつもりはない。
それに散々ソレワターセを警戒してはいるが、ソレワターセ自体は魅力的ではある。出来うるならばそれを自身の戦力にしておきたい所ではある。
「しかしそんな方法などありますかな」
だがその方法が未だ固まらないのだ。
そう頭を悩ませつつ、先の戦いで散った者達のデイパックの中身を確かめながら思考を進めていく。
ちなみにシンケンジャーの志葉家の書状らしきものがあったが一々確認する余力もないのでそれについてはひとまず放置することにしている。
「それにしても……ぱふぇなる物体にシンケンジャーを模したクッキー……主催の加頭なる者は何を考えてこれを支給したのか理解に苦しみますなぁ……」
今更な話だが、バナナパフェは鹿目まどかに支給されたものである。またクッキーについては高町なのはに支給されたものである。
今まで触れられなかったのは確認した所で何の意味もないからである。
クッキーに関してはなのは視点で見れば早々に流ノ介と遭遇したという意味では無意味ではないかもしれないが、現実レベルとして一々『クッキーの人だ』なんて初見で口にするわけもないだろう。
というより、出会った段階でいきなり戦っていて、その後は手当てなどしなければならない事を考えればそんな事に触れる余力なんて無いだろう。
「で、これが仮面ライダー1号本郷猛なるもののデイパックと……何がありますのやら……」
とはいえ、あまり長々と時間をかけるわけにもいかない。それ故に迅速に確認を進めていく。
「これも外れですかなぁ……」
と諦め気味に説明書きを確認するが、
「……これは……? 少々待ってもらえますかな……」
その内容を確認し思案を進めていく。
アクマロは考えたのだ、この状況をひっくり返す程の方法があると――
勿論、その方法自体は確実性は低いと言える。だが、この内容を信用するのであれば恐らく限りなく高い確率で上手くいくだろう。勿論、事が都合良く進めばという話ではあるが。
「しかし少々危険かつ分の悪い賭けになりますなぁ……」
とはいえ答えなどとっくに出ている。何しろ現状のままでは何れは八方ふさがりなのだ、多少は無茶でもここは勝負に出るべきだろう。
かくしてアクマロはここでノーザに仕掛ける決意を固めた。
Interlude
さて、今回の仕掛け人であるアクマロは『何』を仕掛けたのだろうか?
本郷猛の支給品に『何』を見つけたのであろうか?
ヒントは2つ、バナナパフェとクッキーの存在、
そして――当方が最初に話した話――
解決編をどうぞ――
時系列順で読む
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最終更新:2013年03月14日 23:09